労働審判手続が実際にどのように進行していくのか、概要は理解していても具体的なイメージが持てないという経営者も多いことでしょう。そこで、今回は解雇事件について具体的なエピソードを交えて、事件の発生から労働審判の終了に至るまで、一連の流れを見ていきましょう。
※この事案はフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ありません。
事件の発生
- ○△商事株式会社は食料品卸売販売を業とする従業員30名の中小企業である。
- その○△商事には中途採用で入社3年目の問題社員Xがいた。
- Xは、経験豊富な即戦力の営業社員として、他の社員に比べて高額な賃金待遇で会社に採用された。
- しかし、採用当初から営業成績が芳しくなく、3年目に入っても想定していた営業成績の半分も達成できない状況が続いていた。
- 上司や社長が再三にわたって指導をし、チャンスを与えたものの、言い訳ばかりで努力をしている様子も見られず、社長も手を焼いていた。
- 新型コロナウイルスの影響で、取引先である飲食店からの注文も激減しており、○△商事株式会社の業績も下降していた。
- これ以上、高給のXを雇い続けることは、会社の財政的にも、他の社員のモチベーション的にも好ましくない状況となっていた。
- 会社の就業規則には,「業務遂行能力,勤務成績が著しく劣り,または業務に怠慢で向上の見込みがないと認められたとき」に解雇できるとの規定があった。
- そこで、この規定に基づく解雇を行うこととした。
Xさん。あなたは当社に即戦力の営業社員として採用されましたが、3年目に入っても営業目標の半分も達成できていません。これまでも何度も注意してきましたが、一向に改善の見込みがありません。コロナ禍の影響で会社の業績も下降している中、これ以上あなたの雇用を継続することは難しい状況にあります。あなたも当社では実力を発揮できない状況よりは、別の業界へ転職した方が実力を発揮できるのではないでしょうか?普通解雇とするべきところですが、自ら退職していただければ割増退職金として2ヶ月分の賃金相当額を上乗せしますが、いかがでしょうか?
納得できません!確かに、営業成績は目標の半分にも到達できていません。しかし、そもそも目標が高すぎるのです。これは何度も行ってきたはずです。解雇されるいわれは全くありません。退職勧奨にも応じません。
そうですか。それでは残念ですが、あなたを普通解雇をさせて頂きます。このとおり解雇予告通知書をお渡しします。解雇日までに引継ぎ等を済ませておいてください。また、解雇日までに気が変わって退職勧奨に応じて頂けるのであれば、先程提示しました割増退職金はお支払いします。
解雇は納得できません。退職勧奨にも応じません。ひとまず解雇理由証明書を発行してください。弁護士に相談して今後の対応を検討させて頂きます。ガタッ(立ち去る)
なっ何!? (本気か?気が強い奴なので、捨て台詞として言っているだけとも思えるが。何もなければよいが、、、)
弁護士へ相談・依頼
会社の解雇に納得がいかない社員(労働者)は,まずは弁護士に法律相談に行き、弁護士より紛争についての解決の見込みや裁判手続の概要についてアドバイスや説明を受け、弁護士に依頼をします。
先生、会社から解雇されてしまいました。能力不足とのことです。納得がいきません。こんな解雇は不当解雇で争いたいです。どうでしょうか?
単なる職務上の能力が不足していることを理由に「能力不足」として解雇することはできません。解雇が認められるためには、著しい能力不足であることが客観的に認められる場合で、適切な指導や配置転換などにより改善機会を与える必要があります。解雇は無効となる可能性が高いと思います。一緒に戦いましょう!
心強いお言葉ありがとうございます。依頼させて頂きますので、是非お願い致します。不当解雇をした会社を許せません。
労働審判手続の申し立て準備
社員(労働者)は,弁護士と打合せ等を行い,申立てのための主張を整理し,証拠を収集及び整理します。それに基づいて,弁護士は労働審判手続申立書を作成します。
労働審判手続申立書の裁判所(労働審判委員会)への提出
弁護士は,申立書ができ次第,管轄裁判所に提出します。
事件の受理及び第1回労働審判手続期日の指定
事件が受理されると、裁判所は労働審判官(職業裁判官1名)、労働審判員2名(労働者側出身者1名,経営者側出身者1名)を指定し労働審判委員会を組織します。そして,原則として、申立がなされた日から40日以内に、第1回労働審判手続期日が指定されます(労働審判規則13条)。また,相手方である会社・社長に対して,第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書と一緒に申立書や証拠書類も送付されます。
第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書の受領
会社・社長は第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書と一緒に申立書や証拠書類を受領します(労働審判規則15条)。
はうわっ! 本当に裁判を起こされた! 「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」には期日が指定されており、その1週間前に指定された日までに答弁書という文書を裁判所までならないと記載されている。一体、どうすりゃいいんだ!そうだ、こんなときは顧問弁護士にすぐに相談だ!
