「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日基発2号)のうち「第5 期間の定めのある労働契約(第4章関係)」を抜粋したものです。
労働契約法の施行について
(平成24年8月10日)(基発0810第2号)
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
改正 平成24年10月26日
同 25年 3月28日
同 26年11月28日
同 27年 3月18日
同 30年12月28日
第5 期間の定めのある労働契約(法第4章関係)
1 総論
期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)については、使用者のみならず労働者のニーズもあることから、有期労働契約が良好な雇用形態となるようにすることが重要であるが、その実態をみると、契約の終了場面において紛争がみられるところである。有期労働契約の予期せぬ終了は、有期労働契約により労働する労働者(以下「有期契約労働者」という。)への影響が大きいことから、有期労働契約の終了場面における紛争を防止する必要がある。
このため、法第17条において、契約期間中の解雇及び契約期間についての配慮について規定することにより、有期労働契約の終了場面に関するルールを明らかにしたものであること。
また、有期労働契約は、パート労働、派遣労働を始め、いわゆる正社員以外の多くの労働形態に共通してみられる特徴になっているが、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消していくことや、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正していくことが課題となっていることに対処し、労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正な利用のためのルールを整備するものとして、法第18条から第20条までの規定が設けられたものであること。
2 契約期間中の解雇(法第17条第1項関係)
(1) 趣旨
有期契約労働者の実態をみると、契約期間中の雇用保障を期待している者が多くみられるところである。この契約期間中の雇用保障に関しては、民法第628条において、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」ことが規定されているが、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合の取扱いについては、同条の規定からは明らかでない。
このため、法第17条第1項において、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合は解雇することができないことを明らかにしたものであること。
(2) 内容
ア 法第17条第1項は、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中は有期契約労働者を解雇することができないことを規定したものであること。
イ 法第17条第1項の「やむを得ない事由」があるか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであるが、契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解されるものであること。
ウ 契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意していた場合であっても、当該事由に該当することをもって法第17条第1項の「やむを得ない事由」があると認められるものではなく、実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的な事案に応じて判断されるものであること。
エ 法第17条第1項は、「解雇することができない」旨を規定したものであることから、使用者が有期労働契約の契約期間中に労働者を解雇しようとする場合の根拠規定になるものではなく、使用者が当該解雇をしようとする場合には、従来どおり、民法第628条が根拠規定となるものであり、「やむを得ない事由」があるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、使用者側が負うものであること。
3 契約期間についての配慮(法第17条第2項関係)
(1) 趣旨
有期労働契約については、短期間の契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであるが、短期間の有期労働契約を反復更新するのではなく、当初からその有期契約労働者を使用しようとする期間を契約期間とする等により全体として契約期間が長期化することは、雇止めに関する紛争の端緒となる契約更新の回数そのものを減少させ、紛争の防止に資するものである。
このため、法第17条第2項において、その有期労働契約により労働者を使用する目的に応じて適切に契約期間を設定するよう、使用者は配慮しなければならないことを規定したものであること。
(2) 内容
ア 使用者が有期労働契約により労働者を使用する目的は、臨時的・一時的な業務の増加に対応するもの、一定期間を要する事業の完成のためのもの等様々であるが、法第17条第2項は、当該目的に照らして必要以上に短い契約期間を設定し、その契約を反復して更新しないよう使用者は配慮しなければならないことを明らかにしたものであること。
例えば、ある労働者について、使用者が一定の期間にわたり使用しようとする場合には、その一定の期間において、より短期の有期労働契約を反復更新するのではなく、その一定の期間を契約期間とする有期労働契約を締結するよう配慮しなければならないものであること。
イ 法第17条第2項の「その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間」に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであり、同項は、契約期間を特定の長さ以上の期間とすることまでを求めているものではないこと。
4 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換(法第18条関係)
(1) 趣旨
有期労働契約(期間の定めのある労働契約をいう。以下同じ。)については、契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されずに終了する場合がある一方で、労働契約が反復更新され、長期間にわたり雇用が継続する場合も少なくない。こうした中で、有期契約労働者(有期労働契約を締結している労働者をいう。以下同じ。)については、雇止め(使用者が有期労働契約の更新を拒否することをいう。以下同じ。)の不安があることによって、年次有給休暇の取得など労働者としての正当な権利行使が抑制されるなどの問題が指摘されている。
