無断欠勤,遅刻を理由にいかなる懲戒処分ができるか?

  • 2021年8月29日
  • 2022年4月27日
  • 懲戒

無断欠勤,遅刻を理由に懲戒解雇できるか? 対応のポイントなどについて,労働問題専門の弁護士が分かりやすく説明します。

社長
当社の社員で,遅刻や欠勤が著しく多い者がいます。具体的には,6カ月の間に,24回の遅刻と14日間の無断欠勤を行っており,半年で完全な就労をしたのは勤務日の69%程度に過ぎません。そこで,当該社員を懲戒解雇したいと考えておりますが,可能でしょうか?
弁護士吉村雄二郎
社員の欠勤や遅刻は,労務提供という労働者としての基本的義務を怠る重大な債務不履行となります。そして,会社の人員配置にも影響を与え,企業秩序を乱す場合は懲戒処分の対象にもなり得ます。
ただし,無断欠勤に加え,事前に再三にわたる注意・指導並びに譴責・戒告の懲戒処分を行うなどの警告がない場合は懲戒解雇処分や諭旨解雇処分が無効となる場合もあります。また,そもそも懲戒解雇処分や諭旨解雇処分は極めて重い処分である為,無効となるリスクがあります。そこで,無断欠勤や遅刻などの勤怠不良の場合は,普通解雇を行う又は懲戒解雇や諭旨解雇より軽い懲戒処分に留めるという選択肢も検討した方がよいでしょう。
ご相談のケースでは,事前に注意や戒告等の懲戒処分を行っているのであれば懲戒解雇も可能なケースであると思われますが,一定のリスクは残ります。そこで,普通解雇を行うことも検討した方がよいでしょう。
無断欠勤・遅刻などにより,職場の秩序を乱している場合は懲戒処分を行える
懲戒解雇や諭旨解雇を行う為には,注意・指導や譴責・戒告の懲戒処分を行う必要がある
リスク回避の為に普通解雇を行うことも検討するべき

1 無断欠勤・遅刻等は懲戒処分の対象となる

1.1 懲戒処分の対象となる

労働契約関係において,所定労働日に所定労働時間に過不足なく労務提供を提供することは,労働者の基本的な義務です。

それゆえ,所定労働日に無断で出勤せずに労務を提供しないこと(無断欠勤)や,所定労働時間に満たない労務提供しかしないこと(遅刻や早退)は,労働者としての基本的義務を怠ることに外ならず,重大な債務不履行になります。

そして,重大な債務不履行は普通解雇の対象となります。のみならず,無断欠勤や遅刻等は,会社の人員配置にも影響を与え,企業秩序を乱す場合は懲戒処分の対象にもなり得ます。

1.2 無断欠勤の範囲について

「無断欠勤」は,①文字どおり,労働者より何らの連絡もない欠勤のみを「無断欠勤」を意味するのが通常です。さらに,②労働者より連絡があっても正当な理由がない場合や,③届出はしているものの許可されていない場合も「無断欠勤」に含むのかが問題となることがあります。

裁判例では,欠勤には所属上長の許可を要するとされていたケースで,届出をしたが許可が得られない場合,または虚偽の理由を届け出て,いったん許可を得た後,それが虚偽と判明して取り消された場合には「無断欠勤」の一態様となるとした裁判例があります(三菱重工業長崎造船所事件(福岡高裁昭和55年4月15日判決(労判342号25頁))。

もっとも,就業規則上,「無断欠勤」について,上記①のみならず,②,③も含む旨を明記しておけば,上記解釈上の問題も未然に予防できます。そこで,就業規則上,懲戒事由として「無断欠勤(正当な理由のない欠勤・許可を得ない欠勤を含む)が〇日以上に及んだとき」と明記することも一案です。

2 懲戒処分の有効要件

懲戒処分を行うためには、一般的要件を満たす必要があります。こちらも確認す

懲戒処分の有効要件については

知っておきたい懲戒処分の有効要件

① 就業規則に懲戒規定明記
懲戒事由と懲戒処分の種類が就業規則に明記され、その就業規則が従業員に周知されていることが必要です。
参考記事
懲戒に関する就業規則の規定例
② 懲戒事由該当性
懲戒事由に該当する非違行為の事実について、関係者の事情聴取、客観的証拠等から事実が認定できることが必要です。
③ 懲戒の社会通念上相当性
懲戒処分が重すぎると無効となります。懲戒処分の種類・量刑が相当であることが必要です。
④ 懲戒処分の適正手続履践
就業規則上、賞罰委員会の開催や弁明の機会の付与が必要とされている場合は、これらの手続を履践する必要があります。

