業績悪化を乗り越える賃金カットの方法

会社の業績が悪化したため、経営の安定のために、賃金カットを行いたいという経営者も多いことでしょう。

しかし、賃金は従業員の生活の糧であり重要な労働条件の一つです。それをカット(削減)することは従業員に大きな影響を与えますので、法律的にも厳しい規制がなされています。対応を誤ると、賃金カットが無効となり、差額分をまとめて利息を付けて返還させられる場合も少なくありません。

そこで、経営難に陥った場合に行う賃金カットの内容・方法についてわかりやすく説明します。

賃金カットのきほん

賃金カット・リストラ(整理解雇)は最終手段

業績悪化の局面においては、経営の再建・合理化のためには、さまざまな施策を行う必要があります。

賃金カット・リストラ(整理解雇)のその施策の一つとなります。

もっとも、業績悪化したから、すぐに賃金カット・リストラ(整理解雇)できるわけではありません。

むしろ雇用調整は、経営の再建・合理化に向けた企業全体の再編や改革、すなわち“リストラクチャリング”の一環として、最後の手段としてとられる方法だということを忘れないでください。

どんな施策を行うにしても、それを実施する前には、まず雇用調整を回避するための施策を十分に検討し、実施することが重要です。

すなわち、賃金カットや整理解雇を行う前に、以下のような方法を尽くしておく必要があります。

  1. 遊休資産の処分
  2. 賃料・広告費・交際費等の経費削減
  3. 役員報酬の削減 ※①
  4. 残業規制 ※②
  5. 従業員の昇給停止や賞与の減額・不支給 ※②
  6. 労働時間短縮や一時帰休(休業)※②
    参考 「【2024年】地震で休業する場合,賃金・休業手当を支払う必要があるか?
  7. 配転・出向・転籍による余剰人員吸収
  8. 非正規社員(有期・派遣・業務委託)との間の労働契約の解消 ※③
  9. 希望退職者の募集 ※②

※① 無報酬にする必要はない。最低限度の生活が賄える金額は残してよい。
※② 業務量が減少している場合に限る。業務量が変わらない場合は必須ではない。
※③ 正社員の削減に先行することが普通だが、非正規を残して正社員を先に切る場合もありえる。

まずは、処分できる会社資産があれば、雇用調整に先行して処分しておきます。

家賃の減額交渉、広告費・交際費の削減など、人件費以外に削減できる経費は徹底的に削減します。

役員報酬カットや役員数の削減など、一般社員に先立って、経営陣自らに何らかの経費削減策を課す必要があります。

これは、経営悪化の責任を示す意味でも重要です。雇用調整をこれから行うに際して、経営陣自らがまずは“血を流す”ことをしなければ、一般社員は決して納得しません。

役員以外にも、雇用調整の計画を立てるうえでは経営に近い立場にある者、つまり管理職について、一般社員よりも先行して雇用調整を行うことが重要となります。

こうした雇用調整を回避するための努力は、万一紛争になった場合に、”最大限行われたかどうか”が裁判所等の判断材料とされることになります。

人員の削減と人件費単価の削減はどちらを先に行うべきか?

経営者・人事担当者はリストラの方策をめぐって、人員の削減が先か、賃金ダウンが先かで、いつも思い悩みます。

結論から言いますと、資金繰りと事業継続に必要な業務を考慮して、ケースバイケースで決めるしかありません。どちらが先というルールはそもそもありません。

この点について、賃金ダウンは従業員のモチベーションを大きく下げるので人員の削減が先だという論者を比較的多く見かけます(髙井伸夫「人員削減・賃金ダウンの法律実務」18頁 日本経団連出版 平成16年)。

その理由は「人員削減を先行しなければ社員の納得は得られないのが現実である」ということにあるようです。

しかし、この見解は、業務との関係で余剰人員(「含み損社員」)が生じていることを前提とした主張であると思われます。

つまり、担当業務や賃金の高さから辞めてもらった方がよいと思われる余剰人員がいるのであれば、その人たちに辞めてもらい、残った社員の賃金は維持する(賃金カットを回避する)べきだという考え方であると理解されます。

