台風と賃金・休業手当

【2023年】台風で休業する場合,賃金・休業手当を支払う必要があるか?

社長
今年(2023年)も大型台風が日本各地を襲っています。当社も台風に伴う集中豪雨により会社施設に支障が生じたり,公共交通機関が運休となる為,休業としました。このように台風で会社が休業となる場合,会社は社員に必ず休業手当を支払わなければならないのでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
台風に伴う暴風雨や災害によって,会社の事業場の施設・設備が直接的な被害を受けた等に理由で不可抗力により休業せざるを得ない場合は,賃金はもちろん,労基法26条の休業手当も支払う必要はありません。
これに対し,不可抗力な事情が無いものの会社の判断で休業とする場合は,労基法26条の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う必要があります。接客業などの場合で台風により客足が遠のき大幅に売上が減少することが見込まれる為,会社の判断で休業とする場合などは,さらに賃金100%を支払わなければならない場合があります。
地震や台風により不可抗力な事情が無い場合は,労基法26条の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う必要がある。
労働者が休業した場合であっても、それが会社に原因がある場合は、民法536条2項により賃金は原則として100%発生する。
地震や台風により不可抗力により休業する場合以外は,会社の判断による休業をしなければ,休業手当や賃金を支払う必要はない。

全体像(フローチャート)

まずは、全体像をフローチャートにしましたのでご確認ください。

フローチャート_台風と休業手当の要否-min

台風で社員が欠勤(不就労)の場合

交通機関が麻痺して出社不能な場合

台風で公共交通機関が運休となる等の理由で社員が会社に出社して勤務をできない場合,欠勤となります。

欠勤で不就労となる場合は、ノーワークノーペイの原則により賃金は支払う必要はありません

つまり,休んだ日(時間)分の給料は支払わなくてよいのが原則となります。

休業手当の支払いも不要です。

交通機関は支障があるものの出社は不可能ではない場合

交通機関が台風の影響で遅延するなど支障が生じている場合であっても、出社が不可能ではない場合もあります。

通勤経路を迂回する、出勤時間をずらすなどして、何とか出勤が可能な場合もあるでしょう。

その場合に、社員の判断で出社をしない(見あわせる)場合は、欠勤となりますので、ノーワークノーペイの原則により賃金は発生しません

休業手当の支払いも不要です。

有給休暇を取得する場合は賃金は発生する

上記の2つの社員が欠勤する場合であっても、社員が有給休暇を取得する場合は、当然のことなら賃金支払は必要となります。

有給を使って出勤を見あわせること、実務的にはこの選択肢も多いかと思われます。

台風で休業命令を出す場合

もっとも、会社の判断で休業を命ずる場合もあります。

この場合の賃金・休業手当の要否は、「不可抗力の有無」によって場合分けされます。

台風による不可抗力で休業とする場合

台風の影響により休業を命ずることが不可抗力である場合は、賃金・休業手当の支払いは不要となります。

ただ、不可抗力と認められるのは、極めて限定的な場合に限られます。例えば、

  • 地震や台風に伴う災害によって,会社の事業場の施設・設備が直接的な被害を受け社員を休業させる場合
  • 地震や台風に伴う災害によって,事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていないが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となった場合
  • 地震や台風に伴う災害によって,停電で業務を行うことが出来ない場合

などです。

台風による不可抗力がない場合

不可抗力な状況ではないものの、会社の判断で休業を命じた場合は,賃金・休業手当の支払いが必要となります。

例えば、不可抗力といえるほど致命的な問題は発生していないものの、

  • 台風の影響で営業をすることが困難である場合などに、会社の判断で休業を命ずる場合
  • 接客業などの場合に,地震や台風により客足が遠のき大幅に売上が減少することが見込まれる為,会社の判断で休業とする場合

などです。

会社の実務的な対応

以上を踏まえ,ありえる企業の実務上の対応の選択肢は次のとおりです。

(パターン1)休業手当をなるべく支払わない方法

台風により不可抗力により休業する場合

この場合は、休業命令を出します。

不可抗力の場合ですので、休業手当・賃金の支払いは不要です。

台風による休業が不可抗力とはいえない場合

この場合は、会社の判断による休業命令はしません。

社員には以下の事項を速やかに伝達します。

  1. 会社は休業しないが,各自の判断で安全に配慮して出社の有無や出社の方法を判断すること
  2. 欠勤した場合は,無給であること
  3. 台風に伴う交通事情等により欠勤したとしても,懲戒等人事上のペナルティーはないこと
  4. 有給休暇を消化は自由であり、各人の判断で取得すること。

これによって,労働者が自らの判断で欠勤した場合は,休業手当や賃金は発生しません。

有給休暇を消化した場合は賃金を支払います。

こうすることで,休業に伴う会社のコストを最小化し,出社の伴う安全性に一定の配慮しつつ,台風でも出社する社員と欠勤する社員の不公平感を無くすことが出来ます。

(パターン2)労働者に手厚い保護をする場合

台風により休業が不可抗力な状況となるか否かを問わず、会社の判断で休業を命じます。

社員には以下の事項を速やかに伝達します。

  1. 休業を命ずるので、出社には及ばないこと
  2. 休業期間中は賃金は支払うこと(又は休業手当を支払うこと)

