在宅勤務制度の導入方法について、労働問題専門の弁護士が分かりやすく説明します。
在宅勤務とは
在宅勤務はテレワークの一形態
在宅勤務とは、所属するオフィスに出勤しないで自宅を就業場所とする勤務形態です。テレワークの一形態と整理されます。
テレワークには、本稿で開設する①在宅勤務、②サテライトオフィス勤務(所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方)、③モバイル勤務(移動中(交通機関の車内など)や、カフェなどを就業場所とする働き方)があるとされています。
在宅勤務は、オフィスに出勤したり、顧客訪問や会議参加などによって外出したりすることがなく、1日の業務の全てを自宅の執務環境の中で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用することができワーク・ライフ・バランスに資するメリットがあります。
また、令和2年1月以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大時に、職場の出勤率を低くすることが可能となり、通勤や職場内での感染リスクを抑え従業員の安全を守るというメリットがあるとして導入が拡大されました。また、オフィス賃料のコスト削減になるとして、企業の中には新型コロナウイルス感染症の感染拡大を機にオフィス面積を削減する動きもみられました。
在宅勤務制度の導入方法
- 在宅勤務の対象となる業務、人員などの検討
- 在宅勤務制度の制度設計(問題点の検討)
- 在宅勤務規程などの策定
- 在宅勤務の実施
在宅勤務でよくある問題
このようにメリットのある在宅勤務制度ですが、法的な課題やリスクもあります。
よくある問題としては、次のような問題があります。
テレワーク(在宅勤務等)と通勤手当・通信費用等
- テレワーク時の通勤手当を従来の定期代相当額の支給から実費支給に変更してよいか?
- 通信費用の負担はだれが負担するのか?
- セキュリティ対策の注意点は?
テレワーク(在宅勤務等)と事業場外みなし労働時間制
- テレワーク(在宅勤務等)に事業場外みなし労働時間制を適用することはできるか?
- テレワークに対応した最新の勤怠管理システムでも適用されるか?
テレワーク(在宅勤務等)と労働時間管理
- テレワーク(在宅勤務等)中の労働時間管理はどのように行えばよいか?
- テレワーク中の中抜け時間を認めるか?どのように管理するか?
- テレワーク中に裁量労働制やフレックスタイム制を使うことはできるか?
テレワーク(在宅勤務等)と期間限定・出社命令
- テレワーク(在宅勤務等)を期間限定とすることは認められるか?
- テレワーク(在宅勤務等)期間中に、オフィスでの会議の出席するために出社を命ずることはできるか?
- テレワーク(在宅勤務等)を、期間満了前に、会社の都合や本人のテレワークへの不適合などを理由に、解除することはできるか?
テレワーク(在宅勤務等)と過重労働・ハラスメント防止
- テレワーク中の過重労働防止のために会社はどのような配慮をするべきか?
- テレワーク中のハラスメントの防止
テレワーク(在宅勤務等)と同一労働同一賃金
- 正社員にテレワーク(在宅勤務等)を認めた場合、契約社員、パート、派遣社員にも認めなければならないか?
