不倫をした社員に対しいかなる懲戒処分ができるかについて、労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。
職場環境が悪化し業務上の支障を生じさせている場合は懲戒処分の対象となることも
懲戒処分の量定は戒告・譴責といった軽い処分にとどまること
- 会社による懲戒処分の対応【まとめ】
… 懲戒処分全般についてのまとめ記事 - 社内恋愛(不倫)を理由に解雇できるか?
…社内不倫をした場合に解雇できるかについて詳しく解説
1 不倫は懲戒処分の対象となるか
1.1 私生活上の非行と懲戒処分
多くの会社の就業規則には「会社の名誉・信用を毀損したとき」,「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」などといった懲戒解雇事由が定められています。素朴な一般論としては、不倫などはこれに該当するとも思えます。
しかし、労働者が私生活上の非行を行ったからといって,一概に懲戒処分ができるとは限りません。懲戒処分は,企業秩序違反に対する制裁ですから,私生活上の非行は職場の企業秩序とは関係なく,懲戒処分の対象とできないのが原則です。
もっとも、私生活であれば何をしてもよいという訳ではありません。労働者には,雇用契約締結とともに,雇用契約上の付随義務として誠実義務が生じ,その中には使用者の名誉・信用を毀損しない義務があります。従って,労働者の就業時間外の私生活上の行為であっても,それが企業秩序と関係があるものについては懲戒処分の対象となるといえます。
1.2 不倫と懲戒処分
では、不倫は、企業秩序と関係があるとして懲戒処分の対象となるのでしょうか。
不倫は、基本的には会社の業務とは全く無関係の私生活上の行為であり,原則として懲戒処分の対象となりません。
従業員が不倫をしていたとしても、職場外の会社とは全く関係のない第三者との間で不倫をしていた場合、職場又は取引先間会社との間の不倫であってもその関係を知る者が殆どいないなど,職務上何ら影響がでていないような場合には,軽微な懲戒処分の対象とすることもできないと考えられます。
これに対し、職場内の従業員同意の不倫、取引先など会社関係者との間での不倫などで、周囲にも発覚し、就業環境や取引先関係を乱すような場合は,そのような行動について注意を行い,それでも改善が見られないようであれば,戒告・けん責など軽い懲戒処分を行うことは考えられます。
1.3 他の不正行為が絡む場合
社内での不倫関係が発覚した場合、会社のメールを私用で利用したり、会社施設(部屋)で密会するなど私用することがあります。この場合は、会社施設管理権の侵害や職務専念義務違反など別の問題が生じています。また、会社経費での業務上の必要性の乏しい出張をして逢瀬を重ねるなどした場合は、経費の不正請求の問題も絡みます。このように別の問題が絡むこともありますので、不倫以外の別の理由で懲戒処分の対象とすることがあります。
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2 懲戒処分の有効要件
懲戒処分を行うためには、一般的要件を満たす必要があります。こちらも確認す
懲戒処分の有効要件については
3 不倫の懲戒処分の量定
3.1 基本的な考え方
従業員が不倫をしていたとしても、職場外の会社とは全く関係のない第三者との間で不倫をしていた場合、職場又は取引先間会社との間の不倫であってもその関係を知る者が殆どいないなど,職務上何ら影響がでていないような場合には,軽微な懲戒処分の対象とすることもできないと考えられます。
これに対し、職場内の従業員同意の不倫、取引先など会社関係者との間での不倫などで、周囲にも発覚し、就業環境や取引先との関係を乱すような場合は,そのような行動について注意を行い,それでも改善が見られないようであれば,戒告・けん責など軽い懲戒処分を行うことは考えられます。
もっとも、懲戒解雇・諭旨解雇まで行うことは通常は難しいと考えた方がよいでしょう。
3.2 裁判例データ
繁機工設備事件(旭川地裁平成元年12月27日判決・労働経済判例速報1387号)
事案:独身の女性事務員が配偶者のいる男性社員と恋愛関係となり,事務室内で弁当のおかずを交換して食べる,親しそうに話すなどしていたことから,他の従業員の知るところとなり、さらには取引先を含めた噂となってしまいました。男性社員の妻からも会社に対してクレームが寄せられました。会社社長は両名に対し,交際をやめたほうがよいと忠告し,また,退職を促しましたが、両名がこれに応じませんでした。そこで、会社は女性事務員を「素行不良で職場の風紀・秩序を乱した」という懲戒事由に該当するものとして懲戒解雇しました。
判断:裁判所は,女性事務員が妻子ある男性職員と男女関係を含む恋愛関係を維持することは,特段の事情がない限りその妻に対する不法行為となる上,社会的に非難される余地のある行為であるから,上記懲戒事由に該当することは一応否定できないと述べています。しかし、「職場の風紀・秩序を乱した」とは,会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきとし,この事案では、企業運営に具体的な影響を与えたとは認められないとして,懲戒解雇を無効と判断しました。
豊橋総合自動車学校事件(名古屋地決昭26.7.10労判370号42頁)
事案:妻子ある従業員(40歳)が、シングルマザー女性教習生(34歳)と不倫関係となり懲戒解雇された
