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退職届の撤回ができる場合がある?

ご質問

当社は、酒類販売を業とする会社です。当社の会計課に、経理担当者として勤務している社員Yがいたのですが、昨年入った税務調査の際に私に不手際があり、また,第三者に顧客の注文をまわしたことが発覚しました。当社としては、Xに対し懲戒解雇処分を行いたいと考えましたが、Xの将来を考え任意退職を行うよう勧奨しました。Yは退職届を提出し、退職金等を受領しました。しかし、その後、Yは弁護士を立てて上記退職願いの撤回、職場復帰などを請求してきました。当社はかかるYの請求に応じなければならないのでしょうか?

回答

退職届が提出された場合は,一般的には,労働者が使用者の同意を得なくても辞めるとの強い意思をもっていることが明らかな場合を除き,合意解約の申込みがあったと解されています。従って,貴社が承諾する前であれば(承諾は,承諾の権限を有する者によってなされることが必要です),申込みの意思表示を撤回することは可能です。

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  • 労働者の提出した退職届は合意解約の申し込みと解される。
  • 退職届の撤回を防ぐには、速やかに有効な承諾を行う必要がある。

解説

1 退職届の種類と法的性質

退職届には,①一方的解約(辞職)の通知,②合意解約の申込み,③合意解約の申込みに対する承諾,の3通りがあり得ます。合意解約の申込みがなされた場合は,期間の定めのある契約か否かにかかわりなく,他方当事者の承諾により合意(解約)が成立し,合意内容通りに労働契約は終了します。

2 退職届の撤回

(1) 退職届が辞職の通知である場合
労働者からする一方的解約の通知であり,これが使用者のもとに到達してしまうと,到達時に効力が生じるので,もはや使用者の同意がない限り,撤回できないこととなります。

(2) 退職届が合意解約の申込みである場合
この場合,民法521条,524条の適用はされず,使用者が承諾する前であれば,労働者は申込みの意思表示を自由に撤回できます。雇用契約という,継続的に存続してきた契約を消滅させる合意についての申込みには,新しく契約を締結しようとする申込みの場合に機能する民法の規定はあてはまらないからです。
なお,使用者の承諾は,承諾の権限を有する者によってなされることが必要です。また,使用者の承諾の意思表示があったといえるためには,就業規則等で特別な定めがされていない限り,特別な方式は必要とされていないと解されています。

(3) 退職届が合意解約の承諾である場合
使用者が合意解約の申込みをし,これに対して労働者が退職届を提出することにより承諾の意思表示をした場合は,合意解約が成立し,もはや使用者の同意がない限り,退職届の撤回はできません。

(4) なお,撤回したにもかかわらず,退職金が振り込まれたような場合は,これを返還又は供託するか,労働者において預かり保管し,それ以降に発生する賃金の一部として受領する旨の意思表示をしておくべきでしょう。これをしないと,労働者も合意解約の成立を黙示に認めたとみなされることがあります。

3 辞職(退職)と合意解約の違い

  辞職 合意退職
退職の効果の
発生時期
使用者に退職の意思表示が到達した時点で効力が生ずる。期間の定めがない雇用契約については,原則として辞職の意思表示が使用者に到達してから2週間を経過すれば退職の効果が生ずる(民627条1項) (1)合意解約の申込の意思表示にあたる場合
労働者の辞職の申出に対し,使用者の承諾の意思表示がなされた時点で退職の効果が生ずる。
(2)合意解約の承諾の意思表示にあたる場合
労働者の辞職申出がなされた時点で合意解約が成立し,退職の効果が生ずる。
退職申出の
撤回の可否
使用者に到達すると,到達時に効力が生ずるので,使用者の同意がない限り,撤回できない。 (1)合意解約の申込の意思表示にあたる場合
使用者が承諾する前であれば,合意解約の申込の意思表示を撤回することができる。
(2)合意解約の承諾の意思表示にあたる場合
使用者の同意がない限り,退職届の撤回はできない。
退職申出の
性質
労働者による一方的解約の意思表示 合意解約の(1)申込の意思表示又は(2)承諾の意思表示

4 辞職の意思表示と合意解約との区別はどのようになされるか?

