解雇予告手当の計算方法、支払方法
解雇予告(解雇予告手当の支払い)を行えば解雇は有効となるか
解雇予告とは
解雇予告の概要
使用者は労働者を解雇しようとする場合,少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。
30日前に予告をしない場合は,30日分の平均賃金を支払わなければなりません(解雇予告手当 労基法20条1項)。
この予告日数は、1日分の平均賃金を支払った日数だけ,短縮することができます(同条2項)。
解雇予告や解雇予告手当は、労働者が急に失業すると生活に困ることから設けられたものです。
解雇予告手当の計算方法については、下記具体例で説明しておりますほか、以下の記事もご参照ください。
参考記事
解雇予告手当の支払時期
解雇予告手当の支払時期は、解雇通知と同時に支払う必要があります。
例えば、即日解雇する場合は、会社に現金を用意しておいて解雇通知書の交付と同時に解雇予告手当を交付する(領収書に受領のサインを必ずもらうこと)か、または、その日のうちに被解雇者の給与支払口座に送金を完了させます。
法第20条による解雇の予告にかわる30日分以上の平均賃金は解雇の申渡しと同時に支払うべきものである。
解雇予告手当の支払方法
予告手当は賃金ではありませんが、賃金に準ずるものとして扱う必要があり、労基法24条に則り、通貨で、直接労働者に、全額を支払う必要があります(日本曹達事件 東京高裁 昭和26.5.18判決、「解雇予告手当債権は、労働基準法24条1項の直接払いの原則が適用されるべき債権であるとうことができる。」ヤマキ商事事件 東京地裁平11.3.30判決)。
また、解雇予告手当は労基法24条1項が適用される債権であるとすると、全額払い原則との関係で、相殺をすることも認められません。もっとも、任意かつ真意に基づいてなされたと認められる客観的事情がある場合は、合意による相殺は認められる余地があると解されます。
解雇予告が不要な労働者
解雇予告義務の規定は,以下の労働者には適用されません(労基法21条)。
- 日日雇い入れられる者
- 2か月以内の期間を定めて使用される者
- 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
- 試用期間中の者
但し,①の者が1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合,②及び③の者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合,④の者が14日を超えて使用されるに至った場合において,その後解雇しようとするときは,解雇予告等が必要となります。
解雇予告が例外的に除外される場合
以下の場合は、例外的に、解雇予告又は解雇予告手当の支払いは不要となります(同法20条1項但書)。
または
②労働者の責に帰すべき事由がある場合
但し,これらの除外事由については,労働基準監督署長(労基署長)による認定(「除外認定」といいます)を受けなければなりません。
もっとも,この認定は労基署長による事実の確認手続にすぎず,労基署長の認定を受けないでなされた即時解雇が認定を受けなかったために無効となることはありません。つまり,労基署長による除外認定は,即時解雇の効力の発生要件ではないため,例えば,即時解雇の意思表示をし,その翌日に除外認定を受けた場合であっても,その即時解雇の効力は,使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生します。
なお,使用者が労基署長の除外認定を受けずに即時解雇した場合は,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金を課される可能性があります(同法119条)。
解雇予告の除外認定については
10分でわかる!解雇予告除外認定のやり方【書式・ひな形あり】
解雇予告手続違反の罰則
使用者が労基法20条に違反して解雇予告をせず,または予告手当を支払わずに解雇した場合,6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基119条1号)。
また、裁判で解雇予告手当の請求を受けた場合,未払額と同額の附加金の支払を命じられる可能性があります(同法114条)。
解雇予告手続違反の解雇の効力
解雇予告の除外事由がないにもかかわらず,解雇予告又は解雇予告手当の支払いなしに即時解雇がなされた場合は,その解雇の効力が生ずるかが問題となります。
この点につき,最高裁は,予告期間を置かず予告手当の支払いもしないでした解雇の通知は,「即時解雇としては効力が生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でないかぎり、通知後30日の期間を経過するか、または通知の後に予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力が生ずる」とし、相対的無効説を採用しています(細谷服装事件・最高裁判決昭35.3.11民集14巻3号)。
具体例(解雇予告をする場合)
解雇日を特定する
解雇予告日の決定
具体例(解雇予告手当を支払って即日解雇する場合)
解雇日を特定する
解雇予告手当の算出に必要な資料
