神奈川SR経営労務センター事件(横浜地方裁判所平成30年5月10日判決)

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神奈川SR経営労務

病気休職からの復帰について、産業医の意見の信用性が否定され、休職期間満了に伴う退職扱いが無効とされた事例

1 事案の概要

被告は、厚生労働大臣認可の労働保険事務組合である。原告Aは,平成20年9月付け採用,原告Bは平成13年3月付け採用であり,いずれも被告との間で、職種の限定及び期間の定めのない雇用契約を結び、勤務をしていた。
原告Aは、精神的な体調不良から、平成26年6月から欠勤し,被告は、同年9月,原告Aに平成27年6月まで休職を命じた。その後,原告Aは復職可能とする主治医の診断書を提出の上、同年6月、被告産業医と面談した。しかし,被告は、産業医の診断及び意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは不可能との結論に達し、休職期間満了日の同月7日をもって自然退職扱いとした旨、同月18日付けで原告Aに通知した。
原告Bは、精神的不調が悪化し、平成26年6月から欠勤し,被告は、同年9月、原告Bに平成27年9月まで休職を命じた。原告Bは、被告に対し、復職可能とする主治医の診断書を提出の上、同年6月から復職する旨を通知し、同年同月、被告産業医と面談した。被告は、産業医の診断及び意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは時期尚早だとして、復職の申出を拒否した。原告Bは、同年7月下旬、被告に対し、再度復職を申し出、同年8月上旬,産業医と面談したが、被告は上記同様の理由で,復職の申出を再度拒否した。原告Bは、同年9月中旬、被告に対し、三度目の復職を申請し、産業医と面談したが、被告は、産業医の診断及び意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは不可能との結論に達し、休職期間満了日をもって自然退職扱いとした。
本件は、原告Aと原告Bが、休職期間満了の時点で復職可能と判断され自然退職扱いとされたことについて、原告らは復職可能であったことから本件退職扱いは被告就業規則の要件を満たさず無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、休職事由の消滅した日以降の賃金及び賞与の支払い等を求めた事案である。

2 神奈川SR経営労務センター事件判例のポイント

2.1 結論

本件において、復職にあたって提出されたそれぞれの主治医の診断書には信用性があるが、復職不可とした産業医の意見書及び証言は合理的根拠に基づかず信用性を欠くとして、原告らは本件退職扱いまでに従前の業務を通常の程度に行える健康状態に回復していたということができ、本件退職扱いは、無効であるとした。

2.2 理由

⑴ 傷病休業からの復帰の可否の判断基準

被告における業務外の傷病休職制度は、解雇を猶予して私傷病の回復を待ち、休職期間中に私傷病が回復しない場合には自動的に退職となる制度である。したがって、被告就業規則における「休職事由が消滅した」とは、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復した場合をいい、同項但書の「復職できない」とは、休職事由が消滅しなかった場合、つまり従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復しなかった場合と解される。

⑵ 原告らの退職扱い時点における健康状態

①本件退職扱い当時における原告らに症状や体調、②産業医面談における原告らの言動、③原告Aが本件退職扱い前に行われた別件訴訟の各期日に出廷できていたこと、原告Bが同訴訟において証人として出廷・証言できていたことからすれば、原告らが本件退職扱いの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたとするそれぞれの寿辞意の診断書は信用できる。
そして、原告らは、被告において窓口業務、電話対応等に従事しており、これらの業務内容から、原告らは、退職扱いの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。

⑶ 産業医の意見書の信用性

産業医の意見書及び証言内容は、原告らの精神的不調が寛解し、本件退職扱いの時点で従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復していたことを否定するものではない。そして、産業医が復職不可とした理由は、休職前の状況からすると、職場の他の職員に多大な影響が出る可能性が高いというものであったが、これは、原告らが従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したか否かとは無関係な事情である。
また、産業医は、原告らについて、冷静に内省ができているとは言いがたく、組織の一員としての倫理観や周囲との協調意識に乏しいことに加え、自己の症状が組織の対応及び周囲の職員の言動に原因があるとして、これらの者を誹謗するに終始したと判断している。しかし、被告や他の職員とのトラブルに関する別件訴訟の経過・結果からすればその見解に疑問がある上、産業医面談で原告らに上記評価の根拠となるような発言があった訳ではなく、産業医による評価は採用できない。
産業医は、本件退職扱いの時点において、原告Aについては、人格障害、適応障害であり、統合失調症の症状もみられると指摘し、原告Bについては、自閉症スペクトラム障害、うつ状態、不安症状、自律神経失調症状があり、依存性の性格傾向があると指摘する。しかし、産業医自身も、上記精神障害の指摘は診断ではなく判断であると述べており、医学的には病気でなかったと認めていること、精神科医が上記指摘について相当程度否定していること、時間的に限られた産業医面談で上記のような判断が可能かについても疑問が残ることからすれば、産業医による上記指摘は合理的根拠に基づいているとはいえない。
以上により、原告らが本件退職扱いの時点で復職不可の状態であったとする産業医の意見書及び証言は、到底信用できない

3 神奈川SR経営労務センター事件の関連情報

3.1判決情報

  • 裁判官:新谷 晋司、今野 藍
  • 掲載誌:労働経済判例速報2352号29頁

3.2 関連裁判例

  • 小樽双葉女子学園事件(札幌地裁小樽支判平成10年3月24日労判738号26頁)
  • 片山組事件(最高裁判平成10年4月9日 労判738号6頁)
  • 福田工業事件(大阪地判平成13年6月28日 労働経済判例速報1777号30頁)
  • 横浜市学校保健会事件(東京高判平成17年1月19日 労判890号58頁)
  • サン石油事件(札幌高判平成18年5月11日 労判938号68頁)

3.3 参考記事

病気で休んでいることを理由に解雇できる? | 労働問題.COM
 
休職の後、復職か、退職かの基準は何か? | 労働問題.COM
 

3 神奈川SR経営労務センター事件の判例の具体的内容

>>神奈川SR経営労務センター事件の判例の具体的内容 はこちら

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