日水コン事件(東京地裁平成15年12月22日判決)

豊富な経験と高度の技術能力を有する即戦力のシステムエンジニアとして中途採用された社員が,約8年間の日常業務に満足に従事できず,期待された結果を出せなかった上,上司の指示に対しても反抗的な態度を示し,その他の多くの課員とも意思疎通ができ無いことを理由に行われた解雇が有効と判断された例

1 判例のポイント

1.1 解雇の有効性

原告は,被告からコンピューター技術者としての豊富な経験と高度の技術能力を有することを前提に,被告の会計システムの運用・開発の即戦力となり,将来は当該部門を背負って立つことをも期待されて,SEとして中途採用されたにもかかわらず,約8年間の同部門在籍中,日常業務に満足に従事できないばかりか,特に命じられた業務についても期待された結果を出せなかった上,直属の上司であるAの指示に対し反抗的な態度を示し,その他の多くの課員とも意思疎通ができず,自己の能力不足による業績不振を他人の責任に転嫁する態度を示した。そして,人事部門の監督と助力の下にやり直しの機会を与えられたにもかかわらず,これも会計システム課在籍中と同様の経過に終わり,従前の原告に対する評価が正しかったこと,それが容易に改善されないことを確認する結果となった。このように,原告は,単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく,著しく劣っていてその職務の遂行に支障を生じており,かつ,それは簡単に矯正することができない持続性を有する原告の性向に起因しているものと認められるから,被告就業規則59条3号及び2号に該当する

1.2 改善可能性

長期にわたる成績不良や恒常的な人間関係のトラブルは,原告の成績不良の原因は,被告の社員として期待された適格性と原告の素質,能力等が適合しないことによるもので,被告の指導教育によっては改善の余地がないことを推認させる。

1.3 関連裁判例

  • フォード自動車(日本)事件(東京高裁昭59.3.30労働判例 437号41頁)
  • 持田製薬事件(東京地裁昭和62年8月24日決定 労働判例503号32頁)
  • セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁平成11年10月15日決定)
  • エース損害保険事件(東京地方裁判所平成13年8月10日決定)

1.4 参考記事

1.5 判決情報

  • 裁判官:多見谷寿郎
  • 掲載誌:労働判例871号91頁

2判例の内容

2.1 事案の概要

本件は,システムエンジニアとして被告Yに中途採用された原告Xが.Yから解雇の意思表示(以下「本件解雇」)を受けたが,Xには解雇事由がなく,また.本件解雇は解雇権の濫用に該当するとして,Yに対し.労働契約上の地位の確認,並びに解雇後の賃金および遅廷損害金の支払いを求めた事案である。
Yは,建設コンサルタント業を営む会社であり.Xは平成4年3月1日付で,YにSEとして中途採用された。Xは入社後,Yの総務本部企画管理部管理課に配属され,その後会計システム課に配属され.平成12年3月31日までの8年間、SEとして財務・会計システムの運円にかかわる業務に従事していた.

2.2 判断

争いのない事実等(末尾記載の証拠等により容易に認定できる事実を含む。)

(1)当事者

(ア)被告は,東京都○○区に本店を置く建設コンサルタント業を営む会社であり,国内外における公共事業の企画,調査,研究,計画,設計,工事管理及び施設の運転,管理,診断,水質検査並びにこれらに関わる経済・財務分析等を業としている。
(イ)原告は,平成4年3月1日付けで,被告にSEとして中途採用という形で雇用され,期限の定めのない労働契約が成立した。

(2)原告の業務

原告は,入社後,被告の総務本部企画管理部管理課に配属され,同課が,平成5年4月1日付け組織変更で経理全般及び管理会計を担当する総務本部管理部管理課と経理及び管理会計の情報システム処理・運用を担当する同部会計システム課に分かれた際,会計システム課(以下便宜上組織変更前の管理課を含めて「会計システム課」という。)に配属され,平成12年3月31日までの8年間,SEとして財務・会計システムの運用にかかわる業務に従事していた。その後,平成12年4月1日付けで総務本部情報管理部情報管理課(以下「情報管理課」という。)に配置換えとなり,同年7月1日付けで「情報管理部資料センター(大阪支所在駐)」(大阪支所にある資料センターは,東京本社におかれている情報管理部資料センターの分室であり,原告の直属の上司は東京本社におかれている情報管理部資料センターの資料センター長であり,その上司は情報管理部部長である。以下,便宜上,大阪支所にある資料センターを「大阪支所資料センター」といい,東京本社におかれている情報管理部資料センターを「東京本社資料センター」ということがある。)に,平成13年7月1日付けで総務本部IT推進部(情報管理部から改組された。)資料センター(東京本社資料センター)に,それぞれ配置換え・配属換えとなった。
なお,原告は,平成8年7月,課長補佐に昇進した(〈証拠略〉)。

(3)被告就業規則

被告には,以下の条項を有する就業規則が存在する(〈証拠略〉)。
(解雇)
第59条
職員が次の各号の1つに該当すると認めた場合は,30日前に予告するか,又は平均賃金の30日分を支給して解雇する。
(2)職員としての適格性を欠く場合
(3)職務に誠意なく勤務状況著しく不良の場合
(4)原告の入社から本件解雇までの主な出来事は別紙1「原告の入社から本件解雇までの時系列表」記載のとおりである。
(5)本件解雇の意思表示
被告は,原告に対し,平成14年7月12日,別紙2「解雇通知書」(〈証拠略〉)記載のとおり,就業規則59条3号および2号に該当するとして,平成14年7月12日付けで解雇する旨の本件解雇の意思表示をした。

(6)原告の賃金

本件解雇当時の原告の賃金は,月額51万5500円(各種控除前。ただし,2万5650円の通勤手当を除く。)で,毎月25日限り支払うとの約定であった(〈証拠略〉,弁論の全趣旨)。

