10分でわかる!解雇予告除外認定のやり方【書式・ひな形あり】

  • 2022年4月25日
  • 2022年6月14日
  • 解雇

会社が解雇を行う場合,労基法では,30日前に解雇の予告を行うか、又は,30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことが義務付けられています。
しかし,懲戒解雇を行う場合などの一定の場合には解雇予告が免除され(労基法20条1項),その為には,所轄労働基準監督署長の認定を得る必要があります。
ただ,実際にはどのような手続をとるべきなのか,添付書類として何が必要なのかについては分からないことが多いのではないでしょうか?
そこで,今回は解雇予告除外認定の手続きについて解説したいと思います。

1 解雇予告除外認定の手順の流れ

まずは,手続フローを掴んで頂いた方が分かりやすいでしょう。そこで,社員の重大な不正行為を理由に懲戒解雇を行う場合をモデルとして,まずは、解雇予告除外認定手続の全体の流れを見ていきましょう。

① 社員の不正行為・非違行為の発覚

社員が不正行為・非違行為を行っていたことが会社に発覚します。

② 会社による不正行為の事実調査・関係者からの事情聴取

懲戒事由に該当する事案が発生した場合,まずは事実の確認を行います。
具体的には,不正社員に対して事情聴取を行い,「弁明書」や「経緯書」の提出を命じます。また,必要に応じて不正社員の自宅待機を命じます。
そして,不正を裏付ける客観的証拠の収集,関係者・目撃者からの事情聴取などを行い裏付けを進めます。

③ 懲戒解雇を行うことを社内で決定

事実の確認が終わりましたら、調査結果について、社内の過去の処分事例を踏まえて懲戒解雇処分を決定します。
なお、就業規則に懲戒委員会の審議などが必要である旨の定めがある場合は懲戒委員会を開催した上で処分を決定します。
※この時点では社員に懲戒解雇を通告しません。

④ 懲戒事由が解雇予告除外認定の要件に該当するか否かを確認します。

④-1 除外認定の要件に該当しないと判断する場合

原則どおり解雇予告又は解雇予告手当を支払って解雇します。

④-2 除外認定の要件に該当すると判断する場合

→⑤へ

⑤ 所轄の労働基準監督署に「解雇予告除外認定」を申請

解雇事由が、除外認定に当てはまる場合は,「解雇予告除外認定申請書」を作成します。

通常、経緯の詳細については別紙で作成し添付しますが、その際、本人に書かせた経緯書や弁明書なども参考資料として添付します。

労基署の窓口で除外認定の要件に当てはまるかが確認され、当てはまらないと判断されて受理されないこともあります。

⑥ 労働基準監督署による調査

申請を受けて,直ちに労働基準監督署から社員へ事情聴取が実施されます。

⑥-1 社員が事実関係を認めている場合

→除外認定の要件に該当する限り除外認定を行います→⑦へ

⑥-2 社員が認めない場合

→社員が事実関係を否認し、争う姿勢を示している場合は,労基署は「解雇予告除外認定」を出しません。そのような場合、実務上は除外認定申請を取り下げ、原則どおり解雇予告又は解雇予告手当を支払って懲戒解雇するケースがほとんどです。

⑥-3 社員が調査に応じない場合

→この場合,会社から提出された「経緯の詳細」や本人が事実関係を認めていることが読み取れるもの(自筆の「経緯書」など),その他会社が提出した証拠資料から認定できる事実関係を総合的に判断したうえで「解雇予告除外認定」を出すかどうかの決定がなされます。その結果、除外認定を出さない場合は原則どおり解雇予告又は解雇予告手当を支払って懲戒解雇を行います。除外認定を出す場合は⑦へ。

⑦ 解雇予告除外認定の通知

「解雇予告除外認定」が労基署から決定通知されます。社員の事情聴取がすぐにでき、事実関係の確認が取れた場合は1週間程度(早ければ数日の場合もある)、社員との接触がなかなかできずに出頭要請などをしている場合は2週間程度で決定がなされます。

⑧ 懲戒解雇の通知

除外認定が出た後に、解雇予告等を経ずに社員に懲戒解雇(即日)を通告します。

 即時解雇・除外認定申請・除外認定の順序について
(1) 除外認定申請 → 労基署の除外認定 → 即日解雇通知 (◎ 有効 原則的順序)
(2) 除外認定申請 → 即日解雇通知 → 労基署の除外認定 (○ 認定されれば有効 ※)
(3) 即日解雇通知 → 除外認定申請 → 労基署の除外認定 (△ 除外認定の事由がある場合は解雇は有効、ただし、労働基準法には形式的には違反する)

2 解雇予告除外認定が受けられるケースとは?