こうすることで,社員は台風による出社の危険に晒されず,出社の判断に迷うこともなく,経済的にも手当が保障され安心して休業することが可能です。

社員にとっては最も理想的な対応方法といえます。

ただ,このような選択肢を採用することが出来るのは一部の大企業や経済的なゆとりのある企業に限られるでしょう。

また,全ての企業,特に中小企業でこのような制度をとらなければならない訳ではありません。

パターン1の方法も法的には採ることが可能ですので,企業の実情に応じて経営者にて判断をしてください。

(NGパターン)法的に誤った対応

(1) まず,台風により休業が不可抗力な状況では無いが,会社の判断による休業をした場合であっても,賃金や休業手当を支払わないこと

この場合,最低でも労基法26条の休業手当の支払いは必要となりますので,法律違反となります。

(2) また,台風により休業が不可抗力な状況では無いが,会社の判断による休業をした場合であっても,労働者には会社の判断で一方的に有給を消化させること

労基法26条の休業手当の支払いは必要となるのに,一方的に有給を消化させることは,労基法26条違反となります。

まとめ

以上お分かり頂けましたでしょうか。

ご参考になれば幸いです。

なお、以下は上記説明のバックグラウンドにある休業手当と賃金の詳細な説明になります。ご興味ある方はご参照ください。

休業手当(労基法26条)の説明

休業手当の発生要件

労基法第26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては,使用者は,休業期間中当該労働者に,その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定めており,休業手当を支払う必要があります。

そして,休業手当の発生要件は

① 使用者の責めに帰すべき事由により

② 休業したこと

です。

これに該当する場合は、平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければなりません。

①使用者の責めに帰すべき事由とは?

使用者の責めに帰すべき事由とは,

(1)使用者の故意,過失又は信義則上これと同視すべきものよりも広く,
(2)不可抗力によるものは含まれない,

と解されています(厚生労働省労働基準局編「平成22年版・労働基準法(上)」367頁)。

そして,不可効力とは,

A その原因が事業の外部より発生した事故であること
B 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

との2つの要件を備えたものでなければならないと解されています(同書369頁)。

不可抗力と認められる具体例

地震や台風に伴う災害によって,会社の事業場の施設・設備が直接的な被害を受け社員を休業させる場合

地震や台風に伴う災害によって,事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていないが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となった場合

地震や台風に伴う災害によって,停電で業務を行うことが出来ない場合

などです。

これに対して,上記のように地震や台風などによる不可抗力な事情は発生していないが,会社の判断で休業を命じた場合は,「使用者の責に帰すべき事由」が認められるので休業手当が発生します。

この場合は,賃金や休業手当の支払いは不要です。

休業手当を支払わない場合の罰則

要件を満たすにもかかわらず、休業手当を支払わない場合は、労働基準監督官の指導の対象となり,30万円以下の罰金を科せられます(労基法120条1号)。

3 賃金請求権が発生する場合(民法536条2項)

休業した場合でも賃金が発生する場合とは?

労働者が休業した場合であっても、それが会社に原因がある場合は、民法536条2項により賃金は原則として100%発生します。

というのも,民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」にも該当する為,労働者の賃金債権はなおも発生することになるからです。

「債権者の責めに帰すべき事由」にも該当する場合とは?

① 前記2.3のように地震や台風などにより不可抗力な事情は発生していないものの,会社の判断で休業を命じた場合

② 同様に不可抗力な事情が無いが,接客業などの場合に,地震や台風により客足が遠のき大幅に売上が減少することが見込まれる為,会社の判断で休業とする場合

これらの場合,賃金は原則として賃金の100%を支払う必要があります。

民法536条2項の適用を排除することが出来る

なお,民法536条2項は民法の任意規定ですので,労使間の合意により適用を排除することが可能です。

具体的には,就業規則などで「会社の責めに帰すべき事由により従業員を休業させた場合の賃金の額は民法536条2項の適用を排除して平均賃金の100分の60とする」といった定めを置くことで適用を排除できます。

労基法26条と民法536条2項の競合

前記3.2①の場合など,地震や台風などによる不可抗力な事情は発生していないものの会社の判断で休業を命じた場合は,「使用者の責に帰すべき事由」(労基法26条)及び「債権者の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)の両方が認められます。

この場合は,民法536条2項に基づいて100%の賃金を支払う必要があります。

労基法26条は,民法536条2項の適用を排除するものではなく,休業手当請求権(労基法26条に基づく請求権)と賃金請求権(民法536条2項に基づく請求権)は競合しうるからです(同旨 最高裁第2小法廷昭62.7.17判決 労働判例499号6頁)。

就業規則等で不可抗力の場合も含めて休業手当を支払う定めがある場合

労働契約や労働協約、就業規則に基づき、使用者の責に帰すべき休業のみならず、天災地変等の不可抗力による休業についても,休業中の時間についての賃金・手当等を支払うとの定めがあることとしている企業の場合は,その定めに従って賃金・手当の支払いが必要となります。

 

 

 

 

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