こうした有期労働契約の現状を踏まえ、法第18条において、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)に転換させる仕組み(以下「無期転換ルール」という。)を設けることにより、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることとしたものであること。
(2) 内容
ア 法第18条第1項は、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(以下「通算契約期間」という。)が5年を超える有期契約労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされ、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約が成立することを規定したものであること。
イ 法第18条第1項の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されるものであること。
ただし、使用者が、就業実態が変わらないにもかかわらず、法第18条第1項に基づき有期契約労働者が無期労働契約への転換を申し込むことができる権利(以下「無期転換申込権」という。)の発生を免れる意図をもって、派遣形態や請負形態を偽装して、労働契約の当事者を形式的に他の使用者に切り替えた場合は、法を潜脱するものとして、同項の通算契約期間の計算上「同一の使用者」との労働契約が継続していると解されるものであること。
なお、派遣労働者の場合は、労働契約の締結の主体である派遣元事業主との有期労働契約について法第18条第1項の通算契約期間が計算されるものであること。
ウ 無期転換申込権は、「二以上の有期労働契約」の通算契約期間が5年を超える場合、すなわち更新が1回以上行われ、かつ、通算契約期間が5年を超えている場合に生じるものであること。したがって、労働基準法第14条第1項の規定により一定の事業の完了に必要な期間を定めるものとして締結が認められている契約期間が5年を超える有期労働契約が締結されている場合、一度も更新がないときは、法第18条第1項の要件を満たすことにはならないこと。
エ 無期転換申込権は、当該契約期間中に通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の初日から当該有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に行使することができるものであること。
なお、無期転換申込権が生じている有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に無期転換申込権を行使しなかった場合であっても、再度有期労働契約が更新された場合は、新たに無期転換申込権が発生し、有期契約労働者は、更新後の有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期転換申込権を行使することが可能であること。
オ 無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるものであること。
カ 法第18条第1項の規定による無期労働契約への転換は期間の定めのみを変更するものであるが、同項の「別段の定め」をすることにより、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能であること。この「別段の定め」は、労働協約、就業規則及び個々の労働契約(無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意)をいうものであること。
この場合、無期労働契約への転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではないこと。
なお、就業規則により別段の定めをする場合においては、法第18条の規定が、法第7条から第10条までに定められている就業規則法理を変更することになるものではないこと。
キ 有期契約労働者が無期転換申込権を行使することにより、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約がその行使の時点で成立していることから、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日をもって当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする使用者は、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約を解約(解雇)する必要があり、当該解雇が法第16条に規定する「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となること。
また、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日前に使用者が当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする場合は、これに加えて、当該有期労働契約の契約期間中の解雇であり法第17条第1項の適用があること。
なお、解雇については当然に労働基準法第20条の解雇予告等の規定の適用があるものであること。
ク 有期労働契約の更新時に、所定労働日や始業終業時刻等の労働条件の定期的変更が行われていた場合に、無期労働契約への転換後も従前と同様に定期的にこれらの労働条件の変更を行うことができる旨の別段の定めをすることは差し支えないと解されること。
また、無期労働契約に転換した後における解雇については、個々の事情により判断されるものであるが、一般的には、勤務地や職務が限定されている等労働条件や雇用管理がいわゆる正社員と大きく異なるような労働者については、こうした限定等の事情がない、いわゆる正社員と当然には同列に扱われることにならないと解されること。
ケ 法第18条第2項は、同条第1項の通算契約期間の計算に当たり、有期労働契約が不存在の期間(以下「無契約期間」という。)が一定以上続いた場合には、当該通算契約期間の計算がリセットされること(いわゆる「クーリング」)について規定したものであること。
法及び「労働契約法第十八条第一項の通算契約期間に関する基準を定める省令」(平成24年厚生労働省令第148号。以下「基準省令」という。)の規定により、同一の有期契約労働者と使用者との間で、1か月以上の無契約期間を置いて有期労働契約が再度締結された場合であって、当該無契約期間の長さが次の①、②のいずれかに該当するときは、当該無契約期間は法第18条第2項の空白期間に該当し、当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は、同条第1項の通算契約期間に算入されない(クーリングされる)こととなること。
なお、無契約期間の長さが1か月に満たない場合は、法第18条第2項の空白期間に該当することはなく、クーリングされないこと(基準省令第2条。シ参照)。
① 6か月以上である場合
