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退職届の無効・取り消しができるか?

ご質問

当社は、酒類販売を業とする会社です。当社の会計課に、経理担当者として勤務している社員Yがいたのですが、昨年入った税務調査の際に私に不手際があり、また,第三者に顧客の注文をまわしたことが発覚しました。当社としては、Xに対し懲戒解雇処分を行いたいと考えましたが、Xの将来を考え任意退職を行うよう勧奨しました。これに対し、Xは身に覚えがないなどと不合理な弁解に終始するため、当社人事部長Aは「早く退職届を出せ。出さなければ懲戒解雇にする。」「懲戒解雇になれば退職金は出ないが,退職届を提出すれば退職金も支払う。」と告げ説得したところ、Yは退職届を提出し、退職金等を受領しました。しかし、その後、Yは弁護士を立てて上記退職願いの撤回、職場復帰、慰謝料の支払などを請求してきました。当社はかかるYの請求に応じなければならないのでしょうか?

回答

退職届が提出された場合は,一般的には,労働者が使用者の同意を得なくても辞めるとの強い意思をもっていることが明らかな場合を除き,合意解約の申込みがあったと解されています。従って,貴社が承諾する前であれば(承諾は,承諾の権限を有する者によってなされることが必要です),申込みの意思表示を撤回することは可能です。仮に退職届が貴社に正式に受理され承諾された場合でも,懲戒解雇理由がないにもかわらずその旨ほのめかして退職願を出すように迫った場合、人事部長Aの話に畏怖して本意ではないにもかかわらず退職願いを出したものと考えられます。このような場合は,錯誤又は脅迫を理由に,退職願いを出したことについて,無効又は取り消しを主張できる可能性があります。

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  • 労働者の退職届提出に意思表示の瑕疵があれば、無効・取り消しが主張可能
  • 退職勧奨の際は、言動に気をつける必要がる

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解説

1 退職の意思表示の無効・取り消しができるか?

退職の申出は意思表示ですので,自分の行為の結果を理解できないような状態下における申出(意思無能力)は無効とされ,また,真実は退職する意思がないにもかかわらず,使用者に対する抗議の手段等として退職届を出すような場合(心裡留保民法93条本文)に,使用者がその労働者の真意を知りうる状態であった場合は無効とされ(民法93条但書),店舗の閉鎖を理由として退職合意をしたのに実際は新店舗の開店計画を秘していた場合(錯誤民法95条)は,退職の合意は無効とされ,その他,詐欺や脅迫による退職の申出は取り消すことができます(民法96条)。
解雇事由に該当する事実がないにもかかわらず,解雇がありうると告げて退職を迫った場合や,解雇事由に該当する事実あったとしても解雇をすることに相当性が明らかに無いにもかかわらず退職を迫ったような場合には,錯誤,詐欺,脅迫を理由に,退職の意思表示を無効とすること又は取り消される可能性があります。

2 具体的にはどうか?

[解雇事由に該当する事実がないにもかかわらず解雇がありうると告げて退職を迫った事案]で、解雇事由に該当する事実もないのに解雇をちらつかせて恐怖心を生じさせ,従業員に退職の意思表示をさせる場合は,まさに上記強迫の故意が会社に認められますから,退職の意思表示は強迫によるものとして取り消されるといえます(澤井商店事件=大阪地決平元.3.27労判536-16)。懲戒解雇の事案において,「懲戒解雇に相当する事由が存在しないにもかかわらず,懲戒解雇があり得ることを告げることは,労働者を畏怖させるに足りる違法な害悪の告知であるから,このような害悪の告知の結果なされた退職の意思表示は,強迫によるものとして,取り消しうるものと解される」と説示する裁判例(ソニー〔早期割増退職金〕事件 東京地判平14.4.9労判829-56)があります。