労働者から退職の申出がなされた場合,使用者の態度いかんにかかわらず確定的に雇用契約を終了させる意思が客観的に明らかな場合に限り辞職の意思表示と解され,そうでない場合は合意解約の申込と解するのが当事者の意思解釈として合理的であると思われます。

5 合意解約の申出(申込の意思表示)に対する使用者の承諾はいかなる場合に認められるか?

(1) 人事部長等の承諾権限を有する者によってなされることが必要です。
(2) 退職届の受理だけではなく,さらに内部的決済手続を要する場合は,その手続が行われ,本人に通知されることが必要です。
(3) 就業規則等に承諾の意思表示をするには辞令の交付等が必要である旨規定されている場合は,その交付等が必要となります

対応方法

1 まずは弁護士に相談!

退職届の撤回に際して貴社が採れる手段は,ケースバイケースに存在します。もっとも,従業員にとっても退職を撤回できるか否かということは,生活の糧となる収入が途絶えることになりますので,安易な措置はトラブルを生み,かえって貴社に混乱とコストの負担をかけることにもなりかねません。
まずは,なるべく早くご相談下さい。相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いものです。
弁護士は,あなたのご事情を伺い,具体的対応策をあなたと一緒に検討し,最善の解決策をアドバイスします。
貴社のケースでは解雇は有効になるのか否か,具体的な対策として打つべき手は何か,証拠として押さえておくべきものは何か等をアドバイスします。

2 証拠の収集

法的措置に対応する場合はもちろん,交渉による解決を目指す場合も,証拠の確保が極めて重要になります。貴社にとって有利な証拠を出来るだけ確保して下さい。

3 労働者との交渉

まずは,法的措置に進む前に,労働者と交渉して,貴社の望む結果(問題社員の退職,解雇,低額の解決金の支払い等より有利な条件での退職等)が得られるようにします。 裁判に訴えられる前の交渉の時点で解決できれば,貴社にとっても次のようなメリットがあります。

①早期に解決できることにより,人的負担が回避できる。

法的手続に進んだ場合,労働者に関係する従業員(同僚・上司)はもちろん,経営者にも時間・労力・精神的負担を割くことを要求されます。この負担が日常業務に加わることで,かなりの負担感となります。交渉で解決することによりかかる人的負担が早期に回避できます。

②労働審判・訴訟等の法的手続に進んだ場合より解決金の水準が低い

一般に法的手続に進む場合に比べ,企業が支払う解決金の金額は低いものとなります。

4 裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,労働者は自己の権利の実現を求めて裁判を起こす可能性が高いと言えます。具体的には,賃金仮払い仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,労働者が事案に応じて手続を選択して,自己の請求の実現を目指すことになります。貴社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります

労働問題.comの対応

1 経験豊富な弁護士に相談

労働問題は適用される法律が難解で事実関係が極めて複雑であり,また,貴社が採るべき対応策はケースバイケースで決めざるを得ません。貴社独自で調査の上でのご対応が,時に誤った方法であることも多分にございます。
そこで,まず,労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士にご相談下さい。ご相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いのが実際ですので,トラブルが少しでも生じましたら出来るだけ早期にご相談されることをお勧めいたします。
労働問題.COMでは,常に労働問題を専門的に取り扱う経験豊富な弁護士が直接対応させていただいております(原則的に代表弁護士である吉村が対応させて頂きます。)。裁判のリスクを踏まえながら,法律上の問題点を指摘しつつも,抽象的な法律論に終始することなく,貴社が採るべき具体的な対応策を助言いたします。早期のご相談により紛争を未然に防止することが出来た事例が多数ございます。また、その後の交渉・裁判対応においても有利な対応を取ることが出来ます。