除外認定が受けるための要件

では,どのような場合に解雇予告除外認定が受けられるのでしょうか?

法律では次のように定められています。

労働基準法第20条
1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
3 第1項但書の場合はその事由について行政官庁の認定を受けなければならない

ここから読み取れる要件は

①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
または
②労働者の責に帰すべき事由がある場合

です。

以下,具体的に見ていきましょう。

①天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合

これに当てはまるためには,「天災事変その他やむを得ない事由」の存在と、「事業の継続が不可能」であることの2点が必要です。

火災や震災で事業が継続できなくなり、会社都合で解雇するような場合に問題となります。

「天災事変その他やむを得ない事由」
天災事変や、それと同程度に不可抗力かつ突発的な事由であり、事業の経営者として必要な措置を講じても改善できない状況にある場合をいいます(昭和63.3.14 基発150号)。
肯定例
事業場が火災で焼失した場合(ただし、事業主の故意又は重大な過失による場合を除く)
震災で事業場が倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合
否定例

事業主が経済法令違反のため強制収容され、または購入した諸機械、資材等を没収された場合
税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
事業経営の見通しを誤り、資材入手難、金融難に陥った場合
従来の取引先が休業となり、発注品がなくなり、事業が金融難に陥った場合
「事業の継続が不可能となった場合」
事業の全部又は大部分が継続不可能になった場合をいいます(昭和63.3.14 基発150号)。
否定例
① 事業場の中心となる重要な建物、設備、機械等が焼失を免れ多少の労働者を解雇すれば従来通り操業しうる場合
② 従来の事業は廃止するが多少の労働者を解雇すればそのまま別個の事業に転換しうる場合
③ 一時的に操業中止のやむなきに至ったが、事業の現況、資材資金の見通し等から全労働者を解雇する必要に迫られず、近く再開復
旧の見込みが明らかであるような場合
弁護士吉村雄二郎
平成23年3月11日に発生した東日本大震災の際、解雇予告除外認定について厚生労働省が公表していたQ&Aも参考になります。

【Q3-2】今回の震災で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受けたために、事業の全部又は大部分の継続が困難になったことにより労働者を解雇しようとする場合、労働基準法第19条及び第20条に規定する「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」による解雇といえるでしょうか。
[A3-2](中略)労働基準法第19条と第20条の「天災事変その他やむを得ない事由」とは、天災事変のほか、天災事変に準ずる程度の不可抗力によるもので、かつ、突発的な事由を意味し、経営者として必要な措置をとっても通常いかんともし難いような状況にある場合を意味すると解されています。また、「事業の継続が不可能になる」とは、事業の全部又は大部分の継続が不可能になった場合を意味すると解されています。今回の震災で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受けたために事業の全部又は大部分の継続が不可能となった場合は、原則として、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に当たるものと考えられます。なお、今回の震災で、事業場の施設や設備は直接的な被害を受けていない場合で、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能になったときの扱いについては、Q3-3・A3-3をご覧ください。
【Q3-3】今回の震災で、事業場の施設や設備は直接的な被害を受けていませんが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能になったために、事業の全部又は大部分の継続が困難になったことにより労働者を解雇しようとする場合、労働基準法第19条及び第20条の「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」による解雇といえるでしょうか。
[A3-3](中略)最低労働基準を定める労働基準法との関係では、事業場の施設や設備が直接的な被害を受けていない場合には、事業の全部又は大部分の継続が不可能となったときであっても、原則として「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」による解雇に当たりません。ただし、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間等を総合的に勘案し、事業の継続が不可能となったとする事由が真にやむを得ないものであると判断される場合には、例外的に「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に該当すると考えられます。
(厚生労働省
東日本大震災に伴う労働基準法等に関するQ&A(第3版)

②労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合

労働者の責に帰すべき事由とは

「労働者の責に帰すべき事由」とは、故意、過失又はこれと同視すべき事由であり、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、労基法20条(解雇の予告)の保護を与える必要のない程度に、重大または悪質なものであり、30日前の解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して、均衡を失するようなものに限ります(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)。

