高知大学事件

高知県公立大学法人事件(高知地方裁判所平成30年3月6日判決)

就業規則で有期雇用契約の期間について3年の更新の上限とする定めに基づく契約社員の雇止めが有効とされた事例

1 事案の概要

原告は、平成25年4月1日、公立大学法人である被告との間で1年間の雇用契約を締結し、契約職員として、被告に所属する教職員らの給与計算等の給与関係全般に関する業務に従事してきた。
被告の就業規則には「契約職員の雇用期間は、1会計年度内とする。ただし、3年を超えない範囲内において更新することができる。」との定めがあり、一部の例外を除き更新上限3年に達した契約職員の契約更新は行われていなかった。ただし、更新上限3年に達した契約職員が、被告による公募に申込みをした上で選考手続を経て再雇用されることはあった。
被告は、平成25年度より優秀な契約職員を雇用期間の定めのない準職員として内部登用する制度を導入するなど、非正規雇用から正規雇用を中心とした職員構成へ転換を図っていた。平成27年度は更新上限3年に達した契約職員7名が公募手続を経て再雇用されたが、平成28年度は契約職員の公募が行われなかった。
原告は平成28年3月31日まで2度の更新を経て就労してきたが、同日以降は契約が更新されなかった(以下「本件雇止め」)。同年度は契約職員の公募が行われなかったため、公募を経て採用される途もなかった。なお、原告は平成27年度実施の準職員採用試験を受験したが不合格だった。
原告は、本件雇止めは労働契約法19条1号又は2号に該当し、平成28年度に公募を行わなかった被告の判断は同18条に違反するなどとして、本件雇止めの無効を主張し、雇用契約上の地位の確認等を求めて提訴した。

2 高知県公立大学法人事件判例のポイント

2.1 結論

本件雇止めは労契法19条1号と同条2号の何れにも該当せず(請求棄却)

2.2 理由

⑴ 労働契約法19条1号の該当性

被告が就業規則で、契約職員の雇用期間は1会計年度とし、更新による通算雇用期間の上限を3年とする明確な定めを置いていること、通算雇用期間内に有期雇用契約を更新する都度、契約期間を明記した労働条件通知書を交付するなど、外形上、更新がなされたことを明確にする手続をとっていたこと、契約更新前には管理職による意向確認が実施され、過去に雇止めになった契約職員も存したこと等に鑑みれば、通算雇用期間の上限内の更新手続が形骸化していたとはいえない。
加えて、被告は3年間の雇用期間の上限を墨守し、一部の例外を除きその後は公募への申込み・選考手続を行って再雇用をしてきたものであり、3年間の上限に達した契約職員に関しては単なる契約の更新とは明らかに異なる手続を踏んできていることに鑑みれば、本件雇止めが期間の定めのない労働契約を締結している労働者に対する解雇と同視できるとは認められず、労契法19条1号に該当しない

⑵ 労働契約法19条2号への該当性

a 更新に対する合理的期待の存否

就業規則に3年の雇用期間の上限が明確に定められていたこと、上限到達前の更新時も前述のような手続をとっていたこと、一部の例外を除き更新上限を超えて更新した事例はなく、更新とは明らかに性質の異なる公募が行われていたこと、原告もC部長を経てその旨を理解していたこと、原告の契約の更新回数は2回にすぎず、通算雇用期間も3年にとどまっていたこと、原告の給与計算を主とする業務は、恒常的で一定の専門性が必要なものであるが、ルールに従って一定の処理を行う業務であって、同一の担当者が継続的に従事する必要性の高い業務とはいえず、代替性が高いものと評価でき、業務内容から直ちに継続雇用の高い期待が生じるとまではいえないこと、準職員への登用機会が確保されていたことも踏まえれば、労契法19条2号の合理的な理由のある期待があったと認めることはできない

