管理職ハラスメントの予防策2

【管理職必見】ハラスメント防止について知っておくべきこと

さて、管理職の皆様に対して、ハラスメント防止をテーマにお話をさせて頂きます。

1 ハラスメントとは?

1.1ハラスメントの種類

ハラスメントという言葉ですが、近年よく聞く言葉となりました。

テレビ、新聞、雑誌、ネットニュースなどで、目にしない日は無いといっても言い過ぎではないくらいに、この言葉はよく聞きますね。

では、ハラスメントとはどういう意味・概念なのでしょうか?

ハラスメント(harassment)は、もともとは悩ますこと、いやがらせ、悩みなどを意味する英語です。

この言葉が、さらに色々な類型をもつようになって発展しています。

例えば、よく聞くのはこの3つのハラスメントかと思います。

パワーハラスメント(パワハラ)
…上司から部下へのいじめ・嫌がらせ
セクシャルハラスメント(セクハラ)
…性的な嫌がらせ
マタニティハラスメント(マタハラ)
…女性が妊娠・出産をきっかけに受ける嫌がら

まず、パワーハラスメントは、パワハラと略すことも多いですが、典型的には上司から部下へのパワーを背景にした嫌がらせを意味します。

例えば、指導と称して暴力を振るう、暴言を吐く、人格を否定するなどが典型です。

次に、セクシャルハラスメント・セクハラは性的な嫌がらせを意味します。

例えば、体を触る、わいせつな言動するなど

マタニティハラスメント・マタハラは、助成が妊娠・出産をきっかけに受ける嫌がらせを意味します。

例えば、産休や育休を取得しようとしたら、退職するように言われる、嫌みを言われるなど

その他にも、様々なハラスメントがあるようです。

●アルハラ(アルコール) アルコール飲料に絡む嫌がらせ全般 飲酒の強要 一気飲ませ 意図的な酔いつぶし 飲めない人への配慮を欠くこと 酔ったうえでの迷惑行為
●スメハラ(スメル) 臭いにより周囲を不快にさせる嫌がらせ 香水や口臭や体臭などをはじめとする臭いで周囲へ不快にさせること
●ジェンハラ(ジェンダー) 女性、あるいは、男性という理由により及ぶハランスメント行為。「女なのに料理しないの?」「男のくせにだらしない」といった言葉をかける行為
●スモハラ(スモーク) 「喫煙に関する嫌がらせ行為」 主に上司からの喫煙の許可若しくは非喫煙者に対して喫煙することの強要を断り切れず、喫煙若しくは受動喫煙を避けられない状況を強いられる
●アカハラ(アカデミック) 研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為 研究テーマを与えない。 文献・図書や機器類を使わせない。実験機器や試薬などを勝手に廃棄する。
●リスハラ(リストラ) リストラ対象者に会社側が行う嫌がらせのことをいう。例えば、些細なミスで減俸や降格をしたり、全く仕事を与えないといったものがリスハラである。
●テクハラ(テクノロジー) たとえばパソコンなどのITスキルに習熟している者が、そうでない者に対して行う嫌がらせだということ 「エクセルも使えないのか?役立たず」
●エイハラ(エイジ) 年齢を理由とした嫌がらせ 「○○歳なのにこんなことも出来ない(知らない)んですか?」 「ゆとり(世代)」
●エアハラ(エアー) 主にエアコンの温度設定によってのハラスメントのこと(体調不良を引き起こす)ことをいうらしい。夏場、28度、25度
●ソーハラ(ソーシャル) TwitterやFacebookなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)において、職場などの上下関係を背景に行なわれる嫌がらせ行為 職場の部下に「友達申請」を迫ったり[1][5]、「部下の投稿をチェックして、そのたびに「いいね!」を押したり、コメントしたり」する行為や「自分の投稿に対する反応を部下に求め」る行為
●ハラハラ(ハラスメントハラスメント) ハラスメントという大義名分を武器に、何でもかんでも「ハラスメントだ!」と言いがかりに近いことを言って周囲を困らせる行為

こうやってみると、ちょっと不愉快なことがあれば、何でもかんでもハラスメントになりそうですね。最後のハラハラまでいくと、エンドレスにハラスメントが広がっていきそうです。