ただし、労働基準監督署では,次のような「認定基準」に基づいて判断がさされます。

【認定基準】
①極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合
②賭博、風紀紊乱(びんらん)などにより職場規律を乱し、ほかの労働者に悪影響を及ぼす場合
③雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
④他の会社へ転職した場合
⑤原則として2週間以上正当な理由なく欠勤し、出勤督促に応じない場合
⑥出勤不良または出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合
弁護士吉村雄二郎
以下の各類型ごとの基準を踏まえつつも、「懲戒解雇が有効になる程度に悪質なケース」であると考えると分かりやすいと思います。解雇予告除外認定と懲戒解雇事由の該当性は近い内容を持っているといえます。しかし、必ずしも就業規則の懲戒解雇事由に該当する=解雇除外認定に該当するというわけではないことに注意をしてください。就業規則の懲戒解雇事由に該当するとしても解雇除外認定が認められない場合はありますし、逆に、解雇除外認定が認められても懲戒解雇は無効になる場合もあります。

① 刑法犯

認定基準(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
A 事業場内における刑法犯
①盗取横領、傷害等刑法犯に該当する行為(極めて軽微なものを除く)があった場合
②極めて軽微な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件防止のため諸種の手段を講じていたにもかかわらず、継続的または断続的にに盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為をした場合
B 事業場外における刑法犯
盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があつた場合であって、次のいずれかに該当する場合
① 著しく事業所の名誉または信用を失墜するもの
② 取引関係に悪影響を与えるもの
③ 労使間の信頼関係を喪失させるもの

豊中市不動産事業協同組合事件(大阪地判平19.8.30労判957-65)
同僚に侮辱的な内容を大声で怒鳴り続けたうえ. 暴行を加え傷害を負わせた事案で,労基法20条1項但書の「労働者の責めに帰すべき事由あり」と判断した。

旭運輸事件(大阪地判平20.8.28労判975-21)
配達先構内で車両接触事故を起こしたり.悪質運転について厳重注意を求める手紙が届き,配達先で不当な発言をして出入り禁止となり,速度違反でトラックを停止した警察官ともみ合いになるなど. 職場秩序に少なくない影響を及ぼした事案で,労基法20条1項但書の「労働者の責めに帰すべき事由あり」と判断した。

② 職場規律違反

認定基準(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
A 事業場内における職場規律違反

賭博、風紀紊乱(ふうきぶんらん)等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
B 事業場外における職場規律違反
賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱す行為があった場合であって、次のいずれかに該当する場合
① 著し<事業場の名誉または信用を失墜するもの参
② 取引関係に悪影響を与えるもの
③ 労使間の信頼関係を喪失させるもの
弁護士吉村雄二郎
風紀紊乱(ふうきぶんらん)とは社会道徳、風俗・規律、特に男女間の交遊などが乱れることを意味しますが、ちょっと分かりにくいですね。簡単に言えば就業規則の服務規律に違反する行為で、かつ、懲戒解雇事由にも該当しておかしくない程度に悪質なのもの、と考えるとイメージしやすいと思います。

タツミ保険サービス事件(大阪地判平成11.4.23労働経済判例速報1718-11)
保険代理店の営業社員が,顧客の保険を無断で解約し,解約金を着服したり,競業する保険代理店を代理人とする保険契約を締結したことは,重大な背信行為であり,労基法20条1項但書の「労働者の責めに帰すべき事由あり」と判断した。

③ 経歴詐称

認定基準(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
雇い入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合

雇い入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
弁護士吉村雄二郎
懲戒解雇事由になりえる重要な経歴詐称と考えるとイメージしやすいと思います。
具体的には以下の記事もご参照ください。
「経歴詐称でいかなる懲戒処分ができるか?」

環境サービス事件(東京地判平成6.3.30労働判例649-6)
給排水設備の維持管理を業とする会社に 5 年の経験があり、どのような仕事でもできる旨虚偽の申告をして採用されたが,十分な仕事ができなかった事案について、裁判所は「責めに帰すべき事由あり」と判断した。

④ 兼職

認定基準(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
他の事業場へ転職した場合
弁護士吉村雄二郎
「転職」とありますが、退職することなく他の事業所においても勤務をすること(兼職、副業)と考えるとイメージしやすいと思います。就業時間中に兼職した場合で懲戒解雇事由に該当するような場合と考えればよいでしょう。

