幻冬舎コミックス事件(東京地方裁判所平成29年11月30日判決)

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幻冬舎

精神的な障害を発症して休業をしていた労働者を休職期間満了で退職とした件について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」にいう心理的負荷の強度が「強」に該当する事情は存在せず、欠勤は業務外の傷病によるものであるとして、休職期間満了による雇用契約の終了を認め地位確認等の請求を棄却した事例

1 事案の概要

Xは,出版会社における経験者として、平成17年10月10日,書籍・楽譜及び定期刊行物の企画、制作及び出版等を行うYと期間の定めのない雇用契約を締結した。Xは、遅くとも平成21年7月3日までに精神的な障害を発症したが、その後も勤務を続けた。平成25年6月、YはXに対し、産業医との面談を行い,専門医を紹介し、Xは診察を受けた。専門医の診断及び産業医の意見書に基づき,Xは有給休暇の消化後、平成25年11月5日まで休業し、YはXに対し、同年11月6日から平成26年5月5日までを休職期間として休職を命じた。Yは、平成26年4月、Xと面談を行い、本件休職期間を平成26年6月5日まで延長したが、休職期間満了までにXが復職可能な病状となっておらず、Xに対し同日をもって退職となる旨通知し、以降Xを退職扱いとした。XはYの退職処理等を不服として地位確認等を請求して訴訟を提起した。

2 幻冬舎コミックス事件判例のポイント

2.1 結論

(地位確認について)請求棄却

①Xの休業は欠勤にあたりYの休職命令は有効である。②Xの精神的な障害が業務上のものであると認めるに足る証拠がないことから、Xの欠勤が私傷病によるものと認めた。さらに、③休職期間満了時、通常の勤務に耐えうる程度にXの病状が回復していなかったとして、休職期間満了による雇用契約の終了が有効でると認めた。

2.2 理由

① Xの休業が欠勤にあたるか

医師の診断等を踏まえれば、Xは、心身を適切に管理して行動することが困難な状態にあり、営業職としてはもとより、編集職としても、本件労働契約においてXに履行することが求められていた債務の本旨にしたがった労務の提供に重大な支障を来す状態にあって、休職を命ずることが相当である状態にあった。その他本件の経緯によれば、Xは、休職をすること自体についての不満を有していたとしても、その精神的な障害の状況等に鑑み、Yからの説得に応じて、自らの意思により,有給休暇を取得し、続けて本件休業期間中に欠勤をしたものと認めるのが相当である。

② 精神障害悪化の業務起因性の有無

「Xは、この業務外の疾病によるものではないことの具体的な主張として、上記第2の3⑵アのとおり、平成26年3月31日の時においてXが復職することのできるだけの体調を回復していたにもかかわらず、Yが同年4月2日の面談において退職を迫るなど、認定基準にいう「強」に当たる心理的負荷を与え、Xに精神的に圧迫を加えることで、Xの症状を再燃させ、増悪させた旨を主張している。
しかしながら、本件全証拠を精査しても、YがXに対して客観的に見て認定基準にいう心理的負荷の強度が「強」に該当するような退職勧奨等を行ったことを認めるに足りる的確な証拠はないし、かえって、証拠(乙33、37の1及び37の2)によれば、当該面談においては、YがXに対してXが主張するような退職勧奨を行っていないことを認めることができる。
この点に関し、Xは、その陳述書(甲31)及び本人尋問において、同年3月28日の面談においてC局長がXに対して「もう無理でしょ。やっていけないでしょ。」と話した旨を陳述しているが、証拠(甲36の1及び36の2)によれば、C局長が当該面談においてXに対してした発言は、「指示に従う気がないんだったらそれはもう無理ですよ」、「無理じゃないですかそれは」、「会社の決まり事なので決まり事に、あの、従えないということであれば」、「それはもう無理だって話ですよ」というものであったものと認めることができるのであって、C局長の当該発言が認定基準において心理的負荷の強度が「強」に当たる具体例とされる「退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職を求め」たことに該当し、又はこれに匹敵する程度のものであるとは、解することができない。」
として業務起因性を否定し、私傷病であることを前提とした休職命令を有効と判断した。

③ 休職期間満了時における復職の可否

裁判所は、復職面談の前日にYの産業医が紹介したD医師がXを診察し、Xに生活リズム睡眠時間の記録(「本件生活・睡眠表」)を提出させ、その10日後に再度診察を行ったところ、Xは、決められた時間に起きて、決められた時間に出掛け、定時に帰るという行動がまったくできていなかったこと、復職面談後に体調を崩しており、面談で体調を崩すようでは仕事のストレスには耐えられないとD医師が判断したこと、Xが復職可能(または条件付きで可能)との復職診断書を作成したF医師(Xの主治医)に対し、Yの常務らが本件生活・睡眠表を見せたところ、F医師は、本件生活・睡眠表を見ると、XにはYにおける通常の勤務はできないと思われる等と述べたこと、Yの産業医であるC医師も、本件休職期間の延長後にXとの面談を実施し、その結果、復職は不可能と判断したことを認定した。
これら診断・面談の経緯、診断書の内容等の事実からすれば、営業職としてはもとより、編集職としても、本件休職期間の終了時までに本件労働契約の債務の本旨にしたがった労務を提供することができる程度にまで、Xの精神的が障害が回復したものということはできないとして、休職期間満了による退職を有効と判断した。

2.3 吉村コメント

会社側は,休職発令の前後,休職期間満了の前後において,産業医・専門医・主治医の診断等をこまめに織り交ぜながら,慎重な対応を行っている。そのことが証拠(面談時の録音,診療録等)により十分に立証できた。このことが会社を勝訴を導いたといえる。

メンタルヘルス不調者の対応の見本といえる。

3 幻冬舎コミックス事件の関連情報

3.1判決情報

  • 裁判官:江原 健志、川淵 健司、石田 明彦
  • 掲載誌:労働経済判例速報2337号16頁

3.2 関連裁判例

  • 国・八王子労基署長(東和フードサービス)事件(東京地判平26.9.17 労判1105号21頁)
  • 国・厚木労基署長(ソニー)事件(東京地判平28.2.21 労判1158号91頁)
  • 国・岐阜労基署長(アピコ)事件(名古屋地判平27.11.18 労判1133号16頁)
  • エム・シー・アンド・ピー事件(京都地判平26.2.27 労判1092号6頁)

3.3 参考記事

幻冬舎コミックス事件の判決の具体的内容

→判決の詳細はこちら

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