1.2世の中の動き(特にパワハラを中心に)

このように広がるハラスメント概念ですが、世の中の動きを見ていきましょう。

⑴ 都道府県労働局等への相談件数の増大,精神障害の労災補償件数の増大

民事上の個別労働紛争件数の推移

2017年6月18日に厚生労働省から公表された「平成28年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は113万741件で、9年連続で100万件を超え、そのうち、民事上の個別労働紛争相談件数25万5460件の中で最も多いのが「いじめ・嫌がらせ」(7万917件)で5年連続トップであり、助言・指導の申し出件数、あっせんの申請件数のすべてにおいて「いじめ・嫌がらせ」の問題が最多となったとのことです。

職場内でのいじめ・パワーハラスメント(以下、パワハラ)に関する問題意識が広く浸透し、現在の職場においてもなお最も身近な問題であることを示しているといえるでしょう。

⑵ 職場のハラスメント対策を強化する法改正

令和元年5月29日成立の法改正で、パワハラについて、事業主には雇用管理上必要な措置を取ることを義務づけることが定められました。

労働施策総合推進法第30条の2
1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

既にセクハラやマタハラについては、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法において事業主の雇用管理上必要な措置義務が定められていましたが、パワハラについては法制化された制度がありませんでした。しかし、パワハラ問題が社会問題化していることを受けて法制化されるに至りました。

⑶ 広がるハラスメント報道

ハラスメントに関する報道も絶え間なくなされています。

相撲…元横綱日馬富士関(伊勢ヶ浜部屋)が巡業中、同じモンゴル出身の幕内貴ノ岩関(貴乃花部屋)を酒席で殴り、頭にけがをさせたことが判明。引退に追い込まれた元横綱は傷害罪で略式起訴され、鳥取簡裁から罰金50万円の略式命令を下されました。暴行現場に同席した横綱白鵬関(宮城野部屋)や親方衆も日本相撲協会の処分を受けました。
レスリング…女子レスリング五輪4連覇の伊調馨選手に対する、栄和人監督による「パワハラ」があった
新体操…塚原夫妻による女子新体操選手に対するハラスメントがあったとのことで話題になりました。結局は,第三者委員会の調査でハラスメントに該当する行為はなかったの結論となりましたが,話題になりました。

報道されたハラスメントは、実は旧態依然の組織の中で従来から頻繁に行われていたと言われています。それが、ハラスメント概念の浸透により、突如として顕在化し報道され炎上してしまっています。炎上により、当該加害者のみならず、組織についての信頼も失う結果となっています。

これまでは、「伝統的な運用」「ローカル(部署)ルール」という暗黙のルールの中で見過ごされてきましたが、そのルールも通じず、公然化した途端、厳しい非難に晒されることを意味しています。

1.3 基本的視点(★重要)

ハラスメントの問題は広く顕在化される時代となりました。管理職の皆様も自分がハラスメントの加害者になるのではないかと戦々恐々とされている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ここで管理職の皆様には基本的な視点を押さえて頂きたいと思います。それは、

上司の立場にある方には、自らがパワーハラスメントをしないことはもちろん、部下にもさせないように職場を管理することを求められる。ただし、上司には、自らの権限を発揮し、職場をまとめ、人材を育成していく役割があり、必要な指導を適正に行うことまでためらってはならない(平24.3.15 厚労省「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」)

とうことです。ハラスメントは厳に禁じられ、許されないものですが、だからといって、上司として、職場の規律を守り、人材育成をするために、正しい必要な指導はこれまで通りしっかりと行って頂って構いませんし、行うべきでなのです。

厚生労働省が定めたパワーハラスメント防止のための指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)においても「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記しています。また、パワハラに該当しない例として「遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること」「その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすることと明記して、必要に応じて時には強く注意することも許されることを明記しています。

従って、パワーハラスメントを「正しく理解」して、業務上必要な指導をためらわずに行うことが大事です。

それでは、ハラスメントの事例及びリスクから理解を深めていきましょう。

2 ハラスメントの事例及びリスク(パワハラを題材に)