これらの問題について、以下解説いたします。
テレワーク(在宅勤務等)と通勤手当・通信費用等
テレワーク時の通勤手当
解説
通勤費用は、労働者が労務を提供するための費用、すなわち、弁済の費用として、民法485条により労働者の負担が原則となり、もともと企業に支給義務があるものではありません。
しかしながら、多くの企業においては、賃金規程等において、通勤手当や現物支給として通勤定期券を支給すると定めています。このように支給について賃金規程等で定められている場合には、通勤手当も賃金の一部となり、企業には支給義務があることになります。
労働者に現に支払う通勤手当が減額となる場合、就業規則の変更による労働条件の不利益変更(労契法10条)を踏まえた手続をとる必要があります。
通勤手当は社会保険料算定のための標準報酬決定のための基礎額にもなっていることから、減額となる金額によっては、標準報酬額が減少し、将来的な年金額にも影響する不利益があるという指摘もあります。
しかし、上述の通勤手当の性質からすると、そのような不利益があるとしても、変更の必要性・変更後の規定の相当性は肯定されると考えられます。
テレワークにより在宅勤務となる場合には、通勤のための公共交通機関の利用回数が減りますので、実費を負担するという観点で従来支給していた定期券相当額の手当や通勤定期券の現物支給は、企業にとっては過剰払いとなることから、実際の通勤に要した実費を支給するという旨の賃金規程等の変更は、必要性かあり、かつ相当な内容の変更であるといえるからです。
ただし、労契法10条を考慮して、その変更の必要性、変更後の規定内容の相当性等について、杜員に十分に説明するなど丁寧な手続をとることが適切です。
通信費の負担
解説
以下の事項は、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等に定めておくことが望ましいとされています。
- 労使のどちらがどのように負担するか
- 使用者が負担する場合における限度額
- 労働者が請求する場合の請求方法
情報通信機器
パソコン本体や周辺機器、携帯電話、スマートフォンなどについては、会社から貸与しているケースが多い。これら機器購入費は会社負担とする例が多い。
なお、労働者に作業用品その他の費用負担をさせる場合には、その旨の定めを就業規則に規定することが必要とされます(労基法89条5 号)。
通信費、光熱費
在宅勤務ではパソコン等の利用を伴うことが通常であり、インターネットの利用が不可欠ですが、自宅におけるインターネット接続について、個人としての使用と業務上の使用割合を特定することは困難です。電話料金についても、在宅勤務中の電話連絡について、会社が携帯電話を貸与していなければ、個人の家庭用電話や携帯電話を利用することになりますが、この場合に業務のための電話料金を特定することは困難といえます。光熱費も同様であり、プライベートと業務に要した分の費用の算出は困難といえます。
このように通信費・光熱費などは、業務使用分とプライベート分を明確に区分することは困難であるため、労働者の負担とする例が多いです。
または、一定割合は業務使用していることお前提に、通信回線使用料や電話料金、その他光熱費等を含め、在宅勤務に伴う労働者の費用負担をカバーするための定額の在宅勤務手当を支給する例がみられます。
その金額はさまざまですが、企業の実例では、月額3000 円から5000 円程度や、日額200 円~ 250 円、臨時特別手当l 万円から数万円に加えて毎月3000円を支給するなどです。これらの支給を行う際には、支給根拠として賃金規程等において支給規定を整備することが適切です。
消耗品費
これらの経費は会社が負担する例が多いです。例えば、文具消耗品は会社が購入したものを使用する、切手や宅配メール便等は事前に配布する、会社宛の宅配便は着払いとする等が考えられます。
会社が業務命令により在宅勤務を命じた場合は、勤務場所を変更したことにより新たに生じた履行費用として、民法485条但書に基づいて、会社が負担する義務を負うと解されます。これに対して、労働者が在宅勤務等を希望して会社が許可したような場合は同条本文に基づいて労働者が負担する義務をおうと解されます。
参考
テレワークガイドライン 4の(2)
セキュリティ対策の注意点
在宅勤務ではインターネットの利用が前提となりますが、インターネット利用に際し、セキュリティ対策が不可欠です。また、パソコンなどの情報通信機器の管理も適切になされる必要があります。
総務省は、「テレワークセキュリテイガイドライン〔第5 版〕」(令和3 年5 月)を公表し、その中でテレワークセキュリティ対策として、経営者が実施すべき対策、システムセキュリティ管理者が実施すべき対策、テレワーク勤務者が実施すべき対策等を示しています。
また、中小企業向けに「中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト) [第3版〕」(令和4年5 月)が公表されています。
在宅勤務におけるセキュリティ対策については、これらを参考に各社で取り組むことが望まれます。
在宅勤務規程などにおいて、会社の定めるセキュリテイガイドライン等を遵守することが規定するべきです。
テレワーク(在宅勤務等)と事業場外みなし労働時間制
テレワーク(在宅勤務等)の事業場外みなし労働時間制
解説
事業場外みなし労働時間制とは、労働者が事業場外で労働し、労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間を労働したものとみなすという制度です。
使用者は本来労働者の労働時間をタイムカードなどで把握する義務を負っています。しかし、事業場外で労働をする場合(例えば、外勤の営業社員など)、上司等がその場にいないので、労働時間の算定が困難な場合があります。このような場合、特定の時間(原則として所定労働時間)働いたものとみなす制度が事業場外みなし労働時間制です。
①労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること
②労働時間を算定し難いこと
在宅勤務の場合も事業場外で業務を従事することになりますので①は満たします。問題は②労働時間が算定し難いといえるかです。
この点、テレワークにおいて、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であるというためには、次の2つの要件を満たす必要があるとされます。
① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
以下の場合については、いずれも①を満たすと認められます。情報通信機器を労働者が所持していることのみをもって、制度が適用されないことはありません。
- 勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
- 勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
- 会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて労働者において判断できる場合
② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
以下の場合については②を満たすと認められます。
- 使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合
参考
テレワークガイドライン 6のウ
事業場外みなし労働時間制の採否するべきか?
