神奈川SR経営労務センター事件

神奈川SR経営労務センター事件(横浜地方裁判所平成30年5月10日判決)

病気休職からの復帰について、産業医の意見の信用性が否定され、休職期間満了に伴う退職扱いが無効とされた事例

1 事案の概要

被告は、厚生労働大臣認可の労働保険事務組合である。原告Aは,平成20年9月付け採用,原告Bは平成13年3月付け採用であり,いずれも被告との間で、職種の限定及び期間の定めのない雇用契約を結び、勤務をしていた。
原告Aは、精神的な体調不良から、平成26年6月から欠勤し,被告は、同年9月,原告Aに平成27年6月まで休職を命じた。その後,原告Aは復職可能とする主治医の診断書を提出の上、同年6月、被告産業医と面談した。しかし,被告は、産業医の診断及び意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは不可能との結論に達し、休職期間満了日の同月7日をもって自然退職扱いとした旨、同月18日付けで原告Aに通知した。
原告Bは、精神的不調が悪化し、平成26年6月から欠勤し,被告は、同年9月、原告Bに平成27年9月まで休職を命じた。原告Bは、被告に対し、復職可能とする主治医の診断書を提出の上、同年6月から復職する旨を通知し、同年同月、被告産業医と面談した。被告は、産業医の診断及び意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは時期尚早だとして、復職の申出を拒否した。原告Bは、同年7月下旬、被告に対し、再度復職を申し出、同年8月上旬,産業医と面談したが、被告は上記同様の理由で,復職の申出を再度拒否した。原告Bは、同年9月中旬、被告に対し、三度目の復職を申請し、産業医と面談したが、被告は、産業医の診断及び意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは不可能との結論に達し、休職期間満了日をもって自然退職扱いとした。
本件は、原告Aと原告Bが、休職期間満了の時点で復職可能と判断され自然退職扱いとされたことについて、原告らは復職可能であったことから本件退職扱いは被告就業規則の要件を満たさず無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、休職事由の消滅した日以降の賃金及び賞与の支払い等を求めた事案である。

2 神奈川SR経営労務センター事件判例のポイント

2.1 結論

本件において、復職にあたって提出されたそれぞれの主治医の診断書には信用性があるが、復職不可とした産業医の意見書及び証言は合理的根拠に基づかず信用性を欠くとして、原告らは本件退職扱いまでに従前の業務を通常の程度に行える健康状態に回復していたということができ、本件退職扱いは、無効であるとした。

2.2 理由

⑴ 傷病休業からの復帰の可否の判断基準

被告における業務外の傷病休職制度は、解雇を猶予して私傷病の回復を待ち、休職期間中に私傷病が回復しない場合には自動的に退職となる制度である。したがって、被告就業規則における「休職事由が消滅した」とは、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復した場合をいい、同項但書の「復職できない」とは、休職事由が消滅しなかった場合、つまり従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復しなかった場合と解される。

⑵ 原告らの退職扱い時点における健康状態

①本件退職扱い当時における原告らに症状や体調、②産業医面談における原告らの言動、③原告Aが本件退職扱い前に行われた別件訴訟の各期日に出廷できていたこと、原告Bが同訴訟において証人として出廷・証言できていたことからすれば、原告らが本件退職扱いの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたとするそれぞれの寿辞意の診断書は信用できる。
そして、原告らは、被告において窓口業務、電話対応等に従事しており、これらの業務内容から、原告らは、退職扱いの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。

⑶ 産業医の意見書の信用性

産業医の意見書及び証言内容は、原告らの精神的不調が寛解し、本件退職扱いの時点で従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復していたことを否定するものではない。そして、産業医が復職不可とした理由は、休職前の状況からすると、職場の他の職員に多大な影響が出る可能性が高いというものであったが、これは、原告らが従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したか否かとは無関係な事情である。
また、産業医は、原告らについて、冷静に内省ができているとは言いがたく、組織の一員としての倫理観や周囲との協調意識に乏しいことに加え、自己の症状が組織の対応及び周囲の職員の言動に原因があるとして、これらの者を誹謗するに終始したと判断している。しかし、被告や他の職員とのトラブルに関する別件訴訟の経過・結果からすればその見解に疑問がある上、産業医面談で原告らに上記評価の根拠となるような発言があった訳ではなく、産業医による評価は採用できない。
産業医は、本件退職扱いの時点において、原告Aについては、人格障害、適応障害であり、統合失調症の症状もみられると指摘し、原告Bについては、自閉症スペクトラム障害、うつ状態、不安症状、自律神経失調症状があり、依存性の性格傾向があると指摘する。しかし、産業医自身も、上記精神障害の指摘は診断ではなく判断であると述べており、医学的には病気でなかったと認めていること、精神科医が上記指摘について相当程度否定していること、時間的に限られた産業医面談で上記のような判断が可能かについても疑問が残ることからすれば、産業医による上記指摘は合理的根拠に基づいているとはいえない。
以上により、原告らが本件退職扱いの時点で復職不可の状態であったとする産業医の意見書及び証言は、到底信用できない