2.1 パワーハラスメント

職場におけるパワーハラスメントとは、「職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③ 労働者の就業環境が害されるものであり、①から③ までの要素を全て満たすもの」と定義されています(労働施策総合推進法第30条の2)。

ただ、この定義は曖昧であり、広く解釈することが可能といえます。これでは広く認められるハラスメントに企業や管理職はどのように対応すればよいかも分かりづらいはずです。

そこで、広く認められるパワハラについては、段階を分けて対応することを推奨します。

2.2 パワハラのレベル

A 犯罪行為レベル(刑法)

「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害,「死ね」「殺すぞ」といった脅迫,侮辱,名誉毀損など

懲戒処分対象(監督責任含む)
刑事責任
損害賠償責任

B 不法行為レベル(民法)

上司からの嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症するなど

懲戒処分対象(監督責任含む)
損害賠償責任

C 職場環境レベル

C1 「故意に無視する」「悪口をいう」「嫌みをいう」「からかう」など,①,②のほか職務遂行を阻害する行為全般

懲戒処分対象
現場レベルでの注意・指導対象

C2 適正な範囲の指導

処分なし

※どのレベルにおいても職場の士気低下,人材流出のリスク,風評被害のリスクが伴う

A 犯罪行為レベル(刑法)

まず,例えば「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害,「死ね」「殺すぞ」といった脅迫などに該当する犯罪行為を行った場合は、加害者は刑事責任を問われる可能性があるほか、民事上の損害賠償責任を被害者から追及される可能性があります。民事上の損害賠償責任は使用者である企業も負担する場合があります(民法715条 使用者責任)。

また、この場合の従業員に対する懲戒は,出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの比較的重い処分を検討することになります。被害者に生じた結果や言動の悪質性等を考慮して最終的には処分を決定することになります。

法的紛争に繋がる明白なハラスメントになりますので、管理職としても即時に対応する必要が高い事案です。

B 民事上の不法行為レベルのパワハラ

犯罪レベルには至らない場合であっても、上司による嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症した場合などは、民法上の不法行為が成立します。この場合も民事上の損害賠償責任を被害者から追及される可能性があり、使用者である企業も負担する場合があります(民法715条 使用者責任)。

懲戒処分としては,降格(職位を外す)や出勤停止等の懲戒処分が相当とされるケースが多いと思われます。もっとも,過去に同様の行為を行い,譴責・戒告等の懲戒処分を受けている場合は,事案によっては普通解雇・諭旨解雇できるケースもあると思われます。

法的紛争に繋がる明白なハラスメントになりますので、管理職としても即時に対応する必要が高い事案です。

C 職場環境を阻害するレベルのパワハラ

「故意に無視する」「悪口をいう」「嫌みをいう」「からかう」など犯罪や不法行為には該当しないものの、職場環境を阻害するレベルのパワハラも問題となります。

職場環境を阻害するレベルのパワハラ行為者については,譴責や減給,悪質な態様のものは降格等の懲戒処分とすることになります。管理職などの立場の場合は,職務適性がないとして普通解雇も許容される場合もありえます。また,それ以下のレベルのパワハラ行為者については,懲戒ではなく,まず注意・指導を与え,是正されない場合には譴責等の懲戒処分とすることが相当であると思われます。

直ちに法的紛争に発展する事案ではありませんので、管理職としては、犯罪行為レベル(刑法)や民事上の不法行為レベルに発展しないように、注意・指導・調整などによって、中長期的スパンでの対応が求められます。

2.2 ハラスメントの具体的事案(判例,報道)

具体的な事例についても見ていきましょう。事例1から事例7はハラスメント行為が不法行為等により損害賠償責任が認められた事例、事例8と事例9は不法行為による損害賠償が認められなかった例です。損害賠償額は数十万から数千万までのものがあります。

