偽装請負関係が認められず、労働契約申込みみなしの適用が否定された例
1 事案の概要
- 1999年3月30日 被告(東リ)はライフ社との間で、巾木製造・加工に関し,業務請負基本契約を締結。以降更新
- 2015年10月1日 改正派遣法施行
- 2016年4月1日 被告は,ライフ社との間で,上記業務請負基本契約に基づく覚書を以下のとおり改訂するとの内容の業務請負覚書を締結(請負期間2016年4月1日~2017年3月31日、請負金額月額6,432,000円等 請負契約1) 化成品に関する同様の内容の請負契約2も締結
- 2017年2月28日 請負契約1終了
- 2017年3月1日 巾木工程製造作業に関する労働者派遣契約締結(2017年3月30日まで)し、原告らを派遣
- 2017年3月31日 請負契約2終了
- 2017年3月30日 ライフ社 原告らを整理解雇
- 2017年3月21日 原告らは、被告に対して「労働契約申込に対する承諾」の意思表示、一部の原告は2017年8月28日に同意思表示
2 判例のポイント
2.1 主な争点
被告の巾木工程及び化成品工程は,遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったか
2.2 結論
被告の巾木工程及び化成品工程は,遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態ではなかった
2.3 理由
平成28年頃,被告(東リ)は機械の保守等を除いてライフ社の個々の従業員に業務遂行上の指示をしておらず,ライフ社は,会社から独立して業務遂行を行っていたものということができ,ライフ社は,その従業員に対し,服務規律に関する指示をなし,その配置を決めていたものということができ,ライフ社は,会社から請負契約により請け負った業務を自らの業務として会社から独立して処理していたものということができ,平成29年3月,ライフ社の社長は労働者派遣契約に切り替えれば三六協定がなくても増産に対応できると誤解して,同月に限り労働者派遣契約に切り替えることを提案し,会社もこれを了解したものということができるのであり,会社が,ライフ社との間の従前の業務請負の実態を糊塗するために労働者派遣契約を締結したものとはいえないこと等から,巾木工程及び化成品工程は,遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったとまではいうことはできない
3 判決情報
3.1 裁判官
裁判長裁判官:泉薫
裁判官:横田昌紀 今城智徳
3.2 掲載誌
- 労働経済判例速報2416号9頁
- 労働判例1223号27頁
- 萬井隆令・労働法律旬報1958号23頁 派遣法40条の6による契約申込みみなしと「偽装請負」:東リ事件・神戸地判令2.3.13について〈判例研究〉
- 岩出誠・ジュリスト1555号135頁 偽装請負と派遣法40条の6の労働契約申込みみなし:東リ事件〈労働判例研究1390〉
判決主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決理由
第1 請求
1 原告らと被告との間に,別紙1「労働契約一覧」記載の各労働契約が存在することを確認する。
2 被告は,原告らに対し,平成29年4月1日から本判決確定の日まで,毎月末日限り,別紙1「労働契約一覧」の各賃金欄記載の金員をそれぞれ支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告との間で業務請負契約を締結した会社の労働者として被告の伊丹工場で製品の製造業務に従事していた原告らが,被告に対し,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(ただし,平成24年法律第27号による改正後のもの。以下「労働者派遣法」という。)40条の6第1項5号,同項柱書に基づき,原告らと被告との間に別紙1「労働契約一覧」記載の各労働契約が存在することの確認及び平成29年4月1日から本判決確定の日まで,毎月末日限り,別紙1「労働契約一覧」の各賃金欄記載の賃金の支払を求める事案である。
1 前提となる事実
(1)当事者
ア 被告及び有限会社ライフ・イズ・アート
(ア)被告は,大正8年11月17日に設立された,ビニールタイル等の各種床材,カーペット等の各種床敷物の製造,販売等を目的とする資本金68億5586万3729円の株式会社であり,兵庫県伊丹市内に本社及び工場を設けており,東京証券取引所第一部に上場している。
被告の伊丹工場(以下「伊丹工場」という。)の工場長は,平成24年4月頃から平成29年3月までの間,S7(以下「S7工場長」という。)であった。
伊丹工場には多くの工程があり,そのうち,原告らが従事したのは巾木工程(巾木(床と壁の継ぎ目で壁の最下部に取り付ける細長い横板)の製造及び検査であり,以下,単に「巾木工程」という。)と化成品工程(床材の接着剤の製造(調合,容器への充填)であり,以下,単に「化成品工程」という。)である。
(イ)有限会社ライフ・イズ・アート(以下「ライフ社」という。)は,平成10年6月9日に設立された,幅木(巾木),床材の製造の請負業務等を目的とする特例有限会社であり,代表者取締役はS8(以下「S8社長」という。)である。
(ウ)被告とライフ社との間には,資本関係や役員の兼任等の人的関係はない。
イ 原告ら
(ア)原告S1
原告S1は,平成12年7月末頃,ライフ社に入社し,平成23年9月までの間,復退職を繰り返しながら巾木工程に従事し,平成27年5月11日に復職した後も巾木工程に従事し,同年8月,主任に昇格した。
(イ)原告S2
原告S2は,平成12年8月1日,ライフ社に入社し,巾木工程に従事していた。
(ウ)原告S3
原告S3は,平成25年9月13日,ライフ社に入社し,巾木工程に従事していた。
(エ)原告S4
原告S4は,平成10年11月20日,ライフ社に入社し,平成11年1月末頃から巾木工程に従事し,平成12年5月,主任に昇格したが,平成27年8月頃,主任から降格された。
(オ)原告S5
原告S5は,平成11年1月19日,ライフ社に入社し,巾木工程に従事していたが,平成27年5月から化成品工程に従事するようになった。
(2)被告とライフ社との間の業務請負契約
ア 巾木製造及び加工に関する業務請負契約
(ア)被告は,平成11年3月30日,ライフ社との間で,巾木製造・加工に関し,要旨以下の「業務請負契約」の内容の業務請負基本契約を締結した。
2条(業務請負)
1 被告はライフ社に対して巾木製造・加工の業務を請け負わせ、ライフ社はこれを請け負う。
2 業務請負は原則として、被告の指定する被告の事業所内の一区画(以下「構内作業所」という。)において遂行するものとする。
3 被告はライフ社に対して自己の業務計画に基づく注文書、納品指示書などによって納入期日、完了期間及び納入場所を指定する。ライフ社は、これを確認し、生産計画を調整し、納期、完了期日を厳守する。
4 被告は事業運営上特に必要と認めた場所、請負業務の数量、納期、仕様を変更することができる。
4条(遂行責任者)
ライフ社は被告より請け負った業務の遂行にあたり、工程・品質・安全を管理・指揮・監督するために必要な能力、人格、経験を有する遂行責任者を任命し、被告に届け出た上で、構内作業所に常駐させなければならない。
5条(材料)
1 ライフ社の材料調達方法は被告からの支給又はライフ社の材料持ちとする。
2 被告からの材料支給は無償又は有償の二種類とし、有償支給の時の引き渡し価格は被告が定める。
3 無償支給の場合の材料の所有権は、被告に存するものとし、有償支給の場合の材料の所有権は材料費の決済のあったときにライフ社に移転するものとする。
6条(機械設備・治工具)
1 ライフ社が請負業務を遂行するに当たって必要な機械、設備、治工具等は、ライフ社がこれを調達し、被告の許可を得た上で、構内作業所に持ち込むものとする。
2 被告がライフ社に対して機械、設備等を貸与する場合は、別に定めた機械設備賃貸借契約書によるものとする。
8条(納品、検査、検収)
3 納品及び業務完了の検査は、被告・ライフ社の協議の上定めた検査基準に基づいて行う。
4 前項の検査合格をもって、被告の検収があったものとする。
5 万が一、ライフ社が被告に引き渡した請負業務に瑕疵があったときは、ライフ社は自らの責任と費用負担とをもって被告の指定する期日までに、これを修復するものとする。
9条(代金の支払い)
1 被告は、毎月末日を納入締切日とし、検収した業務請負料を翌月末日ライフ社の指定する銀行に振り込み、その支払いを行う。
2 被告のライフ社に対する有償支給材料、機械設備使用料、その他ライフ社から支払いを受けるべき金銭については、毎月末日を締切日とし、翌月末日に支払うべき業務請負料と相殺する。