b 労働契約法18条違反との主張について

原告は、平成28年度に公募が行われなかったことが、突然の方針変更であって、労契法18条に反するという趣旨の主張をする。
しかし、被告においては設立後早い段階から非正規雇用から正規雇用を中心とした職員構成へ転換を行っており、その施策は契約職員にとっても準職員として採用される途を開いていると評価し得る面もあるから、その結果、契約職員数の減少に至ることもやむを得ず、平成28年度に公募をしなかった被告の判断が直ちに同条に反し、あるいは潜脱するものであったとはいい難い。また、本件は原告が採用された後に一方的に就業規則が変更された事案ではなく、採用時点で公幕による再雇用が当然に保証されていた事情もなく、原告にも準職員採用試験を受ける機会が与えられたことも加味すれば、被告が同条を濫用し、原告の同法19条2号所定の期待を裏切ったと評価するのは相当でない。

2.3 吉村解説コメント

従前より最初の雇用契約当初より明示的に契約の不更新条項(更新の上限規定)が定められている場合は,契約更新についての合理的な期待が否定されるというのが,判例の立場でした。このような定めがある場合は,雇用契約更新に対する合理的期待が形成される理由はなく,そもそも不更新条項付の雇用契約を結ぶか否かは労働者が完全に自由に決められます。不更新条項付であることを嫌うのであれば,端的にその有期雇用契約を結ばなければ良いだけの話だからです(大阪地決昭62・9・11労判504号25貢〔北陽電機事件〕,京都地判平18・4・13労判917号59貢〔近畿建設協会(雇止め)事件〕,東京地判平22・3・26労経速2079号10貢〔東京地下鉄事件〕,大阪地判平24・11・1労判1070号142貢〔ダイキン工業事件〕)。

ただし,通算契約期間や更新回数の上限規定さえあれば、雇止めが確実に有効となるわけではありません。それ以外の事情も考慮されて、労契法191号・2号に当たるかどうか判断されることには注意が必要です。例えば、上限規定があっても、運用が厳格になされていない場合は、雇用継続への期待が合理的ではないといえなくなる可能性があります。実際にもそのような判例(京都新聞COM事件 京都地裁 平22.5.18判決 労経速2079P3~)。

もっとも、更新上限に関して,全く例外が許されないというわけではありません。例えば,東京地下鉄事件(東京地裁 平22.3.26判決 労経速2079P10)では、特別な場合に限って、上限規定(3年)を超えて12年の限度で再契約した者が100人中数人程度いたが、上限規定に基づく雇止めは有効と判断されています。また,本件でも、上限規定を超えて雇用継続したケースが2例あったものの、本件裁判所は、原則として上限規定が墨守されていたと評価しています。

なお,上限規定が厳格に運用されていてもなお、上限規定のみをもって労契法191号・2号該当性が判断されるとは限りません。本件では、上限規定のほかに、更新回数・通算雇用期間、業務内容、更新手続き等も検討されています。よって,実務上は,上限規定を厳格に運用しているのみならず,その前提として,更新手続き(更新前の面談、労働条件通知書の交付または雇用契約書の締結)も厳格に行うことにも注意が必要です。

3 高知県公立大学法人事件の関連情報

3.1判決情報

  • 裁判官:西村 修、酒井 孝之、田中 慶太
  • 掲載誌:労働経済判例速報2348号3頁

3.2 関連裁判例

  • 日立メディコ事件(最一小判昭和61年12月4日 労判486号6頁)

3.3 参考記事

有期雇用契約の不更新条項により雇止めはできるか? | 労働問題.COM

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,32万4696円及びこれに対する平成28年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成28年5月1日から本判決確定の日まで,毎月16日限り月額32万4696円の割合による金員及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,被告との間で平成25年4月1日に1年間の雇用契約を締結し,その後,2回にわたり同期間の雇用契約を更新した原告が,被告が平成28年4月1日以降は契約を更新しなかったこと(以下「本件雇止め」という。)について,労働契約法19条に基づき,契約が更新されたと主張して,被告に対し,原告が雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,同月分以降本判決確定日までの給与及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実