メリット
- テレワークにおいて一定程度自由な働き方をする労働者にとって、柔軟にテレワークを行うことが可能となる
- 細かく労働時間把握せずとも所定労働時間を勤務したとみなされ、残業代が嵩むことはない
デメリット
- 自宅における勤務では公私のメリハリがなくなり生産性が落ちたり、そのために実態として長時間労働化したり、適切な労働時間管理がしにくくなる可能性がある
- 事業場における労働が一部発生する、一部事業場内、一部在宅の場合には、事業場内の労働時間は把握義務があることとなり、管理が難しくなる
各社が導入している勤怠システムを利用することで労働時間管理か可能なことが多いために、最近のテレワークにおいては、事業場外みなし労働時間制の採用を見送るケースも多い。
在宅勤務に、事業場外みなし労働時間制を採用する場合、就業規則や在宅勤務規程に定めをおくこと必要があります。
最新の勤怠管理システムと事業場外みなし労働時間制
最近ではスマートフォン等を用いて事業場外からの打刻を可能とする勤怠管理システムが普及しつつあります(ジョブカン、KING OF TIMEなど)。こういった最新の勤怠管理システムを利用している場合、「②労働時間を算定し難いとき」という要件が否定される可能性があります。
例えば、勤怠管理システム(パソコンまたはスマートフォンで同システムにログインした後に、打刻画面において「出勤」または「退勤」ボタンを押すことによって、出勤時間または退勤時間が打刻され、労働者がスマートフォン等の位置情報につきシステム上利用を許可していた場合には、システム上の位置情報取得機能により打刻時点における位置情報を把握することができる)を利用していたケースで、「②労働時間を算定し難いとき」という要件が否定された裁判例があります(セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件 東京高判令4・11・16)。
同システムは、使用者がその意思を持てば、従業員の出退勤時間が把握できるだけでなく、打刻時点における従業員の位置情報を把握することができる状態になっていることより、使用者としては、日報等の活用・工夫も併せれば、「労働時間を算定し難い」とまではいえない、と判断されるに至っており、会社側でこうしたシステムを取り入れた場合には「労働時間を算定し難い」という要件が否定されることもありえることを示した事例といえます。
もっとも、単に外部から出勤時間、退勤時間を打刻するシステムを導入していたとしても、位置情報などは取得せずに、出勤から退勤までの間の具体的な業務スケジュールも不明である場合は「労働時間を算定し難い」の要件を満たす余地は十分あるといえます。
テレワーク(在宅勤務等)と労働時間管理
テレワーク(在宅勤務等)中の労働時間管理
労働時間の適正把握義務
労基法上、使用者には労働時間の適正把握義務があると解されており、これはテレワーク(在宅勤務)時においても同様です。
使用者は厚生労働省が示す「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1 月20 日 「適性把握ガイドライン」)を参考にしながら、適切に労働時間管理を行う必要があります。
【労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置】
■労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること
■使用者は、労働者の労働日ことの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
(1)原則的な方法
・使用者が、自ら現認することにより確認すること
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
(2)やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合
①自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
②自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
③使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等においで慣習的に行われていないか確認すること
テレワーク時の労働時間の把握