11条(法令等の遵守)
2 ライフ社は安全衛生責任者の選任し、被告に届け出た上で構内作業所に常駐させなければならない。
12条(非常時の協力義務)
被告の事業所又はライフ社の構内作業所において業務遂行中に、火災等の非常事態が発生したときは、被告、ライフ社は協力して製品、機械、資料等の損害を最低限に止めるよう協力しなければならない。
15条(契約の解除)
ライフ社において次の各号の一に該当する理由が生じた場合、被告は契約の全部又は一部の解除することができる。
⑵ 被告の要求する品質検査基準に適合しないとき
16条(報告、通知)
1 ライフ社は請負業務に関連してライフ社の責任で処理すべき事項であっても、被告が了知することが相当と認められた場合及びその責任の一部が被告に及ぶおそれがある場合、遅滞なく被告に通知しなければならない。
2 ライフ社は被告の指示する業務上必要な資料及び報告書等を指定の期日までに提出若しくは報告しなければならない。
17条(契約期間)
本契約の有効期間は、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの1カ年とする。ただし、期間満了の1ヶ月前までに被告またはライフ社のいずれか一方より別段の申入がない場合、本契約は更に1年間自動的に延長されるものとし、以後この例によるものとする。
(イ)被告は,平成19年4月1日,ライフ社との間で,上記(ア)と同内容の業務請負基本契約を締結した。
(ウ)被告は,平成28年4月1日,ライフ社との間で,上記(イ)の業務請負基本契約に基づく覚書を以下のとおり改訂するとの内容の業務請負覚書を取り交わした(以下,上記覚書も含む被告とライフ社との間の巾木製造及び加工に関する業務請負契約を「本件業務請負契約1」という。)。
請負期間 平成28年4月1日から平成29年3月31日まで
請負金額 月額543万2000円(消費税別)
請負数量 別途,被告及びライフ社間の協議の上定める。
業務遂行場所 被告の事業所内の巾木工程
イ 接着剤製造及び加工に関する業務請負契約
(ア)被告は,平成22年8月1日,ライフ社との間で,接着剤製造・加工に関し,上記ア(イ)と同内容(ただし,2条1項を接着剤製造・加工の業務とするもの)の業務請負基本契約を締結した。
(イ)被告は,平成28年4月1日,ライフ社との間で,上記(ア)の業務請負契約に基づく覚書を以下のとおり改訂するとの内容の業務請負覚書を取り交わした(以下,上記覚書も含む被告とライフ社との接着剤製造及び加工に関する業務請負契約を「本件業務請負契約2」という。)。
請負期間 平成28年4月1日から平成29年3月31日まで
請負金額 月額125万6000円(消費税別)
請負数量 別途,被告及びライフ社間の協議の上定める。
業務遂行場所 被告の事業所内の化成品工程
(3)労働者派遣法40条の6の定め
労働者派遣法40条の6第1項は,労働者の役務の提供を受ける者が,同項1号から5号までの各号のいずれかに該当する行為を行った場合には,その時点において,当該労働者の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し,その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす規定で,同項5号は,「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で,請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し,第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」と定めている(以下,同項5号の要件のうち,上記目的を「偽装請負等の目的」,請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し,上記のとおり役務提供を受けることを「偽装請負等の状態」という。)。
同条の6は,平成24年法律第27号により新設され,平成27年10月1日に施行された。
(4)ライフ社と被告との間の労働者派遣契約の締結等
ライフ社は,本件業務請負契約1について平成29年2月28日をもって終了させることとし,同年3月1日,被告との間で,派遣先を伊丹工場,業務内容を巾木工程製造作業,派遣期間を同日から同月30日までとする労働者派遣個別契約を締結し,原告S4,原告S2,原告S3及び原告S1を含む12名を巾木工程に派遣した。
一方,本件業務請負契約2は,平成29年3月31日まで継続し,同日をもって終了した。
これに伴い,原告らは,ライフ社から,平成29年3月月30日限りで他の従業員らとともに整理解雇された。
(5)原告らの直接雇用の申込みを承諾するとの意思表示等
原告S1,原告S2,原告S3及び原告S4は平成29年3月21日,原告S5は平成29年8月28日,被告に対し,本件業務請負契約1・2が労働者派遣法40条の6第1項5号に該当するとして,被告からの直接雇用の申込みを承諾するとの意思表示をした。
平成27年12月16日から平成29年3月頃までの間の原告らの労働条件は,別紙3「平成29年3月頃までの労働契約一覧」のとおりであった(なお,原告S2に関する労働契約書が提出されていないが,弁論の全趣旨により,その余の原告らと同水準にあったものと認めることができる。)。
(6)関連紛争等
原告らは,平成27年8月23日,連合兵庫ユニオンL.I.A労働組合(以下「ライフ社労組」という。)を設立した。平成29年3月20日時点で,ライフ社労組の組合員は16名であった。
株式会社シグマテック(以下「シグマ社」という。)は,平成29年4月1日から巾木工程及び化成品工程に労働者を派遣することになり,原告らを含むライフ社の従業員と採用面接した。その後,上記16名のうち,原告らを除く11名がライフ社労組を脱退し,シグマ社に採用されたが,原告らは採用されなかった。
ライフ社労組は,その後,兵庫県労働委員会に,被告及びシグマ社を被申立人として不当労働行為の救済申立てをしたところ,同委員会は,平成31年4月25日,シグマ社に対し,原告らを平成29年3月20日の面接時に提示した条件で同年4月1日に採用したものとして取り扱うこと等を命じたが,被告に対する申立てを棄却した。
2 争点
(1)巾木工程及び化成品工程は,遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったか(争点1)
(2)被告には偽装請負等の目的があったか(争点2)
3 争点に対する当事者の主張
(省略)
第3 当裁判所の判断
1 判断の基礎となる事実
前提となる事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実を認めることができ,これを左右する的確な証拠はない。
(1)伊丹工場,巾木工程,化成品工程の作業場所及び作業内容等
ア 伊丹工場
伊丹工場の全体図は,別紙4の1「伊丹工場全体図」(省略)のとおりである。
伊丹工場には,化成品工程及び巾木工程のほかに,MV工程(ビニール床タイルの製造),CF工程(クッションフロアの製造),RS工程(壁紙や床材のクッションフロアの柄の印刷),IS工程(インディードシードの製造)及びFL工場(特殊シートの製造)等があり,平成21年頃から,化成品工程及び巾木工程を除き,複数社との間で労働者派遣契約を結び,派遣労働者を受け入れていた。
イ 巾木工程について
(ア)作業場所
巾木工程の作業場所は,別紙4の2「伊丹工場巾木工場周辺図」の「巾木工場」「巾木旧工場」部分の1階及び2階である。
巾木工程は,プリント巾木工程(巾木工程で製造された巾木にプリント加工する工程)と隣接しているが,製造過程はこれと区分されている。
(イ)作業内容等
巾木工程の作業内容は,〔1〕巾木工程の資材置場から原材料の搬入,〔2〕スーパーミキサーによる原材料の撹拌,〔3〕ジェットカラーでの顔料と原料の撹拌(製品の色の決定),〔4〕加熱加圧による板状への成型とトップチップによる塗膜の形成(成型金型であるリップからの押出し),〔5〕水冷却後,切断・検品・梱包,〔6〕納入である。
巾木工程の作業者は,大別すると,〔1〕サンプル担当(2時間おきに各機械の巾木サンプルを採取して,外観を確認,各種測定器で規格に合致しているかを調査し,製造日報,工程管理表,製造明細等の書類に必要事項を記載する。),〔2〕2階作業担当(顔料の変更,ダイスやリップ(ダイスは押出機の先頭部分の金型で,リップはダイスの先端部分に付ける金型である。)の取替え,ライン替え(製造ラインを変更し,ラインを停止して,押出機やダイス内部の材料を除去し,清掃する。)),〔3〕巻取り担当(巻き取った製品を箱詰し,パレット上に並べる。)に分かれている。
