原告2名のうち1名の管理監督者性が否定され,1名は管理監督者性が肯定された例
1 事案の概要
被告Y社は,不動産の調査,鑑定および資料収集業務,賃貸契約に対する保証業務等を目的とする株式会社である。
原告X1は,平成21年4月1日から22年3月22日までの間,被告Y社に勤務していた者であり,原告X2は21年4月1日から22年3月31日までの間,被告Y社に勤務していた者である。
本件は,原告ら(X1およびX2)が被告Y社に対して残業代の支払いを求めた事案である。
2 判例のポイント
2.1 結論
原告X1について,管理監督者性が否定され,割増賃金の請求が一部認容された。
原告X2については,管理監督者性が肯定され,時間外労働に対する割増賃金請求が棄却され,深夜労働に対する割増賃金請求についても,深夜労働の労働時間を裏付ける証拠の信用性がないとして棄却された。
2.2 理由
① 勤務内容・責任・権限
原告X1は支店長であった。職務内容は,他の従業員と同様に,督促及び営業業務が中心であり,支店長としての職務内容も,支店の業務内容のとりまとめ及びその報告等にとどまり,人事に係る決裁権もなかった。
原告X2は,一時,取締役,その後,営業部長の地位にあった。被告Y社の常勤取締役は,人事・管理一般を担当する代表取締役丙川三郎,債権回収を担当する取締役G,営業を担当する原告X2の3名であり,従業員の採否,退職等の人事を含む会社の経営方針は,上記3名の合議によって決定されていた。原告X2は本社のみならず,全国の支店の営業全般を統括する立場にあり,営業方針を決定して関係部門に指示したり,営業担当の従業員に対して業務改善命令を発したり,営業担当の従業員を構成員とする会議を主催したり,全国の支店等から提出される棄議書を最終的に決裁したりする権限を有していた。
② 勤務態様
原告らにタイムカードの打刻等が義務付けられていた形跡はなく,必ずしも厳格な労働時間管理がされていたとは認められないものの,その点は,他の従業員についても同様であった。原告X1が出社時間.退社時間に裁量を有していたとまでは認められないが,原告X2は裁量を有していた。
③ 賃金等の待遇
被告Y社の全従業員の平均賃金額は,月額33万円から36万円程度であった。
原告X1は,平均貸金額よりも月額15万円前後高額の賃金を取得していたことが認められるものの,他の従業員と同様に督促及び営業業務を担当しながら,支店長としての業務も遂行していたことに照らすと,その貸金額も必ずしも高額であるということはできない。
原告X2の報酬又は賃金は,月額54万2000円から62万5000円であり,代表取締役に準ずる水準にあった。
3 判決情報
3.1 裁判官
裁判官:菊池憲久
3.2 掲載誌
労働判例1059号91頁
4 主文
1 被告は,原告X1に対し,367万3340円及びこれに対する平成22年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告X1のその余の請求を棄却する。
3 原告X2の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,原告X1に生じた費用と被告に生じた費用の2分の1とを併せて原告X1及び被告の2分の1ずつの負担とし,原告X2に生じた費用と被告に生じた費用の2分の1とを原告X2の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
5 理由
第1 請求
1 被告は,原告X1に対し,755万4020円及びこれに対する平成22年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,768万0600円及びこれに対する平成22年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告らが被告に対して残業代の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)
⑴ 当事者
被告は,不動産の調査,鑑定及び資料収集業務,賃貸契約に対する保証業務等を目的とする株式会社である。
原告X1は,平成21年4月1日から平成22年3月22日までの間,被告に勤務していた者であり,原告X2は,平成21年4月1日から平成22年3月31日までの間,被告に勤務していた者である。
⑵ 時間外労働に基づく割増賃金の支給に関する就業規則の定め(丙1)
(休日)
第11条 第8条の規定により就業する者の休日は,原則として次の各号のとおりとする。なお,1週1日の休日については法定休日とし,他の休日を法定外休日とする。
