労働者が解雇を争う方法

労働者が解雇を争う方法を知る

  • 2012年1月3日
  • 2022年1月3日
  • 解雇
社長
当社は中堅電機メーカーですが,長引く不景気,業界内の競争激化のあおりを受け,会社の収益が悪化し,人員削減に踏み切らざるを得ない状況になりました。そこで,先日,ある従業員に対し能力不足を理由として解雇予告を言い渡しました。
その数日後,その従業員の代理人であるとする弁護士より,解雇は無効であるので復職をさせろ,賃金を払え,解雇理由証明書を発行しろ等の内容証明郵便が送達されました。当社としては,解雇を正当と考えておりますので,労働者が望む解雇理由書を送り,要求は一切拒絶するつもりです。このような場合,どう対応すればよいのでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
解雇理由書は,労働者に発行すると,後に裁判になった場合に提出されるおそれが高いので,事実関係を証拠から確認した上で,慎重に作成する必要があります。また,解雇が有効か否かは詳細な事実関係を把握しない限りは判断しかねますが,有効性の有無(見込み)によって,適切な対応をする必要があります。「敵を知る」という意味では、労働者が解雇をどのように争う方法を知ることは有益です。本稿では、労働者が解雇を争う方法について説明します。

解雇理由証明書(労働基準法22条)

使用者は,労働者より,退職の事由(解雇理由),使用期間,業務の種類,その事業における地位,賃金について証明書を請求された場合は,遅滞なくこれを交付しなければなりません(労働基準法22条)。

この書面を見ることで,労働者は,解雇されたのか,合意解約なのか,解雇の理由は何か,を把握すると共に,その後,裁判を起こすのか,起こした場合に勝訴の見込みはどれくらいあるのか,を判断します。また,裁判を起こした場合には,証拠として必ずといってよいほど裁判所に提出してきます。

裁判で解雇理由証明書とは異なる事実関係や記載がなかった事実関係を会社が主張することは現実的には難しいと言えます。裁判になって解雇理由証明書にない事実を付け加えると,労働者から「後出しだ」との指摘を必ずといって良いほど受けます。また,裁判所も追加した事実関係については,基本的には客観的証拠から認定するのですが,心証はよくありません。

従って,解雇理由証明書は,労働者から裁判を起こされた場合に会社が提出する答弁書と同じレベルに準備できる状態にしておかなければ,会社の勝訴は一般的には難しいといえます。解雇を行う場合は,事前に必ず労働問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。

なお,解雇理由は具体的に記載しなければならないことになっていますので,もし証明書に「労働者の適格性の欠如・喪失」などと抽象的理由しか書いてなかった場合は,労働者よりさらに文書で説明を求め,回答を求められる場合もあります。

解雇された労働者のとる対応策

① 使用者に対して,解雇理由証明書を求める。

これを見ることで,解雇されたのか,合意解約なのか,解雇の理由は何か,を把握します。解雇理由は具体的に記載しなければならないことになっていますので,もし証明書に「労働者の適格性の欠如・喪失」などと抽象的理由しか書いてなかった場合は,さらに使用者に対して文書で説明を求め,回答させる場合もあります。

② 解雇が,法律や就業規則上の手続条項に違反していないかチェックする。

解雇理由証明書や労働者が確保した証拠に基づき、弁護士に相談するなどして、解雇が法律や就業規則に違反していないかをチェックします。解雇が法律に違反する確証が持てる場合は、解雇を争う方向で準備を進めます。

③ 退職を前提とした行動をとらず,就労の意思を明らかにする。

解雇を争う場合は、労働者は、例えば,解雇の撤回を求め,就労の意思がある旨を内容証明郵便等の書面で通知します。

他方で,退職金の請求などは,退職を前提とした行動ですので,解雇を争う場合は控えられます。

もっとも、解雇後に離職票の受領,健康保険証の返却,解雇予告手当や退職金の振り込みを受けたことによって,解雇の効力を争う権利がなくなることはありません。

なお、退職金や解雇予告手当が振り込まれてきた場合は,これを返還・供託するか,労働者において預かり保管し,以降発生する賃金の一部に順次充当する旨を内容証明郵便で通知することがよくあります。

④ 労働者の解雇後の生活

(1) 雇用保険(仮給付制度)の受領

(2) 使用者から支払われた退職金等の充当

(3) 他社での就労

解雇の効力をめぐる紛争の解決方法

労働者が解雇を争う方法は主に以下の3つです。

①示談交渉・・当事者間での交渉による解決を図る
②労働局,労政事務所等の自治体のあっせんによる解決
③裁判所を利用した解決(労働審判,仮処分,本訴)

①示談交渉

示談交渉とは,裁判などを使わずに,文字通り会社と労働者で解決に向けた協議・交渉をすることです。

この方法のメリットは,労使共に,コスト面で裁判費用等がかからず,裁判に対応するために労力もかからず,かつ,早期解決を得られる可能性が高いというところにあります。また,会社としては,仮に無効な解雇をしてしまった場合でも,裁判を起こされた場合に比べ低い水準での解決を図ることが可能です。

デメリットは,あくまでも会社と労働者との間で協議がまとまる見込みがなければ,何ら解決しないという点です。

労働局,労政事務所等の自治体のあっせんによる解決とは?