(7)確認の利益等

被告は,本件解雇により原告との雇用契約が終了したとし,賃金も支払わない。

当裁判所の判断

1 争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告の入社経緯と被告の体制

原告は,昭和54年にA工業大学工学部数理工学科を卒業して以降,被告入社までの間に,Bシステム株式会社システム部勤務,C製薬株式会社電算室勤務,D建設株式会社電算室勤務,株式会社Eコンピューター室勤務と,約13年間のコンピューターのソフトウエア技術者としての業務経験を有していた。また,原告は自己をコンピューターがなければ仕事ができない単なるSEではなく,よりレベルの高いコンピューターのソフトウエア技術者であると自負し,被告入社以前の勤務先は,担当したコンピューターのシステム構築の業務のレベルが高くない,会社が技術者の扱いを分っていない,自分の能力が十分活用されない,仕事の割り振りが納得できないといった理由で退社した(〈証拠・人証略〉)。
被告は,平成2年4月ころ基幹系ホストコンピューターをH製作所製からF社製に移行させた後,担当スタッフが3名退職してF社製のソフト・ハードウェアによって開発された会計システム(社内の財務・原価管理・給与システムの総称)の運用・開発に当たるスタッフが,Aのほか,経験1年の新人スタッフと嘱託社員の3名になったことから,即戦力となる「会計システムの運用・開発業務経験者」を複数採用することにした(〈証拠略〉)。
そして,被告は,原告のSEとしてのスキルおよび業務実績が即戦力となるものと判断して,SEとして「会計システムの運用・開発業務」に従事させるため中途採用した(争いがない。〈証拠略〉)。なお,被告は,原告に対し,採用前,その希望で上記システムのプログラムソースリストを見せたところ,原告はそれについて理解できた旨の発言をした(〈証拠略〉)。また,被告は原告に対し将来的には被告のシステム部門を背負っていくような活躍を期待する旨の発言もした(〈証拠略〉)。したがって,原告は被告において専門家としての能力を発揮し,業務実績を挙げることを期待されていた。このことは採用にあたって原告に対し十分に説明されていたことであり,原告自身も承知していた。なお,同時に採用したDは平成7年8月に退社した。
B部長は,システム運用を含め管理部門の責任者であり,上記組織変更時には総務本部管理部長兼管理課長兼会計システム課長となった。ただし,同部長は会計経理の専門家であるがコンピューターの専門家ではないため,被告の基幹系会計システムに関わる会計システムの構築・技術的対応についてはAが責任者となっており,会計システム課の実質的責任者といった立場であった。但し,Aは,B部長に常時報告・相談をして,その指示の下に業務を行い,また,コンピューターの専門知識を有するE部長の指導も受けていた。
原告は,上司であるAまたはB部長から業務に関する指示・命令を受けたときは速やかにそれを実行すべき義務を負っていた。ただし,AのSEとしての経験年数は原告入社当時約10年と原告よりは短かった。(争いがない。〈証拠・人証略〉)

(2)F社基幹システムの概要説明等,入社直後の状況

原告は,会計システム課に配属された最初の2か月程,Aから被告における経理の事務手続とそのシステム化という被告のF社基幹システムの概要説明を受けた。その方法は,A自身も当該システムを理解するのに使用した資料を渡して口頭で説明し,併せて端末を使用して操作をするというものであった。
また,原告が入社1か月目からAの通常月4,50時間程度を大幅に超える100時間もの時間外労働をしたことからAが不必要な残業をしないよう注意した。しかし,その後も不必要と思われる残業があり,Aらは同様な注意をした。ただし,真実必要と認められる残業をも禁止する趣旨ではなかった。
さらに,原告がただプログラムソースリストを印刷したものを見ながら座っていたので,Aが何をしているか尋ねたところ,原告は業務把握をしている(基幹システムを理解しようとしている。)と答えたが,さらに,リストを見ているだけでは分からないのではないかと尋ねると,原告は「自分には自分のやり方がある。あんたに言われる筋合いはない。」と答えたことがあった。(〈証拠・人証略〉)

(3)日常業務における業務遂行

原告は,上記(2)の基幹システムの概要説明を受けた後,会計システム課の日常業務である「会計システムの日次・月次処理のオペレーションのサポート」,「社内各部署からの問い合わせ業務」および「F社側の保守サービス部門への連絡業務」に従事するようになった。上記(1)の入社経緯から原告には早期にライン業務に乗ることが期待されており,このような日常業務へ従事させることで業務を通じて原告に被告の会計システム全容を理解させることも目的としていた。しかしながら,原告の担当した上記日常業務において,例えば,原告のF社側への連絡業務に関し,F社側の担当者から「トラブル等の問い合わせ連絡が頻繁にあるが,何を言っているのか内容が理解できない。今後はAから連絡を頂きたい。」とのクレームが入ったり,また,社内からの問い合わせ業務においても,原告の回答が要領を得ず意味不明であることから,他の担当者に再確認の連絡が入ることが頻繁にあった。そして,最終的には,原告に対する業務問い合わせは一切なくなる状態になった。(〈証拠略〉)

(4)F社基幹システムの概要ドキュメント作成(〈証拠・人証略〉)

F社からシステム納品時に提供されたシステム理論設計書,プログラム設計書,詳細なマニュアルは,必ずしも使い勝手がよくなかったため,人の異動によって情報がとぎれることのないようにこれらを参考にしてシステムの概要ないし全体図といったドキュメントを作成することが原告の入社前から懸案となっていたが,人員が足りないため先送りになっていた。原告らの入社により人員が整い,また,この作業は業務把握にも資することから,原告の入社2か月目の平成4年6月ころ,システム毎に分担して入力系から概要ドキュメント作成を進めることにした。原告の分担した部分はフロー図だけで説明として十分ではなかったが,その作業は原告の入社1年ほどで一応終了した。

