【10分で分かる】試用期間の代わりに有期雇用契約を使う方法(書式・規定例あり)

試用期間の代わりに有期雇用契約(試行雇用契約)を使う方法について、労働問題専門の弁護士が分かりやすく説明します。

社長
現在、正社員の中途採用を検討しています。一度正社員として採用すると、試用期間中であっても解雇が難しいと聞きます。そこで、まずは3カ月の有期屈用契約を締結し、働きぶりに問題がなければ正社員として無期雇用を結び、適性がない場合は期間満了で契約を終了させたいと思います。こうした対応は可能でしょうか。
弁護士吉村雄二郎
可能です。たたし、注意点があります。①適性評価のための有期雇用契約であり、更新はしないこと(又は上限があること)、②適性がない場合は期間満了により契約が終了すること、③正社員としての基準をクリアすれば無期雇用契約を別途締結すること、を就業規則や雇用契約書に明記するとともに、規定と反する運用はしないように注意してください。

1 試用期間中の解雇は難しい

試用期間とは労働契約の締結後の一定期間、会社が従業員の身元調査の補充や期間中の勤務状態の観察により,会社の職務についての適格性を判断し,それらにより適性がないとされる場合には本採用拒否ができる制度をいいます。

多くの企業では、正社員の採用について、入社後一定期間(多くは1~6か月で、3か月が多い)を試用期間とする制度を採用しています。

試用期間中の労働関係は、一般に、解約権が留保された労働契約と考えられています。すなわち、試用期間中であっても労働契約は成立しており、ただし、試用期間は従業員の適格性を判定する期間であることから、使用者に解約権が与えられていると考えられています。

したがって、試用期間中に不適格と判定した場合に本採用を拒否するということは、法的には、使用者に留保された解約権の行使であり、解雇の一形態です。

そして、この解約権の行使については、通常の解雇より広い範囲で解雇の自由が認められますが、労働契約法16条に従い,客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合のみ許されます

つまり、試用期間中の解雇も通常の解雇とほぼ同様に解雇権濫用法理である労働契約法16条の適用を受けますので、試用期間中だからといって簡単には解雇はできないのです。

試用期間中の解雇の詳細は

5分で理解!試用期間中の解雇の進め方【書式・ひな形あり】

2 試用期間の代わりに、適性を評価するための有期雇用契約は認められる

現実問題として、履歴書・職務経歴書などの採用選考書類のチェック、採用面接だけでは、労働者の適性を見抜くのは、非常に困難です。

にもかかわらず、一度採用すれば、試用期間中であっても、余程顕著な事情がない限り解雇が出来ないというのは、企業にとってリスクが大きすぎます。

会社側としては、一定の適性評価のための期間を経て、適性がなければ雇用契約を終了したいというのが偽らざる本音でしょう。

そこで、何か方法はないかということで考案されたのが、試用期間に代わって有期雇用契約と使う方法です。

有期雇用契約とは、文字どおり、期間の定めのある雇用契約です。期間限定の雇用契約ですので、満期が到来すれば、雇用契約は終了するのが原則です。

この有期雇用契約の特性を利用して、正社員として無期雇用する前に、適性を見極める期間を定めて、有期雇用契約を締結するのです。

このように労働者の適性を判断するために、試用期間ではなく有期雇用契約を利用することは法的に許容されています。

神戸弘陵学園事件(最高裁三小平2. 6. 5判決労判564号7頁)