適性把握ガイドラインでは、労働時間の確認や記録の方法として、使用者による現認、タイムカード、IC カード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基にすることを示しています。しかし、テレワーク時においては、労働者が事業場内にいるわけではないため、使用者(上司)による現認や、タイムカード、I C カードによる管理には適しません。
そのため、一般的には、会社が指定する勤怠管理システムに始業・終業時刻を入力する等の管理方法(パソコンまたはスマートフォンで勤怠システムにログインした後に、打刻画面において「出勤」または「退勤」ボタンを押すことによって、出勤時間または退勤時間が打刻されるシステムなど。)を採用していることが多いと思われます。
または、一日の終業時に、始業時刻及び終業時刻をメール等にて報告させるといった方法もあります。
これらの方法は、時刻入力は杜員自らが行うことが多いため、自己申告の側面もあります。そのため、上記適性把握ガイドラインの(2)の①~③を可能な範囲で補充する必要があります。例えば、実際の労働時間との乖離がないかをチェックするために、パソコンのログ記録やメールの送受信時間との乖離がないかを定期的に確認し、乖離がある場合はその理由を確認し労働時間を補正する対応も考えられます。もっとも、パソコンのログ記録やメール送受信記録等の確認が可能な場合に限られ、そのような方法がない場合は、自己申告に基づいて管理すれば足ります。
また、上記のような労働時間の適性把握が困難である場合は、前記のとおり事業場外みなし労働時間制の導入も検討します。
就業規則や在宅勤務規程により、テレワークの場合における労働時間の管理方法をあらかじめ明確にしておくとよいでしょう。
参考
テレワークガイドライン 7(2)
テレワークと中抜け時間
在宅勤務の場合、育児や介護等の事情により、勤務時間中に、業務から離れるいわゆる中抜け時間が生じることがあります。
中抜け時間を認めるか否か
まず、このような中抜け時間を取得することを認めるのか否かを検討します。中抜け時間を認めないという取扱ももちろん可能です。始業・終業時刻が曖昧になる可能性があることから、中抜け時間を原則的に認めないという方針をとる企業もあり、そのような取扱いも合理性があるといえます。
中抜け時間を認める場合の労働時間管理
中抜け時間について、労基法上、使用者は把握することとしても、把握せずに始業および終業の時刻のみを把握することとしても、いずれでも構いません。
テレワーク中の中抜け時間を把握する場合、その方法として、例えば1 日の終業時に、労働者から報告させることが考えられ、テレワーク中の中抜け時間の取扱いとしては、つぎの2つが考えられます。
休憩時間として取り扱い終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱う。
始業および終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱う。
(画像出典「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」パンフレットより抜粋 厚生労働省)
始業時間の繰上、終業時間の繰り下げは、就業規則に定めがあれば実施可能です。
例えば、9時始業、18時終業、休憩1時間の所定8時間とします。仮に日中1時間中抜けが予定されるのであれば、あらかじめ始業時刻を1時間早めて中抜け時間分労働する(始業時間の繰り上げ)、あるいは終業時刻を1時間遅らせる(終業時刻の繰り下げ)方法です。
しかし、始業・終業時間の変更は、労働者の自由に委ねられているわけではなく、厳密には事前の申請により行われるべきものです。労働者の判断で自由に繰上・繰下を行わせるためには、後記のとおり労使協定を締結してフレックスタイム制を導入するとよいでしょう。
中抜け時間の取扱いについては、あらかじめ使用者が就業規則等において定めておくことが重要です。
参考
テレワークガイドライン 7(4)
テレワークと裁量労働制やフレックスタイム制
テレワークにおいても、裁量労働制(専門業務型裁量労働制や企画業務型裁量労働制)の要件を満たす場合には、導入可能です。労働時間をみなし制とすることができます。
また、フレックスタイム制度を採用し、より自由度の高い在宅勤務とすることも可能です。企業によっては、労働義務のあるコアタイムをなくし、働き方の自由度を高めて在宅勤務において仕事と家事・育児等との両立に配慮する例もあります。