3 神奈川SR経営労務センター事件の関連情報

3.1判決情報

  • 裁判官:新谷 晋司、今野 藍
  • 掲載誌:労働経済判例速報2352号29頁

3.2 関連裁判例

  • 小樽双葉女子学園事件(札幌地裁小樽支判平成10年3月24日労判738号26頁)
  • 片山組事件(最高裁判平成10年4月9日 労判738号6頁)
  • 福田工業事件(大阪地判平成13年6月28日 労働経済判例速報1777号30頁)
  • 横浜市学校保健会事件(東京高判平成17年1月19日 労判890号58頁)
  • サン石油事件(札幌高判平成18年5月11日 労判938号68頁)

3.3 参考記事

病気で休んでいることを理由に解雇できる? | 労働問題.COM

休職の後、復職か、退職かの基準は何か? | 労働問題.COM

神奈川SR経営労務センター事件の判例の具体的内容

主文

1 本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する給与及び賞与並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2 原告Aと被告との間において、原告Aが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被告は、原告Aに対し、48万7200円及びこれに対する平成27年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Aに対し、平成27年10月から本判決確定の日まで毎月10日限り20万7000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告Bと被告との間において、原告Bが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
6 被告は、原告Bに対し、19万6800円及びこれに対する平成27年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は、原告Bに対し、平成27年12月から本判決確定の日まで毎月10日限り22万2000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は、被告の負担とする。
10 この判決は、3項、4項、6項及び7項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 原告Aの請求

⑴ 主文2項と同旨
⑵ 被告は、原告Aに対し、53万5500円及びこれに対する平成27年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑶ 被告は、原告Aに対し、平成27年10月から毎月10日限り20万7000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑷ 被告は、原告Aに対し、平成27年から毎年12月10日限り41万4000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を、平成28年から毎年7月10日限り41万4000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2 原告Bの請求

⑴ 主文5項と同旨
⑵ 被告は、原告Bに対し、14万4300円及びこれに対する平成27年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑶ 被告は、原告Bに対し、平成27年11月から毎月10日限り22万2000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑷ 被告は、原告Bに対し、平成27年から毎年12月10日限り44万4000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を、平成28年から毎年7月10日限り44万4000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第2 事案の概要

本件は、労働保険事務組合である被告の従業員であった原告らが、原告Aはうつ状態を、原告Bは適応障害を発症してそれぞれ休職したところ、休職期間満了日の時点で復職不可と判断され自然退職の扱い(以下「本件各退職扱い」という。)とされたことについて、主位的には、原告らは復職可能であったことから本件各退職扱いは被告の就業規則の要件を満たさず無効であるとして、予備的には、仮に原告らが復職可能でなかったとしても、原告らと被告との間の従前の経緯に照らし本件各退職扱いは信義則に反し無効であるとして、被告に対し、原告Aは、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②休職事由の消滅により復職した日の翌日である平成27年6月8日から同年8月末までの未払給与として、53万5500円(給与3か月分の62万1000円から既払金8万5500円を控除した額)及びこれに対する最終の支払期日の翌日である同年9月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、③同月以降の給与として、同年10月から毎月10日限り20万7000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに④同年12月以降に支払期日が到来する賞与として、同年から毎年12月10日限り及び平成28年から毎年7月10日限り各41万4000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求め、原告Bは、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②休職事由の消滅により復職した日の翌日である平成27年9月24日から同月末までの未払給与として、14万4300円(給与1か月分の22万2000円から既払金7万7700円を控除した額)及びこれに対する支払期日の翌日である同年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、③同月以降の給与として、同年11月から毎月10日限り22万2000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに④同年12月以降に支払期日が到来する賞与として、同年から毎年12月10日限り及び平成28年から毎年7月10日限り各44万4000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

1 争いのない事実等

⑴ 当事者

ア 原告Aは、平成20年9月1日、被告との間で、職種の限定なく、期間の定めのない雇用契約を締結し、労働保険事務組合関係業務、庶務関係業務等に従事していた。具体的には、窓口業務、電話対応、書類整理等を行っていた。

