泉レストラン事件(東京裁判所平成29年9月26判決)

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レストラン

残業時間数の特定や超過した残業の清算実態が無くとも固定残業代(手当)を有効とした裁判例

1 泉レストラン事件判例のポイント

1.1 固定残業代(手当型)が有効と認められるか?

⑴ 「労基法37条は,時間外労働等に対し,所定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うよう使用者に義務づけるものであるが,労基法37条所定の計算方法をそのまま用いることまでを求めるものではない。そして,使用者が,労働者に対し,時間外労働等に対応する割増賃金を通常の労働時間に対応する賃金とを明確に区別し,後者を固定残業代として定額で支払う場合には,当該支給額が労基法37条所定の金額以上であるか否かを判定することが可能であるから,割増賃金の有効な弁済の効力を有するものと解するのが相当である。」

⑵ 給与規程で,「基本給,業務手当及び資格手当の3割相当額並びに職務手当の全額を時間外勤務手当,休日勤務手当,深夜勤務の順に充当する」と定め,雇用契約書上も月額給与に10万0500円の時間外勤務手当が含まれていることが明記されている(月額賃金の3割相当額またはそれより少ない金額)をもって,「雇用契約書上に明記された時間外勤務手当額については,時間外労働等に対する割増賃金の支払に充てる趣旨であることが明確であり,通常の労働時間に対応する賃金との区分も明確であるから,いわゆる定額手当制の固定残業代として有効」とした。

1.2 管理監督者性が認められるか?

⑴ 会社の経営に関する重要事項に重大な権限の有無

  • 部下は存在せず,肩書上の上司である部長も上司としては全く機能していなかったこと
  • 同じ部に所属する店舗の中には,原告以上の賃金を得ている店長も存在したこと
  • 原告は,料飲部に所属する社員の採用,人事考課,賃金(昇給等を含む。)や配転について権限を有していなかったこと
  • 以上から原告の職務実体としては,本社において行う料飲部の運営業務や店舗間の調整業務について,A社長の指示に基づいて補佐を行うというレベルを超えるものではなく,原告自身が,労務管理上の決定権限を有していたとか,会社の経営に関する重要事項に重大な権限をもって関与していたなどと評価するのは困難である。

⑵ 労働時間の裁量の有無

  • 管理監督者でないことに争いのない時期から労働時間に裁量が与えられていたところ,その後勤務表の提出を求められているのであって,むしろ労働時間の管理が厳格になった
  • 原告が自己の労働時間に関する裁量が与えられていたことからといって,そのことが,原告の管理監督者性を特段基礎づけるものとはいえない。

⑶ 管理監督者としての待遇

  • 平成26年4月から10月までの原告の時間外労働の時間数は毎月45時間を超えており,とりわけ同年7月については約107時間,同年8月については約90時間に達している
  • 原告よりも高額の賃金を得ている料飲部に所属する店舗の店長も存在したこと
  • 以上を踏まえると,月俸40万円を支給されているからといって,管理監督者としてふさわしい賃金等の待遇を得ていると評価することはできない

1.3 管理職手当が固定残業代として充当されるか

  • 雇用契約書上も,管理職手当が割増賃金の支払に充当される賃金であることは記載がない
  • 給与規程も,管理職手当の金額は,別に定め支給すると定めるのみであり,これが割増賃金の支払に充当される賃金であることは全く窺われない。給与規程によれば,固定割増賃金の支払に充当される固定給は,基本給及び業務手当の3割相当額に限られると解され,これと異なる管理職手当については,時間外労働等に対する割増賃金の支払に充てる趣旨があると認めることはできない
  • 管理職手当は,その名称からして,管理職としての職責等に対する対価という性質を包含すると理解するのが自然であって,これに割増賃金の支払に充てる趣旨が含まれ得るとしても,通常の労働時間に対する賃金との区分が明確であるとはいえない
    管理職手当の支給をもって,割増賃金(固定残業代)の支給に当たると認めることはできない。

2 泉レストラン事件の関連情報

2.1判決情報

  • 裁判官:井出正弘
  • 掲載誌:労経速2333号P23

2.2 関連裁判例

  • 高知県観光事件(最二小判平6.6.13労判653号12頁)
  • テックジャパン事件(最一小判平24.3.8労判1060号5頁)

2.3 参考記事

残業代は支払済みの給与に含まれているとの反論

3 泉レストラン事件の判例の内容

3.1 主文

1 被告は,原告に対し,166万8103円及び内金163万5692円に対する平成26年12月31日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,81万7846円及びこれに対する本判決確定日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

3.2 事案の概要

1 事案の要旨

 本件は,被告の元従業員である原告が,平成24年12月から平成26年11月までの期間に行った時間外,休日及び深夜の労働(以下「時間外労働等」という。)に係る割増賃金が支払われていないと主張して,被告に対し,未払割増賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金(各支払期日の翌日から退職日までは商事法定利率年6%,退職日の翌日から支払済みまでは賃金の支払の確保等に関する法律6条1項所定の年14.6%の各割合による金員)並びに労働基準法(以下「労基法」という。)114条所定の付加金及びこれに対する本判決確定日の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 
これに対し,被告は,原告の主張に係る時間外労働等の事実を一部否認するとともに,平成26年3月までの期間に関し,月俸に割増賃金(固定残業代)が含まれており,これにより割増賃金が支払われたこと,平成26年4月以降の期間に関し,原告は管理監督者(労基法41条2号)の地位にあり,仮にそうでないとしても,管理職手当が割増賃金(固定残業代)の支払に当たることなどを主張して,原告の請求を争っている。

2 前提事実

(1) 当事者等

ア 被告は,飲食店及びコンビニエンスストアの経営,ケータリング事業等を目的とする株式会社であり,その資本金の額は2000万円である。A(以下「A社長」という。)は,平成23年1月1日以降,被告の代表取締役社長である。新宿の被告本社と同じビルに所在する「□□」及び「△△」,水道橋に所在する「◇◇」,芝公園(赤羽橋)に所在する「××」,田町に所在する「○○」,神田に所在する「□△」,上野(鶯谷)に所在する「□◇」,葛飾区内に所在する「□×」は,いずれも被告が経営又は運営する(していた)飲食店であり,物販部門(物販営業部)に属していたBのフランチャイズである「△△」以外は,料飲部に属していた。

イ 原告(昭和40年○月生)は,平成22年7月1日に被告に入社し,平成26年12月30日をもって被告を退職したところ,退職時には,料飲部副部長を務めていた。原告は,被告に対し,同月12日付け内容証明郵便をもって未払割増賃金を請求し,これは同月15日に到達した。原告は,平成27年1月9日,被告に対し,本訴を提起した。

(2) 雇用契約書の記載(甲2,乙4~7)
 
被告間で締結された各雇用契約書には,契約書に定めのない事項については就業規則に従う旨の記載があったほか,次の趣旨の記載等があった。

ア 平成22年7月1日付け雇用契約書

(ア) 雇用期間 平成22年7月1日から平成23年6月30日まで
(イ) 就業時間,休憩時間 別途協議のうえ決定
(ウ) 賃金:月額30万円(ただし,試用期間経過後は月額33万円)
年俸387万円,賞与は業績により支給,退職金なし
(エ) 試用期間中の月額給与には,9万円の時間外勤務手当を,試用期間経過後の月額給与には,9万9000円の時間外勤務手当を含む。

イ 平成23年7月1日付け雇用契約書

(ア) 雇用期間 平成23年7月1日から平成24年6月30日まで
(イ) 就業時間,休憩時間 別途協議のうえ決定
(ウ) 賃金 月額33万円
    年俸396万円,賞与は業績により支給,退職金なし
(エ) 月額給与には,9万9000円の時間外勤務手当を含む。

ウ 平成24年7月1日付け雇用契約書

(ア) (雇用期間に関する記載は見当たらない。)
(イ) 就業時間,休憩時間 別途協議のうえ決定
(ウ) 賃金
a 基本給   12万円
b 業務手当  21万円
c 資格手当   2万円
d 月俸計   35万円
e 賞与   業績による
f 見込年収 420万円
(エ) 月俸には,時間外手当として10万0500円を含む。

エ 平成26年4月1日を契約発効日とする雇用契約書

(ア) 雇用期間 期間の定めなし
(イ) 就業時間 就業規則の定めによる
(ウ) 賃金
a 基本給  13万円
b 業務手当 22万円
c 管理職手当 5万円
d 月俸計  40万円
(エ)(時間外(勤務)手当に関する記載は見当たらない。)

(3) 就業規則の定め(乙16,17)

ア 就業規則は,原告の入社後,平成26年4月1日施行の改訂が行われている(以下,改定前のものを「旧就業規則」といい,改訂後のものを「新就業規則」という。)。

イ 就業規則26条は,1項において,本社の勤務時間は,原則,始業時刻を午前9時,終業時刻を午後6時,休憩時間を正午から午後1時までの1時間とする旨を定め,2項において,1日の所定労働時間は,8時間とする旨を定める。

ウ 新就業規則27条1項は,休日は4週間(4月1日を起算とする)において少なくとも4日以上とする,法定休日は,毎週のうち最後の1回の休日とするなどと定める。なお,旧就業規則27条1項は,休日は4週間(4月1日を起算とする)において少なくとも4日以上,年間96日とし,法定休日は原則毎日曜日とすることを定めていた。

エ 就業規則33条は,1項において,出退勤,外出の際は,必ず所定の方法によって,本人がその時刻を記録しなければならないことを定め,2項において,直行直帰,在宅勤務などで備え付けのタイムカードや出勤簿に記録が出来ないものについては,勤務報告書に自己の管理のもとで記入し,当該勤務分を翌月2日までに,管理・監督者の承認,捺印をもらうことを定める。

