偽装請負関係にあり、かつ、「法を免れる目的」もあると認められたが、労働者の承諾がないとして、労働契約申込みみなしの適用は否定された例
1 事案の概要
- 1999年9月17日 日本貨物検数協会(「日検」)は平成11年の派遣法改正により検数、検量等の業務が労働者派遣事業の禁止対象業務とされなくなったことを受け、検数等の業務に関わる就労システム整備に向けて協議を行うことを労働組合と合意した。
- 2001年1月23日 日検は、全日本港湾労働組合(「全港湾」)の東海地方名古屋支部(「全港湾名古屋支部」)を含む複数の労働組合との間で、検数等の業務について、日検及びその指定する事業体(「指定事業体」)に所属する労働者をもって遂行するよう努める旨の合意をした。
- 2003年~2013年 Xらは日興サービスと無期雇用契約を締結し、それ以降、日検名古屋支部にて業務に従事した。
- 2006年3月15日 日興サービス 設立された(指定事業体)
- 2006年3月~ 日検と日興サービスは、日検名古屋支部が行う検数業務に関して業務委託契約を締結し、更新を繰り返した。
- 2015年10月1日 改正派遣法施行(労働契約申込みみなし制度新設)
- 2015年10月以降、全港湾名古屋支部らは、日検名古屋支部に対して、組合員の日興サービスから被告への移籍などを要求した
- 2016年1月29日 日検と日興サービス間で、労働者派遣基本契約書を締結し、2016年3月31日付で労働者派遣個別契約書を作成。もっとも、日検も日興サービスもXらに対して労働者派遣契約に契約が切り替わったことを明示したり同意を得たりしておらず、Xらも2017年4月頃に労働委員会の求釈明に日検が回答するまで知らなかった。
- 2017年10月31日 Xらは日検に対して、「労働契約申込に対する承諾の通知」を送付し11月1日に到達した。
2 判例のポイント
2.1 主な争点
- 日検は日興サービスから労働者派遣の役務提供を受けていたか
- 日検には派遣法第40条の6第1項5号の「偽装請負等の目的」があったか
- Xらに労働契約申込みみなしに対する承諾の意思表示があったか
2.2 結論
- 日検は日興サービスから労働者派遣の役務提供を受けていた
- 日検には派遣法第40条の6第1項5号の「偽装請負等の目的」があった
- Xらに労働契約申込みみなしに対する承諾の意思表示は認められない
2.3 理由
① 日検は日興サービスから労働者派遣の役務提供を受けていたか
「原告らは,被告名古屋支部において,主に被告の指揮命令を受けて被告の検数業務に従事していたものであって,日興サービスの指揮命令を受けていたものとは認められない。このような事実関係に照らすと,日興サービスは,自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,被告の指揮命令を受けて,被告のために労働に従事させたものであり,被告に対し原告らを被告に雇用させることを約したわけでもないから,被告に対し,原告らを派遣労働者とする労働者派遣を行っていたものというほかない(労働者派遣法2条1号及び2号参照)。
よって,原告らは,被告と日興サービスが従前の業務委託契約を終了させて労働者派遣個別契約を発効させる前である平成28年3月31日まで,日興サービスから被告に派遣されていた派遣労働者の地位にあったものであって,被告は,原告らの労働者派遣の役務の提供を受けていたものというべきである。」
② 日検には派遣法第40条の6第1項5号の「偽装請負等の目的」があったか
「(1)労働契約の申込みみなし制度の趣旨について
労働者派遣法40条の6が定める労働契約の申込みみなし制度は,違法な労働者派遣の是正に当たって,派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするため,同条1項各号に該当する行為が行われた場合,当該行為を行った時点において,労働者派遣の役務の提供を受ける者が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす制度であり,その趣旨は,善意無過失の場合を除き,違法な労働者派遣を受け入れた者にも責任があり,そのような者に民事的な制裁を科すことにより,労働者派遣法の規制の実効性を確保することにあるものと解するのが相当である(厚労省職業安定局長職発0930第13号平成27年9月30日「労働契約申込みみなし制度について」参照)。
(2)適用潜脱目的について
ア 労働者派遣法40条の6第1項5号は,労働者派遣の役務の提供を受ける者が請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結することについて,適用潜脱目的を有していたことをみなし申込みの要件としている一方,同項ただし書は,その者が同条1項各号に該当する行為について善意無過失であった場合には労働契約の申込みみなし制度の適用を免除している。
このような文理に照らすと,労働者派遣法40条の6第1項5号が定める労働者派遣法やこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)は,労働者派遣以外の名目で契約を締結したこと及び当該契約に基づき労働者派遣の役務の提供を受けていることの主観的な認識(悪意)又は認識可能性(過失)とは必ずしも同一ではなく,むしろ,このような形式と実質の齟齬により労働者派遣法等による規制を回避する意図を示す客観的な事情の存在により認定されるべきものと解するのが相当である。
イ これを本件についてみると,次のような客観的な事情の存在を指摘することができる一方,これらの事情が労働者派遣法等による規制を回避する意図を示すものではないとするに足りる事情は見当たらない。
(ア)日興サービスやその母体である東海ワッチが被告の指定事業体とされたのは,平成11年法律第84号により検数等の業務について労働者派遣が可能となったことを契機とするものであったのだから,被告は,日興サービスの従業員を被告名古屋支部での検数業務に従事させるためには,日興サービスとの間で労働者派遣契約を締結するのが自然な帰結であったはずである。そうであるにもかかわらず,被告は,そのような形式によらず,日興サービスが指定事業体となった趣旨に反して,あえて業務委託契約を締結していた。
(イ)このように,被告は,日興サービスとの間で労働者派遣契約ではなく業務委託契約を締結していたのであるから,原告らに対する指揮命令を日興サービスに委ねていたのであれば,原告らとの関係で労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の規制を受ける立場にはなかったはずである。そうであるにもかかわらず,被告は,実際には,原告らを含む日興サービス従業員を指揮命令下に置いて検数業務に従事させることで労働者派遣の役務の提供を受けていたものであって,実態として日興サービスらが指定事業体とされた趣旨が実現されていたばかりか,その期間も,日興サービスの設立から日興サービスとの業務委託契約終了まで約10年間という長期間に及んでいた。
(ウ)しかも,検数事業の許可を受けた者は,公正に検数等の業務を行うことが法律上義務付けられている(港湾運送事業法16条の2)ため,検数業務に当たる者は,熟練した者であることが望ましいといえる一方,平成27年法律第73号による改正前の労働者派遣法は,派遣労働者の派遣可能期間を無期雇用であっても3年間に制限していたから,熟練した労働者による長期間の労働者派遣を受けることが困難であるという事情が存在した。他方,業務委託契約に基づき被告名古屋支部で就労していた原告らには,そこでの就労について期間制限などが存在した形跡がない。