(以下略)
(時間外労働)
第14条 第8条から第10条までの規定にかかわらず,次の各号の場合は,業務の都合により所定労働時間外に労働させることがある。
⑴ 必要やむを得ない業務上の事由があるとき
⑵ 災害その他避けることができない事由により臨時に必要が生じたとき
⑶ その他時間外勤務及び休日勤務を必要とするとき
(以下略)
(休日労働)
第15条 業務上必要がある場合は,第11条の休日に労働を命じることがある。
(以下略)
(深夜労働)
第16条 会社は,業務上必要がある場合は,深夜(午後10時~午前5時)にわたって勤務させることがある。
(以下略)
(割増賃金)
第17条 第14条,第15条,第16条による時間外労働,休日労働または深夜労働に対しては,第6章の賃金規定に定めるところにより割増賃金を支払う。
(適用除外)
第19条 労働基準法第41条2号または3号に該当する管理監督者または監視断続労働従事者等については,原則として本節の規定(深夜労働割増賃金に関する規定を除く)にかかわらず就業を命じ,本節の規定を適用しない。
(一括手当)
第59条 一括手当は,第60条及び第61条に規定する時間外手当及び休日出勤手当として,定額を支給する。ただし,時間外手当及び休日出勤手当の金額が,これを上回る場合は,その差額を加算して支給する。
(時間外勤務手当)
第60条 就業規則第14条により時間外勤務を命じたときは,所定時間を超えた勤務に対し、次のとおり割増賃金を支払う。ただし,前条の一括手当の額を超えない限り支払わない。
1.早出・残業に対しては25%増しとする。
2.午後10時より翌日午前5時までの深夜残業に対しては25%増しとする。
3.略
4.次の該当者には,時間外勤務手当を支給しない。
イ.課長代理以上の管理監督者以上の者(深夜勤務手当は支給する。)
(以下略)
(休日勤務手当)
第61条 就業規則第15条により休日勤務を命じたときは,法定外休日は25%,法定休日は35%の割増賃金を支払う。(以下略)
2 休日勤務手当の支給については,前条の規定を準用する。
(割増賃金の計算方法)
第62条 割増賃金として支給すべき金額は,次の算式により計算する。
(本給+職能給+職務手当)/1カ月平均所定就労時間数(年間所定就労時間数÷12)
(以下略)
⑶ 原告X1と被告との間の雇用契約の概要等
原告X1は,平成21年4月1日,被告との間で,要旨,以下の内容の雇用契約を締結し(以下「本件雇用契約」という。甲1,丙1),本件雇用契約に基づき,同日から同月30日までの間,松山営業所に勤務し,同年5月1日から同年11月30日までの間,広島支店に勤務し,同年12月1日から平成22年3月22日までの間,東京本社に勤務し(ただし,平成22年1月21日から同年3月19日までの間,福岡支店に出張していた。),平成22年3月22日をもって被告を退職した(甲16)。
期間 定めなし
就業場所 広島支店
業務内容 営業
労働時間 始業 8時30分
終業 17時30分
休憩 60分(午前11時30分から午後0時30分)
休日 土曜日,日曜日,祝日
賃金 月額50万円(年俸600万円)
(内訳)本給13万円,職能給21万円,職務手当3万円,一括手当13万円(本給,職能給,職務手当の合計は37万円である。)
支払方法 毎月末日締め翌月25日払い
3 争点及び当事者の主張
⑴ 原告X1の割増賃金請求権の有無及び額
(原告X1の主張)
ア 雇用契約に基づく1時間当たりの賃金単価
原告X1の雇用契約に基づく1時間当たりの賃金単価は,3012円である。
イ 時間外労働時間及び休日労働時間
原告X1の時間外労働時間及び休日労働時間は,別紙1記載のとおりである。別紙1によれば,原告X1の時間外労働時間及び休日労働時間の合計は1686.1時間であり,深夜労働時間の合計は266.9時間である。
ウ 計算式及び請求金額(なお,休日労働に係る割増賃金について,割増率を一律に25%増しの範囲で請求し,休日労働のうち深夜労働部分に係る割増賃金についても,割増率を一律50%増しの範囲で請求することとする。)
原告X1の時間外労働及び休日労働(深夜労働を除く。)に係る割増賃金算定のための計算式及び請求金額は,3012円×1686.1時間×1.25=634万8166円となり,深夜労働に係る割増賃金算定のための計算式及び請求金額は,3012円×266.9時間×1.5=120万5854円となる。
したがって,原告X1の被告に対する割増賃金請求権の額は,755万4020円となる。
(被告の主張)
ア 原告X1の労働時間についての反論