オ 就業規則48条は,給与については給与規程により定めると規定する。

(4) 給与規程の定め

ア 給与規程は,原告の入社後,平成25年10月18日付けで改訂され,さらに平成26年3月25日付けで改訂(同年4月1日施行)された(以下,当初のものを「平成21年規程」,改訂後のものを,それぞれ,「平成25年規程」,「平成26年規程」という。)

イ 給与規程4条1項(平成21年規程においては4条)は,次の各号(1号:監督もしくは管理の地位にある者及びこれに準ずると認められる者,など)の1に該当する者については,別に定める場合を除き,23条の規定は適用しないと定める。

ウ 平成26年規程5条は,1項において,給与の構成は,基本給,業務手当及びその他手当とすると定め,2項において,その他手当は,管理職手当,ポスト手当,店長手当,時間外勤務手当等,賄手当及び通勤交通費とすると定める。なお,平成21,25年規程5条は,1項において,給与の構成は,基本給,業務手当,資格手当及びその他手当とすると定め,2項において,その他手当は,職務手当,店長手当(平成21年規程ではポスト手当),時間外勤務手当等(平成21年規程では時間外勤務手当),宿泊手当,賄手当及び通勤交通費とすると定めていた。

エ 給与規程8条は,1項において,給与の計算期間は当月1日から当月末日までとし,当月20日に支給するなどと定め,3項において,時間外勤務手当,賄手当(平成21,25年規程においては,さらに,宿泊手当)については,当月末日を締切日とし,翌月の支給日に支給すると定める。

オ 給与規程11条(平成21年規程においては,11条2項)は,日割計算・時間割計算・時間外勤務手当等の額の算出に当たり,1円未満の端数が発生したときは,その端数を切上げて計算するなどと定める。

カ 給与規程17条は,基本給は,技術及び勤務成績により決定の上,支給すると定める。

キ 給与規程18条は,業務手当は,従業員各人の職務の責任性,難易度,職務内容等を勘案し,決定の上,支給すると定める。

ク 平成25,26年規程19条は,管理職手当(平成25年規程においては,資格手当)の金額は,別に定め支給すると定める。なお,平成21年規程19条は,資格手当は,別表2(課長代理の場合は2万円)のとおりとすると定めていた。

ケ 平成25,26年規程23条は,1項において,4条に該当する者以外,所定労働時間を超える勤務又は法定外休日の勤務については,時間外勤務手当,法定休日の勤務については休日勤務手当を支給する,深夜の勤務については,深夜勤務手当を支給する(これらを総称して「時間外勤務手当等」という。)と定め,2項において,基本給の3割相当額,業務手当の3割相当額(平成25年規程においては,さらに,資格手当の3割相当額と職務手当全額)を時間外勤務手当,休日勤務手当,深夜勤務の順に充当すると定め,3項において,当該時間外勤務手当等に相当する時間を上回る時間数が発生した場合には,超過分を別途支給すると定め,4項において,時間外勤務手当等は,次の(ア)ないし(エ)の計算式をもって算出すると定め,5項において,時間外勤務手当等は,当月分を翌月の給与支給時に支給すると定める。なお,平成21年規程23条は,1項において,ポスト職以外の社員については,支給される基本給の3割相当額,業務手当の3割相当額,資格手当の3割相当額と職務手当全額を,表記の順(裁判所注:(イ)ないし(エ)の順と解される。)に一定時間分に相当する時間外,休日及び深夜勤務に対する時間外勤務手当として支給し,表記の順に充当する,ただし,当該時間外手当相当分の時間を上回る時間数が発生した場合には,超過した時間に対する時間外,休日及び深夜勤務手当を別途支給する,超過する時間分に対する時間外勤務手当は,次の(ア)ないし(エ)の計算式をもって算出するものとすると定め,2項において,時間外勤務手当等は,当月分を翌月の給与支給時に支給すると定めていた。

(ア) 平成26年規程における基準額=((基本給+業務手当)×7割+ポスト手当+店長手当)/173時間
平成25年規程における基準額=(基本給+業務手当+資格手当)×7割+店長手当)/173時間
平成21年規程における基準額=(基本給+業務手当+資格手当)×7割/180時間
(イ) 時間外勤務手当:所定の勤務時間を超えて勤務した場合及び法定外休日に勤務した場合,当該超過時間に対し,
 基準額×1.25×当該超過時間数(円未満切上げ)
(ウ) 休日勤務手当:法定休日に勤務した場合,当該勤務時間に対し,
 基準額×1.35×当該勤務時間数(円未満切上げ)
(エ) 深夜勤務手当:午後10時より翌日午前5時までに勤務した場合,時間外及び休日勤務手当に加算して支給。
 基準額×0.25×当該勤務時間数(円未満切上げ)

(5) 手帳等の記載内容(第7回口頭弁論調書参照)
 原告の手帳(甲3,以下「本件手帳」という。)に記載された始業・終業時刻(平成26年4月1日以降),管理職勤務表(甲5,以下「勤務表」という。)に記載された始業・終業時刻(平成26年4月1日以降),原告のパソコンのログ(以下「PCログ」という。)に残された開始・停止時刻(以下「開始ログ」,「停止ログ」という。),原告のパソコンによるメールの最終送信時刻(平成26年3月31日まで,以下では,この最終送信時刻の記録も併せて,「PCログ」ということがある。)は,別紙1「労働時間一覧表」(以下,単に「別紙1」という。)記載のとおりである(なお,被告第11準備書面別紙1の「労働時間に関する主張対比表」において,各種時刻・時間は分単位で記載され,秒単位では記載されていないが,被告から提供を受けた同対比表の電子データには,PCログの一部について,秒単位のデータが含まれていたところ,別紙1を作成するに際しては,秒単位のデータは切捨て処理をしている。)。

3.3 争点及び当事者の主張

 本件の争点は,①平成25年6月22日から平成26年11月30日までの期間における原告の労働時間,②平成24年12月から平成26年3月までの期間に関し,(ア)原告の月俸35万円のうち時間外手当10万0500円が固定残業代として割増賃金の支払に充当されるか,(イ)割増賃金の算定基礎となる通常の労働時間の1時間当たりの賃金額(以下「時間単価」という。),③同年4月から同年11月までの期間に関し,(ア)原告が管理監督者であったといえるか,(イ)管理職手当5万円が固定残業代として割増賃金の支払に充当されるか,(ウ)時間単価,④未払割増賃金及び退職日までの遅延損害金の額,⑤付加金請求の当否及び付加金額であり,これらに対する当事者の主張(省略)は次のとおりである。

3.4 判断

1 前記前提事実に証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。

(1) 原告の肩書及び職務権限の変遷等

ア 原告は,人材紹介会社を通じて平成22年7月1日に被告に入社し,「□□」新宿店,同日比谷店において勤務したのち,平成23年4月に「□□」新宿店の店長に就任したが,同年10月以降は,被告本社に所属して,主に料飲部に関する業務を行うようになった。

イ 本社勤務の開始当初,原告の肩書は事業管理部課長代理であったが,平成24年ころからは事業管理部マネージャーとなり,平成25年末ころからはさらに料飲部副部長となった。もっとも,被告本社において,料飲部に所属する従業員は原告だけであり,「料飲部部長」は,ケータリング部門の調理人であって,原告の上司としては全く機能していなかった。また,料飲部副部長の就任前後において,料飲部における原告の職務権限に特段の変更はなかった。

ウ 原告は,A社長の指揮監督の下,売上目標の設定,物品や食材等の仕入れ,留意事項の周知などの料飲部における管理業務のほか,人事や労務管理に関しても,パートタイマーの採用面接や,店舗間のシフトの調整を行っていた。もっとも,社員の採用,人事考課,賃金(昇給等を含む。),配てんなどの人事上の重要事項については,A社長が決定権限を有していた。また,原告は,料飲部に所属する他の社員の賃金額を知らされておらず,原告よりも高額の賃金を得ている店長も存在した。

エ 原告が平成26年12月に退職した後は,若干の空白時期を経て,ケータリング部門に所属する従業員が,原告の従事していた職務を担当するようになったが,本社勤務とはならなかった。

(2) 原告の稼働状況及び勤怠管理の状況

ア 原告は,被告本社に出勤し,パソコンを使用するなどして業務に従事するとともに,料飲部に所属する店舗,「△△」,コンビニエンスストア,ケータリング先,取引先,自動販売機の設置先などに赴き,打ち合わせをしたり,視察をしたり,配布物を持参したり,ヘルプに入るなど社外においても業務に従事しており,出先に直行又は直帰することもあった。原告は,自宅最寄りのJR西川口駅から被告本社最寄りのJR新宿駅までのIC定期券を所持しており,IC定期券が自動的に運賃の最も割安となる区間の運賃を精算処理することから,その記録に基づいて原告が被告に対して経費請求した交通費の申請区間が,実際の移動経路と一致しないことがあった。

イ 被告は,店舗の従業員等については,タイムカード等による労働時間の管理を行う場合もあったが,原告については,平成26年3月まで,タイムカード等による時間管理をおこなっていなかった。ところが,平成26年4月になって,被告は,原告に対して,勤務表に始業時刻,終業時刻及び実働時間を記入して提出するよう指示した。そのため,原告は,同月以降,毎月勤務表を提出し,A社長がこれを決済していた。なお,原告は,土日祝日のうち,土曜日は出勤することが多かったが,勤務表上は,ほとんどが「公休」と記載されている。