都道府県労働局長による助言・指導とは,民事上の個別労働紛争について、都道府県労働局(厚生労働省の地方支分部局であり、全都道府県の地にそれぞれ設置されています。)長が紛争当事者に対し、個別労働紛争の問題点を指摘し、解決の方向を示唆することにより、紛争当事者が自主的に民事上の個別労働紛争を解決することを促進する制度です。

法違反の是正を図るために行われる行政指導(労基署による是正勧告など)とは性格が異なり、紛争当事者に対して話し合いによる解決を促すものであり、一定の措置の実施を強制する法的効果を有するものではありません。

この制度のメリットは,公の機関を通じた話し合いの機会を得ることができ,その中で早期柔軟な解決を図ることができることにあります。また,会社としては,仮に無効な解雇をしてしまった場合でも,裁判を起こされた場合に比べ低い水準での解決を図ることが可能です。他方で,労働者の請求が全く法的根拠のない不当なものである場合は,会社は応ずる必要すらない場合もあります。

デメリットは,裁判所で行う法的措置を異なり,労働局は,一定の紛争解決基準を示す権限責務がありません。従って,基本的には,交渉を公的な機関において行うという意味を超えて解決への強制力がないため,労使で話し合いがまとまらない場合は,あっせんが打ち切られ,紛争が解決しません。

労働審判

労働審判は,3回以内の期日で審理が終わりますので,申立から2,3ヶ月以内でスピーディな解決が期待できます。

また,調停が成立しない場合の審判で,労働契約の終了と引換に金銭的な給付を命ずることができるとされています。

他方で,審判に対する異議が出された場合には,自動的に本訴に移行することとされています。

仮処分とは?

一般的には,労働契約上の権利を有する地位を仮に定める「地位保全仮処分」と賃金の仮払いを求める「賃金仮払い仮処分」の双方を同時に申し立てすることが通常です。

申し立て後,審尋(しんじん)期日という裁判をするための日取りが決められ,その期日に使用者側,労働者側の双方から主張・証拠(疎明)の提出がなされることになります。

この際,証拠(疎明)の資料としては,労働者側からは,解雇通知書,内容証明郵便,就業規則,業務記録,賃金明細書,録音テープ(反訳書)等の他,陳述書や聴取書など労働者等の供述を記録したものも提出されます。早ければ1,2ヶ月で,長ければ半年程度の期間で事件が終了します。

この結果,裁判所が賃金仮払いの決定を出した場合,使用者はその決定に従って賃金を支払わなければならなくなります。もっとも,仮処分は本訴の結果が確定するまでの暫定的な決定です。

本訴(通常訴訟)とは?

一般的には,①地位確認の訴えと,②賃金請求の訴えを提起します。通常の民事訴訟同様に口頭弁論,証拠調べ手続,最終的には判決といった審理手続がなされます。あらゆる証拠が取り調べられ,証人尋問,本人尋問も行われます。判決に至るまでは早ければ半年,長ければ2年程度時間がかかることもあります。

労働者は労働審判,仮処分,本訴いずれを選択するか?

仮処分を申し立てた後,本訴で最終的な結論(第1審まで)が出るまで,一般的には,1年~2年位かかるといわれています。

ですので,労働者としては,当事者間に深刻な対立が無く調停成立の見込がある場合などは,スピーディな解決が期待できる労働審判を利用することがよいといえます。

他方で,労働審判は,調停が成立せず,審判がなされた場合でも,当事者から異議が出されれば,本訴に自動的に移行します。それゆえ,当事者間に深刻な対立がある場合(例えば,労働者が復職を求め,使用者がそれに応ずる見込が無い場合など)には,労働審判だけでは解決ができず,結局本訴に移行することになってしまう可能性が高いといえます。このような場合は,労働者は,最初からいきなり本訴を提起することも考えられます。もっとも,このような場合に労働審判を申し立て,地位確認の審判が認められれば,それが仮処分決定を得るための有力な疎明資料(証拠)となることもあります。また,労働審判を経た後の本訴の進行は,既に当事者から主張・証拠が出された後なので,比較的迅速に審理が進められるという実情もあります。

従って,当事者間の対立が深刻である場合でも,労働者が労働審判を申し立てる可能性はあるといえます。
結局は,労働者の意向に最もあった手続を,具体的状況下で選択していくことになります。

労働者による解雇の争いに対する企業側の対応(まとめ)

① まず,労働問題に精通した弁護士に相談

解雇の有効性はケースバイケースに行われますので,労働事件の経験実績が豊富な弁護士にまずは相談することが肝要です。相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いものです。

② 解雇通知書,解雇理由証明書の作成

後に起こされる裁判に耐えられるように,慎重に作成する。

③ 適切な対応準備

解雇の有効性の有無(見込み)に応じて適切な対応を行う。

④ 労働者側との交渉

まずは,労働者は裁判等の法的措置を使わずに,交渉による解決を目指すことが多いです。労働者との交渉は,事案の内容,労働者の状況等を総合考慮して適切に行う。

⑤ 裁判対応

会社が交渉に応じない又は労働者の望む解決に歩み寄る見込みがない場合は,労働者は法的措置を行う可能性が高いと言えます。具体的には,労働審判手続,仮処分手続,訴訟手続がありますが,各手続の性質に従って適切に対応する必要があります。

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