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吉村労働再生法律事務所

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能力不足を理由に賃金減額(カット)ができるか?

ご質問

当社の従業員Yは、入社10年目なのですが、未だにミスが多く業務知識も不十分で仕事に取り組む姿勢も消極的です。同じ勤続年数の社員と比較して、明らかに能力が不足しています。ただ、賃金自体は、勤続10年目相応の職能資格に基づきそれなりの金額となっております。もちろん賞与等の査定においては他の従業員と差がついており、役職も与えておりません。しかし、それ以上にYの能力と賃金が見合っておらず、賃金額を引き下げたいと思いますが、可能でしょうか?

回答

職能資格制度における資格の引き下げ(降格)及び職能資格に結びついた基本給(職能給)の引き下げを行う為には,労働者の同意又は就業規則上の明確な根拠規定が必要となります。そして,就業規則や給与規程に根拠がある場合は,人事権に基づいて降格が可能となりますが,人事権の濫用にならないことが要件となります。基本給引き下げを伴う降格の場合は,降格事由に該当する事実関係の存否,公正な評価の有無,不利益の程度,労働者への説明の有無などが考慮されます。ご質問のケースでは,Yの能力不足について,人事評価記録上,低評価となっていることが続いており,就業規則で定めた降格事由に該当する場合は,Yに説明の上,降格及びそれに伴う賃金減額も可能となります。これに対し,評価制度や記録などが無く,大幅に基本給を減額する降格を行った場合は,恣意的な降格であるとして無効となる可能性が高いでしょう。

  • 職能資格制度における職位の引き下げとしての降格及びこれに伴い職位に紐付いた手当を減額・不支給とすることは,労働者の同意や就業規則上の根拠は必要ない。
  • これに対し,職能資格制度における資格の引き下げとしての降格及びこれに伴う基本給の減額を行う為には,労働者の同意又は就業規則上の明確な根拠規定が必要
  • 就業規則上の根拠がある場合は,人事権の行使として降格を行うことが可能であるが,人事権の濫用にならないことが要件となる
  • 人事権の濫用は,降格事由に該当する事実関係の存否,公正な評価の有無,不利益の程度,労働者への説明の有無などが考慮される

解説

1 降格とは?

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降格とは,一般に職能資格制度における資格や職務等級制度における等級を引き下げることや,職位や役職を引き下げることを意味します。

降格は,大きくは(1)懲戒処分としての降格(2)人事権行使としての降格の2つに分けることが出来ます。

(1)懲戒処分としての降格は,企業秩序を乱した労働者に対する制裁として行う不利益措置(制裁罰)であり,懲戒事由に該当する場面に限られます。また,懲戒権行為に関する厳格な法規制を受けます(労働契約法15条)。

これに対し,(2)人事権行使としての降格は,企業の人事権に基づき,業務上の必要性がある場合に,企業に認められた広い裁量の下に行うことができます。懲戒処分の様な厳格な法規制を受けることもありません。

そして,(2)人事権行使としての降格(職能資格制度における降格)は,①職位や役職の引き下げとしての降格②資格の引き下げとしての降格に分けることができます。

本件では,(2)人事権行使としての降格が問題となっています。

>>「(1)懲戒権行使としての降格」の解説はこちら

2 職位や役職の引き下げとしての降格

(1) 意味

職位や役職の引き下げとしての降格とは,
例えば,
「部長から課長への職位(役職)の引き下げ」(降職)
「主任の職位を解き平社員とする」(解職)

などを意味します。

(2) 就業規則上の根拠は不要

職位の引下げとしての降格は,経営の中枢を担う人材(管理職)の配置という高度な経営判断を要する事項であるため,企業の広範な裁量が認められています。企業は,就業規則等に規定がなくても,人事権(労務指揮権)を行使して職位の引下げとしての降格を命ずることができます。

ただし,中途採用の管理職のように,地位・職務を特定して採用された労働者の場合は,労働契約の解釈によって降格命令権が排斥されることがあります。

(3) 濫用した場合は無効となる

上記のとおり職位の引き下げとしての降格は企業に広い裁量が認められますが,人事権を濫用することは認められません(労契法3条5項)。

人事権濫用の判断は,業務上・組織上の必要性の有無・程度,労働者の能力・適性,労働者が被る不利益,降格先のポストとの適合性を総合して行われます

業務上・組織上の必要性は,能力・適性不足や非違行為を理由に使用者が当該ポストに不適格と判断したことの相当性(具体的には,使用者が設定した降格基準の合理性とその適用の相当性)が問題となります。

例えば,恣意的な降格や嫌がらせ目的の降格,退職勧奨目的の降格は,業務上の必要性が否定され人事権濫用(無効)と評価されます。

3 資格の引き下げとしての降格

(1) 意味

職能資格制度における資格の引下げとしての降格は,職能資格と結びついた基本給(職能給)を引き下げる人事を意味します。

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(2) 労働者の同意又は就業規則上の根拠が必要

職能資格制度における資格の引き下げは,契約内容の変更を意味するので,使用者の一方的降格命令は許されず,労働者の同意または就業規則上の明確な根拠規定が必要となります。根拠を欠く降格は無効となります(アーク証券事件・東京地決平成8・12・11労判711号57頁)。