ウ 原告は,平日は週2,3回程度は,A社長と昼食をともにし,土曜日も正午ころまでに出社した際には,A社長と昼食をともにすることが多く,その場合,1時間程度は離席しており,A社長に食事代を出してもらうことも多かった。また,原告は,土日祝日の正午ころまでに出社した際には,A社長と昼食をともにしない場合であっても,出社した後に昼食を取ることが多かった。また,原告は,喫煙者であり,1日5,6回程度は喫煙のために離席し,1階にある喫煙所などに行って喫煙しており,1回の離席時間が10分程度となることもあった。A社長から原告を喫煙に誘うことがあり,その際には,業務に関する指示等をすることもあった。

エ 被告は,平成27年6月末,被告本社の所在するビルの30階に「△△」をオープンさせ,同年7月ころには,同ビルの1階にも「△△」をオープンさせた。原告は,両店舗の立上げに従事していたため,平成26年4月ころ以降は,それ以前よりも繁忙であった。

2 争点1(平成25年6月22日から平成26年11月30日までの期間における原告の労働時間)について

(1) 平成26年4月1日から同年11月30日までの期間の始業・終業時刻の認定方法について(平成26年3月31日以前について被告が主張する(a)ないし(j)基準の妥当性についても,必要な範囲で説示する。)

ア はじめに
 始業・終業時刻について,当事者間に争いがない場合には,その時刻を採用すべきであるが,これに争いがある場合(出勤の有無自体に争いがある場合を含む)において,当事者の主張の範囲で,いかに始業・終業時刻を認定すべきかについて検討する。

イ 勤務表について
 勤務表は,通常は使用者が労働者の労働時間を把握する目的で作成される書類であり,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告の勤務表は,平成26年4月以降,原告が記入したものが被告代表者に対して提出されていたことが認められるから,勤務表上の始業時刻から終業時刻までの時間帯については,特段の事情が認められない限り,拘束時間(始業時間から終業時間までをいう。以下同様。)と認めるのが相当である。

ウ PCログについて
(ア) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告の机上のパソコンは,基本的に原告が使用していたものであり,各日の開始ログから停止ログ等までの時間帯については,特段の事情が認められない限り,拘束時間と認定するのが相当である。出勤の有無について争いがある場合についても,PCログが1つでも残されている場合には,出勤したものと認定するのが相当である。
(イ) この点,被告は,専用のパソコンを貸与されていなかった営業担当の新入社員等が原告の机上のパソコンを使用したり,原告の机上が整頓されていなかったため,隣席の社員等がマウスを動かしてしまい,待機状態にあったパソコンが作動することが頻繁にあったなどと指摘して,ログのある時間全てについて,原告がパソコンを操作していたものではないなどと主張し,そのことを前提として,平成26年3月以前の終業時刻の認定については,(i)基準(上記第3の1(2)エ(イ)参照)を用いるべきであるなどとも主張する。また,被告は,原告の平日の始業時刻について,日常的に午前10時ころであり,少なくとも午前9時30分を過ぎてからの出勤が多く,午前9時30分より前の出勤は稀であったなどとも主張し,これを前提として,平成26年3月以前の始業時刻の認定については,(a)ないし(d)基準(上記第3の1(2)エ(ア)参照)を用いるべきであるなどとも主張する。そして,これらの主張に沿う証拠として,A社長及びEリーベン事業部部長(以下「E部長」という。)の陳述等がある。
 しかしながら,E部長は,営業担当の新入社員等が午前8時ないし8時半には原告のパソコンを使い始めると証言しているところ,別紙1のPCログ欄を概観しても,午前8時ないし8時半ころの開始ログはほとんど見当たらない。そして,被告代表者やE部長の陳述等を検討しても,原告以外の従業員が,いずれの期間にどの程度の頻度で原告のパソコンを使用していたのかについての説明があいまいであるうえ,被告代表者やE部長の座席は原告の席から離れていたということであるから,原告のパソコンの使用状況について,どこまで正確に把握していたかには疑問が残る。なお,開始・停止ログが複数組存在する勤務日(平成25年7月5日等)が存在し,そのログの一部が原告以外の従業員の使用によるものである可能性も考えられるが,そのような勤務日が特に多い訳ではないから,原告自身がパソコンをいったん停止させ,その後に起動させた際のログであるとしても,特に不自然とはいえず,午後6時以降に停止ログが複数ある場合において,午後6時以降の最初の停止時刻を終業時刻として認定することとして,それ以降のPCログを原告が就労したことの証拠とみなさない(i)基準の合理性を首肯するに足りる証拠は見当たらない。したがって,原告以外の従業員が原告のパソコンを使用することが多かったという事実を前提として,午前9時30分以前の開始ログについて,原告以外の従業員が原告のパソコンを操作したことによるものであることをいう被告の主張を採用することは困難である。
 また,別紙1の「PCログ」欄を検討するに,停止ログが記録されていない勤務日(平成25年8月1日等)が散見され,当該日についてはパソコンがシャットダウンされていなかった可能性が考えられるものの,全般的にみて,そのような勤務日が特に多いとはいえないから,原告が,日常的にパソコンをシャットダウンせず,待機状態としたまま帰宅していたとは認めがたい。そして,原告がパソコンをシャットダウンせず,待機状態としたまま帰宅することがあったとしても,E部長も,他の従業員が原告のパソコンをシャットダウンしたという話を聞いたことはないと述べているから,原告が退社した後,待機状態にあったパソコンが作動することがあったとしても,そのことが開始・停止ログにいかなる影響を与えたのかも判然としない。したがって,待機状態にあった原告のパソコンがマウスの誤操作等により作動したため,開始・停止ログが原告の勤務時間外に記録されたことをいう被告の主張を採用することは困難である。
 以上によれば,上記(ア)のとおり認定するのが相当であるとの判断は左右されず,平成26年3月以前についても,これと異なる(a)ないし(d)及び(i)基準を採用することはできない。

(ウ) 他方,原告は,午前9時30分よりも遅く出勤したことはほとんどなかったと主張し,開始ログが午前9時30分以降となっている勤務日については,パソコンの電源を入れる前に,書類のチェックや打ち合わせをすることも多かったことを挙げ,これに沿う手帳の記載や原告の陳述等がある。
 しかしながら,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告のパソコンについては,電源ボタンを押してから,プログラムが使える状態になるまでに数分程度は要したことが認められるから,出社直後に書類のチェックや打ち合わせをする場合であっても,その後のパソコンを使用した作業に備え,まずはパソコンの電源を入れることが合理的であるように思われ,かかる合理性を否定するような事情も窺われない(原告本人。また,就業規則上,被告本社の従業員の所定の始業時刻は午前9時とされていた(前提事実(3)イ)のであり,午前9時30分という時刻は,原告の主張を前提としても,原告自身が設定した「定時」に過ぎず,その時刻よりも遅く出勤したことはほとんどなかったことを窺わせる客観的な証拠も特に見当たらないし,被告本社に出勤する場合に午前9時30分以降となることがどの程度あるかという点に関する原告の供述(原告本人)もやや曖昧である(なお,手帳については,後記オのとおり,採用することができない。)。
 したがって,午前9時30分よりも遅く出勤したことはほとんどなかったことを前提として,開始ログが午前9時30分以降である場合に,午前9時30分をもって始業時刻を認定すべきことをいう原告の主張を採用することはできない。

エ PCログと勤務表との間に齟齬がある場合の取扱いについて

 ところで,勤務表に記載された始業時刻よりもPCログの開始時刻が早くなっている場合や,勤務表に記載された終業時刻よりもPCログの停止時刻が早くなっている場合があるところ,勤務表に記載された時刻のほとんどは30分ないし1時間単位である。そして,例えば,平成26年4月から9月までの平日のPCログの開始時刻は午前9時台の記録が多くなっているところ,勤務表上の始業時刻については,午前10時という記録が多くなっているなど正確性が相対的に低いと考えられるから,勤務表上の始業・終業時刻に抵触することを理由として,PCログの開始・停止時刻による始業・終業時刻の認定を削減するのは相当ではない。他方で,PCログは,原告がパソコンを起動する前又は停止した後の労働時間を反映していないから,勤務表上の始業・終業時刻が,PCログの開始・停止時刻の範囲外のある場合には,勤務表の時刻をもって始業・終業時刻と認定することが相当である。

オ 本件手帳について

(ア) 本件手帳については,概ね勤務表よりも原告に有利な記録となっているうえ,被告の確認を経ておらず,原告自身も,まとめて記載した部分があることや,正確性が高くないことを認めている(原告本人)。そして,例えば,平成26年4月6日,同年6月21日及び同年8月31日については,本件手帳には勤務したことの記録が残されているところ,勤務表及びPCログの記録がないうえ,他にもこれらの日に勤務したことを窺わせる客観的な証拠は存在しない(乙28の1~12,乙29をみても,被告本社外において業務に従事したことを窺わせる記録は見当たらない。)。
 他方で,例えば,同年7月21日については,PCログからは勤務していたことが窺われるにもかかわらず,本件手帳には勤務時間の記載がなく,同年9月12日については,本件手帳には勤務したことの記録は残されているものの,平日であるにも関わらず勤務表に勤務したことの記録がなく,原告自身が勤務していたとの主張をしていない。
 また,本件手帳の平成26年1月13日から19日までの1週間の頁の右側には,「□□ヘルプ21,24,25,28」との記載があるところ,別紙2において,同月21,24,25,28日に「□□」にヘルプに入ったとの主張をしていない。同年7月9日についても,本件手帳には,「□□ヘルプ」との記載があるものの,停止ログは午後10時15分となっているうえ,「□□管理表」(乙31)において原告がヘルプに入った記載がないことについて,原告自身も,本件手帳の記載が誤りである可能性を否定していない(原告本人〔30頁〕)。
 このようなことに加え,原告が退職を決意する契機となるような出来事2件が同年5,6月ころに相次いで発生していたと述べていること(原告本人)からすると,本件手帳上の始業・終業時刻の記載については,勤務表ないしPCログに比べて正確性,客観性が乏しいというべきであって,労働時間の認定又は不認定の根拠として採用しないこととするのが相当である。