[解雇事由に該当する事実はあるが、当該解雇に明らかに社会的相当性がない場合]については、一般は法律専門家でない限り解雇が無効になるとの判断が難しいといえます。従って、強迫を行ったということは難しいと思われます。もっとも、この場合でも、従業員が要素の錯誤に陥る場合が想定しえ、錯誤無効の主張が認められる可能性があります。この点、普通解雇することを告知して退職勧奨し,その結果なされた退職の意思表示が錯誤無効とされた裁判例(昭和電線電撹事件=横浜地川崎支判平16.5.28労判87840判例・裁判例④)があり、判決理由中、労働者の錯誤に重過失がないかの点で,労働者が労働組合活動に従事するなどして労働者の法的地位に関するある程度の知識・経験を持ち合わせていたかどうかが考慮されています。また,懲戒処分が検討されている旨の告知を伴う退職勧奨の事案で,従業員から自己都合の退職金や健康保険の取扱いなど退職条件の確認があったことや,労働組合の役員経験が長いという事情などが考慮され,最終的には利害得失を自分なりに判断して退職した,すなわち錯誤はなかったとされた裁判例(ネスレ日本事件 東京高判平13.9.12労判817-46)もあります。

[解雇事由に該当する事実はあるが,当該解雇に相当性があるか判然としない場合に,解雇がありうると告げて退職を迫るケース]については、会社の行為が強迫には該当しないと考えられますが、使用者による「当該解雇は有効である」との強い説明のもと,労働者がその解雇が有効と信じて退職の意思表示をした事情などがあれば,例外的に錯誤の主張が認められると考えられます。

[解雇事由に該当する事実もあり,当該解雇に明らかに相当性がある場合に,解雇がありうると告げて退職を迫るケース]については、強迫も錯誤も成立しないと考えられます。

3 合意退職の無効・取り消しを主張されないようにするためには

ポイントは,退職の意思表示に本人の任意性が確保されていたかどうかにあります。解雇事由に該当する事実もないのに「退職しなければ解雇だ」などという言動は強迫にあたります。しかし,実際に解雇事由に該当する事実がある場合には,その事実を具体的に記載した解雇理由書を示して,「当社としては,解雇理由書記載の事実関係を証拠に基づいて確認し,解雇に合理的理由社会的相当性があると判断しました。従って、当社としては、この判断を下に、今後の手続きを進めていく予定である。もっとも、貴殿において個々の事実について争うのは自由です。また、個々の事実に異議があっても争わずに退職届を出すならば,会社はそれを受け取るつもりである。」などと,本人の任意の判断を促します。また,一定の解決金(賃金1ヶ月分程度)を示すことも,自主退職のメリットを労働者へ伝え、労働者の任意性を確保することにつながりますし,労働者から錯誤による無効を主張されるリスクは非常に軽減されると思われます

対応方法

1 まずは弁護士に相談!

労働者による退職届の取り消しの主張に際して貴社が採れる手段は,ケースバイケースに存在します。もっとも,退職を取り消せるか否かによって従業員にとっても生活の糧となる収入が途絶えることになりますので,安易な措置はトラブルを生み,かえって貴社に混乱とコストの負担をかけることにもなりかねません。
まずは,なるべく早くご相談下さい。相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いものです。
弁護士は,あなたのご事情を伺い,具体的対応策をあなたと一緒に検討し,最善の解決策をアドバイスします。
貴社のケースでは解雇は有効になるのか否か,具体的な対策として打つべき手は何か,証拠として押さえておくべきものは何か等をアドバイスします。

2 証拠の収集

法的措置に対応する場合はもちろん,交渉による解決を目指す場合も,証拠の確保が極めて重要になります。貴社にとって有利な証拠を出来るだけ確保して下さい

3 労働者との交渉

まずは,法的措置に進む前に,労働者と交渉して,貴社の望む結果(問題社員の退職,解雇,低額の解決金の支払い等より有利な条件での退職等)が得られるようにします。
裁判に訴えられる前の交渉の時点で解決できれば,貴社にとっても次のようなメリットがあります

①早期に解決できることにより,人的負担が回避できる。

法的手続に進んだ場合,労働者に関係する従業員(同僚・上司)はもちろん,経営者にも時間・労力・精神的負担を割くことを要求されます。この負担が日常業務に加わることで,かなりの負担感となります。交渉で解決することによりかかる人的負担が早期に回避できます

②労働審判・訴訟等の法的手続に進んだ場合より解決金の水準が低い

一般に法的手続に進む場合に比べ,企業が支払う解決金の金額は低いものとなります

4 裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,労働者は自己の権利の実現を求めて裁判を起こす可能性が高いと言えます。具体的には,賃金仮払い仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,労働者が事案に応じて手続を選択して,自己の請求の実現を目指すことになります。貴社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります

労働問題.comの対応

1 経験豊富な弁護士に相談

労働問題は適用される法律が難解で事実関係が極めて複雑であり,また,貴社が採るべき対応策はケースバイケースで決めざるを得ません。貴社独自で調査の上でのご対応が,時に誤った方法であることも多分にございます。
そこで,まず,労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士にご相談下さい。ご相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いのが実際ですので,トラブルが少しでも生じましたら出来るだけ早期にご相談されることをお勧めいたします。
労働問題.COMでは,常に労働問題を専門的に取り扱う経験豊富な弁護士が直接対応させていただいております(原則的に代表弁護士である吉村が対応させて頂きます。)。裁判のリスクを踏まえながら,法律上の問題点を指摘しつつも,抽象的な法律論に終始することなく,貴社が採るべき具体的な対応策を助言いたします。早期のご相談により紛争を未然に防止することが出来た事例が多数ございます。また、その後の交渉・裁判対応においても有利な対応を取ることが出来ます

2 継続的なご相談・コンサルティング

労使間のトラブルは一時的なものではなく,長期化することがしばしばあります。ケースバイケースに採るべき対応策や確保すべき証拠も異なりますし,時々刻々と状況が変わっていき,その都度適切な対応をとることが必要です。この対応が間違っていた為に,その後の交渉や法的措置の段階で不利な状況に立たされることもままあります。
労働問題.COMでは,経験豊富な弁護士が,継続的なご相談を受けコンサルティングを行います。初期の段階より貴社にとって有利な対応をアドバイスしていきます。それにより,その後の交渉・法的措置にとって有利な証拠を確保でき,適切な対応をとることで,万全の準備が出来ます。また,継続的に相談が出来ることにより安心して他の日常業務に専念していただくことができま
す。

3 貴社を代理して労働者(弁護士,労働組合)と交渉いたします。

労働者の対応は様々ですが,貴社へ要求を認めさせるために,様々な働きかけをする事が多いのが実情です。労働者が弁護士や労働組合を介して,会社に対し各種の請求を行い,交渉を求めることはよくあることです。弁護士や労働組合はこの種事案の交渉のプロですので,貴社独自で臨むことで,あらぬ言質や証拠をとられ,本来了承する必要のない要求まで認めさせられることもしばしばです。貴社独自でのご対応は,一般的には困難であることが多いといえます。
そこで,労働問題.COMでは,労使間の交渉対応に精通した弁護士が,貴社に代わって交渉の対応を致します。具体的には,貴社担当者から詳細なヒアリングを実施し,証拠の収集等の準備を行った上で,弁護士が法的根拠に基づいた通知書を出し,適切に交渉することで,貴社にとって有利な結論を,裁判を経ずに勝ち取ることも可能となります

4 裁判対応

労働者が労働審判,仮処分,訴訟などの裁判を起こしてくる場合が近時急増しています。かかる裁判への対応は法律で訴訟代理権を独占する弁護士のみが対応することができます。
但し,労働問題を適切に対応することができるのは労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士に他なりませんが,労働問題は極めて特殊専門領域であるため,経験実績がない又は乏しい弁護士が殆どである実情があります。
労働問題.COMでは,労働事件を専門分野とし,裁判対応の豊富な経験実績を有する弁護士が常時対応させていただいております。貴社に対し,最善の弁護活動をお約束いたします

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参考裁判例

辞職の意思表示ではなく,雇用契約の合意解約の申込みであるとされた事例

株式会社大通事件

大阪地判平成10.7.17労働判例750-79

(事案の概要)

Xは,主に自動車貨物運送業を営む株式会社であるYに,平成7年2月に雇用され,主として線状鋼材を運搬,荷積,荷降する業務に従事していた。 しかし,同8年8月26日,Yの常務取締役であるAが,Xに対し,Xの同月23日の言動は,得意先の従業員に暴言を吐き,手洗い場の流し台を破損させるなど,著しく不穏当なものであったとして,1週間の休職処分を申し渡したところ,Xは,「不公平だ。一方的に俺だけが処分されるくらいなら,会社を辞めたるわ。」と言って,Yの事務所を出て行き,その翌日は出社しなかった。