必要な資料
- 就業規則・賃金規程、労働契約書 → 賃金支払の締切日を確認するために必要
- 賃金台帳、給与明細 → 過去3ヶ月分の支払実績を確認するために必要
平均賃金の算出
平均賃金の計算方法の原則的な形は以下のとおりとなります(労基法12条)。
① 算定期間の注意点
「算定すべき事由の発生した日以前3カ月間」とされています(12条1項本文)が,賃金締切日がある場合については,直前の賃金締切日が起算日とされています(12条2項)。入社後3ヶ月未満であっても,直前の賃金締切日から起算します。
② 「貸金の総額」の注意点
- 基本給のみならず,家族手当,通勤手当,残業代も含まれます。
- 以下の3つは算入されません(12条4項)。
- 臨時に支払われた貸金・・・退職金,私傷痛手当,加療見舞金等
- 3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金・・・賞与
- 通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの
- 実際に支払済の賃金に限らず,支払われるべきであったが未払いとなっている賃金(例えば,遅配している賃金)も含まれます。
③ 総日数は歴日数を意味し,休日や欠勤日も含まれます。
- 業務災害による休業,産前産後休業,会社都合の休業,育児・介護休業は賃金総額,歴日数から除く
- 試用期間は賃金総額,歴日数から除く(ただし,試用期間中に平均賃金を算定する事由が生じた場合は算入する)
- 入社後3ヶ月に満たない場合は,入社後の期間で計算する
※上記計算の結果,銭未満の端数が生じた場合,これを切り捨てることは可能です(昭22.11.5基発232号)。
解雇予告手当の計算
上記計算例を前提に具体的に検討してみましょう。
例① 6月10日付で即日解雇を行った場合
平均賃金事由である即日解雇日は6月10日ですが、賃金の締め日が毎月20日なので、直前の締め日である5月20日が起算日になります。
そこから3ヶ月なので上記計算例のとおりとなります。
解雇予告手当=平均賃金11,123円59銭×30日=333,807.7円≒333,808円
例② 6月10日付解雇を5月31日に予告した場合(10日間の予告がある場合)
この場合、予告期間が10日しかありませんので、20日分の解雇予告手当の支払が必要となります。
平均賃金事由の発生日は6月10日ですので、例①と同様に上記計算例のとおりとなります。
解雇予告手当=平均賃金11,123円59銭×20日=222,471.8円≒222,472円
解雇予告手当を支払わずに即日解雇した場合
仮に、6月10日に解雇予告手当を一切支払わずに即日解雇した場合はどうなるかについても、参考までに確認しておきましょう。
予告手当を支払うことなく行われた即時解雇の申し渡しは,予告手当が支払われるまで,又は,30日が経過するまで解雇の効力が生じません。
予告手当を支払わない場合は、30日後である7月10日の経過により解雇の効力が生じます。
解雇予告通知書、解雇通知書の書式・ひな形
解雇予告通知書
令和4年5月12日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
なお、上記期日までは、従前どおりに業務に従事してください。
以上
※具体的な解雇理由等を記載しないシンプルなバージョンです
解雇通知書(即日解雇で解雇予告手当を支払う)
令和4年6月10日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
なお、解雇予告手当金は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。
以上
解雇予告通知書(解雇予告手当併用)
令和4年5月31日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
法定の予告期間に満たない日数分の解雇予告手当は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。
以上
その他、解雇予告に関するQ&A
解雇予告の取消し・撤回はできるか
いったん解雇予告した後に、解雇予告を取り消すことはできるでしょうか。
民法540条2項は、解除の意思表示は撤回できないことを定めています。
そして、解雇予告は、労働契約解除の意思表示です。したがって、民法540条2項の規定により、解雇予告した後に、その解雇予告を取り消すことは原則として認められません。
もっとも、民法540条2項の趣旨は解除の受けた当事者の法的地位の安定を保護することにありますので、被解除者が同意する場合は解除の撤回・取消しも可能と解されます。
すなわち、使用者が解雇予告を撤回する場合、被解雇者である労働者が解雇の撤回に同意した場合は、解雇の撤回は可能となります。
使用者が行った解雇予告の意思表示は、一般的には取り消すことを得ないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができるものと解すべきである。
解雇予告期間中の法律関係
30日前に解雇予告したケースの場合、解雇予告をした日から解雇日までの30日間が解雇予告期間中の期間ということになります。