(5)システムの機能追加業務(〈証拠・人証略〉)

システムの機能追加業務(件名:付替機能システム)は,平成5年2月3日付け「企画管理部『事務電算』の中期(3年間)年度別活動計画」の別紙「35期(平成5年度)業務予定スケジュール」で同年度中の活動計画として14本予定されたうちの唯一の新規開発作業であり,処理内容はプロジェクトNo間での経費の自動振替である(〈証拠略〉)。平成4年6月ころ,プログラム開発自体はF社に外注し,被告の複数の社員による作業グループが設計仕様の取りまとめと作成プログラムの機能確認等を担当する形で,検収予定を平成5年2月ころとして開始された。この間2週間に1回程度F社側と原告を含む会計システム課の全課員らが出席して進捗会議を持っていた。この際,原告にも発言の機会が与えられていた。原告はその中でできた作成プログラムの動作確認を担当し,平成5年3月10日プログラム設計書の検収印を押したが,納品検収後に,システムの内容がまったく機能しないという事態が生じた。そこで,Aは原告に対し,不具合の特定と善後策の検討を指示したが,結局原告は不具合の特定をすることが出来ず,対策を講じることが出来なかったため,A自らが改修プログラム作成のフォローを行い,同業務は約2ヵ月程度の遅れで終了した。Aは,原告のシステム把握や今後の運用を期待し,B部長とも相談の上,原告に被告側の主担当者としてF社との連絡窓口となることを期待して,この業務を依頼したが,原告は,不具合の特定作業の過程においても,原告は他のグループメンバーのチェック責任を指摘して他に責任転嫁する態度を示した。

(6)原告とAらとの意思疎通の状況(〈証拠・人証略〉)

Aは,上記(2)のとおり原告が反抗的な態度を示すのでB部長に報告し,B部長から原告に注意したこともあった。また,B部長は,原告が「仲間に入れてくれない。」「質問しても答えてもらえない。」と訴えてきたことから,原告に対し上記のような態度を改めるよう指導するとともに,Aに対して原告とのコミュニケーションをとり円滑な関係をもつようにアドバイスをした。しかし,原告は,ますますAから指示されることを嫌がり,平成4年9月ころにはAに対する反発を強めそれを態度に現すようになり,Aの注意・指導に対し,「あんたにいわれる筋合いはない。」と発言するなど反発の態度が顕著になっていった。また,他の者とも積極的にコミュニケーションを取らず,自分のやり方に固執する態度を示した。B部長としては,原告には女性上司に対する反発と自己の技術力に対するプライドから他者の指示を受けることに抵抗があると感じていたこともあって,Aに原告の指導をさせることは限界であると判断するようになった。そして,後記(7)のとおり出来高システム改善業務の業務遂行中,Aに対し,原告の指導は同部長が直接行う旨指示した結果,Aは原告に対し積極的に注意・指導をしなくなった。
他方,B部長らは,平成5年2月3日付け「企画管理部『事務電算』の中期(3年間)年度別活動計画」の基本方針の中で,担当者間の相互信頼が不可欠であり,各担当者が心に銘記すること,知識と熱意を身につけることを上げ,35期実行計画として,現在の担当者の実務経験年数及び現システムの習熟度からすると,当期の第一の目標は現システムの理解を深めることであり,この目標を達成するためにOJTの一環として「35期(平成5年度)業務予定スケジュール」の現システムの改良及び修正等を行うこととした。これは原告,D,Aを含む会計システム課員に回覧されている。(〈証拠略〉)。
この間,会計システム課ではF社との定例会議が少なくとも月に一回の頻度で開催されており,これには原告を含め課員全員が出席するものとされ資料も全員に配布されるか回覧されていた(〈証拠略〉)。その他,事故記録(〈証拠略〉),仕様変更の報告や(〈証拠略〉)その他の連絡文書(〈証拠略〉)も原告に回覧されていた。被告社内のコンピューターネットワークには,原告もアクセスすることができ現にファイルに書き込みをしている(〈証拠略〉)。平成11年4月と6月に実施されたF社講習会には原告も参加している。
その他,Aは,適切でない時期に質問してきた原告に対し,自分で調べるように言ったり,F社のSEから何を言っているのか理解できないとの苦情があったことから,F社との連絡について予め聞きたいことをまとめてから質問するようにと指導したことはあったが,原告を課内の会議や打ち合わせに参加させており,原告からの質問自体を拒否したり,原告からF社への問い合わせを禁止したりしたことはない。本社ビルの移転後も原告と他の課員との接触の機会は十分にあったが,原告の方からその姿勢がなかった。

(7)出来高システムの改善業務(〈証拠・人証略〉)