ウ 以上の客観的な事情を総合すると,被告は,労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)で,日興サービスとの間に業務委託契約を締結し,これにより労働者派遣の役務の提供を受けていたものであって,この適用潜脱目的は,労働契約の申込みみなし制度の施行(平成27年10月1日)後も,当該業務委託契約が終了する平成28年3月31日まで継続していたものと認められる。」
③ Xらに労働契約申込みみなしに対する承諾の意思表示があったか
「労働契約の申込みみなし制度は,違法な労働者派遣の是正に当たって,派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにすることを目的とするものであるところ,ここで労働者の希望を的確に反映するために,当該行為が行われた場合に労働者派遣の役務の提供を受けた者との間に直ちに労働契約を成立させるのではなく,その成立を労働者の承諾の意思表示に係らしめることで,労働者に対して派遣元との従前の労働契約の維持と派遣先との新たな労働契約の成立との選択権を付与したものであるといえる。そして,労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みに対する承諾の意思表示は,このような選択権の行使の結果として派遣先との間に新たな労働契約を成立させるものであるから,通常の労働契約締結における承諾の意思表示と何ら異なるものではない。」
「全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部が,被告が原告らを含む日興サービス従業員である組合員を直接雇用することを求めるものである。しかし,本件各要求等は,労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みの存在を前提とするものではなく,むしろ,本件協定に定められた指定事業体の趣旨からすると日興サービスは被告の退職者の受け皿であるべきであるのに現状がそうなっていないことを問題視し,日興サービス従業員を被告に移籍させるべきであるという考えから行われているものであって,しかも,被告との間で,本件各要求等に基づき,今後,直接雇用の対象者,移籍時期,労働条件等について具体的な協議を行うことを予定したものであることが明らかである。そうすると,このような趣旨及び内容の本件各要求等をもって,派遣先である被告の原告らに対する労働契約のみなし申込みを受けて被告との間に新たに労働契約を締結させるためにされた承諾の意思表示と評価することはできない。」
3 判決情報
3.1 裁判官
裁判長裁判官:井上泰人
裁判官:伊藤達也 佐藤久貴
3.2 掲載誌
- 労働判例1228号33頁
- 萬井隆令・労働法律旬報1970号35頁 派遣法40条の6適用の要件と労働者の「承諾」:全港湾・日検事件〈判例研究〉
- 奥田香子・法学セミナー795号121頁 労働契約申込みみなし制度の適用と労働者の承諾〈最新裁判例研究/労働法〉
- 小宮文人・季刊労働法273号244頁 偽装請負と労働者派遣法の労働契約申込みみなし制度適用の有無:日本貨物検数協会(日興サービス)事件〈重要労働判例解説〉
- 塩見卓也・民商法雑誌157巻3号591頁 偽装請負事案における労働者派遣法40条の6の適用:日本貨物検数協会(日興サービス)事件〈労働・社会保障判例紹介〉
- 桑島良彰・労働法律旬報1989号40頁 労働者派遣法40条の6にもとづく雇用契約の成立:日本貨物検数協会(日興サービス)事件〈労働判例の実務的検討3〉
- 松井良和・法律時報93巻9号152頁 労働者派遣法における労働契約申込みみなし制度の適用と労働者の承諾の有無:日本貨物検数協会(日興サービス)事件〈労働判例研究327〉
判決主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決理由
第1 請求
1 原告らが被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の概要
本件は,日興サービス株式会社(以下「日興サービス」という。)従業員である原告らが,被告は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(平成24年法律第27号による改正前の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」。以下,上記改正の前後を通じて「労働者派遣法」という。)及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(以下「適用潜脱目的」ともいう。)で,かねてより日興サービスとの間で業務委託の名目で契約を締結し(いわゆる偽装請負),労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めずに原告らによる労働者派遣の役務の提供を受けていたから,労働者派遣法40条の6第1項5号に基づき,同条施行の平成27年10月1日以降,原告らに対して労働契約の申込みをしたものとみなされ,原告らも被告に対してこれを承諾する意思表示をしたと主張して,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認をそれぞれ求めた事案である。
被告は,要旨〔1〕原告らは被告が日興サービスに委託した検数業務の補助業務を行っていたのであって,被告は原告らの労働者派遣の役務の提供を受けていない,〔2〕被告は労働者派遣法40条の6施行(平成27年10月1日)後に日興サービスとの間で業務委託契約を締結したものではなく,また,適用潜脱目的もなかった,〔3〕被告は日興サービスとの間で平成28年3月31日までに労働者派遣契約を締結して同日に業務委託契約を終了させており,原告らによる承諾の意思表示はそれから労働者派遣法40条の6第2項が定める1年経過後の平成29年10月31日にされているのであって,それ以前にあったのは,原告らが所属する労働組合による直接雇用を求める団体交渉の要求等であったにすぎないなどと主張する一方,原告らは,平成28年4月1日以降も実質的に偽装請負状態が継続していたのであって,被告と日興サービスの密接な関係を踏まえると1年間の期間制限経過を主張することが信義則に反するなどと反論している。
2 前提事実
(1)労働者派遣法の定め
省略
(2)当事者等
ア 被告
(ア)被告は,流通貨物に関する検数,検量及び検査に関する証明等の事業を行う一般社団法人であり,港湾運送事業法4条に基づく国土交通大臣の許可を受けて,同法2条1項6号が定める検数(船積貨物の積込又は揚陸を行うに際してするその貨物の箇数の計算又は受渡の証明をいう。)事業を行っている。なお,検数事業の許可を受けた者は,同法16条の2に基づき,公正に検数を行わなければならないとされている。
(イ)被告は,東京都中央区に主たる事務所を設置するほか,名古屋市,大阪市,横浜市等に従たる事務所を設置している(以下,名古屋市に設置された被告の従たる事務所を「被告名古屋支部」という。)。
イ 日興サービス
(ア)被告は,平成11年法律第84号による労働者派遣法の改正により,検数,検量(港湾運送事業法2条1項7号)及び鑑定(港湾運送事業法2条1項8号)の業務(以下,これら3つの業務を併せて「検数等の業務」という。)が,労働者派遣事業の禁止対象業務とされなくなったことを受け,検数等の業務を扱う一般社団法人全日本検数協会,一般社団法人日本海事検定協会及び一般財団法人新日本検定協会(以下,被告とこれら3協会を併せて「被告ら4協会」という。)とともに,労働組合との間で,平成11年9月17日,検数等の業務に関わる就労システム整備に向けて協議を進めていくことなどを内容とした覚書を作成した。