⑴ 当事者等

ア 被告は,平成23年4月1日に高知県が設立した公立大学法人であり,当初は,高知県立大学及び高知短期大学の2大学を運営していた。高知県立大学は,昭和24年2月に高知県立女子専門学校を母体として設立された高知県立女子大学が,平成23年4月に男女共学化され,校名を「高知県立大学」に変更された大学であり,その際に被告が設置者となった。高知短期大学は,昭和28年1月に高知県が設置者となって設立認可を受けて同年4月に開学した短期大学であり,平成23年4月から被告が設置者となったが,平成26年4月の入学者を最後に募集が停止された。
被告は,平成27年4月1日に公立大学法人高知工科大学を統合し,同日以降,高知工科大学の運営も開始した。高知工科大学の前身は,平成8年12月に高知県が施設を整備して私学として設立した公設民営の学校法人高知工科大学であり,平成21年4月1日に公立大学法人高知工科大学が設置者となったが,上記のとおり被告に統合されることとなった。

イ 原告は,下記⑵のとおり,被告との間で,期間の定めのある雇用契約を締結し,同契約に基づき,被告に所属する教職員らの給与計算等の給与関係全般に関する労働に従事してきた労働者であり,平成25年4月1日か1ら平成28年3月31日まで2度の更新を経て就労してきたが,同日以降は契約の更新がなく本件雇止めをされた。

⑵ 原告と被告間の雇用契約の成立等

ア 被告は,平成25年4月1日,原告との間で,下記の内容を含む期間の定めのある雇用契約(以下,被告と原告を含む労働者との間で締結される雇用期間が1年間である雇用契約を「有期雇用契約」といい,有期雇用契約を締結した労働者を「契約職員」という。)を締結した(甲1)。

雇用期間:平成25年4月1日から平成26年3月31日まで
勤務内容:総務企画部総務課事務
勤務日数:週5日(月曜日から金曜日まで)
勤務時間:午前8時30分から午後5時15分まで(うち休憩時間60分)
給与:19万5000円(賞与なし)
給与支払日:法人(被告を指す。)の規定による(毎月16日)

イ 被告は,平成26年4月1日,原告との間で,下記の内容を含む雇用契約を締結し,原告との契約を更新した(甲2)。

雇用期間:平成26年4月1日から平成27年3月31日まで
契約更新の有無:更新する場合がありえる
勤務内容:総務企画部総務課事務
勤務日数:就業規則による(月曜日から金曜日までの週5日)
勤務時間:午前8時30分から午後5時15分まで(うち休憩時間60分)
給与:19万7000円(賞与なし)
給与支払日:毎月16日

ウ 被告は,平成27年4月1日,原告との間で,下記の内容を含む雇用契約を締結し,原告との契約を更新した(甲3)。但し,契約の更新の有無1については,労働条件通知書(甲3)の記載上,「更新する場合がありえる」に○が付されているが,これが契約内容となっているか,誤記であるかは争いがある。

雇用期間:平成27年4月1日から平成28年3月31日まで
契約更新の有無:争いがある。
勤務内容:総務企画部総務課事務
勤務日数:就業規則による(月曜日から金曜日までの週5日)
勤務時間:午前8時30分から午後5時15分まで(うち休憩時間60分)
給与:19万7000円(賞与なし)
給与支払日:毎月16日

⑶ 雇用期間に関する被告の就業規則

就業規則8条には「契約職員の雇用期間は,1会計年度内とする。ただし,3年を超えない範囲内において更新することができる。」と規定されている(甲5)。

⑷ 3年の雇用期間を超過した契約職員

被告において,契約職員は,上記⑶の就業規則により3年を超えない範囲内での更新に制限されており,後記の公募による再雇用や準職員としての登用がない限り,2つの例外を除き,3年を超えて更新されることはなかった。その例外とは,契約ミスにより契約期間を3年2か月としてしまった事例と,学生の健康相談への対応に不可欠な保健師が公募で採用できなかったため,3年を超えて更新された事例である。