弁護士に相談及び依頼(1週間以内)
会社・社長は,労働審判手続について弁護士に相談・依頼します。
出来るだけ速やかに労働法を専門として,労働審判手続について豊富な経験を有する弁護士に相談・依頼します。
先生!解雇した労働者から労働審判を申し立てられました。「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」では第1回期日が指定され、その1週間前までに答弁書を提出するように記載されています。どのようにうすればよいでしょうか?
社長、慌てる必要はありません。「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」を受け取った会社がとるべき対応は3つです。
- 弁護士への相談・依頼
- 答弁書の作成・証拠書類の整理及び提出
- 労働審判手続期日に向けた準備
この件は事前に相談頂いていますので大丈夫です。粛々と進めていきましょう。
心強いお言葉ありがとうございます。是非、労働審判の対応をお願いします!(こういうとき
顧問弁護士がいるとすごく助かる。日常的に相談している弁護士にすぐに相談できるというのは本当に重要だよな。一から弁護士探すのは大変だもの。)
参考記事
会社必見!第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状が届いたら行うべき3つのこと
会社必見!労働審判を依頼する弁護士の選び方
会社が労働審判の弁護士費用に関して知っておきたい4つのこと
答弁書の作成・証拠書類の準備及び提出(3~4週間程度)
裁判所(労働審判委員会)からは答弁書及び証拠書類の提出期限が定められています。
そこで,弁護士と打ち合わせ等を行い,会社・社長に有利な主張の準備や主張を裏付ける証拠の収集・整理を行います。
社長、労働者Xの解雇が有効であったことを証明するためには、下記のような証拠が必要となります。問題社員Xについては、対応をご相談頂き、アドバイスさせて頂いておりましたので大丈夫かと思います。ご準備をお願いします。
労働者の能力不足等が,就業規則上解雇事由となっていること
□ 就業規則
(特に中途採用者の場合)採用時に一定の能力が前提とされていたこと
□ 求人広告
□ 履歴書・職務経歴書
労働者の成績が,解雇がやむを得ないと考えられるほど低いこと
□ 人事考課の資料
□ 営業成績等パフォーマンスを客観的に示す資料
労働者の能力が,解雇がやむを得ないと考えられるほど低いこと
□ 試験等における成績等の資料
□ 労働者が作成した文書等で,能力不足が明らかとなるもの(誤りが多く含まれている文書等)
□ 始末書,顛末書
□ 取引先等からのクレーム文書等
能力不足が原因で,業務に支障が生じたこと
□ 取引先からのクレーム等
□ フォローした同僚の残業・メール
能力不足について,会社が注意指導を行ったこと
□ 業務指導書
□ 注意書
配置転換や退職勧奨など解雇を回避する配慮を行った事実
□ (配置転換を行った場合)辞令
□ 退職勧奨を行った状況に関する報告書等
分かりました。事前に相談したときに先生からアドバイスを受けてほとんどの証拠は取ってあります。すぐに提出いたします(解雇する前から日常的にアドバイスをもらっていたので、いざというときに慌てなくて済む。相談していなかったらこれらの証拠も用意できなかっただろうな。)
弁護士は,会社・社長が準備した証拠に基づいて答弁書を作成します。指定された期日までに答弁書や証拠書類を提出します。裁判所(労働審判委員会)は会社・社長側の主張を答弁書から把握しますので,最低でも第1回労働審判手続期日の1週間前には裁判所に届くように提出する必要があります。
参考記事
会社必見!労働審判の答弁書について知っておきたい5つのこと
10分で即チェック! 解雇無効・地位確認等請求労働審判事件で会社が行うべき主張10選
10分で分かる! 残業代請求労働審判事件で会社が行うべき主張5選
第1回労働審判手続期日に向けた準備(2~3週間)
また,第1回労働審判手続期日における裁判所(労働審判委員会)からの質疑応答へ対応するため,打ち合わせ等を行います。
併せて,最終的な解決に向けた方針も決定します(訴訟を辞さない覚悟で徹底的に争うのかor条件次第では労働審判手続にて早期解決を目指すのか等)。