原告X1は,松山営業所及び広島支店に勤務していた際,責任者としてセキュリティーカードを保有し,事実上,全従業員の中で一番初めに出社し,一番後に退社する必要があったが,被告が原告X1に対して出退社時間を指示したことはないから,入退室記録の各時間を始業時刻及び終業時刻として労働時間を計算することはできない。
イ 管理監督者
以下の諸事情によれば,原告X1は,被告において管理監督者としての地位にあったということができる。
(ア)職務の内容,権限及び責任の程度
原告X1は,広島支店長として採用され,松山営業所,広島支店に勤務した後,東京本社に異動し,課長職にあった。
原告X1は,松山営業所及び広島支店に勤務中,中国・四国エリアの営業責任者として,同エリア所在の各支店の支店長から提出される営業等に関する稟議書を取りまとめ,確認,承認した上で,被告の役員に提出したりするほか,中国・四国エリアにおける被告の従業員の採用及び退社の際の最終面接を担当し,面接結果を被告の役員に報告し,採否等について意見を述べたりする立場にあった。人事考課についても,従業員らの自己採点を取りまとめ,確認した上で,被告の役員に報告し,その際,減俸,昇給等に関する意見を述べる立場にあり,原告X1の意見は,現場責任者の意見として,最終決定の際にも重視されていた。
(イ)労働時間管理の程度
被告は,原告X1に対し,出退社時間を指示したことはない。
(ウ)待遇の内容,程度
被告の従業員の平均賃金が月額35万円程度であったのに対し,原告の賃金額は月額50万円と高額であった。
(2)原告X2の割増賃金請求権の有無及び額
(原告X2の主張)
ア 原告X2と被告との間の雇用契約の概要等
原告X2は,平成21年4月1日,被告との間で,要旨,以下の内容の雇用契約を締結し,同契約に基づき,同日から平成22年3月31日までの間,東京本社に勤務し,平成22年3月31日をもって被告を退職した。
期間 定めなし
就業場所 東京本社
業務内容 営業
労働時間 始業 8時30分
終業 17時30分
休憩 60分
休日 土曜日,日曜日,祝日
賃金 月額62万5000円(年俸750万円)
支払方法 毎月末日締め翌月25日払い
イ 雇用契約に基づく1時間当たりの賃金単価
原告X2の雇用契約に基づく1時間当たりの賃金単価は,3765円である。
ウ 時間外労働時間
原告X2の時間外労働時間は,別紙2記載のとおりであり,その合計は1632時間である。
エ 計算式及び請求金額(なお,深夜労働に係る割増賃金ついて,割増率を一律25%増しの範囲で請求することとする。)
原告X2の時間外労働に係る割増賃金算定のための計算式及び請求金額は,3765円×1632時間×1.25=768万0600円となる。
(被告の主張)
ア 原告X2の労働時間についての反論
原告X2は,比較的早い時間に退社することが多かった。また,他の取締役の指示で午後9時まで勤務していたということはない。
イ 管理監督者
以下の諸事情によれば,原告X2は,被告において管理監督者としての地位にあったということができる。
(ア)職務の内容,権限及び責任の程度
原告X2は,被告の取締役に就任する予定で,営業部門の責任者として被告に雇用され,平成21年6月1日から同年9月16日までの間には,被告の取締役を務めた。
原告X2は,被告の営業方針を決定して社内に伝達し,営業に関する稟議書の最終決済をし,従業員の採否及び人事考課について,他の役員2名と共に最終決定をする立場にあった。
(イ)労働時間管理の程度
原告X2は,毎日午前8時から開催される役員会に出席するため,午前8時よりも前に出社していたが,被告が原告X2に対して出退社時間を指示したことはなく,午前8時30分以降に出社することも許されていた。また,原告X2は,自らの裁量で比較的早い時間で退社することも可能であった。
(エ)待遇の内容,程度
被告の従業員の平均賃金が月額35万円であったのに対し,原告X2の賃金額は月額62万5000円と高額であった。
第3 争点に対する判断
1 争点⑴(原告X1の割増賃金請求権の有無及び額)について
⑴ 原告X1の管理監督者性
ア 前提事実,証拠(甲14ないし16,丙2,3の1ないし5,原告X1本人,原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)平成21年1月から平成22年5月までの間,被告の従業員数は,約140名から240名の間で推移し,減少傾向を示していたところ,被告は,賃貸業務に対する保証業務を目的としており,〔1〕その主な業務としては,不動産の賃借人の賃料債務を保証し,支払の滞った賃借人に代わって賃貸人に賃料を代位弁済するとともに,当該賃料相当額を賃借人に対して求償すること,〔2〕賃貸業務に対する保証業務を獲得するための営業活動があった。
