2022年10月の社会保険適用拡大によりコストアップが避けられない中小企業に朗報です。パート・アルバイトなどの有期雇用契約社員の週の所定労働時間を1~3時間以上増やすと、最大で一人当たり225,000円(大企業は169,000円)の助成金がもらえることがあります。そこで、今回は、2022年10月の社会保険適用拡大に向けて、最も活用できそうなキャリアアップ助成金「短時間労働者労働時間延長コース」を解説いたします。
1 キャリアアップ助成金「短時間労働者労働時間延長コース」って、どんな助成金?
雇用する有期雇用労働者等について、週所定労働時間を3時間以上延長または週所定労働時間を1時間以上3時間未満延長するとともに処遇の改善を図り、当該措置により当該有期雇用労働者等を新たに社会保険の被保険者とした場合に受給できます。週3時間以上の労働時間延長か、週1時間以上3時間未満の労働時間延長+基本給アップによって、社会保険適用後の手取り給与減少防止策を講じた事業主に支給されます。
これだけだと分かりにくいと思いますので、具体例で説明します。
⑴ パート社員 週16時間 → 週20時間 勤務時間増加させた場合
時給:1045円 → 1045円(変更なし)
勤務時間:週16時間(週4日✕1日4時間) → 週20時間(週4日✕1日5時間)
※ 過去6ヶ月以上雇用
→助成金225,000円
例えば、週16時間(週4日勤務、1日あたり4時間)、時給1,045円で働いているパートAさんの労働契約を、週20時間(週4日勤務、1日5時間)に切り替え、2022年10月の社会保険適用拡大の際に社会保険に適用させれば、助成金225,000円を受給できます。
※過去6か月以上雇用している短時間労働者の週所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険に適用させた場合
※対象労働者1人当たり 225,000円〈生産性要件で284,000円〉(大企業は169,000円〈213,000円〉)
変更前 | 変更後 | 会社のコスト | |
時給 | 1,045円 | 1,045円 | |
週所定労働時間 | 16時間 | 20時間 | |
月額賃金 | 71,060円 | 88,825円 | 17,765円 UP |
厚生年金保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 8,052円 | 8,052円 UP |
健康保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 4,316円 | 4,316円 UP |
雇用保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 444円 | 755円 UP |
源泉所得税 | 0円 | 0円 | 0円 |
手取り月額賃金 | 71,060円 | 76,013円 | 合計30,888円 UP |
⑵ パート 週18時間 → 週20時間 勤務時間増加させた場合
時給:1100円 → 1170円(70円up)
勤務時間:週18時間(週4日✕1日4.5時間) → 週20時間(週4日✕1日5時間)
※ 過去6ヶ月以上雇用
→助成金110,000円
例えば、週18時間(週4日勤務、1日あたり4時間30分)、時給1,100円で働いているパートBさんの労働契約を、週4日1日5時間に切り替え、時給を1,170円にアップし、2022年10月の社会保険適用拡大の際に社会保険に適用させれば、助成金110,000円を受給できます。
※過去6か月以上雇用している短時間労働者の週所定労働時間を2時間以上3時間未満延長し、時給を6%以上上げて、社会保険に適用させた場合
※対象労働者1人当たり 110,0000円〈140,000円〉(大企業は83,000円〈105,000円〉)
変更前 | 変更後 | 会社のコスト | |
時給 | 1,100円 | 1,170円 | 70円 UP |
週所定労働時間 | 18時間 | 20時間 | |
月額賃金 | 84,150円 | 99,450円 | 15,300円 UP |
厚生年金保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 8,967円 | 8,967円 UP |
健康保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 4,806円 | 4,807円 UP |
雇用保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 497円 | 845円 UP |
源泉所得税 | 0円 | 0円 | 0円 |
手取り月額賃金 | 84,150円 | 85,180円 | 合計29,919円 UP |
