【10分で理解】労働契約申込みみなし制度のポイント

派遣先企業に雇用を強制する労働契約申込みみなし制度について、要件、効果、注意点を労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。

 
社長
派遣法違反に対するペナルティとして、派遣先企業が派遣社員の雇用を強制される「労働契約申込みみなし」制度があると聞きました。どのような場合に適用され、どのような点に注意すればよいでしょうか、教えてください。
 
弁護士吉村雄二郎
「労働契約申込みみなし」は、①禁止業務への受入れ②無許可業者からの受入れ③事業所単位の派遣可能期間を超える受入れ④組織単位の派遣可能期間を超える受入れ⑤いわゆる偽装請負の派遣法違反行為に該当する場合に適用されます。これらに該当しないことが重要です。
労働契約申込みみなしとは
労働契約申込みみなしの適用要件
労働契約申込みみなしの効果
実務上の注意ポイント

労働契約申込みみなしとは

労働契約申込みみなし制度とは、派遣先および発注者等(以下、「派遣先等」といいます)が、特定の派遣法違反行為を行ったときは、その時点において派遣先等が受け入れていた派遣労働者および請負会社の労働者等(以下、「派遣労働者等」といいます)に対して、その派遣労働者等の派遣元事業主および請負会社等(以下、「派遣元等」という)における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされる制度です。

これだけだと分かりにくいかと思いますので、具体的な事例で説明します。

 

派遣社員Aさんは、派遣元会社と派遣先会社との間の派遣契約に基づいて、派遣元会社から派遣先会社へ派遣され、派遣先で勤務していたとします。

この場合、派遣社員Aさんとの雇用関係は、派遣元会社との間で成立しており、派遣先との間では雇用関係はありません。

派遣社員Aさんは、派遣元会社との間で雇用契約を締結し、毎月の賃金を派遣元会社から支払いを受けます。

しかし、次のような違法派遣があったとします。

 

このような違法派遣が認められると、その制裁として、「労働契約申込みみなし」が適用されます。

 

上記違法派遣がなされた場合、派遣先会社は派遣社員Aさんに対して、①労働契約の申込みをしたとみなされます。

派遣先会社は実際には労働契約の申込みなどしていないのですが、法律上、したことになってしまうのです。

これに対して、派遣社員Aさんが②労働契約の承諾をした場合は、派遣社員Aさんと派遣先との間に雇用関係が成立します。

成立する労働契約の内容は派遣社員Aさんと派遣元会社の労働契約の条件とされます。

その後は、派遣先会社がAさんを直接雇用することになり、賃金も派遣先会社がAさんに直接支払うことになります。

 

 
社長
ええ~ 派遣先会社は自分で採用を決定していない派遣社員Aさんの雇用を強制されてしまうのですね。会社の採用権限は全く無視されることになるとは、、、何と恐ろしい制度

労働契約申込みみなしの適用要件

労働契約申込みみなしの適用要件は次のとおりです。

  1. 特定違法行為に該当すること
  2. 派遣先等が善意無過失ではないこと
  3. (偽装請負の場合)法の適用を免れる目的

以下、具体的にみていきましょう。

①特定違法行為に該当すること

この制度の対象となる特定違法行為に該当する派遣法違反は、次の5類型です(法40条の6第1項)。

第1類型 派遣禁止業務に労働者派遣を受け入れた場合(同1号)

派遣禁止業務

港湾運送業務 湾岸と船舶の間の貨物の搬入など 港湾での運送に関わる業務
建設業務 建設現場での建設に関わる業務(資材の運搬、組立、車両誘導等)
警備業務 巡回、巡視、交通整理などの警備 業務
医療業務 (医師、看護士などの業務)
士業 弁護士、司法書士、公認会計士、 税理士、弁理士、行政書士等

第2類型 無許可事業主から労働者派遣を受け入れた場合(同2号)

第3類型 事業所単位の派遣可能期間制限に反して労働者派遣の役務の提供を受けた場合(同3号)

第4類型 個人単位の派遣可能期間制限に反して労働者派遣の役務の提供を受けた場合(同4号)

第5類型 労働者派遣法等の適用を免れる目的で請負等の名目で契約を締結し、法26条1項各号に定める事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けた場合(いわゆる「偽装請負」の場合。同5号)