(イ)松山営業所に勤務する従業員は原告X1を含めて2名であり,原告X1の担当した職務の内容は,原告X1が被告に入社する前に勤務していた関連会社の破産に伴う残務整理が中心であり,上記(ア)〔1〕,〔2〕の業務も担当していたが,上記残務整理に負われ,上記(ア)〔1〕,〔2〕の業務を行う時間的余裕がなかった。
広島支店に勤務する従業員数は原告X1を含めて4名であり,原告X1は支店長の地位にあった。広島支店において原告X1の担当した職務の内容も主に上記(ア)〔1〕,〔2〕のとおりであり,原告X1は,他の従業員と同様に,〔1〕の業務として,電話で賃借人に対して賃料相当額の支払を頻繁に督促し,〔2〕の業務として,不動産の所有者,仲介業者,管理会社等に対して被告の行う保証業務の内容を説明し,契約に向けての交渉をするなどしていたほか,広島支店長として,本社の指示に従い,全国に10から12か所ある他の支店の支店長と同様に,東京本社で開催される経営会議にテレビ電話システムを通じて参加するとともに,取締役に提出する業務報告書の作成,顧客情報の集計等の業務も担当していた。
福岡支店への出張中の業務も,広島支店における業務とほぼ同じ内容であった。また,福岡支店に勤務する従業員は原告X1を含めて7,8名であった。
東京本社に勤務する従業員数は約100名であり,原告X1は,東京本社へ異動後,東京支店営業部,審査部,管理部に所属し,その間,上記のとおり,福岡支店に長期出張をした。
(ウ)原告X1には,人事に関する最終的な決定権はなく,役員の指示に従って,従業員を採用したり,従業員に対する退職勧奨をしたりするにとどまっていた。
(エ)被告は,タイムカードやICカード等の客観的記録をもって従業員の労働時間を確認,管理していなかった。原告X1は,被告に勤務していた期間を通じて,出社時間,退社時間に裁量はなく,支店勤務中は,毎日,午前8時に開催される経営会議に間に合うように出社することが義務付けられていた。
(オ)平成21年1月から平成22年5月までの間における被告の従業員の平均賃金額は,月額33万円から36万円程度であった。
イ 上記アの事実関係によれば,〔1〕原告X1の職務内容は,他の従業員と同様に,督促及び営業業務が中心であり,支店長としての職務内容も,支店の業務内容のとりまとめ及びその報告等にとどまり,人事に係る決裁権もなかったこと,〔2〕実際の労働時間について,被告においては,タイムカードの打刻等が義務付けられていた形跡はなく,必ずしも厳格な労働時間管理がされていたとは認められないものの,その点は,他の従業員についても同様であり,原告X1が出社時間,退社時間に裁量を有していたとまでは認められないこと,〔3〕待遇の内容,程度について,原告X1は,平均賃金額よりも月額15万円前後高額の賃金を取得していたことが認められるものの,他の従業員と同様に督促及び営業業務を担当しながら,支店長としての業務も遂行していたことに照らすと,その賃金額も必ずしも高額であるということはできない。
被告は,原告X1の職務内容及び権限として,松山営業所及び広島支店に勤務中,中国・四国エリアの営業責任者として同エリア所在の各支店から提出される営業等に関する稟議書の取りまとめ,確認,承認をした上で被告に提出するほか,同エリアにおける従業員の採用及び退職の際に最終面接をし,その結果を被告に報告し,意見を述べる立場にあり,同エリアの従業員の人事に関する最終決定に当たってその意見が重視されていたから,原告X1が経営者と一体的立場にあったと主張する。しかし,証拠(丙4〔各枝番を含む。以下同じ。〕,原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,稟議書の決裁権は原告X2にあり,従業員の人事権も被告の役員にあって,原告X1にはなかったことが認められるし,中国・四国エリアの稟議書のとりまとめ,確認,承認の権限,同エリアの従業員の最終面接をする権限があるからといって,原告X1が経営者と一体的な立場にあったと認めることはできない。また,従業員の人事に関する最終決定に当たって,原告X1の意見が重視されていたと認めるに足りる的確な証拠はないし,原告X1の意見がどのように取り扱われていたかも不明である。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,原告X1が経営者と一体的な立場にある者ということはできないから,管理監督者には当たらないというべきであり,ほかに原告X1が管理監督者に当たることを裏付けるに足りる事情はうかがわれない。