2 継続的なご相談・コンサルティング

労使間のトラブルは一時的なものではなく,長期化することがしばしばあります。ケースバイケースに採るべき対応策や確保すべき証拠も異なりますし,時々刻々と状況が変わっていき,その都度適切な対応をとることが必要です。この対応が間違っていた為に,その後の交渉や法的措置の段階で不利な状況に立たされることもままあります。
労働問題.COMでは,経験豊富な弁護士が,継続的なご相談を受けコンサルティングを行います。初期の段階より貴社にとって有利な対応をアドバイスしていきます。それにより,その後の交渉・法的措置にとって有利な証拠を確保でき,適切な対応をとることで,万全の準備が出来ます。また,継続的に相談が出来ることにより安心して他の日常業務に専念していただくことができます。

3 貴社を代理して労働者(弁護士,労働組合)と交渉いたします。

労使間のトラブルは一時的なものではなく,長期化することがしばしばあります。ケースバイケースに採るべき対応策や確保すべき証拠も異なりますし,時々刻々と状況が変わっていき,その都度適切な対応をとることが必要です。この対応が間違っていた為に,その後の交渉や法的措置の段階で不利な状況に立たされることもままあります。
労働問題.COMでは,経験豊富な弁護士が,継続的なご相談を受けコンサルティングを行います。初期の段階より貴社にとって有利な対応をアドバイスしていきます。それにより,その後の交渉・法的措置にとって有利な証拠を確保でき,適切な対応をとることで,万全の準備が出来ます。また,継続的に相談が出来ることにより安心して他の日常業務に専念していただくことができます

4 裁判対応

労働者が労働審判,仮処分,訴訟などの裁判を起こしてくる場合が近時急増しています。かかる裁判への対応は法律で訴訟代理権を独占する弁護士のみが対応することができます。
但し,労働問題を適切に対応することができるのは労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士に他なりませんが,労働問題は極めて特殊専門領域であるため,経験実績がない又は乏しい弁護士が殆どである実情があります。
労働問題.COMでは,労働事件を専門分野とし,裁判対応の豊富な経験実績を有する弁護士が常時対応させていただいております。貴社に対し,最善の弁護活動をお約束いたします

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参考裁判例

辞職の意思表示ではなく,雇用契約の合意解約の申込みであるとされた事例

株式会社大通事件

大阪地判平成10.7.17労働判例750-79

(事案の概要)

Xは,主に自動車貨物運送業を営む株式会社であるYに,平成7年2月に雇用され,主として線状鋼材を運搬,荷積,荷降する業務に従事していた。 しかし,同8年8月26日,Yの常務取締役であるAが,Xに対し,Xの同月23日の言動は,得意先の従業員に暴言を吐き,手洗い場の流し台を破損させるなど,著しく不穏当なものであったとして,1週間の休職処分を申し渡したところ,Xは,「不公平だ。一方的に俺だけが処分されるくらいなら,会社を辞めたるわ。」と言って,Yの事務所を出て行き,その翌日は出社しなかった。

(裁判所の判断)

裁判所は,「原告(筆者注:X)が平成8年8月26日にしたA常務に対する言動を見るに,原告は,「会社を辞めたる。」旨発言し,A常務の制止も聞かず部屋を退出していることから,右原告の言動は,被告(筆者注:Y)に対し,確定的に辞職の意思表示をしたと見る余地がないではない。しかしながら,原告の「会社を辞めたる。」旨の発言は,A常務から休職処分を言い渡されたことに反発してされたもので,仮に被告が右処分を撤回するなどして原告を慰留した場合にまで退職の意思を貫く趣旨であるとは考えられず,A常務も,飛び出して行った原告を引き止めようとしたほか,翌8月27日にもその意思を確認する旨の電話をするなど,原告の右発言を,必ずしも確定的な辞職の意思表示とは受け取っていなかったことが窺われる。したがって,これらの事情を考慮すると,原告の右「会社を辞めたる。」旨の発言は,使用者の態度如何にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかなものではあるとは言い難く,右原告の発言は,辞職の意思表示ではなく,雇用契約の合意解約の申込みであると解すべきである。したがって,右原告の発言が辞職の意思表示であることを前提とする被告の主張は理由がない(なお,念のために付言すると,本件においては,原告は,被告が合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をするまでに,右申込みを撤回したというべきであるから,合意解約も成立していないと解される)。」とした。