イ 原告Bは、平成13年3月27日、被告との間で、職種の限定なく、期間の定めのない雇用契約を締結し、労働保険事務組合関係業務、ホームページ管理業務等に従事していた。具体的には、窓口業務、電話対応等を行っていた。

ウ 被告は、厚生労働大臣認可の労働保険料徴収法に基づく労働保険事務組合であり、権利能力なき社団である。被告は、社会保険労務士会員と会員加入された中小企業主及び一人親方で構成されている。被告は、社会保険労務士会員の中から選出された理事によって運営されており、理事会は、会長1名、副会長4名、理事14名、監事3名によって運営されている。

⑵ 原告らの労働契約の内容

ア 給与 原告Aは基本給20万7000円 原告Bは基本給22万2000円
イ 給与支払日 毎月末日締め、翌月10日払い
ウ 賞与支払日 毎年7月10日及び12月10日の2回(なお、賞与の具体的権利性については争いがある。)

⑶ 就業規則の定め

被告の就業規則には、次の定めがある(書証略)。
第9条(休職)
1 職員が事項に定める休職事由に該当するときは休職を命ずる。
2 休職事由及び休職期間は次のとおりとする。
⑵ 業務外の傷病により、3か月以上欠勤することとなったとき
(中略)
・勤続年数10年未満の者 9か月
・勤続年数10年以上の者 12か月
(⑵ないし⑷、3ないし5は、省略)
6 休職期間中の賃金の取扱については賃金規程の定めるところによる。
第10条(復職)
1 休職を命じられた職員の休職事由が消滅したときは復職させるものとする。ただし、休職期間が満了しても復職できないときは、退職とする。
2 休職事由が消滅したときは、休職前の職務に復職させることとする。ただし、やむを得ない事情のある場合には異なる職務に配置することがある

⑷ 賃金規程

被告の賃金規程には、以下の定めがある(書証略)。
ア 欠勤、遅刻、早退及び外出等によって就業しない日及び時間については、その休業した時間に対応する賃金は支給しない(3条2項)。
イ 賃金締切り期間の中途で就職又は退職した者、もしくは休職期間に係る者については、その月の所定労働日数を基礎として日割で計算し支給する(3条3項)。
ウ 賞与は、原則として毎年7月12月の2回、支給日に在籍する職員に対して支給する(13条1項)。
エ 社会経済状況、その他経営環境の大幅な変動により、上記ウの限りでないこともある(13条4項)。
オ 賞与は、当該算定期間における職員の貢献度、勤務成績等を考慮して決定する(14条)。

⑸ 前訴の内容と経緯等

ア 第1訴訟
原告Aは、平成23年7月、職場におけるパワハラを理由として、被告、当時の代表者であるD会長(以下「D会長」という。)及びE主任(以下「E」という。)の3者を被告として、横浜地方裁判所に損害賠償請求訴訟(以下「第1訴訟」という。)を提起した(書証略)。
第1訴訟において、平成24年11月26日、下記の条項(以下「本件和解条項」という。)を含む和解が成立した(書証略)。
第1項 被告、D会長及びEが、原告Aに対し、3者の言動が端緒となって本件が発生したことを重く受け止め、今後の労務管理において職場環境に配慮する等して再発防止に努
めることを約束する。
第2項 被告が本件和解が成立したことを、前項の文言を記載した上で被告の全従業員に回覧する等して周知させる。
第3項 被告、D会長及びEが、原告Aに対し、連帯して、本件解決金70万円を支払う。

イ 第2訴訟
原告Aは、平成25年9月、本件和解条項が履行されておらず職場で原告Aに対する嫌がらせが続いていること、及び、被告が第1訴訟の和解成立の理由を被告の会員らに説明する総会(以下「本件総会」という。)において、原告Aを誹謗中傷して名誉を毀損したことを理由に、被告、D会長及び4人の副会長の6者を被告として、横浜地方裁判所に損害賠償請求訴訟(以下「第2訴訟」という。)を提起した(書証略)。同訴訟において、原告Bは、証人として、被告が本件和解条項に違反している状況を証言した(書証略)。
横浜地方裁判所は、平成27年1月、第2訴訟について請求棄却の判決をした(書証略)。これに対し、控訴審の東京高等裁判所は、同年5月11日の第1回口頭弁論期日において、次回の原告A申請のFの証人尋問の採用を決め、同年6月29日に同人の尋問を行った上で(書証略)、同年8月、原判決を取り消し、本件和解条項の再発防止義務及び周知義務の不履行と名誉毀損の成立をそれぞれ認め、上記6者に対し、連帯して330万円の支払を命じる判決を言い渡した(書証略)。
上記6者は、最高裁判所に対し、上告受理を申し立てたが、最高裁判所は、平成28年2月17日付けで上告受理申立てを受理せず、東京高等裁判所の判決が確定した(書証略)。