同業務は,上記のとおり35期(平成5年度)中の活動計画として14本予定されたうちの一部であり,その処理内容は入力業務の不備のメンテで,具体的には,①売上の増減による再売上を現状3日間要し決算月はそのために締め日を延ばさなければならない状況であるのを単日処理可能とすること,②出来高損益表に,進行基準の出来高=予算全額/実額全額を追加すること,③出来高損益表の計算式の誤りを直す(現状が「予算外注費×作業出来高率=外注費」であるのを,「出来高100パーセントの場合のみ実績外注費=外注費」に変更することである(〈証拠略〉)。
原告は入社2年目である平成5年3月頃からこれを担当することとなった。これらの作業は経験者が専従すれば,テストを含め本番移行まで6か月程度で終了させることができる内容のものであった(原告もその陳述書,甲4の7ので通常の場合6か月程度で終了させられる作業であることを認めている。)。
この業務の実施にあたり,B部長は,原告が当時Aの指示命令を受けることを完全に拒否し,「自分への指示やクレームがある場合はB部長を通じて言うように」と発言するまでに至っていたことから,Aを通さずに直接原告を指導する他ないと判断した。また,原告がこの時期に至っても被告の会計システムおよび業務の流れを理解していないことから,本業務を通じて会計業務を理解させ,自信をつけさせようと考えた。そこで,同部長は,Aに対し,自分が原告に指示・指導するからAからは余り指示しなくてよいと伝え,自ら原告に同業務に関し指示・指導し,また,原告に対し「自分自身から殻に閉じこもり,周囲に責任があるような考え方では何の解決にもならないのであるから,同僚とコミュニケーションを図って情報収集を積極的に行いながら課題を達成するように」指導し,かつ管理部内のI主事とチームを組ませて,同人から原告に対し出来高の問題点とシステム改善に関する要望・修正等を本人に理解させる体制を設けた。B部長は,原告が入社以前からSEとして長い経験を有することやAとは折り合いが悪くても他の会計システム課員などに質問して必要な情報は得られると期待して本業務を進めさせた。
しかしながら原告の態度は改善されず,積極的に部門スタッフとコミュニケーションを図ったり,情報収集をしようとする姿勢は見られなかった。また,この問題を原告は「周囲が自分に対して悪感情を持ち,情報を与えてくれない。」「周囲が自分に情報を与えない妨害状況にあり,システムを理解する環境が与えられていない。」と主張し,周囲の環境にすべて責任転嫁する態度であった。また,原告は,本業務の遂行にあたり,何度も同じ失敗を繰り返し,月次ごとに修正作業を行う状態で作業は進捗せず,また,オンラインテストを実施せずに本運用を始めて障害を発生させるなど完了するまでに通算約4年という長時間を要した。

(8)新システムの次期開発の作業プロジェクトヘの参加(〈証拠略〉)

被告では,平成9年頃,2000年問題対応を契機として,既存のF社製の基幹系会計システムを新システムに置き換えるためのソフト・ハードウエアの選定および開発に関わるプロジェクトチームを発足させた。これは,被告において重要なプロジェクトであった。本プロジェクトは,当初J社製のソフトウエア(ワンワールド)を用いて,新規開発する予定だったが,検討の結果,開発期間・運用面で問題があり,最終的には2000年問題に対応するF社製の新しいソフト・ハードウエアに平行移動することに決定された。
当初原告はこれに参加していなかったが,B部長は,原告を上記プロジェクトのメンバーに加え,J社主催の教育研修に参加させるなど,知識・技術修得の機会を与えた。この中で,原告は,B部長に対し,ワンワールドの不具合について口頭で指摘することはあったものの,原告の指摘する問題点は開発チームすべてが既に共通認識として抱えている事項のみであり,しかも原告の指摘はその中でも特に表面的な問題点のみへの言及にとどまっていた。B部長は「不具合があるならば,具体的にどのような不具合があり,どのような改善対策があるのか企画書にまとめて提案するよう」再三指示したが,原告からドラフトされたものが提出されたことはなかった。

(9)大阪支所資料センターへの配置換え・配属換えの経緯

原告は,平成12年4月1日付けで,会計システム課が廃組・情報管理課に吸収されたのに伴い,情報管理課に異動した。この際,B部長から原告の上司となるK新情報管理部長(以下「K部長」という。)に対し,原告の業務実績が乏しく,仕事の進め方に問題があるとの引き継ぎがあり,K部長は原告を直接指導することにした。4月下旬,K部長から原告に対し大阪支所資料センターへの配置換え・配属換えの打診があった。これに対し,原告は,5月9,10日,G課長に対し人権に関する相談を求め,G課長はこれに応じて10日に面談した。その際,原告は,原告の会計システム課における勤務状況につき,「周囲が自分に対し悪感情を持ち,情報を与えてくれない」旨訴えた。そこでG課長はB部長からヒアリングを行い,その結果,周囲が原告に対し情報遮断を行ったというよりも,原告の方が周囲とのコミュニケーションを避ける傾向があったこと,原告の過去8年間の業務実績が非常に乏しく,仕事の進め方に問題があることを確認した。しかし,同課長は,原告にそのような問題点を認識させられなかった点で管理部にも問題があり,原告には再教育・指導の機会を与える必要があると判断し,K部長と相談の上,その趣旨で原告に対し18日配置換えの内示をした。すなわち,資料センターは社内の蔵書や成果物の管理を担当し,大阪分室は,大阪支所のそれを行っているもので比較的管理範囲が小さく,ルーティン業務がある程度出来ていたため,業務を初歩から覚えるには最適であり,且つ過去のしがらみがない事業所での再スタートは,原告にとって好環境であるとの判断であった。そして,その際,G課長は原告に対し,通知(〈証拠略〉)の記載に副って,まず,配置換えの意義を明らかにし今後の業務に対する動機付けとするため,原告の業務実績が非常に乏しく,原告の仕事の進め方に問題があること,これから仕事を一からやり直すような気持ちで始めるべきこと,仕事の進め方に関する大きな課題として,上司等とコミュニケーションを取り,周囲と業務調整をしていくことを中心に指導し,40歳台の中堅社員に対する指導育成としてはこれが最後の機会になるとの趣旨を告知した。その具体的な内容は,「平成12年7月1日付で,『大阪支社』へ転勤を命じ,心機一転取り組める職場環境を提供する,配属部門は『総務本部情報管理部資料センター(大阪支所駐在)』とする,資料センター長と密接な業務連絡を図り,期待されている要求事項を的確に捉え,上司の指導・助言を受けながらOJTを主体とした指導育成を実施する,指導育成の進捗状況,業務成果の評価等について,人事企画課長が直属上司及び原告に対しヒヤリングを実施(半期1回程度)し,必要に応じて原告及び直属上司等へ助言・指導を行う事とする。なお,原告は別途『業務進捗報告書(2ヵ月に1回)』を作成し,人事企画課長に提出する事とする,指導育成の結果,原告に『仕事への取り組み姿勢』及び『業務遂行能力』の向上が見られないと会社が判断した場合は,原告の能力・適正(ママ)に応じた業務内容・処遇による継続雇用(嘱託社員)の可能性も選択肢として残した上で,会社は最終的な処遇を決定する。原告は,いかなる会社決定にも従うことを約束する,その判断時期は,①転換業務への習熟期間を6ヵ月,②業務成果の評価対象期間を1年間と定め,平成14年1月に実施する。」というものであった。原告はこれを了解して乙2に署名捺印した。なお,G課長は,同通知の中で,人事企画課長という中立的立場から,原告の言い分も斟酌する趣旨で「上司の指導および援助不足には問題があったが」という表現を用いたが,これは,上記認識を踏まえて,人事企画課長という中立的な立場から原告の言い分を勘酌したことを示し,原告に新たな職場での動機付けとなることを期待した表現であった。(〈証拠・人証略〉)