⑸ 公募による再雇用

3年の雇用期間を満了した契約職員は,被告が契約職員をハローワークを通じて公募した場合に,申込みをした上,所定の選考手続を受けて,再雇用されることがあった。平成27年度までは,事務職の契約職員の公募が行われたが,平成28年度は公募がなされなかった。

⑹ 準職員採用制度

被告は,平成26年度(採用試験は平成25年度)以降,希望があれば,契約職員に選考試験を受験させ,その合格者を雇用期間の定めのない準職員として採用する内部登用制度を導入した。これに合格して,契約職員から準職員に採用された者もいる。

⑺ 原告は,平成27年度実施の準職員採用試験を受験したが不合格となり,平成28年3月31日満了をもって雇用契約の更新がなされず(本件雇止め),同年度は事務職の契約職員の公募がなかったため,公募を経て採用される途もなくなり,同年4月1日以降,被告に対し,労務を提供していない。

⑻ 原告は,平成28年4月1日及び平成29年4月1日にいずれも,労働契約法19条により,それぞれ1年間の雇用契約が更新され,雇用契約上の権利を有する地位にあると主張している。

⑼ 平成27年度に被告から原告に支給された給与は,時間外勤務手当を含め,合計389万6358円であり,平均すると1か月当たり32万4696円であった(甲6)。

2 争点及びこれに対する当事者の主張

⑴ 争点

本件の主たる争点は,本件雇止めが労働契約法19条に反するかであり,具体的には,①同条1号の無期雇用との同視可能性(実質無期契約型),②同条2号の合理的な理由のある期待(期待保護型),③同条柱書の客観的合理性・社会通念上の相当性の各要件を充たすかである。

⑵ 争点に対する当事者の主張

(省略)

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

前提事実のほか,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認定できる。

⑴ 被告

平成23年4月1日に設立された法人であり,高知県立大学及び高知短期大学の2大学を運営するようになったが,法人化前の組織が行っていた業務に加え,①理事会等の運営業務,②予算・決算業務,③中期計画,年度計画,実績報告書作成業務,④職員採用・育成業務などの業務が加わり,被告の業務量は格段に増加した。

⑵ 被告の事務職員数及び構成

ア 被告の事務職員数及び構成は,設立された平成23年度から平成28年度まで,別紙1のとおりで推移した。但し,被告が平成27年4月1日に公立大学法人高知工科大学を統合したことに伴う機構改革によって法人本部が設けられたところ,統合前の両法人で採用された職員及び県派遣職員で法人本部で勤務することになった職員も存するが,別紙1では法人本部で勤務することになった人数は除外されている。

イ 被告が,平成23年4月1日に法人化された当初,事務職員の多数を県派遣職員が占めていた。当時,被告の設置者である高知県は,職員の定員について,法人化前の定数管理条例における職員定数の制限と同様の「高知県立大学及び高知短期大学の2大学で県派遣職員・正職員合計40名」との制限の下に運営する方針を示していた。
しかしながら,上記⑴のとおり,被告の業務量が格段に増加し,上記定員では対応できなかったため,当時の非常勤職員等の中から公募により契約職員を採用して,人員を確保した。
また,高知県は,被告に派遣する職員を漸減する旨の方針を採ったため,被告の県派遣職員数が年々減少し,被告は,平成26年度までは,県派遣職員の減少分に見合う数の正職員を採用し,それ以外に契約職員を採用して対応した。
被告における正職員の採用は,平成23年度から中途採用(新卒者以外)を毎年行い,平成27年度からは新卒者の採用を開始した。平成27年度までの中途採用者は,全国公募による応募者(年129人ないし349人)から書類選考した約100人に知的能力試験や適性検査を行って20名程度に絞り込んだ上で,事務局次長以下の職員による1次面接,理事長以下による2次面接(平成25年度までは事務局長以下による面接)を行い,年3ないし6名を採用した。