⑹ 原告Aの休職及び休職期間満了による退職扱いに至る経緯

ア Eは、第1訴訟和解成立前に産休、育児休業を取得していたが、平成26年5月に復帰することとなった。
イ 原告Aは、精神的な体調不良が悪化し、同月1日から仕事を休んだ。原告Aは、同月15日付けで、X1診療クリニックのG医師(以下「G医師」という。)により、うつ状態(以下「本件うつ状態」という。)と診断された(書証略)。
ウ 原告Aは、同月1日から同年6月5日まで有給を取得し、同月6日からは欠勤していたところ、被告は、同年9月8日、同日から平成27年6月7日まで、原告Aに休職を命じた(以下、この休職命令を「本件休職命令A)」という。書証略)。
エ 被告は、平成27年5月8日付けで、原告Aに対し、休職期間が同年6月7日で満了することから、復職を希望するときは主治医の許可を証明する書類及び復職申請をすること、主治医から情報及び意見の提供を求めることがあること、産業医の診断を受けることがあること等の復職手順について通知をした(書証略)。
オ 原告Aは、同年5月21日付けで、被告に対し、同年6月1日から復職する旨を通知するとともに、G医師作成の同日付けの診断書(書証略)を提出した(書証略)。同診断書には、うつ状態と診断され通院加療中であるが、病状改善により復職は可能な状態と判断すると記載されていた。
カ 原告Aは、同月8日、被告産業医であるH医師(以下「H医師」という。)と面談(以下「本件面談A」という。)をした(書証略)。
キ G医師は、同月12日付で、H医師に対し、職場復帰への意欲はあるものの、強い不安があり、職場との環境調整が必要であるとの情報提供(以下「本件情報提供A」という。)をした(書証略)。
ク 被告は、同月18日付けで、原告Aに対し、産業医による診断及び意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは不可能との結論に達し、休職期間満了日において復職できないことから、就業規則10条に基づき、休職期間満了日である同月7日をもって自然退職扱い(以下「本件退職扱いA」という。)とした旨を通知した(書証略)。
その際、被告は、原告Aに対し、同月8日から同月18日までの給与として、8万5500円を支払った(A甲17)。

⑺ 原告Bの休職及び休職期間満了による退職扱いに至る経緯

ア 原告Bは、平成23年3月、X2において、適応障害(以下「本件適応障害」という。)と診断された(書証略)。その後、原告Bは、精神的不調が悪化し、平成26年5月1日から仕事を休んだ。
イ 原告Bは、同月1日から同年6月23日午前まで有給を取得し、同月24日以降は欠勤していたところ、被告は、同年9月24日、同日から平成27年9月23日まで原告Bに休職を命じた(以下、この休職命令を「本件休職命令B」という。書証略)。
ウ 原告Bは、同年5月25日付けで、被告に対し、同年6月1日から復職する旨を通知するとともに、I医師(以下「I医師」という。)作成の同年5月25日付けの診断書(書証略)を提出した(書証略)。同診断書には、原告Bは適応障害で通院加療中であるが、症状改善傾向のため、同年6月1日より就労可能と考えると記載されていた。
エ 原告Bは、同月8日、H医師と面談した(書証略)。
オ I医師は、同月15日付けで、H医師に対し、仕事への意欲が徐々に出現し、身体的に症状も改善し、規則正しい生活を送れていることから復職可能だが、人間関係を円滑にしていくために、職場内での環境調整が必要であるとの情報提供をした(書証略)。
カ 被告は、同月24日付けで、原告Bに対し、産業医による診断及び意見を参考に検討したが、従前の職務に復帰することは時期尚早であるとして、復職の申出を拒否した(書証略)。原告Bは、同月30日付けで、被告に対し、復職を拒否する具体的な理由の説明と、産業医面談報告書の開示を求めた(書証略)。被告は、同年7月7日付けで、原告Bに対し、同年6月23日の正副会長会議で主治医の診断書及び診療情報提供書、産業医面談における所見、産業医の意見を基に総合的に検討した結果、従前の職務に復帰するまで回復して
いるとの評価はできないと判断したものであり、産業医面談報告書は開示できないと回答した(書証略)。
キ 原告Bは、同年7月27日付けで、被告に対し、再度、復職を申請し、I医師作成の同日付けの診断書(書証略)を提出した(書証略)。同診断書には、原告Bは適応障害で通院中であるが、症状改善傾向のため就労可能と考えると記載されていた。
ク 原告Bは、同年8月4日、H医師と面談した(書証略)。
ケ I医師は、同月10日付けで、H医師に対し、再度、前回と同じ内容の情報提供をした(書証略)。
コ 被告は、同月21日付けで、原告Bに対し、産業医による診断及び意見を参考に検討したが、従前の職務に復帰することは時期尚早であるとして、復職の申出を再度拒否した(書証略)。
サ 原告Bは、同年9月4日付けで、被告に対し、上記二度の復職拒否に正当な理由はなく、職務に復職させるよう求めた(書証略)。しかし、被告は、同月8日、復職拒否は正当であり、改めて原告Bから復職申請があれば検討すると回答した(書証略)。
シ 原告Bは、同月14日付けで、被告に対し、三度目の復職申請をし、I医師作成の同日付けの診断書(書証略)を提出した(書証略)。同診断書には、原告Bは適応障害で通院中であるが、症状改善傾向のため就労可能と考えると記載されていた。
ス 原告Bは、同月28日、H医師と面談した(書証略。以下この面談と上記工及びクの面談とをあわせて「本件面談B」という。)。
セ I医師は、同日付けで、H医師に対し、再度、前回と同じ内容の情報提供をした(書証略。以下、この情報提供と上記オ及びケの情報提供をあわせて「本件情報提供B」という。)。
ソ 被告は、同年10月2日付けで、原告Bに対し、産業医による診断及び意見を参考に検討したが、従前の職務に復帰することは不可能との結論に達し、休職期間満了日においても復職できないことから、就業規則10条に基づき、休職期間満了日である同年9月23日をもって自然退職扱い(以下「本件退職扱いB」という。)とした旨を通知した(書証略)。
その際、被告は、原告Bに対し、同月24日から同年10月2日までの給与として、7万77000円を支払った(書証略)。