フレックスタイム制にした場合のメリットは、日々の実労働時間も労働者の決定により伸縮できる点です。
例えば、ある日に生じた中抜け時間が1時間で、その時間分の繰り上げ、繰り下げができなかった場合、その時間分を休憩時間として扱うことは可能です。しかし、それだと実労働時間が1時間減ってしまいますので、賃金が1時間分控除されてしまいます(ノーワークノーペイ)。フレックスタイム制であれば、清算期間内で所定労働時間(清算期間内における総労働時間)が確保できていればよいため、ある日の実労働間が7時間であったとしても、別の日に9時間労働することによって取り戻すことができるのです。
ただし、フレックスタイム制はみなし労働時間制ではありませんので、使用者には実労働時間の把握(労働日ごとの始業・終業時刻の確認・記録)が求められます。本来であれば、始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を差し引けば実労働時間となりますが、中抜けが生じた場合は、その開始時刻と終了時刻も把握しておかなければ、正しい実労働時間を把握できません。かなり厳しい労働時間管理が求められます。クラウドシステムを使った勤怠管理システム、離席の都度メールやチャットで申告させるなどがあります。Webカメラを常時ONとする方法もありますがプライバシーの問題から採用しずらいといえます。
裁量労働制やフレックスタイム制は、テレワークにおいて、公私のメリハリがなくなるという観点から、あえて導入しない企業もあります。
勤務時間の一部にテレワークを行う場合の移動時間
休憩時間の取扱
テレワーク(在宅勤務等)と期間限定・出社命令
テレワーク(在宅勤務等)と期間
解説
本来事業場に出社することを労働条件として採用した社員である場合に、在宅勤務を認めることは、就業の場所を変更する措置となります。もっとも、出社を要しない取扱いであるという点で、社員にとっては出社に伴う通勤負担を軽減する措置であるため労働条件が有利になる側面があるといえます。
そして、出社を前提とする労働契約である場合に、在宅勤務を認めることは、使用者が任意に労働条件を有利にする性質があり、一時的に出社義務を免除するものとして、期間限定とする取扱いは有効です。
テレワーク期間中の出社命令の可否
上記のとおり、在宅勤務を認めることは、一時的に出社義務を免除するものとして、使用者が任意に労働条件を有利にする性質があります。従って、在宅勤務期間中に、業務上の必要性に応じてオフィス等への出社を命ずる権限を使用者に留保することも可能です。
ただし、就業規則や在宅勤務規程において、無制約に在宅勤務ができるようになっていると、期間中に在宅勤務(出社しないこと)が「既得権」となってしまい、労働者が拒否する場合に出社を命ずることができなくなる可能性があります。
そこで、在宅勤務期間中に出社を命ずる場面が想定される場合は、就業規則や在宅勤務規程において、在宅勤務期間中に出社を命ずることがある旨の根拠規定を設けるべきです。
テレワークを期間満了前の解除
上記のとおり、在宅勤務を認めることは、一時的に出社義務を免除するものとして、使用者が任意に労働条件を有利にする性質があります。従って、在宅勤務期間の満了前に、在宅勤務を解除する権限を使用者に留保することも可能です。
ただし、就業規則や在宅勤務規程において、無制約に在宅勤務ができるようになっていると、期間中は在宅勤務することが「既得権」となってしまい、労働者が拒否する場合に解除を命ずることができなくなる可能性があります。
そこで、就業規則や在宅勤務規程において、在宅勤務期間の満了前であっても、使用者が解除できる根拠規定を設けるべきです。根拠規定には、テレワーク勤務に適さないなどの解除事由も定めておくとよいでしょう。
テレワーク(在宅勤務等)と過重労働・ハラスメント防止
テレワーク中の過重労働防止
テレワークについては、事業場から離れた場所で勤務をするため、結果的に長時間労働となってしまう場合があります。
上司がその場にいないので管理の程度が弱くなる、業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなる、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となる、などが原因となるのです。
使用者には安全配慮義務(労契法5 条)がありますので、次のような方策を採用するなどして、過重労働の防止に努める必要があります。
- メール送付時間帯の制限
- 会杜システムヘのアクセス制限