ウ 化成品工程について
(ア)作業場所
化成品工程の作業場所は,別紙4の1「伊丹工場全体図」の「化成品工場」の1階から3階である。化成品工程は,作業場所の建物自体が独立しており,他の工程と隣接していない。
(イ)作業内容等
接着剤には,水系(原料に水が含まれるもので,これのみで接着剤としての効用を発揮するもの)と溶剤系(2種類の異なる液体を混合することにより,初めて接着剤として効用を発揮するもの)がある。
水系の作業内容は,原料をミキサーで撹拌し,容器に封函し,倉庫に搬送するものである。溶剤系の作業内容は,原料を別々のミキサーで撹拌混合し,別々に容器に封函し,倉庫に搬送するものである。
(2)平成26年頃までの被告の従業員の巾木工程及び化成品工程への関与等
巾木工程及び化成品工程では,平成22年頃まで,被告及びライフ社の各従業員が混在して作業に従事していたが,それ以降,ライフ社の従業員が主任を務め,各従業員の混在状況は解消された。
もっとも,巾木工程では,被告のプリント巾木工程配属の熟練従業員1名が,平成26年頃に配置換えになるまで,時々,ライフ社の従業員に対して作業のやり方等を直接指導することがあったが,同人の配置換え後,そのような状況は解消された。
(3)平成28年頃の巾木工程及び化成品工程の人員体制等
ア 巾木工程について
ライフ社の現場責任者はS10常勤主任であり,その下に,3人の主任(S15,S16及び原告S1)を中心に3班(各4人構成)を構成し,3班でシフト(7時~15時,15時~23時,23時~7時)を組んで三交代勤務をしていた。原告S1の班の構成員は,原告S1,原告S4,原告S3及び原告S2であった。
イ 化成品工程
ライフ社の現場責任者はS14主任で,その下に原告S5が配置されていた。化成品工程の就業時間は,8時30分から16時30分までであった。
ウ 他の工程
ライフ社は,被告との間で,平成19年4月1日に労働者派遣基本契約を,平成28年4月1日に労働者派遣個別契約をそれぞれ締結し,少なくとも平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間,伊丹工場MV工程製造作業に派遣労働者3名を,伊丹工場品質管理課製品検査作業及びパソコンの操作業務に派遣労働者各1名を派遣していた。
(4)平成28年頃以降の原告らの業務遂行の状況等
ア 巾木工程及び化成品工程の服装等
ライフ社の従業員の作業着は,被告の従業員と同じものであったが,ライフ社が貸与したものであった。また,巾木工程及び化成品工程の従業員のヘルメットには緑色のテープが貼られていたが,被告の従業員のヘルメットには上記テープは貼付されていなかった。
イ 受発注や納品の手順等
(ア)基本的な手順
伊丹工場生産管理部は,1週間ごとに巾木工程及び化成品工程の製造依頼書を作成し,伊丹工場製造部がこれを確認の上,巾木工程及び化成品工程に交付し,巾木工程ではS10常勤主任が,化成品工程ではS14主任が,それぞれ製品の製造予定日を記載した週間製造日程表を作成して伊丹工場製造課に提出し,受発注を行っていた。もっとも,S9(被告担当者)が,週間製造日程表を修正し,これをS10常勤主任宛にメールで送信することもあった。
そして,製品製造後,ライフ社の巾木工程及び化成品工程の従業員は,被告の管理するコンピュータの端末に,日付,指図書番号,ロット番号,出来高を入力し,プリントアウトされた受入伝票及び製品カードを製品とともに所定の場所に置いていた。もっとも,巾木工程で製造された巾木のうち,被告においてプリント巾木に加工する場合には,製品カードの代わりに,プリントベース製品カードが使用されることがあった。
(イ)変更の手順
在庫状況や受注状況に合わせて事後的に製造依頼の内容が変更されることがあり,伊丹工場生産管理部から,品種や数量を変更するために,巾木ライン変更・追加依頼書や化成品ライン変更・追加依頼書が発出され,巾木工程及び化成品工程は上記書面に従って品種や数量を変更していた。
また,伊丹工場製造課は,発注した製品の仕様を変更する場合,巾木工程に対し,製造課指図書により,材料や製造条件等の変更を連絡していた。
ウ 原材料の発注及び在庫管理等
(ア)被告では,購買部がグループ会社を含めて原材料メーカーから原材料を購入しており,巾木工程及び化成品工程の原材料は,被告がライフ社に供給していた。原材料は,巾木工程及び化成品工程ともに,S10常勤主任及びS14主任が週間製造日程表を作成する際,被告に対し,材料発注書を提出して発注していた。
また,巾木工程では,原材料の在庫管理は,S10常勤主任が主に担当し,月末に被告のコンピュータシステムから在庫表をプリントアウトし,品目ごとの終了を在庫表に記入し,これをS9(被告担当者)に交付し,S9(被告担当者)において棚卸結果を精査していた。
(イ)甲63の1・2に関する事実認定の補足説明
a 原告は,被告作成の文書として甲63の1・2を提出するが,被告はその成立の真正を否認し,原告S1は,甲63の1・2について,平成28年10月頃,巾木工程の帳場内のデスクの上に置いてあったもので,誰がどの作業をどの程度担当しているかを調査するために被告で作成したものである旨供述し,かたやS7工場長は,被告が作成したものではない旨供述する。
b 甲63の1・2は,担当者名として,「S9(被告担当者)」,「S17被告係長」(伊丹工場製造課),「S10常勤主任」,「S15主任」,「原告S1」(主任),「S16主任」,「S12」(ライフ社の派遣社員で,巾木工程の事務担当者(乙14の3)),「その他の人」が挙げられ,作業名欄に,はんこを押すだけの作業は含めずに,「○=主に担当している」,「1=毎日(毎回)手伝う)」「2=週に2~3回(2~3回に1回)手伝う」「3=週に1回以下(ほとんど手伝いはない)」を記入する内容であり,その内容に照らすと,主に上記の者の職務分担を把握するために作成された書面であると認められる。甲63の1・2の作成者は,基本書式を作成した者とこれに上記の「○」「1」等を記入した者に分けて考えることができる。
まず,甲63の1・2の基本書式を作成した者について検討する。
この点,被告において,巾木工程のライフ社の主任を中心とした職務分担を把握する必要性は高くなく,特にS12はライフ社の派遣社員で,巾木工程の事務担当者であるから,被告が殊更S12の職務分担を把握する必要性は乏しい。また,S17被告係長及びS9(被告担当者)は被告の従業員であるから,被告が両名の職務分担を把握する必要性は低いといえる。かたや,ライフ社において,S9(被告担当者)及びS17被告係長も関与しているとの前提で,両名を含めて巾木工程の主任の職務分担を把握しようとした可能性も考えられるが,本来,ライフ社が行うとすれば,自社の従業員を対象にすれば足りるのであり,わざわざ被告の従業員である両名の欄を設ける必要性は高くない。
そうすると,甲63の1・2の基本書式の作成者が被告又はライフ社のいずれかについて断じ得ず,少なくとも甲63の1・2が被告作成の文書とまで認定することはできない。
次に,「○」「1」等を記入した者について,原告S1は,甲63の1・2に記載された者が記入したものである旨供述する。もっとも,上記説示のとおり,S17被告係長が殊更甲63の1・2に記入する必要性は乏しく,同人が同人の欄に記入したと断じることはできないが,その余の欄の記載者は,S10常勤主任,S16主任,S12であると認めることができる。
以上の検討を踏まえると,S10常勤主任は,材料の在庫管理を主に担当していたことが認められる(仮に,S17被告係長が同人の欄を記入したとしても,同人の欄には「教育訓練記録票の原本管理」「ISO文書類の管理(教育記録を含む)」に○,それ以外は全て「3」と記載されているにすぎないことに照らすと,S17被告係長が巾木工程の業務遂行等について直接指示していたことまでは認められず,上記認定を左右しない。)。
エ 伊丹工場の製造課及び品質管理課(以下,両課を併せて「製造課等」という。)と巾木工程及び化成品工程との間の連絡等
製造課等から巾木工程に対する日常的な連絡は,伊丹工場巾木工程の名称で登録されたメールアドレス宛に,化成品工程に対する連絡はS14(S14主任)の名称で登録されたメールアドレス宛に,被告の社内一斉メールによりなされていた。
平成28年3月15日から平成29年3月までの間,S10常勤主任は,伊丹工場製造課に対し,巾木の製造状況を継続的にメールで報告した。また,平成28年7月4日から平成29年3月29日までの間,伊丹工場品質管理課は,巾木工程及び化成品工程を含む伊丹工場の各工程に対し,継続的に製品検査の結果等を社内一斉メールで連絡した。
巾木工程及び化成品工程から製造課等に対する日常的な連絡も,上記各メールアドレスからなされており,製造課等からライフ社の従業員個人宛に,また,ライフ社の従業員個人から製造課等にメールが送信されることはなかった。