(イ) これに対し,原告は,平成26年4月以降,A社長より,勤務表には過少に記載するよう指示されていたため,本件手帳に勤務時間を記載するようになったことや,とりわけ同年7月以降については,「△△」の開店に伴い,本社業務を行った後に現場作業を行っており,停止ログは原告の終業時刻よりも確実に早いことから,本件手帳の記載を参考に終業時刻が認定されるべきであるなどと主張する。
 この点,原告は,A社長からの指示について,そのままの勤務時間を申告されると親会社に怒られるから,怒られないようにやってくれと1回言われ,自分なりに考えて土曜日や祝日を休みにしたなどと述べている(原告本人)ところ,確かに,土日祝日については,PCログにより原告が勤務していたことが確認できる日であっても,勤務表上は勤務時間の記録が存在しない日が多数存在する。
 しかしながら,勤務表の作成が開始された平成26年4月の平日について,勤務表と本件手帳に記載された始業時刻の記載を比較してみても,本件手帳と勤務表の記載の時間差は30分にすぎず,30分の時間差がある日について,開始ログをみても,その大半が午前9時30分から午前10時までの間の時刻となっており,勤務表よりも本件手帳の記載の方がより正確であるという状況は特に窺われない。また,同月1,5,12日については,停止ログよりも本件手帳の終業時刻の方が相当程度早くなっていること,同月8日については,勤務表よりも本件手帳の終業時刻の方が早くなっていること,本件手帳に記載された始業・就業時刻も30分単位の大雑把な記載となっていること,同月4,11,18日については,勤務表においても午後11時を終業時刻としていることなどを踏まえると,本件手帳には正確な労働時間を記載し,勤務表には不正確な労働時間を記載したという関係にあったことは特に窺われない。
 これら及び上記(ア)において説示したところに加え,E部長が,A社長から,勤務表に虚偽の記入をするよう指示を受けたことはないと証言していること(証人E)や,原告自身も,A社長からの指示については1回のみであり,上から高圧的に言われたということではなく,むしろお願いされるような形であったと述べていること(原告本人〔21頁〕),陳述書(甲9〔8頁〕)には,A社長から,「労働時間報告に際しては休みを8日にしてほしい。勤務時間も8時間くらいで書いてくれ。月230時間超えるとCの方から怒られるから」と指示されたと記載していながら,尋問においては,A社長から,そのような発言を受けていない旨を述べ,変遷していること(原告本人〔38頁〕)も併せると,本件手帳上の始業・終業時刻の記載については,勤務表ないしPCログに比べて正確性,客観性が乏しいという上記(ア)の判断は左右されない。

カ 個別の検討

 ここでは,上記アないしオとは異なる認定をすべきものについて,その理由を説示するほか,当事者が上記アないしオとは異なる認定をすべきと主張をしている勤務日について,そのような認定をしない理由を必要な範囲で説示することとする。
(ア) 平成26年4月6日,同年6月21日及び同年8月31日については,本件手帳には勤務したことの記録が残されているものの,勤務表及びPCログの記録がないうえ,他にもこれらの日に勤務したことを窺わせる客観的な証拠は存在しないから,勤務日であると認定することは困難である。
(イ) 平成26年5月29日について,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告本社と同じビル内に所在する「△□クラブ」において午後7時から行われた被告の従業員の誕生日会に参加し,勤務表にも終業時刻を午後7時と記載していたことが認められる。この点,原告は,同日の終業時刻について,停止ログに基づき午後10時3分と主張するけれども,原告が,午後10時3分ころまでに被告本社に戻ってパソコンをシャットダウンしたことを認めることはできるものの,午後7時から午後10時3分までの間に業務に従事していたと認定することは困難であり,原告の主張は採用できない。
(ウ) 平成26年6月13日について,出先における業務開始時刻が遅くとも午前9時30分であったなどと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はないから,勤務表の記載(午前10時)に基づいて始業時刻を認定するのが相当である。
(エ) 平成26年7月28日について,朝に「△△」のビラ配りを行ったことに争いはないものの,その際の始業時刻が午前7時30分(原告の主張)であることを認めるに足りる証拠はなく,被告は勤務表上の始業時刻(午前10時)より早い午前8時からの始業を認めているから,同時刻を採用するのが相当である。
(オ) 平成26年9月20日については,午後4時46分に停止ログがあるから勤務していたことは認められるが,開始ログが存在しないところ,同月の他の土曜日ないし日曜日(6日〔11:46〕,21日〔10:30〕,27日〔11:21〕)の始業時刻に照らせば,原告の主張する正午をもって同日の始業時刻と認めるのが相当である。
(カ) 平成26年11月21日については,勤務表上の終業時刻の記載がなく,その理由について原告自身も合理的な説明をしていない(原告本人〔47頁〕)ところ,原告の主張する終業時刻(21:30)の根拠は本件手帳のみであるから,同日の終業時刻については,被告の主張する午後8時を採用するのが相当である。
(キ) また,平成26年10月14,15日及び11月25日から28日までについては,始業時刻が午前7時30分(原告主張)か午前7時45分(被告主張)かで争いがあるところ,同様の争いがある同月4日から21日までの平日の出勤日については,勤務表に基づき午前7時30分と認定することができるから,原告の主張を採用するのが相当である(原告は,「△△」のモーニングを手伝っていたようである。)。

キ 小括

(ア) 以上によれば,勤務表の存在する平成26年4月以降の期間については,始業・終業時刻について,当事者間に争いがない場合には,その時刻を採用すべきであるが(以下「認定基準①」という。),これに争いがある場合においては,開始・停止ログによって始業・終業時刻を認定し(以下「認定基準②」という。),勤務表上の始業・終業時刻が,PCログの開始・停止時刻の範囲外のある場合には,勤務表上の時刻をもって始業・終業時刻と認定する(以下「認定基準③」という。)ことが相当であるほか,上記カのとおり個別に認定するべきである。これを整理すると,別紙1の「始業」及び「終業」中の各「認定」欄に記載のとおりとなり,その認定に用いた認定基準(上記認定基準①ないし③,上記カによる個別認定部分は「認定基準⑨」とする。)は,各「認定基準」欄に記載のとおりとなる(なお,認定基準を形式的に適用すると,当事者の主張の範囲を超過してしまう場合,その範囲内の認定にとどめている。以下同様。)。
(イ) そして,別紙2記載の原告及び被告の主張を検討しても,その主張を裏付ける客観的な証拠が乏しいことや上記アないしカにおいて説示したところに照らし,上記(ア)の認定は左右されない。

(2) 平成25年6月22日から平成26年3月31日までの期間の始業・終業時刻の認定方法について

ア はじめに
 平成26年3月以前については,認定基準①及び②を用いることはできるものの,勤務表が存在しないため,認定基準③を用いることはできないことから,いかなる手法により始業・終業時刻を認定すべきかについて検討する。

イ 平日における通常の始業時刻について
(ア) 平成26年4月1日から同年10月15日ころまでの勤務表上の平日の始業時刻の記載をみるに,午前10時とする記載が圧倒的に多いこと(なお,同年10月16日以降については,午前7時30分の始業が圧倒的に多くなっているため除外した。),原告は,A社長より,午前10時までに来るように言われていたと述べており(原告本人〔1頁〕,原告第3準備書面2,3頁等参照),被告も,原告は通常午前10時ころに出勤していたと主張していることに鑑みると,平成26年3月以前の平日については,午前10時を通常の始業時刻とみなし,これを認定基準③に代わるものとして用いることが考えられる。したがって,開始ログの時刻が午前10時以降となっている場合には,特段の事情が認められない限り,午前10時をもって始業時刻と認定するのが相当である。
(イ) この点,原告は,午前9時30分よりも遅く出勤したことはほとんどなかったと主張しているところ,かかる事実を認定できないことは,上記(1)ウ(ウ)において説示したとおりである。また,別紙1のうち,平成26年4月から9月までの「始業」中の「認定」及び「認定基準」欄をみても,その大半が,認定基準①,②又は⑨により認定されており,認定基準③による認定部分についても,午前10時よりも前となっているのはわずか(平成26年5月26日,同年7月28日)である(なお,平成26年10月及び11月については,「△△」のモーニングの業務に従事するようになった関係で始業時刻が午前7時30分となっている勤務日が増加していることから,ここでは考慮しない。)。これらに加え,平成26年4月ころ以降は,それ以前よりも繁忙度が高くなっていること(上記1(2)エ)をも考慮すると,原告の主張のうち,上記(ア)のとおり認定することを否定する部分については,これを採用することができない。