 3 懲戒処分の量定

2.1 基本的な考え方

無断欠勤や遅刻があったとしても,いきなり懲戒解雇や諭旨解雇などの重い処分を行う場合は慎重な検討が必要です。裁判例では,事前に注意・指導や戒告・譴責等の懲戒処分による警告を行った上でなければ,無断欠勤や遅刻があったとしても懲戒解雇や諭旨解雇を認めないとするものもあります。

そこで,無断欠勤や遅刻などの勤怠不良の場合は,懲戒解雇や諭旨解雇を行う前に,普通解雇を行う又は懲戒解雇や諭旨解雇より軽い懲戒処分に留めるという選択肢も検討した方がよいでしょう。懲戒解雇や諭旨解雇を選択する場合は,同時に,予備的普通解雇を行うこともお勧めします。

以下,無断欠勤,遅刻等について,参考裁判例及びデータを整理しましたので,処分決定の際に参照してください。

2.2 裁判例データ

無断欠勤

神田運送事件(東京地裁昭和50年9月11日決定 労判236号36頁)
1年に欠勤27日,遅刻早退が99回あった労働者を諭旨解雇した事案について,「正当な理由なしに遅刻,早退または欠勤が重なるもの」という懲戒事由に該当することは認めながらも,諭旨解雇に至るまでには,直近に職場内で注意をしたにとどまり,譴責・出勤停止・減給などの懲戒処分を行って警告した事実は全くなく,当該労働者から反省の機会を奪い,企業から排除する処分を科すことは過酷であるとして,諭旨解雇を無効とした。
東京プレス工業事件(横浜地判昭57.2.25判タ477-167)
従業員が,6カ月の間に,24回の遅刻と14日間の無断欠勤を行った(当該6カ月の間に完全な就労をしたのは就労すべき日数の69%程度にとどまっていた)ことを理由として懲戒解雇された事案において,裁判所は,懲戒解雇を有効であると判断した。
日立製作所事件(東京地判平23.11.24労経速2131-16)
私傷病欠勤についての手続も怠ったまま約9カ月間の欠勤を継続していた(病気療養を理由として,出身国である中国に帰国していた)従業員に対して,譴責,出勤停止1日,同5日と順を追って行われた懲戒処分の後に,約1年間の無断欠勤を理由としてなされた懲戒解雇処分を有効であると判断した。
日本郵便事件(東京地判平25.3.28労経速2175-20)
従業員が無断欠勤等を理由に懲戒解雇された事案において,1カ月以上もの間(26出勤日)欠勤を続けたこと,再三にわたって電話や出勤命令を受けながら無視し続けたこと,欠勤期間中に就業規則で禁止されている無許可アルバイトを行っていたこと等理由として,懲戒解雇を有効と判断した。

遅刻早退

三重近鉄タクシー事件(東京地判平8.8.15労判702-33)
従業員が,提出が義務づけられた「早退届」を提出せずに7回にわたり早退をくり返したこと,早退の度に会社から早退届を提出するように注意・説得された上,2回にわたって文書での注意を受けたにもかかわらず,早退届を提出せずに退社していたこと,過去にも同様の問題を起こして3回も乗務停止の懲戒処分を受けたことがあったことを理由として,早退をくり返していたことを理由に解雇された事案において,懲戒処分としての解雇を有効と判断した。
ヤマイチテクノス事件(大阪地判平14.5.9労経速1810-23)
従業員が,遅刻を繰り返したとの理由で懲戒解雇された事案において,裁判所は,3年余りにわたって恒常的に遅刻をくり返していたにもかかわらず,定例の会議等には出席していたところ,当該従業員の勤怠について,会社としても従前は問題視しておらず,本件懲戒解雇に至るまでの間何らの懲戒処分も行っていないこと等を理由として,懲戒解雇を無効と判断した。
日光産業ほか1社事件(大阪地堺支判平22.5.14労判1013-127)
(1)社員が,無断欠勤に対する始末書を作成し訓戒処分を受けたにもかかわらず,その後,約5カ月の間に欠勤扱いを1回,遅刻を4回したことに対する減給処分,(2)度重なる無断欠勤・遅刻に対して始末書を作成した後も,約2年9カ月の問に欠勤扱いを1回,遅刻を4回したことに対する減給処分について,裁判所は,懲戒処分の程度として重きに失するということはできないと判断した(ただし,結論として,減給額が労基法91条に違反するため各減給処分を無効であると判断した)
(3)社員が,無断欠勤をしたことを理由に7日間の出勤停止処分とされた事案において,裁判所は,約半年の間に,無断欠勤1回,欠勤扱い1回という勤怠状況に過ぎないこと,これまでに懲戒処分を受けたことがないことという事情から,処分の相当性を欠き,懲戒権の濫用として7日間の出勤停止処分を無効であると判断した。