(3)  濫用した場合は無効となる

就業規則や給与規程に根拠がある場合,人事権に基づく降格が可能となります。ただし,人事権を濫用と認められる場合は無効となります。特に,資格の引き下げとしての降格の場合は,基本給の引下げという労働条件不利益変更の性格を有する為,降格事由該当性が厳格に判断されます。

具体的には,
a 使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度(降格事由該当性)
b 能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無およびその程度
c 労働者の受ける不利益の性質およびその程度
d 適正手続(弁明機会の付与)

などの要素を総合考慮して濫用か否かが判断されます。

降格が労働契約違反または人事権濫用として無効となる場合は,降格前の資格にあることの確認請求や差額賃金請求が認められます。事案に応じて不法行為(民709条)も成立しえます。

対応方法

1 事実関係及び証拠の確認

まずは,以下の事実及び証拠を確認する必要があります。

労働契約上の根拠

【証拠】
□ 就業規則
□ 給与規程
□ 降格規程

労働者の同意

【証拠】
□ 降格の同意書

降格事由該当に関する事実

【証拠】
□ 人事評価記録(低評価)
□ 懲戒処分通知書
□ 始末書
□ 注意指導書
□ ミスに関する顛末書

降格の弁明機会

【証拠】
□ 弁明書
□ 人事面談記録(音声録音)
□ 始末書
□ 注意指導書
□ ミスに関する顛末書

2 降格の実行

降格辞令を作成の上,降格を実行します。
降格辞令には,降格の理由,降格後の職位・資格等級,賃金等を明記します。
また,降格辞令への同意書に署名捺印をしてもらいます。

3 労働者との交渉

降格に異議がある労働者は,降格の無効,降格前の地位の確認及び降格前の賃金と差額の支払いを請求することがあります。法的措置に進む前に,労働者と交渉して,貴社の望む結果が得られるようにします。裁判に訴えられる前の交渉の時点で解決できれば,貴社にとっても早期解決のメリットがあります。

4 法的措置の裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,労働者は自己の権利の実現を求めて裁判を起こす可能性が高いと言えます。具体的には,仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,労働者が事案に応じて手続を選択して,自己の請求の実現を目指すことになります。貴社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります。

労働問題.comの対応

1 経験豊富な弁護士に相談

労働問題は適用される法律が難解で事実関係が極めて複雑であり,また,貴社が採るべき対応策はケースバイケースで決めざるを得ません。貴社独自で調査の上でのご対応が,時に誤った方法であることも多分にございます。
そこで,まず,労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士にご相談下さい。ご相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いのが実際ですので,トラブルが少しでも生じましたら出来るだけ早期にご相談されることをお勧めいたします。
労働問題.COMでは,常に労働問題を専門的に取り扱う経験豊富な弁護士が直接対応させていただいております(原則的に代表弁護士である吉村が対応させて頂きます。)。裁判のリスクを踏まえながら,法律上の問題点を指摘しつつも,抽象的な法律論に終始することなく,貴社が採るべき具体的な対応策を助言いたします。早期のご相談により紛争を未然に防止することが出来た事例が多数ございます。また、その後の交渉・裁判対応においても有利な対応を取ることが出来ます。

2 継続的なご相談・コンサルティング

労使間のトラブルは一時的なものではなく,長期化することがしばしばあります。ケースバイケースに採るべき対応策や確保すべき証拠も異なりますし,時々刻々と状況が変わっていき,その都度適切な対応をとることが必要です。この対応が間違っていた為に,その後の交渉や法的措置の段階で不利な状況に立たされることもままあります。
労働問題.COMでは,経験豊富な弁護士が,継続的なご相談を受けコンサルティングを行います。初期の段階より貴社にとって有利な対応をアドバイスしていきます。それにより,その後の交渉・法的措置にとって有利な証拠を確保でき,適切な対応をとることで,万全の準備が出来ます。また,継続的に相談が出来ることにより安心して他の日常業務に専念していただくことができます。

3 貴社を代理して労働者(弁護士,労働組合)と交渉いたします。

労働者の対応は様々ですが,貴社へ要求を認めさせるために,様々な働きかけをする事が多いのが実情です。労働者が弁護士や労働組合を介して,会社に対し各種の請求を行い,交渉を求めることはよくあることです。弁護士や労働組合はこの種事案の交渉のプロですので,貴社独自で臨むことで,あらぬ言質や証拠をとられ,本来了承する必要のない要求まで認めさせられることもしばしばです。貴社独自でのご対応は,一般的には困難であることが多いといえます。
そこで,労働問題.COMでは,労使間の交渉対応に精通した弁護士が,貴社に代わって交渉の対応を致します。具体的には,貴社担当者から詳細なヒアリングを実施し,証拠の収集等の準備を行った上で,弁護士が法的根拠に基づいた通知書を出し,適切に交渉することで,貴社にとって有利な結論を,裁判を経ずに勝ち取ることも可能となります。

4 裁判対応

労働者が労働審判,仮処分,訴訟などの裁判を起こしてくる場合が近時急増しています。かかる裁判への対応は法律で訴訟代理権を独占する弁護士のみが対応することができます。
但し,労働問題を適切に対応することができるのは労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士に他なりませんが,労働問題は極めて特殊専門領域であるため,経験実績がない又は乏しい弁護士が殆どである実情があります。
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