同事件は、常勤講師に関する1年の契約期間の定めについて、それが雇用契約の期間の定めなのか、試用期間の定めなのかが争われた事案です。同判決は、期間を定めた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、特段の事情が認められる場合を除き、当該期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当であるとしました。働きぶりを確認するために有期雇用契約を締結する場合、すべて,試用期間と判断されるかのような判示ですが、これをあまり一般化することはできないと考えます。上記最高裁判例の事案では、4月に就労を始めた後に期限1年とする契約書を交付したなどの事情があり、そういった具体的なり事実経過を踏まえた事例判断であると考えます。
有期労働契約の目的には法規制はなく、労働者の適性判断のために用いたとしても、違法性はありません。
学説ではこの点を指摘して前掲神戸弘陵学園事件について「有期契約であること自体が明確でない場合に限定して解釈すべき」(荒木尚志『労働法』第5版540頁)と指摘しています。
また、下級審裁判例でも、福原学園事件(最ー小判平2812 1労判1156-5) では、私立大学の教員にかかる3年を上限とする1年の有期労働契約を設定し、大学を運営する学校法人が必要と認めた場合のみ無期労働契約を締結するものとして、かかる有期労働契約を試用期間と解した原審の判断を変更し、有期労働契約の期間満了による終了を有効と判断しており、同事件は前掲神戸弘陵学園事件の射程範囲がおのずと限定されることをより明確にしています。
また、最近でも明治安田生命保険事件(東京地判令5.2.8労経速2515-3)において、いわゆる試行的雇用契約が認められ、適性評価期間に基準に満たない労働者を本採用(正社員無期契約)しないことが適法とされた事例があります。
中途採用者などについては、有期労働契約を締結して適性をみる場合、契約期間の設定の明確性や期間の長さの妥当性、更新上限の有無など、有期労働契約の内容を明確にすることで、神戸弘陵学園事件判決の射程外にすることは可能です。

3 試用期間の代わりに有期労働契約をする方法

では、試用期間の代わりに有期雇用契約を利用する方法について説明します。

① 適格性を判断するための有期雇用契約制度を就業規則等で設計

まず、事前の制度設計が重要です。制度設計に際しては、以下の点がポイントとなり、それを踏まえて、求人票、就業規則、雇用契約書などの書類を準備します。

  • 適格性判断のための有期雇用契約であり、契約期間満了により契約更新せずに契約は終了すること、又は、契約更新回数・期間に上限があり、上限を超えて更新はしないこと
  • 適格性があると判断された場合は、有期雇用契約終了後に、別途正社員としての無期雇用契約を締結すること
  • 正社員登用のための基準を満たさない場合は、有期雇用契約の満期で契約終了となり、正社員契約は結ばないこと

※ 具体的な就業規則、雇用契約書、求人票の記載は下記を参照してください。

② 求人募集時に、当初は適格性を判断するための有期雇用契約であることを明示

正社員としての採用の前に、適性を判断するための有期雇用契約を使う場合は、求人の段階から、そのことを求人票に明記する必要があります。

求人票では、正社員(無期雇用)募集として応募したら、最初は有期雇用契約からと言われれば、応募者は「正社員じゃないのかよ、ダマされた。だったら最初から有期雇用契約を使うと書けよ。分かっていたら応募しなかった。」と思うでしょう。

求人票の記載と実際に提示する雇用契約の内容に相違があると「求人詐欺」などと非難され、トラブルになることもあります。

そこで、求人の段階から、試用期間の代わり有期雇用契約を使うことを示す必要があります。

③ 雇用契約時に、適格性を判断するための有期雇用契約であることを説明し、契約書上も明記する

雇用契約を締結する段階でも、上記①の内容を具体的に説明し、そのことが明記された雇用書を締結する必要があります。

4 就業規則の規定例・雇用契約書の書式

就業規則の規定例

ポイント

  • 試行雇用契約の定義を記載する
  • 契約期間・更新上限を明記する
  • 契約期間満了で終了し、不更新事由を記載する
  • 契約期間満了後、会社が合格と認めた者を正社員(無期)契約することを明記する

※ 就業規則の「採用」に関する部分に規定します

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試行雇用契約の雇用契約書例

雇用契約書兼労働条件通知書(試行雇用契約の初回)

雇用契約書兼労働条件通知書(2回目)

雇用契約書兼労働条件通知書(最終)

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求人情報の記載例

正社員の求人情報(当初は有期雇用契約)

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試行雇用契約の雇用契約書例

まとめ

以上、試用期間に代わり有期労働契約を活用する方法を説明しました。

採用した社員の業務適性の見極めというは、どの企業でも悩みの種になりがちです。

トライアル期間を設けて適性を評価したい、そんな企業も多くあります。

期間満了で契約が終了させられる有期労働契約の特性を活かした方法、是非ご検討ください。

当事務所では、労働問題専門の法律事務所の中に社会保険労務士事務所が併設されており、ワンストップで人事労務のサービスを提供しています。安心・スムーズ・リーズナブルなサービスを提供しておりますので、是非ご検討ください。

最後までお読み頂きありがとうございました。

 

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