オ 週報の送付等
S9(被告担当者)は,1週間の工程管理上のトラブルや巾木工程の製作状況等について週報を作成し,伊丹工場製造課及び巾木工程に対し,社内メールで送信していた。
カ 伝達事項による連絡
(ア)巾木工程についてS9(被告担当者)が,化成品工程についてS13が,各製造工程における不具合や留意事項をまとめた伝達事項と題する書面を作成し,S10常勤主任及びS14主任に交付し,巾木工程及び化成品工程の掲示板に貼付されていた。
(イ)なお,原告S5は,S9(被告担当者)及びS13が伝達事項を直接巾木工程及び化成品工程の掲示板に貼付したことがあった旨供述するが,上記のとおり,被告からライフ社への連絡は原則として巾木工程ではS10常勤主任,化成品工程ではS14主任を通じてなされていたから,伝達事項も同様になされていたとみるのが自然であり,原告S5の上記供述は裏付けを欠き,直ちに採用することはできない。
キ 連絡ノート
巾木工程には,連絡ノートが置かれ,伝達事項とは別に,〔1〕S10常勤主任が原告らを含む巾木工程に従事するライフ社の従業員宛に,〔2〕S10常勤主任や原告S1がS9(被告担当者)宛に,〔3〕S9(被告担当者)がS10常勤主任,特定の主任が属する班の構成員,原告らを含む巾木工程に従事するライフ社の従業員宛に,それぞれ留意事項やそれに対する対応等を記載していた。
ク 巾木リップ会議(巾木工程会議)
リップとは,巾木を成型する金型であり,そのメンテナンスを怠ると製品に不具合が生じるため,定期的にリップの部品交換やメッキ化等のメンテナンスが必要となる。巾木工程では,1か月に1回程度,リップのメンテナンス等に関する会議(以下「リップ会議」という。)が開かれ,巾木工程から3班のうちの1班が交代で出席し,被告から常時S9(被告担当者)が出席して議事録を作成し,伊丹工場の品質管理課や製造課の従業員も出席したことがあり,リップのメンテナンス等や製品のクレーム等について被告から説明や指示があった。
ケ クレーム対応や異常があった場合の報告等
被告は,エンドユーザーから,巾木工程及び化成品工程の製品に関するクレームが寄せられたとき,その対応を巾木工程及び化成品工程にゆだねることはなく,ライフ社に調査,報告を求めていた。
また,巾木工程及び化成品工程で異常が発生した場合,巾木工程ではS9(被告担当者)又はS10常勤主任が,化成品工程では伊丹工場製造課の担当者が異常報告書を作成し,S10常勤主任が作成した異常報告書は被告に提出された。
(5)平成28年頃以降のライフ社の労働時間の管理や勤務評定等
ア ライフ社の従業員の労働時間の管理等
(ア)勤怠管理
被告の従業員の勤怠管理は,タイムカードではなく,ICカードによるシステムによりなされていた。
ライフ社は,被告が以前に使用していたタイムカードの用紙を用いて勤怠管理を行い,ライフ社の従業員がその打刻を失念した場合には,S10常勤主任やS14主任が承認印を押していた。
(イ)時間外労働
a ライフ社内では,平成28年4月11日まで,従業員が残業する場合,事前申告と許可が徹底されておらず,同日以降,従業員が残業する際には現場事務所に設置したメール可能な携帯電話を用いて事前の連絡と許可を認めるよう指示がなされ,ライフ社の従業員の時間外労働もS8社長の指示等ライフ社の判断によってなされていた。ライフ社の従業員の時間外労働について,被告が関与することはなかった。
b 甲65,66に関する事実認定の補足説明
原告らは,甲65,66について,被告が書式を作成し,これに記入するように指示した旨主張し,原告S1はこれに沿う供述をするが,被告は,甲65,66の書式を作成したことを否認し,証人S7は,これに沿う供述をする。
しかしながら,甲63の1・2(上記(4)ウで説示)によると,使用工数の集計はS16主任が主に担当し,S10常勤主任が毎日これを手伝い,出勤簿の記入と管理はS10常勤主任が主に担当していたものと認めることができ,甲65,66はライフ社が書式を含めて作成したものとみるのが自然である(なお,原告S1も,ライフ社の従業員が甲65,66に記入していた旨供述しており,仮に被告が基本書式を作成したとしても,上記aの認定を左右しない。)。
イ ライフ社の従業員に対する勤務評定等
ライフ社の従業員の賃金は,平成11年10月以降,基本給が月額23万円になり,平成18年4月以降に勤続手当(勤続年数×1500円)が支給されるようになり,平成21年4月から基本給が月額24万円になったが,S8社長は,平成24年6月から平成27年8月までの間,複数の従業員の勤続手当,主任手当,常勤主任手当の支給を停止したり,有給休暇を認めないことがあった。
原告S4は,平成12年5月,主任に昇格したが,平成25年6月から平成27年8月までの間,勤続手当及び主任手当の支給を停止され,平成27年8月に主任から降格され,代わりに原告S1が主任に昇格した。
また,S8社長は,平成28年1月,ライフ社の従業員の賃金を基本給について1万円を,勤続手当(能力手当)について半額を減額した。
(6)被告のライフ社の従業員に対する安全確保等に関する指示,報告やライフ社の従業員の配置等
ア 事故が発生した場合の対応等
原告S5は,平成28年10月20日,フォークリフトを運転中,ツメを下げることを忘れて,シャッターに接触させる事故を起こした。原告S5及びS14主任は,フォークリフトによる事故届出書及び事故対策届を作成して被告に提出し,S14主任は,原告S5に対し,基本操作を厳守するよう指導した。原告S5は,上記事故について,伊丹工場安全衛生事務局宛にヒヤリ・ハット報告書を提出し,S12係長が,フォークリフトの基本操作の徹底と材料倉庫シャッターの確認を指示した。
また,原告S3は,平成29年1月26日,フォークリフトを運転中,シフトレバーの誤操作により後進して鉄骨に衝突する事故を起こした。原告S3及びS10常勤主任は,フォークリフトによる事故届出書及び事故対策届を作成して被告に提出し,S10常勤主任は,原告S3に対し,通路が狭くなっているときは,前後左右の確認を一層注意深くし,リフトを止めサイドブレーキを使用するよう指導した。
このほか,原告らとは別のライフ社の従業員が平成27年12月10日にフォークリフトによる事故を惹起した際,同事務局宛にヒヤリ・ハット報告書を提出し,S10常勤主任が当該従業員に指導すべき内容を記載した。
イ 被告が開催する安全講習へのライフ社の従業員の出席等
被告は,平成28年6月,伊丹工場内の各工程及び各課に対し,同年8月31日及び同年9月7日に安全講習を実施する旨を通知し,化成品工程から常勤者2名,巾木工程から合計8名の出席を求めた。
また,平成28年当時,伊丹工場では,カエルカエル作戦(工場内を整理整頓し,清潔に保つための活動)が行われており,巾木工程もその活動を求められた。
ウ 配置等
巾木工程は3交代勤務で稼働しており,そのシフトは主任が決め,その変更はライフ社内でなされていた。また,欠員が生じた場合には,その補充と連絡は主にS10常勤主任が行っていた。
(7)巾木工程及び化成品工程の原材料,使用していた機械,設備,本件業務請負契約1・2の請負金額
ア 原材料及びその費用
本件業務請負契約1・2では,原材料の調達は被告からの支給又はライフ社の材料持ちとされているところ(5条1項),被告では,購買部が購入単価を下げるために,グループ会社での使用分を含めて製品の製造に必要な原材料を一括購入しており,巾木工程及び化成品工程にも原材料を支給していた。
もっとも,被告とライフ社との間では,巾木工程及び化成品工程の原材料の価格等について交渉はされず,請負代金とは別に,被告が支給した原材料の費用について清算等はされなかった。
イ 使用していた機械,設備
被告は,平成18年10月2日,ライフ社との間で,伊丹工場内の被告所有建物について,被告から依頼を受ける業務が終了するまでの間,ライフ社の現場事務所として貸し渡す旨の使用貸借契約を締結した。
被告は,ライフ社との間で,平成19年4月1日,巾木製造・成型ライン一式の月額使用料を2万円とする旨の,平成22年8月1日,接着剤製造・加工ライン一式の月間使用料を2万円とする旨の各機械設備賃貸借契約を締結した。
ライフ社は,被告から貸与された機械等について,本件業務請負契約1・2に基づき,善管注意義務をもって管理する義務があり(7条),巾木工程では,被告が定めた要領に従い,ライフ社の従業員が日常点検を行い,チェックシートに記入し,月末ごとに被告の製造課の係長が確認後にチェックシートに押印していた。
ウ 本件業務請負契約1・2の請負金額