(10)大阪支所資料センターにおける原告の勤務状況(平成12年7月1日)と第1回面談(平成13年3月27日)

大阪支所資料センターは当時社員1名とアルバイト2名で構成され,F情報管理部資料センター長(以下「F」という。)と原告の前任者で東京本社に配置換えした資料センター課長補佐L(以下「L」という。)が実務面の指導を,K部長が部門長の立場から月一回の課長会議の場等で方針の修正や指示・助言をする体制となった(〈証拠略〉)。大阪配置換えにあたり原告がK部長から指示されていたのは「大阪支所資料センターの在り方」ではなく,「成果品(控)の現物管理について」であった。
この間,原告の勤務状況は,月次業務報告による問題提起のみでそれをまとめた報告提案がないこと,前任者や東京センター担当者とのコミュニケーション不足,受動的な姿勢で自ら問い掛けがないなどと評価されるものであった(〈証拠略〉)。前任者のLは原告に対し,引き継ぎの際などに「分からないことがあれば聞いてください。」と異動先を教えるなどの働きかけをしたが,原告からの質問などはなく,課長会議の席でアルバイトとのコミュニケーションを取ることなどを注意したが,取っていないわけではないなどの応答であった。さらに原告の大阪配置換え後6ヵ月程過ぎた頃に,Lが原告に業務指導を行ったところ,原告は,「あんたに一々言われる筋合いはない。」と立ち上がり,Lに対してボールペンを前に突き出し威力的な姿勢を示し興奮したことがあった(〈証拠略〉)。
G課長は,習熟期間経過後評価対象期間中の,平成13年3月27日,原告と第1回目の面談の機会を設けた。この席で,G課長は原告に対し,原告が会社の方針や意思決定に関する情報に疎い現状,ISOの資料センター関連標準の理解すら未だ遂げていないことを指摘し,今後相当の挽回が必要であると指導した。また,今後半年の作業方針及び作業の進め方について確認し,G課長は原告に対し,報告・連絡・相談のコミュニケーションの必要性について改めて指導した(〈証拠略〉)。これらの内容は両者の面談において話合いの結果,了解した事項を原告が記載したものである(〈人証略〉)。これに対し,G課長は原告に対し,周囲も協力体制を作る姿勢が必要だと思うので,情報管理部及び資料センターに話をしておく,一緒に努力してよい結果に結び付けられるよう頑張りましょうと励ましの返信をした(〈証拠略〉)。

(11)東京本社資料センターヘ配置換え(平成13年7月1日)

原告は,平成13年7月1日付けで東京本社資料センターに配置換えとなった。これは,入力業務を本社で一括化できることになり,大阪支所資料センターの業務量が減少したことによるもので,原告には東京本社資料センターで今後導入予定のISO電子化に伴う成果品の現物管理に関する企画を担当させることとし,その旨5月下旬の課長会議の席でK部長から原告に告知した(〈証拠略〉)。しかし,原告は,着任後,上司らに業務打ち合わせを求めることがなく,K部長から打ち合わせの指示が出され8月10日にF,Lも参加して原告の今後の仕事について打ち合わせをした。その中で,K部長から原告に対し,ISO電子化を行うに当たり,成果品についての大阪支所資料センター業務の経験を踏まえて,誰がいつ何をしなければならないかの企画書を提出するよう指示した(〈証拠略〉)。

(12)第2回面談(平成13年8月16日)(〈証拠略〉)