⑤ 無断欠勤

認定基準(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
原則として2週間以上正当な理由無く無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合

⑥ 出退勤不良

認定基準(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
出勤又は出席常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合

3 解雇予告除外認定=有効な解雇ではない

解雇予告除外認定は、あくまでも、労働基準監督署という行政機関が出す「解雇予告」という手続を免除する認定でしかありません。
懲戒解雇が争われた場合,懲戒解雇の有効無効は最終的には裁判所で判定されます。裁判所は労働契約法第15条に基づいて懲戒解雇の有効無効を判定します。すなわち,解雇予告除外認定を受けたとしても、労働者は解雇無効を裁判所に訴えることができ、裁判所であらためて、その解雇理由の相当性が審理されることとなります。場合によっては懲戒解雇が無効となる場合もあります。
よって,解雇予告除外認定は労基署が懲戒解雇を有効と認めているという意味ではありませんので、注意が必要です。

弁護士吉村雄二郎
解雇予告除外認定は前記6つの事由に該当すれば比較的認められます。これに対し、懲戒解雇の有効性は懲戒解雇事由に該当するのみならず、懲戒解雇という労働者にとっての死刑判決を正当化するだけの社会的相当性が要求されます。社会的相当性は事案の悪質性、会社に与えた具体的な支障、本人の反省状況等を総合考慮して判断されます。そのため、懲戒事由該当性はあるが、社会的相当性はないという判断がなされることが実に多くあります。よって、労働者が争う場合は、解雇予告除外認定がなされたというだけで安心せずに、懲戒解雇の社会的相当性まで検討した上で方針を決定する必要があります。

解雇予告除外認定申請書類の書き方

解雇予告除外認定申請書について

様式

解雇予告の除外認定申請は、所轄の労働基準監督署長に対して、定められた書式(様式)で行うことが求められています(労働基準法施行規則7条)。

① 災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合 → 様式2号
② 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合 → 様式3号(厚生労働省の書式リンク)

申請書の記載例

例:横領した営業社員を懲戒解雇する場合の除外認定申請

※ 「労働者の責めに帰すべき事由」欄には概要のみ記載し、詳細は別紙を付けます。

「労働者の責めに帰すべき事由」の記載例

例:横領した営業社員を懲戒解雇する場合

解雇予告除外認定申請書「労働者の責めに帰すべき事由」について

労働者甲野太郎(以下「甲」という。)の解雇予告除外認定申請に関し、労働者の責めに帰すべき事由を次のとおり補足する。

第1 労働者及び労働契約内容について(資料1~3)
1 氏名 甲野太郎 (昭和●年●月●日生まれ 現●歳)
2 雇用契約内容
(1) 採用 令和元年4月23日
(2) 期間の定め なし
(3) 担当業務 営業
(4) 賃金 毎月末日締め翌月10日払い 月額35万5000円及び歩合給

第2 労働者の責めに帰すべき事由(資料4~7)
1 甲は当社営業社員として採用後、令和元年4月23日より営業職として、取引先に対する営業、売上金の回収・保管等の業務に従事していた。ところが、甲は令和元年8月頃より、取引先からの発注書の金額を改変する方法で実際の売買代金額を過少に当社に報告した。それにより、取引先からの回収した売上金の一部をほしいままに自己の用途に費消する目的で着服して横領した。具体的な実行行為の日付、取引先からの実際の回収額、横領した金額は別紙一覧表記載のとおりであり、被害額は令和元年8月から令和3年5月までの期間に合計1534万5325円に及んだ。
2 上記横領行為は令和3年5月の取引先からの報告により発覚した。当社にて調査を行った結果、取引先からの実際の発注書、甲が改変した発注書及び請求書などから横領行為の裏付けを得た。また、甲本人に確認したところ、上記横領行為について認め、自認書を提出した。なお、甲の対応によっては刑事告訴も予定している。
3 上記横領行為は当社就業規則第●条●号の服務規律及び●条●号の懲戒解雇事由に該当することは明らかである。のみならず、解雇予告除外認定に係る基準(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)における「盗取横領、傷害等刑法犯に該当する行為(極めて軽微なものを除く)があった場合」に該当することも明らかである。
第3 結論
よって、労働者の責めに帰すべき事由に該当することは明らかであり、申請書記載のとおり解雇予告除外認定を求める次第である。
(添付資料)
1 労働者名簿写し
2 労働条件通知書兼労働契約書写し
3 出勤簿写し
4 賃金台帳写し
5 自認書(令和3年5月●日付)写し
6 取引先からの報告書写し
7 改変された発注書、請求書等写し
8 就業規則関係条項抜粋写し