②派遣先等が善意無過失ではないこと

労働契約申込みみなし制度は、派遣先等が行った行為が特定違法行為に該当すること知らず(善意)、また、知らないことについて過失がない場合には、適用されません(法40条の6第1項但書)。

ここでいう「行った行為が特定違法行為に該当することを知らない」とは、「特定違法行為に該当する行為を行ったことを知らない」という事実の認識がないことを指します。

特定違法行為に該当する行為を行ったことを知っているが、その行為が違法であることを知らなかったことは含みません。

また、「過失がない」とは、事実の認識がないことについて過失がないことを指します。

法律の不知は抗弁になりません。善意無過失の抗弁が認められるのは、かなり限定されると考えられます。

なお、みなし申込みは特定違法行為がなされた日ごとになされると解されていますから、善意無過失か否かは、その日の役務の提供の受入開始時点において判断されます。そのため、派遣先等がその日の役務の提供を受け入れた時点においては善意無過失であったものの、その日のうちに特定違法行為を行っていることに気づいた場合には、翌日以降は善意無過失の主張をすることは認められないことになります(平成27年9月30日 職発0930第13号「労働契約申込みみなし制度について」以下「13号通達」といいます。)。

③法の適用を免れる目的

第5類型に該当する、いわゆる偽装請負等については、「労働者派遣法等の適用を免れる目的(以下「偽装請負等の目的」という。)」で請負契約等の契約を締結し、労働者派遣の役務の提供を受けることが要件となっており、「偽装請負等の目的」という主観的要件が加重されています

偽装請負等の目的の有無については個別具体的に判断されることになります。

もっとも、「偽装請負等の目的」は、通常,客観的な事実から推認することになりますが、加重的な主観的要件として明記した立法趣旨から、派遣先等が指揮命令を行い偽装請負等の状態となったことのみをもって「偽装請負等の目的」が推定するものではないと解されています(13号通達)。

しかしながら,「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には,特段の事情がない限り,労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は,偽装請負等の状態にあることを認識しながら,組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である。」との判断基準が裁判所により提示されています(東リ事件(大阪高判R3.11.4 労判1253-60) 同判決は2022年6月8日に上告も棄却され確定しています)。

その他、過去に労働基準監督署や労働局から偽装請負に関連して行政指導を受けていた場合は、行政指導以降も偽装請負の状況が改善されていない場合は、偽装請負等の目的が認定される可能性が高いと考えられます(後記AQS・ハンプティ商会事件では、所轄の労働基準監督署・労働局へ調査嘱託が実施され、行政指導の有無が確認されています。行政指導を受けていなかったことが、偽装請負等の目的がなかったことの事情の一つと認定されています。)。

また、過去に労働者派遣契約への切り替えが検討される出来事があったこと(後記日本貨物検数協会事件)、偽装請負を意識した改善策を講じた経緯があったこと(後記東リ事件控訴審判決)は、偽装請負状況にあったことを認識していた事情として考慮されています。

裁判例

AQS・ハンプティ商会事件(東京地裁R2.6.11判決 労経速2431号)

発注企業と請負企業との関係は偽装請負であり、特定違法行為(5号)に該当すると認定しましたが、問題は偽装請負等の目的があったかが問題となりました。

裁判所は、「労働者派遣法40条の6第1項5号が,同号の成立に,派遣先(発注者)において労働者派遣法等の規定の適用を「免れる目的」があることを要することとしたのは,同項の違反行為のうち,同項5号の違反に関しては,派遣先において,区分基準告示の解釈が困難である場合があり,客観的に違反行為があるというだけでは,派遣先にその責めを負わせることが公平を欠く場合があるからであると解される。そうすると,労働者派遣の役務提供を受けていること,すなわち,自らの指揮命令により役務の提供を受けていることや,労働者派遣以外の形式で契約をしていることから,派遣先において直ちに同項5号の「免れる目的」があることを推認することはできないと考えられる。また,同項5号の「免れる目的」は,派遣先が法人である場合には法人の代表者,または,法人から契約締結権限を授権されている者の認識として,これがあると認められることが必要である。」との一般論を述べ、結論として、偽装請負等の目的はなかったと認定しました。

 
弁護士吉村雄二郎
判断の理由として、「作業者に対する指揮命令と業務委託・請負における注文者の指図との区別は困難な場合があること」、発注企業が「過去に労働基準監督署ないし労働局から個別の指導を受けたこともなかったこと」を挙げている点は注目されます。