平成13年8月16日,G課長との第2回目の面談が実施された(〈証拠略〉)。この席において原告は,原告の大阪支所資料センターでの業務に関する指示内容は「成果品(控)の現物管理について勉強すること」とのことであったので,Fの報告書(〈証拠略〉)の記述内容は「大阪支所資料センターのあり方について検討するように部長から命令されていた…」と記されており,どの範囲までの課題が自分に課せられた指示なのか曖昧な部分があるので確認したい,と主張し,G課長は,上記につきFに確認した結果,FがK部長の指示内容を確認していなかったため,齟齬が生じていたことが判明した。そこで,同課長はIT推進部側の上司の指示・対応についても疑問があることを認めた上で,原告に対し,コミュニケーション不足の問題を指摘し,「独善的な理解・判断によって業務を進めている傾向が見られ,業務遂行上における基本事項である『業務目的』『課題把握』『要求されている成果内容』『納期』等の確認とその努力を怠っている点は否めない」と指摘した。
また,面談の結果,大阪支所資料センターの日常管理業務はほぼ全体の流れが把握されており,初(ママ)期の「転換業務の習熟」という点については目的達成できたと評価された。
そこで,引き続く「業務成果の評価対象期間」の取り扱いとしてG課長より概ね次のような提案がなされ,原告もこれを了承した(〈証拠略〉)。
「①過去9年間の業務において,結果の出ていないことを重く受け止めるべき事,②平成12年5月の面談で確認された「業務成果の評価」の課題として,平成14年1月を目途に,実施可能な具体策を盛り込んだ企画提案書〔業務内容:ISOの電子化に伴う成果品(控)の現物管理に関する検討〕を作成するために必要な検討作業及び社内調整を実施すること,③企画提案書を作成する具体的業務内容は,上司と原告との間で指示内容の齟齬を来さないよう,再度確認作業を行うこととし,最初打ち合わせにG課長が同席し,確認すること,④再確認された業務内容に基づき,随時実施される打ち合わせ・調整にて生じる「打ち合わせ議事録」及び「企画書(案の修正過程を含む)」を人事企画課長にもメール送信(CC)し,進捗状況の報告を行う事,⑤業務内容の評価は平成14年2月上旬に実施する。評価方法は,客観的かつ公正な判断が得られるよう配慮して人事企画課長が決定すること。」
そして,上記③に基づき,平成13年8月21日,K部長,F,G課長,Lおよび原告が出席して打ち合わせが行われ,被告における現状と今後原告のなすべき業務内容が,「主眼としては,成果品が“電子化”される場合,現行のISOに準拠することを前提に誰が何時までに何をすればよいかからみた対応すべき諸問題をワークフローを含め考察する。それを企画書として作成する。」「検討範囲は現行の資料センター業務でいう成果品の登録から廃棄までとし,知識データベースに関するハード,ソフト,システム化・運用に関しては検討外とする。」「“電子化”とは単に現行の紙ベースにより遂行される業務を媒体の変更により実現する電子媒体化を意味するのではなく,IT推進部・資料センターの将来構想として目指す“ナレッジセンター”で提供する知識データベースにて管理し,共有の知的財産として閲覧,検索等が可能な環境とすることを電子化とする。」「資料センター業務の中では図書の管理についてナレッジセンター化への対応が既に検討されている。」「同様に成果品の管理についてナレッジセンター化として“電子化”を検討する必要があり,これを原告が担当する。」などと具体的に確認され,また原告に対し,同年9月4日までにFに検討項目を盛り込んだ概要を提出すること及び項目の過不足はFと調整することが指示された(〈証拠略〉)。

(13)9月5日仕切り直し打ち合わせ

原告は同年9月3日にFに「成果品電子化スケジュール」と題する書面を提出し,同月5日にF,Lと打ち合わせをした。原告のスケジュールでは,12月末ころまでに調査・検討を終え,1月始めころから報告書の作成に取りかかり1月末までに完成させるというものであったが,打ち合わせにおいて,作業完了までの期間の短縮,電子化し管理することは知識を会社の資産として共有し,利便性を高める付加サービスと位置づける,必要があればナレッジ構想の他サービスと調整を取ることもあるなどの修正を加えて,作業を開始することになった(〈証拠略〉)。

(14)企画書中間報告会

その後,原告は上司への報告や協議を行っておらず,G課長はFを通じて原告に対し進捗報告を指示した。これに対し,原告はほぼ予定のとおりに進行し,残りの作業は主に報告書をまとめることである旨の報告をした。そして,その中間報告会が開催されることになり,第一回が12月19日に,G課長,F,L,原告が参加して行われ,原告の中間報告書に対し,調査事項の判断プロセスの記載がなく結論だけがあるため評価できないなど4点の指摘があり,12月25日までに中間報告書を再提出することになった。これを踏まえ,平成14年1月11日に,再度同じメンバーで第2回中間報告会が開催され,5点の指摘があり,原告は1月31日までに報告書を提出し,2月上旬にKの後任である,IT推進部長H(以下「H部長」という)ヘプレゼンテーションを行い評価することに決まった。(〈証拠略〉)

(15)成果品報告会(平成14年3月1日)・審査結果の通知(平成14年3月7日)

平成14年3月1日,課題業務の最終報告のため,H部長,F,LおよびG課長の出席のもと成果品報告会が開催され,原告が作成した「成果品(控)の電子化における企画書」が提出された。しかしながら,原告の作成した企画書は,A4用紙で本文が3枚で別紙図面が1枚と絶対量が不足していた上,その「はじめに」の記載から原告が課題の趣旨を理解したと認められたが,内容は現状分析や業務実施の方向性の指摘に止まり,いつ誰が何をするかという提案が全くなく,ワークフローの検討すらないこと,論拠となるデータの整理・添付が一切なされておらず,原告の導いた結論への裏付けが全くなく,原告が各項目をどの様にどの程度まで検討したのか理解できず,業務に使用できるレベルでもなかった。(〈証拠略〉)
このような企画書・報告会の出来,およびH部長の審査結果をふまえ,G課長は,「原告の業務遂行能力が同世代の職員の業務遂行レベルと比較して著しく低いと判断せざるを得ず,今後の業務遂行能力の向上は期待できない」との裁定を下し,平成14年3月7日に実施された面談において原告に通知した。これに対し,原告は,不服申立として「検討条件が二転三転する状況の中で,企画書をまとめるうえでの論点がはっきりしなかったことが問題であった」「中間報告会でも『従来の検討方針を変更して作成しても良い』との了解を資料センター長からもらって,当企画書を作成した。」などと主張した。これを受けて,G課長は,この点を考慮しても上記評価は変わらず,「正面から事実を受け止め認識する姿勢がないと今後も改善される見込みがないと言わざるを得ないこと」,および今後の処遇等に関して「原告を受け容れる部門または職種が被告にはないことから,退職勧奨をせざるを得ないとの判断にあること」を通告したが,「業務課題の視点がやや曖昧であった」ことを考慮するとして,再度業務課題を提示し再評価の機会を与えることにした。その手順は,IT推進部と協議してG課長が再評価の課題仕様書を作成し,H部長,F,G課長,原告が協議同意して再評価を実施する。再評価の機会を与える条件は次のとおりであり,これに同意する場合に再評価の機会を与える。
「当該評価の指摘事項を真摯に受け止め,現状を認識し認めること,再評価の機会はこれが最後であり,いかなる事由があろうとも3度目はないことから,自己を正当化し周囲に責任転嫁する甘えた認識は払拭し,真剣に取り組んでもらいたいこと,IT推進部長が業務遂行が困難と認めたときは,人事企画課長はそれを調整・評価し,業務遂行能力を最終判断する。その後の原告の処遇等取り扱いは,人事企画課長が裁定するものとする。原告の処遇についての裁定は,必ず同手続をとるものとする。」
原告はこれに同意して,その内容を記載した面談結果議事録Ⅱに署名捺印した。(〈証拠略〉)