この前提条件でこの考え方であれば、人員削減を先行するべきということは正しいと思います。

しかし、例えば会社の維持するために必要な業務との関係で、現在の人員を辞めさせるわけにはいかない場合もあります。

つまり、だれも辞めてよい人材はいない状況(余剰人員は発生していない状況)であるが、会社の業績及び資金繰り的に現在の賃金水準を維持出来ない場合です。

その場合は人員を削減してしまっては業務を維持できないわけですから、賃金カットにより経営破綻を回避するしかありません。

このように、会社の存続に必要な業務との関係で余剰人員が生じていない場合は、人員削減を回避して、賃金ダウンを先行させる必要があります。

もっとも、人員削減と賃金カットは全く別々に行うものではありません。人員削減・賃金ダウンは同時並行的に、織り交ぜながら行うことはよくあります。あまり硬直的に考えすぎるのではなく、そのときに必要な策を適切に行うことが重要です。

基本的な賃金カット策

基本的な賃金カット方法は以下の通りです。

  1. 残業・休日出勤・深夜労働の制限・禁止
  2. 賞与の減額・凍結
  3. 一時休業(一時帰休)
  4. 賃金カット

以下、順番に説明していきます。

取り組みやすい残業・休日出勤・深夜労働の制限・禁止

内容

従業員の残業・休日出勤・深夜労働を制限又は禁止します。

時間外(残業)・休日出勤・深夜労働に対しては、以下の割増賃金が法律上発生します。

時間外労働(残業)・・・通常の時間あたり賃金に加えて25%分の時間外割増賃金
休日労働・・・通常の時間あたり賃金に加えて35%分の休日割増賃金
深夜労働・・・・通常の時間あたり賃金に加えて25%分の深夜割増賃金

これを制限することにより、人件費単価の圧縮効果が見込めます。

方法

業務命令によって一方的に時間外(残業)・休日出勤・深夜労働の制限又は禁止できます。

具体的には、時間外(残業)・休日出勤・深夜労働を禁止した上で、どうしても残業や休日出勤をする必要がある場合は事前に上司の許可を必要とします。

就業規則や労働契約の根拠規定や労働者の同意は必要ありません。

特徴・注意点

業績が低下するのに合わせて業務量が減る場合、これに対応して残業・休日出勤等を制限・禁止することができます。

就業規則や労働契約の根拠規定や労働者の同意がなくても、業務命令で行うことができるので実施しやすい施策です。

ただし、残業や休日出勤をさせなくても業務が回ることが前提となります。業務量が減っておらず残業や休日出勤をしなければ業務が回らないにもかかわらず、残業や休日出勤だけを禁止しておきながら「サービス残業」をさせた場合は、残業や休日出勤に対する割増賃金は発生しますので注意が必要です。

社員も受け入れざるを得ない賞与の減額・凍結

内容

会社の業績に応じて賞与の額も減額・不支給とします。

そもそも賞与の支払いについては原則として使用者の裁量に委ねられています。労働者の当然の権利ではありません。

賞与の算定基準や方法が何ら定まっていない完全な使用者の裁量による賞与の場合には,使用者が賞与を支払わないと決定したことに対して,従業員側が何らかの異議を唱えたり,賞与を請求する権利はありません。

賞与を減額・凍結することにより、人件費単価の圧縮効果が見込めます。

方法

会社の裁量により、業績に応じて賞与支給額を決定します。資金繰りの状況から不支給とすることも可能です。

賞与について使用者が業績や従業員の成績に応じて金額を決めることになっていれば、就業規則や労働契約の根拠規定や労働者の同意は必要ありません。

特徴・注意点

会社の裁量で決定でき、就業規則等の特別の根拠や労働者の同意が必要ないため実施しやすい。

また、一般的には賞与は業績に連動することが前提になっており、社員にもそうした意識があるため、企業業績の低下に伴って賞与が減額することは、社員にとっても納得しやすいといえます。また、賞与を減額することで、会社の業績が低迷していることの危機感を社員に共有させ、奮起を促す効果も見込めます。

