労働審判法(平成16年法律第45号)
第1条(目的)
この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。
第2条(管轄)
1 労働審判手続に係る事件(以下「労働審判事件」という。)は、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とする。
2 労働審判事件は、日本国内に相手方(法人その他の社団又は財団を除く。)の住所及び居所がないとき、又は住所及び居所が知れないときは、その最後の住所地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
3 労働審判事件は、相手方が法人その他の社団又は財団(外国の社団又は財団を除く。)である場合において、日本国内にその事務所若しくは営業所がないとき、又はその事務所若しくは営業所の所在地が知れないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
4 労働審判事件は、相手方が外国の社団又は財団である場合において、日本国内にその事務所又は営業所がないときは、日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
第3条(移送)
1 裁判所は、労働審判事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
2 裁判所は、労働審判事件がその管轄に属する場合においても、事件を処理するために適当と認めるときは、申立てにより又は職権で、当該労働審判事件の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
第4条(代理人)
1 労働審判手続については、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ代理人となることができない。ただし、裁判所は、当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができる。
2 裁判所は、前項ただし書の規定による許可を取り消すことができる。
第5条(労働審判手続の申立て)
1 当事者は、個別労働関係民事紛争の解決を図るため、裁判所に対し、労働審判手続の申立てをすることができる。
2 前項の申立ては、申立書を裁判所に提出してしなければならない。
3 前項の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
① 当事者及び法定代理人
② 申立ての趣旨及び理由
第6条(不適法な申立ての却下)
裁判所は、労働審判手続の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、その申立てを却下しなければならない。
第7条(労働審判委員会)
裁判所は、労働審判官一人及び労働審判員二人で組織する労働審判委員会で労働審判手続を行う。
第8条(労働審判官の指定)
労働審判官は、地方裁判所が当該地方裁判所の裁判官の中から指定する。
第9条(労働審判員)
1 労働審判員は、この法律の定めるところにより、労働審判委員会が行う労働審判手続に関与し、中立かつ公正な立場において、労働審判事件を処理するために必要な職務を行う。
2 労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命する。
3 労働審判員は、非常勤とし、前項に規定するもののほか、その任免に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
4 労働審判員には、別に法律で定めるところにより手当を支給し、並びに最高裁判所規則で定める額の旅費、日当及び宿泊料を支給する。
第10条(労働審判員の指定)
1 労働審判委員会を組織する労働審判員は、労働審判事件ごとに、裁判所が指定する。
2 裁判所は、前項の規定により労働審判員を指定するに当たっては、労働審判員の有する知識経験その他の事情を総合的に勘案し、労働審判委員会における労働審判員の構成について適正を確保するように配慮しなければならない。
第11条(労働審判員の除斥)
1 労働審判員の除斥については、非訟事件手続法(平成23年法律第511号)第12条並びに第13条第2項、第4項、第8項及び第9項の規定(忌避に関する部分を除く。)を準用する。
2 労働審判員の除斥についての裁判は、労働審判員の所属する地方裁判所がする。
第12条(決議等)
1 労働審判委員会の決議は、過半数の意見による。
2 労働審判委員会の評議は、秘密とする。
第13条(労働審判手続の指揮)
労働審判手続は、労働審判官が指揮する。
第14条(労働審判手続の期日等)
1 労働審判官は、労働審判手続の期日を定めて、事件の関係人を呼び出さなければならない。
2 裁判所書記官は、前項の期日について、その経過の要領を記録上明らかにしなければならない。
3 裁判所書記官は、労働審判官が命じた場合には、第一項の期日について、調書を作成しなければならない。
第15条(迅速な手続)
1 労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。
2 労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において、審理を終結しなければならない。
第16条(手続の非公開)
労働審判手続は、公開しない。ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。
第17条(証拠調べ等)
1 労働審判委員会は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをすることができる。
2 証拠調べについては、民事訴訟の例による。
第18条(調停が成立した場合の費用の負担)
各当事者は、調停が成立した場合において、その支出した費用のうち調停条項中に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとする。
第19条(審理の終結)
労働審判委員会は、審理を終結するときは、労働審判手続の期日においてその旨を宣言しなければならない。
第20条(労働審判)
1 労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。
2 労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。
3 労働審判は、主文及び理由の要旨を記載した審判書を作成して行わなければならない。
4 前項の審判書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、労働審判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。
5 前項の規定による審判書の送達については、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第一編第五章第四節(第百四条及び第百十条から第百十三条までを除く。)の規定を準用する。
6 労働審判委員会は、相当と認めるときは、第三項の規定にかかわらず、審判書の作成に代えて、すべての当事者が出頭する労働審判手続の期日において労働審判の主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、労働審判を行うことができる。この場合においては、労働審判の効力は、告知された時に生ずる。
