ニチネン事件(東京地方裁判所平成30年2月28日判決)

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ニチネン事件

能力不足を理由に労働者の同意を得て賃金を減額したと認定されたが,その同意は,労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえないとして賃金減額が無効とされた事例

1 事案の概要

原告は、各種燃料、各種コンロ、ボンベの製造、販売等を行う株式会社である被告との間で雇用契約を締結し、平成26年10月14日から就労した。被告は、原告を即戦力として中途採用し、営業職従業員の中で最高額の給与条件で原告を雇用したが、平成27年1月末時点で、入社からの原告の営業成績は6万5000円ほどであり、被告が再三にわたり面談等で原告に指導を行ったが、営業活動の状況等が改善されていなかった。そこで、被告は、平成27年2月2日及び2月3日に原告と面談し、原告の給与を他の営業職従業員に合わせる形で減額すると説明し、原告の同意を得て給与を減額した。この減額により、原告の給与は入社時の半額となった。その後、同年7月20日、原告は被告を退職した。
本件は、賃金減額が退職か給与半減かの二者択一を迫られてやむを得ず同意したもので、自由な意思に基づく同意ではなく、賃金減額は無効であると主張し、原告が被告に対し、未払賃金の支払いを求めるとともに、被告の一連の行為は退職強要であり不法行為であると主張し、損害賠償を求めた事案である。

2 ニチネン事件判例のポイント

2.1 結論

本件の賃金減額は、原告の賃金を額50万円から月額25万円に半減させるもので、原告が受ける不利益は著しく大きい。原告が本件賃金減額を受け入れるまでの被告と原告とのやりとりは、被告が原告をすぐに解雇できるとの不正確な情報を伝え、十分な時間を与えずに退職か賃金減額かの二者択一を迫ったことからすれば、本件賃金減額について、原告の自由な意思に基づく合意があったとは認められず、本件賃金減額は無効として、未払賃金の請求を認めた。
一方で、被告は原告に対し、今後の被告における就労について期待を伝えていたことからすると、本件賃金減額は、原告を実質的に解雇する意図もしくは原告に退職を強要する意図をもって行われたと認めることはできず、退職強要があったとも認められないとして不法行為に基づく損害賠償請求は斥けた

2.2 理由

1 本件賃金減額の有効性

本件賃金減額は、原告が人脈等により新たな顧客を獲得することなどを期待して、被告の営業職員の中でも当時の最高額の給与条件で原告を中途採用したにもかかわらず、営業成績が芳しくなかったため、これまでに中途採用した営業職員の賃金額を踏まえ、同従業員らの賃金水準に合わせる形で行われたものであり、被告は、本件賃金減額に際し、原告にその理由を説明し、本件賃金減額を受け入れる旨の原告の行為があった
しかし、本件賃金減額は、年俸制の原告の賃金を期間中に月額50万円から月額25万円に半減するもので、具体的な減額期間が予め決められていたものでもなく、これにより原告にもたらされる不利益の程度は著しい。
さらに、本件においては、原告の自由な意思に基づく同意を得る以外に本件賃金減額を行うことができる法的根拠はなかったにもかかわらず、被告は、原告に対し、解雇予告手当さえ支払えば原告をすぐに解雇できるとの不正確な情報を伝えた上で、退職か本件賃金減額のいずれを選択するのかを同日中に若しくは遅くとも翌日までに決断するように迫った。原告は、十分な熟慮期間も与えられない中で、B社長からも原告にとって厳しい内容のメールが送信されたことを受け、最終的には、その場での退職を回避し、今後の業績の向上により賃金が増額されることを期待しつつ、やむを得ず本件賃金減額を受け入れる旨の行為をしたものと認められる。
以上の事実関係からすれば、本件賃金減額について、原告の自由な意思に基づく同意があったと認めることはできない
したがって、本件賃金減額は無効であり、被告は原告に対して、平成27年2月給与から同年7月給与まで合計150万円の未払賃金がある。

2 原告の退職に関する不法行為の有無

被告は、これまで中途採用した営業職員らの賃金水準に合わせる形で本件賃金減額を行ったものであり、その後、原告の営業先の訪問件数や売上げが顕著に増加することがなかったため、原告の賃金を増額することもなかった一方で、原告に対して退職勧奨等を行うこともなく、むしろ、今後の原告の被告における就労についての期待を伝えていたことからすると、被告において、原告を実質的に解雇する意図若しくは原告に退職を強要する意図をもって本件賃金減額を行うなどしたと認めることはできず、被告による退職強要があったとは認められない。
また、上記の賃金減額の経緯からすれば、被告が同減額後の原告の賃金を同額にとどめたことから直ちに、被告による退職強要があったと認めることも困難である。
これらの事情によれば、被告に退職強要に当たる不法行為があったと認めることはできず、不法行為に基づく損害賠償請求に関する原告の請求を認めることはできない。

3 ニチネン事件の関連情報

3.1判決情報

  • 裁判官:船所寛生
  • 掲載誌:労働経済判例速報2348号12頁

3.2 関連裁判例

  • シンガー・ソーイング・メシーン事件(最二小判昭和48年1月19日 判例タイムズ289号203頁)
  • 日新製鋼事件(最二小判平成2年11月26日 労判584号6頁)
  • 山梨県民信用組合事件(最二小判平成28年2月19日 労判1136号6頁)

3.3 参考記事

能力不足を理由に賃金減額(カット)ができるか?|労働問題.com 

4 ニチネン事件の判例の具体的内容

>>ニチネン事件の判決内容の詳細はこちら

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