(裁判所の判断)

裁判所は,「原告(筆者注:X)が平成8年8月26日にしたA常務に対する言動を見るに,原告は,「会社を辞めたる。」旨発言し,A常務の制止も聞かず部屋を退出していることから,右原告の言動は,被告(筆者注:Y)に対し,確定的に辞職の意思表示をしたと見る余地がないではない。しかしながら,原告の「会社を辞めたる。」旨の発言は,A常務から休職処分を言い渡されたことに反発してされたもので,仮に被告が右処分を撤回するなどして原告を慰留した場合にまで退職の意思を貫く趣旨であるとは考えられず,A常務も,飛び出して行った原告を引き止めようとしたほか,翌8月27日にもその意思を確認する旨の電話をするなど,原告の右発言を,必ずしも確定的な辞職の意思表示とは受け取っていなかったことが窺われる。したがって,これらの事情を考慮すると,原告の右「会社を辞めたる。」旨の発言は,使用者の態度如何にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかなものではあるとは言い難く,右原告の発言は,辞職の意思表示ではなく,雇用契約の合意解約の申込みであると解すべきである。したがって,右原告の発言が辞職の意思表示であることを前提とする被告の主張は理由がない(なお,念のために付言すると,本件においては,原告は,被告が合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をするまでに,右申込みを撤回したというべきであるから,合意解約も成立していないと解される)。」とした。

原告が提出した退職願について,教職員の任免権者である理事長による承諾の意思表示が原告に到達する前であれば,原告は当該退職の意思表示を有効に撤回することができるとされた事例

学校法人白頭学院事件

大阪地判平成10.7.17労働判例750-79

(事案の概要)

Xは,Yの設置する中学校及び高校において,体育教員として勤務していた。 しかし,Xは,平成7年12月20日午後1時ころ,Yの校長(以下,「校長」という。)に対し,退職願を提出したが,同日午後3時過ぎころ,校長に対し,電話で右退職願を撤回する旨の意思表示をした。

(裁判所の判断)

裁判所は,「原告(筆者注:X)は,平成7年12月20日,校長に対して退職願を提出しており,原告は,被告(筆者注:Y)に対しこれにより雇用契約の合意解約の申込をしたものと認めることができる。これに対し,原告は,校長に退職願を預けただけであり,合意解約の申込に該当しない旨主張するが,原告本人によれば,原告は,真に退職する意思を有していたことが認められ,原告の右主張は採用できない。労働者による雇用契約の合意解約の申込は,これに対する使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し,雇用契約終了の効果が発生するまでは,使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り,労働者においてこれを撤回することができると解するのが相当である。・・・原告は,合意解約の申込から約2時間後にこれを撤回したものであって,被告に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情が存在することは窺われず,原告は,理事長による承諾の意思表示が原告に到達する前に,合意解約の申込を有効に撤回したものと認められるので,被告の合意解約が成立した旨の主張は,その余の点につき判断するまでもなく理由がない。」とした。

人事部長による退職届の受領をもって,雇用契約の解約申込みに対する即時承諾の意思表示がなされたと解すべきものとされた事例

大隈鉄工所事件

最判昭和62.9.18労働判例504-6

(裁判所の判断)

裁判所は,「A人事部長に被上告人の退職願に対する退職承認の決定権があるならば,原審の確定した前記事実関係のもとにおいては,A人事部長が被上告人の退職願を受理したことをもって本件雇用契約の解約申込に対する上告人の即時承諾の意思表示がされたものというべく,これによって本件雇用契約の合意解約が成立したものと解するのがむしろ当然である。以上と異なる前提のもとに,A人事部長による被上告人の退職願の受理は解約申込の意思表示を受領したことを意味するにとどまるとした原審の判断は,到底是認し難いものといわなければならない。」とした。

(コメント)

一審は,本件退職の意思表示は動機の錯誤により無効であるとし,二審は,右意思表示は真意によるものとしたが,人事部長による本件退職届の受理は右意思表示の受諾にすぎず,上告人会社による承諾は未だなされてはおらず,右承諾(雇用契約の合意解約の成立)以前に右意思表示が有効に撤回されており,雇用契約関係はなお存続しているものと判断しました。これに対し,本判決は,人事部長による退職届の受理によって,雇用契約の解約申込に対する上告人の即時承諾の意思表示がなされたとして,二審判決を破棄したうえ,事件を差し戻しました。