解雇予告期間中であっても、労働契約は従前どおり存続しますので、労働条件も解雇予告前と何ら変わるところはありません。
労働者は誠実に勤務する義務を負い、使用者は解雇日までの就労について賃金を支払う義務を負います。
労働者は有給休暇を消化することも可能です。解雇日までに残りの有給休暇全部を消化することを求められた場合、使用者は時季変更を行為することはできませんので、有給休暇の消化を認めざるを得ません。
当該20日間の年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り当該労働者の解雇予定日をこえての時期変更は行えないものと解する。
解雇予告手当の税金
解雇予告手当は、所得税の取扱いの上では、退職所得とされる退職手当等に該当します。また,解雇予告手当のほかに本来の退職手当がある場合には,合算して所得税および復興特別所得税が課税されることになります。
労働者に対して退職手当等を支払う場合には,所得税および復興特別所得税を源泉徴収する必要があります。この源泉徴収については、解雇によって退職する労働者から「退職所得の受給に関する申告害」の提出を受けている場合と受けていない場合とで異なります。
「退職所得の受給に関する申告書」が提出されている場合には,退職手当等の金額と勤続年数に応じて使用者が適正な税額を源泉徴収します。
「退職所得の受給に関する申告書」が提出されていない場合には,退職手当等の支給額に一律20.42%の税率を乗じた金額を源泉徴収します。この場合は、労働者本人が確定申告をする必要が生じます。
5 参考裁判例
労基法20条1項但書の「労働者の責めに帰すべき事由」について判断した事例
環境サービス事件
東京地判平成6.3.30労働判例649-6
(事案の概要)
Yは,給排水設備の維持管理等を業務とする会社であるところ,Yは,平成4年6月2日,期間を定めないで,Xを雇用した(以下,「本件雇用契約」という。)。
しかし,Yは,同年7月7日,Xに対し,経歴詐称を理由に,即時解雇する旨の意思表示をした(以下,「本件解雇」という。)。
(裁判所の判断)
裁判所は,被控訴人(筆者注:X)は,給排水工事に従事した経歴としては平成4年1月から3か月ロートルーターサービスという会社に勤務したことがあるだけで,右工事に関する経験,経歴は皆無とはいえないまでもきわめて乏しいものであったこと,被控訴人は,給排水工事についてあまり経験がなかったにもかかわらず,控訴人と本件雇用契約を締結するに際し,控訴人に対し,給排水工事について5年の経験がありどのような仕事でもできる旨虚偽の申告をし,これを信用した控訴人は被控訴人を経験者として就労させたが,被控訴人は仕事を十分にこなすことができなかったこと等を認定した。
その上で,「このように,被控訴人は,使用者たる控訴人において雇い入れをするかどうかあるいはどのような条件で雇用するかを決するための重要な判断証拠となる事項について虚偽の申告をし,これを信用した控訴人に被控訴人の労働条件の決定を誤らせたものであるが,このような事情は労基法20条1項但書の労働者の責に帰すべき事由に当たるというべきである。」と判示して,控訴人は,被控訴人に対し,本件解雇に当たり解雇予告手当を支払う義務を負わないと判断した。
(コメント)
なお,原審の簡易裁判所は,採用に際して知識・経験を誇張した事実があったとしても給与額が不当に高額に決められたとまでは言えず,また,通常の業務遂行に関して適格性を欠いたとまでは言えないとして即時解雇としての効力を認めませんでした。
タツミ保険サービス事件
大阪地判平成11.4.23労働経済判例速報1718-11
保険代理店の営業社員が,顧客の保険を無断で解約し,解約金を着服したり,競業する保険代理店を代理人とする保険契約を締結したことは,重大な背信行為であり,労基法20条1項但書の「労働者の責めに帰すべき事由」に基づく場合に該当すると判断した。
労基法20条違反の解雇の効力について判断した事例
細谷服装事件
最判昭和35.3.11判例時報218-6
(事案の概要)
Yは,洋服の製作修理を業とする者であるところ,Xは,昭和24年3月19日,Yに雇用され,以後,Yの一般庶務,帳簿記入等の業務に従事していた。
しかし,Yは,脱税のため二重帳簿の作成を命じたのにXがこれに応じなかったため,昭和24年8月4日,Xを即時解雇した。
(裁判所の判断)
裁判所は,「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず,または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合,その通知は即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り,通知後同条所定の30日の期間を経過するか,または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは,そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであって,本件解雇の通知は30日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。」とした。
即時解雇がなされた場合に,30日分の平均賃金の支払いをしたときに解雇の効力が生ずるとした事例