原告が提出した退職願について,教職員の任免権者である理事長による承諾の意思表示が原告に到達する前であれば,原告は当該退職の意思表示を有効に撤回することができるとされた事例

学校法人白頭学院事件

大阪地判平成10.7.17労働判例750-79

(事案の概要)

Xは,Yの設置する中学校及び高校において,体育教員として勤務していた。
しかし,Xは,平成7年12月20日午後1時ころ,Yの校長(以下,「校長」という。)に対し,退職願を提出したが,同日午後3時過ぎころ,校長に対し,電話で右退職願を撤回する旨の意思表示をした。

(裁判所の判断)

裁判所は,「原告(筆者注:X)は,平成7年12月20日,校長に対して退職願を提出しており,原告は,被告(筆者注:Y)に対しこれにより雇用契約の合意解約の申込をしたものと認めることができる。これに対し,原告は,校長に退職願を預けただけであり,合意解約の申込に該当しない旨主張するが,原告本人によれば,原告は,真に退職する意思を有していたことが認められ,原告の右主張は採用できない。労働者による雇用契約の合意解約の申込は,これに対する使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し,雇用契約終了の効果が発生するまでは,使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り,労働者においてこれを撤回することができると解するのが相当である。・・・原告は,合意解約の申込から約2時間後にこれを撤回したものであって,被告に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情が存在することは窺われず,原告は,理事長による承諾の意思表示が原告に到達する前に,合意解約の申込を有効に撤回したものと認められるので,被告の合意解約が成立した旨の主張は,その余の点につき判断するまでもなく理由がない。」とした。

人事部長による退職届の受領をもって,雇用契約の解約申込みに対する即時承諾の意思表示がなされたと解すべきものとされた事例

大隈鉄工所事件

最判昭和62.9.18労働判例504-6

(裁判所の判断)

裁判所は,「A人事部長に被上告人の退職願に対する退職承認の決定権があるならば,原審の確定した前記事実関係のもとにおいては,A人事部長が被上告人の退職願を受理したことをもって本件雇用契約の解約申込に対する上告人の即時承諾の意思表示がされたものというべく,これによって本件雇用契約の合意解約が成立したものと解するのがむしろ当然である。以上と異なる前提のもとに,A人事部長による被上告人の退職願の受理は解約申込の意思表示を受領したことを意味するにとどまるとした原審の判断は,到底是認し難いものといわなければならない。」とした。

(コメント)

一審は,本件退職の意思表示は動機の錯誤により無効であるとし,二審は,右意思表示は真意によるものとしたが,人事部長による本件退職届の受理は右意思表示の受諾にすぎず,上告人会社による承諾は未だなされてはおらず,右承諾(雇用契約の合意解約の成立)以前に右意思表示が有効に撤回されており,雇用契約関係はなお存続しているものと判断しました。これに対し,本判決は,人事部長による退職届の受理によって,雇用契約の解約申込に対する上告人の即時承諾の意思表示がなされたとして,二審判決を破棄したうえ,事件を差し戻しました。

工場長には,当該工場勤務の労働者からの退職願を受理・承認して労働契約合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をする権限があると認められた事例

ネスレ事件

東京高判平成13.9.12労働判例817-46

(事案の概要)

Yの従業員としてYの霞ケ浦工場で稼働していたXは,平成12年5月17日に同工場長A宛に「この度,一身上の都合により平成12年5月17日付で退職致したくお願いします。」と記載した退職願(本件退職願)を提出して,労働契約の合意解約の申込みの意思表示をし,Aは,Xに対し,本件退職願を受理・承認したので,Aは同日付けをもって退職となる旨記載した通知書を交付して,退職を承諾する旨の意思表示をした。