- 時間外・休日・深夜労働についてあらかじめ労使合意で時間数を設定する
- 時間外労働等を行う手続等を就業規則に明記する
- 労務管理システムを活用した自動警告
- 時間外・休日・深夜労働については原則禁止として個別許可制とする
- 勤務間インターバル制度
- 労働時間のみなし制の場合や管理監督者についても、始業と終業を記録し、長時間労働となっていないかを確認する(長時間労働者に対する医師の面接指導(労働安全衛生法66条の8) を担保するために「労働時間の状況」の把握義務(同法66条の8 の3) はある)
テレワーク中のハラスメントの防止
ハラスメント防止措置
テレワークに伴って生じるハラスメントについて、「テレハラ(テレワークハラスメント)」や「リモハラ(リモートハラスメント)」という言葉が使われることがあります。
事業主は、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等(以下「ハラスメント」といい
ます。)の防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務づけられており、テレワークの際にも、オフィスに出勤する働き方の場合と同様に、関係法令•関係指針に基づき、ハラスメントを行ってはならない旨を労働者に周知啓発する等、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要があります。
Webカメラの起動とハラスメント
解説
Web会議は、お互いの顔を確認した状態のコミュニケーションが可能となり、表情等を確認することで、会話だけよりもコミュニケーションを充実したものとできる側面があります。しかし、カメラに自宅の室内が映り込んだりし、プライベート空間をさらけ出すことにもなります。また、テレワーク時の服装や身なりも相手方に見えることとなります。そのため、ウェブ会議に際して、上司等の参加者が、部下等のプライベート空間や服装や身なり等について、相手を不快にさせるような指摘をしてしまい、「テレハラ」や「リモハラ」と呼ばれるハラスメントになる場合もあります。
そこで、社員がカメラ機能をオフにしたままの状態にしている場合に、カメラ起動を業務指示することはハラスメントになるかが問題となります。
確かに、カメラ起動については、プライバシーヘの配慮が必要であることから、必須とはいえない場合に常にカメラ起動を業務指示とすることは問題があるともいえます。
しかし、会議の性質上、より双方向のコミュニケーションを図るためには、カメラ起動について業務上必要性がある楊合もあります。
ウェブ会議は、オフィスで行っていた対面の会議を、テレワークに伴う代替手段として用いられるものです。オフィスで行う対面の会議の際、表情や服装・身なりについて現認されることは当然であり、Web会議においてもカメラ越しに現認される状況となったとしても、それ自体問題とはならないはずです。服装や身なりは、オフィスでの仕事に準じるものと考えれば、むしろ、仕事にふさわしくないあまりにもラフな服装や身なりのほうに問題があるといえます。
また、自宅(プライベート空間)の映り込みについては、ウェブ会議システムにて背景を調節することも可能です。
従って、業務上の必要性に応じて、ウェブ会議システムのカメラ起動を業務指示することは可能であると考えます。他方、必要性が乏しい場合には、カメラを起動せずに音声のみの対話で行えばよく、柔軟な対応が適切といえます。
テレワーク(在宅勤務等)と同一労働同一賃金
契約社員、パート、派遣社員とテレワーク
解説
テレワーク(在宅勤務等)とパート・有期法8 条の「待遇」
パート・有期法8 条では、職務の内容、職務の内容および配置の変更範囲、その他の事情に照らして、不合理な待遇の相違を設けることが禁止されています。
パート・有期法8 条の「待遇」は、「基本的に、全ての賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の全ての待遇が含まれること」とされています(パート・有期法施行通達平成31年1月31日付基発0130第1号)。
就業の場所に関係するテレワーク(在宅勤務等)という労働条件も同条の「待遇」に該当すると解されます。
したがって、テレワーク勤務についても、同条による不合理な待遇の禁止の対象となります。
パート・有期労働者とテレワーク
では、正社員に認めているテレワークについて、パート・有期労働者に認めないことは、不合理な待遇格差となるのでしょうか?