(イ)被告ら4協会は,全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)の東海地方名古屋支部(以下「全港湾名古屋支部」という。)を含む複数の労働組合との間で,平成13年1月23日,前記(ア)の覚書を踏まえ,以下のとおり合意した。(以下「本件協定」という。)
a 被告ら4協会は,検数等の業務について,被告ら4協会及びその指定する事業体(以下「指定事業体」という。)に所属する労働者をもって遂行するよう努力するものとする。
b 指定事業体に所属する労働者とは被告ら4協会を退職した検数等の業務の技能者で,引き続き就労意思と能力を有する者等とする。
c 本件協定の取扱いに疑義が生じた場合,労使協議により解決するものとする。
(ウ)日興サービスは,東海ワッチサービス株式会社(以下「東海ワッチ」という。)が平成18年3月15日,新設分割を行い設立した株式会社であり,船舶貨物の検品及び仕分け作業並びに一般労働者派遣事業等を目的としている。
(エ)日興サービス及び東海ワッチは,被告の指定事業体である。
(オ)日興サービスは,被告との間で,日興サービスが設立された頃(※平成18年3月),被告名古屋支部が行う検数業務に関連して業務委託契約を締結し,その後,当該業務委託契約は,複数回更新された。
(カ)被告は,日興サービスとの間で,日興サービスを派遣元,被告名古屋支部を派遣先として,労働契約の申込みみなし制度の施行(平成27年10月1日)後である平成28年1月29日付けで,労働者派遣基本契約書を作成し,平成28年3月31日付けで,被告名古屋支部西部現業一課,被告名古屋支部現業一課,被告名古屋支部西部現業二課及び被告名古屋支部四日市事務所のそれぞれについて,業務内容を貨物の検品及び仕分作業その他関連業務,始期を同年4月1日とした労働者派遣個別契約書を作成した。
ウ 原告ら
(ア)原告A,原告B,原告C,原告D及び原告Eは,東海ワッチとの間で,別紙2「原告一覧表」の入社日欄記載の日(※平成15年~平成17年)に,それぞれ期間の定めのない労働契約を締結し,その後,当該各労働契約は,前記イ(ウ)の新設分割により東海ワッチから日興サービスに承継された。その他の原告らは,日興サービスとの間で,別紙2の入社日欄記載の日(平成18年~平成25年)に,それぞれ期間の定めのない労働契約を締結した。
(イ)原告らは,平成27年10月1日以降,いずれも別紙2の就業場所欄記載の被告名古屋支部の部署が担当する場所で業務に従事している。原告らは,平成28年3月31日まで,日興サービスと被告の間の業務委託契約に基づく業務に従事していた。
(ウ)原告らは,港湾産業やその関連産業で働く労働者等によって組織された労働組合である全港湾の組合員である。原告らのうち,別紙2の所属組合欄に「名古屋支部」と記載された者は,全港湾名古屋支部日興サービス分会に所属し,同所属組合欄に「阪神支部」と記載された者は,全港湾関西地方阪神支部日興サービス分会に所属している(以下,全港湾関西地方阪神支部を「全港湾阪神支部」といい,原告らのうち,全港湾名古屋支部日興サービス分会に所属する者を「原告ら(名古屋支部組合員)」,全港湾阪神支部日興サービス分会に所属する者を「原告ら(阪神支部組合員)」という。)。
(3)原告ら所属組合と被告とのやり取り等
ア 全港湾名古屋支部は,被告名古屋支部に対し,平成27年10月26日付けの「検数部会要求書」と題する書面により,各種要求を行うとともに,これらについて団体交渉の席上で回答することを求めた。また,全港湾名古屋支部は,被告に対し,同日付けの「支部統一要求書」と題する書面により,各種要求を行うとともに,団体交渉の席上で回答することを求めた。
イ 全港湾阪神支部は,被告に対し,平成27年11月6日付けの「団体交渉申入れ」と題する書面により,全港湾阪神支部日興サービス分会の組合員を被告に移籍(転籍)させることについて,団体交渉を申し入れた。
ウ 全港湾名古屋支部は,被告に対し,平成28年2月10日付けの「支部統一要求書」と題する書面により,各種要求を行うとともに,団体交渉の席上で回答することを求めた。
エ 全港湾阪神支部は,被告との間で,平成28年3月23日,被告の今後の雇用に関する確認書(以下「本件確認書」という。)を作成した。
オ 被告,日興サービス,全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部のそれぞれの担当者は,平成28年8月10日,被告名古屋支部において打合せを行った。
カ 全港湾阪神支部は,被告に対し,平成28年8月24日付けの「団体交渉申入れ」と題する書面により,全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部に所属する日興サービス従業員を被告へ移籍させることに関して,団体交渉を申し入れた。
キ 全港湾阪神支部は,被告に対し,平成28年9月28日付けの「抗議及び団体交渉再申入れ」と題する書面により,被告が全港湾阪神支部による団体交渉申入れを拒否することは不当であると指摘した上,組合員を日興サービスから被告に移籍させることなどを要求した。
ク 全港湾名古屋支部は,被告に対し,平成28年10月28日付けの「経営各位」宛ての「支部統一要求書」と題する書面により,各種要求を行った。
(4)不当労働行為救済命令申立て
全港湾阪神支部は,被告を被申立人として,大阪府労働委員会に対し,平成28年11月16日,同年8月24日付けで申入れた団体交渉に応じることなどを求め,不当労働行為救済命令を申し立てた。
(5)みなし申込みに対する承諾
原告らは,被告に対し,それぞれ,平成29年10月31日付けの「労働契約の申込に対する承諾の通知」と題する書面により,被告は労働者派遣法40条の6第1項5号に該当するため,原告らに対し労働契約の申込みをしたものとみなされることを指摘した上,当該申込みに対して承諾の意思表示を行った。上記各書面は,同年11月1日,被告に到達した。
3 争点及び当事者の主張
(省略)
第3 争点に対する判断
1 認定事実
前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)被告と日興サービスの関係等
ア 被告の指定事業体である日興サービスの平成27年4月1日時点の役職者は,代表取締役1名,常勤取締役1名,非常勤取締役1名,監査役(非常勤)1名,部長3名,係長7名,経理等担当者1名であったところ,そのうち代表取締役,常勤取締役は,被告の嘱託職員でもあった。また,上記非常勤取締役,部長3名及び監査役は,いずれも被告名古屋支部の次長職又は課長職でもあったが,そのうち部長3名は,当時,被告の役職者としての業務を行っていなかった。
日興サービスの平成28年4月1日時点の役職者は,代表取締役1名,常勤取締役1名,非常勤取締役1名,監査役(非常勤)1名,部長2名,係長6名,経理等担当者1名であったところ,そのうち常勤取締役は,被告の嘱託職員でもあり,部長1名は,被告の職員であった。また,上記代表取締役,非常勤取締役,監査役及び部長1名は,被告名古屋支部の次長職又は課長職でもあったが,そのうち代表取締役及び部長1名は,当時,被告の役職者としての業務を行っていなかった。