(16)再評価の開始(平成14年3月19日)

平成14年3月19日,H部長,F課長,L,G課長および原告が参加して,原告の今後の業務仕様に関する打ち合わせが実施された(〈証拠略〉)。この打ち合わせにおいては,前回の「業務課題の視点がやや曖昧であった点」を是正すべく,H部長およびG課長が作成した詳細な「業務指示書」(〈証拠略〉)が配布された。これによると,原告に与えられた業務課題は,「成果品控管理の在り方に関する検討提案書」であり,その概要は「成果品控の保管や利用について将来のナレッジベースの重要な位置を占めるものとの認識のもと『過去及び将来発生する成果品控について,どのように管理すべきか』について提案書を作成することであり,作成要件として,保管や再利用における手続にかかる既存システムの抱える問題点の整理とその解決策について,将来電子化が行われた場合の現物管理と現物利用,電子管理と電子利用について」であり,具体的には,「受注から納品に至る現状の業務フローを作成し,業務分析を行って成果品控の生成プロセス及び成果品控管理についての現状を把握し,問題点の抽出・分析を行う。現状システムとの関連を把握し,成果品控の効率的な管理システムがいかにあるべきかを検討する。成果品控が現物と電子成果品控に大きく分類されることを前提に,将来業務フローの作成(ワークフロー化を前提)を行う。」であること,これは原告の直近6か月の検討・調査に要した作業期間をふまえた場合,標準的に2か月程度の期間で完了する業務量の案件であること,また,本業務はIT推進部にとって早急に必要な成果であり,評価用の仮業務ではないこと,評価方法については,①原告からの報告・連絡・相談を通じてH部長およびFが逐次レビューを行い,その進捗過程において評価すること,②作業期間途上において「レビュー事項への達成度」,「作業進捗度」等が著しく要求事項に乖離していると判断された場合,その段階でH部長が本業務の中止を命じることであった。これらの事項は,原告自身が確認し,それを記載した書面に署名している(〈証拠略〉)。

(17)打ち合わせ(平成14年3月27日)(〈証拠略〉)

当日は,H部長,F,Lが参加したが,原告からスケジュールが提出されず,現場からのヒアリングの方法について,責任部署などへ話を聞きに行くつもりだが,具体的内容はまとまっていないとの発言があり,目的,質問内容を書いた書式を作成すること,そのため受注から納品までの作業フローを理解することが必要との指導がなされた。

(18)第1回レビュー(同年4月25日)(〈証拠略〉)

当日は,H部長,F,Lが参加し,原告から,アンケートの書式,別紙3「作業スケジュール」(〈証拠略〉)〈略-編注〉,社内情報システム調査結果が提出され,社内情報システム調査から得られる業務フローの情報には限界がある,このアンケートで会社の意見が理解できるか疑問であり,実施を躊躇しているとの説明があった。
これに対し,社内情報システム調査結果に対する報告・結論がないので作成すること,調査内容が正しいか確認すること,アンケートの目的がはっきりしないから悩むのであって,現状の業務フローを整理作成すること,レビューの方法について,アンケートのことよりも調査報告を先にすること,確認したいことは文書で報告書に添付すること,作業項目が終了するたびに結果報告をまとめること,資料を添付することが指示され,次回までの作業予定は,社内情報システム調査につき,内容項目の確認と結果報告の作成,業務フローの作成,できるだけ作業を進めその結果報告を行うこととされた。

(19)第2回レビュー(同年5月14日)(〈証拠略〉)

当日は,H部長,F,Lが参加し,原告から,社内情報システム調査の結果報告書,業務フロー,業務フロー作成による結果報告が提出されたのに対し,社内情報システム調査について,TECRIS等が含まれておらず,特にTECRISは重要と指摘され,システム調査と業務フローが結び付いていないこと,それはシステム調査に分析がないためで,その項目の流れを比較する一覧表を作成することが必要であり,そこまでして完了となるとされた。また,業務フローについて,もっと細かな流れをつかまないと,成果品の利用との関係が見えてこないと指摘され,次回までの作業予定は,業務フローの作成,受注業務遂行プロセス調査の作成,電子化成果品・紙成果品の管理運用検討の作成とされた。

(20)第3回目レビュー(同月28日)(〈証拠略〉)