ただ、賞与は業績に問題がなければ慣行として年2回支給されていることが多く、社員は賞与を見込んで生活設計していることも多いです(ローンのボーナス時払いなど)。そのため、完全に不支給とした場合、従業員の反発やモチベーションの低下が大きくなります。

こうした点から、業績が悪化したとしても完全な不支給というのは出来るだけ避けた方がよいです。

また、就業規則や労働契約において、賞与の支払いについて固定額としている場合(毎年2回、月額給与の〇カ月分を賞与とすると定めている場合など)は、賞与の金額を業績に応じて会社の裁量で減額することは原則として出来ません。そのため、基本給や手当の減額と同様の検討をする必要があります。

稼働日自体を減らす一時休業(一時帰休)

内容

業務量の減少に合わせて、休業を命ずることによって社員の出勤日や勤務時間も減少させ、それによって賃金を減額させる施策です。

ある程度の期間連続して休業する場合には“一時帰休”などといいますが、基本的には同じ施策です。

休業しても、休業手当(労基法26条)の支払いは必要です。

方法

実施部門、対象となる従業員、休業期間、賃金カット割合その他条件を決定し、従業員や労働組合がある場合は組合と協議して決定します。

就業規則や労働契約の変更は特に必要ありません。

従業員への説明を行い理解を得て、出来るだけ同意を得て行った方がよいでしょう。

特徴・注意点

メリット

休日・休暇の増加は、本来なら人員削減が必要な局面であっても、雇用を維持したまま人件費を圧縮できるので、社員にとっては雇用が確保されるというメリットがあります。企業にとっても一時的な外部要因で業績が急激に悪化したとき(例:コロナ禍による業績悪化など)、雇用自体に手をつけずに時間を稼ぐことができるというメリットがあります。

休業手当の支払い

業績悪化に伴う製造ラインの停止等の休業は,使用者の責めに帰すべき事由による休業として,平均貸金の100分の60以上の手当(休業手当)の支払いが必要となります(労基法26条)。例えば,機械の検査,原料不足,監督官庁による操業停止勧告,経済状況の著しい悪化による経営難の場合であっても,労基法26条の休業手当の支払いは必要となります。休業に当たっては,特段法律上の規定はないものの,従業員に対する十分な説明(休業となる理由,期間,その間の給与の支払いなど)をすることが必要です。

賃金100%の支払い

休業の場合、労基法に定める平均賃金の60%休業手当だけではなく、所定の賃金100%の支払いが必要な場合もあります。

すなわち、業績悪化に伴う休業が、使用者の「責に帰すべき事由」によるといえる場合は、反対給付請求権(貸金の支払請求権)(民法536条2項)は残り、100%の賃金の支払いが必要となります。

この民法536条2項の「責に帰すべき事由」は、休業手当の「責めに帰すべき事由」(労基法26条)ほどは広くはないとされており、具体的には、①休業の実施によって労働者が被る不利益の程度、②使用者側の休業実施の必要性の内容・程度、③労働組合等のの交渉の経緯、④他の労働組合又は他の労働者への対応等を総合考慮して、休業による不利益を労働者に受容させることを許容しえる合理性があると認められる場合には「責めに帰すべき事由」に該当しないと解されます(池貝事件・横浜地判平成12.12.14労判802号27頁)。

判断は難しい場合も多いので、ここでは休業手当だけではなく、賃金100%も支払わなければならないことがあることを抑えておいてください。

雇用調整助成金の活用

雇用調整のために休業をし,休業手当を支払う場合には,「雇用調整助成金制度」の利用が可能な場合があります。時期によって助成率が大幅に拡大されることもありますので、休業手当の支給金額決定に際しても助成金活用を考慮するべきでしょう。例えば、賃金100%相当の休業手当を支払っても、助成金で大部分をまかなえるのであれば、平均賃金60%の休業手当ではなく、賃金100%の金額の休業手当を支給することも実務的にはあります。