事例1
ハラスメント行為(1) Xの接客時の笑顔が不十分であるとしてAが会話練習を指示し,その際,ポスターを丸めた物で頭部を30回殴打,その後,クリップボードでさらに頭部を20回殴打
(2) BがXのミスに激怒し,謝罪するXの大腿を3回強く蹴った。
(3) Xが遅刻したにもかかわらず間に合ったと嘘をついたので,Cが叱責とともにXの左頬を手拳で30回殴打,蹴る大腿を膝蹴り,頭部を肘や拳骨で殴打。Dは制止しなかった。
(4) Xが出勤をしなかったので,家を訪ねたCがXの襟首をつかみ,30回にわたり手拳や肘で殴打、足や膝で蹴り、その後謝罪を強要させた。
Xは(4)の暴行により骨折・聴力障害となった。X2は(4)の暴行を目撃して急性ストレス反応から重度のうつ病となった。
結果(1)慰謝料20万円
(2)慰謝料10万円
(3)慰謝料等31万円
(4)慰謝料等約100万円
※加害者及び会社は連帯責任
事例2
ハラスメント行為Xが店舗運営日誌にAの仕事上の不備を指摘する記載をし「どういうことですか?反省してください」と書き添えたところ、これを見てさらし者にされたと感じたAから休憩室に呼びつけられた。その際のXの説明や態度に激高したAは、Xの胸倉を掴み背部を板壁に3回打ち付け、顔面に1回頭突きをした。Xはその後神経症と診断され、労災の休業補償するよう求めたが、管理部部長Bはこれを拒否した。また、BはXとの電話の中で「いいかげんにせいよ、お前。おー、何考えてるんかこりやあ。ぶち殺そうかお前」などと声を荒げて発言した。

これら言動によりXは妄想性障害に罹患し,休業を余儀なくされた

結果慰謝料等約200万円 Aと会社が連帯責任
事例3
ハラスメント行為(1) Aは、度重なる業務上の不始末をするXに対して、感情が先走るあまり、たたいたり蹴ったりするなどし、その後もXに対する注意指導時に座っていたXの右肘を蹴る、指導が終わって自動車に積み荷をしていたときに「ちゃんとしっかりせえよ」と言いながら、Xの右太ももを蹴る、Y事務所内で右胸を拳で強く小突くなどの暴行をした。

(2) また,Xには私的に借入金があり、Xの売上金管理も杜撰であったことから、Aは,一定期間、Xの財布と通帳を点検した。

結果慰謝料は20万円+治療費等 AとYが連帯責任
事例4
ハラスメント行為(1) 上司Cの言動として、「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん、お願いだから消えてくれ」「車のガソリン代がもったいない」「何処へ飛ばされようと俺はAは仕事しない奴だと言い触らしたる」「お前は会社を食いものにしている、給料泥棒」「お前は対人恐怖症やろ」「肩にフケがベターと付いている。お前病気と違うか」などの言動があった。

(2) このような言動の後,Aは自殺した。

結果上記一連のCの言動によりAは過重な心理的負荷を受け,精神障害を発症した(業務起因性がある)と認めるのが相当であると判断した。
事例5
ハラスメント行為(1) Aが仕事でミスをすると、代表取締役Bから「てめえ、何やってんだ」「どうしてくれるんだ」「ばかやろう」等と罵倒され、殴られたり、蹴られたりするようになったほか、

(2) 会社に与えた損害の賠償を求められ、「7,000万円払わないと辞めさせない」と言われた。

(3) Bは、平成21年1月、Aに対し、大腿部後面を2回蹴るなどの暴行(本件暴行)を加え、退職願を強要し(本件退職強要)、Aは会社に迷惑をかけたことを反省し、一族で誠意をもって2か月以内で返済する旨の退職届を提出した。

