2019年12月に公刊された判例雑誌(労判、判タ、労経速、判時、労判ジャーナル)から労働裁判例の目次を整理しました。
労働判例 2019年12月1日号 No.1209
食品会社A社(障害者雇用枠採用社員)事件(札幌地裁令元.6.19判決)
上司の発言等によるうつ病悪化の有無と自殺に対する損害賠償請求(請求棄却)
労働判例 2019年12月15日号 No.1210
ヤマト交通(組合事務所明渡請求)事件〈付 原審〉(東京高裁令元.7.3判決,東京地裁立川支部平31.1.21判決)
24年間無償貸与してきた組合事務所の明渡請求(明渡請求棄却)
※組合事務所は期限の定めのない使用貸借契約が締結されており,組合事務所として使用するのに適切な代替施設の提供がなされておらず,組合活動を妨害する意図があった本件では,建物返還請求の正当な理由なないと判断された。
国・熊本労基署長(ヤマト運輸)事件(熊本地裁令元.6.26判決)
セールスドライバーのくも膜下出血発症・死亡の業務起因性(業務起因性肯定)
松原興産事件〈付 原審〉(大阪高裁平31.1.31判決,大阪地裁平30.5.29判決)
班長によるパワハラ等とうつ病発症の業務起因性等(業務起因性肯定,損害賠償請求認容,心因的要因による減額否定)
※上司からパワーハラスメントを受け, うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求において,裁判所は,加害者の賠償すべき額を決定するに当たり, 民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,損害の発生または拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で考慮することができるが,労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には,使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格およびこれに基づく業務遂行の態様等を心因的要因として考盧することはできないとされた。
国・中労委(日本郵便〔晴海郵便局〕)事件(東京地裁平30.12.20判決)
組合員に対する雇止め・パワハラの存否にかかる団交拒否の適法性(団交拒否の違法性なし)
尾崎織マーク事件(京都地裁平30.4.13判決)
事業所廃止に伴う解雇の有効性と定年後再雇用契約の成否等(解雇無効,定年後再雇用の期待侵害を理由とした損害賠償認容)
※ 定年前に解雇された。年後の再雇用(雇用継続)について,再雇用を希望する者全員との間で新たに労働契約を締結する状況が事実上続いていたとしても,労働契約が締結されたと認定・評価するには,強行法規が存在していれば格別,そうでない場合には,賃金額を含めた核心的な労
働条件に閨する合意が存在しない以上,契約上の地位確認は認められないとされた
※ 年後に嘱託社員として再雇用(継続雇用)されるとのXの期待が明らかである以上,違法無効な整理解雇は,雇用継続の期待権を侵害した不法行為責任を生じさせるとされた。その上で,3年分の賃金相当額が損害として認容された。
グレースウィット事件(東京地裁平29.8.25判決)
IT技術者4名の未払賃金の有無と固定残業代等(固定残業認める)
判例タイムズ 1466号 1月号 (2019年12月25日発売)
東京高裁平31.2.27判決
部下の女性教諭にわいせつ行為をして懲戒免職処分を受けた公立中学校長に対する退職手当等全額不支給処分が全部適法であると判断された事例
※原審(千葉地裁平成30.9.25判決)では退職金の4分の1に限り認容されたが,控訴審で100%不支給と判断された。
労働経済判例速報(12/10)2395号
飯島企画事件 東京地裁(平成31年4月26日)判決
実際の時間外労働時間数との間に相当程度の差異がある時間外手当が固定残業代として有効とされた例
※ 手当型の固定時間外手当の有効性が問題となった事案。固定時間外手当は雇用契約書上で「時間外手当」と明記されていたので,明確区分性は問題ない事案であった。
※ 先例である日本ケミカル事件(最判平30.7.19)では,ある手当が時間外労働等に対する対価か否かは、①雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、②具体的な事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考盧して判断すると判示している。本件では,給与総額はほぼ一定の金額としたまま、その内訳において、「時間外手当」と基本給の金額が変動していたり、被告が給与計算において考盧した時間外労働等に係る時間数と、「時間外手当」に相当する残業時間数が乖離していた。この点が上記先例の要件②の実際の労働時間等の勤務状況との整合性との関係で問題となった。
※ 本判決では,「時間外手当」が本件雇用契約締結当初から設けられたものであることやその名称、同手当が実際の時間外労働時間を踏まえて改定されていたことを理由に、時間外労働に対する対価として支払われたものということができると判示した。本件では、雇用契約書において、「時間外手当」と明記されており、文言上、それが時間外労働に対する対価と解することができたため、上記で指摘した点は、「時間外手当」が時間外労働に対する対価であると解することを否定するほどの事情とはならないと判断したものと思われる。
桑名市事件 名古屋地裁(平成31年2月14日)判決
医師の超過勤務時間のうち15分未満の切り捨て処理された時間について、未払賃金請求が認められた例
富国生命保険事件 仙台地裁(平成31年3月28日)判決
総合職加算及び勤務手当が法内残業の対価であると認められた例