以上のとおり,原告X1が管理監督者に当たる旨の被告の抗弁は,採用することができない。
⑵ 原告X1の割増賃金の額
ア 本件雇用契約に基づく1時間当たりの賃金単価
原告X1の月給が50万円であり,1日の所定労働時間が8時間,所定休日が土曜日,日曜日及び国民の祝日であるのは,前提事実(3)のとおりである。もっとも,被告の就業規則59条及び62条,本件雇用契約の雇用契約書(甲1)によれば,一括手当は,定額の時間外手当及び休日出勤手当の性質を有し,割増賃金を計算する際の基礎となる賃金から控除すべきであるから,「月によって定められた賃金」を37万円と認定する。そうすると,1年間の所定労働日数は,平成21年が245日であり,平成22年が246日となる。1年間における1月平均所定労働時間数は,平成21年が163.33時間であり(計算式:8時間/日×245日÷12月=163.33時間),平成22年が164時間となる(計算式:8時間/日×246日÷12月=164時間)。したがって,1時間当たりの賃金単価は,平成21年が2265円(計算式:37万円÷163.33時間=2265円),平成22年が2256円(計算式:37万円÷164時間=2256円)と算出される。
イ 時間外労働時間
原告X1の労働時間に関する後記の認定判断に基づき当裁判所が認定する原告X1の時間外労働時間は,別紙3記載のとおりである。ただし,証拠(甲15,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,平成22年1月20日及び同年3月18日は,福岡支店出張の往復の異動日であると推認され,本件全証拠によっても,労働時間を認定することができない。
(ア)原告X1の主張の要旨
別紙1記載の原告X1主張の始業時刻及び終業時刻の根拠及び考え方は,始業時刻については,割増賃金を請求する全期間を通じて,本社におけるテレビ会議が開始される午前8時とし(ただし,福岡支店出張中の一部の日時については,甲15記載の入館日時の記録に基づき,午前8時以降の時刻を始業時刻としている場合がある。),終業時刻については,平成21年4月1日から同月30日までの間の松山営業所勤務中は,退職後に作成した勤務表(甲4)の終業時刻の記載に基づき,いずれも午後9時とし,同年5月1日から同年11月30日までの間の広島支店勤務中は,甲14記載のセキュリティ開始の時刻とし(同一の日付に複数の記録がある場合には,最も遅い時刻とする。),同年12月1日から平成22年3月22日までの間の東京本社勤務中,平成22年1月21日から同年3月18日までの間の福岡支店出張中は,甲15記載のカード番号「80006」の退館日時の時刻としている。また,休憩時間は,就業規則に基づき,一律60分としている。
(イ)甲4の勤務表の信用性
この点,甲4の勤務表は,原告X1が被告を退職した後に記憶に基づき作成したものであり,信用性に疑義があるから,その就業日並びに就業日における始業時刻及び終業時刻の記載を直ちに採用することはできない。
(ウ)平日の労働時間
a 始業時刻
証拠(甲14ないし16,原告X1本人)によれば,平日の始業時刻について,原告X1は,割増賃金を請求する全期間を通じて,午前8時に開始される本社のテレビ会議に参加することが義務付けられていた上,その開始前までに会議の準備等をするために出社していたことが認められるから,遅くとも午前8時には勤務を開始していたと認めるのが相当である。
したがって,平日の始業時刻は午前8時と認定する。
b 終業時刻
同様に,証拠(甲14ないし16,原告X1本人)によれば,平日の終業時刻について,原告X1は,広島支店在勤中,出勤時には最後に同支店を退出し,その後直ちに同支店の警報装置が作動していたことが認められるから,甲14記載の同支店におけるセキュリティ開始時刻を終業時刻として認定することに合理性が認められるし(同一の日付に複数の記録がある場合には,最終のセキュリティ開始時刻を終業時刻と認める。),原告X1は,福岡支店出張中,同支店に入退室する際に使用する番号「80006」のカードキーを所持していたことが認められるから,甲15記載の番号「80006」のカードキーについて記録された退館時刻を終業時刻として認定することにも合理性がある。したがって,広島支店及び福岡支店勤務中については,甲14記載のセキュリティ開始時刻及び番号「80006」のカードキーの退館時刻を終業時刻と認める。
