ことぶき事件(最高裁判所第二小法廷平成21年12月18日判決)

管理監督者に該当する労働者が深夜割増賃金を請求できるとした例

1 事案の概要

被上告人は,美容室及び理容室を経営する会社である。
上告人は,平成8年4月に被上告人に入社し,平成13年ころから総店長の地位にあったが,平成18年3月31日に退職した。
本件は,上告人が被上告人に対し,深夜割増賃金の支払いを求める事案である。

2 判例のポイント

2.1 結論

管理監督者の該当する労働者であっても,深夜割増賃金を請求することができると判断された。

2.2 理由

① 勤務内容・責任・権限

総店長で,代表取締役に次ぐ,ナンバー2の地位にあり,会社の経営する5店舗の店長を統括していた。
(第1審):毎月店長会議に出席していた。特殊技能を要する職業であって,顧客がいない場合実質的には休憩時間となることも少なくない理美容業の勤務形態から特段の事情がない限り会社が原告に時間外手当を支払っていなかったとしても不当な事情に当たらない。
(第2審):総店長として,名実ともに労務管理について経営者と一体的な立場にあった。労基法に定められた規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有していて規制になじまない立場にあったとして管理監督者に該当する。

② 勤務態様

原則午前10時に出勤し,午後8時に退社していた。
(第1審) :1日当たり1ないし2時間程度の時間外労働をしていて,当該時間外労働手当を支払っていなかったとしても不当とする特段の事情はない。

③ 賃金等の待遇

店長手当3万円,賃金は他の店長の1.5倍程度。月額給与43万4000円,その後39万0600円。
店長手当月額3万円は他の店長の3倍に当たる。基本給も他の店長の1.5倍で,総店長として不十分とはいえない待遇であった。

3 判決情報

3.1 裁判官

裁判長裁判官:今井功
裁判官:中川了滋
裁判官:古田佑紀
裁判官:竹内行夫

3.2 掲載誌

最高裁判所裁判集民事232号825頁
裁判所時報1498号39頁
判例タイムズ1316号129頁
判例時報2068号159頁
働判例1000号5頁

4 主文

原判決中,深夜割増賃金に係る反訴請求に関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

5 理由

上告代理人廣瀬正司の上告受理申立て理由について

1 本件反訴請求は,美容室及び理容室を経営する被上告人に雇用されていた上告人が,労働基準法(以下「労基法」という。)37条3項に基づく深夜割増賃金等の支払を被上告人に対して求めるものである。

2 原審は,労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」という。)には,同法の定める深夜割増賃金に関する規定は適用されないと解した上,上告人は管理監督者に該当すると認定して,深夜割増賃金に係る反訴請求を棄却すべきものと判断した。

3 しかしながら,管理監督者には深夜割増賃金に関する規定が適用されないとする原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
労基法における労働時間に関する規定の多くは,その長さに関する規制について定めており,同法37条1項は,使用者が労働時間を延長した場合においては,延長された時間の労働について所定の割増賃金を支払わなければならないことなどを規定している。他方,同条3項は,使用者が原則として午後10時から午前5時までの間において労働させた場合においては,その時間の労働について所定の割増賃金を支払わなければならない旨を規定するが,同項は,労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で,労働時間に関する労基法中の他の規定とはその趣旨目的を異にすると解される。
また,労基法41条は,同法第4章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,同条各号の一に該当する労働者については適用しないとし,これに該当する労働者として,同条2号は管理監督者等を,同条1号は同法別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者を定めている。一方,同法第6章中の規定であって年少者に係る深夜業の規制について定める61条をみると,同条4項は,上記各事業については同条1項ないし3項の深夜業の規制に関する規定を適用しない旨別途規定している。こうした定めは,同法41条にいう「労働時間,休憩及び休日に関する規定」には,深夜業の規制に関する規定は含まれていないことを前提とするものと解される。
以上によれば,労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく,管理監督者に該当する労働者は同項に基づく深夜割増賃金を請求することができるものと解するのが相当である。

4 もっとも,管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はないところ,原審確定事実によれば,上告人の給与は平成16年3月までは月額43万4000円,同年4月以降退社までは月額39万0600円であって,別途店長手当として月額3万円を支給されており,同16年3月ころまでの賃金は他の店長の1.5倍程度あったというのである。したがって,上告人に対して支払われていたこれらの賃金の趣旨や労基法37条3項所定の方法により計算された深夜割増賃金の額について審理することなく,上告人の深夜割増賃金請求権の有無について判断することはできないというべきである。

5 以上によれば,原審の判断のうち深夜割増賃金に係る反訴請求に関する部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上記の部分は破棄を免れない。そして,上記4の点について更に審理を尽くさせるため,上記の部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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