ウ 平日における通常の終業時刻について
(ア) 通常の始業時刻が午前10時,1日の所定労働時間が8時間(前提事実(3)ア),休憩時間が1時間(後記(3)ア)であることを前提とすると,通常の終業時刻を午後7時とみなすことができる。そして,平成26年4月から9月までの平日について,「終業」中の「認定」欄を概観するに,概ね午後7時前後又はそれ以降であり,午後6時30分以前となっている勤務日はわずか(平成26年5月1,2,6日)である。また,原告が午後7時以降も社内において残業をしている場合には,PCログにより終業時刻を確認できる場合が多いと考えられ,原告が店舗のヘルプに行くなど午後7時以降も社外において残業をしていたことが認定できる場合には,後記エのとおり終業時刻を認定することができるから,そのいずれにも該当しない場合には,午後7時をもって終業時刻と認定するのが相当である。
(イ) これに対し,被告は,停止ログが残っていない日及び午後6時以前となっている日について,午後6時を終業時刻と認定すべき旨の(f)基準を用いるべきことを主張する。しかしながら,午後6時は所定の終業時刻(前提事実(3)ア)ではあるものの,原告については,所定の始業時刻(午前9時)までに出勤していないことの方が多かったのであるし,上記(ア)において説示したところによれば,(f)基準を用いることが合理的であるとはいえないから,被告の上記主張を採用することはできない。

エ ヘルプに入った場合の終業時刻について
(ア) 原告の主張する終業時刻が午後7時よりも後である勤務日のうち,PCログの記録が存在しない日については,店舗等のヘルプを理由とするものがほとんどであり,ヘルプ先がいずれの店舗等であるかなどにより,概ね,午後10時ないし午後11時30分の終業を主張している(別紙1,2参照)。そこで,いずれの勤務日について,原告がヘルプに入ったと認められるか及びヘルプに入った場合の終業時刻について,以下において検討する。
(イ) 都市内交通費領収書(乙28の1~8)によれば,終業時刻について,当事者間に争いがあり,かつ,原告が午後7時よりも後の終業時刻を主張している勤務日のうち,別紙5の「年月日」欄記載の日については,店舗等へのヘルプを理由とした交通費(鉄道運賃)の申請・承認がなされていることが認められる。そして,別紙2の「原告の主張」欄を併せ読むと,このうち平成25年7月18日及び同年9月6日のヘルプ先はランチタイムの「□◇」であることを原告が主張しており,夜間のヘルプを理由とする交通費請求はされていないことが認められる。その余について,主なヘルプ先は「□◇」及び「○○」等の飲食店であって,ヘルプが必要となる時間帯は通常は夜間であると考えられることを考慮すると,別紙5の「年月日」欄記載の勤務日(平成25年7月18日及び同月9月6日を除く。)については,「ヘルプ先」欄記載の店舗等に夜間にヘルプに入っていたと認めるのが相当である。なお,原告は,自宅最寄りのJR西川口駅から被告本社最寄りのJR新宿駅までのIC定期券を所持しており,JR線で異動する場合,IC定期券が自動的に運賃の最も割安となる区間の運賃を精算処理することから,その記録に基づいて原告が被告に対して経費請求した交通費の申請区間が,実際の移動経路と一致しないことがあった(上記1(2)ア)ものであり,都市内交通費領収書において,「行程」欄の最後に被告本社の最寄駅である新宿駅が記載されているからといって,ヘルプ後に帰社したものと認めることはできない(なお,平成25年12月20日の「行程」の末尾には,「新宿」ではなく都営地下鉄の駅名である「都庁前」と記載されているが,日暮里からのJR線による交通費を申請する趣旨であることは明らかであり,単純な誤記と解される。同様の誤記は他にも散見される。)。他方,都市内交通費領収書のうち,「出張先」欄には店舗等が記載されているものの,「要件」欄に「ヘルプ」の記載がないもの(視察,打ち合わせ,配布物等)や,車輌別走行距離・給油管理表(乙29)の「行先」欄に店舗等が記載されているにとどまるものについては,午後7時以前に店舗を訪問した可能性が十分に考えられ,午後7時以降に店舗等のヘルプにはいったものとして,終業時刻の認定根拠として用いることは困難である。
(ウ) ところで,別紙5の「年月日」欄記載の各勤務日について,原告が何時まで勤務していたかを個別に確定しうる証拠はないうえ,ヘルプに入った場合の終業時刻については,ヘルプ先の店舗等により,一定の傾向があるとしても,結局は,その日の混雑時間帯,来店客の人数,他の従業員の人数等により相当の変動があるものと考えられる。そして,別紙5に記載されたヘルプ先の多くが「□◇」又は「○○」であるところ,平成26年4月1日以降の勤務表上の終業時刻をみても,午後10時までが大半であり,これを超える日(平成26年4月4日,同月11日,同月18日,同年5月20日,同年9月4日,同月18日,同月25日,同年10月1日,同月18日のみ)は少なく,被告も,「□◇」又は「○○」にヘルプに入った場合,午後10時ころには終業する旨を主張しているから,原告が店舗等にヘルプに入った勤務日の終業時刻(後記(エ),(オ)により認定する「□□」のヘルプに入った勤務日の終業時刻を除く。)については,特段の事情が認められない限り,午後10時と認定することとするのが相当である。
(エ) また,被告は,原告が,2か月に1回程度は「□□」のヘルプに入っていたことを認めているものの,それがいずれの日であるかを確定しうる証拠は見当たらない。そこで,平成25年6月22日から平成26年3月31日までの約10か月弱の間に,少なくとも4回は「□□」のヘルプに入ったものと考え,原告が「□□」にヘルプに入ったことを主張している日(別紙2参照)のうち,予約人数(乙30)が比較的多い平成25年7月5日,同年9月26日,同年12月13日,平成26年1月10日について,「□□」のヘルプに入ったものとみなして労働時間を算定するのが相当である。
(オ) 証拠(乙31〔4,6枚目〕,37)及び弁論の全趣旨によれば,「□□」の夜の営業時間は午後5時から午後11時までであり,午後7時ころから午後9時ころまでが繁忙時間帯であったこと,原告がヘルプに入る場合,4,5時間程度は勤務していたことが認められる。そして,原告が,上記(エ)の4日間の終業時刻について,午後10時30分ないし11時と主張していることや,「□□」のD店長が,原告が「□□」のヘルプに入った際,午後10時30分ころまでは滞在することがあったと述べていること(乙37〔4頁〕)に鑑みると,原告が「□□」のヘルプに入った際には,概ね午後6時ころから午後10時30分ころまでの間,「□□」において勤務(休憩を含む。)していたものとみて,午後10時30分をもって終業時刻と認めるのが相当である。
(カ) 以上に対し,原告は,より頻繁に「□□」など店舗等のヘルプに入ったことや,終業時刻がより遅い時刻であることを主張している。しかしながら,平成26年3月以前の都市内交通費領収書(乙28の1~8)又は車輌別走行距離・給油管理表(乙29)に記載がない勤務日について,原告において,ヘルプに入ったことを主張する根拠というのは,自己の行動パターンなどに照らし,停止ログの時刻が終業時刻としては早すぎる場合などに夜にヘルプに入った可能性が高いと推測するというもののようであり(原告本人〔45~47頁〕),かかる方法は客観的な検証が不可能であって,その正確性については大いに疑問が残る(原告本人〔27,28,30頁〕)。
 このことに加え,本件手帳に記載された勤務時間が,正確性,客観性の乏しいものであること,被告は「□□」の予約状況表等の具体的な証拠(乙30,31,34,41)に基づいて反論していること,原告も,平成26年4月ころないし7月ころについては,「□□」にヘルプに入る頻度が2か月に1回程度であったことを認めていること(原告本人〔14頁〕)のほか,上記(ア)ないし(オ)において説示したところを併せると,原告がヘルプに入ったことを理由として,より遅い終業時刻を認定すべきことをいう原告の上記主張を採用することはできない。

オ 個別の検討
 ここでは,上記アないしエとは異なる認定をすべきものについて,その理由を説示するほか,当事者が上記アないしエとは異なる認定をすべきと主張をしている勤務日について,そのような認定をしない理由を必要な範囲で説示することとする。
(ア) 平成25年6月22日(土曜日)の始業時刻について,正午(原告の主張)であることを認めるに足りる証拠はないから,午後1時(被告の主張)と認定するのが相当である。
(イ) 平成25年6月24日及び同月25日について,朝に「◇◇」のモーニングビュッフェのビラ配りを行ったことに争いはない(別紙2)ものの,その際の始業時刻が午前7時(原告の主張)であることを認めるに足りる証拠はないから,午前8時(被告の主張)と認定するのが相当である。
(ウ) 平成25年6月25日の終業時刻について,原告は,酒販店からサンプルとして送付された商品の試飲会(試食会)が午後11時まで開催されたところ,これは業務であると主張する(別紙2)。しかしながら,証拠(乙36〔4頁〕,証人E〔4頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,同会合は,午後6時の所定終業時刻の後に開催され,サンプル商品等を無料で飲食できる会合であり,飲食物を用意するに当たり会社経費は使用されなかったことが認められる。そして,このような会合は,職場の宴会の延長線上という性質を有する場合が多いと考えられ,これを否定するような事情を認めるに足りる証拠も見当たらないことに照らせば,原告が料飲部に関する管理業務を行う立場にあり,同会合が「□□」において開催されたことを考慮しても,これが業務であったと認定することは困難であり,同会合の終了した午後11時を終業時刻と認定すべきことをいう原告の主張を採用することはできない。
(エ) 平成25年の8月6,7,20,30日,10月7日及び11月1日,平成26年の1月28日,2月3,7日等の始業時刻について,出先における業務開始時刻が午前9時又は午前9時30分であったなどと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はないから,開始ログ又は通常の始業時刻(午前10時)に基づいて認定するのが相当である。
(オ) 平成25年9月17日について,原告は,「□△」の朝食ヘルプに入ったことを理由として,午前6時30分から勤務を開始したことを主張する。確かに,証拠(乙28の2)によれば,同日に「□△」(最寄駅:神田)へのヘルプに行ったことを理由とする交通費申請・承認がなされているが,「□△」は,昼食時も営業しているようであり(別紙2の「原告の主張」欄参照),午前6時30分から朝食ヘルプに入ったことを認めるに足りる証拠は見当たらないから,通常の始業時刻(午前10時)に基づいて認定するのが相当である。
(カ) 平成25年9月21日について,被告は,事務所移転作業日であったため,当日は執務室への入室を禁じており,PCログは業者による動作確認によるものであると主張し(別紙2),これに沿うA社長及びE部長の陳述等(乙35〔25,26頁〕,36〔6頁〕,被告代表者〔12頁〕)がある。
 しかしながら,動作確認が可能であったとすれば,原告が執務室に入室してパソコンを使用することも一応は可能な状況であったと考えられるところ,A社長及びE部長は,同日に出社していなかったのであるから,原告が執務していない状況を確認してはいないし,原告不在の状況下において,原告のパソコンについて,同日,業者による動作確認が行われたことを認めるに足りる証拠も提出されていない。また,原告のパソコンは,午後4時31分から午後6時35分までの約2時間にわたって起動されていたところ,動作確認のための時間としては長すぎるようにも思われる。したがって,平成25年9月21日のPCログについて,原告以外の者が操作したことによる記録であることを主張する被告の主張を採用することはできない。
(キ) 平成25年12月9日及び11日について,原告がA社長とともにCマンション事業部のパーティーに出席したことに争いはない(別紙2)ものの,その際の終業時刻が午後10時(原告の主張)であることを認めるに足りる証拠はないから,午後9時(被告の主張)と認定するのが相当である。
(ク) 平成26年3月1日について,原告は,伊豆のホテル△×において,午前7時の朝食開始時から品揃えや盛り付けなどをチェックしながら試食したことを理由として,午前7時をもって始業時刻と認定すべき旨を主張する。この点,被告は,具体的に反論をしていないうえ(別紙2),ホテルの朝食開始時刻として午前7時は自然であることに照らせば,原告の主張どおり同日の始業時刻を午前7時と認定するのが相当である。