イ 被告は,日興サービスとの間で,日興サービスが設立された頃(※平成18年3月),被告名古屋支部が行う検数業務に関連して業務委託契約を締結し,その後,当該業務委託契約は,複数回更新されたが,無期雇用派遣労働者を派遣可能期間制限の対象から外した平成27年法律第73号による改正後の労働者派遣法40条の2の施行(平成27年9月30日)及び労働契約の申込みみなし制度の施行(平成27年10月1日)のいずれも後である平成28年1月29日,日興サービスを派遣元,被告名古屋支部を派遣先とする労働者派遣基本契約を締結した。
ウ 被告名古屋支部総務次長であるS(以下「S」という。)は,平成28年3月30日,日興サービス及び他の被告の指定事業体に対し,「派遣に伴い(中略)認識が必要となります。」,「各社調べるなり,勉強してください」などとして,派遣元が労働者を派遣労働者として雇用する場合には,労働条件,就業条件及び派遣料金の明示をしなければならない旨を説明したメールを送信した。なお,Sは,当時,日興サービスの非常勤取締役であった。
エ 被告は,日興サービスとの間で,平成28年3月31日,原告らの就業場所である被告名古屋支部西部現業一課,被告名古屋支部現業一課,被告名古屋支部西部現業二課及び被告名古屋支部四日市事務所のそれぞれについて,業務内容を貨物の検品及び仕分作業その他関連業務,始期を同年4月1日とした労働者派遣個別契約を締結した。
オ 被告は,平成29年10月1日時点で,1295名の従業員がおり,うち308名が被告名古屋支部に所属している。日興サービスは,同月時点で,134名の従業員がいる。
(2)原告らの従事した業務等
原告らは,平成27年10月1日以降,いずれも別紙2の就業場所欄記載の被告名古屋支部の部署が担当する場所で業務に従事しているところ,その就労については以下の事実が認められる。
ア 被告名古屋支部現業一課
(ア)被告名古屋支部現業一課は,在来船や港湾倉庫での貨物受渡しに立ち会う業務を担当しており,原告Aは,平成28年1月18日以降,被告名古屋支部現業一課が担当する現場において,船から荷物を揚げて倉庫に入れる際に行う個数や損傷の有無の確認,コンテナからの荷物の積み降ろし,インゴット等への切り付け等の業務を行っている。原告Aは,上記業務について,被告の従業員約30名及び日興サービスの従業員3名と分担して実施している。
(イ)被告名古屋支部現業一課が担当する現場では,原告Aら日興サービス従業員も被告が作成する手配板により,翌日の始業時刻や業務内容を確認する。また,船の到着時刻の関係で予定とは異なる時刻に出勤する必要がある場合等は,被告の従業員が直接,原告Aら日興サービス従業員に対して連絡を行い,その他,業務に関する指示は,被告あるいは倉庫会社の従業員が主に行っている。
(ウ)被告は,原告Aに対し,被告の制服のほか,被告名義で発行する身分証明書,検数・検量事業従事者証を交付し,業務中は,その着用・携行を義務付けていた。
(エ)前記(ア)ないし(ウ)について,平成28年4月1日の前後で変化はない。
イ 被告名古屋支部西部現業一課
(ア)被告名古屋支部西部現業一課は,コンテナターミナルゲートやコンテナ船での貨物受渡し業務を担当しており,原告Eは,集中管理ゲートにおいて,コンテナの損傷確認の業務を行い,原告G及び原告Hは,コンテナターミナル等において、コンテナの個数確認や損傷確認等の業務を行っている。これら業務については,被告名古屋支部西部現業一課に配属されている被告の従業員も行っており,同一の作業を分担して行うこともある。
(イ)被告名古屋支部西部現業一課が担当する現場では,原告Eら日興サービス従業員も被告が作成する予定表又は手配表により,今後の予定及び業務内容を確認する。また,原告G及び原告Hは,船の到着時刻により作業時間が変更になることがあるため,被告の従業員が直接,翌日の出勤に関して連絡を行うこともある。その他,業務に関する指示は,被告の従業員が主に行っている。
(ウ)被告は,原告E,原告G及び原告Hに対し,被告の制服のほか,被告名義で発行する身分証明書,社員証又は入館証を交付し,業務中は,その着用・携行を義務付けていた。
(エ)前記(ア)ないし(ウ)について,平成28年4月1日の前後で変化はない。
ウ 被告名古屋支部西部現業二課
(ア)被告西部現業二課は,各倉庫会社の倉庫における検数業務を担当しており,原告J,原告C,原告D,原告K,原告L,原告M,原告N及び原告Pはいずれも,各倉庫会社の倉庫において,コンテナへの荷物の積み込み及びコンテナからの荷物の積み降ろしの業務を行っている(原告Kは積み降ろしのみ,原告L及び原告Nは積み込みの業務のみ行っている。)。
(イ)被告名古屋支部西部現業二課が担当する現場では,原告Jら日興サービス従業員も,倉庫会社が作成する作業表等により,今後の予定及び業務内容を確認する。その他,業務に関する指示は,倉庫会社や被告の従業員が主に行っている。
(ウ)被告は,原告J,原告C,原告D,原告K,原告L,原告M,原告N及び原告Pに対し,被告の制服を交付して,業務中はその着用を義務付けていたほか,入社時期が早い原告J,原告C,原告K,原告M及び原告Pに対しては,被告名義で発行した身分証明書及び検数・検量事業従事者証を交付していた。
(エ)前記(ア)ないし(ウ)について,平成28年4月1日の前後で変化はない。
エ 被告名古屋支部四日市事務所霞現業所
(ア)被告名古屋支部四日市事務所霞現業所は,四日市港において,コンテナターミナルゲートやコンテナ船での貨物受渡しに立ち会う業務を担当しており,原告B,原告Q,原告R及び原告Sは,いずれも四日市港において,コンテナターミナルゲートやコンテナ船においてコンテナ及びその貨物の検査,コイル船の仕分けの業務を行っている(原告Sは,コイル船の仕分けの業務は行っていない。)。これら業務については,被告名古屋支部四日市事務所霞現業所に配属されている被告の従業員も行っており,同一の作業を分担して行うこともある。
(イ)被告名古屋支部四日市事務所霞現業所が担当する四日市港では,原告Bら日興サービス従業員も被告が作成する同現業所内のホワイトボードや手配表,被告従業員からの連絡により,今後の予定及び業務内容を確認する。また,通常とは異なる内容の業務を担当する場合,被告の従業員が直接,原告Bら日興サービス従業員に対し,連絡を行うこともある。その他,業務に関する指示は,被告の従業員が主に行っている。
(ウ)被告は,原告B,原告Q,原告R及び原告Sに対し,被告の制服のほか,被告名義で発行する身分証明書,検数・検量事業従事者証を交付し(原告Sに対しては,制服及び身分証明書のみ。),業務中は,その着用・携行を義務付けていた。
(エ)前記(ア)ないし(ウ)について,平成28年4月1日の前後で変化はない。
(3)原告らの認識等
ア 原告らは,平成28年3月31日までは,日興サービスが被告との間の業務委託契約により請け負った業務として前記(2)の就労を行い,同年4月1日以降は,日興サービスと被告との間の労働者派遣個別契約により派遣された派遣労働者として前記(2)の就労を行った。
イ 日興サービスは,原告らに対し,原告らを派遣労働者とすることについて明示したり,その同意を得たりしたことはなく,労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を明示することもなかった。原告らは,平成29年4月頃まで,日興サービスと被告との間で労働者派遣基本契約及び労働者派遣個別契約が締結され,自身がこれら契約に基づいて被告に派遣されていること,それ以前は,日興サービスと被告との間の業務委託契約により就労していたことを認識していなかった。
(4)原告ら所属組合と被告とのやり取り等