当日は,H部長,G課長,F,Lが参加し,原告から,業務フローの修正版,成果品の管理運用検討(資料として,成果品控管理規程,品質記録管理標準が添付されている。)が提出された。しかし,業務フローは前回のものとほとんど変わりがないものであり,原告からは,「今後業務の流れを理解する必要があり,そのためヒアリング内容を変更して業務課から情報を得た上,フローを拡張したいので,業務フローの報告書は先送りにする。それに伴い,受注業務遂行プロセス調査報告書も先送りにする。」などの報告があった。これに対する講評として,「重要なことが口頭になっているので提出書類を見ても内容が分からず,業務フローは改善されておらず,TECRISの重要性を指摘したにもかかわらず,何ら問題点の抽出・分析がなく,成果品の管理運用検討もどうすれば利用されるのかの考慮がなかった。社内情報システム調査についての作業はなされなかった。」と指摘された。そして,H部長は原告が業務検討を完了する見込みがないと判断して業務中止を命じた。
しかし,G課長のとりなしで,次のとおりもう一度だけ報告機会を設けた上で,最終的に中止命令について判断することとした(〈証拠略〉)。
① 作業スケジュールの作成 作業が大幅に変更になっているため,詳細な作業項目でスケジュールを作成する。
② 社内情報システム調査,社内業務フロー,成果品の管理運用検討書の完成 第3回までのレビューでの指摘をふまえ,問題点の抽出,業務分析を網羅し,業務指示書にそって口頭による説明の必要がない報告書を作成する。
③ 提出期限 平成14年6月3日(月)AM9:30

(21)中止命令(〈証拠略〉)

提出期限に,原告から受注業務遂行プロセス調査報告書,社内業務フロー,成果品の在り方検討業務スケジュールが提出されたが,成果品の管理運用検討書は作成・提出されなかった。H部長が提出物を最終評価した結果,原告に対する作業中止命令が正式に決定された。その理由は,「① 成果品の管理運用検討書の報告書がない事。今回の業務に,成果品の管理運用検討書の完成が含まれるはずだが,それがなされていない。② 受注業務遂行プロセス調査報告書の内容として,現状業務を調査する上で,第3回レビュー時に指摘されたTECRIS,プロポーザルが含まれていない事。③ 社内業務フローについて,第3回レビューまでの指摘をふまえた問題点の抽出,分析,検討がなされていない事。④ 6月4日以降の作業スケジュールを精査したが,現状調査・課題把握の段階が完了していない時点で,改善提案に関する業務検討は作業量及び工程面の視点から絶望的である事。」である。
平成14年6月5日,G課長が原告に対し,評価結果の通知と上記業務中止命令の内容を説明したところ,原告も,業務成果として要求に応えていないことを確認し,業務中止命令に同意した(〈証拠略〉)が,一方で「平成4年の入社以降,情報を与えてもらえない業務妨害を受けた」ことから自分の考えていた仕事を実現する機会がなかったなどと主張した。

(22)被告は,以上の経過を常務会に報告した上,本件解雇を決定した(〈人証略〉)。
2 原告の供述について(省略)
3 上記1の認定事実に基づき,争点(1)について判断する。

原告は,被告からコンピューター技術者としての豊富な経験と高度の技術能力を有することを前提に,被告の会計システムの運用・開発の即戦力となり,就中,将来は当該部門を背負って立つことをも期待されて,SEとして中途採用されたにもかかわらず,約8年間の同部門在籍中,日常業務に満足に従事できないばかりか,特に命じられた業務についても期待された結果を出せなかった上,直属の上司であるAの指示に対し反抗的な態度を示し,その他の多くの課員とも意思疎通ができず,自己の能力不足による業績不振を他人の責任に転嫁する態度を示した。そして,人事部門の監督と助力の下にやり直しの機会を与えられたにもかかわらず,これも会計システム課在籍中と同様の経過に終わり,従前の原告に対する評価が正しかったこと,それが容易に改善されないことを確認する結果となった。このように,原告は,単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく,著しく劣っていてその職務の遂行に支障を生じており,かつ,それは簡単に矯正することができない持続性を有する原告の性向に起因しているものと認められるから,被告就業規則59条3号及び2号に該当するといえる。
以下,原告の反論をふまえながら,分説する。

(1)原告の業務実績について(省略)
(2)勤務成績不良の原因と改善可能性

SEは,原告も入社時に述べているとおり(〈証拠略〉),システムを構築し運用(保守,改善)をする職務であり,コンピューター化を要する業務の分析をし,よりよい処理・合理的なアルゴリズム(問題を解決するために明確に定義された有限個の規則,手順の集まり)を考え,基本となるシステムを設計(概要設計)し,更に細かい設計(詳細設計)をする。SEがつくった詳細設計をもとにプログラムの設計をするプログラマーとは異なる。したがって,SEは,ある業務のコンピューター化を命じられた場合,これを自ら分析し処理方法を考え,その過程で必要な情報を選択して入手しながら作業を進め(その前提として,もちろん当該業務に関する情報や基幹システムに関する情報へのアクセスが認められなければならないが),また,SEにおいて,一長一短のある複数の方法があり得る場合や,関連業務との一括処理や逆に一部の業務を除外することが合理的であると判断した場合などは,システム構築を指示した者に対し,自分からその利害得失を説明して判断を求める必要があり,指示した者からSEに対し,逐一,事細かにいかなる手段・方法で作業を進めるべきかを指示し,それに必要な情報を選択して提供すべきものではない。
前記1(11)ないし(21)の評価業務の経過によると,原告にはこのような主体的・積極的に情報を入手し,問題点を発見し,これを解決しようとする姿勢に欠け,さらには,指示した者に自ら状況を説明して検討を求めるなどの働きかけもなかったというべきである。そして,これが最後の機会であるとして与えられた評価業務であり,しかも,G課長が,人事企画課長という中立の立場から,平成12年5月以降原告に対し原告に問題があると指摘した上で報告・連絡・相談の重要性を再三再四にわたって指導し,また,原告と上司との間で十分な確認・調整が行われるよう種々配慮をした上でのことであったことからすると,それ以前の会計システム課においても同様の姿勢であったことから,上記(1)のとおり業績を上げることができなかったものと推認できる。そして,このような長期にわたる成績不良や恒常的な人間関係のトラブルは,原告の成績不良の原因は,被告の社員として期待された適格性と原告の素質,能力等が適合しないことによるもので,被告の指導教育によっては改善の余地がないことを推認させる
以下原告の反論について付言しておく(省略)。

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