(4) Aは同日、妻に対し本件暴行を告げた上、診断書を取って妻と警察に相談したが、翌日遺書を遣して自殺した。

結果逸失利益2,655万5,507円、慰謝料2,800万円、弁護士費用492万円 YとAが連帯責任
事例6
ハラスメント行為(1) Bは,Aがミスをすると、「馬鹿」、「使えねえな」などと罵倒し、尻、頭及び頬を叩くなどの暴行を加えたほか、頭をしゃもじで殴るなどした。
(2) 朝礼においてAが指名されながら感想を言えなかったところ、Bは「馬鹿野郎早く言え」などと言ってAを叩いた
(3) また、Aが店長になって以降、エリアマネージャーに昇任したBは、数回にわたり、発注ミスや仕込みをしていないことを理由に、休日であることを知りながら、Aを店舗に呼び出して仕事をさせた
(4) さらにBは、AがアルバイトのMと交際していることについてAを叱責し、暴行を加えた
(5) Bは、店の事務室で、寝転がった状態でAの服にライターの火を近付けたりしたほか、仕事以外の場面で、日常的にAに使い走りを命じていた
(6) Aの労働時間は、死亡前の法定時間外労働は4月: 190時間、5月:227時間30分、6月: 180時間30分、7月: 200時間、8月: 162時間30分、9月: 196時間、10月: 198時間30分、11月(ただし、同月7日まで) 48時間であり、休日は0日か取得できて1日であり、恒常的な長時間労働の状態にあった(7) Aは、店長に就任約1年後Bから当時閉店の決まっていた店の椅子を迅速に運ぶよう指示され、その翌日未明、両親への感謝や謝罪の遺書を遣して自殺した
結果5975万2443円 B,Y社,Y社代表が連帯責任
内訳:葬儀費用150万円,逸失利益約4588万円,慰謝料2500万円,弁護士費用520万
事例7
ハラスメント行為(1) 社員A 前代表者の交際費支出に不正行為に加担。代表取締役E「前代表者の指示には従うが、Eの指示には従わない。泥棒をしろといわれたらそのとおりにするのか、ヤクザみたいな会社だ、いない人の罪にしておかしい、子供の世界だ」などと、長時間にわたって批判、非難を続けた為,Aは定年まで勤務することを断念して退職願を提出して退職
(2) 社員Bについても、代表取締役Eは「Aの責任もあるが、Bにも責任がある。会社としては刑事事件にできる材料があり、訴えることもできるし、その権利を放棄していない。このまましていれば、裁判所に行きましょうかという話になるし、必ずAも同罪で引っ張られる」「Bの給与が高額に過ぎる。50 歳代の社員は会社にとって有用でない」と発言。その結果、Bは、定年まで勤務することを断念し、退職願を出して退職(3) 社員C、Dについては、A、Bと同じ職場で働いており、代表取締役EによるA、Bに対する言動を見聞きし、代表取締役Eが正当な理由なく賞与を減額したり、降格処分にしたりしていること、A、Bに対して会社の経営に不要であると伝えていることを認識し、C、Dについても、今後自分たちにも同じような対応があると受け止めることは当然で、このような事情のもと、C、Dは退職願を出し、退職するに至った。
結果(1) 社員A 慰謝料等77万円
(2) 社員B 慰謝料等110万円
(3) 社員C、D 慰謝料等44万円
事例8
ハラスメント行為(1) Xは,単純な問診票の入力ミス,書類の記入ミス等の多くのミスを犯し,健康管理室内の休憩時間取得も他の職員への配慮がなく反感を買っていた。
(2) 事務次長Bと課長代理Aは,Xと試用期間中の面接を行い,ミスが非常に多いこと,仕事は簡単なものを渡してペースを抑えているのに,このままミスが減らないようでは健康管理室の業務を続けるのは難しいこと,遅いのは問題ではないからミスのないように何度もチェックするなど正確にしてもらいたいこと,分からなければ何度でも確認をしてほしいこと,周りも働きやすいよう配慮しているから原告もその努力をすべきこと,頼んだ仕事がどこまで終わったのかを報告せずに帰宅するというのは改善すべきことなどを指摘した。
(3) Xは,仕事上のミスを続けた。
(4) BとAは再度面接を行い,相変わらず学習はしていないこと,派遣事務との仕事内容に広がりが生じていること,このままの状況では健康管理室の業務に対応できないこと,パートから不満が来ること,仕事を覚えるのが遅くても一生懸命やっているという周りを説得するだけの意欲が欲しいこと,ミスを起こさないための具体的な指摘を行った。(5) さらに,BはAを退席させた上で,Xを首にするようなことではないとした上で,Xの人格を否定しているのではないが,清掃部門等の他の職種で能力を生かすことができるかもしれないので,もう一度頑張ってほしいと励ました。
結果0円 A及びBの指導は違法ではない
事例9
ハラスメント行為(1) Aは,部下に命じて架空出来高計上等の不正経理を開始したが,Aの上司であるBがその不正経理の一部に気づいてAを指導した。そのため,Aは是正を約束し,平成16年初めころ,Dに是正報告をした。
(2) その後,Aが不正経理の是正を行っておらず,1,800万円の架空出来高の計上をしていたことが再び発覚。Bは「去年もやっていて注意したのに何やっているんだ」と注意した。
(3) 別の上司CがO営業所の工事日報(工事見積発生原価,入金等が記載されている)の確認を求めたところ,O営業所ではこの工事日報が作成されておらず,提出されなかった。
(4) Cは,Aに対して 「現時点で既に1,800万円の過剰計上の操作をしているのに過剰計上が解消できるのか。できるわけがなかろうが。会社を 辞めれば済むと思っているかもしれないが,辞めても楽にはならないぞ」 などと言って,O営業所員全員の前で厳しく叱責した。(5) Aは3日後に自殺した。
結果0円 違法な指導ではない。