ア 全港湾阪神支部は,日興サービスに対し,平成27年9月25日付けの「労働組合結成通知書及び要求書」と題する書面により,原告G,原告H及び原告Pが全港湾阪神支部に加入して全港湾阪神支部日興サービス分会を結成したことを通知するとともに,「下記の要求について真摯に対応し,労使関係の正常化に努力されますよう申し入れます。」として,賃金等について事前に全港湾阪神支部と協議すること,不当労働行為を行わないこと,事務所及び掲示板を貸与すること,チェックオフを実施すること,就業規則を全港湾阪神支部に提出し賃金等について説明することと併せ,全港湾阪神支部日興サービス分会の組合員を被告の従業員として「移籍(転籍)させること」を要求し,これらについて速やかに団体交渉を開催し,文書で回答することを求めた。
イ 日興サービスは,前記アの要求事項のうち,全港湾阪神支部日興サービス分会の組合員を被告の従業員として移籍(転籍)させることについて,被告とは会社組織が異なるため応じることができない旨回答した。
ウ 全港湾名古屋支部は,被告名古屋支部に対し,労働契約の申込みみなし制度の施行(平成27年10月1日)後である平成27年10月26日付けの「検数部会要求書」と題する書面により,「2015年秋年末要求」として,適正な人材配置,関係法令等の遵守,65歳以上の労働者の待遇改善と併せ,指定事業体を本件協定どおり被告ら4協会の退職者の受け皿に戻し,指定事業体で現在働く労働者を早急かつ計画的に被告ら4協会の正社員とすることを要求し,これらについて同年11月27日までに団体交渉の席上で,書面で回答することを求めた。(甲28)
また,全港湾名古屋支部は,被告に対し,平成27年10月26日付けの「支部統一要求書」と題する書面により,「2015年秋年末要求」として,関係法令等の遵守,定年を65歳まで延長すること,労災企業補償や退職金の制度の改定,働き方改善,地震津波対策などと併せ,指定事業体を本件協定どおり被告ら4協会の退職者の受け皿に戻し,指定事業体で現在働く労働者を早急かつ計画的に被告ら4協会の正社員とすることを要求し,これらについて同年11月27日までに団体交渉の席上で,書面で回答することを求めた。(甲29)
エ 全港湾阪神支部は,被告に対し,平成27年11月6日付けの「団体交渉申入れ」と題する書面により,日興サービスによる前記イの回答を踏まえ,全港湾阪神支部日興サービス分会の組合員を被告に移籍(転籍)させることについて,団体交渉を申し入れた。(甲33,113)
オ 全港湾名古屋支部は,被告に対し,平成28年2月10日付けの「支部統一要求書」と題する書面により,「2016年春闘要求」として,関係法令等の遵守,定年を65歳まで延長すること,労災企業補償や退職金の制度の改定,働き方改善,地震津波対策などと併せ,指定事業体を本件協定どおり被告ら4協会の退職者の受け皿に戻し,指定事業体で現在働く労働者を早急かつ計画的に被告ら4協会の正社員とすることを要求し,これらについて同年3月24日までに団体交渉の席上で,書面で回答することを求めた。(甲30)
カ 被告は,全港湾阪神支部との間で,平成28年3月23日,被告が,指定事業体の職員について,「平成28年度から平成30年度まで,毎年度約120名の採用を実施するよう努力する」ことを内容とする確認書を作成した。(甲8)
キ 被告,日興サービス,全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部のそれぞれの担当者は,平成28年8月10日,被告名古屋支部において打合せを行った。全港湾阪神支部の副委員長であったQ(以下「Q」という。)は,その際,〔1〕同日の打合せの趣旨は,今後行われる協議の前段として,全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部の要求内容を被告に理解してもらうことである,〔2〕要求内容は,日興サービスにいる組合員全員を同年10月1日から被告に移籍させることである,〔3〕被告において今後,協議に対応されたい旨を述べた。これに対し,被告の担当者は,被告の従業員の採用は飽くまで公募によりたい旨を述べたが,Qは,全港湾の要求は飽くまで無条件で日興サービスの組合員全員を移籍させることであり,これは指定事業体の趣旨にも適うものであるとした上,当初から被告の労働条件によることができなくても協議の余地がある,一度の話合いで解決するとは考えていない旨を述べ,被告が再度検討することとなった。
ク 被告名古屋支部は,全港湾阪神支部に対し,平成28年8月23日,被告の従業員の採用については,前記キで説明したとおり,公募制による旨回答した。(甲120)
ケ 全港湾阪神支部は,被告に対し,平成28年8月24日付けの「団体交渉申入れ」と題する書面により,全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部に所属する日興サービス従業員を被告へ移籍させることに関して,団体交渉を申し入れた。(甲9)
コ 被告は,全港湾阪神支部に対し,平成28年9月14日付けの「「団体交渉申入れ」に対するご回答」と題する書面により,日興サービス従業員と被告は労使関係にはなく,被告としては,飽くまで被告の定める条件を満たした応募者を個別に採用することを前提に,指定事業体の職員の採用を検討しているにすぎないとして,団体交渉に応じる必要はない旨回答した。(甲10)
サ 全港湾阪神支部は,被告に対し,平成28年9月28日付けの「抗議及び団体交渉再申入れ」と題する書面により,被告が前記コのとおり,全港湾阪神支部による団体交渉申入れを拒否することは不当であると指摘した上,〔1〕組合員を日興サービスから被告に移籍させること,〔2〕これができない場合対案を示すこと,〔3〕団体交渉を誠実に行うこと,〔4〕上記3つについて,次回交渉時に文書で回答することを求めた。(甲11)
シ 全港湾名古屋支部は,被告に対し,平成28年10月28日付けの「経営各位」宛ての「支部統一要求書」と題する書面により,「2016年秋年末要求」として,関係法令等の遵守,定年を65歳まで延長すること,労災企業補償や退職金の制度の改定,働き方改善,地震津波対策などと併せ,指定事業体の職員(定年退職者を除く。)を被告が採用することを要求した。(甲31)
(5)原告らがみなし申込みに対する承諾をするまでの経緯
ア 全港湾阪神支部は,被告を被申立人として,大阪府労働委員会に対し,平成28年11月16日,同年8月24日付けで申入れた団体交渉に応じることなどを求め,不当労働行為救済命令を申し立てた。(甲13)
イ 大阪府労働委員会は,被告に対し,平成29年2月7日,全港湾阪神支部に所属する日興サービス従業員は日興サービスを派遣元,被告を派遣先とする派遣労働者であるのかどうかを釈明するよう求めた。(甲14)
ウ 被告は,平成29年3月23日,代理人弁護士名義の文書により,前記アの事件の争点は,全港湾阪神支部に所属する日興サービス従業員の被告への移籍という団体交渉事項に関して被告に使用者性が認められるかどうかであるところ,前記イの求釈明は,争点と関連性がないとして,回答を拒否した。
エ 大阪府労働委員会が被告に対し,平成29年3月30日,再度,前記イの求釈明を行ったところ,被告は,同年4月19日,全港湾阪神支部に所属する日興サービス従業員は日興サービスを派遣元,被告を派遣先とする派遣労働者である旨回答した上,被告と日興サービスの間の平成28年1月29日付け労働者派遣基本契約書を提出した。
オ 全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部は,平成29年4月15日頃,日興サービスと被告の契約関係が,当初は業務委託契約であったことを認識し,日興サービスに対し,同日付けで,事実関係について確認するための抗議及び申入れを行った。