2 争点及び当事者の主張

本件の争点は、⑴本件各退職扱いの有効性、⑵未払給与の額及び⑶賞与請求の当否である。

(当事者の主張は省略)

第3 当裁判所の判断

1 将来請求の適法性について

原告らは、本判決確定後に支払期日が到来する給与及び賞与も請求しているが、被告が本判決確定後も賃金請求権の存在を争うことが予想されるなどの特段の事情は認められず、本判決確定後に支払期日が到来する給与及び賞与については、「あらかじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に当たるということはできないから、本件訴えの金銭請求のうち本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する部分は、不適法である。

2 認定事実

⑴ 原告Aについて

ア 本件休職命令Aの際の原告Aの症状
原告Aは、平成26年5月1日のEの職場復帰を控え、Eから危害を加えられるのではないかと不安になり、気分の落ち込み、眠れない、食欲不振、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態になって、同日以降、職場に出勤できず、同月15日付けで、G医師により、うつ状態と診断された(証拠略)。原告は、G医師から、考えすぎないように、できることからゆっくり行うようにとの指示を受け、軽めの睡眠剤を処方されていた。

イ 休職期間中及び本件退職扱いA当時の原告Aの状態
原告Aは、休職期間中、復職に向けて平成26年秋頃から、ウォーキングを始め、一日おきに4キロ程度歩くようになった。
原告Aは、徐々に、睡眠がとれるようになり、食欲も出てきて、気持ちも明るくなり、本件退職扱いA当時、従前処方されていた投薬もなくなっていた。

ウ 本件面談A時の状況
面談時間は、約40分であった。
原告Aは、H医師に対し、ウォーキングにより、気持ちが明るくなり、眠りも深くなり、体調がよいこと、復職の意欲があることを話した。また、H医師から、再発予防のために、どうしたいかとの質問に対しては、原告Aは、互いの人格権を尊重して仕事をしたいと述べ、和解の経緯について言及したものの、途中で、これ以上言うと批判になるとして発言を控えようとすると、H医師が構わないと促したため、原告Aは、本件和解の経緯について話を続けた。原告Aの面談の様子に、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかった。

⑵ 原告Bについて

ア 本件休職命令Bの際の原告Bの症状
原告Bは、本件休職命令Bの際、不安、眠れない、食事が摂れない等の症状があった(証拠略)。原告Bは、I医師から、昼夜逆転にならないように、適度に運動するようにとの指示を受け、投薬を受けていた。