判断:裁判所は,当該懲戒解雇は社会的相当性の面から無効としましたが,教習中について,「指定自動車学校の既婚従業員と在籍中の女性教習生が親密な関係になることは,それ自体が不道徳的行為として非難される虞があるばかりかその従業員が地位を利用して女性教習性に交際を強要したのではないか又は女性教習生が免許取得の便宜のため従業員にとり入っているのではないか,その結果教習課程で得られる法的特典たる仮免許検定,実技卒業検定等の試験の公正が損なわれるのではないか等他の教習生にあらぬ波紋と疑惑を生じさせ,もって被申請人の職場規律,ないしは業務運営に関する教習生の信頼や評価を低下させる虞なしとしない」として懲戒解雇を無効と判断しました。
学校法人白頭学院事件(大阪地判平9.8.29労判725号40頁)
事案:妻子ある教職員が自ら指導する生徒の母親と不倫関係となり懲戒解雇された
判断:「教師には生徒の保護者と協力して生徒の健全な育成を目指すことが期待されるところ,原告は妻子がありながら原告の指導する生徒の母親と情交関係を持ったものであって,原告の行為は単なる私生活上の非行とはいえず,社会生活上の倫理及び教育者に要求される高度の倫理に反しており,教職員としての品位を失い,被告の名誉を損ずる非行に該当する」として懲戒解雇を有効と判断した。
長野電鉄事件(長野地判昭和45.3.24判例時報600号111頁)
事案:Yは,地方鉄道事業,自動車運送業,旅館等の観光事業,索道事業等を営む株式会社であり,Xは,昭和33年3月7日,Yに自動車運転士として雇用され,昭和34年4月1日以降Yの自動車部営業課に所属して,バスの運転士として勤務していた。しかし,Xは,Yの風紀を乱し職場秩序を破ったことを理由に,昭和40年5月31日,Yより普通解雇された。
判断:裁判所は,Xが,未成年の女子バスガイドと情交関係を持ち,妊娠させたことを認定した上で,「Xは,本件非行によってYの体面を汚し,かつ,損害を与えたものであることが明らかであるというべきである」と判示して,普通解雇を有効と判断した。
3.3 民間データ
妻子ある社員がスタッフと不倫関係になり、相手の配偶者から苦情がきた場合
1位 戒告・譴責・注意処分(42.1%)
2位 減給(19.3%)
3位 出勤停止(18.7%)
※「労政時報」第3949号(2018年4月13日発行)P38~「懲戒制度の最新実態」
3.4 公務員データ
データなし
※「懲戒処分の指針について」(人事院)2020年4月1日改正
3.5 報道データ
なし
4 不倫に対する懲戒の対応方法
4.1 調査(事実及び証拠の確認)
以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。
調査するべき事実関係
□ 不倫関係の有無
□ 不倫関係の当事者の地位・業務内容
□ 不倫関係が知られている範囲、批判の有無
□ 社内設備、私用メールの有無
□ 高い倫理性を求められる職務か否か
□ 業務上の支障・損害
□ 発覚後の社員の態度・弁明内容
□ 通常の勤務状況・成績
調査の際に収集する資料
□ 不倫に関する電子メール
□ 不倫に関する目撃者の有無
□ 注意指導を行った文書,メール
□ 懲戒処分通知書,始末書
量刑・情状酌量事情
□ 交際の具体的な態様(職場秩序を乱す程度)
□ 業務に与えた影響
□ 調査や事後対応への協力姿勢
□ 反省の態度の有無
□ 他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較
2 懲戒処分の進め方
調査に支障がある場合は本人を自宅待機させます。
参考記事
・すぐ分かる! 懲戒処分の調査のやり方
・懲戒に関する事情聴取のポイント
・懲戒処分前の自宅待機命令の方法(雛形・書式あり)
・社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】
実施した懲戒処分について,必要に応じて社内外に公表します。
参考記事
・受取拒否にも対応、懲戒処分を通知する方法【書式・ひな形あり】
・名誉毀損にならない懲戒処分の公表方法【書式・ひな形あり】
そこで、会社は再発防止の為に各種施策を講じます。
懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。
懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。
このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。
しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。
リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには、労務専門の弁護士に事前に相談することとお勧めします。
労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート
当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。
労務専門法律相談
懲戒処分に関して専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。
懲戒処分のコンサルティング
懲戒処分は限られた時間の中で適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
懲戒処分のコンサルティングにより、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。
労務専門顧問契約
懲戒処分のみならず人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した懲戒処分についても、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。