5分で理解! 減給の懲戒処分の限界 

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減給の懲戒処分の限界

社員が重大な規律違反を犯した場合,減給の懲戒処分を行うことがある。その場合,3ヶ月間賃金月額10%カットといった減給をしたいという経営者も多いだろう。しかし,減給の懲戒処分に対しては法律上の制限があるのだが分かりにくく誤解している経営者も多い。そこで,今回は減給の懲戒処分の限界について具体的な事例を示しながらわかりやすく説明したい。

1 法律の制限

1.1 労基法第91条が定める制限

減給の懲戒については,労基法91条が定めを置いている。

第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

この労基法91条が定めている減給の制裁の限度に関するルールは次の2点だ。

1.2 ①ルール1

まず,「1回の非違行為の事案に対して平均賃金の1日分の半額以下」にしなければならない。

これは懲戒事案1回に対しての減給額は平均賃金の1日分の2分の1以下でなければならないということだ。

例えば,営業担当の社員が会社の内規に違反する取引を行い会社に1000万円の損害が生じさせた事案があったとして,その事案に対する減給の処分は1回しかできず,かつ,その1回の減給額は平均賃金1日分の2分の1以下にしなければならない。

月給が30万円の社員であれば,平均賃金の1日分は大体1万円となりますので,その半額である5000円以下が1事案あたりの減給額の限界となる。

これは,「少なすぎる」と感じる経営者もいるかもしれないが,この金額を超える減給をすることはできないし,どんなに重大な事案であっても1事案について複数の減給をすることもできない。

1.3 ②ルール2

2つ目のルールは,「1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」。これは,数回の非違行為に対して減給処分をするときも一賃金支払期における貸金総額の10分の1を超えてはならないという意味である。

例えば,営業担当の社員が①内規違反の取引により100万円の損害が生じた,②営業車を重大な不注意で損壊してしまった,③経費精算に不正があった,④接待の不手際があり取引先を怒らせた,⑤重要な会議に遅刻した,⑥営業資料に重大なミスがあった,⑦メールを誤送信した,という7つの事例があったとする。

1事例ごとの減給の限界はルール1が適用され平均賃金1日分の2分の1以下にしなければならない。月給30万円の社員であれば,各事例について5000円が減給の限界だ。7つの事例であれば合計3万5000円が限界となるだろう。

ところが,さらにルール2が適用され賃金総額の10分の1を超えてはならないという制限がかかる。例えば,上記社員の10月分の賃金支払額が30万円だったとした場合,複数の事案があったとしても10分1の1である3万円を超えてはならない。

よって,上記事例ではルール1によって7事例で合計3万5000円の減給が出来る計算となるが,ルール2によって10月分の給料から減給できるのは3万円が限界となる。残りの5000円については,翌月11月分の給料から減給しなければならない。

ただ,1ヶ月に7回も減給しなければならないというのは現実的には余りないであろう。その意味でルール2が適用される場面というのは実際には少ないといえる。

以上が法律の定める減給の懲戒に関する限界だ。次に具体的な計算方法などを事例に即して検討してみよう。

2 具体的な計算事例

2.1 事例

【懲戒事案の発生】

Y会社の営業社員Xについて以下7件の懲戒事例が発生した。Xは以前に規律違反行為を犯しており,既に数回の厳重注意や譴責処分を受けていたこともあり,Y社は6/10に減給の懲戒処分をXへ通告した。

  • ①3/27 : 内規違反の取引により100万円の損害が生じた
  • ②4/2 : 営業車を重大な不注意で損壊してしまった
  • ③4/5 : 経費精算に不正があった
  • ④4/1 : 接待の不手際があり取引先を怒らせた
  • ⑤4/18 : 重要な会議に遅刻した
  • ⑥5/1日 : 営業資料に重大なミスがあった
  • ⑦5/23 : メールを誤送信した

2.2 ルール1(1回の減給限度額)の計算

2.2.1 平均賃金の計算方法

まず,ルール1により,減給額は,事案1件につき平均賃金の半額を超えてはならない。そこで,まずは平均賃金を算出することになる。算出式は以下のとおりだ。

平均賃金の計算式

平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間に,その労働者に対し支払われた賃金の総額を,その期間の総日数で除した金額

  • ※賃金締切日がある場合は,その起算日は直前の賃金締切日となる。
  • ※銭未満の端数は切り捨てることが可能(昭和22年11月5日基発第232号)
  • ※減給の懲戒処分の場合の「事由発生日」は減給の懲戒処分の意思表示が社員に到達した日

2.2.2 あてはめ

それでは,以下の事例について,具体的に計算してみよう。

【平均賃金】

平均賃金計算具体例

以上から,平均賃金は11,123円59銭となる。

【ルール1による実際の減給額の限度】

ルール1による,1事案についての減給の限度額は,平均賃金の半額,つまり,11,123円59銭 ÷ 2 = 5562円(円未満の端数は四捨五入)となる。

実際には上記のとおり7件の懲戒事案が発生しているので,5562円(円未満の端数は四捨五入)×7事例=38,943円がルール1による限度額となる。

ただし,ルール1だけで安心してはならない。次に,ルール2についても検討する必要がある。

2.3 ルール2(1賃金支払期における制限)