日本貨物検数協会(日興サービス)事件 (名古屋地裁R2.7.20判決 労判1228-33)

発注企業と請負企業との関係は偽装請負であり、特定違法行為(5号)に該当すると認定しましたが、問題は偽装請負等の目的があったかが問題となりました。

裁判所は、「労働者派遣法40条の6第1項5号は,労働者派遣の役務の提供を受ける者が請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結することについて,適用潜脱目的を有していたことをみなし申込みの要件としている一方,同項ただし書は,その者が同条1項各号に該当する行為について善意無過失であった場合には労働契約の申込みみなし制度の適用を免除している。このような文理に照らすと,労働者派遣法40条の6第1項5号が定める労働者派遣法やこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)は,労働者派遣以外の名目で契約を締結したこと及び当該契約に基づき労働者派遣の役務の提供を受けていることの主観的な認識(悪意)又は認識可能性(過失)とは必ずしも同一ではなく,むしろ,このような形式と実質の齟齬により労働者派遣法等による規制を回避する意図を示す客観的な事情の存在により認定されるべきものと解するのが相当である。」という判断基準を示しました。

その上で、労働者派遣契約を締結するべき状況であり派遣先等企業もそれを前提とした経緯があったこと、改正前派遣法では無期労働者であっても派遣期間制限があったこと、業務の性質上熟練した労働者に長期就労させる必要があったこと、それゆえ敢えて業務請負の形を約10年間にわたり取り続けていたこと等を認定し、「偽装請負目的」があったと認定しました。

東リ事件(大阪高判R3.11.4 労判1253-60)

発注企業と請負企業との関係は偽装請負であり、特定違法行為(5号)に該当すると認定しましたが、問題は偽装請負等の目的があったかが問題となりました(原審では、偽装請負が否定されていました。)。

裁判所は、「(労働契約申込みみなし規定の)制度趣旨は,違法派遣の是正に当たって,派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定を図ることができるようにするため,違法派遣を受け入れた者に対する民事的な制裁として,当該者が違反行為を行った時点において,派遣労働者に対し労働契約の申込みをしたものとみなすことにより,労働者派遣法の規制の実効性を確保することである(甲136)。しかるところ,同項1号(禁止業務違反),同項2号(無許可事業主からの派遣受け入れ),同項3号及び4号(派遣の期間制限違反)とは異なり,同項5号(偽装請負)の場合には,労働者派遣の役務の提供を受ける者に偽装請負等の目的があることが要件とされている。これは,同項1号から4号までは,違反事実が比較的明らかであるのに対し,同項5号の場合には,労働者派遣の指揮命令と請負の注文者による指図等の区別は微妙な場合があり,請負契約を締結した者が労働者派遣におけるような指揮命令を行ったというだけで,直ちに前記民事的な制裁を与えることが相当ではないと考えられることから,特に偽装請負等の目的という主観的要件を付加したものと解される。このような主観的要件は,労働者派遣の役務の提供を受ける者が自らこれを認めるような場合を除き,通常,客観的な事実から推認することになると考えられるが,偽装請負等の目的という主観的要件が特に付加された趣旨に照らし,偽装請負等の状態が発生したというだけで,直ちに偽装請負等の目的があったことを推認することは相当ではない。しかしながら,日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には,特段の事情がない限り,労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は,偽装請負等の状態にあることを認識しながら,組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である。」との判断基準を示しました。

その上で、平成11年頃から偽装請負であったことは明らかであり、その後も偽装請負状況は平成29年頃まで改善されなかった(途中、平成26年頃、指揮命令系統に問題があると考え配置換え等の措置をとっているが、そのことは逆に言えば、偽装請負であることを認識していた証左である)ことから、偽装請負等の状態が日常的かつ継続的に行われていたことが認められ、偽装請負等の目的を覆す事情がない以上、偽装請負等の目的は認められると判示しました。

労働契約申込みみなし及び承諾

「申込み」を行ったとみなされる時点

派遣先等は、特定違法行為を行った時点に、派遣労働者等に対して労働契約の申込みをしたとみなされます。

通常、派遣の役務の提供は日ごとに行われると解されていることから、労働契約の申込みも日ごとに行われると解されています(13号通達)。

そのため、例えば令和2年4月1日から同月10日まで、派遣先が受け入れた派遣労働者を禁止業務に従事させた場合には、4月1日、2日、3日…と、4月10日までの間、日々労働契約の申込みをしたものとみなされることになります。