続いて,松山営業所及び東京支店勤務中(福岡支店出張中を除く。この項において以下同じ。)の平日の終業時刻については,これを認めるに足りる客観的記録は存在しないが,原告X1は,その本人尋問において,割増賃金を請求する全期間を通じて,主として督促及び営業業務を担当し,午後7時頃まで営業で外回りをした後,午後9時頃までは電話による督促業務等を行うことが義務付けられており,業務終了前に帰宅したことはなかった旨供述する一方,労基法108条等に基づき労働時間を適性に把握することを義務付けられる被告が,従業員の労働時間を厳格にしておらず,原告X1が午後9時頃までは営業及び督促業務に従事していたことについて積極的に反証していないことに照らすと,松山営業所及び東京支店勤務中の終業時刻は,どんなに早くとも午後9時を下回ることはなかったと認めることに十分な合理性がある。
したがって,原告X1の松山営業所及び東京支店勤務中の平日の終業時刻は,午後9時と認める。
(エ)休日の労働時間
原告X1の休日の労働時間について,割増賃金を請求する全期間を通じて,平成22年2月13日(土曜日)を除き,始業時刻についての客観的記録は存在しない(同日については,甲15の該当日に,原告X1が使用していた番号「80006」のカードキーによる入室記録がある。)。また,〔1〕就業規則(丙1)上休日とされている土曜日,日曜日及び国民の祝日において,東京本社で午前8時から経営会議が開催されていたとは認められないこと,〔2〕原告X1の同僚の作成した業務に関するメモの記載(甲12)に加えて,原告X1が主として担当した督促及び営業業務の性質によれば,休日中の業務量は,平日と比較しておのずと限られたものであったとうかがわれること,〔3〕原告X1は,平成22年2月20日,同月27日,同年3月6日,同月13日の各土曜日に休業しており,就労した旨主張していないにもかかわらず,福岡支店に入退室した記録があることに照らすと(甲15),休日の福岡支店への入退室が必ずしも就労を目的とするものではなかった可能性もあることなどの諸事情によれば,広島支店及び福岡支店勤務中の休日の退室記録が存在するからといって(甲14,15),少なくとも客観的記録をもって始業時刻を認定することができない以上,当該退室記録のみから休日中の労働時間を認定することはできないといわざるを得ず,ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠もない。そして,上記のとおり,休日中の労働時間を算定するに当たって,入退室記録そのものの信用性が必ずしも高くないことに照らすと,平成22年2月13日の入退室時刻を基に同日の労働時間を推認することに疑義がないわけではないが,同日の労働時間について被告から何ら具体的反証はないから,入退室記録をもって同日の労働時間を推認したとしても,およそ合理性を欠くとまではいえない。
そうすると,原告X1の休日労働としては,平成22年2月13日のみを認め,その余の日については,休日労働を認めないこととする。
(オ)休憩時間
休憩時間は,就業規則に基づき,一律60分と認定する。
ウ 原告X1の割増賃金の認定額
以上検討してきたところによれば,原告X1の時間外労働に係る割増賃金の額は,353万3761円(計算式:2265円×941時間42分×1.25+2256円×307時間39分×1.25=353万3761円)となり,時間外労働のうち深夜労働部分の割増賃金の額は,11万4667円(計算式:2265円×127時間50分×0.25+2256円×74時間58分×0.25=11万4669円)となる。また、原告X1が法定外休日であることを自認する平成22年2月13日の休日労働に係る割増賃金の額は,2万4910円(2256円×8時間50分×1.25=2万4910円)となる。
したがって,原告X1の被告に対する割増賃金請求権の額は,367万3340円となる。
2 争点(2)(原告X2の割増賃金請求権の有無及び額)について
⑴ 原告X2の管理監督者性
ア 前提事実,上記1(1)アの認定事実,証拠(丙4,5,原告X1,原告X2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)原告X2は,従前,被告の関連会社である株式会社大阪アセットファイナンスの代表取締役を務めていたが,同取締役を退任し,平成21年4月1日,被告との間で雇用契約を締結して被告に入社し,同年6月1日から同年9月16日までの間,被告の取締役を務めるとともに,同年6月頃以降退職するまでの間,本社の営業部長の地位にあった。