2.3.1 1 ルール2の基準について

ルール2は,「1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」というものである。

  • ※「賃金の総額」とは、当該賃金支払期において現実に支払われる賃金の総額を意味する(昭25.9.8 基収1338)。ルール1の制限のように「平均賃金」ではない点に注意が必要である。 また,欠勤や遅刻などがあったために(欠勤控除により)当該貸金支払期における貸金総額が少額となった場合も,その少額となった額の10分の1が減給し得る限界となる(昭和25年9月8日基収338号)。
  • ※「1賃金支払期」とは処分対象行為があった時点ではなく、減給が行われる時点を含む賃金の支払期を意味する。
  • ※ 非違行為が度重なって、1賃金支払期に対する減給合計額がその賃金総額の10分の1を超える場合、その超過分の減給は次期に繰り越さなければならない。 

2.3.2 あてはめ

では,ルール2に実際に事例にあてはめて検討してみる。

  1. 減給の懲戒処分の通告は6月1日に社員Xへ通告された。この時点を含む「1賃金の支払期」は6月20日(5/21~6/20)である。
  2.  6月20日支給の「賃金の総額」は300,000円である。
  3.  「1賃金支払期における賃金の総額の10分の1」は
    300,000円×0.1=30,000円となる。
  4.  よって,ルール1によって7事案について合計38,943円の減給の懲戒処分が可能であるが,6月20日支給の賃金から減給できるのは30,000円が限度である。残りの8,943円は7月20日支給の賃金から減給する必要がある。

2.4 向こう3カ月間、賃金1割カットの可否 

 企業で不祥事が生じた場合に役員が「向こう3カ月間、賃金1割カット(自主返納)」などとマスコミで報じられることがある。 
しかし、労基法が適用される民間企業の労使関係においては、現実的とはいえない。

 例えば,前述の月給30万円の営業社員の例で考えてみる。3ヶ月間賃金1割カットするということは,月給30万円×0.1×3ヶ月=90,000円の減給事案が発生していることが前提となる。前述のとおり平均賃金の1日分の半額は月給30万円の例では大体5000円であるので,90,000円 ÷ 5000円 = 18回の減給事案が発生していることが前提となる。

 ここまで減給の懲戒処分を必要とする事案が頻発することは現実的には想定し難いし,また18回の懲戒処分を一度にまとめて行うという点で事案の処理としても不適当と思われる。 

3 他に社員の賃金を減額させる方法はないか?

 以上のとおり減給の懲戒処分は限界が厳しく定められており,「減給できる額が少なすぎる」と感じる経営者も多い。そこで,他に社員の賃金を減額させる方法はないかを検討してみる。

3.1出勤停止に伴う減給は可能

出勤停止の懲戒処分がなされた場合、出勤停止期間中は賃金が支給されない。労働者の帰責事由によって労務提供がなされないので、民法536条2項により出勤停止期間中は賃金が支給されない。つまり,出勤停止の当然の結果であり、減給の制裁には当たらないので、労基法第91条の制限にはかからない。 

例えば,先ほどの月給30万円の営業社員の例で,減給の懲戒処分の場合は,1賃金支払期における賃金総額の10分の1が限度となるため,30,000円を超えて減給することは出来ない。

これに対し,出勤停止10日間の懲戒処分を行った場合,10000円×10日=100,000円の賃金を不支給とすることが可能となる。

3.2 降格・降職等に伴う賃金の減給 も可能

人事権行使としての降格・降職等による賃金の引き下げは、職務変更に伴って賃金が変動する賃金制度(役割等級制度、職能資格制度、職務等級制度など)が採用されている場合は、「減給の制裁」に当たらないので労基法第91条の制限にはかからない

例えば,先ほどの月給30万円の営業社員の例で,減給の懲戒処分の場合は,1賃金支払期における賃金総額の10分の1が限度となるため,30,000円を超えて減給することは出来ない。

これに対し,重大なミスを繰り返した営業社員について会社の人事権に基づいて降格した場合,降格に伴って賃金テーブルに従って賃金も下降することになる。例えば,基本給や手当が降格に伴って下がり,月給を28万円に下げることが可能となる。

ただし,就業規則や賃金規定で職務等級ごとの賃金が予め設定されていることが必要であり,また,2段階降格など大きな降格は事後的に人事権濫用として無効となる可能性があるので全く自由に降格できる訳ではないことに注意が必要である。

3.3 賞与の減給 も可能

賞与は,本人の勤務態度や業績を査定した上で金額が決定される制度であり,査定には企業の裁量が広く認められる。それゆえ,賞与最低期間中に社員が非違行為を行い,査定の結果賞与が減額したとしても「減給の制裁」には該当せず労基法第91条の制限にはかからない

例えば,先ほどの月給30万円の営業社員の例で,減給の懲戒処分の場合は,1賃金支払期における賃金総額の10分の1が限度となるため,30,000円を超えて減給することは出来ない。

これに対し,重大なミスを繰り返した営業社員について,賞与査定の結果,賞与を10万円減額することが可能である。

ただし、賞与の額が「夏期は基本給の2カ月分」などと決まっており、企業に賞与査定の裁量がない場合には,賞与の減額は「減給の制裁」として労基法第91条の制限にかかる場合があるので注意が必要である。 

4 まとめ

以上,まとめると

  • 減給の懲戒処分には,労基法91条により①1回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない,②総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないという制限がある。
  • 減給の懲戒処分は実は少額な減給しか出来ない。
  • 労基法91条に引っかからない形での減給として,①出勤停止の懲戒処分に伴う減給,②人事権行使としての降格・降職に伴う減給,③査定による賞与の減給という方法がある。

以上,ご理解いただけたであろうか。

なお,以上は減給の懲戒処分を選択することが出来る場合を前提としているが,そもそも懲戒処分として減給を選択することが正しいのか,という議論がある。

いかなる懲戒処分を選択することが正しいのかという点については,以下の記事を参考にしてもらいたい。

もう迷わない!分かりやすい懲戒処分の判断基準

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