(裁判所の判断)

同事件の一審判決は,Yの各工場長には,当該工場勤務の労働者からの退職願を受理・承認して労働契約合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をする権限があると認められ,特段の事情のない限り,XとYの労働契約は,XがYに対して退職願を提出して合意解約申込みの意思表示をし,同日工場長が退職通知書をXに交付してこれを承諾する意思表示をした時点で,合意解約により終了したとした。本判決(二審)は,一審判決を相当として控訴を棄却した。

常務取締役観光部長には,単独で退職承認をなす権限は存しなかったとされた事例

岡山電気軌道事件

岡山地判平成3.11.19労働判例613-70

(事案の概要)

Yは,定期路線バス,観光バス,電気軌道,ロープウェイ等の旅客運送営業をなす株式会社であり,Xは,昭和54年2月16日,Yと雇用契約を結んでYに自動車運転手として雇用された。
しかし,Xは,昭和62年12月2日,Yに対し,退職願(以下,「本件退職願」という。)を提出し,XY間の雇用契約関係終了のための合意解約の申し込みをした。

(裁判所の判断)

裁判所は,「A常務は常務取締役観光部長として,営業部,観光部,整備部の主任以下の従業員について退職承認を含む人事権を与えられており,同月2日,本件退職願を受理したとき,ただちに承諾の意思表示をした旨主張し,・・には,右主張に添う「A常務は包括的人事権を与えられていた」又は「原告(筆者注:X)が退職願いを提出したとき,同常務は,『わかりました,認めて処理します』と述ベ退職を承認した」旨の記載部分がある。そこで,A常務には被告(筆者注:Y)が主張するような人事権を付与されていたかどうかについて検討してみる。・・・原告が昭和62年12月2日作成した本件退職願は,常務宛でなく社長宛となっていること,被告には会社組織上労務部が置かれており,その「業務分掌規程」には明文をもって,従業員の求人,採用,任免等に関する事項は労務部の分掌とされていること,労務部にはB部長以下の職員が配置されており,その統括役員はA常務ではなくC常務取締役であること,右分掌規程には,分掌の運用に当たってはその限界を厳格に維持し,業務の重複および間隙又は越権を生ぜしめてはならない旨規定していること(第3条),被告は業務分掌規程と職務権限規程とは別個であると主張しながら,職務権限規程について明文で定めたものは存在しないこと,また,権限委譲についても明文で定めたものはないこと,通常の退職願承認の手続は,社長宛の退職届が所属長に提出され,所属の部長,担当常務に渡され,営業所長が退職届を受理すると判断のうえ,営業課の稟議簿に記録し,営業課長,営業所長,自動車部担当常務と順次閲覧の後,本社分務部にまわされ担当の常務取締役,専務取締役によって決済され承認していたことが認められ,これによると結局,A常務には同人が統括する観光部,営業部,整備部に所属する従業員の任免に関する人事権が分掌されていたとは解されない。しかも,原告が本件退職願を提出するに至った経過に照らしてみれば,A常務が専務取締役Dとの協議を経ることなく単独で即時退職承認の可否を決し,その意思表示をなしえたということはできない。なお,A常務が本件退職願を原告から受け取ったとき,ただちに退職承認の意思表示をした旨の主張については,・・採用することはできず,他にこの点に関して被告主張事実を認めるに足りる証拠はない。」とした。

(コメント)

本件は,常務取締役観光部長に対する退職届の提出の翌日(正式の撤回届は1週間後),右退職の意思表示を撤回した観光バスの運転手が,従業員たる地位の確認等を求めたものですが,判決は右請求を認容しました。

退職願が承認前に撤回されたものと認められた事例

東邦大学事件

東京地決昭和44.11.11労働判例91-35

(事案の概要)