ウ 被告においては,県派遣職員の派遣期間は原則として3年であり,また,契約職員についても就業規則で雇用期間は3年を超えない範囲での更新と制限されていたため,長期間勤務する職員が少なく,職員の間で業務の知識・経験が蓄積されないという問題が顕在化していた。また,複数の業務を経験して被告の業務全体についての知識・理解を持つ職員を育成する必要があった。

エ こうした事情から,被告では,プロパー職員の比率を増加させる必要が生じていた。その対策の一環として,平成25年度に,理事会及び経営審議会での議論を経て,優秀な契約職員を選考試験の実施によって雇用期間の定めのない準職員として内部登用する制度を導入することを決定し,以後,準職員採用試験を実施してきた。準職員の採用試験の結果は,平成26年2月に応募者10名に対して合格者3名,平成27年1月に応募者5名,合格者3名,平成28年1月に応募者17名,合格者4名であった。

オ 被告の職員数については,上記イのとおり,「高知県立大学及び高知短期大学の2大学で県派遣職員・正職員合計40名」との制限が設けられており,平成27年の統合に伴う法人本部の設置を受け,同年当初は,県派遣職員24名,正職員12名の合計36名であったが,同年度中の被告と高知県の協議により,上記制限を撤廃することになり,平成28年には県派遣職員20名,正職員20名,準職員10名となるなど,大幅にプロパー職員が増加することとなった。

カ 上記の事情により,プロパー職員数は平成23年度の0名から漸増して平成28年度に30名となり,これに対して,県派遣職員は平成23年度の36名から平成28年度の20名に漸減し,契約職員についても,平成26年度の29名をピークに平成28年度の23名と減少に転じていった。

⑶ 契約職員の退職等の状況

ア 被告の契約職員は,就業規則により雇用期間の上限が3年とされているところ,平成23年の被告設立後,平成28年度までに雇用された契約職員の退職等の状況は別紙2のとおりであり,合計34名である。但し,同年度現在で契約職員として雇用されており,かつ,通算雇用期間が3年未満の者は除外されている。

イ 被告において,契約職員の雇用は,1会計年度ごとに更新がなされるが,その際に,少なくとも管理職による契約更新に関する意向確認が行われていた。そして,実際に,通算雇用期間の上限の3年に達するまでの間に他の採用形態に変更したり,離職したりした者が22名いた(そのうち102名が離職し,他の12名はプロパー職員等に採用されるなどした。)。離職した10名には,契約職員の能力,適性が考慮された上で離職に至った者も含まれており,無条件に雇用期間を全うできるわけではなく,形式的に更新がなされていたわけではない。
離職者10名の具体的な内訳は別紙3のとおりであり,1会計年度の雇用期間満了時に更新がなく退職した者が5名,同雇用期間中に職場不適応により辞職した者が4名,自己都合(他の企業に就職)のために辞職した者が1名であった。
更新がなく退職した5名の内訳は,契約業務の終了による退職が1名,勤務実績が不良であるために被告の判断で契約を更新しなかった者が1名,契約職員側に更新の意思がなかったために退職となった者が3名であった。職場不適応のため退職した者4名の内訳は,勤務実績の不良に対する指導の過程で辞職願が提出されて退職に至った者が1名,非違行為に対する指導の過程で辞職願が提出されて退職に至った者が1名,職場の人間関係を理由に辞職願が提出されて退職に至った者が2名であった。

ウ 被告において,通算雇用期間の3年の上限に達した契約職員は,34名中,原告を含めて12名であった。このうち1名は,被告の契約時の過誤により通算3年2か月間勤務となった者である。同人はその後,準職員として採用された。また,他の2名は準職員として,採用された。そして,保健師1名は,公募をしたが採用できず,学生の健康相談への対応に不可欠な職種であったため,例外を認めて3年を超えて更新された。
残りの8名のうち7名は,公募により平成27年度(公募の時期は平成26年度)までに契約職員として再雇用された。平成28年度(公募の時期は平成27年度)からの契約職員については,公募がなされなかったので,残る1名である原告は契約職員として再雇用されなかった。