いよいよ第1回労働審判期日が近づいてきました。当日は誰が出席するべきでしょうか?また、発言など注意すべき点がありましたら教えてください。
いよいよですね。当日は社長と問題社員Xの上司であるC部長にも出席頂きましょう。C部長はXの直属の上司として、Xの営業成績や勤務態度をよくわかっていますので重要な証人といえるからです。労働審判期日の当日は、裁判官(審判官)主導で質疑応答が行われます。会社に対する質問は、代理人である私が回答することもできますが、出席した会社関係者(社長とC部長)に直接発言することを求められる場合があります。
私やC部長も質問されるのですね。何を質問されるのか不安ですね。ちゃんと回答できればよいのですが。また、口が滑って余計なことを言わないかも不安です。
そんなこともあろうかと思い、想定問答集(想定Q&A)を作成しましたので、これをたたき台にして予行演習しましょう。私は何度もこの種の事件を経験していますので、この事案で裁判官が質問するポイントは大体分かります。丸暗記する必要は全くありませんが、ポイントを理解して、裁判所に正しく伝わるように意識する必要はあります。
※ 吉村労働再生法律事務所では、必ず想定問答集(想定Q&A)及び予行演習を行いますが、他の事務所は必ずしもそのようにはしていませんのでご注意ください。
想定問答集(想定Q&A)でポイントと質疑応答のイメージが分かりました。C部長にも想定問答集を共有して準備を進めたいと思います。
参考記事
会社必読!10分で分かる労働審判期日の発言で注意すべきこと
会社は第1回労働審判手続期日に誰が出席するべきか?
事前書面審理
社員(労働者)が提出した申立書・証拠書類と会社・社長側が提出した答弁書・証拠書類を裁判所(労働審判委員会)は事前に読み込んで確認します。特に,申立書と答弁書は,常勤の職業裁判官ではない労働審判員2名の自宅等へ郵送され,労働審判員は申立書と答弁書を読むことで労働審判手続期日への準備をします。裁判所によって運用が異なることがあります。また,裁判所によっては証拠書類も労働審判員の自宅へ郵送されることがあります。
第1回労働審判手続期日(2~3時間)
① 事前評議
当日の開始時刻前に,労働審判官(裁判官)と労働審判員で事前に評議(打ち合わせ等)をします。
② 労働審判廷への入廷
定刻になると,労働審判廷へ社員(労働者)・その代理人及び会社関係者・その代理人が案内されます。労働審判廷は,テレビの法廷ドラマのような法廷ではなく、1つの楕円形のテーブルに関係者一同が会する形で行われることが多いです。期日は、原則として、非公開です(労働審判法16条)。
※ 画像は大阪地方裁判所HP画像より引用
③ 導入説明
- まず,労働審判官(裁判官)より自己紹介や労働審判手続の簡単な説明が行われます。
- また,当事者双方より提出された書面の確認が行われます(5分程度)。
私が審判官(裁判官)の杓子定(しゃくしさだむ)と申します。横にいらっしゃるのが労働審判員のAさんとBさんです。まずは労働審判制度について簡単に説明させて頂きます。労働審判手続は、労働審判官(裁判官)と労働審判員2人の計3 人で構成する労働審判委員会が,原則3 回以内の期日で,トラブルになった権利関係について審理しながら,適宜,話合いによる解決である調停を試みる制度です。初回である第1回期日は、事実関係を確認させていただき、調停の話をもさせていただく予定です。これまで当事者双方から提出があったのは、申立人側においては申立書、証拠説明書、書証、相手方側は答弁書、証拠説明書、書証ということでよろしいでしょうか。
④ 審尋(1時間~2時間)
- 労働審判官(裁判官)や労働審判員から当事者双方に随時質問がなされます。
- 申立書や答弁書・証拠書類を事前に読み込み,疑問に思われる点について,質問が行われます。
- 質問への回答は,代理人ではなく,出頭した当事者が行うことを求められることがあります。
- また,労働審判官の許可を得て,当事者間でも質問(反対尋問的な質問)のやりとりを行うことがあります。
今回、会社は申立人のXさんを営業社員としての能力不足を理由に解雇をしています。解雇理由については、答弁書の主張のほか、営業成績の資料、営業活動の資料などが出されています。これに対して申立人のXさんの反論はどのようなものですか?