また、派遣就業が2暦日にわたり日単位とならない場合(例えば、夜勤勤務を含む就業のように、当日の午後10時から翌日午前7時までの勤務の場合等)は、通常は業務を開始した日の労働が翌日まで継続していると解されることから、このような場合は派遣就業1回として1回の労働契約申込みがあったものと解されます。

申込みの撤回及び失効

申込みの撤回

派遣先等は、申込みから1年間は申込みを撤回することができません(法40条の6第2項)。

この「1年間」の起算点については、特定違法行為が行われた日ごとに労働契約の申込みをしたものと解されていますから、日ごとに起算点が生じていることになります。

そのため、申込みをされた派遣労働者が派遣先等が最後に違法行為をした時点から1年の間に「承諾」をすることで、承諾した時点で、派遣先等との間に労働契約が成立することになります。

申込みの失効

特定違法行為が終了した時点から1年を経過するまでの間に派遣労働者から承諾または不承諾の意思表示がなされなかったときは、派遣先等が行ったとみなされた労働契約の申込みは効力を失うことになります(法40条の6第3項)。

労働契約申込みみなしに対する派遣労働者等の承諾

派遣労働者等は、日ごとに行われる労働契約申込みに対して、どの申込みに対して承諾をするかを、自由に選択することができます。

そのため、上記の事案で、派遣元事業主との間で派遣労働者が締結している労働契約では、4月1日から7日までの時給が1200円であったのに対して4月8日からは時給が1500円になる場合に、派遣労働者は時給の高い4月8日以降に特定して、同日の労働契約申込みに対して承諾をすることも可能です。

また、対象となる派遣先等が複数ある場合には、派遣労働者は、自分が直接雇用を希望する派遣先等を選択して承諾することもできます。

さらに労働契約申込みみなし制度の対象となる特定違法行為の類型のうち複数の類型に該当する場合に、どの類型に基づいた主張をするかも、派遣労働者が自分で選択することが可能です。

なお、労働契約申込みがなされるより以前に承諾しないことを合意することは、公序良俗に反し無効になると解されています。

派遣労働者等の承諾は、労働契約申込みみなしに対する意思表示として明確に行う必要があります

具体的には、①派遣先等、②特定違法行為及びその時点を特定し、派遣先等に承諾の意思表示を到達させる必要があります。

裁判例(日本貨物検数協会(日興サービス)事件 名古屋地裁R2.7.20判決 労判1228-33)では、原告が組合員となっていた労働組合による直接雇用の要求が承諾と評価できるかが争点となりました。裁判所は「E阪神支部及びE名古屋支部が,被告が原告らを含むA従業員である組合員を直接雇用することを求めるものである。しかし,本件各要求等は,労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みの存在を前提とするものではなく,むしろ,本件協定に定められた指定事業体の趣旨からするとAは被告の退職者の受け皿であるべきであるのに現状がそうなっていないことを問題視し,A従業員を被告に移籍させるべきであるという考えから行われているものであって,しかも,被告との間で,本件各要求等に基づき,今後,直接雇用の対象者,移籍時期,労働条件等について具体的な協議を行うことを予定したものであることが明らかである。そうすると,このような趣旨及び内容の本件各要求等をもって,派遣先である被告の原告らに対する労働契約のみなし申込みを受けて被告との間に新たに労働契約を締結させるためにされた承諾の意思表示と評価することはできない。」と判示し、承諾の存在を否定しました。

労働契約申込みみなしに対する承諾の期限

承諾の期限は、特定違法行為に該当する行為が終わってから1年間です。

その根拠は、法40条の6第2項が、派遣先等は申込みから1年間は申込みを撤回することができないと定め、法40条の6第3項が、特定違法行為が終了した時点から1年を経過するまでの間に派遣労働者から承諾または不承諾の意思表示がなされなかったときは、派遣先等が行ったとみなされた労働契約の申込みは効力を失うと定めていることにあります。