⑶ パート 週19時間 → 週20時間 勤務時間増加させた場合
時給:1100円 → 1210円(110円up)
勤務時間:週19時間(週3日(1日5時間)+週1日(1日4時間)) → 週20時間(週4日✕1日5時間)
※ 過去6ヶ月以上雇用
→助成金55,000円
例えば、週19時間(週3日(1日5時間)+週1日(1日4時間))時給1,100円で働いているパートCさん(38)の労働契約を、週20時間(週4日勤務1日あたり5時間)に切り替え、時給を1,210円にアップし、2022年10月の社会保険適用拡大の際に社会保険に適用させれば、助成金55,000円を受給できます。
※過去6か月以上雇用している短時間労働者の週所定労働時間を1時間以上2時間未満延長し、時給を10%以上上げて、社会保険に適用させた場合
※対象労働者1人当たり 55,0000円〈70,000円〉(大企業は41,000円〈52,000円〉)
変更前 | 変更後 | 会社のコスト | |
時給 | 1,100円 | 1,210円 | 110円 UP |
週所定労働時間 | 19時間 | 20時間 | |
月額賃金 | 89,100円 | 102,850円 | 13,750円 UP |
厚生年金保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 9,516円 | 9,516円 UP |
健康保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 5,101円 | 5,101円 UP |
雇用保険料 | 加入できない | 加入 自己負担額 514円 | 874円 UP |
源泉所得税 | 180円 | 0円 | 0円 |
手取り月額賃金 | 88,920円 | 87,719円 | 合計29,241円 UP |
2 我が社は支給対象になるの?
キャリアアップ助成金を受給できる事業主は、以下を全てを満たす事業主です
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 該当するコースの対象労働者に対する労働条件、勤務状況、賃金についての書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
②のキャリアアップ管理者は、何か特別な資格が必要という訳ではありませんので、人事部長や小規模企業だと社長がなる場合が多いです。
③のキャリアアップ計画も専門的な知識などなくとも作成可能です。
なお、上記全ての要件を満たしていても、労働保険料の滞納がある場合、過去1年間に労働関係法令の違反がある場合、反社会的勢力と関係がある場合などは、助成金を受給できません。
3 全体の流れ
(引用元 厚生労働省パンフレット)
4 キャリアアップ計画書の作成・労働局へ提出
(1)「キャリアアップ管理者」を決定します。
労働者代表とキャリアアップ管理者は兼任できません。また、複数の事業所のキャリアアップ管理者の兼任もできませんので、本社のキャリアアップ管理者を人事部長とした場合、支社のキャリアアップ管理者は支社長、工場長などを選任します。
⑵ キャリアアップ計画の作成
「キャリアアップ計画書」と聞くと、何か人事の専門家やコンサルタントが作る難しい書類という印象を受けます。しかし、厚生労働省が書式を公表しています。それを活用して記載するだけで作成できます。
厚生労働省公表書式
申請様式のダウンロード(キャリアアップ助成金)(令和4年4月1日以降の取組に係る様式)
(厚生労働省パンフレットより引用)
① キャリアアップ計画期間
3年以上5年以内の計画期間を定めます。
② キャリアアップ計画
7 の「短時間労働者労働時間延長コース」を選択します。
③ 対象者
「 週所定労働時間の延長を希望するパートタイム労働者」と記載します
④ 目標
「対象者のうち20名程度に対し、週所定労働時間の延長を行う」と記載します。
全員について週所定労働時間の延長を行うわけではなく、あくまでも目標としての数値を記載します。
⑤ 目標を達成するために講じる措置
「労働時間についての希望を把握するための面談を実施」と記載します。
面談をするだけですので、特に難しいことはありません。
⑥ キャリアアップ計画全体の流れ
「パートタイム労働者に対し、週所定労働時間を3時間以上延長することを希望する者を募集し、面接などを行った上で週所定労働時間を延長し、新たに社会保険に適用させる」と記載します。
このとおりの流れで面談等を行えば足りますので、特に難しいことはありません。
⑶ 労働者代表の意見聴取
対象労働者らの意見が反映されるよう、労働者代表の意見を聴取します。
労働者代表者は、当該適用事業所における非正規雇用労働者も含むすべての労働者の代表者である必要があります。