カ 小括

(ア) 以上によれば,勤務表の存在しない平成26年3月以前の期間については,始業・終業時刻について,当事者間に争いがない場合には,その時刻を採用すべきであるが(認定基準①),これに争いがある場合においては,PCログによって始業・終業時刻を認定し(認定基準②),通常の始業・終業時刻(それぞれ午前10時,午後19時)が,PCログの範囲外のある場合には,通常の始業・終業時刻をもって始業・終業時刻と認定し(以下「認定基準④」という。),ヘルプに入ったことが確認できる勤務日(「□□」のヘルプに入ったものとみなす勤務日を含む。)については,午後10時(「□□」のヘルプの場合には午後10時30分)をもって終業時刻と認定する(以下「認定基準⑤」という。)のが相当であるほか,上記オのとおり個別に認定するべきである。これを整理すると,別紙1の「始業」及び「終業」中の各「認定」欄に記載のとおりとなり,その認定に用いた認定基準(上記認定基準①,②,④,⑤,上記オによる個別認定部分(認定基準①,②,④,⑤による裁判所の認定に抵触する当事者の主張を排斥する部分を除く。)は「認定基準⑨」とする。)は,各「認定基準」欄に記載のとおりとなる。
(イ) そして,別紙2記載の原告及び被告の主張を検討しても,その主張を裏付ける客観的な証拠が乏しいことや上記アないしオにおいて説示したところに照らし,上記(ア)の認定は左右されない。

(3) 休憩時間の認定方法について

 始業・終業時刻及び休憩時間のいずれについても原被告間に争いがない場合には,当該休憩時間を採用すべきであるが,その余の場合には,次のとおり認定するのが相当である。

ア 平日について

 原告は,休憩時間を1時間と主張しており,被告も拘束時間10時間未満の場合は休憩時間を1時間と扱うことを指示していた(乙8)から,少なくとも1時間の休憩時間を認定するのが相当である。もっとも,終業時刻が午後9時以降となる場合,午前10時から勤務を開始した場合であったとしても拘束時間が11時間以上となって,拘束時間中に夕食を取る場合も多いと考えられ,原告は1人で食事をとる場合であっても30分程度は要するようであるから(原告本人〔6,29頁〕参照),さらに30分長い1時間30分の休憩時間を認定するのが相当である。なお,被告は,拘束時間の長さに応じて,1時間,2時間又は3時間の休憩を主張している(後記ウ参照)から,被告が休憩時間を1時間と主張している場合であっても,被告の主張する拘束時間以上の拘束時間を認定した場合には,1時間を超える休憩時間を取得したことに係る被告の黙示的な主張があるものとみて,1時間30分の休憩時間を認定することがある。

イ 土日祝日について

 原告は,別紙1の「始業」,「終業」中の各「認定」欄のとおり,土日祝日の中でも,土曜日に出勤することが多かったところ,土曜日も正午ころまでに出社した際には,A社長と昼食をともにすることが多く,その場合,1時間程度は離席していたものであるし,原告は,土日祝日の正午ころまでに出社した際には,A社長と昼食をともにしない場合であっても,出社した後に昼食を取ることが多かったものである(上記1(2)ウ)。そうすると,土日祝日についても,正午までに出社した場合には,平日と同様に休憩時間を原則として1時間と認定し,正午より後に出社した場合には,平日よりも30分短い休憩時間を認定するのが相当である。また,終業時刻が午後9時以降となる場合には,正午より後に出社した場合であっても,休憩時間を1時間と認定することとするが,土日祝日であることや出勤時刻が遅いことが多いことも考慮し,正午までに出勤した場合であっても,1時間を超える休憩時間は認定しないこととするのが相当である。

ウ 被告の主張について
(ア) これに対し,被告は,平成26年4月1日以降,全従業員について,勤務時間に応じた休憩時間を取得させることとし,勤務時間が10時間以上13時間未満の場合は2時間,勤務時間が13時間以上の場合は3時間の休憩時間を取得するよう説明し,原告に対しても,その旨を指導していたなどと主張し,これに沿う書証(乙8)を提出する。
 しかしながら,A社長も,昼食時以外に1時間を超える休憩をどのように取得させていたかについて,何ら具体的な説明していないこと(被告代表者〔24,25頁〕)に照らせば,被告主張のような休憩時間の取得ルールが実施されていたとは認めがたい。
(イ) また,被告は,原告が,喫煙のために1回当たり10分以上,少なくとも1日5,6回は離席していたから,昼食時の1時間以外にも1日1時間程度は喫煙休憩を取得していたし,拘束時間が13時間を超える日は,喫煙のための離席も多くなることから,昼食時の休憩を含め,1日3時間程度は休憩を取得していたなどと主張する。
 この点,労働者が実作業に従事していない時間帯であっても,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものとして,労働時間に該当するものと解される(最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決・判タ1089号72頁)。
 そして,原告が,喫煙のために1日5,6回離席し,喫煙所が離れているために自席に戻るまでに10分程度を要することがあったとしても,被告において,喫煙時間が労働時間に該当しないことを前提とした勤怠管理等が行われていた形跡は全くないうえ,A社長から原告を喫煙に誘うことがあり,その際に業務に関する指示等を行うこともあったものである(上記1(2)ウ)。そうすると,少なくとも原告については,労働時間内に喫煙のため短時間離席することは許容されていた反面,労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価するのが相当であり,これが労働時間に該当しないことをいう被告の主張を採用することはできない。

エ 小括
(ア) 以上によれば,始業・終業時刻及び休憩時間のいずれについても原被告間に争いがない場合には,当該休憩時間を採用すべきである(以下「認定基準(A)」という。)が,その余の場合については,原則として1時間(以下「認定基準(B)」という。)と認定し,平日で終業時刻が午後9時以降となる場合には1時間30分(以下「認定基準(C)」という。)と認定し,土日祝日で始業時刻が正午より後であり,終業時刻が午後9時よりも前である場合には30分(以下「認定基準(D)」という。)と認定するのが相当である。これを整理すると,別紙1の「休憩」中の各「認定」欄に記載のとおりとなり,その認定に用いた認定基準(上記認定基準(A)ないし(D))は,各「認定基準」欄に記載のとおりとなる。
(イ) そして,これと異なる原告及び被告の主張(別紙1)を検討しても,その主張を裏付ける客観的な証拠が乏しいことや上記ア及びイにおいて説示したところに照らし,上記(ア)の認定は左右されない。
(4) まとめ
ア 以上を踏まえ,時間外労働等に係る時間数を集計すると,原告の実働時間,1日8時間超の時間外労働時間,週40時間超の時間外労働時間,休日労働時間,深夜労働時間は,それぞれ,別紙1の「裁判所認定」中の「実働」,「8時間超」,「週制限超」,「休日」,「深夜」欄記載のとおりとなる(なお,原被告の整理に従って,当裁判所も,週の始まり及び法定休日を日曜日として整理している。)。
イ ところで,原告は,被告が,平成25年8月7日の終業時刻(午後10時から午後7時30分),平成26年7月1日の終業時刻(午後10時39分から午後9時30分),同年9月25日の終業時刻(午後11時30分から午後9時30分)について,従前よりも原告に不利益となる終業時刻を主張することは自白の撤回に当たるところ,これに同意しない旨を主張する。しかしながら,別紙1の「終業」中の「認定」欄のとおり,当裁判所は,被告が従前主張していた終業時刻を認定しうるものと判断したので,裁判上の自白の撤回に該当するか及びその撤回が許される場合に該当するかについて検討するまでもなく,これらの勤務日の終業時刻に関する結論は左右されない(自白の撤回が許されない場合には,当該終業時刻に争いがないことを前提として判断することになる。)。