効果はあるが反発も大きい賃金カット

内容

賃金カットは、今まで固定的に支払ってきた給与(基本給、諸手当)自体を減額する施策です。また、業績悪化を理由に退職金規程を変更して退職金を減額することもあります。

固定的な人件費を、直ちに一定比率減額することができる強力な施策で、人件費単価を下げる大きな効果があります。

方法

労働契約変更による賃金カット

まず,賃金が労働契約により定められている場合(就業規則がない会社や賃金額を明確に定めていない会社、就業規則よりも有利な形で賃金が労働契約で定められている場合、賃金額が雇用契約書で定められているパート社員など)には,契約の両当事者(使用者および従業員)の同意に基づき貸金を変更せざるを得ません。

したがって,従業員が同意しないまま一方的に労働契約上定められた賃金をカットすること無効となります。

就業規則変更による賃金カット

賃金カットは明白な就業規則の不利益変更であることから,従業員の同意なくしては原則として実施することができません(労働契約法9条)。

同意が得られない場合は、例外的に,就業規則の(不利益)変更が,①従業貞の受ける不利益の程度,②労働条件の変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉の状況,⑤その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的であると認められる場合に,こうした変更も許されるにすぎません。

特に,賃金など従業員にとって重要な権利,労働条件に関する不利益変更については,「当該条項が,そのような不利益を従業員に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである」(大曲市農業協同組合事件 最高裁三小 昭63.2.16判決)とされています。

特徴・注意点

モラル・モチベーション低下に注意

賃金カットは直接的に人件費削減の効果をもたらします。

しかし、社員側から見ると、生活の基盤である月給を減額され、生活に大きな悪影響が出る施策ということになります。

当然、説明もせずにいきなり実行したりすると、社員のモチベーションを落としたり、反発してモラルを低下させたりする社員が出てきます。

そのようなことにならないよう、事前に自社の経営状況をよく説明し、実施の必要性を理解してもらう必要があります。

賃金カットの限度は?

切り下げの目安としては、ケースバイケースであるものの減額幅が月給の10%以内に納まる形が目安になると解されています(労基法91条参照)。

高齢層や管理職層など特定層だけ賃金カットする場合は無効となる可能性が高まります。従業員全体で応分に負担するよう配慮が必要です(例えば、部長は7%減、課長は5%減、一般職は3%減など)。

賃金カットの合意書面にサインさせても無効となる場合がある

労働者との合意があれば賃金減額はできます(労契法8条)が、合意書に署名捺印させれて安全という訳ではありません。

裁判例では、合意書にサインがあっても「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在」しない場合はには、その合意は無効となるとの判断がなされています(山梨県民信用組合事件 最二小判平28. 2 . 19民集70巻2号123頁・労判1136号6頁)。つまり、例えば経営破綻を回避するためにどうしても賃金カットが不可欠に必要である、賃金カットによる不利益等の情報が具体的に開示されている等の事情が必要となり、その事情を企業の側で証明できるように準備する必要があります。

不利益緩和の措置が必要であること

不利益性を緩和する措置も必要となります。将来にわたって永続的に賃金カットする場合は経過措置を設けていきなりカットせずに1年から3年かけて徐々にカットを進める経過措置を検討する必要があります。または、賃金カットを暫定措置として行う場合は、明確にカット期間を定めることを検討します(例えば1年間限りなど)。

就業規則変更による賃金カットの場合でも従業員の多数の賛成が必要

さらに、就業規則変更による賃金カットの場合も出来るだけ多数の従業員の賛成を取り付けられるように努力するべきです。判例によれば,不利益変更につき過半数組合との合意が得られれば,「変更の合理性」が一応推測されるといえます(平成9年第四銀行事件判決)。また,多数の従業員が賛成してくれている状況は「変更の合理性」にとってプラスに働く事情であることは間違いありません。

経営難による賃金カットの裁判例

有効とした裁判例

住友重機械工業事件(東京地判平19.2.14労判938号39頁)

企業評価の低下による資金調達の支障を生じかねない状況にあってどのような措置,対応策を講じるかは高度の経営上の判断を伴うとし,相応の合理性が認められる限り会社の経営判断として尊重されると判示しました。そして、2年間の時限措置としてされた労務費削減は当時の状況に照らし適切なものであったと認め,就業規則を改訂する高度の必要性を肯定しています。その上で,基礎賃金10%前後の減額が従業員に与える不利益は少なくなく,代償措置として労働時間の短縮や担当業務の負担軽減等がないとしつつ,従業員ら約99%に組織される各労働組合が合意した事実に着目し,結論として変更を有効と認めています。