7 裁判所は、前項前段の規定により労働審判が行われたときは、裁判所書記官に、その主文及び理由の要旨を、調書に記載させなければならない。
第21条(異議の申立て等)
1 当事者は、労働審判に対し、前条第4項の規定による審判書の送達又は同条第6項の規定による労働審判の告知を受けた日から2週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3 適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は、その効力を失う。
4 適法な異議の申立てがないときは、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
5 前項の場合において、各当事者は、その支出した費用のうち労働審判に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとする。
第22条(訴え提起の擬制)
1 労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合において、当該請求について民事訴訟法第1編第2章第1節の規定により日本の裁判所が管轄権を有しないときは、提起があったものとみなされた訴えを却下するものとする。
2 前項の規定により訴えの提起があったものとみなされる事件(同項後段の規定により却下するものとされる訴えに係るものを除く。)は、同項の地方裁判所の管轄に属する。
3 第1項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、民事訴訟法第137条、第138条及び第158条の規定の適用については、第5条第2項の申立書を訴状とみなす。
第23条(労働審判の取消し)
1 第20条第4項の規定により審判書を送達すべき場合において、次に掲げる事由があるときは、裁判所は、決定で、労働審判を取り消さなければならない。
① 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないこと。
② 第20条第5項において準用する民事訴訟法第107条第1項の規定により送達をすることができないこと。
③ 外国においてすべき送達について、第20条第5項において準用する民事訴訟法第108条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認められること。
④ 第20条第5項において準用する民事訴訟法第108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後6月を経過してもその送達を証する書面の送付がないこと。
2 前条の規定は、前項の規定により労働審判が取り消された場合について準用する。
第24条(労働審判をしない場合の労働審判事件の終了)
1 労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。
2 第二十二条の規定は、前項の規定により労働審判事件が終了した場合について準用する。この場合において、同条第一項中「当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた」とあるのは、「労働審判事件が終了した際に当該労働審判事件が係属していた」と読み替えるものとする。
第24条の2(労働審判手続の申立ての取下げ)
労働審判手続の申立ては、労働審判が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
第25条(費用の負担)
裁判所は、労働審判事件が終了した場合(第18条及び第21条第5項に規定する場合を除く。)において、必要と認めるときは、申立てにより又は職権で、当該労働審判事件に関する手続の費用の負担を命ずる決定をすることができる。
第26条(事件の記録の閲覧等)
1 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、労働審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は労働審判事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
2 民事訴訟法第91条第4項及び第5項並びに第92条の規定は、前項の記録について準用する。
第27条(訴訟手続の中止)
労働審判手続の申立てがあった事件について訴訟が係属するときは、受訴裁判所は、労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができる。
第28条(即時抗告)
1 第25条の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
2 第6条、第21条第2項、第23条第1項及び第25条の規定による決定に対する即時抗告は、執行停止の効力を有する。
第29条(非訟事件手続法及び民事調停法の準用)
1 特別の定めがある場合を除いて、労働審判事件に関しては、非訟事件手続法第二編の規定(同法第12条(同法第14条及び第15条において準用する場合を含む。)、第27条、第40条、第52条、第53条及び第65条の規定を除く。)を準用する。この場合において、同法第43条第4項中「第2項」とあるのは、「労働審判法(平成16年法律第45号)第5条第3項」と読み替えるものとする。
2 民事調停法(昭和26年法律第222号)第11条、第12条、第16条及び第36条の規定は、労働審判事件について準用する。この場合において、同法第11条中「調停の」とあるのは「労働審判手続の」と、「調停委員会」とあるのは「労働審判委員会」と、「調停手続」とあるのは「労働審判手続」と、同法第12条第1項中「調停委員会」とあるのは「労働審判委員会」と、「調停の」とあるのは「調停又は労働審判の」と、「調停前の措置」とあるのは「調停又は労働審判前の措置」と、同法第36条第1項中「前2条」とあるのは「労働審判法(平成16年法律第45号)第31条及び第32条」と読み替えるものとする。
第30条(最高裁判所規則)
この法律に定めるもののほか、労働審判手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
第31条(不出頭に対する制裁)
労働審判官の呼出しを受けた事件の関係人が正当な理由がなく出頭しないときは、裁判所は、五万円以下の過料に処する。
第32条(措置違反に対する制裁)
当事者が正当な理由がなく第二十九条第二項において準用する民事調停法第十二条の規定による措置に従わないときは、裁判所は、十万円以下の過料に処する。
第33条(評議の秘密を漏らす罪)
労働審判員又は労働審判員であった者が正当な理由がなく評議の経過又は労働審判官若しくは労働審判員の意見若しくはその多少の数を漏らしたときは、三十万円以下の罰金に処する。
第34条(人の秘密を漏らす罪)
労働審判員又は労働審判員であった者が正当な理由がなくその職務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
附 則 抄
第1条(施行期日)
この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第9条の規定は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
附 則 (平成23年5月2日法律第36号) 抄
第1条(施行期日)
この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
附 則 (平成23年5月25日法律第53号)
この法律は、新非訟事件手続法の施行の日から施行する。