BGCショウケンカイシャリミテッド事件(東京地裁平成30年6月13日判決)

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金融取引の画像

有期雇用契約の期間中に一方的に退職を申し出て,競合他社に転職し,会社からの警告を無視していたことが,債務不履行だけでなく不法行為に該当するとして,会社による約1200万円の損害賠償請求が認められた例

1 事案の概要

1.1 当事者(登場人物)

X社:勤務先会社(東短ICAP株式会社),日本及び世界の大手金融機関を顧客とする金利スワップ取引、金利オプション取引、クレジットデリバティブ取引等のデリバティブ取引に関する媒介等を業とする株式会社。本件訴訟の原告。

Y1: 労働者,期間2年の有期雇用契約(平成28年5月1日から平成30年4月30日),年俸は6000万円+住宅手当月額80万円,金融取引のスペシャリストとして雇用され,X社のマネーブローカーとしてUSドルの金利スワップ取引を担当,直近2年における年間の獲得手数料(売上)は年間約1億3000万円であり,所経費を控除した利益は年間約3600万円であった。本件訴訟の被告。

Y2社:X社の競業会社(BGCショウケンカイシャリミテッド),BGCグループの一員として,日本国内に東京支店を設け,有価証券の売買,店頭デリバティブ取引の媒介等の業務を行う米国法人。本件訴訟の被告。

1.2 事案の概要

H28年9月 Y1は,X社での勤務に魅力を失っていたところ,Y2社に在籍していた友人Aより誘われてY2への転職を決意。なお,友人AはかつてX社に勤務していた。

H28年9月中旬 Y1は,X社に退職届を提出。X社はY1を慰留するもY1の決意は変わらず。その後,X社とY1は9月末で退職すること等について一旦は合意をしたが,Y1が同合意の前提条件を反故にするような提示をしたため,合意は撤回された為,退職の合意は無くなった。これによりYは少なくとも平成30年4月30日までは労務を提供する義務を負う。

H28年9月29日 X社は,Y1と面談して解決に向けた協議をした。X社は半年間,Y1がY2社へ転職せずに自宅待機すること,その間の給料の60%+社宅の家賃の負担すること等の提示をしたが,Y1は応じなかった。

H28年9月30日 Y1は同日以降,X社に出勤していない。また,10月18日にY2社と労働契約を締結し,11月からはY2社で就労をしている。

平成28年10月中旬 X社はY1及びY2社に対して,Y1は未だX社との雇用契約が続いており,Y2社に勤務することは競業禁止義務違反に該当すること,Y2社がY1を雇用したことは不法行為を構成すること等を警告した。

平成28年12月頃 X社の獲得手数料は減少した。

平成29年3月頃 Y1の後任のマネーブローカーを採用。採用にかかる航空券の費用などは,X社が負担した。

2 BGCショウケンカイシャリミテッド事件判例のポイント

2.1 結論

労働者が有期雇用契約の期間の途中に勝手に競業他社に転職して職務を放棄した事案において,裁判所は「本件労働契約に基づき,労務を提供する義務」「を負っていたにも関わらず,」「(※会社に対する)1か月前の退職の通知により,本件労働契約の一方的な解約が可能であるという誤った理解に基づいて,同日以降原告(※会社)に労務を提供せず」「損害を原告(※会社)に生じさせた」ことは,「原告に対する債務不履行にとどまらず,不法行為に当たるというのが相当である」として,労働者(及び転職先の競業会社)に対して,会社の逸失利益等損害約1100万円,弁護士費用110万円の損害賠償の支払を命じた。

2.2 理由

1 Yらによる共同不法行為の成否に関する判断

Y1の責任

Y1は,本件労働契約上,X社に対し,兼業禁止義務,競業禁止義務を負っていたところ,X社在籍中から,競業会社であるY2社の勧誘を受け,Y2社への入社を決めた。そして,平成28年9月30日以降も引続き,X社に対し,本件労働契約に基づき,労務を提供する義務,兼業禁止義務,競業禁止義務等を負っていたにも関わらず,Y1は,X社に対する1か月前の退職の通知により,本件労働契約の一方的な解約が可能であるという誤った理解に基づいて,同日以降X社に労務を提供せず,X社からの警告を受けた後も,Y2社で就労し続け,損害をX社に生じさせたものであるから,同日から,X社に対し労務を提供せず,その後,10月18日に労働契約を締結した上で,遅くとも平成28年11月からY2社で就労したことは,X社に対する債務不履行にとどまらず,不法行為に当たるというのが相当である。