(ア)平成28年4月1日から平成29年3月31日までの請負金額は,本件業務請負契約1について月額543万2000円(消費税別),本件業務請負契約2について月額125万6000円(消費税別)と定額であり,製造した製品の数量や出来高により増減しないものであった(前提となる事実(2))。
(イ)請負代金に関する補足説明
a 原告らは,本件業務請負契約1・2の代金は,被告が自らの生産計画の下で一方的に決定し,被告が年間予算を月割で決定した定額を巾木工程及び化成品工程の請負代金として固定額で支払っており,例えば,平成27年4月1日から平成28年3月31日までの請負金額月額が巾木工程につき544万2000円,化成品工程につき122万円であったのが,平成28年4月1日から平成29年3月31日までの請負金額月額が巾木工程につき543万2000円,化成品工程につき125万6000円となり,平成28年3月31日前後で,請負金額が巾木工程で月額1万円減少し,化成品工程で3万6000円増額され,化成品工程の上記増額分は,平成27年5月に原告S5の配置が巾木工程から化成品工程に変更されたことに伴い,原告S5の勤続手当3万4000円(2000円に17年分を乗じた額)にS14主任の勤続手当2000円を加えた金額に合致する旨主張する。
しかしながら,平成28年4月当時,巾木工程の従業員は13名,化成品工程の従業員は2名であり,請負金額を従業員数で除すると,巾木工程は一人当たり約41万7000円(5,432,000÷13=約417,846),化成品工程は一人当たり62万8000円(1,256,000÷2=628,000)となる。原告らの賃金は,能力手当や役職手当等で差異が生じているものの,基本給が月額23万円から24万円であること(前提となる事実(5),上記(5)イ)からすると,上記各金額は原告らの賃金とは相当乖離があるのであり,上記請負金額は従業員一人当たりの労務単価を基礎として算定されたものともいい難い。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
b かたや,被告は,請負代金について,事業採算性のある原価や,原材料が被告からの材料支給となっていること等を考慮し,請負代金を決定していた旨主張し,S7工場長は,請負金額について,被告が前年度の原材料費や請負代金を含めて前年度の製造原価を算出し,原材料費価格の変動等を考慮して当該年度の製造原価を割り出し,ライフ社が巾木工程及び化成品工程で使用すると見込まれる原材料費の相当額で差し引いて請負代金を決定している旨の供述(乙20)及び証言する(証人S7)。S7工場長の上記供述及び証言は,その裏付けとなる証拠がなく,そのまま採用することには躊躇を覚えるが,上記a説示のとおり,従業員一人当たりの賃金を基準に定めたものともいえず,被告の経営判断として,一定の製造原価等を考慮して定めたものというほかない。
(8)本件業務請負契約1・2によりライフ社が負うべき責任について
本件業務請負契約1・2には,ライフ社が被告に引渡した製品に瑕疵があったとき,ライフ社は自らの責任と費用負担をもって被告の指定する期日までにこれを修復する旨の定め(8条5項),ライフ社において,被告の要求する品質検査基準に適合しない場合には,被告は,契約を解除することができる旨の定め(15条)があり(前提となる事実(2)),ライフ社が製造した製品に瑕疵があった場合,ライフ社は瑕疵修補や本件業務請負契約1・2の解除を求められる立場にあった。
また,ライフ社が巾木工程及び化成品工程で製造した製品に不具合があった場合,ライフ社においてその原因に関する報告等がされていた(上記1(4)ケ認定事実)。
もっとも,被告は,製品の瑕疵を理由に本件業務請負契約1・2を解除するには至らなかった。
(9)ライフ社の専門性について
ライフ社は独自に従業員の募集を行い,ライフ社の従業員は,巾木工程及び化成品工程において,被告の従業員と混在して作業していた平成22年頃まで被告の従業員から指導を受け,その後に混在が解消された後も平成26年頃まで,巾木工程では被告の熟練従業員から指導を受けたことがあったが,ライフ社は,その後,主任を中心に自ら工程内教育・指導を行っていた(上記1(2)認定事実,甲63の1・2,弁論の全趣旨)。
ライフ社は,平成29年2月,被告から巾木の増産を要請されたとき,外部から派遣労働者3名を受け入れて増員することを企図したが,巾木工程の現場から,1週間の教育期間ではかえって足手まといになるとの苦情が出され,最終的に実現しなかった(甲89,94)。
(10)被告が平成29年3月にライフ社と労働者派遣契約を締結した経緯等
ア S8社長は,一方的に,従業員に対する降格,手当の不支給や有給休暇の取得を承認しないなどの不利益な扱いをし,新入社員が退職すると,その責を他の従業員に転嫁し,従業員を居酒屋に呼び出して罵声を浴びせ,謝罪を求めるなどしていた。このため,ライフ社の従業員9名は,平成27年8月23日,ライフ社労組を立ち上げ,原告S5が執行委員長に就任した。S8社長は,平成28年1月,被告から同年2月以降の巾木の増産を要請されたことから,ライフ社の従業員に対し,巾木工程について従前の3交代制(8時間勤務)から2交代制(12時間勤務)に応じるよう求め,ライフ社労組との間で団体交渉をした。上記交渉過程においてライフ社では三六協定が締結されていないことが判明し,最終的に,平成28年1月25日,ライフ社労組とライフ社との間で三六協定が締結された(前提となる事実(6),甲94~96)。
イ S8社長は,平成29年1月,被告から同年2月以降の巾木の増産を要請され,その頃,ライフ社労組に対し,三六協定の更新を求めていたが,ライフ社労組は,その更新のために団体交渉を求め,S8社長はこれを拒否した。ライフ社とライフ社労組との間の三六協定は同年1月25日をもって失効し,S8社長は,ライフ社の従業員に対し,時間外労働をしないよう指示した。
ウ(ア)S8社長は,S7工場長に対し,平成29年2月6日,増産対応をする旨を述べていたが,同月22日,増産対応ができないことを謝罪し,同月限りで本件業務請負契約1を解消する意向を伝え,労働者派遣の形式であれば被告が直接ライフ社の従業員に指揮命令でき,三六協定がなくても時間外労働が可能になると誤解して,同年3月から労働者派遣として,ライフ社の従業員に対して直接指示をして増産対応をしてほしい,同年3月中には別の業者に引き継ぎ,同年3月末をもって伊丹工場から撤退する意向を伝えた。S7工場長は,S8社長の意志が固く,上記申し出を断ると巾木の生産に重大な支障を生じるおそれがあると判断し,上記申し出を受け入れることとした。
(イ)甲54(LINEのメール)に関する事実認定の補足説明
甲54には,平成29年2月23日,S7工場長が原告S4に対し,〔1〕同年3月末でS8社長に業務請負契約の打ち切りの話をして辞めてもらうつもりであり,3か月後にはライフ社の従業員19名全員を別の派遣会社に移籍してもらえるように既に1万人規模の派遣会社に打診しており,被告で雇用を守る,〔2〕賃金も今より下がることがないように年齢経験等考慮して派遣会社を通じて補填させてもらうので,このまま辞めずに残って移籍の方向で考えてほしいと言った旨の記載がある。
しかしながら,原告S4は,複雑な内容だったので,S7工場長から聞いた話をそのまま記載したわけではなく,一旦自分で咀嚼した上で原告S5宛にメールを送信したものである(原告S4本人)。また,原告らは飽くまでライフ社の従業員であり,被告がその雇用を守る立場にはなく,被告としては,同年4月以降に巾木工程及び化成品工程の生産体制が必要であるのに,3か月後に移籍してもらうというのも不自然である。したがって,甲54の内容をそのまま採用することはできない。
エ S8社長は,平成29年2月28日,ライフ社の従業員に対し,平成28年からの労務問題に端を発し,労使関係を改善すべく再三の努力をしたが,最終的に被告の生産計画に変更を来すなど多大な迷惑をかけたことから,被告との間で本件業務請負契約1・2を更新しないこととなり,同年3月30日をもって上記各契約が終了することから,同日付けで整理解雇する旨を通知した。S7工場長は,同年3月1日,ライフ社との間で,派遣先を伊丹工場,業務内容を巾木工程製造作業,派遣期間を同日から同月30日までとする労働者派遣個別契約を締結し,ライフ社は,原告S4,同S2,同S3,同S1を含む12名を伊丹工場の巾木工程製造作業に派遣した(前提となる事実(4))。
人材派遣業を営むシグマ社は,平成25年11月,被告との間で労働者派遣契約を締結し,以降,継続的に伊丹工場に労働者を派遣していた。S7工場長は,シグマ社に連絡をとり,平成29年4月以降,ライフ社の業務の引継ぎの可否を尋ねたところ,同年2月27日,シグマ社のS18大阪事業所長から,請負ではなく労働者派遣であれば引継ぎが可能との意向が示された。シグマ社は,同年3月8日,ライフ社の従業員に対し,入社希望の案内を交付し,同月20日に個別面接会を開催する旨を連絡した。
