求人詐欺!?トラブルにならない「求人票」の書き方,条件変更のやり方

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求人票の画像

近時、求人詐欺トラブルが増加している。求人詐欺とは,求人企業が現実の労働条件と異なる労働条件(好条件)を餌にして雇用契約を締結し、それを信じた労働者を予期に反する悪条件で労働を強いることを意味する。求人票の記載と比較して実際には「低い賃金だった」「少ない休日数だった」「仕事内容が違う」という形でトラブルとなる
しかし,求人企業としては求人票を出す段階では賃金額や職務内容などを確定できないことも多く,求人票に記載した内容とは異なる雇用契約を締結せざるを得ない場合もある。ただ,そこには思わぬ落とし穴・リスクが潜んでおり,結果的に求人票に記載したとおりの労働条件が雇用条件となってしまったり,罰則の規定を受けるリスクもある。
そこで,今回は求人票の作成や雇用契約の締結に際して,求人詐欺と言われない為に会社・社長が知っておきたいノウハウを具体的にわかりやすく説明したい。

1 求人詐欺とは?

最近,報道やネット記事で求人詐欺という言葉を目にするようになった。

求人詐欺とは,求人企業が現実の労働条件と異なる好条件を餌にして雇用契約を締結し、それを信じた労働者を予期に反する悪条件で労働を強いることを意味する。

例えば,求人票に記載した労働条件と実際に働き始めた後に提示された労働条件が異なり,「給料が安い」「労働時間や勤務日が話と違う」「聞いていない仕事内容だ」などという不満が寄せられることが多い。

厚生労働省も求人票の労働条件と実際の労働条件の相違については年間9,233件の苦情がよせられたと公表している(平成28年度のハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出等の件数)。この件数は非常に多い件数といえ,頻発しているトラブル類型ということができる。

しかし,求人票を出す段階では求人企業は応募者と面接すらしていない段階だ。その能力や適性も分からない段階で確定的な労働条件を設定できないことも多いだろう。

そして,法律は求人票で記載した労働条件と異なる労働条件で雇用契約を締結すること自体を禁止している訳ではない。

つまり,求人票の記載≠実際の雇用契約の労働条件であったとしても必ずしも違法という訳ではなく,求人詐欺として非難されるものでもないのだ。この点をまずは強調したい。

しかし,求人票の記載≠雇用契約の労働条件の場合,思わぬ落とし穴・リスクがある。

2 求人詐欺(求人票の記載≠雇用契約)のリスク

2.1 求人票の記載が雇用条件として確定されてしまう

まず、求人票の記載≠雇用契約の労働条件の場合に想定される最大のリスクは、見込で設定していた求人票の雇用条件がそのまま実際の雇用契約上の労働条件となってしまうことだ。

具体例で説明しよう。

Y会社がハローワークに出した求人票では、期間の定めの記載と定年退職の定めが記載されていなかった。それを見てXが採用に応募し,Y社の面接を受けた。面接では,期間の定めや定年についての説明がなされることなく,Y社はXに採用通知を出した。XはY社で勤務開始した後,Y社より労働条件通知書を提示された。しかし,そこには,雇用期間の定めあり(1年),定年制あり(65歳)との記載がなされていた。求人票の記載を信じていたXは話が違うと考え,Y社を訴えた。

このような事例で,裁判所は,「求人票は,求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので,求職者は,当然に求職票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから,求人票記載の労働条件は,当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り,雇用契約の内容となると解するのが相当である」と判示し,求人票に記載されていた条件(期間の定めなし,定年制なし)で雇用条件が成立したとして,それを前提にXの勝訴判決を言い渡した(福祉事業者A苑事件(京都地方裁判所平成29年3月30日判決)。

つまり,求人票の記載と実際の雇用契約の労働条件が相違するにもかかわらず,相違点を応募者に明示しないで採用(内定)を通知した場合,求人票記載の雇用条件をもって労働契約上の雇用条件とみなされてしまうのである。

誤解を恐れず言えば,求人票に甘い蜜のような条件を記載して応募をおびき寄せておきながら,採用通知を出した後に,後出しで労働条件の変更をしても,それは認められないのだ。

2.2 罰則や公表がある

また,罰則や公表など厚労省の制裁や指導がなされる。

虚偽の条件を提示してハローワークに求人の申込みを行ったり自社HPなどで求人を行った場合は,6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられる(職業安定法65条8号)。