例えば、特定違法行為が2022年3月31日まで続いていたとします。この場合、承諾期限は2023年3月31日までとなります。

派遣元等との有期雇用契約が1年未満の場合も承諾期間は1年間ですか?
そうです。例えば、特定違法行為が2022年3月31日まで続いていたとします。派遣元等との間の雇用契約は3ヶ月の有期用契約であり、その契約が2022年4月末までであったとします。この場合であっても、承諾期限は2023年3月31日までとなります。派遣元等との有期雇用契約の期間に縛られて2022年4月末までとはなりません。
東リ事件(大阪高判R3.11.4 労判1253-60)
派遣元との雇用契約終了後の承諾が、労働契約申込みみなしに対する承諾として認められるかが争われた事案です。
裁判所は、「被控訴人(※筆者注 偽装請負の発注企業)は,控訴人E(※筆者注 偽装請負の請負企業の労働者)については,ライフ社(※筆者注 偽装請負の請負企業)との労働契約の期間内に承諾する旨の意思表示がされておらず,また,派遣労働者に係る労働契約が終了している場合には,労働者派遣法40条の6の規定により派遣先である被控訴人との間で労働契約が成立する余地はないと主張する。
 しかし,労働者派遣法40条の6第2項の文言上,同条3項の承諾する旨の意思表示は同条1項に規定する行為が終了した日から1年を経過する日までの期間以内になされなければならないこと以外の要件は定められていない。同条は,違法派遣を是正するに当たり,派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定を図ることができるようにすることを制度趣旨とする規定であるから,同条1項により派遣先が労働契約の申込みをしたとみなされる場合には,その後,当該派遣労働者の労働契約が終了したとしても,同条2項の期間内は,当該派遣労働者は,その希望により派遣先との間で労働契約を成立させることができると解するのが制度趣旨に合致する。また,被控訴人の主張が,同条の規定の効果に関し,同条により派遣先との間で成立する労働契約の存続期間については,派遣労働者に係る元の労働契約に含まれる内容(残存期間)がそのまま適用されるとの考え方を前提とするものであれば,本件において,控訴人Eが平成29年3月30日に整理解雇されたという事実は期間の定めのない労働契約を終了させた具体的事実ではあっても,労働契約において定められていた労働条件ではないから,同条1項にいう「同一の労働条件」に含まれると解することには疑問がある。」と判示し、派遣元等との雇用契約終了後の承諾を認めました。※また、下記参考資料も理由付けの一つとしています。
参考資料
平成21年12月28日労働政策審議会答申の直前である同月22日に開催された第141回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会における鎌田公益委員の説明:「申込みの内容につきましては,派遣元との契約と同じものでありますが,派遣先との雇用契約が例えば1年間の雇用契約であった場合,派遣元との契約の残り期間や派遣先との契約がすでに終了している否かにかかわらず,労働者の受諾の時点から1年間の雇用契約となります。」

労働契約の成立時期

派遣先等と派遣労働者等との間の労働契約は、労働契約申込みみなし制度によってみなされた申込み(以下、「みなし申込み」という)に対して、派遣労働者が承諾の意思表示をした時点で成立します。

なお、派遣労働者等が承諾の意思表示を書面等で郵送して通知した場合は、現行民法の原則に従うと、書面が派遣先等に到達した時点で労働契約が成立することになります(民法97条1項)。

申し込んだとみなされる労働条件の内容

原 則

派遣先等が申し込んだとみなされる労働条件は、特定違法行為の時点における派遣社員と派遣元等との間の労働契約上の労働条件と同一の労働条件になります。

ここでいう労働条件には、当事者間の合意により労働契約の内容となったもののほか、就業規則等で定める労働条件も含まれますが、労働契約上の労働条件でないものは含まれないと解されています(13号通達)。

また、みなし申込みによって成立する労働契約における労働条件は、原則として、派遣元等との労働契約上の労働条件と同一で、かつ、使用者が交替した場合も承継されることが社会通念上相当であるものとされています(13号通達)。

そのため、使用者が交替した場合は承認されることが想定されていないような派遣元等が所有している社宅、寮、レクリエーション施設等の利用は、ここでいう「労働条件」には含まれないものと解さます。

労働契約期間

労働契約期間についても、派遣元等と派遣社員等との間の労働契約と同一の労働契約期間になります

そのため、派遣元事業主等との間の労働契約が有期の場合には、派遣先等が申し込んだとみなされる労働契条件も有期となります。

前掲東リ事件(控訴審)では、もととなる派遣元等の雇用契約は有期契約のものもあったのですが、派遣元等企業の社長の発言(「そもそも,だってウチは有期雇用じゃないから」)との発言から「期限のない雇用契約」であったと裁判所は認定し、派遣先等との間で無期雇用契約の成立を認定しました。