Y2社の責任

また,Y2社は,そもそも,Y1を勧誘したA氏自体,X社会社での勤務経験もあり,X社会社のマネーブローカーが有期労働契約を締結していることは熟知していたと推認される上,Y1を通じても,本件労働契約が有期労働契約であることを知ることが容易であったにも関わらず,Y1がX社に在職中から,転職を勧誘し,その後,X社に対し本件労働契約が有効に中途解約されたか否かを確認することもなく,Y1と同月18日付けで労働契約を締結し,Y1をY2社で就労させている。Y2社の上記勧誘等の経緯,その後,11月にX社から送られた警告書によって,本件労働契約が継続している等の連絡を受けても,特にこれに応答していないこと等に照らせば,Y2社は,本件労働契約の帰趨に関わらず,かつ,Y1の転職に当たってY2社がX社に対し何らかの金銭的な手当をする意図もなく,Y1にX社での労務提供をやめさせた上で,Y2社で就労させることを謀ったものと推認される。そうすると,Y2社が,警告書を受け取った後もY1をY2社において就労させ続け,X社に損害を生じさせたことは,自由競争の範囲を超えた行為といわざるを得ず,X社に対する故意又は重過失による不法行為に当たるというのが相当である。
そして,上記Y1及びY2社の不法行為の内容には,関連共同性が認められ,Y1及びY2社は,共同不法行為によって生じたX社の損害について,連帯して賠償する責任を負う。