※ 始業時刻については、勤怠管理システム上の打刻時間から当然に同時刻から被告の指揮命令下で就労していたとまで推認できない(システムの打刻時刻は,原告が出勤して本件システムに打刻した時刻に過ぎず,指揮命令下で就労したことまで推認できるわけではない)こと、所定始業時刻前から業務遂行していた日があったことは推測されるが、それが被告に義務付けられたものと認めるに足りる証拠がないことから、就業規則で定められた午前9時を始業時刻と認めた。→勤怠管理システムの打刻時刻=労働時間ではない,と判示した。
※ 総合職加算及び勤務手当は,これを明確に法内残業の対価として支払う旨の規定はないが,その支給対象者は法内残業時間に対する時間外勤務手当の支給対象外と定められていることに照らすと,法内残業に対する時間外勤務手当の性質を有していると判示した。
Y社事件 名古屋地裁(令和元年6月7日)判決
自宅でのウェブサイトの更新作業について、基本的には私的な時間であるとして、労働時間に該当しないとされた例
労働経済判例速報(12/20・30)2396号
ジャパンレンタカー事件 津地裁(平成31年4月12日)判決
アルバイトに対する配転命令が勤務地限定の合意又は権利濫用により無効とされた例
※ 雇止め → 雇止め無効の裁判(請求認容) → 配転(遠方の支店) という流れがあった。
労働判例ジャーナル 93号(2019年・12月)
公益社団法人島根県水産振興協会事件 広島高裁松江支部(令和元年9月4日)判決
内縁関係にある夫婦の一方を異動させる配転命令が、業務上の必要性がなく、不当な動機、目的に基づいてされた者で権利の濫用に当たり、無効であるとされた例
上司の発言と人事考課が国賠法上違法性があり、慰謝料請求が認められた例
孝生社大阪老人介護事件 大阪地裁(令和元年8月30日)判決
介護施設の元従業員らの割増賃金未払等に基づく損害賠償等請求が斥けられた例
医療法人明成会事件 大阪地裁(令和元年8月29日)判決
雇止め無効地位確認請求が認められ、未払賃金等支払請求が一部認められ、損害賠償等請求が斥けられた例
地方独立行政法人大阪市民病院機構事件 大阪地裁(令和元年8月22日)判決
本件契約の更新の期待に合理的な理由があるとはいえないとして、雇止め無効地位確認等請求が斥けられた例
清和プラメタル事件 大阪地裁(令和元年8月22日)判決
固定残業代の主張は理由がない等として、未払割増賃金及び付加金等支払請求が一部認められた例
新日本事件 大阪地裁(令和元年8月21日)判決
会社主張の懲戒事由はいずれも疎明があるとはいえないとして、賃金仮払申立が一部認められた例
津幡町事件 名古屋高裁金沢支部(令和元年8月21日)判決
先輩職員らの言動に不法行為上の違法は認められないとして、損害賠償請求等が斥けられた例
新栄不動産ビジネス事件 東京地裁(令和元年7月24日)判決
仮眠時間は労働時間に当たり、変形労働時間制及び固定残業代制も無効であるとして、未払賃金等支払請求が一部認められた例
※ 1ヶ月単位変形労働時間性が認められる為には,単位期間内の各週,各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される(最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。
しかし,被告会社では,「勤務パターンごとの始業終業時刻,勤務パターンの組み合わせ,勤務割表(シフト表)の作成手続及び周知手続が全く定められておらず,原告らの実際の勤務時間はシフト表(甲7)により定められていたことが認められる。また,シフト表自体は,毎月1日より前に従業員の希望を元に勤務日及び勤務時間を特定して作成されていたものの,シフト表からは,休憩時間や仮眠時間は明らかではない(上記1(4))。(イ)以上を踏まえると,シフト表の記載に関わらず,単位期間における各日,各週の労働時間が就業規則において特定されていたと評価することはできない。」したがって,当該期間における被告の変形労働時間制の定めは,労働基準法32条の2の要件を充足しないものとして無効である。
国・亀戸労基署長事件 東京地裁(令和元年7月18日)判決
労働者の精神障害発病の業務起因性は認められないとして、休業補償給付不支給処分取消請求が斥けられ(甲事件)、違法な公権力の行使は認められないとして、損害賠償請求が斥けられた(乙事件)例
関電工事件 東京高裁(令和元年7月11日)判決
社宅を貸与するよう求め得る作為請求権がある等とは認められないとして、損害賠償等請求が斥けられた例
えびす自動車事件 東京高裁(令和元年7月3日)判決
退職したと認められるとして解雇無効地位確認等請求が斥けられ、不就労期間の未払賃金等支払請求も斥けられた例
※ 解雇前の出社拒否期間があるが,タクシー運転手でありながら度重なる事故を起こし,免許停止処分を受け,その後も改善に向けた姿勢やタクシー運転手として勤務をする意向を表明しなかったこと等から会社の責めに帰すべき事由はないとして,賃金請求は発生しないとした。
マルハン事件 東京地裁(令和元年6月26日)判決
懲戒解雇及び普通解雇が無効であるとして、地位確認請求が認められ、中間収入の控除により未払賃金等支払請求が一部認められ、慰謝料請求も一部認められた例
三村運送事件 東京地裁(令和元年5月31日)判決
時間外割増賃金等支払請求が一部認められ、付加金等支払請求が斥けられた例
弁護士法人子浩法律事務所事件 東京地裁(令和元年5月31日)判決
解雇無効地位確認等請求が斥けられ時間外割増賃金等支払請求が一部認められた例
ズツカ事件 東京地裁(平成31年4月26日)判決
元従業員の解雇無効地位確認等請求が認められ(甲事件)、会社の元従業員に対する損害賠償等請求(乙事件・丙事件)が斥けられた例
飯島企画事件 東京地裁(平成31年4月26日)判決
時間外労働に係る割増賃金等の請求には理由がなく、賃金減額に同意があったとして、未払賃金等支払請求が斥けられた例
国・法務大臣事件 大阪地裁(平成31年4月24日)判決
期間業務職員の地位は、任期の満了により当然に終了する等として、不採用決定無効地位確認等請求が斥けられ、損害賠償等請求も斥けられた例