また、労働者からの意見の聴取方法について、①社内掲示板、メール等の文書で周知し、意見を集約、②朝礼、説明会等の場で直接労働者に説明し、意見を集約、③その他となります。
⑷ 管轄労働局に計画書を提出して受給資格の認定を受ける
計画に着手する前に、管轄労働局に計画書を提出して認定を受ける必要があります。
厚生労働省公表書式を使って提出して認定を受けます。
厚生労働省公表書式
申請様式のダウンロード(キャリアアップ助成金)(令和4年4月1日以降の取組に係る様式)
5 週所定労働時間の延長を実施
上記計画書に沿って週所定労働時間延長を実施します。
具体的には、
雇用契約書(労働条件通知書)の作成・交付
増やした週の所定労働時間や社会保険の加入状況を記載した雇用契約書・労働条件通知書を作成して、労働者に交付します。
社会保険へ加入
週の所定労働時間を延長と同時に、社会保険に加入させるも手続を行います。
6 延長後6ヶ月間賃金を支給
5で労働時間を延長し社会保険に加入した雇用契約に基づいて、6ヶ月間、延長した時間働いてもらい、賃金(残業代を含む)もちゃんと払います。
7 支給申請
支給申請のタイミング
週所定労働時間延長後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に支給申請する必要があります。期限を過ぎてしまうと、支給されません。
※ 就業規則等の規定により、時間外手当を実績に応じ基本給等とは別に翌月等に支給している場合、6か月分の時間外手当が支給される日を賃金を支給した日(時間外勤務の実績がなく、結果として支給がない場合を含む 。)
※ 週所定労働時間の延長を行った日が賃金締切日の翌日でない場合は、週所定労働時間の延長を行った日以降の最初の賃金締切日後6か月分。いずれも勤務をした日数が 11 日未満の月を除く 。
支給申請書
厚生労働省が公表している申請書式をつかって、申請書を作成し、添付書類を揃えて、所轄の労働局へ提出します。
厚生労働省公表書式
申請様式のダウンロード(キャリアアップ助成金)(令和4年4月1日以降の取組に係る様式)
審査、支給決定
支給申請提出後、労働局にて審査がなされ、要件を満たす場合は支給決定がなされます。
支給額
⑴ 短時間労働者の週所定労働時間を3時間以上延長し新たに社会保険に適用した場合 〈〉は生産性要件を満たす場合の金額
1人当たり 225,000円〈284,000円〉(大企業は169,000円〈213,000円〉)
⑵ 労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長するとともに基本給を昇給し、新たに社会保険に適用させた場合
1時間以上2時間未満、10%以上昇給:1人当たり 55,000円〈70,000円〉(大企業は41,000円〈52,000円〉)
2時間以上3時間未満、6%以上昇給:1人当たり 110,0000円〈140,000円〉(大企業は83,000円〈105,000円〉)
※ ⑴と⑵あわせて、1年度1事業所当たり支給申請上限人数は45人までです。
※ 中小企業で、1年度に45人の短時間労働者の週所定労働時間を3時間以上延長し社会保険適用させれば、10,125,000円〈生産性要件を満たせば12,780,000円〉が受給できます。
しかも、「1年度1事業所当たり支給申請上限人数45人」は令和6年9月30日までこの上限が維持されると発表されていますので、3年度分の支給申請が可能で、3年度で最大30,375,000円〈生産性要件を満たせば38,340,000円〉もの助成金を受給できます。
※ 中小企業、大企業の判定は、資本金の額または資本金等がない場合は労働者数によって判定します。
常時雇用する労働者の数とは 、2か月を超えて使用される者(実態として2か月を超えて使用されている者のほか、それ以外の者であっても雇用期間の定めのない者および2か月を超える雇用期間の定めのある者を含む。)であり、かつ、週当たりの所定労働時間が、当該事業主に雇用される通常の 労働者と概ね同等(現に当該事業主に雇用される通常の週当たりの所定労働時間が40時間である場合は、概ね40時間である者をいう。)である者をいいます。
その他、詳細について
「短時間労働者労働時間延長コース」とは?
雇用する有期雇用労働者等について、週所定労働時間を3時間以上延長または週所定労働時間を1時間以上3時間未満延長するとともに処遇の改善を図り、当該措置により当該有期雇用労働者等を新たに社会保険の被保険者とした場合に受給できます。週3時間以上の労働時間延長か、週1時間以上3時間未満の労働時間延長+基本給アップによって、社会保険適用後の手取り給与減少防止策を講じた事業主に支給されます。
対象となる労働者は?