カ 原告らは,被告に対し,平成29年10月31日付けの書面で,労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みを承諾する旨の意思表示をした。
キ 大阪府労働委員会は,平成31年2月12日,不当労働行為救済命令申立てを棄却した。
2 事実認定の補足説明
(1)労働者派遣契約の締結について
原告らは,日興サービスが原告らに対し,被告との間の労働者派遣基本契約及び労働者派遣個別契約の締結について事実を周知せず,業務委託からの切替えについて同意を得ようとせず,就業条件の明示も行っていないことから,これら契約に係る契約書は日付を遡って作成されたものであるとして,その締結の事実を否認する。
しかし,これらの事実から直ちに上記各契約書の日付が遡って作成されたものと認めるには足りない。かえって,Sは,日興サービスに対し,労働者派遣個別契約の契約書の日付の前日である平成28年3月30日,業務委託から労働者派遣への切替えを行うことを前提としたメールを送信していることに照らすと,当該契約及びその基礎となる労働者派遣基本契約の各契約書は,いずれもその日付どおりに作成されたものと考えるのが自然である。
よって,被告は,日興サービスとの間で,平成28年1月29日に労働者派遣基本契約を,同年3月31日に労働者派遣個別契約を締結したものと認められる。
(2)原告らの就労実態について
被告は,原告らの従事する業務について,日興サービスの役職者が指導を行うこともあった旨主張するものの,何らこれを示す証拠を提出していない。
むしろ,〔1〕証拠上,原告らに対し,今後の予定や業務内容を知らせていたのは被告や倉庫会社であって日興サービスではないこと,〔2〕原告らの従事した業務の内容からすれば,日興サービスではなく被告の従業員が指示を行うのが自然であること,〔3〕原告らは被告から被告の制服に加え,被告名義の身分証明書等を支給されその着用・携行を義務付けられていたところ,これは,原告らが被告の指揮下で業務を行っていることを外部に表示するものであり,原告らの従事した業務がまさにそのような内容であったことを示していること,〔4〕労働者派遣個別契約により原告らが派遣労働者として業務に従事することとなった平成28年4月1日の前後を通じて,原告らの業務内容や,原告らと被告又は日興サービスとの業務中の関わり合いに特段の変化がみられないことからすれば,原告らに対し,その業務について主に指揮命令をしていたのは,被告であったと認められる。
(3)原告らの業務内容について
被告は,原告らが被告名古屋支部において従事していたのは検数業務の補助であって検数業務ではない旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,原告らは,被告名古屋支部において,被告から支給された被告の制服を着用するなどして,被告従業員と共に,船積貨物の積込又は揚陸を行うに際してするその貨物の箇数の計算又は受渡の証明に関する業務を被告従業員と分担して実施していたものである。そうすると,原告らが従事していたのは検数業務であるというほかなく,被告従業員の指示を受けていたからといって,検数業務とは別の,検数業務の補助であるなどということはできない。
よって,被告の上記主張は採用できない。
3 被告は労働者派遣の役務の提供を受けていたか(争点1)
被告は,平成28年3月31日まで,日興サービスとの間で業務委託契約を締結しており,日興サービスは,自己と労働契約を締結した原告らをして被告名古屋支部における検数業務に従事させていたものであるところ,請負契約は,請負人がある仕事を完成することをその債務の本旨とするものであり(民法632条参照),労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働するものであって(労働契約法2条,6条参照),使用者が労働者をその指揮命令下に置くことを重要な要素とするものである。そうすると,上記の被告,日興サービス及び原告らの間の法律関係を前提とすると,原告らを指揮命令下に置くべきは,原則として日興サービスであって,被告ではないはずである。
しかるに,前記認定のとおり,原告らは,被告名古屋支部において,主に被告の指揮命令を受けて被告の検数業務に従事していたものであって,日興サービスの指揮命令を受けていたものとは認められない。このような事実関係に照らすと,日興サービスは,自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,被告の指揮命令を受けて,被告のために労働に従事させたものであり,被告に対し原告らを被告に雇用させることを約したわけでもないから,被告に対し,原告らを派遣労働者とする労働者派遣を行っていたものというほかない(労働者派遣法2条1号及び2号参照)。
よって,原告らは,被告と日興サービスが従前の業務委託契約を終了させて労働者派遣個別契約を発効させる前である平成28年3月31日まで,日興サービスから被告に派遣されていた派遣労働者の地位にあったものであって,被告は,原告らの労働者派遣の役務の提供を受けていたものというべきである。
4 被告は労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行ったか(争点2)
(1)労働契約の申込みみなし制度の趣旨について
労働者派遣法40条の6が定める労働契約の申込みみなし制度は,違法な労働者派遣の是正に当たって,派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするため,同条1項各号に該当する行為が行われた場合,当該行為を行った時点において,労働者派遣の役務の提供を受ける者が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす制度であり,その趣旨は,善意無過失の場合を除き,違法な労働者派遣を受け入れた者にも責任があり,そのような者に民事的な制裁を科すことにより,労働者派遣法の規制の実効性を確保することにあるものと解するのが相当である(厚労省職業安定局長職発0930第13号平成27年9月30日「労働契約申込みみなし制度について」参照)。
(2)適用潜脱目的について
ア 労働者派遣法40条の6第1項5号は,労働者派遣の役務の提供を受ける者が請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結することについて,適用潜脱目的を有していたことをみなし申込みの要件としている一方,同項ただし書は,その者が同条1項各号に該当する行為について善意無過失であった場合には労働契約の申込みみなし制度の適用を免除している。
このような文理に照らすと,労働者派遣法40条の6第1項5号が定める労働者派遣法やこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)は,労働者派遣以外の名目で契約を締結したこと及び当該契約に基づき労働者派遣の役務の提供を受けていることの主観的な認識(悪意)又は認識可能性(過失)とは必ずしも同一ではなく,むしろ,このような形式と実質の齟齬により労働者派遣法等による規制を回避する意図を示す客観的な事情の存在により認定されるべきものと解するのが相当である。
イ これを本件についてみると,次のような客観的な事情の存在を指摘することができる一方,これらの事情が労働者派遣法等による規制を回避する意図を示すものではないとするに足りる事情は見当たらない。