確かに営業成績は目標の半分に達成していませんでしたが、目標がそもそも達成不可能な数字で不当に高すぎるのです。私の営業成績でも十分会社の利益に貢献しています。
会社側では、申立人の反論について、再反論はありますか?今日はXさんの上司のC部長にも出席いただいていますので、Cさんからご説明お願いします。
申立人のXさん以外にも営業社員はおりますが、全員申立人よりも高い営業成績を残しています。Xさんは中途採用だからすぐには営業成績を残せないと弁解していますが、それは理由にはなりません。というのも、Xさんと同時期に中途採用された社員がおりますが、Xさんの1.5倍の営業成績を残しています。中途採用だからといって営業成績が残せない理由にはなりません。また、Xさんに対して何度も注意指導をしてきました。しかし、Xさんの営業活動・客先訪問件数は全く変わりません。つまり改善努力をしていないことは明らかです。
私は部長から再三の注意指導などは受けていませんでした。毎月の営業会議でも部長から営業成績について何か言われたことはありませんでした。
それは事実と異なりますね。実は毎月の営業会議の様子はICレコーダーで録音していました。その証拠として、音声データ(USBメモリ)とその録音反訳書を追加で証拠提出します。これによれば営業会議では毎回C部長から申立人のXさんに対して注意指導がなされていたことは明らかです。
⑤ 評議(10分程度)
一通り質疑応答が終わると労働審判委員会にて評議(打ち合わせ)を行います。その際,当事者は一旦労働審判廷から退廷して,別の待合室等で待つように指示されることが多いです。労働審判委員会により事実認定や法的評価,調停や労働審判の方針などが協議されます。
⑥ 調停(1時間程度)
- 再び,当事者双方に対して,労働審判廷へ入廷するように案内され,労働審判委員会より調停手続に移ることが宣言されます。
- その後,当事者は,労働審判廷に片方ずつ入れ替わりで労働審判廷に入り,調停が進められます(一方は、いったん退室し、別の場所で待機します。)。
- 労働審判委員会より法的な心証を伝えられ,調停に関する意向聴取,説得等が繰り返し行われます。
- 調停のやりとりで,第1回労働審判手続期日において当事者双方が合意すれば,手続は調停成立として,調停調書が作成され,終了します。
- 事実関係の審理や調停がまとまらない場合は,第2回労働審判手続期日が指定され,手続は続行となります。第2回期日は,当事者の予定を確認し,2週間~1ヶ月後に指定されることが多くあります。
労働審判委員会の評議が終わりました。これから調停に移りたいと思います。まずは、申立人側からお話を伺いたいと思いますので、一旦、相手方(会社側)は退席して待合室でお待ちください。
— 相手方関係者は退席し、労働審判廷には、労働審判委員会と申立人X及びその代理人だけとなる–
これまで提出された書面及び本日の審尋の結果、労働審判委員会としては解雇を無効であるとして復職することは難しいと思われます。ただ、一定の金銭的支払いを得て退職するという解決もあり得るかと思いますが、申立人側ではいかがでしょうか?
申立人としては、復職する意向は強くありませんので、金銭的に十分な補償をして頂くことが調停に応ずる条件になります。その金額については、予め申立人とも打ち合わせをしておりますが、最低でも賃金の6ヶ月分は要求したいと考えています。
分かりました。本事案では、賃金6ヶ月分の解決金を相手方に支払ってもらうのは難しいとは思います。しかし、ひとまず相手方の意向も確認してみたいと思います。ひとまず相手方と交代して頂きますので退席してください。
— 申立人関係者は退席し、労働審判廷には、労働審判委員会と相手方社長、部長及びその代理人だけとなる–
調停に関して先に申立人側の意向を確認しました。申立人としては、復職にこだわるつもりはなく、退職を前提とした解決に応ずることが可能とのことです。ただし、退職と引き換えに、賃金6ヶ月分の解決金を希望するとのことです。相手方のご意見はいかがでしょうか?