また,労働条件の明示や労働条件変更等の明示義務に違反して,ハローワークに求人を出したり,自社HPなどで求人を行った場合は,厚労省が勧告や企業名公表等を行うことがありえる。

2.3 会社の信用を失う

まず、入社後に求人票に記載されている雇用条件を下回る条件を提示された場合、その社員はあなたの会社に不信感を抱くことは間違いない。特に、賃金・賞与・退職金などの収入に関わる条件や雇用期間・定年などの身分に関わる条件が求人票の記載を下回る場合,トラブルに発展することが非常に多い。せっかくコストと手間をかけて採用したのに最初から不信感を持たれてしまっては仕事の成果は期待できるはずもない。

また,上記2.1、2.2のような法的なペナルティや公表などがなされると,企業の信用を失うことは明らかだ。

特に,最近では求人詐欺を厳しく糾弾するユニオン(労働組合)や弁護士がおり,ネットニュースやSNSなどで情報が拡散され,重大な風評被害にも繋がりかねない。

そうなれば,一層会社としての信用を失い,その後の求人活動などにも重大な影響を及ぼしかねない。昨今の人材不足の状況からすれば,人材不足で倒産に至るケースもありえるだろう。

このように求人票の記載と実際の雇用条件に相違が生ずる場合は,会社はリスクを負うことになり,決して軽視することはできない。

では,トラブルにならない為には会社はどのような対応をするべきなのだろうか?

3 トラブルにならない求人票の記載ポイント

3.1 求人票に正確な記載をする

まずは、当たり前のことだが,嘘のない正確な雇用条件を記載することだ。間違っても虚偽の内容の記載をするべきではない。

最近の人材市場は売り手市場となっており他企業より高い賃金を掲げなければ応募は集まらない。他方で,業界不況により人件費率を上げることはできない。そのような背景から、苦肉の策として、実際には出せない程度の金額の賃金などを求人票に記載して募集をしようとする企業も多い。特に,労働集約型の事業(飲食店,接客業など)にこの傾向がある。

しかし、前記のとおりそれによるデメリットは大きい。そこまでして採用しなければならないのならば、会社のビジネスモデルや財務状況を含めて抜本的に見直す必要があるだろう。

3.2 不確定な条件については,求人票に断定的な記載をしない

雇用条件を正確に記載するべきではあるが、実際には面接などを経なければ確定的な雇用条件を示せないこともあるだろう。その場合は、断定的な雇用条件は記載してはならない幅を持たせた記載をするべきだ。

そもそも,求人票には、必ずしも確定的な条件を記載しなければならない訳ではなく,幅を持たせた記載をすることは可能だ。

具体例
「賃金 基本給 25万円~35万円(能力・経験等を考慮して面接後に正式に決定)」
「賞与の支給 あり ただし,支給の有無や金額は会社の業績等を勘案して定める」

3.3 求人票記載のポイント

① 業務内容

・採用後に実際に予定している業務について具体的かつ詳細に記載する。
業務内容の変更,職種の変更等があり得る場合は,「ただし,業務上の必要により業務内容・職種の変更あり」といった記載を付記する。

② 雇用形態・雇用期間

・雇用形態のうち,「正社員」は無期雇用であると理解されることが一般。有期雇用の場合は期間の定めを明確にする。

③ 就業場所

・当初の就業場所を具体的に記載し,就業場所の変更や転勤の可能性がある場合は明確にする。

④ 賃金

・ 賃金形態(月給,日給,時給等の区分),基本給,定額的に支払われる手当,通勤手当,昇給に関する事項等について明示する。

・ 「賃金 基本給 25万円~35万円」というように下限額と上限額を記載することがあるが,下限額を下回る金額での条件提示をすることがないようにする。逆に,払うつもりがない上限額を記載することも控えるべき。下限額と上限額の差が大きいと応募者の信用を失うこともあるので控えるべき。

・ 固定残業代が含まれる場合は,①固定残業代の算定基礎である労働時間数及び金額②固定残業代を除外した基本給の額③固定残業時間を超える時間外労働,休日労働,深夜労働についての割増賃金を追加で支払うことを明記する(※1厚生労働省の指針にも明記されている)。→参考記事「固定残業代を有効とするために知っておきたいチェックポイント」

4 求人票の記載と実際の労働条件に相違が生ずる場合の対応

どんなに求人票の記載に注意を払っていたとしても,採用面接後に実際に提示する労働条件と相違することはあり得る。

例えば,採用面接した後,求人票で募集していた職務内容や賃金額にはマッチしないが,別の職務内容・賃金額であったら採用してもよい,と考えることもあり得るだろう。

そのような場合,求人票に記載した雇用条件とは異なる雇用条件での採用を行うことが禁止されるわけではない。一定の配慮の下に行えば,リスクを回避しながら採用することも可能だ。

では,どのような配慮が必要なのか?