イ 休職期間中及び本件退職扱いB当時の原告Bの状態
原告Bは、休職期間中、起床時聞及び就寝時間は被告に勤務していた時と同じ時間帯を心掛け、公園をウォーキングしたり、読書したりするなど規則正しい生活を送り、ファイナンシャルプランナー試験3級の資格も取得した。原告Bは、精神的に安定するようになり、本件退職扱いB当時には、投薬もなくなっていて、2ないし4週間に一度通院して、I医師と話す程度であった。

ウ 本件面談B時の状況
本件面談Bは、3回で、各回約30分から約40分であった。
原告Bは、H医師に対し、体調が良好で、規則正しい生活を心がけ、ウォーキングをしていること、復職の意欲が強いこと、再発予防のために、職員と協調し、お互いに人格否定しないこと等を話した。H医師が、過去に人格否定された経験があるのか等と質問したため、原告Bは、被告との紛争の経緯を話した。原告Bの面談の様子に、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかった。

⑶ 第2訴訟

原告Aは、平成26年10月17日に横浜地方裁判所で行われた原告A本人尋問(書証略)、平成27年1月30日に同裁判所で行われた第一審判決言渡し期日、同年5月11日の東京高等裁判所の控訴審口頭弁論期日に出廷した。
原告Bは、平成26年10月17日に横浜地方裁判所で行われた第2訴訟の証拠調べ期日において、証人として証言した。

3 争点に対する判断

⑴ 争点⑴(本件各退職扱いの有効性)について

ア 争点⑴ア(原告らが本件各退職扱いの時点で復職可能であったか否か。)について
(ア) 判断基準
被告における業務外の傷病による休職の制度は、業務外の傷病による欠勤が長期間に及んだ場合に、休職を命じ、休職期間中の解雇を猶予して、休職期間内に傷病が回復して就労可能となれば、復職となり、他方で、回復しないまま休職期間が経過すれば、自動的に退職となる制度である(第2の1⑶)。したがって、就業規則第10条1項本文の「休職事由が消滅した」とは、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復した場合をいい、同項ただし書の「復職できない」とは、休職事由が消滅しなかった場合、すなわち従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復しなかった場合をいうと解される。
そこで、原告らについて、それぞれの本件各退職扱いの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたといえるか否かについて検討する。

(イ) 原告Aについて
a 原告Aが本件退職扱いAの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたことの証拠としては、うつ状態の病状改善により復職可能とのG医師の診断書(平成27年5月21日付け)があるところ(書証略)、①原告Aは、本件休職命令Aの際には、不安、気分の落ち込み、眠れない、食欲不振、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態で、投薬も受けていたが(認定事実⑴ア)、本件退職扱いAの当時は、睡眠がとれるようになり、食欲も出て、投薬も終わっており(認定事実⑴イ)、気分の落ち込み、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態も認められなかったこと、②本件面談Aにおいても、原告Aは、体調がよく、復職の意欲があることを話し、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかったこと(認定事実⑴ウ)、③原告Aは、平成26年10月17日、平成27年1月30日、同年5月11日に行われた第2訴訟の各期日に、何ら問題なく出廷できていること(認定事実⑶)からすれば、上記診断書は、信用できる。
そして、原告Aは労働保険事務組合関係業務、庶務関係業務等、具体的には、窓口業務、電話対応、書類整理に従事していたところ(第2の1⑴ア)、これらの業務の内容からすれば、原告Aは、同年6月7日の本件退職扱いAの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。
b これに対し、被告は、本件情報提供Aに係る情報提供書には、強い不安があると記載しながら、復職を可能とすることは不自然で、G医師の診断は不合理であると主張する。確かに、本件情報提供Aでは、職場復帰への意欲はあるものの、強い不安がある、職場との環境調整が必要との意見が述べられているものの(第2の1⑹キ)、G医師は、原告Aの本件うつ状態発症の契機が「職場の某女性からのパワハラ被害」にあり、その「職場環境への悩みが解決されないまま」現在に至っていると認識していること(書証略)からすれば、就業上の配慮として、職場との環境調整が必要と指摘することも当然であって、上記事実があるからといって、G医師の診断書の内容が不自然、不合理であるとはいえない。なお、本件退職扱いAの当時は、原告Aが、被告は本件和解条項で定められた再発防止義務、周知義務を履行せず、原告Aの名誉を毀損する行為に及んだ旨主張して提起した第2訴訟が、控訴審で審理が係属している状態であったのであるから(第2の1⑸イ)、原告Aが、職場復帰に強い不安を抱いていることは、むしろ当然であって、この点も、上記認定を何ら左右するものではない。