② その直前の有期労働契約の契約期間(複数の有期労働契約が間を置かずに連続している場合又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続するものと認められる場合にあっては、それらの有期労働契約の契約期間の合計)が1年未満の場合にあっては、その期間に2分の1を乗じて得た期間(1か月未満の端数は1か月に切り上げて計算する。)以上である場合
コ 基準省令第1条第1項は、法第18条第2項の「契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準」を規定したものであること。具体的には、次の①から③までのとおりであること。
なお、ケ①のとおり、6か月以上の空白期間がある場合には当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は通算契約期間に算入されない。このため、通算契約期間の算定に当たり、基準省令第1条第1項で定める基準に照らし連続すると認められるかどうかの確認が必要となるのは、労働者が無期転換の申込みをしようとする日から遡って直近の6か月以上の空白期間後の有期労働契約についてであること。
① 最初の雇入れの日後最初に到来する無契約期間から順次、無契約期間とその前にある有期労働契約の契約期間の長さを比較し、当該契約期間に2分の1を乗じて得た期間よりも無契約期間の方が短い場合には、無契約期間の前後の有期労働契約が「連続すると認められるもの」となり、前後の有期労働契約の契約期間を通算すること。
② ①において、無契約期間の前にある有期労働契約が他の有期労働契約と間を置かずに連続している場合、又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続すると認められるものである場合については、これら連続している又は連続すると認められる全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間と、無契約期間の長さとを比較すること。
③ 基準省令第1条第1項各号の「二分の一を乗じて得た期間」の計算において、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とすること。また、「二分の一を乗じて得た期間」が6か月を超える場合は、無契約期間が6か月未満のときに前後の有期労働契約が連続するものとして取り扱うこと。
すなわち、次の表の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間(②に該当する場合は通算後の期間)の区分に応じ、無契約期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該無契約期間の前後の有期労働契約が連続すると認められるものとなること。
有期労働契約の契約期間(②に該当する場合は通算した期間) |
無契約期間 |
2か月以下 |
1か月未満 |
2か月超~4か月以下 |
2か月未満 |
4か月超~6か月以下 |
3か月未満 |
6か月超~8か月以下 |
4か月未満 |
8か月超~10か月以下 |
5か月未満 |
10か月超~ |
6か月未満 |
①から③までの説明を図示すると、別紙のとおりであること。
サ 基準省令第1条第2項は、同条第1項で定める基準に該当し無契約期間の前後の有期労働契約を通算する際に、1か月に満たない端数がある場合には、30日をもって1か月とすることを規定したものであること。
また、1か月の計算は、暦に従い、契約期間の初日から起算し、翌月の応当日の前日をもって1か月とすること。具体例を示すと次のとおりであること。
前の契約 平成25年4月5日~同年7月15日(3か月+11日)
次の契約 平成25年8月3日~同年10月1日(1か月+29日)の場合
(3か月+11日)+(1か月+29日)
=4か月+40日
=5か月+10日 として、コ③の表に当てはめ、無契約期間が3か月未満であるときは前後の有期労働契約が連続すると認められる。
なお、法第18条第1項の通算契約期間の計算においても、これと同様に計算すべきものと解されること。
シ 基準省令第2条は、法第18条第2項の「二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間」を規定したものであること。
具体的には、コ③と同様、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とすること。すなわち、次の表の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間の区分に応じ、空白期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない(クーリングされる)こととなること。
有期労働契約の契約期間 |
空白期間 |
2か月以下 |
1か月以上 |
2か月超~4か月以下 |
2か月以上 |
4か月超~6か月以下 |
3か月以上 |
6か月超~8か月以下 |
4か月以上 |
8か月超~10か月以下 |
5か月以上 |
10か月超~1年未満 |
6か月以上 |
ス 研究開発法人、大学等の研究者等についての無期転換ルールの適用に当たっては、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第99号)により、法第18条について、無期転換申込権が発生する通算契約期間を10年とする特例が設けられているものであること(平成26年4月1日施行)。
当該特例の詳細については、平成25年12月13日付け基発1213第4号「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律の施行について」が発出されているものであること。
セ 専門的知識等を有する有期雇用労働者及び定年後引き続いて雇用される有期雇用労働者についての無期転換ルールの適用に当たっては、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(平成26年法律第137号)により、法第18条に関する特例が設けられているものであること(一部を除き平成27年4月1日施行)。
当該特例の詳細については、平成27年3月18日付け基発0318第1号「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法の施行について」が発出されているものであること。
5 有期労働契約の更新等(法第19条(平成25年4月1日前は法第18条。以下同じ。)関係)
(1) 趣旨
有期労働契約は契約期間の満了によって終了するものであるが、契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであり、有期労働契約の更新等に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、雇止めに際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要がある。