オ ライフ社労組は,平成29年3月16日,被告に対し,〔1〕ライフ社の従業員らの従前の労働条件以上の条件での伊丹工場での就労継続の保障,〔2〕現在就労中のライフ社の従業員を直接雇用することを前提に労働条件の交渉を行うこと,〔3〕労働者派遣法40条の6に基づき,直接雇用のみなし規定に対応して承諾通知を行っている従業員らについて,直接雇用が成立しているものとして扱うこと,〔4〕交渉を求めたこと及びライフ社労組に所属していることを理由に不利益な取扱いをしないことを求め,団体交渉を申し入れた。
これに対して,被告は,同月28日,ライフ社労組に対し,被告がライフ社の従業員の雇用につき使用者には該当せず,団体交渉を行う立場にはなく,団体交渉開催の申入れには応じられない旨を回答した。
シグマ社は,ライフ社の従業員との採用面接を実施し,その後,ライフ社労組の組合員16名のうち,原告らを除く11名がライフ社労組を脱退し,上記11名がシグマ社に採用されたが,原告らは採用されなかった。このため,ライフ社労組は,その後,兵庫県労働委員会に,被告及びシグマ社を被申立人として不当労働行為の救済申立てをしたところ,同委員会は,平成31年4月25日,シグマ社に対し,原告らを平成29年3月20日の面接時に提示した条件で同年4月1日に採用したものと扱うこと等を命じたが,被告に対する申立てを棄却した(前提となる事実(6))。
被告は,シグマ社との間で労働者派遣契約を締結し,同年4月1日以降,巾木工程及び化成品工程について派遣労働者を受け入れている(弁論の全趣旨)。
2 争点1(巾木工程及び化成品工程は,遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったか)について
(1)基本的な考え方
労働者派遣法2条1号は,「労働者派遣」について,自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,他人の指揮命令を受けて,当該他人のために労働に従事させることをいい,当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとすると定めている。
一方,請負は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約するものであり(民法632条),請負人に雇用されている労働者に対する指揮命令は請負人にゆだねられている。
そうすると,請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させる事業者について,労働者派遣か請負の区分は,当該事業者に業務遂行,労務管理及び事業運営において注文主からの独立性があるか,すなわち,〔1〕当該事業者が自ら業務の遂行に関する指示等を行っているか,〔2〕当該事業者が自ら労働時間等に関する指示その他の管理を行っているか,〔3〕当該事業者が,服務規律に関する指示等や労働者の配置の決定等を行っているか,〔4〕当該事業者が請負により請け負った業務を自らの業務として当該契約の注文主から独立して処理しているかにより区分するのが相当である(職業安定法施行規則4条1項,労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示(昭和61年4月17日労働省告示第37号)参照)。
(2)本件での検討
ア ライフ社が自ら業務の遂行に関する指示等を行っていたかについて
上記1認定事実によると,〔1〕平成22年頃まで巾木工程及び化成品工程では,被告の従業員とライフ社の従業員が混在して作業をする状況にあったが,それ以降,混在状況は解消されたこと,もっとも,巾木工程では,平成26年頃まで被告の熟練従業員1名がライフ社の従業員を直接指導することがあったが,当該従業員の配置換えにより,それ以降,被告の従業員がライフ社の従業員を直接指導することはなくなったこと(上記1(2)),〔2〕平成28年頃以降,ライフ社の現場責任者として,巾木工程にはS10常勤主任が,化成品工程にはS14主任が配置されていたこと(上記1(3)),〔3〕平成28年頃以降,ライフ社の従業員は被告の従業員と同じ作業着を着用していたが,ヘルメットに緑色のテープが貼られ,被告の従業員とは区分されていたこと(上記1(4)ア),〔4〕被告は,巾木工程及び化成品工程に製造依頼書を交付し,巾木工程のS10常勤主任及び化成品工程のS14主任が週間製造日程表を作成することにより受発注を行い,ライフ社の従業員は,製品製造後,製品及び伝票を作成し,被告からの発注に変更があった場合には,その旨の書面が発出され,巾木工程及び化成品工程は,これに従って品種や数量を変更しており(上記1(4)イ),原材料は被告から供給されていたが,その発注はライフ社からなされ,その在庫管理もライフ社においてされていたこと(上記1(4)ウ),〔5〕伊丹工場製造課等と巾木工程及び化成品工程との日常的な連絡は,巾木工程では伊丹工場巾木工程の名称のアドレスを,化成品工程ではS14主任の名称のアドレスを使用し,製造課等とS10常勤主任及びS14主任との間でメールの送受信がされており,製造課等とライフ社の従業員個人との間でメールの送受信がされることはなかったこと(上記1(4)エ),〔6〕S9(被告担当者)は,巾木工程宛に1週間の工程管理上のトラブルや巾木工程の制作状況等をまとめた週報を作成し,上記〔5〕のアドレスに送信し,また,伊丹工場製造課の担当従業員は,巾木工程及び化成品工程の製造過程における留意点等をまとめた伝達事項を作成していたが,ライフ社の個々の従業員ではなく,S10常勤主任及びS14主任に交付し,これが各作業場の掲示板に掲載され,被告の従業員がライフ社の個別の従業員に対し,ダイスの分解掃除(この点については後記(3)イ(イ)で検討する。)を除いて個別に業務上の指示をしていたとまではいえないこと(上記1(4)オ~ク)が認められる。
これらの事実によると,平成28年頃,被告は機械の保守等を除いてライフ社の個々の従業員に業務遂行上の指示をしておらず,ライフ社は,被告から独立して業務遂行を行っていたものということができる。
イ ライフ社が自ら労働時間等に関する指示その他の管理を行っていたかについて
上記1認定事実によると,〔1〕平成28年頃以降のライフ社の従業員の勤怠管理はライフ社が行い,ライフ社の従業員の時間外労働はS8社長の判断でなされていたこと(上記1(5)ア),〔2〕ライフ社の従業員の勤務評定はS8社長が行っていたこと(上記1(5)イ)が認められる。
これらに事実によると,ライフ社が自ら労働時間等に関する指示その他の管理を行っていたものということができる。
ウ ライフ社が,服務規律に関する指示等や労働者の配置の決定等を行っていたかについて
上記1認定事実によると,〔1〕ライフ社の従業員が事故を惹起した場合には,ライフ社の現場責任者が被告に対して報告するとともに,当該従業員を指導していたこと(上記1(6)ア),〔2〕被告は,ライフ社の従業員に対し,安全講習への出席を求め,工場内の整理整頓を実施する活動への協力を求められていたが,飽くまで伊丹工場の保安安全に留まり,それを超えてライフ社の個々の従業員に対する業務遂行上の指示をするようなものであることはうかがえないこと(上記1(6)イ),〔3〕巾木工程のシフト,その変更や欠員の補充等はライフ社内でなされていたこと(上記1(6)ウ)が認められる。
これらの事実によると,ライフ社は,その従業員に対し,服務規律に関する指示をなし,その配置を決めていたものということができる。
エ ライフ社が請負により請け負った業務を自らの業務として被告から独立して処理していたかについて
前提となる事実及び上記1認定事実によると,〔1〕ライフ社と被告との間に,資本関係や役員等の人的関係は存しないこと(前提となる事実(1)ア),〔2〕ライフ社の巾木工程及び化成品工程の製品の原材料は,被告が関連会社の分を含めて一括して購入したものから供給されており,ライフ社と被告との間で,その価格について交渉等はされず,請負代金とは別に別途清算等はされてなかったこと(上記1(7)ア),〔3〕ライフ社は,被告から現場事務所を無償で貸与され,巾木工程及び化成品工程の製造ラインを月額使用料2万円として被告から賃借していたこと(上記1(7)イ),〔4〕本件業務請負契約1・2の請負代金は,巾木工程及び化成品工程ともに定額で,製造した製品の数量や出来高に増減しないものであったが,ライフ社の従業員の労務単価を基礎として算定されたものではなく,製造原価等を考慮して定められたものであったこと(上記1(7)ウ),〔5〕本件業務請負契約1・2には,製品に瑕疵があった場合,ライフ社は瑕疵修補の責任を負い,被告は本件業務請負契約1・2を解除することができる旨の定めがあるが,被告は,ライフ社に対し,これらの法的責任の履行を求めたことはないが,製品に不具合が生じた場合,ライフ社から被告に対して報告等がされていたこと(上記1(4)ケ,(8)),〔6〕ライフ社の従業員は,平成22年頃まで被告の従業員と混在状況で作業し,巾木工程は被告の熟練労働者から指導を受けたことがあったが,ライフ社は,その後,主任を中心に工程内教育・指導を行い,平成29年2月,被告から増産要請があった際,巾木工程では1週間の教育期間では対応できないことを理由に,外部からの派遣従業員による増員を拒むなど(上記1(9)),巾木工程及び化成品工程は,従前蓄積されたノウハウ等を有するライフ社の一部門というべき存在で,自ら社内教育をしていたことが認められる。