ティーエム事件(大阪地判平成9年5月28日労働経済判例速報1641号22頁)

リストラ策による賃金引下げは労使間に黙示の合意があるとして有効とされた事例

「被告は、カラオケのリース、卸業務、販売を業として営んでいるところ、いわゆるバブル経済の崩壊後、顧客が減少していたので、平成四年夏ころから、被告の代表者、取締役、都市部における所長以上で構成する月例会で、被告のリストラを議題として検討し、原告もこれに出席していた。被告は、平成五年二月五日、被告の所長以上を構成員としてリストラ案について検討する特別会議を招集し、原告もこれに出席した。この会議では、被告の濱田本部長及び名取部長から人件費等の削減の提案がなされ、その趣旨説明があった。右趣旨説明の中で、役職ごとの人件費のカット率が提示された。その率は、所長が一二パーセント、一般社員が五パーセントであった。これに対し、いずれの営業所長も、異議を述べることはなかった。そして、原告は、被告の濱田本部長の命により、右特別会議のあった平成五年二月五日ころ、営業所長として、同日付けで人件費リストラ表と題する表に、原告が当時営業所長を務めていた被告北営業所の、自己を含めた社員の氏名及びその役職ごとの賃金カット率をそれぞれ記載し、これを被告に提出した。その際、他の各営業所長も、それぞれ同様の人件費リストラ表を作成し、これを被告に提出した。なお、被告の右人件費削減の措置に不満を感じた北営業所の社員の中には、被告を退職した者もいたが、原告自身は、退職することもなく、長年にわたって賃金が削減されることに対し、被告に異議を申入れることもなかった。以上の事実を総合すると、原告は、被告が経営不振の状態にあると認識のうえ、他の営業所長とともに被告のリストラ策を検討する特別会議に出席し、被告からの人件費削減の提案に対し、格別異議を唱えることもなく、これを了解し、右会議の直後には、自己を含む営業所の各社員について、賃金のカット率を記載した人件費リストラ表を作成し、これを被告に提出するなどして、これを容認していたことが認められるのであるから、原告は、被告による賃金引下げの提案を止むを得ないものとして了承し、その真意に基づいて右引下げに同意したものと認めることができる。」

無効とした裁判例

杉本石油ガス事件(東京地決平14.7.31労判835号25頁)

LPガス減少を原因とする売上減により約19億円の負債を負った状況下で,就業規則を改訂し,正社員の貸金の約25%に相当する額の減額等を行った事案です。裁判所は,売上減少分を経費削減等により補う必要性を認めつつ,貸金を25%削減する必要があったとする会社説明は合理的でなく,不十分であったと指摘しています。さらに,全従業員においてほぼ一律に25%削減するのではなく会社判断で従業員によって削減率を窓意的に調整できる運用であったこと,担当業務の軽減はなかったこと,労働組合との交渉においても説明が不十分で誤解を招く点もあったこと等を指摘しています。

全日本検数協会事件・神戸地判平14.8.23労判836号65頁

阪神・淡路大震災以降の大幅な減収状況から人件費圧縮という経費削減策が有効な改善策であることは否定できないとしつつ,基準内賃金の50%を3年間カットする不利益は大きく,従業員の生活実態を考慮した合理性は認められないと述べています。このほか,不利益を神戸支部の従業員のみに負担させていること,代償措置は十分でないこと,労働組合への提案後3か月余りの貸金カット実施は性急に過ぎること等が挙げられています。神戸支部職員組合が本件と同様のカット率に同意している事実については,不利益の大きさに照らすと合理性を裏付けるものとは認められないと評価されています。

まとめ

以上、経営難に陥った場合に行う賃金カットの内容・方法について説明いたしました。

この記事は全体造を示す位置付けになりますので、各方法の詳細については、リンク先のページをご参照ください。

 

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