工場長には,当該工場勤務の労働者からの退職願を受理・承認して労働契約合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をする権限があると認められた事例

ネスレ事件

東京高判平成13.9.12労働判例817-46

(事案の概要)

Yの従業員としてYの霞ケ浦工場で稼働していたXは,平成12年5月17日に同工場長A宛に「この度,一身上の都合により平成12年5月17日付で退職致したくお願いします。」と記載した退職願(本件退職願)を提出して,労働契約の合意解約の申込みの意思表示をし,Aは,Xに対し,本件退職願を受理・承認したので,Aは同日付けをもって退職となる旨記載した通知書を交付して,退職を承諾する旨の意思表示をした。

(裁判所の判断)

同事件の一審判決は,Yの各工場長には,当該工場勤務の労働者からの退職願を受理・承認して労働契約合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をする権限があると認められ,特段の事情のない限り,XとYの労働契約は,XがYに対して退職願を提出して合意解約申込みの意思表示をし,同日工場長が退職通知書をXに交付してこれを承諾する意思表示をした時点で,合意解約により終了したとした。本判決(二審)は,一審判決を相当として控訴を棄却した。

常務取締役観光部長には,単独で退職承認をなす権限は存しなかったとされた事例

岡山電気軌道事件

岡山地判平成3.11.19労働判例613-70

(事案の概要)

Yは,定期路線バス,観光バス,電気軌道,ロープウェイ等の旅客運送営業をなす株式会社であり,Xは,昭和54年2月16日,Yと雇用契約を結んでYに自動車運転手として雇用された。
しかし,Xは,昭和62年12月2日,Yに対し,退職願(以下,「本件退職願」という。)を提出し,XY間の雇用契約関係終了のための合意解約の申し込みをした。

(裁判所の判断)

裁判所は,「A常務は常務取締役観光部長として,営業部,観光部,整備部の主任以下の従業員について退職承認を含む人事権を与えられており,同月2日,本件退職願を受理したとき,ただちに承諾の意思表示をした旨主張し,・・には,右主張に添う「A常務は包括的人事権を与えられていた」又は「原告(筆者注:X)が退職願いを提出したとき,同常務は,『わかりました,認めて処理します』と述ベ退職を承認した」旨の記載部分がある。そこで,A常務には被告(筆者注:Y)が主張するような人事権を付与されていたかどうかについて検討してみる。・・・原告が昭和62年12月2日作成した本件退職願は,常務宛でなく社長宛となっていること,被告には会社組織上労務部が置かれており,その「業務分掌規程」には明文をもって,従業員の求人,採用,任免等に関する事項は労務部の分掌とされていること,労務部にはB部長以下の職員が配置されており,その統括役員はA常務ではなくC常務取締役であること,右分掌規程には,分掌の運用に当たってはその限界を厳格に維持し,業務の重複および間隙又は越権を生ぜしめてはならない旨規定していること(第3条),被告は業務分掌規程と職務権限規程とは別個であると主張しながら,職務権限規程について明文で定めたものは存在しないこと,また,権限委譲についても明文で定めたものはないこと,通常の退職願承認の手続は,社長宛の退職届が所属長に提出され,所属の部長,担当常務に渡され,営業所長が退職届を受理すると判断のうえ,営業課の稟議簿に記録し,営業課長,営業所長,自動車部担当常務と順次閲覧の後,本社分務部にまわされ担当の常務取締役,専務取締役によって決済され承認していたことが認められ,これによると結局,A常務には同人が統括する観光部,営業部,整備部に所属する従業員の任免に関する人事権が分掌されていたとは解されない。しかも,原告が本件退職願を提出するに至った経過に照らしてみれば,A常務が専務取締役Dとの協議を経ることなく単独で即時退職承認の可否を決し,その意思表示をなしえたということはできない。なお,A常務が本件退職願を原告から受け取ったとき,ただちに退職承認の意思表示をした旨の主張については,・・採用することはできず,他にこの点に関して被告主張事実を認めるに足りる証拠はない。」とした。

(コメント)