弁護士吉村雄二郎
記載のポイントとして、まずは労働者の属性(氏名・年齢)及び労働契約の内容を記載した上で、「労働者の責めに帰すべき事由」を具体的に記載します。「労働者の責めに帰すべき事由」に関する論理の展開の仕方としては、具体的事実が前記通達が示す①~⑥の基準に該当する→よって→「労働者の責めに帰すべき事由」がある、という骨子となります。なお、会社の就業規則上の懲戒解雇事由に該当することも記載しますが、解雇予告除外認定は懲戒解雇の有効性を認定する手続ではありませんので、そこまで力点を置きません。力点は具体的事実が通達が示す基準に該当する、というところに置きます。

添付書類

事業所備付書類

就業規則
労働者名簿
労働条件通知書兼労働契約書
出勤簿・タイムカード
賃金台帳

個別の事案毎に必要な証明資料

①極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合
犯罪を証明する資料一切、自認書
②賭博、風紀紊乱(びんらん)などにより職場規律を乱し、ほかの労働者に悪影響を及ぼす場合
規律違反を証明する資料一切、自認書
③雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
履歴書、職務経歴書、採用面接の記録、求人広告、前職の会社からの聴取書、自認書
④他の会社へ転職した場合
他の事業所での勤務を証明する資料一切、自認書
⑤原則として2週間以上正当な理由なく欠勤し、出勤督促に応じない場合
出勤簿、タイムカード、出勤の督促記録(メール、LINE等)、自認書
⑥出勤不良または出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合

出勤簿、タイムカード、出勤の督促記録(メール、LINE等)、自認書

自認書・顛末書

非違行為を行った労働者本人の自認書は、「労働者の責めに帰すべき事由」の立証にとって重要な書類となります。自認書はいわば犯人の自白を記載した文書のようなもので、労働基準監督署の認定に大きな影響を及ぼします。というのも、労働者本人が非違行為を認めているのであれば、基本的には他の客観敵証拠が不十分でも「労働者の責めに帰すべき事由」を認定することができるからです。

自認書・顛末書は、解雇予告除外認定のためにだけ取得するのではなく、懲戒解雇事由の調査や非違行為に対する弁明を機会を与えるタイミングで労働者から提出を受けます。

○×商事株式会社
代表取締役 ○野×太郎 様

自認書

私は、貴社の営業社員として採用後、令和元年4月23日より営業職として、取引先に対する営業、売上金の回収・保管等の業務に従事していました。ところが、甲は令和元年8月頃より、取引先からの発注書の金額を改変する方法で実際の売買代金額を過少に当社に報告しました。それにより、取引先からの回収した売上金の一部をほしいままに自己の用途に費消する目的で着服いたしました。具体的な実行行為の日付、取引先からの実際の回収額、横領した金額は別紙一覧表記載のとおりです。
このような行為に及んだのは、ギャンブルに熱中するあまり消費者金融からの借金が嵩み、その返済原資を得ようとしたからでした。しかし、このような行為は貴社に対して損害を及ぼす背信行為であり、絶対に許されるものではないことは理解しています。本当に申し訳ございません。
この責任を取るべく、本件に対するいかなる懲戒処分を甘んじて受けることはもちろん、貴社に与えた損害は退職後に返済することを誓約いたします。
この度はご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした。

令和3年5月22日
営業部 甲野 太郎 (印)

弁護士吉村雄二郎
出来るだけ本人に作成させるようにしてください。会社がひな形を作成し、それに署名捺印だけさせている企業もよく見かけますが、後々になって「会社に脅されて、よく確認もしないままに、署名捺印だけさせられた」などと主張する労働者もいますので注意が必要です。

解雇予告除外認定申請書の提出

提出先

所轄の労働基準監督署

提出物

解雇予告除外認定申請書及び添付書類 各2通 (部数等は事前に提出先の労基署に確認する)