労働契約申込みみなしと労働契約法第18条との関係

労働契約法第18条は、有期雇用契約が一定の要件を満たす場合に無期転換権を付与することを定めています。

同条1項前段では、「同一使用者」と労働者との間で締結された2以上の有期雇用契約の通算期間が5年を超える場合に、現に締結している有期雇用契約の期間満了前に労働者が申し出ることにより、現契約の期間満了日の翌日から開始する無期雇用契約が成立すると定めています。

このように労働契約法第18条に規定する通算契約期間は、同一の使用者について算定するものであるため、派遣先等で就業していた派遣労働者が違法行為に該当する派遣によりみなし制度の対象になった場合、原則として、承諾時点までの派遣元事業主等と派遣労働者との労働契約期間と、当該派遣労働者が承諾して派遣先等で直接雇用となった場合の派遣先等と当該者との労働契約期間は通算されないと解されます(13号通達)。

労働契約申込みみなしと労働契約法第19条との関係

期間の定めのある雇用契約は、契約の期間が満了すれば当然に終了するのが原則です。

ところが、正社員と同様の内容の業務に就いていた場合や、更新を何回も続けて相当長期間にわたって働いていた場合、契約更新の手続が形骸化していた場合等は、労働者が契約更新がされるとの期待を抱くのが合理的といえ、単に契約期間満了という事実のみで契約を終了させるのは,労働者の地位が不安定になりすぎるとして,雇止めが制限されます。その雇止めの制限を定めたのが労働契約法第19条になります。

労働契約法第19条の適用にあたっては

②-1 反復更新により実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合(19条1号)
  又は
②-2 契約更新につき合理的な期待が認められる場合(19条2号)
③ 雇止めの客観的合理的理由・社会的相当性の欠如の有無

といった要件が検討されます。

労働契約申込みみなしにより派遣先企業等との間で新たな労働契約(有期雇用契約)が成立した場合、新たな有期雇用契約の雇止めに際して、従前の労働契約(派遣元企業等との労働契約)における事情(当該派遣先等への派遣期間、更新回数、担当業務、派遣先企業等の言動等)が考慮されるかが問題となります。

この点については、考慮されるというのが通説的見解であり、行政通達も同様に解しています。

行政通達13号通達
みなし制度の適用により成立した労働契約の雇止めに関し、その効力が争われた場合、当該効力の有無については、労働契約法第19条に基づき個別具体的に司法判断されるべきものであること。

派遣元等の通知

派遣元等は、派遣先等から求められた場合には、速やかにみなし申込みがなされた時点における、派遣社員の労働条件の内容を通知しなければなりません(法40条の6第4項)。

労働契約申込みみなしに係る行政の助言、指導、勧告、公表

派遣先等または派遣労働者は、労働局長等に対して、派遣先等の行為が労働契約申込みみなしの対象となる行為か否かについて助言を求めることができます(法40条の8第1項)。

また、派遣労働者が承諾をしたにもかかわらず派遣先等が就労させない場合には、労働局長は、就労に関し、必要な助言、指導または勧告をすることができ(同2項)、労働局長が就労させるべき旨の勧告をしたにもかかわらず派遣先等が従わない場合には、その旨を公表することができます(同3項)。

派遣先としての実務上の注意点

派遣先が労働契約申込みみなし制度をめぐるトラブルを避けるためには、上記の特定違法派遣に該当する行為をすることのないようにするというのが最大のポイントです。

具体的には、下記のとおりです。

  1. 禁止業務違反との関係では、労働者派遣を受け入れる前に、業務の内容を精査し、①港湾運送業務、②建設業務、③警備業務、④医療施設等における医業等に該当しないことを確認すること
  2. 個別労働者派遣契約を締結する際に、許可番号等を確認し、無許可・無届出業者からの労働者派遣受入禁止違反とならないようにすること
  3. 抵触日を把握するとともに、派遣契約で定めた業務の範囲を超えることのないように留意し、期間制限違反とならないようにすること
  4. いわゆる偽装請負との関係では、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)に照らして、適正な請負となるように留意すること、特に、発注者等の契約締結権限者自身が請負労働者に対して指揮命令をせずとも、その部下である発注者等の従業員が請負労働者に対して指揮命令していることを黙認していた場合には、脱法目的の偽装請負と評価されるリスクがあることには注意すべきでしょう。

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