(ウ) 原告Bについて
a 原告Bが本件退職扱いBの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたことの証拠としては、適応障害の症状改善傾向により就労可能とのI医師の診断書(書証略)、意見書(書証略)及び証言(人証略I)があるところ、①原告Bは、本件休職命令Bの際には、不安、眠れない、食欲不振の状態で、投薬も受けていたが(認定事実⑵ア)、本件退職扱いBの当時は、体調がよくなり、投薬も終わっていたこと(認定事実⑵イ)、②本件面談Bにおいても、原告Bは、体調がよく、復職の意欲があること等を話し、原告Bの様子は、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかったこと(認定事実⑵ウ)、③原告Bは、平成26年10月17日に行われた第2訴訟の証人尋問で、何ら問題なく証言できていること(認定事実⑶)からすれば、上記I医師の診断書、意見書及び証言は、信用できる。
そして、原告Bは、労働保険事務組合関係業務、ホームページ管理業務等、具体的には、窓口業務、電話対応等に従事していたところ(第2の1⑴イ)、これらの業務の内容からすれば、原告Bは、平成27年9月23日の本件退職扱いBの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。
b これに対し、被告は、I医師は、平成27年4月27日時点では、就労不能と診断していたのに、その28日後には就労可能と判断していることから、同医師の診断は不自然であると主張するが、上記両診断の間には約1か月の期間があり、この間に症状が変化することもありうるから、上記事実から、I医師の診断書、意見書及び証言が信用できるとの認定が左右されるものではない。
また、I医師も、本件情報提供Bにおいて、就業上の配慮として、職場内での環境調整が必要との意見を述べているが、I医師は、本件適応障害の発症の契機が原告Bの職場環境にあると認識しており、その職場環境の悪化からくるストレスにより休職に至ったと認識していると認められること(書証略)からすれば、上記意見を述べることは何ら不自然なことではなく、この事実は、原告Bが本件退職扱いBの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたとの上記認定を左右しない。

(エ) H医師の意見書の信用性について
a 被告は、原告らはいずれも本件各退職扱いの時点で復職不可の状態であったと主張し、これに沿うH医師の意見書及びH医師の証言がある。
b しかしながら、H医師自身も、意見書において、原告Aについて、「精神科領域の対応や治療を必要とするような症状ではない」と述べるとともに、原告らについて、面談時、医学的には病気ではなく、投薬等の医療行為も必要ではなかったと証言していることからすれば、原告らの休職事由となった本件うつ状態及び本件適応障害が寛解し、本件各退職扱いの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたことを否定しているものではないということができる。
そして、H医師が復職不可とする理由は、結局のところ、休職前の状況からすると、職場の他の職員に多大な影響が出る可能性が高いというものであるが(人証略)、これは、原告らの休職事由となった本件うつ状態及び本件適応障害が寛解し、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したか否かとは無関係な事情ということができる。
c また、H医師は、原告らについて、①自分の行動分析も含めて客観的な振り返りができず、冷静に内省できているとは言い難い、②再発予防対策として必須の、組織の一員としての倫理観、周囲との融和意識に乏しい、③自分の症状発現には、組織の対応及び周囲の職員の言動が一義的原因であるとして一貫して組織及び職員を誹謗するに終始したと判断している。
しかしながら、上記判断は、一定の基準ないし価値判断、すなわち原告ら自身が、被告や他の職員とのトラブルの原因であるとの見解を前提としたものと解されるところ、第1訴訟が本件和解条項を含む和解で終了していること(第2の1⑸ア)、第2訴訟も原告Aの主張が認められ、請求認容判決が宣告され、これが確定していること(第2の1⑸イ)からすれば、その見解には疑問がある上、本件面談A及び本件面談Bにおいて、原告らにH医師の上記評価の根拠となり得るような発言があったとの事情も窺われないことからすれば、H医師の上記評価は、採用できない。
d  H医師は、本件各退職扱いの時点において、原告Aについては、人格障害、適応障害であり、統合失調症の症状も診られると指摘し、原告Bについては、自閉症スペクトラム障害、うつ状態、不安症状、自律神経失調症状があり、依存性の性格傾向があると指摘する(書証略)。
しかしながら、H医師自身も、上記精神障害の指摘は診断ではなく判断であると述べており(証拠略)、原告らは医学的には病気ではなかったと認めていること(上記イ)、さらに、精神科医であるJ医師が、原告Aについて統合失調症、人格障害であることを否定し(証拠略)、同じく精神科医であるI医師も、原告Bについて自閉症スペクトラム障害、人格障害であることを否定していること、そもそも本件面談Aは1回約40分、本件面談Bは3回で、各回約30分から約40分にとどまり(認定事実⑴ウ、⑵ウ)、このような限られた時間での面談により、上記のような判断が可能であるかについても疑問が残ることからすれば、H医師の前記各指摘は、合理的根拠に基づくものであるとは認められず、採用できない。
e 以上によると、原告らが本件各退職扱いの時点で復職不可の状態であったとするH医師の意見書及び証言は、到底信用できない。