Yらによる共同不法行為による損害額に関する判断

① 逸失利益

上記Yらの不法行為によってX社に生じた損害を検討するに,X社は,平成26年5月から平成28年4月までの2年間におけるY1の獲得手数料等を基に算出した利益の平均を根拠として,平成28年9月15日から平成29年4月30日までの約7か月分に獲得できたであろう利益を算出しているところ,X社のマネーブローカーが行うスワップ取引等は,大手の金融機関のディーラーを顧客とするものであり,その市場自体も限定されるものであること,一般的にこのような取引にはマネーブローカー個人の専門的知見,資質等が要求され,マネーブローカーとディーラーとの個人的な信頼関係が非常に重要であることに照らせば,マネーブローカーが労務を提供しなくなった場合,当該マネーブローカーの雇用主において,当該マネーブローカーの顧客との取引を引続き行ったり,当該顧客から従前同様に新規の受注を受けたりすることは,容易ではなく,さらに当該マネーブローカーが他社に就職した場合には,当該顧客との新規の取引は,他社において当該マネーブローカーに発注される可能性が高いことが推認される。
X社は,マネーブローカーに対し,高水準の賃金を支払っているが,これは,上記マネーブローカーと顧客との関係等から,当該マネーブローカーが,その顧客との関係,マネーブローカー自身の資質等を活用し,労働契約期間中について,ある程度の取引手数料を獲得する見込みがあることを踏まえたものといえるし,X社が,マネーブローカーとの労働契約を有期の労働契約としているのは,当該労働契約期間について,当該マネーブローカーによる手数料収入を確実に得るためという側面もあると解される。
本件において,Y1が平成28年10月1日以降X社に労務の提供をしなかったことで,X社の全体の売上げにどの程度減少が生じたのか,あるいは,Y1が担当した顧客の取引のうち,どの程度の割合の取引が,なおX社に継続し,逆にY2社に移転したのかは必ずしも明らかではない。しかし,X社の売上げに係る取引量の増減には,市場の状況,天変地異,ディーラー側の事情などの要素が関連することも否定し難く(X社代表者本人),仮に,同日以降,X社の取引量が減少していなかったとしても,Y1の労務不提供による影響がなかったとは直ちに断定できない。また,Y1がX社からY2社に移籍したことに伴う,個別の顧客の取引の動向について,明らかにすることも,性質上困難といわざるを得ない。
むしろ,上記で検討したところに加え,Y1の平成26年5月から平成28年4月までの業績をみれば,月による獲得手数料の増減はあるものの,年間でみれば,2年にわたり一定して3500万円程度の利益を得ており,平成28年5月から同年7月までの獲得手数料(3057万7233円であり,1年分に換算すると,約1億2230万円である。)も,前2年の獲得手数料(約1億2586万円から1億2976万円である。)と同水準であったといえること,Y1の年収は6000万円と高額であり,X社は,Y1に一定の補償を支払ってでも,Y2社での就労を阻止しようするなど,X社は,Y1が当該報酬に見合うだけの手数料収入を得ることを期待し,競業他社で就労することを恐れていたといえることからすれば,Y1がX社に対し,労務を提供しなかった期間についても,Y1がX社に対し労務を提供すれば,ある程度の利益を獲得することが十分に期待できたといえる。そうすると,被告らの共同不法行為によって,X社はこれを獲得することができなくなったものであるから,被告らの不法行為と相当因果関係を有する損害が生じているということができる。
そして,その金額については,上記(イ)で検討したとおり,X社の売上の減少あるいはX社及びY2社の取引量の増減等でその額を立証することは,困難であるため,民事訴訟法第248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定するほかない。
そこで,本件訴訟においては,逸失利益の損害額に関し,裁判所からの釈明にも関わらず,当事者双方とも,既に当裁判所に提出されている程度の主張立証にとどまる(弁論の全趣旨)など,当事者の訴訟追行態度にも照らし,Y1がX社にもたらした2年間の利益を参考に,上記2年間のうち,利益が比較的少ない,平成26年5月から平成27年4月までの3596万6402円を基準とし,X社が,Y1が労務を提供しなくなった約5か月後にはY1の後任者のマネーブローカーを採用していること等本件に顕れた一切の事情を踏まえ,その5か月分に相当する1498万6000円の7割である1049万0200円をもって相当と認める。

② 固定費

X社は,本件労働契約が有効であることを前提として社会保険料等合計59万7553円を負担しているところ,Y1が,労務を提供した場合には,Y1が獲得した手数料からこれを回収することができるものであるが(上記イの逸失利益は,固定費を控除した金額を前提としているY1が労務を提供しなかったことにより,X社はこれを負担することになったものであるから,これも被告らの共同不法行為と相当因果関係を有する損害ということができる。

③ 後任者の採用コスト

Y1の退職によって,X社には後任者を採用する必要が生じ,X社は,約5か月後に香港の所在するX社の提携会社から,後任者を得たものであるが,かかる採用コストについて,被告らの共同不法行為と相当因果関係を有するものであるか否か自体に疑義がある上,この採用コストの費目,明細等について,認めるに足りる証拠がない(X社代表者は,本人尋問において,本件に担当者が渡航した費用,後任者の移籍にかかる費用等「数百万円。たしか800万円弱」が生じた旨陳述しており,マネーブローカーという職種の特殊性かつ臨時の採用であったことから,契約期間満了の場合の予測される採用コストよりも一般的に高額であるとも考えられるものの,具体的な金額等を認定するに足りない。)。

④ 弁護士費用

上記イからエで検討したとおり,被告らの共同不法行為により,1108万7753円の損害が生じているところ,X社が,本件訴訟について,訴訟代理人を選任して追行していることは当裁判所に顕かであるから,上記損害の額,本件訴訟の経緯等一切の事情を考慮し,被告らの共同不法行為により生じた弁護士費用として,110万円をもって相当と認める。

3BGCショウケンカイシャリミテッド事件の関連情報

3.1判決情報

裁判官:大野眞穗子(新61期)

掲載誌:TKC法律情報データベース【文献番号】25561403

3.2 関連裁判例

 

3.3 参考記事

4  BGCショウケンカイシャリミテッド事件の判例の具体的内容

→判決内容の詳細はこちら

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