4.1 速やかに伝える

まずは,求人票の内容と異なる労働条件を提示する場合,速やかに提示を行うべきだ。遅くとも,採用(内定)通知を出す前に提示しなければならない。

なぜなら,先述のとおり、求人票の記載と変更した条件で採用しようとしても,その変更後の条件を示さずに採用(内定)通知を出した場合,求人票に記載した条件で採用したことになってしまうからだ。

また,応募者が他企業に在職中の場合は,その前職を辞める前に提示した方がよい。

求人票の記載のとおりに採用されると信じて前職を退職したが,その後,求人票の記載を下回る条件を提示された場合,トラブルになることが多いからだ。

4.2 変更内容等の文書で示す

提示の方法にも配慮が必要だ。

事後的に言った言わないのトラブルを避ける為,労働条件の提示は文書で行うべきだ。

そして,求人票の記載を変更した条件を提示する場合,変更した点を比較対照できる体裁をとること,変更した理由についても明記するべきだ(※1厚労省の指針にも同旨の指導が記載されている)。

例えば,以下の書式などを参考にしてもらいたい。

4.3 応募者からの問い合わせには誠実に応ずる

応募者から変更理由等について質問がなされた場合は,誠実に対応するべきだ。出来れば質問の機会を与えた方がよいだろう。

4.4 入社する場合,変更後の労働条件を前提に文書で承諾を得る

そして,最終的に,応募者にて変更後の条件を前提に入社を承諾した場合は,その承諾を文書にしておくべきだ。これも言った言わないのトラブルを後で起こさない為である。

なお,承諾を得る為には,承諾の期限を設けるべきだろう。変更後の条件提示がいつまでも有効となってしまうことを回避するためだ。

甲野太郎 殿

2019年2月1日

株式会社HRメソッド
代表取締役 労務健太郎

採用条件説明書兼承諾書

前略
時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて,先日はご多忙のところ,当社求人にご応募いただき,採用面接にお越し頂きありがとうございました。
当社による選考の結果,諸般の事情を考慮した結果,以下の雇用条件であれば貴殿の採用をさせて頂きたいとの結論に達しました。ただし,以下のとおり求人票記載の雇用条件との変更がございます。その理由も併せて説明させて頂いておりますので併せてご確認をお願い申し上げます。ご不明な点などがございましたら,当社人事部担当(磯村喜平 TEL03-1234-●●●●内354)までお問合せ下さい。
ご確認いただき,下記雇用条件にてご承諾頂ける場合は,下記承諾欄に住所記載・署名・捺印の上,2019年2月末日までに,同封の返信用封筒にて当社人事部宛にご返送願います。本書面の返信をもって,貴殿の採用を正式に決定させて頂きます。
是非とも前向きにご検討頂きますようお願いします。

【労働条件の変更点】

変更前 変更後
職位 主任 係長
基本給 月28万円~33万円 月26万円
職務手当 4万円 2万5000円

【変更の理由】
求人票では,主任の職位を想定し,労働条件を設定しておりました。貴殿の職務年数や保有資格は,当社の主任職としての条件(経験年数,保有資格等)に満たないものでしたが,当社係長職の条件には十分なものでした。そこで,係長職を前提に基本給及び職務手当を決定し,求人票の記載とは変更した条件を提示する次第です。

草々

 上記雇用条件の変更点・変更理由を理解の上,真意に基づき変更後の労働条件による採用につき承諾します。

年   月   日
住所
氏名             印

5 まとめ

以上,求人詐欺と言われない為に会社・社長が知っておきたいノウハウを具体的にわかりやすく説明した。ご理解いただけただろうか?

求人・採用は,雇用契約のスタート地点だ。

求人票の記載内容などによって,応募者の不信を買うようなことがあっては,長く続くであろう雇用関係の最初からつまずくことになり,その後の円満な関係は望めない。

社長・経営者と労働者,結局は人と人,気持ちと気持ちのつながりが重要だ。つまらないミスで最初から気持ちのしこりができないよう,参考にしてもらえれば幸いです。

※1 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針

※ >>求人票に関する法律・規則・通達(抜粋)はこちら

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