3 ハラスメントへの対応

ハラスメントのリスクはお分かり頂けましたと思います。それでは、ハラスメントに対してどのような対応を取るべきでしょうか?事前対応(予防策)と事後対応に分けて説明します。

3.1 事前対応(予防策)

(1) 意識を高める

企業側・管理職に期待されるのは、職場におけるいじめ・嫌がらせは、企業経営にとってマイナスしかないことを自覚することが重要です。ハラスメントによって職場環境が悪化し、社員のモチベーションや生産性を低下させることに繋がります。また、人材不足の昨今において、ハラスメントが原因で貴重な人材が大量に流出(退職)することもありえます。人材は企業の財産です。ハラスメントは人財を毀損する行為であり、強い意識を持って禁止することがまずは重要です。

(2) 研修・教育

近年は、こうした意識が高まり、パワーハラスメントになり得る行為類型を冊子やパンフレットなどにして全社員に配布し、研修を行う企業も増えています。パワーハラスメントは無意識に行われているケースも多く、研修・教育によって意識をさせることが重要です。

(3) 相談窓口

また、職場いじめ・嫌がらせについて扱う「苦情処理委員会」や「苦情受付窓口」を設置することも有益です。近年では、窓口を外部(弁護士等)に委託する例もあります。もっとも、形式的に設置しただけでは意味がなく、窓口を周知するとともに利用を促すことが必要です。また、苦情処理委員や窓口担当者に対する研修、訓練も重要です。

(4) 再教育

加害者となった者については、教育、警告、処遇の変更、制裁など事案に応じ、適切な処分が求められます。こうした処分についても、苦情処理機関の公正・公平な運営、あらかじめ基準を明示することによる予測可能性(同時に予防効果もある)など、制度の構築が必要となります。

3.2 事後対応

いじめパワハラ相談対応の流れ

(1) ステップ1 パワハラの被害相談・申告

パワハラの被害相談・申告を受けた際、以下の点に留意する必要があります。
(セクシュアル・ハラスメントに関する苦情相談に対応するに当たり留意すべき事項についての指針
平成10年11月13日付け職福第442号

苦情相談を受ける際の相談員の体制等

① 苦情相談を受ける際には,原則として2人の相談員で対応すること。
② 苦情相談を受けるに当たっては,同性の相談員が同席するよう努めること。
③ 相談員は,苦情相談に適切に対応するために,相互に連携し,協力すること。
④ 実際に苦情相談を受けるに当たっては,その内容を相談員以外の者に見聞されないよう周りから遮断した場所で行うこと。
⑤ 行為者とされる者又は第三者からの聴取を行う場合は、相談者の了解を確実に得た上で人事部と連携して対応すること。

相談者から事実関係等を聴取するに当たり留意すべき事項

① 相談者の求めるものを把握すること。
将来の言動の抑止等,今後も発生が見込まれる言動への対応を求めるものであるのか,又は喪失した利益の回復,謝罪要求等過去にあった言動に対する対応を求めるものであるのかについて把握する。
② どの程度の緊急性があるのかについて把握すること。
相談者の心身の状態等に鑑み、苦情相談への対応に当たりどの程度の緊急性があるのかを把握する。
③ 相談者の主張に真摯に耳を傾け丁寧に話を聴くこと。
特に相談者が被害者の場合、パワー・ハラスメントを受けた心理的な影響から必ずしも理路整然と話すとは限らない。むしろ脱線することも十分想定されるが、事実関係を把握することは極めて重要であるので、忍耐強く聴くよう努める。また、相談員自身の評価を差し挟むことはせず、相談者の心情に配慮し、その主張等を丁寧に聴き、相談者が認識する事実関係を把握することが必要である。