これらの事実によると,ライフ社は,被告から請負契約により請け負った業務を自らの業務として被告から独立して処理していたものということができる。
オ 被告が平成29年3月にライフ社と労働者派遣契約を締結した経緯等
上記1(10)認定事実によると,平成29年3月,被告とライフ社との間で巾木工程について労働者派遣契約が締結されたが,これは,ライフ社とライフ社労組との三六協定が更新されずに同年1月に失効したことにより,ライフ社は,それ以前に被告から求められた巾木工程の増産に対応できないことから,被告に対し,本件業務請負契約1・2を解消したい旨を申し出,同年3月を乗り切る窮余の策として,S8社長は労働者派遣契約に切り替えれば三六協定がなくても増産に対応できると誤解して,同月に限り労働者派遣契約に切り替えることを提案し,被告もこれを了解したものということができるのであり,被告が,ライフ社との間の従前の業務請負の実態を糊塗するために労働者派遣契約を締結したものとはいえない。
カ 小括
以上の事情を総合考慮すると,巾木工程及び化成品工程は,遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったとまではいうことはできないというべきである。
(3)上記で説示した以外の原告らの主要な主張の検討
ア 受発注,納品,受発注の変更及び原材料の在庫管理等について
原告らは,ライフ社は,巾木工程及び化成品工程ともに「週間製造日程表」を作成し,伊丹工場生産管理部に提出していたが,これは,被告から示された製造依頼書の順番を入れ替えるだけであり,巾木工程では,ライフ社が一旦提出した上記日程表にはS9(被告担当者)の確認が必要で,S9(被告担当者)から一方的に修正されることがあり,受発注の変更も被告から一方的に書類が送付されるだけであり,独自の納品手続はなく,巾木工程及び化成品工程は,伊丹工場に組み込まれ,被告の指揮命令下に置かれていた旨主張する。
しかしながら,上記1(4)イ認定のとおり,被告からライフ社に製造依頼書を発出し,これを踏まえてライフ社において週間製造日程表を作成し,変更がある場合にも被告から別途書面が発出され,納品手続もライフ社が必要な情報を入力して伝票等を作成しており,被告とライフ社との間の受発注や納品手続が形骸化していたということができないし,これらの手続は,注文主と請負人との間のやり取りとして不自然,不合理なものとはいえない。また,甲68によると,平成29年2月16日,S9(被告担当者)が,同月20日から同月24日までの巾木工程週間製造日程表の一部を修正したことが認められるが,上記1(10)認定のとおり,その当時,ライフ社とライフ社労組との間で三六協定の締結を巡り軋轢が生じていた状況下で,被告はライフ社に対して増産対応を要請しており,被告の製造依頼書と巾木工程週間製造日程表の一部に齟齬が生じ,S9(被告担当者)がこれを修正した可能性が考えられるのであり,S9(被告担当者)のメールの送付先は,S10常勤主任であって,ライフ社の個々の従業員ではないことも併せ考慮すると,上記(2)アの評価を左右しない。
また,原告らは,巾木工程及び化成品工程ともに,ライフ社が被告から独立して原材料の調達,管理を行っておらず,被告がこれを行っていた旨主張する。しかしながら,上記1(4)ウ認定のとおり,ライフ社は,巾木工程及び化成品工程が週間製造日程表を作成するときに,被告に対し,原材料を発注していたのであり,また,在庫についても,被告のシステムを利用するものの,ライフ社が在庫表を作成し,これを被告の従業員に交付して精査されていたというのであるから,ライフ社が,被告から独立して原材料の調達,管理を行っていなかったということはできない。
イ 被告からのメールや伝達事項等
(ア)原告らは,被告の従業員がライフ社の従業員に対し,メールや伝達事項により,直接業務上の指示をしていた旨主張する。
しかしながら,上記1(4)エオカ認定のとおり,被告の従業員からのメールはライフ社の現場責任者宛になされており,ライフ社の個々の従業員宛にされていたものではない。また,伝達事項も,被告の従業員から,現場責任者に交付され,現場責任者を通じてライフ社の従業員に周知されることを予定したものであるから,直接ライフ社の個々の従業員に対して業務上の指示がなされたものとはいえない。
さらに、上記メールや伝達事項等の内容について検討する。〔1〕品質管理課メール(甲10の2)は,巾木工程,化成品工程ともに「未確認」とだけ記載されているメールが多数存在し,巾木工程では,巻き取り位置からの外観確認,検査モード確認,サンプル採取状況確認のメールが多く,化成品工程では,ラベル貼り状況確認,中間粘度確認のメールが多い。これらのメールの内容は,発注した製品の品質管理の観点から,注文主が請負人の仕事の成果について,様々な観点から確認しているものと評価することができ,被告が,S10常勤主任及びS14主任を通じて,ライフ社の個々の従業員に対して業務上の指示を出していると評価できる内容ではない。〔2〕巾木メール(甲10の1)は,S10常勤主任が,伊丹工場製造課に対し,前日(及び前々日)の巾木の製造状況(順調か否か,品種・ラインの交替,機械設備の異常の有無,部品交換の要否等)を報告するものであって,請負人から注文主に対する仕事の進捗状況等の報告として是認できるし,被告からライフ社の個々の従業員に対する業務上の指示があったことをうかがわせる記載はない。〔3〕伝達事項(甲12,13の1~5,32,34,40~42,62,77)は,巾木工程については,S10常勤主任がS9(被告担当者)から交付されていた文書であり(上記1(4)カ認定事実),その内容は,物性検証のための配合試験への協力依頼など製品の改良を目指すもの,ワイド巾木の速度を含めた加工条件の見直し依頼など増産を目指すもの,クレームを受けて情報体制(検査体制)の見直し依頼など品質に関するものなど多岐にわたるが,いずれも,被告が注文主の立場として,製品の性能やその改良,生産速度や検査体制について請負人に意見をしたり依頼をしているものである。化成品工程については,S14主任がS13から交付されていた文書であるが(上記1(4)カ認定事実),接着剤の混練装置が異常停止した場合の措置を伝達するものであり,被告が注文主の立場として,製品のクレーム対策の措置を連絡しているものである。いずれの工程においても,被告がS10常勤主任及びS14主任を通じて,ライフ社の個々の従業員に対して業務上の指示を出していると評価できる内容ではない。〔4〕連絡ノートのうち,S10常勤主任からライフ社の従業員に宛てられた部分は,社内の業務連絡であって何ら問題がない。S10常勤主任からS9(被告担当者)に宛てられた部分については,後記(イ)のダイスの分解掃除に関する報告であり,S9(被告担当者)からライフ社の従業員に宛てられた部分については,個別的指示が問題になり得るのは,後記(イ)のダイスの分解掃除に関する部分のみである。
(イ)証拠によると,ダイスは月に1回程度分解して掃除しないと,製品不良の原因となるものであり,その技術を有するライフ社の従業員は原告S4しかおらず,少なくとも平成27年10月16日,S9(被告担当者)が,S10常勤主任を介さずに,直接原告S4に対し,ダイスの分解掃除ができないかを打診したことが認められる。
しかしながら,これは,S9(被告担当者)が,同日,巾木工程宛の伝達事項において,リップ出周辺の不良に起因するクレームが発生したことから,作業内容を追加し(これ自体は注文主が請負人に対して作業上の注意を促すものである。),これを受けて,連絡ノートにおいて,早急にダイスの分解掃除が必要であるとの認識を示し,巾木工程でダイス分解の技術を有するのは原告S4しかいなかったことから,原告S4に対し,ダイスの分解掃除の対応を打診したものであり,明示的に業務を命じたものとまではいうことはできない(現に,原告S4は,来週以降にしてほしいとして,S9(被告担当者)からの打診を断っている。)。