2.3 民間データ

【無断欠勤が2週間に及んだ場合】
1位 懲戒解雇(53.5%)
2位 諭旨解雇(38.4%)
3位 出勤停止(14.5%)

※参照元:「労政時報」第3949号(2018年4月13日発行)P38~「懲戒制度の最新実態」

2.4 公務員データ

(1) 欠勤
ア 正当な理由なく10日以内の間勤務を欠いた職員は、減給又は戒告とする。
イ 正当な理由なく11日以上20日以内の間勤務を欠いた職員は、停職又は減給とする。
ウ 正当な理由なく21日以上の間勤務を欠いた職員は、免職又は停職とする。
(2) 遅刻・早退
勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた職員は、戒告とする。

※参照元:「懲戒処分の指針について」(人事院)2022年4月1日改正

2.5 報道データ

2018.9.12 無断欠勤111日 小学校の男性教諭を懲戒免職処分
2018.11.26 週1,2回,20分程度サボりが発覚し減給の懲戒処分
2019.2.25 20日以上欠勤で懲戒免職 陸自第1特科団
2019.2.25 1日無断欠勤、東京のネットカフェで発見 停職1日
2019.3.15 不正外出しホテル勤務、男性隊員を懲戒免職 陸自木更津
2022.2.23 無断で遅刻や早退を繰り返し、注意した上司を脅迫 市役所職員を懲戒免職
2022.2.24 准教授、連絡メールを「迷惑」扱い・緊急性ないのに警察通報 出勤停止3か月懲戒処分
2022.3.7 委員会など無断欠席を繰り返した弁護士を業務停止の懲戒処分
2022.3.15 上司を突き飛ばした20代部下を停職の懲戒処分
2022.3.15 30代男性陸尉が無断欠勤 停職の懲戒処分
2022.3.29 職場離脱199回 大阪府立高校教諭を懲戒免職
2022.3.30 正当な理由なく8日欠勤、上司には暴言繰り返した高校教諭を減給の懲戒処分
2022.4.13 無断欠勤で海自隊員を戒告の懲戒処分
2022.4.21 無断で実家帰省 2隊員を停職の懲戒処分

その他報道データの詳細は

無断欠勤等による懲戒処分事例【報道】

対応方法

1 調査(事実及び証拠の確認)

無断欠勤・遅刻早退に関しては、以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。

調査するべき事実関係

□ 欠勤・早退・遅刻等の日数・回数
□ 届出の有無,無届けの理由
□ 届出がなされている場合,その正当性の有無,会社の許可不許可
□ 業務に与えた影響
□ 注意指導や戒告・譴責の有無,回数
□ 注意等の後の社員の態度
□ 通常の勤務状況・成績

調査の際に収集する資料

□ 出退勤記録,タイムカード
□ 欠勤届
□ 注意指導を行った文書,メール
□ 懲戒処分通知書,始末書

量刑・情状酌量事情

□ 欠勤・遅刻の動機・経緯に酌量の余地があるか
□ 欠勤・遅刻による業務上の支障の程度の軽重
□ 懲戒処分の事情聴取への対応・協力の誠実さ
□ 反省の態度の有無
□ 入社後の勤務態度
□ 欠勤・遅刻が他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較

2 懲戒処分の進め方

1 不祥事の発覚
内外からの通報、上司・同僚による発見、本人申告等などにより不祥事が発覚します。
2 事実調査
懲戒処分に該当する可能性のある事案が発生した場合は,懲戒処分の前提として事実の調査を行います。
調査に支障がある場合は本人を自宅待機させます。
参考記事
すぐ分かる! 懲戒処分の調査のやり方
・懲戒に関する事情聴取のポイント
懲戒処分前の自宅待機命令の方法(雛形・書式あり)
社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】
3 処分の決定
調査により認定された事実に基づいて懲戒処分を行うか否か,行う場合の懲戒処分の種類・程度を決定します。
参考記事
・もう迷わない!分かりやすい懲戒処分の判断基準
・知っておきたい懲戒処分の有効要件
4 懲戒手続
懲戒委貞会の開催、弁明の機会付与等を行います。
参考記事
・知っておきたい懲戒処分の有効要件
5 懲戒処分の実施・公表
決定した懲戒処分を当該社員へ文書により通告します。
実施した懲戒処分について,必要に応じて社内外に公表します。
参考記事
受取拒否にも対応、懲戒処分を通知する方法【書式・ひな形あり】
名誉毀損にならない懲戒処分の公表方法【書式・ひな形あり】
6 再発防止措置
懲戒処分を行っただけでは再度同じ不祥事が生ずる可能性があります。
そこで、会社は再発防止の為に各種施策を講じます。 

懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を

弁護士に事前に相談することの重要性

懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。

懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。

このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。

しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。

リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには労務専門の弁護士事前に相談することとお勧めします

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サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。

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