本件は,常務取締役観光部長に対する退職届の提出の翌日(正式の撤回届は1週間後),右退職の意思表示を撤回した観光バスの運転手が,従業員たる地位の確認等を求めたものですが,判決は右請求を認容しました。

退職願が承認前に撤回されたものと認められた事例

東邦大学事件

東京地決昭和44.11.11労働判例91-35

(事案の概要)

Xは,昭和39年3月21日,Y大学の助教授に採用され,理学部に勤務し,教育および高分子物理化学関係の研究に従事していた。

(裁判所の判断)

裁判所は,「申請人(筆者注:X)は,昭和44年4月23日被申請人(筆者注:Y)に対し,就業規則の規定に従い,退職願の提出をもって被申請人との間の雇傭契約を合意解約したい旨の承諾期間の定めのない申込の意思表示をなしたが,その後約1ヶ月半を経過した同年6月9日にいたって右申込の意思表示を撤回し(上記就業規則の退職条項は,その文言および強行規定である民法627条の法意に鑑みると,雇傭契約の解約申入(告知)に関して規定したものと解することは相当でなく,申請人の本件退職願の提出も,これを一方的な解約申入の意思表示とみることはできない。),被申請人は,右撤回の後である同月11日に人事異動通知書をもって承諾の意思表示を発したものといわざるを得ず,申請人が退職願を提出するにいたった経緯に照らせば,申請人の右退職願撤回の意思表示は,申請人が被申請人から承諾の通知を受けるに相当な期間を経過した後になされた有効なものと認めるのを相当とするから,申請人と被申請人間において雇傭契約解約の合意は成立せず,両者間の雇傭契約関係は依然として存続しているものといわなければならない。」とした。

退職者募集に応じて退職申出書を提出したが,「合意書」を作成する前に退職申出を撤回しているとして合意解約の成立が否定された事例

ピー・アンド・ジー明石工場事件

大阪高決平成16.3.30労働判例872-24

(裁判所の判断)

裁判所は,「抗告人は,平成14年11月8日,本件退職申出書をCマネージャーに提出し,同日,Cマネージャーが所属長承認欄に署名し,さらに,工場長であるFが工場長承認欄に記名押印したことが認められるが,他方,抗告人が本件退職申出書を提出する契機となった「特別優遇措置による退職者募集受付について」と題する書面(甲2)には,募集受付方法の欄に「・退職応募者は「特別優遇措置による退職申出書」に①必要事項を記入し,②希望する再就職支援制度の丸印をし,捺印をした後に,その申出書を所属長に提出する。・会社が退職を受理した者に対しては,所属長と業務引継ぎ等を考慮して①最終就業日,②退職日の確定を行った後に「合意書」を作成して受付完了とする。」旨記載されていること,また,本件退職申出書(甲8)には,「退職日・最終就業日に関しては,所属長と業務引継ぎ等の話し合いを行った上で,最終決定する事を了解します。」と記載されていることがそれぞれ認められ,これらの記載に照らすと,「合意書」が作成されるまでは,退職の受付は完了せず,抗告人と相手方との間の退職の合意は,成立しないものと解するのが相当である。そうすると,上記のとおり,抗告人は,「合意書」を作成する前に,本件退職申出を撤回しているから,抗告人と相手方との間の退職の合意(労働契約解約の合意)は成立していないと一応認めることができる。」とした。

塩野義製薬事件

大阪地決昭和63.9.6労働経済判例速報1337-11

従業員が退職届を提出したことから、会社が退職を承認する旨の内部決定をした上で、これを従業員に告知したという事案につき、合意解約の成立を認めた。

穂積運輸倉庫事件

大阪地決平成8.8.28労働経済判例速報1609-3

従業員が辞職届を上司に提出したところ、それが会社代表者に手渡され、一方で会社所定の退職届が同従業員らに手渡されたという事案につき、会社の承諾の意思表示を認めた。

退職合意承諾の意思表示にはその動機に錯誤があり無効となった事例

澤井商店事件

大阪地決平成元.3.27労働判例536-16

(事案の概要)

Yは、酒類の販売などを業とする株式会社である。Xは、Yの前身の個人商店の時代である昭和三〇年八月に経理担当者として雇用され、同商店が法人化後も経理担当者として勤務していた者である。 Xは,

(裁判所の判断)
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