(ア)日興サービスやその母体である東海ワッチが被告の指定事業体とされたのは,平成11年法律第84号により検数等の業務について労働者派遣が可能となったことを契機とするものであったのだから,被告は,日興サービスの従業員を被告名古屋支部での検数業務に従事させるためには,日興サービスとの間で労働者派遣契約を締結するのが自然な帰結であったはずである。そうであるにもかかわらず,被告は,そのような形式によらず,日興サービスが指定事業体となった趣旨に反して,あえて業務委託契約を締結していた。
(イ)このように,被告は,日興サービスとの間で労働者派遣契約ではなく業務委託契約を締結していたのであるから,原告らに対する指揮命令を日興サービスに委ねていたのであれば,原告らとの関係で労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の規制を受ける立場にはなかったはずである。そうであるにもかかわらず,被告は,実際には,原告らを含む日興サービス従業員を指揮命令下に置いて検数業務に従事させることで労働者派遣の役務の提供を受けていたものであって,実態として日興サービスらが指定事業体とされた趣旨が実現されていたばかりか,その期間も,日興サービスの設立から日興サービスとの業務委託契約終了まで約10年間という長期間に及んでいた。
(ウ)しかも,検数事業の許可を受けた者は,公正に検数等の業務を行うことが法律上義務付けられている(港湾運送事業法16条の2)ため,検数業務に当たる者は,熟練した者であることが望ましいといえる一方,平成27年法律第73号による改正前の労働者派遣法は,派遣労働者の派遣可能期間を無期雇用であっても3年間に制限していたから,熟練した労働者による長期間の労働者派遣を受けることが困難であるという事情が存在した。他方,業務委託契約に基づき被告名古屋支部で就労していた原告らには,そこでの就労について期間制限などが存在した形跡がない。
ウ 以上の客観的な事情を総合すると,被告は,労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)で,日興サービスとの間に業務委託契約を締結し,これにより労働者派遣の役務の提供を受けていたものであって,この適用潜脱目的は,労働契約の申込みみなし制度の施行(平成27年10月1日)後も,当該業務委託契約が終了する平成28年3月31日まで継続していたものと認められる。
なお,被告は,平成27年法律第73号による改正後の労働者派遣法40条の2によって無期雇用者である原告らについては派遣可能期間の制限が撤廃されたことを指摘する(前記イ(ウ)参照)。しかし,上記改正法の施行(平成27年9月30日)は,被告が日興サービスとの間で業務委託契約を締結した後に生じた事情であるばかりか,当該改正によって緩和されたのは,労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等による各種の規制の一部であるにすぎない。したがって,被告の上記指摘は,適用潜脱目的の存在に関する上記認定判断を左右するものではない。
(3)労働者派遣以外の名目による契約の「締結」について
被告は,労働者派遣法40条の6第1項5号にいう労働者派遣以外の名目による契約の「締結」が同条の施行後にされていない限り,同号の要件を満たさない旨主張する。
労働契約の申込みみなし制度の趣旨は,前記のとおり,違法な労働者派遣を受け入れた者に民事的な制裁を科すことにより,労働者派遣法の規制の実効性を確保することにあるものと解される。そして,労働者派遣法が,労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り,もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とするものであること(労働者派遣法1条)に照らすと,労働契約の申込みみなし制度の施行前に適用潜脱目的で労働者派遣以外の名目による契約が締結されていたとしても,当該施行後にこれに基づく労働者派遣の役務の提供を受けたのであれば,当該施行前に適用潜脱目的が消滅していたなどの特別な事情がない限り,そのようないわゆる偽装請負による労働者派遣を規制する必要性があることは明らかである。
そうすると,労働契約の申込みみなし制度の施行後に労働者派遣法40条の6第1項5号の労働者派遣の役務の提供を受けた者は,当該施行前に適用潜脱目的が消滅していたなどの特別な事情がなく,あるいは同項ただし書により善意無過失でない限り,同項本文に基づき,当該提供を受けた時点において,派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされると解するのが相当である。そして,被告は,前記認定のとおり,上記施行(平成27年10月1日)前に適用潜脱目的で締結した業務委託契約に基づき,当該施行から日興サービスとの業務委託契約終了(平成28年3月31日)まで,原告らの労働者派遣による役務の提供を受けたものであり,当該施行前に適用潜脱目的が消滅していたなどの事情は認められず,また,同条1項5号に該当する行為について善意無過失であったとも認められない。
よって,被告は,原告らに対し,労働契約の申込みみなし制度の施行日である平成27年10月1日から労働者派遣法40条の6第1項に基づき労働契約の申込みをしていたものとみなされるのであって,これに反する被告の上記主張は採用できない。
(4)まとめ
被告は,労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)で,日興サービスとの間で業務委託契約を締結し,労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めずに,日興サービスから原告らを含む派遣労働者による労働者派遣の役務の提供を受けたものであり,労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行ったものと認められる。そして,上記役務の提供は,労働契約の申込みみなし制度の施行(平成27年10月1日)後も,日興サービスとの間の業務委託契約が終了する平成28年3月31日まで継続したのであって,当該施行前に適用潜脱目的が消滅したなどの事情は認められず,また,本件の全証拠によっても,被告が労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行ったことについて善意無過失であったとは認められない。
よって,被告は,原告らに対し,平成28年3月31日まで,労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行っていたのであって,同項本文に基づくその時点における原告らに係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みの効力は,同条2項に基づきそれから1年を経過する日である平成29年3月31日まで存続していたものである。
他方,原告らは,被告に対し,上記みなし申込みに対して承諾の意思表示をしているものの,これは,その効力が存続する期間終了後の平成29年10月31日に行われたものである。そうすると,原告らは,被告に対し,被告との間に直接の労働契約関係が成立したことを主張することができないことになる。
5 みなし申込みに対する原告らの承諾の有無及びその時点(争点3)
(1)前記のとおり,被告は,原告らに対し,労働者派遣法40条の6第1項5号及び本文に基づき,平成28年3月31日まで,労働契約の申込みをしていたものとみなされ,その効力は,平成29年3月31日まで存続していたところ,原告らは,それ以前にされた本件各要求等が,被告に対して原告らを雇用することを求める意思を明確に表示しているから,承諾の意思表示に該当する旨主張する。