参考裁判例

労基法20条1項但書の「労働者の責めに帰すべき事由」について判断した事例

環境サービス事件

東京地判平成6.3.30労働判例649-6

(事案の概要)
Yは,給排水設備の維持管理等を業務とする会社であるところ,Yは,平成4年6月2日,期間を定めないで,Xを雇用した(以下,「本件雇用契約」という。)。
しかし,Yは,同年7月7日,Xに対し,経歴詐称を理由に,即時解雇する旨の意思表示をした(以下,「本件解雇」という。)。

(裁判所の判断)
裁判所は,被控訴人(筆者注:X)は,給排水工事に従事した経歴としては平成4年1月から3か月ロートルーターサービスという会社に勤務したことがあるだけで,右工事に関する経験,経歴は皆無とはいえないまでもきわめて乏しいものであったこと,被控訴人は,給排水工事についてあまり経験がなかったにもかかわらず,控訴人と本件雇用契約を締結するに際し,控訴人に対し,給排水工事について5年の経験がありどのような仕事でもできる旨虚偽の申告をし,これを信用した控訴人は被控訴人を経験者として就労させたが,被控訴人は仕事を十分にこなすことができなかったこと等を認定した。
その上で,「このように,被控訴人は,使用者たる控訴人において雇い入れをするかどうかあるいはどのような条件で雇用するかを決するための重要な判断証拠となる事項について虚偽の申告をし,これを信用した控訴人に被控訴人の労働条件の決定を誤らせたものであるが,このような事情は労基法20条1項但書の労働者の責に帰すべき事由に当たるというべきである。」と判示して,控訴人は,被控訴人に対し,本件解雇に当たり解雇予告手当を支払う義務を負わないと判断した。

(コメント)
なお,原審の簡易裁判所は,採用に際して知識・経験を誇張した事実があったとしても給与額が不当に高額に決められたとまでは言えず,また,通常の業務遂行に関して適格性を欠いたとまでは言えないとして即時解雇としての効力を認めませんでした。

タツミ保険サービス事件

大阪地判平成11.4.23労働経済判例速報1718-11

保険代理店の営業社員が,顧客の保険を無断で解約し,解約金を着服したり,競業する保険代理店を代理人とする保険契約を締結したことは,重大な背信行為であり,労基法20条1項但書の「労働者の責めに帰すべき事由」に基づく場合に該当すると判断した。

豊中市不動産事業協同組合事件

大阪地判平19.8.30労判957-65

同僚に侮辱的な内容を大声で怒鳴り続けたうえ. 暴行を加え傷害を負わせた事案

旭運輸事件

大阪地判平20.8.28労判975-21

配達先構内で車両接触事故を起こしたり.悪質運転について厳重注意を求める手紙が届き,配達先で不当な発言をして出入り禁止となり,速度違反でトラックを停止した警察官ともみ合いになるなど. 職場秩序に少なくない影響を及ぼした事案

労基法20条違反の解雇の効力について判断した事例

細谷服装事件

最判昭和35.3.11判例時報218-6

(事案の概要)
Yは,洋服の製作修理を業とする者であるところ,Xは,昭和24年3月19日,Yに雇用され,以後,Yの一般庶務,帳簿記入等の業務に従事していた。
しかし,Yは,脱税のため二重帳簿の作成を命じたのにXがこれに応じなかったため,昭和24年8月4日,Xを即時解雇した。

(裁判所の判断)
裁判所は,「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず,または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合,その通知は即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り,通知後同条所定の30日の期間を経過するか,または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは,そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであって,本件解雇の通知は30日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。」とした。

即時解雇がなされた場合に,30日分の平均賃金の支払いをしたときに解雇の効力が生ずるとした事例

小松新聞舗事件

東京地判平成4.1.21労働判例600-14

(事案の概要)
Xは,昭和62年8月23日にYと労働契約を締結した。 しかし,Xは,Yの亀有南店において,同店の店長Aに対して暴力を働き,同人に対して約2週間の加療を要する頚椎捻挫の傷害を負わせたことが,Yの就業規則19条1号「法規にふれるなど,従業員として対面を汚した時」に該当するとして,同63年8月9日,Yより普通解雇された(以下,「本件解雇」という。)。