この点を措くとしても,ダイスが被告からライフ社への貸与設備であって(乙24),被告がそのメンテナンスに関心を持つのが当然であることに加えて,S9(被告担当者)が原告S4に対し,日常的にダイスの分解作業等をするよう指示をしていたことを認めるに足りる的確な証拠はないから,上記(2)アの評価を左右しない。
(ウ)また,巾木工程では,1か月に1回程度,リップ会議が開かれ,巾木工程から3班のうちの1班が交代で出席し,被告から常時S9(被告担当者)が出席して議事録を作成し,伊丹工場品質管理課のS11係長及びS17被告係長も出席したことがあり,リップのメンテナンス等や製品のクレーム等について被告から説明や指示がされたことが認められる。
しかしながら,リップは被告からライフ社への貸与設備であるから,被告が巾木工程との間で,リップのメンテナンス等について協議をする場を設け,そこで指示をしたとしても,機械の貸与に付随するものとみることができるから,上記(2)アの評価を左右しない。
ウ 労働時間の管理等
原告らは,ライフ社は,被告が以前使用していた被告の社名入りのタイムカードを使用していた,化成品工程で原告S5らが休暇を取得する際,伊丹工場製造課のS12係長に連絡し,ライフ社からMV工程に派遣されている派遣労働者の応援を得たおり,ライフ社は独自に配置を決定できないなど,自ら労働時間の管理等を行っていなかった旨主張する。
しかしながら,上記1(5)ア認定のとおり,平成28年頃,勤怠管理の方法は被告とライフ社では異なり,ライフ社が以前に被告が使用していたタイムカードを使用していたとしても,勤怠管理は別々になされているといわざるを得ない。また,上記労働者の派遣先はMV工程と定められていたと推認できるところ,ライフ社の独断で派遣先を変更できないことは当然であり,派遣労働者の受入側である被告の了解を得る必要がある。
したがって,上記(2)イの評価を左右しない。
エ 安全確保等に関する指示等
上記1(6)イ認定のとおり,被告は,平成28年6月,伊丹工場の各工程のほか,各課に対し,同年8月31日及び同年9月7日実施の安全講習にライフ社の従業員にも出席を求め,また,伊丹工場で実施されていた整理整頓活動を他の工程とともに巾木工程及び化成品工程にも求めていたことが認められる。
しかしながら,労働安全衛生法29条は,元方事業者に対し,関係請負人及び関係請負人の労働者が安全関連法規に違反しないように指導すべき義務を課しており,原告らを含むライフ社の従業員の安全講習への参加はその一環であるといえるし,また,整理整頓活動も同様に作業場の安全に関するものといえる。
したがって,被告がライフ社の従業員に対し,上記のような対応を求めたからといって,当然にライフ社の個々の従業員に対し,業務遂行の指示をしたということはできないというべきである。
オ 被告がライフ社との間で労働者派遣契約を締結した経緯等
原告らは,ライフ社は,平成29年3月,被告との間で巾木工程について労働者派遣契約を締結し,原告らを派遣労働者として巾木工程に派遣し,請負形態から労働者派遣形態に契約が変更されたが,その業務実態に何ら変更がなく,被告は実質的にライフ社の人事権を有していたから,労働者派遣契約の締結までも偽装請負であった旨主張する。
しかしながら,S9(被告担当者)は,ライフ社と被告との間で労働者派遣契約を締結した平成29年3月1日以降のシフトを確認するメールを送っており,証拠上,S9(被告担当者)が同日より前のライフ社のシフトを確認するなどしたことは証拠上うかがえないことからすると,上記労働者派遣契約締結の前後で,被告の対応が変わったということができる。そして,上記1(10)認定事実によると,平成29年3月1日,ライフ社は被告との間で労働者派遣契約を締結し,原告らを巾木工程に派遣していたが,上記労働者派遣契約締結の前後でライフ社の作業担当者は同一であるから,巾木工程の業務実態が著変しなかったとしても,何ら不合理ではない。また,被告が実質的にライフ社の人事権を有していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(4)小括
以上より,巾木工程及び化成品工程は,平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったということはできない。
第4 結語
以上より,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用し,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第6民事部
裁判長裁判官 泉薫 裁判官 横田昌紀 裁判官 今城智徳
雇用期間 平成29年4月1日~30年3月31日(更新あり)
賃金 月額 基本給24万円 能力手当1万2000円
主任手当5000円
仕事内容 巾木工程製造作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)2 原告S2
雇用期間 平成29年4月1日~30年3月31日(更新あり)
賃金 月額 基本給24万円 能力手当2万2000円
仕事内容 巾木工程製造作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)3 原告S3
雇用期間 平成29年4月1日~30年3月31日(更新あり)
賃金 月額 基本給24万円 能力手当3000円
主任補手当2000円
仕事内容 巾木工程製造作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)4 原告S4
雇用期間 平成29年4月1日~30年3月31日(更新あり)
賃金 月額 基本給24万円 能力手当2万5500円
仕事内容 巾木工程製造作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)5 原告S5
雇用期間 平成29年4月1日~30年3月31日(更新あり)
賃金 月額 基本給24万円 能力手当2万5000円
仕事内容 化成品の製造その他付随作業
就労時間 8時~16時30分
以上
採用区分 契約社員
雇用期間 平成27年12月16日~平成28年4月15日
ただし,平成28年4月15日に更新
就労場所 伊丹工場巾木工程
仕事内容 一般検査及び付帯作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)
賃金 基本給23万円,役職手当5000円
更新の有無 更新することがあり得る。
契約の更新は次により判断する。
〔1〕契約期間満了の業務量〔2〕勤務成績,態度,能力〔3〕会社の経営状態2 原告S2
採用区分 契約社員
雇用期間 平成27年12月16日~平成28年4月15日
ただし,平成28年4月15日に更新
就労場所 伊丹工場巾木工程
仕事内容 一般検査及び付帯作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)
賃金 基本給23万円
更新の有無 更新することがあり得る。
契約の更新は次により判断する。
〔1〕契約期間満了の業務量〔2〕勤務成績,態度,能力〔3〕会社の経営状態3 原告S3
採用区分 契約社員
雇用期間 平成27年12月16日~平成28年4月15日
ただし,平成28年4月15日に更新
就労場所 伊丹工場巾木工程
仕事内容 一般検査及び付帯作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)
賃金 基本給23万円,能力手当750円,役職手当2000円
更新の有無 更新することがあり得る。
契約の更新は次により判断する。
〔1〕契約期間満了の業務量〔2〕勤務成績,態度,能力〔3〕会社の経営状態4 原告S4
採用区分 契約社員
雇用期間 平成27年12月16日~平成28年4月15日
ただし、平成28年4月15日に更新
就労場所 伊丹工場巾木工程
仕事内容 一般検査及び付帯作業
就労時間 7時~15時,15時~23時,23時~7時(休憩45分)
賃金 基本給23万円,能力手当1万2000円
更新の有無 更新することがあり得る。
契約の更新は次により判断する。
〔1〕契約期間満了の業務量〔2〕勤務成績,態度,能力〔3〕会社の経営状態5 原告S5
採用区分 契約社員
雇用期間 平成27年12月16日~平成28年4月15日
ただし,平成28年4月15日に更新
就労場所 伊丹工場化成品工程
仕事内容 一般検査及び付帯作業
就労時間 8時30分~16時30分(休憩45分)
賃金 基本給23万円,能力手当1万2000円
更新の有無 更新することがあり得る。
契約の更新は次により判断する。
〔1〕契約期間満了の業務量〔2〕勤務成績,態度,能力〔3〕会社の経営状態
別紙4の1 伊丹工場全体図(省略)
別紙4の2 伊丹工場巾木工場周辺図(省略)