相手方としては、関係証拠から解雇が有効であることは明らかであると考えております。従って、本来は請求却下の労働審判を望みます。労働審判に対して申立人が異議申立をし、訴訟に移行したとしても、徹底的に争い、その結果会社側が敗訴する可能性は低いと考えています。従って、賃金6ヶ月分の解決金の支払にも応ずるつもりはありません。もっとも、会社は敗訴しないとしても、訴訟に移行した後の時間とコストをかけることは生産的ではないと考えています。そこで、諸般の事情に鑑み、早期解決の観点から、申立人の退職を前提に、賃金の2ヶ月分を解決金として支払うことによる解決であれば調停に応ずる用意があります。
相手方の意向は分かりました。申立人に再度確認します。申立人が賃金2ヶ月分で了承するのであればそれでよいのですが、それに応じない場合、賃金3ヶ月程度を相手方にお考え頂けると、申立人を説得しやすいのですがいかがでしょうか。
分かりました。申立人の能力を見抜けずに採用した会社にも責任があるともいえますし、ダラダラ裁判を継続することも本意ではありません。勝てる裁判であっても、そのために膨大な時間を費やす必要があります。そんな時間があれば本業に力を注いで売上を上げた方がよいです。もともと解雇を言い渡した際にも2ヶ月分の割増退職金を提示していた経緯もあります。弁護士雇って同じ金額では申立人も応じないでしょうから、1ヶ月分プラスして、最大3ヶ月分として頂いて結構です。
ご理解ありがとうございます。それでは、申立人側と交代して頂きますので退席してください。
— 相手方関係者は退席し、労働審判廷には、労働審判委員会と申立人X及びその代理人だけとなる–
相手方の意向を確認しました。相手方としては賃金2ヶ月分でないと調停には応じられないとのことです。労働審判委員会としても本事案において解決金として賃金6ヶ月分の解決金というのは難しいと考えております。あるとしても3ヶ月分程度が限度であると考えております。申立人にて3ヶ月分で応じていただけるのであれば相手方にも掛け合ってみますが、いかがでしょうか。
分かりました。一旦、労働審判廷を出て、申立人と二人で話し合いをしたいと思いますので、10分程度お時間をいただいてよろしいでしょうか?
了解しました。お話し合いいただいて、話が決まりましたら、再び、審判廷にお戻りください。
— 労働審判廷から出て、待合室にて、申立人X及び代理人だけで話をする–
先生、審判官はあのように言っていますが、どうすればよいでしょうか?
審判官の発言からすると、調停を突っぱねても、賃金3ヶ月分の解決金を支払う旨の労働審判を出す考えだと思います。それは、本事案については解雇は無効であるとの判断は難しいことを暗に示しています。このまま訴訟に移行した場合、最悪敗訴というリスクも相当程度存在すると思われます。ここは3ヶ月分で応じておいた方が無難だと思います。勝訴が確実に望めないのに、転職もせずに裁判に時間を費やすというのも、長い目でみれば人生の時間のロスになるという考え方もあります。一旦、区切りをつけて前に進むという考え方もありえるかと思います。
そうですね(まあ、本音を言えば、あの営業成績では厳しいことは理解していたからな。ここらが潮時か。。。)。分かりました。応ずることにします
— 申立人側が労働審判廷に戻り、労働審判委員会と申立人X及びその代理人だけとなる–
お待たせしました。申立人ともよく話し合った結果、賃金3ヶ月分の解決金で応ずることとしました。
わかりました。それでは、相手方と調整しますので、一旦退席してください。
— 申立人関係者は退席し、労働審判廷には、労働審判委員会と相手方社長、部長及びその代理人だけとなる–
お待たせしました。申立人側は賃金3ヶ月分の解決金で応ずるとのことでしたので、こちらでよろしいでしょうか。また、調停の条件として、解決金の支払期日を教えてください。その他、希望する調停条項があれば教えてください。
賃金3ヶ月分の解決金で了解しました。支払期日は1ヶ月ほど頂ければと思います。調停条項としては、通常の調停の条項のほか、本件の口外禁止条項も入れてください。
分かりました。それでは、申立人を労働審判廷に入ってもらい、調停条項の確認をしたいと思います。また、調書を作成する裁判所書記官を立ち会わせます。
— 申立人関係者が入廷し、労働審判廷には、関係者全員揃う–
調停が成立することとなりましたので、調停条項の確認をしたいと思います。なお、解決金の支払期日は1ヶ月後とし、口外禁止条項も入れるということになりましたが、申立人側はそちらでよろしいでしょうか。
それでは調停条項を読み上げますので、双方ご確認ください。・・・調停条項を読み上げる(省略)・・・以上で労働審判手続は終了とさせて頂きます。
参考記事
10分で分かる!会社が労働審判手続の調停で検討するべき4つのポイント
徹底比較!労働審判事件の調停・労働審判のどちらが会社にとってメリットがあるか?
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は,労働審判手続の流れについて説明をさせて頂きました。
全体の流れを意識することで,事前に何を準備・検討するべきか,どの程度のスケジュール感をもって対応するべきかがおわかり頂けたかと思います。
第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状を受け取り,どのように対応するべきかが分からない会社・社長の参考になれば幸いです。