(裁判所の判断)
裁判所は,「(原告(筆者注:X)が)被告会社(筆者注:Y)の他店の店長に暴力をふるい加療約2週間を要する傷害をあたえたことは,被告会社の就業規則19条1号に該当するというべきであり,本件解雇が解雇権の濫用にあたることをうかがわせる事情は存在しない。また,被告会社は,労働基準法が定める30日の予告期間をおかず,解雇予告手当を提供することなく本件解雇の意思表示を行っているが,被告会社が即時解雇に固執しているものとは認められないから,本件解雇の意思表示から30日の期間が経過することによって解雇の効力が生ずるものと解すベきである。したがって,原告は本件解雇の意思表示から30日間の賃金を請求することができる(被告会社が原告の労務提供を受け入れない意思は明確であるから,原告の労務提供の有無にかかわらず原告は賃金を請求することができるというべきである。)が,それ以後の賃金を請求することはできないものといわなければならない。そして,本件解雇の意思表示から30日間の賃金の額としては平均賃金の30日分であると解するのが相当であ(る)」とした。

アクティ英会話スクール事件

大阪地判平成5.9.27労働判例646-55

(事案の概要)
Yは,英会話学校を経営しているが,米国人であるXは,平成3年4月19日,英会話の講師として,Yに雇用された。
しかし,Xは,同年7月4日,Yより即時解雇された。

(裁判所の判断)
裁判所は,「控訴人(筆者注:Y)は,(平成3年)7月4日,解雇予告手当の支払をしないで被控訴人(筆者注:X)を即時解雇した。しかし,控訴人が即時解雇に固執しているものとは認められないから,7月4日から30日の期間が経過することによって解雇の効力が生じたものというべきである。したがって,被控訴人は,7月5日以降30日分の平均賃金を請求することができるところ(前述のとおり,控訴人が被控訴人の労務の提供を受け入れない意思は明確であるから,労務提供の有無にかかわらず,被控訴人は賃金を請求することができると解すべきである。),右平均賃金の額は,被控訴人の賃金が月25万円であったこと・・に照らし,35万円であると認められ,他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」とした。

使用者は,予告手当請求の訴訟提起後,予告手当を弁済した場合にも附加金支払義務を負担するとした事例

エビス文字盤製作所事件

横浜地判昭和43.6.12判例タイムズ226-133

(事案の概要)
Xが,Yの経営する製作所の労働者であったところ,Yが,Xを昭和42年3月25日予告期間をおかず即時解雇したが,右解雇の当時,Yは,Xに労働基準法20条に定める平均賃金の30日分に相当する24,457円の予告手当を支払わず,その後Yは,Xの請求により,3回にわたり右予告手当に相当する金員を支払った。
ことは当事者間に争いがない。

(裁判所の判断)
裁判所は,「そもそも本条の附加金制度は労働者の即時解雇に伴う使用者の解雇予告手当支払義務の不履行に対し労働者の請求により未払金額と同額の附加金の支払を裁判所が命令しうることとし,労働者に対しては訴訟によってでも権利を実行する誘い水となり,使用者側に対しては,義務の不履行を引き合わないものとして遵法を奨めてその給付の不履行の防止を図る労働基準法上の一種の公法的制裁たる性質を有するものである。ただ右附加金の支払義務発生時期は使用者が予告手当を支払わなかつた場合当然発生するものではなく,労働者の請求によって裁判所がその支払を命ずることによって初めて発生するものであり,使用者に(労基)法20条の違反があってもすでに予告手当に相当する金額の支払を完了し,(支払は訴提起前に完了していることを要するが)使用者の義務違反の状況が消滅した後においては,労働者は独立に附加金の支払だけを請求することができないものと解せられる。しかし本条の附加金制度が特定の金銭支払義務の不履行に対する公法的制裁であるとの前記趣旨に徴すれば,労働者が裁判所に訴の提起をするまでに使用者による予告手当の支払が完了すれば裁判所も附加金の支払を命じ得ないが,訴提起時より後に予告手当の支払が完了しても使用者は附加金の支払を免れえないものと解するのが当然である。けだし予告手当金を訴提起後でも裁判所が命令を発するまでに支払えば裁判所はその支払を命じえないと解すれば使用者は口頭弁論の最後の段階で予告手当の未払金を弁済することによって(労基)法114条の適用を免れてしまい,かくては本条は実質上空文化し,自発的に所定の支払をさせようとするその趣旨目的を達しえなくなるからである。そして・・裁判所が使用者に命じ得る附加金の額は訴提起の時の予告手当の未払額と同一と解するのを相当とする。」とした。

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