3 争点2(平成24年12月から平成26年3月までの期間に関し,(ア)原告の月俸35万円のうち時間外手当10万0500円が固定残業代として割増賃金の支払に充当されるか,(イ)時間単価)について

(1) 固定残業代の有効性の判断枠組みについて

 労基法37条は,時間外労働等に対し,所定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うよう使用者に義務づけるものであるが,労基法37条所定の計算方法をそのまま用いることまでを求めるものではない。そして,使用者が,労働者に対し,時間外労働等に対応する割増賃金を通常の労働時間に対応する賃金とを明確に区別し,後者を固定残業代として定額で支払う場合には,当該支給額が労基法37条所定の金額以上であるか否かを判定することが可能であるから,割増賃金の有効な弁済の効力を有するものと解するのが相当である。(最高裁平成6年6月13日判決・判タ856号191頁,佐々木宗啓ほか編著「類型別労働関係訴訟の実務」(以下「類型別」という。)125~126頁,白石哲編著「労働関係訴訟の実務」(以下「実務」という。)109~110頁)

(2) 原告の月俸35万円のうち時間外手当10万0500円が固定残業代として割増賃金の支払に充当されるかについて

ア まず,平成24年12月から平成26年3月までの割増賃金の算定において適用される給与規程(平成21年規程23条1項,平成25年規程23条2項)を検討するに,前提事実(4)ケのとおり,いずれも,基本給,業務手当及び資格手当の3割相当額並びに職務手当の全額を時間外勤務手当,休日勤務手当,深夜勤務の順に充当することを定めている。

イ また,前提事実(2)のとおり,平成22年7月1日付け雇用契約書上,試用期間中の月額給与には,9万円の時間外勤務手当を,試用期間経過後の月額給与には,9万9000円の時間外勤務手当が含まれていることが明記され,平成23年7月1日付け雇用契約書上,9万9000円の時間外勤務手当が含まれていることが明記されており,これらの時間外勤務手当額は,試用期間中の月額賃金30万円ないし試用期間経過後の月額賃金33万円の3割相当額となっており,上記給与規程の定めに沿った固定残業代が個別労働契約においても合意され,明示されていた。

ウ  そして,平成24年12月から平成26年3月までの割増賃金請求の前提となる平成24年7月1日付け雇用契約書上も,10万0500円の時間外勤務手当が含まれていることが明記されているところ,この時間外勤務手当額は,原告の月俸35万円(基本給12万円,業務手当21万円,資格手当2万円の合計額)の3割相当額である10万5000円よりも4500円少ない金額となっており,その分,通常の労働時間に対応する賃金額が多くなっており,上記給与規程の定めよりも労働者に有利な条件の固定残業代が個別労働契約において合意されているといえる(労働契約法7条但書,12条参照)。

エ そうすると,雇用契約書上に明記された時間外勤務手当額については,時間外労働等に対する割増賃金の支払に充てる趣旨であることが明確であり,通常の労働時間に対応する賃金との区分も明確であるから,いわゆる定額手当制の固定残業代として有効であると認められる。

(3) 上記(2)に対応する原告の主張について

ア これに対し,原告は,(a)被告には様々な部門が存在し,各従業員の勤務状況も異なるにもかかわらず,管理監督者等を除く全従業員に対して一律の固定残業代制度が導入されており,その経緯や理由が不明であるし,性質が異なる複数の賃金費目(基本給,資格手当,業務手当等)の一定割合を固定残業代とする根拠も不明であること,(b)原告については,10万0500円と賃金費目(基本給,業務手当,資格手当)との対応関係も不明であり,これに対応する時間外労働等の時間数も不明であること,(c)そもそも,被告は,労働者の正確な労働時間を把握せず,少なくとも原告について,一度たりとも固定残業代を超過した割増賃金を支払っていないことなどを理由として,被告の主張に係る固定残業代が割増賃金の支払として有効とはいえないなどと主張する。
イ しかしながら,上記(2)において説示したとおり,労基法37条は,時間外労働等に対し,所定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うよう使用者に義務づけるものにとどまり,それ以上に,各部門や各従業員ごとに想定される残業時間数等に応じた固定残業代の金額の設定等を要求するものではなく,管理監督者等を除く全従業員に対して一律の固定残業代制度を導入することを禁止しているものではない。また,平成24年12月から平成26年3月までの原告の月俸35万円は,基本給,業務手当及び資格手当により構成されており,給与規程(平成21年規程及び平成25年給与規程)17条ないし19条は,基本給は,技術及び勤務成績により決定の上,支給すると定め,業務手当は,従業員各人の職務の責任性,難易度,職務内容等を勘案し,決定の上,支給すると定め,資格手当は,別に定め支給するとなどと定めていたものである(前提事実(4)カないしク)ところ,これらの基本給,業務手当及び資格手当の性質に照らしても,その7割又はそれ以上を通常の労働時間に対応する賃金と定め,その余を時間外労働等に対応する固定残業代(定額手当)と定めること自体に不合理なところはなく,労基法37条に違反するとも認めがたい。したがって,上記ア(a)の指摘は,上記(2)の判断を左右するものとはいえない。

ウ そして,月俸35万円のうち基本給は12万円,業務手当は21万円,資格手当は2万円であるから,時間外手当10万0500円の内訳(基本給,業務手当及び資格手当の別)については,12:21:2の割合により按分されると解するのが合理的である。もっとも,基本給,業務手当及び資格手当のうち,通常の労働時間に対応する賃金(平成24年7月1日付け雇用契約書においては,合計24万9500円)は,いずれも除外賃金(労基法施行規則21条)には当たらないから,労基法37条所定の計算による割増賃金額を算定するに当たっては,時間外手当10万0500円の内訳はそもそも問題とはならない。また,時間外手当10万0500円は,割増賃金に充てられる金額が特定されたいわゆる定額手当制の固定残業代であるところ,定額手当制の固定残業代については,いわゆる定額給制の固定残業代とは異なって,計算可能性及び明確区分性を確保するうえで時間外労働等の時間数を特定する必要はなく,労基法37条が,定額手当制の固定残業代の対象となる時間外労働等の時間数を特定することを要請しているとは解されない(東京高裁平成28年1月27日判決・労経速2296号3頁)。したがって,上記ア(b)の指摘は,上記(2)の判断を左右するものとはいえない。

エ もとより,固定残業代制度を導入した場合であっても,労基法37条所定の計算による割増賃金の額が,固定残業代の額を超過した場合には,使用者は,労働者に対し,その超過額を支払う義務を負うものである。そして,固定残業代制度を導入しているか否かに関わらず,タイムカードを用いるなどして時間外労働等の時間数を正確に把握し,賃金の支給時にその時間数等を明示するような労務管理を行うことは望ましいとはいえるものの,そのような労務管理を行うこと自体が,固定残業代を有効たらしめるための要件を構成するとはいえないし,そのような労務管理を欠いており,未払割増賃金が存在し,その未払金の清算がなされていない実態があるというだけで,労働契約上,割増賃金の支払に宛てる趣旨が明確な固定手当について,割増賃金(固定残業代)の支払としての有効性を否定することは困難である。とりわけ,本件においては,後記5において説示するとおり(別紙4参照),時間外手当10万0500円を割増賃金の支払に充当した場合,平成26年2月までは割増賃金の未払は存在せず,時間外手当により概ね割増賃金が賄われていたというのが実態であったから,被告における固定残業代制度が,実質的に時間外労働の対価としての性質を有していないなどと評価することはできない。したがって,上記ア(c)の指摘は,上記(2)の判断を左右するものとはいえない。

オ 以上によれば,月額10万0500円の残業手当が時間外労働等に対する割増賃金の支払として有効であることを否定する原告の主張を採用することはできない(類型別127~132頁,実務116,117頁参照)。

(4) 時間単価について

 原告の月俸35万円のうち,時間外手当10万0500円を控除した残額である24万9500円を算定基礎とし,月平均所定労働時間を173.8時間(=40時間/週(労基法32条1項)÷7日/週×365日/年÷12月)として,割増賃金の算定基礎となる時間単価を計算すると,1436円(=24万9500円÷173.8時間)となる(給与規程11条により1円未満を切上げ,前提事実(4)オ参照)。

4 争点3(平成26年4月から同年11月までの期間に関し,(ア)原告が管理監督者であったといえるか,(イ)管理職手当5万円が固定残業代として割増賃金の支払に充当されるか,(ウ)時間単価)について

(1) 原告が管理監督者であったといえるかについて
ア 管理監督者(労基法41条2号)に当たるというためには,当該労働者が,①事業主の経営上の決定に参画し,労務管理上の決定権限を有し,②自己の労働時間についての裁量を有し,③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていることを要するものと解するのが相当である。