(イ)平成21年6月時点において,被告の常勤取締役は,人事・管理一般を担当する代表取締役P4,債権回収を担当する取締役P5(以下「P5」という。),営業を担当する原告X2の3名であり,従業員の採否,退職等の人事を含む被告の経営方針は,上記3名の合議によって決定されていた(原告X2は,関連会社である株式会社SFCGの元代表取締役P6が被告の経営を支配していた旨供述するが,P6は,原告X2の被告在勤中,被告の取締役に就任したことはなく,被告の経営に対するかかわりの有無及び程度等を示す証拠はないから,直ちに採用することはできない。)。その中で,原告X2は,東京本社のみならず,全国の支店の営業全般を統括する立場にあり,営業方針を決定して関係部門に指示したり,営業担当の従業員に対して業務改善命令を発したり,営業担当の従業員を構成員とする会議を主催したり,全国の支店等から提出される稟議書を最終的に決裁したりする権限を有していた。原告X2の職務内容及び権限は,取締役就任・辞任の前後を通じて変化はなく,原告X2は,被告在勤中,一貫して被告の営業部門の責任者としての地位にあった。
(ウ)被告の従業員数は,平成21年1月から平成22年5月までの間において,約140名から240名で推移し,その間の被告従業員の平均賃金額は,月額33万円から36万円程度であった。また,被告の役員及び従業員の報酬又は賃金の最高支給額は,代表取締役の月額58万4000円から100万円である一方,原告X2の報酬又は賃金は,月額54万2000円から62万5000円であり,代表取締役に準ずる水準にあった。
イ 上記アの事実関係に加えて,原告X2は,その本人尋問において,被告の指示の下とはいうものの,自らの意思で出社時刻を決定していた旨供述しているし,そもそも従業員に対する労働時間管理が厳格に行われていなかった被告において,原告X2が労働時間を管理されていたとは認められないことに照らすと(原告X2は,取締役P5の承諾を得て退社していた旨供述するが,取締役P5と原告X2とは,分掌する職務権限を異にする同じ取締役であり,両名の間に職制上の上下関係があったとは認められないし,具体的な承諾の手続・方法等も明らかでないから,直ちに採用することができない。),原告X2は,一時,取締役の地位にもあり,その間の労働者性の問題はさておき,少なくとも被告の営業部門の責任者としての立場にあり,その賃金又は報酬は,代表取締役の報酬に準ずる水準にあった上,実際の労働時間についても,厳格に管理されていたとまでは認めらない一方,出社時刻には一定の裁量があったことがうかがわれるから,原告X2は,被告の営業部門において,経営者と一体の立場にあったということができる。
以上検討してきたところによれば,原告X2は,労働基準法41条2号の管理監督者に当たるというべきである。
⑵ 深夜労働の割増賃金
管理監督者であっても,深夜労働の割増賃金請求は可能であるところ,原告X2は,自らの深夜労働の労働時間を裏付ける証拠として甲6の勤務表を提出しており,その信用性が問題となる。
この点,原告X2は,その本人尋問において,当該勤務表は,被告を退職した後3か月余りを経過した平成22年7月下旬頃,被告在勤中に自ら作成したメモ及び取締役P5に提出した報告書に記載された業務内容を基に,当時の業務に関する記憶を喚起して作成した旨供述するところ,当該メモ及び報告書はいずれも当裁判所に証拠として提出されておらず,その存在及び具体的内容は必ずしも明らかでないし,仮に存在するとしても,原告X2の供述によると,当該メモ及び報告書には,具体的な勤務時間がその都度記載されていたわけではないことがうかがわれるから,上記勤務表には,精々,当該メモ及び報告書に記載された業務内容から概算された労働時間が記載されているにとどまるというべきである。そうすると,上記勤務表の記載は,必ずしも正確なものではなく,これを根拠に対象期間の一日ごとの労働時間を認定することは困難であるから,直ちに採用することができないといわざるを得ない。
したがって,甲6の勤務表をもって原告X2の深夜労働を認定することはできないし,ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠もない。
⑶ まとめ
以上のとおり,原告X2は管理監督者に該当し,被告の抗弁は理由があるし,原告X2の深夜労働を認めることもできないから,原告X2の被告に対する割増賃金請求は理由がない。
3 結論
以上の次第で,原告X1の本訴請求は,時間外,休日労働の割増賃金367万3340円及びこれに対する支払期日後(訴状送達の日の翌日)の平成22年8月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この部分を認容し,その余は理由がないから棄却することとし,原告X2の本訴請求は,すべて理由がないから棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。