「短時間労働者労働時間延長コース」の対象となる労働者は、
⑴ 週所定労働時間を延長した後、6か月以上の期間、継続して支給対象事業主に雇用される有期雇用労働者等
⑵ ①から③のいずれかに該当する労働者
① 週所定労働時間を3時間以上延長した日の前日から起算して過去6か月以上の期間継続して、有期雇用労働者等として雇用された者
② 週所定労働時間を1時間以上2時間未満延長した日の前日から起算して過去6か月以上の期間継続して、有期雇用労働者等として雇用された者であり、かつ週所定労働時間の延長後の基本給が延長前の基本給に比べて10%以上昇給している者
③ 週所定労働時間を2時間以上3時間未満延長した日の前日から起算して過去6か月以上の期間継続して、有期雇用労働者等として雇用された者であり、かつ週所定労働時間の延長後の基本給が延長前の基本給に比べて6%以上昇給している者
⑶ 週所定労働時間を延長した日の前日から起算して過去6か月間、社会保険の適用要件を満たしていなかった者であって、かつ支給対象事業主の事業所において過去2年以内に社会保険に加入していなかった者
⑷ 週所定労働時間の延長を行った事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者
⑸ 支給申請日において離職していない者(自己都合の離職、天災等で事業継続困難または労働者の責めに帰す解雇を除く)
5つの全てに該当する労働者です。
短時間労働者の週所定労働時間延長の実施の注意点
上記のキャリアアップ計画書に基づき対象労働者の週所定労働時間延長を行います。実施にあたって、
⑴ 雇用する有期雇用労働者等について、週所定労働時間を3時間以上延長したまたは週所定労働時間を1時間以上3時間未満延長するとともに基本給の増額を図ったこと
⑵ 上記⑴により週所定労働時間を延長し、新たに社会保険の被保険者となった労働者を、延長後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して延長後の処遇適用後6か月分の賃金を支給したこと
⑶ 新たに社会保険の被保険者となった有期雇用労働者等について、基本給及び定額で支給されている諸手当を新たに社会保険の被保険者となる前と比べて減額していないこと
⑷ 上記⑴により週所定労働時間を延長した日以降の全ての期間について、当該労働者を雇用保険および社会保険の被保険者として適用させていること
⑸ 上記⑴により週所定労働時間を延長した際に、週所定労働時間および社会保険加入状況を明確にした雇用契約書等を作成および交付していること
⑹ 生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たしていること
⑴から⑹の全てを満たして実施することが必要です。
生産性要件とは?
企業において生産性向上の取り組みを支援するため、生産性を向上させた企業には助成額を割増します。
助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて6%以上伸びていれば、生産性要件を満たし、助成金が上記〈〉の金額に増額されます。
こちらも、算定シートを厚生労働省のホームページでダウンロードできます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00018.html
何か追加の取り組みを行わなくとも、計算のみで助成金が増額されますので、シートを作成して確認してみてください。
要件に該当すれば、追加の施策を行うことなく、増額した助成金を受けられます。ただ、提出書類が追加になりますので、申請準備に注意が必要です。
まとめ
以上、おわかりいただけましたでしょうか。
助成金申請のコツは、わからない部分は役所に質問することです。最初の1回の助成金申請が一番難しいかと思いますが、計画→実施→申請の流れを一度経験すれば、2回目以降は前よりも楽に行えるはずです。
毎年4月に助成金制度の改正が行われ、年度の途中でも、要件等が変更となる場合がありますので、申請の都度確認を行う必要はありますが、1回目申請の経験を次回の申請に生かせるかと思います。
申請後、審査に一定の期間を要し、支給までには数か月かかります。いつ支給されるかは審査の状況によって変わりますので、助成金をあてにした資金繰りを計画するのはリスクがあります。
ご相談等については、お近くの労働局、社会保険労務士会へお問い合わせください。
また、当事務所でも、顧問契約先様に限り、助成金の代理対応を承っておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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