小松新聞舗事件
東京地判平成4.1.21労働判例600-14
(事案の概要)
Xは,昭和62年8月23日にYと労働契約を締結した。 しかし,Xは,Yの亀有南店において,同店の店長Aに対して暴力を働き,同人に対して約2週間の加療を要する頚椎捻挫の傷害を負わせたことが,Yの就業規則19条1号「法規にふれるなど,従業員として対面を汚した時」に該当するとして,同63年8月9日,Yより普通解雇された(以下,「本件解雇」という。)。
(裁判所の判断)
裁判所は,「(原告(筆者注:X)が)被告会社(筆者注:Y)の他店の店長に暴力をふるい加療約2週間を要する傷害をあたえたことは,被告会社の就業規則19条1号に該当するというべきであり,本件解雇が解雇権の濫用にあたることをうかがわせる事情は存在しない。また,被告会社は,労働基準法が定める30日の予告期間をおかず,解雇予告手当を提供することなく本件解雇の意思表示を行っているが,被告会社が即時解雇に固執しているものとは認められないから,本件解雇の意思表示から30日の期間が経過することによって解雇の効力が生ずるものと解すベきである。したがって,原告は本件解雇の意思表示から30日間の賃金を請求することができる(被告会社が原告の労務提供を受け入れない意思は明確であるから,原告の労務提供の有無にかかわらず原告は賃金を請求することができるというべきである。)が,それ以後の賃金を請求することはできないものといわなければならない。そして,本件解雇の意思表示から30日間の賃金の額としては平均賃金の30日分であると解するのが相当であ(る)」とした。
アクティ英会話スクール事件
大阪地判平成5.9.27労働判例646-55
(事案の概要)
Yは,英会話学校を経営しているが,米国人であるXは,平成3年4月19日,英会話の講師として,Yに雇用された。
しかし,Xは,同年7月4日,Yより即時解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,「控訴人(筆者注:Y)は,(平成3年)7月4日,解雇予告手当の支払をしないで被控訴人(筆者注:X)を即時解雇した。しかし,控訴人が即時解雇に固執しているものとは認められないから,7月4日から30日の期間が経過することによって解雇の効力が生じたものというべきである。したがって,被控訴人は,7月5日以降30日分の平均賃金を請求することができるところ(前述のとおり,控訴人が被控訴人の労務の提供を受け入れない意思は明確であるから,労務提供の有無にかかわらず,被控訴人は賃金を請求することができると解すべきである。),右平均賃金の額は,被控訴人の賃金が月25万円であったこと・・に照らし,35万円であると認められ,他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」とした。
使用者は,予告手当請求の訴訟提起後,予告手当を弁済した場合にも附加金支払義務を負担するとした事例
エビス文字盤製作所事件
横浜地判昭和43.6.12判例タイムズ226-133
(事案の概要)
Xが,Yの経営する製作所の労働者であったところ,Yが,Xを昭和42年3月25日予告期間をおかず即時解雇したが,右解雇の当時,Yは,Xに労働基準法20条に定める平均賃金の30日分に相当する24,457円の予告手当を支払わず,その後Yは,Xの請求により,3回にわたり右予告手当に相当する金員を支払った。
ことは当事者間に争いがない。
(裁判所の判断)
裁判所は,「そもそも本条の附加金制度は労働者の即時解雇に伴う使用者の解雇予告手当支払義務の不履行に対し労働者の請求により未払金額と同額の附加金の支払を裁判所が命令しうることとし,労働者に対しては訴訟によってでも権利を実行する誘い水となり,使用者側に対しては,義務の不履行を引き合わないものとして遵法を奨めてその給付の不履行の防止を図る労働基準法上の一種の公法的制裁たる性質を有するものである。ただ右附加金の支払義務発生時期は使用者が予告手当を支払わなかつた場合当然発生するものではなく,労働者の請求によって裁判所がその支払を命ずることによって初めて発生するものであり,使用者に(労基)法20条の違反があってもすでに予告手当に相当する金額の支払を完了し,(支払は訴提起前に完了していることを要するが)使用者の義務違反の状況が消滅した後においては,労働者は独立に附加金の支払だけを請求することができないものと解せられる。しかし本条の附加金制度が特定の金銭支払義務の不履行に対する公法的制裁であるとの前記趣旨に徴すれば,労働者が裁判所に訴の提起をするまでに使用者による予告手当の支払が完了すれば裁判所も附加金の支払を命じ得ないが,訴提起時より後に予告手当の支払が完了しても使用者は附加金の支払を免れえないものと解するのが当然である。けだし予告手当金を訴提起後でも裁判所が命令を発するまでに支払えば裁判所はその支払を命じえないと解すれば使用者は口頭弁論の最後の段階で予告手当の未払金を弁済することによって(労基)法114条の適用を免れてしまい,かくては本条は実質上空文化し,自発的に所定の支払をさせようとするその趣旨目的を達しえなくなるからである。そして・・裁判所が使用者に命じ得る附加金の額は訴提起の時の予告手当の未払額と同一と解するのを相当とする。」とした。