イ 被告は,原告について,平成26年4月1日以降,料飲部副部長として料飲部を統括していたほか,物販営業部に属する店舗である「△△」の運営も担当し,(A)店舗間の人員の差配,(B)パートタイマーの採用,(C)社員の勤怠管理,(D)食材及び飲料の仕入れ,(E)料理及び飲料の原価率及び販売価格の決定,(F)現金管理,(G)包材の業者選定,(H)販促業務,(I)売上目標の設定,(J)衛生管理などの店舗運営全般を統括し,会社の経営に関する重要事項に重大な権限をもって関与していたなどと主張し,それに沿う被告代表者の供述(被告代表者〔2頁等〕,乙35〔1~9頁〕を含む。)がある。
  この点,確かに,原告は,A社長の指揮監督の下(被告代表者〔14頁〕参照),売上目標の設定,物品や食材等の仕入れ,留意事項の周知などの料飲部における管理業務を担当し,人事や労務管理に関しても,パートタイマーの採用面接や,店舗間のシフトの調整を行っていたことが認められる(上記1(1)ウ)。
  しかしながら,(ア)被告本社において,料飲部に所属する従業員は原告だけであり,本社に勤務する部下は存在せず,料飲部の部長もケータリング部門の調理人であって,原告の上司としては全く機能していなかったこと,(イ)原告の肩書は,事業管理部課長代理,事業管理部マネージャー,料飲部副部長と変わっていったが,料飲部副部長の肩書を得た平成25年末ころ前後において,料飲部における原告の職務権限に特段の変更はなかったこと,(ウ)料飲部に所属する店舗の中には,原告以上の賃金を得ている店長も存在し,原告は,料飲部に所属する社員の採用,人事考課,賃金(昇給等を含む。)や配てんについて権限を有していなかったこと,(エ)原告が平成26年12月に退職した後は,ケータリング部門に所属する従業員を昇格させて,原告の担当していた職務を担当させるようになったが,本社勤務とはしなかったこと(上記1(1)イないしエ)を踏まえると,料飲部における原告の職務実体としては,本社において行う料飲部の運営業務や店舗間の調整業務について,A社長の指示に基づいて補佐を行うというレベルを超えるものではなく,原告自身が,労務管理上の決定権限を有していたとか,会社の経営に関する重要事項に重大な権限をもって関与していたなどと評価するのは困難である(A社長の陳述書(乙35〔20頁〕)にも,同社長が,原告に対し,業務上の連絡事項を手帳にメモするよう指示し,そのメモ内容を確認していたことが記載されており,個別具体的な指示がなされていたことが窺われる。)。

ウ また,平成26年3月以前についても,別紙1の「始業」中の「認定」欄記載のとおり,就業規則上の本社の所定の始業時刻である午前9時までに出勤しないことが多く,そのことについて特段の指導等がされていた形跡は窺われないし,勤務表も作成されていなかったものである。このように,原告には,管理監督者でないことに争いのない同年3月以前から,労働時間に裁量が与えられていたものであり,同年4月以降については,勤務表の提出を求められているのであって,むしろ労働時間の管理が厳格になったものである。そうすると,平成26年4月以降において,原告が自己の労働時間に関する裁量が与えられていたことからといって,そのことが,原告の管理監督者性を特段基礎づけるものとはいえない。

エ そして,平成26年4月から10月までの原告の時間外労働の時間数は毎月45時間を超えており,とりわけ同年7月については約107時間,同年8月については約90時間に達している。このような原告の労働時間や原告よりも高額の賃金を得ている料飲部に所属する店舗の店長も存在したこと(上記1(1)ウ)を踏まえると,月俸40万円を支給されているからといって,管理監督者としてふさわしい賃金等の待遇を得ていると評価することはできない。

オ 以上によれば,原告は管理監督者(労基法41条2号)に当たると認めることはできず,この点に関する被告の主張には理由がない。

(2) 管理職手当5万円が固定残業代として割増賃金の支払に充当されるかについて

ア 被告は,毎月5万円の管理職手当は,平成26年3月まで支給されていた割増賃金(固定残業代)を代替する趣旨で支給されたものであるなどと主張するので,上記3(1)の判断枠組みに即して検討する。

イ この点,平成26年4月1日を契約発効日とする雇用契約書上も,管理職手当が割増賃金の支払に充当される賃金であることは記載がないうえ,時間外手当に関する記載が全くなく,平成26年規程19条も,管理職手当の金額は,別に定め支給すると定めるのみであり,これが割増賃金の支払に充当される賃金であることは全く窺われない。かえって,平成26年規程5条及び23条2項によれば,固定割増賃金の支払に充当される固定給は,基本給及び業務手当の3割相当額に限られると解され,これと異なる管理職手当については,時間外労働等に対する割増賃金の支払に充てる趣旨があると認めることはできない。そもそも,管理職手当は,その名称からして,管理職としての職責等に対する対価という性質を包含すると理解するのが自然であって,これに割増賃金の支払に充てる趣旨が含まれ得るとしても,通常の労働時間に対する賃金との区分が明確であるとはいえない。したがって,管理職手当の支給をもって,割増賃金(固定残業代)の支給に当たると認めることはできず,上記アの被告の主張を採用することはできない。

(3) 時間単価について
 原告の月俸40万円を算定基礎とし,月平均所定労働時間を173.8時間(=40時間/週(労基法32条1項)÷7日/週×365日/年÷12月)として,割増賃金の算定基礎となる時間単価を計算すると,2301円(=40万円÷173.8時間)となる。

5 争点4(未払割増賃金及び退職日までの遅延損害金の額)について

(1) 平成25年6月22日から平成26年11月30日までの期間における原告の時間外労働等の時間数は,上記2(4)のとおりであるところ,これを集計すると,別紙4のNo.7-2,8ないし24の①ないし⑤のとおりとなる。なお,被告の資本金の額は2000万円(前提事実(1)ア)であり,労基法37条1項但書の適用のある使用者と認められず(労働基準法附則138条,給与規程23条も,このことを前提としているものと理解される。),同条項に基づく原告の請求には理由がないため,月60時間超の時間外労働の時間数の集計はしないこととする。

(2) また,平成25年7月1日から平成26年3月31日までの9か月間の時間外労働等の時間数は,別紙4の原告請求一覧表のNo.26のとおりとなるところ,1か月当たりの時間数の平均は,同一覧表のNo.27のとおり,時間外労働が42時間18分(=380時間42分÷9月),休日労働が3時間26分(30時間59分÷9月),深夜労働が1時間20分(12時間03分÷9月)となる。そして,これらの時間数をもって,平成24年12月から平成25年6月までの各月の時間外労働等の時間数とみなすこととすると,別紙4のNo.1ないし7の③ないし⑤のとおりとなる(なお,上記1(2)エのとおり,平成26年4月ころ以降は,それ以前よりも繁忙度が高まったことからすると,同月以降の時間外労働等の時間数をもって,同年3月以前の時間外労働等の時間数を推認することはできない。)。

(3) さらに,上記3(4)及び4(3)において認定した時間単価を用いて割増賃金を算定すると,別紙4のNo.1ないし24の⑦のとおりとなる。そして,平成24年12月分から平成26年3月分については,上記3において説示したとおり,毎月10万0500円が割増賃金の支払に充当されるから,これを既払額として控除すると,未払割増賃金額は,別紙4のNo.1ないし24の⑨のとおり合計163万5692円となる。また,割増賃金は当月分を翌月の給与支給時に支給することとされている(給与規程8条3項,23条5項(平成21年規程においては23条2項))ところ,支払期日の翌日から退職日までの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を算定すると,別紙4のNo.1ないし24の⑬のとおり合計3万2411円となり,前記元本額との合計は166万8103円となる。

6 争点5(付加金請求の当否及び付加金額)について

(1) 労基法114条において,裁判所が,労働者の請求により,労基法37条等の規定に違反した使用者に対し,これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか,これと同一額の付加金の支払を命ずることができるものと定められているのは,労働者の保護の観点から,上記の割増賃金等の支払義務を履行しない使用者に対し,一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし,その支払義務の履行を促すことのより上記各規定の実効性を高めるとともに,使用者による上記の休業手当等の支払い義務の不履行によって労働者に生ずる損害を填補する趣旨に基づくものであると解される(最高裁平成27年5月19日第三小法廷決定・判タ1416号61頁)。そして,付加金の支払を命ずるべきか否か及び命ずるとした場合の金額を決定するに当たっては,使用者による労基法違反に至る経緯,その違反の内容や程度,労働者の不利益の内容や程度等の諸般の事情を総合的に考慮すべきであると解される

(2) 本件においては,とりわけ平成26年3月以前については,被告による原告の労働時間の管理が不十分であったこと,勤務表を導入した平成26年4月以降についても,休憩時間を過大に計上することを求めるような運用を行っていたこと(甲5,乙8,被告代表者〔24,25頁〕),平成26年3月以降から同年10月まで毎月45時間を超える時間外労働が継続しており,同年7月には約107時間,同年8月には約90時間に達していたこと,原告が管理監督者(労基法41条)に該当するとはいえないこと,管理職手当が固定残業代として割増賃金の支払に充当されるとも認められないこと,未払割増賃金額は約163万円にのぼることなどを考慮すると,被告に対しては,付加金の支払を命じるのが相当である。
 
他方,平成26年3月以前について,被告は,原告に対し,時間外手当(固定残業代)として10万0500円を支給しており,これ自体は割増賃金の支払として有効なものであり,未払割増賃金のほとんどは,同年4月以降に発生したものである。そして,同月以降について,原告を管理監督者として取り扱うこととし,時間外手当(固定残業代)の定めを置かなかったところ,かかる管理監督者の取扱いが労基法に抵触していたため,結果的に,平成26年4月以降は同年3月以前の約1.6倍(=2301円÷1436円)もの時間単価により算定された割増賃金の支払義務を負担することとなったものであり,労基法を遵守しなかった結果とはいえ,被告にとっては,不測の負担を負ったといえる。また,原告は,労基法上の管理監督者には該当しないとはいえ,すでに「□□」新宿店の店長を経験しており,パートタイマーの面接を行ったり,飲料部門に所属する各店舗の販促管理を行うなど,一定程度の権限を有し,午前9時(被告本社における所定の始業時刻)よりも後に出勤しても遅刻として扱われないなど,自己の労働時間について一定程度の裁量を与えられていた側面があることも否定できない。
 以上の諸事情を考慮すると,付加金の額については,割増賃金元本額である163万5692円の5割に相当する81万7846円をもって相当と認める。

7 結論

  よって,主文のとおり判決する。

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