Xは,昭和39年3月21日,Y大学の助教授に採用され,理学部に勤務し,教育および高分子物理化学関係の研究に従事していた。

(裁判所の判断)

裁判所は,「申請人(筆者注:X)は,昭和44年4月23日被申請人(筆者注:Y)に対し,就業規則の規定に従い,退職願の提出をもって被申請人との間の雇傭契約を合意解約したい旨の承諾期間の定めのない申込の意思表示をなしたが,その後約1ヶ月半を経過した同年6月9日にいたって右申込の意思表示を撤回し(上記就業規則の退職条項は,その文言および強行規定である民法627条の法意に鑑みると,雇傭契約の解約申入(告知)に関して規定したものと解することは相当でなく,申請人の本件退職願の提出も,これを一方的な解約申入の意思表示とみることはできない。),被申請人は,右撤回の後である同月11日に人事異動通知書をもって承諾の意思表示を発したものといわざるを得ず,申請人が退職願を提出するにいたった経緯に照らせば,申請人の右退職願撤回の意思表示は,申請人が被申請人から承諾の通知を受けるに相当な期間を経過した後になされた有効なものと認めるのを相当とするから,申請人と被申請人間において雇傭契約解約の合意は成立せず,両者間の雇傭契約関係は依然として存続しているものといわなければならない。」とした。

退職者募集に応じて退職申出書を提出したが,「合意書」を作成する前に退職申出を撤回しているとして合意解約の成立が否定された事例

ピー・アンド・ジー明石工場事件

大阪高決平成16.3.30労働判例872-24

(裁判所の判断)

裁判所は,「抗告人は,平成14年11月8日,本件退職申出書をCマネージャーに提出し,同日,Cマネージャーが所属長承認欄に署名し,さらに,工場長であるFが工場長承認欄に記名押印したことが認められるが,他方,抗告人が本件退職申出書を提出する契機となった「特別優遇措置による退職者募集受付について」と題する書面(甲2)には,募集受付方法の欄に「・退職応募者は「特別優遇措置による退職申出書」に①必要事項を記入し,②希望する再就職支援制度の丸印をし,捺印をした後に,その申出書を所属長に提出する。・会社が退職を受理した者に対しては,所属長と業務引継ぎ等を考慮して①最終就業日,②退職日の確定を行った後に「合意書」を作成して受付完了とする。」旨記載されていること,また,本件退職申出書(甲8)には,「退職日・最終就業日に関しては,所属長と業務引継ぎ等の話し合いを行った上で,最終決定する事を了解します。」と記載されていることがそれぞれ認められ,これらの記載に照らすと,「合意書」が作成されるまでは,退職の受付は完了せず,抗告人と相手方との間の退職の合意は,成立しないものと解するのが相当である。そうすると,上記のとおり,抗告人は,「合意書」を作成する前に,本件退職申出を撤回しているから,抗告人と相手方との間の退職の合意(労働契約解約の合意)は成立していないと一応認めることができる。」とした。

塩野義製薬事件

大阪地決昭和63.9.6労働経済判例速報1337-11

従業員が退職届を提出したことから、会社が退職を承認する旨の内部決定をした上で、これを従業員に告知したという事案につき、合意解約の成立を認めた。

穂積運輸倉庫事件

大阪地決平成8.8.28労働経済判例速報1609-3

従業員が辞職届を上司に提出したところ、それが会社代表者に手渡され、一方で会社所定の退職届が同従業員らに手渡されたという事案につき、会社の承諾の意思表示を認めた。

退職合意承諾の意思表示にはその動機に錯誤があり無効となった事例

澤井商店事件

大阪地決平成元.3.27労働判例536-16

(事案の概要)

Yは、酒類の販売などを業とする株式会社である。Xは、Yの前身の個人商店の時代である昭和三〇年八月に経理担当者として雇用され、同商店が法人化後も経理担当者として勤務していた者である。 Xは,

(裁判所の判断)
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