この点、単にパート・有期雇用労働者であるという理由だけで対象外とすることは、不合理と認められる可能性があります。
しかし、パート・有期労働者が行っている業務の性質上、テレワークが困難である場合には、職務の内容からして、テレワークの対象外であるとしても、直ちに不合理な待遇の相違とはいえないと考えられます。
例えば、正社員の担当業務は、営業や企画業務、業務管理が中心であり、テレワークが可能であるのに対して、パート・有期労働者の担当業務は、事業場にある資料や設備等を使用したり、また企業秘密保持の観点から社外への持出しや、社外からのアクセスが困難であるとか、小売やサービス業で、現場業務に従事していることから、テレワークが困難ということもあり得ます。
このような場合は、担当業務の性質の差に基づく待遇差といえ、直ちに不合理な待遇の相違とはいえないと考えられます。
派遣労働者とテレワーク
派遣労働者についても、不合理な労働条件の相違は禁止されております(労働者派遣法30条の3 )。もっとも、この責任は派遣元事業主にあります。
そして、派遣労働者について、不合理な労働条件かどうかは、派遣元における労使協定方式(一定の要件を満たす労使協定による待遇の確保)と派遣先均等・均衡方式(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保)のいずれかの方式において判断されることになります。
テレワークは就業の場所に関するものであり、派遣元と派遣先の労働者派遣個別契約書において特定されることが通常となりますが、派遣元事業主としては、派遣先において直接雇用されている社員についてはテレワークが認められていて、派遣杜員にはテレワークが認められていない場合には、派遣先と協議して、テレワークを適用することが可能かどうかを確認し、可能なのであれば、派遣就業の場所について別途覚書等を個別に締結して、テレワークを認めることが適切といえます。
他方、職務内容等からして、テレワークとすることが難しい場合には、不合理な待遇差とはいえません。
テレワークを廃止する方法
解説
テレワークを終了させる根拠規定がない場合に、新たに規定を設けるか、コロナのために設けた規定を削除することは、労働条件の不利益変更に該当します。この場合、変更の合理性と周知が必要となります(労働契約法9条、10条)。
もともとオフィスワークを前提とした雇用契約であり、それに戻すに過ぎないこと、不利益は感染リスクとなりますが、既に低下しており、リスク対応の方法も確立しているといえるの、不利益の程度は低いといえます。コロナ対応として時差出勤の実施することにより配慮することも考えられます。
また、オフィスワークで行うべき職務があることや、オフィスワークの方が生産性が高い(リモートワークで生産性が低下した)、生産性が低下したままの状態では企業の競争力も低下するので、リモートワークを解除する必要性も認められます。
従って、基本的には、不利益な変更に該当するとしても、就業規則の変更によりオフィスワークを命ずることは可能であると考えられます。
なお、雇用契約が当初からテレワークを前提とした契約の場合(いわゆるフルリモート契約の場合)は、その契約にオフィスワークに関する権限が規定されていない場合は、基本的に労働者の同意がなければオフィスワークを命ずることはできません。
在宅勤務と雇用契約書の記載
リモートワーク(在宅勤務)をする場合、自宅等が「就業場所」となります。
2024年4月1日から就業場所の変更の範囲を労働条件通知書に明示することが義務付けられます。
そのため、あらかじめ就業規則でテレワークについて規定されているなど、テレワークを行うことが通常想定されている場合は、就業場所としてテレワークを行う場所が含まれるように明示する必要があります。
「通常想定される」とは、明確な定義はないものの、
他方で、現場職のようにテレワークが現実的には想定されないような場合は記載は不要です(※2023年11月24日厚労省の担当部署に確認済み。)。
例 就業場所・業務に限定がない場合
就業場所
(雇入直後)本店及び労働者の自宅 | (変更の範囲)本店及び全ての支店、営業所、労働者の自宅での勤務 |
(雇入直後)福岡事務所及び労働者の自宅 | (変更の範囲)会社の定める場所( テレワークを行う場所を含む) |
例 完全に限定する場合(就業場所や業務の変更が想定されない場合)
就業場所
(雇入直後)品川オフィス及び「テレワーク規程」第5条に定める在宅勤務の就業場所 | (変更の範囲)品川オフィス及び「テレワーク規程」第5条に定める在宅勤務の就業場所 |
テレワーク就業規則
第4条テレワーク勤務とは、サテライトオフィス勤務及び在宅勤務をいう。
第5条在宅勤務とは、従業員の自宅又は自宅に準じる場所(会社が認めた場所に限る。)において情報通信機器を利用して業務を行うことをいう。
2024年4月からの労働条件通知書についてはこちら
2024年4月1日からの労働条件通知書の変更ポイント解説【書式・ひな形あり】