事実関係については,次の事項を把握すること。

① 当時者(被害者及び加害者とされる職員)間の関係
② 問題とされる言動が,いつ,どこで,どのように行われたか。
③ 相談者は,加害者とされる職員に対してどのような対応をとったか。
④ 監督者等に対する相談を行っているか。
なお,これらの事実を確認する場合,相談者が主張する内容については,当事者のみが知り得るものか,又は他に目撃者はいるのかを把握する。

聴取した事実関係等を相談者に確認すること。

聞き間違えの修正並びに聞き漏らした事項及び言い忘れた事項の補充ができるので,聴取事項を書面で示したり,復唱するなどして相談者に確認する。

聴取した事実関係等については、必ず記録して保存しておくとともに、当該記録を厳重に管理すること。

(2) ステップ2 事実調査

行為者とされる者からの事実関係等の聴取

① 原則として、行為者とされる者から事実関係等を聴取する必要がある。
ただし、パワー・ハラスメントが比較的軽微なもの又は行為者とされる者に改善の余地があるもののパワー・ハラスメントとまではいえないようなものであり、対応に緊急性がない場合などは、管理又は監督の地位にある職員の観察又は指導による対応が適当な場合も考えられるので、その都度適切な方法を選択して対応する。
② 行為者とされる者から事実関係等を聴取する場合には、行為者とされる者に対して十分な弁明の機会を与える。
③ 行為者とされる者から事実関係等を聴取するに当たっては、その主張に真摯に耳を傾け丁寧に話を聴く、聴取した事実関係等を行為者とされる者に確認するなど、相談者から事実関係等を聴取する際の留意事項を参考にし、適切に対応する。

第三者からの事実関係等の聴取

パワー・ハラスメントについて当事者間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の 確認が十分にできないと認められる場合などは、第三者から事実関係等を聴取することも必要である。この場合、相談者から事実関係等を聴取する際の留意事項を参考にし、適切に対応する。

相談者に対する説明

苦情相談に関し、具体的にとられた対応については、相談者に説明する。

(3) ステップ3 事実認定・ハラスメント判断

ステップ2までで行われた事情聴取、証拠資料等を踏まえて、事実認定を行い、ハラスメントに該当するのか、該当するとしてどのレベルのハラスメントかについて会社は判断します。公平な第三者として判断を行う必要があり、必要に応じて弁護士等の専門家の助言を得て行います。

(4) ステップ4 事案に応じた対処

① パワハラに該当すると判断される事案

事案に応じて行為者に対して処分(注意指導~懲戒処分)を行います。

また、原因を分析した上で再発防止措置を講じます。

② パワハラに該当するとの判断が難しい事案又はパワハラには明らかに該当しない場合

この場合、行為者に対して処分(注意指導~懲戒処分)は行いません。
もっとも、相談者の意向を踏まえ、関係修復等の調整を図り、または人事異動を行う場合もあります。

まとめ

以上、管理職の皆様にご理解頂きたいハラスメント対応策になりました。

ご理解頂けましたでしょうか。

ハラスメントは企業にとっては損害賠償等のリスクとなるのみならず、職場環境の悪化によりモチベーションを低下させ生産性を下げ、ついには貴重な人材の流出につながってしまうおそれが高まります。

ハラスメントは曖昧で、企業のリスクも高まっていますが、レベルを分けて把握することで、対応の緊急性や優先性が決まってきます。

一番重要なのは、管理職の皆様としては、パワーハラスメントを「正しく理解」して、業務上必要な指導をためらわずに行っていただくことです。

ハラスメントの対応は事前予防と事後対応があり、いずれも重要です。

この記事がお役にたてましたら幸いです。

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