(オ) 以上からすれば、原告らは、本件各退職扱いの時点までにいずれも従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたということができる。したがって、本件各退職扱いは、就業規則10条1項に違反し、いずれも無効である。

イ そうすると、争点⑴イについて判断するまでもなく、本件各退職扱いは、いずれも無効である。

⑵ 争点⑵(未払給与の額)について

ア ⑴で判示のとおり、原告らはいずれも本件各退職扱いの時点までに休職事由が消滅していることから、その翌日に第2の1⑶の就業規則の定めに基づき復職をしたということができる。
そして、原告らが労働契約上の債務を履行することができないのは、被告が、原告らが本件各退職扱いにより退職した旨を主張して、原告らの役務提供の受領を拒絶していたことによるものであり、被告の責めに帰すべき事由によるものであるということができるから、原告らは、復職以降については給与請求権を有すると解される。

イ しかるところ、第2の1⑷イのとおり賃金規程において休職期間が賃金締切りの期間の中途にかかる者については、賃金は日割計算で支給されることとされているから、原告Aの平成29年6月分(同年7月10日支払分)の給与は月額20万7000円の全額ではなく、復職の日である同年6月8日から30日までの23日分である15万8700円ということになり(なお、賃金規程では所定労働日数を基礎として日割計算をすることとされているが、所定労働日数が明らかでないことから暦日を基礎として日割計算をすることとし、1円未満を切り捨てとした。)、これから第2の1⑹の既払金8万5500円を控除した残額は7万3200円となる。
また、原告Bの同年9月分(同年10月10日支払分)の給与は月額22万2000円の全額ではなく、復職の日である同月24日から同月30日までの7日分である5万1800円ということになり(やはり所定労働日数が明らかでないことから暦日を基礎として日割計算をすることとし、1円未満を切り捨てとした。)、第2の1⑺ソの既払金7万7700円のうち5万1799円をこれに充当すると残額は存しないことになり、既払金7万7700円から5万1800円を控除した残額2万5200円を同年10月分の給与22万2000円に充当すると、その残額は19万6800円ということになる。

ウ 以上によると、原告Aの給与請求は、平成27年6月分ないし同年8月分の給与として、イで判示の同年6月分の残額7万3200円と同年7月分及び8月分の41万4000円との計48万7200円並びにこれに対する同年9月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、同月分以降の給与として、同年10月から本判決確定の日まで毎月10日限り20万7000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由がある。
また、原告Bの給与請求は、同年10月分の給与としてイで判示の残額19万6800円及びこれに対する同年11月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、同月分以降の給与として、同年12月から本判決確定の日まで毎月10日限り22万2000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由がある。

⑶ 争点⑶(賞与請求の当否)について

第2の1⑷オのとおり、被告の賃金規程において、賞与は算定期間における職員の貢献度、勤務成績等を考慮して決定されると規定されていることからすると、被告における賞与は、被告が具体的金額の決定をして初めて労働者に賞与の具体的請求権が発生するものと解される。
この点について、原告らは、被告は従業員に対し毎年2回それぞれ基本給の2か月分以上の賞与を支払っていたものであり、原告Aの月給が20万7000円、原告Bの月給が22万2000円と高額とはいえないことからすれば、原告らと被告との間では、毎年2回、基本給の2か月分以上の額の賞与が支払われることが労働契約の内容として黙示的に合意されていた旨の主張をする。被告が従業員に対し毎年2回それぞれ基本給の2か月分以上の賞与を支払っていたことは当事者間に争いがないが、そのような事情を前提としても、これをもって被告から原告らに対し賞与として勤務成績等にかかわらず基本給の2か月分以上の金額を支払う旨の黙示的な合意がされていたと認めることはできず、他に当該合意の成立を基礎づける事情も窺われないから、原告らの当該主張は、採用できない。
したがって、その余の点を検討するまでもなく、原告らの賞与請求には理由がない。

第4 結論

以上によると、本件訴えのうち本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する給与及び賞与に係る部分は、不適法であるから、これを却下し、原告らの地位確認請求は、いずれも理由があるから、これを認容し、その余の給与請求は、第3の3⑵ウで判示の限度で理由があるから、これをいずれも認容し、その余は理由がないから、これをいずれも棄却し、その余の賞与請求は、理由がないから、これをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法61条、64条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

 

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