(2)そこで検討するに,前記のとおり,労働契約の申込みみなし制度は,違法な労働者派遣の是正に当たって,派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにすることを目的とするものであるところ,ここで労働者の希望を的確に反映するために,当該行為が行われた場合に労働者派遣の役務の提供を受けた者との間に直ちに労働契約を成立させるのではなく,その成立を労働者の承諾の意思表示に係らしめることで,労働者に対して派遣元との従前の労働契約の維持と派遣先との新たな労働契約の成立との選択権を付与したものであるといえる。そして,労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みに対する承諾の意思表示は,このような選択権の行使の結果として派遣先との間に新たな労働契約を成立させるものであるから,通常の労働契約締結における承諾の意思表示と何ら異なるものではない。
原告らは,労働者がみなし申込みの存在を明確に認識することが困難である以上,これに対する承諾を一般の承諾と同様に解すべきではなく,派遣先に対する直接雇用の意思が表示されれば足りるなどと主張する。しかし,労働者がみなし申込みの存在を明確に認識せずに労働者派遣の役務の提供を受ける者に対して直接の雇用の要望を出すなどしたとしても,それは,労働者の自由な意思による上記選択権の行使と評価することはできず,むしろ,このような場合にまで労働契約の成立を認めることは,例えば派遣先の信用状態に問題があるなどの事情もあり得ることを考慮すると,労働者の希望を的確に反映したことになるとは限らない。よって,この点に関する原告らの主張は,いずれも採用できない。
(3)以上を踏まえて本件各要求等をみると,これは,全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部が,被告が原告らを含む日興サービス従業員である組合員を直接雇用することを求めるものである。しかし,本件各要求等は,労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みの存在を前提とするものではなく,むしろ,本件協定に定められた指定事業体の趣旨からすると日興サービスは被告の退職者の受け皿であるべきであるのに現状がそうなっていないことを問題視し,日興サービス従業員を被告に移籍させるべきであるという考えから行われているものであって,しかも,被告との間で,本件各要求等に基づき,今後,直接雇用の対象者,移籍時期,労働条件等について具体的な協議を行うことを予定したものであることが明らかである。そうすると,このような趣旨及び内容の本件各要求等をもって,派遣先である被告の原告らに対する労働契約のみなし申込みを受けて被告との間に新たに労働契約を締結させるためにされた承諾の意思表示と評価することはできない。
よって,原告らによる全港湾に対する代理権授与又はその追認や,全港湾阪神支部及び全港湾名古屋支部による顕名の有無について判断するまでもなく,本件各要求等を被告によるみなし申込みに対する承諾の意思表示と認めることはできず,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。
6 被告によるみなし申込みの効力は平成29年4月1日以降も存続していたか(争点4)及び被告が承諾の期間制限を主張することは信義則に反するか(争点5)
(1)原告らは,原告らと日興サービスとの間では派遣労働契約が存在しないにもかかわらず被告が原告らを指揮命令するという違法状態が継続していたことに加え,被告が日興サービスに対する実質的な支配関係により労働者派遣契約への変更を大阪府労働委員会の手続において重ねて求釈明を受けるまで明らかにせず,そのため労働者派遣法40条の6第2項の期間を徒過したことを指摘し,当該期間は平成29年4月1日以降も経過していないと解すべきであり,あるいは被告が労働者派遣法40条の6第2項の期間の徒過を主張することが信義則に反する旨主張する。
(2)労働者派遣法40条の6第2項は,みなし申込みに係る同条1項に規定する行為が終了した日から1年を経過するまでの間は,当該申込みを撤回することができないとする一方,同条3項は,派遣労働者が承諾の意思表示をできるのを当該期間内に制限しているところ,前記のとおり,同条が定める労働契約の申込みみなし制度は,違法な労働者派遣を是正することを目的として,違法な労働者派遣を受入れた者に民事的な制裁を科すことにより,労働者派遣法の規制の実効性を確保することをその趣旨とするものであるから,その者が違法な労働者派遣の受入れを解消した以上,その規制目的は,達成されたのであって,そのように違法状態を解消した労働者派遣の役務の提供を受けた者に対してことさらに過重な民事的制裁を加える理由に乏しい。
そうすると,被告が平成28年4月1日には日興サービスとの間で労働者派遣契約を発効させて従前の業務委託契約を終了させ,いわゆる偽装請負の状態を解消した以上,労働者派遣法40条の6第2項及び第3項によりこれから1年を経過した平成29年4月1日の到来をもって同条1項に基づくみなし申込みの効力は消滅したのであって,前記(1)のような事情があるからといって,これを延長する理由にはならないというべきであり,これに反する原告らの主張を採用することはできない。
(3)次に,信義則違反の主張について検討する。被告は,約1300名の従業員を有してそのうち約300名が被告名古屋支部に所属しており,日興サービスは,約130名の従業員を有している法人であるところ,平成27年及び平成28年時点の日興サービスの役職者は,係長職を除きいずれも被告の職員であったから,代表取締役,常勤取締役及び部長職が被告の嘱託職員にすぎないか,あるいは被告で特段の業務を行っていなかったとしても,その運営に当たって被告の強い影響を受ける立場にあったものと認められる。しかも,被告と日興サービスは,平成28年4月1日から業務委託契約を解消して労働者派遣契約を発効させたものの,原告らを含む日興サービス従業員に対してこのような法律関係の存在及び切替えについて何ら周知せず,むしろ,被告は,大阪府労働委員会から原告ら日興サービス従業員の法的地位を明らかにするように求められたにもかかわらず,みなし申込みの効力が消滅する直前である平成29年3月23日,これに対する回答を拒否し,同月30日の再度の求釈明に対して当該みなし申込みの効力が消滅した後である同年4月19日に至って初めて,原告らが派遣労働者であることを認めたものである。そうすると,被告は,原告らに対して上記みなし申込みの効力が消滅するまで当該みなし申込みの存在を知らせず,結果として,当該みなし申込みに対する承諾の意思表示をするか否かという原告らの選択権を行使する機会を喪失させたものであって,被告のこのような態度は,場合によっては原告らに対する当該選択権の行使機会の剥奪という不法行為を構成するとみる余地がないではない。
しかし,仮に被告の上記対応が不法行為を構成するとしても,被告は,労働契約の申込みみなし制度が対象とする違法な労働者派遣の受入れを既に解消し,その規制目的を実現していた以上,更に原告らに対してみなし申込みに基づく労働契約締結の機会を与え,もって被告に対して民事的制裁を加える理由に乏しいというほかない。そうすると、被告の上記対応をもって労働者派遣法40条の6第2項の期間の経過を主張することが信義則に反するとまではいえない。
よって,原告らの前記主張を採用することはできない。
第4 結論
以上のとおり,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 井上泰人 裁判官 伊藤達也 裁判官 佐藤久貴