このため、法第19条において、最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)を規定し、一定の場合に雇止めを認めず、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなすこととしたものであること。
(2) 内容
ア 法第19条は、有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合(同条第1号)、又は労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合(同条第2号)に、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、したがって、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が同一の労働条件(契約期間を含む。)で成立することとしたものであること。
イ 法第19条は、次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。
法第19条第1号は、有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝柳町工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。
また、法第19条第2号は、有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示した日立メディコ事件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。
ウ 法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるものであること。
なお、法第19条第2号の「満了時に」は、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。
エ 法第19条の「更新の申込み」及び「締結の申込み」は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいこと。
また、雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の「更新の申込み」又は「締結の申込み」をしたことの主張・立証については、労働者が雇止めに異議があることが、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものであること。
オ 法第19条の「遅滞なく」は、有期労働契約の契約期間の満了後であっても、正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味であること。
6 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(法第20条関係)
(1) 趣旨
有期契約労働者については、期間の定めのない労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)と比較して、雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや、処遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえ、有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確化する必要がある。
このため、有期契約労働者の労働条件と無期契約労働者の労働条件が相違する場合において、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するものとしたものであること。
(2) 内容
ア 法第20条は、有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう。以下同じ。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものであること。
したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、法第20条に列挙されている要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものであること。
イ 法第20条の「労働条件」には、賃金や労働時間等の狭義の労働条件のみならず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等労働者に対する一切の待遇を包含するものであること。
ウ 法第20条の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されるものであること。
エ 法第20条の「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」は、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」は、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を指すものであること。「その他の事情」は、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定されるものであること。
例えば、定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては、定年の前後で職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められないと解されるものであること。
オ 法第20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものであること。とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されるものであること。
カ 法第20条は、民事的効力のある規定であること。法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものであること。また、法第20条により、無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること。
キ 法第20条に基づき民事訴訟が提起された場合の裁判上の主張立証については、有期契約労働者が労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づける事実を主張立証し、他方で使用者が当該労働条件が期間の定めを理由とする合理的なものであることを基礎づける事実の主張立証を行うという形でなされ、同条の司法上の判断は、有期契約労働者及び使用者双方が主張立証を尽くした結果が総体としてなされるものであり、立証の負担が有期契約労働者側に一方的に負わされることにはならないと解されるものであること。