⑷ 契約職員の公募

ア 被告においては,上記⑵のとおりの方針で人員の確保を行ってきており,上記⑶のとおりに契約職員が処遇されている。基本的に,契約職員は,通算雇用期間の3年の上限に達するまでにプロパー職員等に採用されなければ,そのまま更新されることはなく,下記のとおり被告による公募に対して申込みをすることで採用され得る。平成27年度(公募の時期は平成26年度)までに7名が公募により採用されたが,平成28年度(公募の時期は平成27年度)には,公募による採用がなかった結果,原告1名には採用される機会がなかった。

イ 公募の手続に関しては,被告は,翌年度の人員体制,業務量からみて契約職員の雇用が必要な場合に,ハローワークを通じて契約職員の公募を行い,申込みをしてきた者の中から書類選考で複数名の候補者に絞った上で,事務局次長,担当部署の長などによる面接を行い,人事委員会で採用候補者を決定し,学長(平成26年度までは理事長)の決裁を受けて契約職員の採用を行ってきた。

⑸ 本件雇止めに至る経緯

ア 原告は,平成25年4月1日に被告に採用され,各1年の雇用期間で2回更新され,2回目の更新により平成27年4月1日から平成28年3月31日の期間満了まで雇用され,同日以降は契約の更新がなされず,本件雇止めとなった。

イ 原告は,総務企画部総務課事務の職に就き,被告の教職員の給与計算等の事務を行った。
平成27年4月に給与担当のチーフが高知県に異動となり,新しく,課長と事務担当の職員1名が配属された。さらに,同年9月からは人材派遣会社から人材を受け入れた。
新しい担当職員は県派遣職員で,給与計算に不慣れであり,被告における給与計算の経験を蓄積していた原告が少しずつ引継ぎを行うなどし,原告の知見が役立っていたが,反面,被告は原告が他の職員と連携や協力の不足があり,適切に分業せず,他の職員との協調を欠く行為があったとして,毀誉褒貶相半ばする評価をしていた。

ウ 被告は,同年12月に,準職員採用試験を実施する旨案内し,3年を超えての雇用契約の更新がないことを改めて周知して,無期雇用を希望する職員は積極的に受験するよう呼びかけた。そして,受験資格について,平成26年度までは,年度末までに3年以上勤務する契約職員としていたものを,平成27年度には同年12月31日現在で勤務歴2年を有する職員とするように緩和した。A部長は,原告に対して受験を勧めた。原告は,2年目の契約職員は準職員試験が2回受けられるようになったが,自分たちは3年目であるため1回しか受験できないと述べ,試験に落ちたらどうなるか質問した。A部長は,平成28年度の公募がなされるかは分からなかったが,一般論として,契約職員の公募があれば,原告がハローワークを通じて申込みをすることで,選考対象となると答えた。
原告は,準職員採用試験を受験し,同年1月11日に実施された第1次試験(適性検査等)に合格したが,同月27日の第2次試験(個人面接)に不合格となり,同月29日にその旨の発表があった。この時の試験の結果は,17名が受験し,1次試験に6名,2次試験に4名が合格したというものであった。

エ 原告は,同年2月1日又は2日,準職員採用試験に不合格となった理由を,B事務局長及びA部長に問い合わせた。
原告は,同月9日に,同月3日付けの退職願(退職日を平成28年3月31日とするもの。)を提出した(乙2)。これを受けて,A部長は,上司の立場として指導力不足があったことは否めないと考え,原告に対し,過酷な勤務状況となってしまったのは,局長,次長,部長,課長を含めた上司の責任ですと話した。
その際,原告は,A部長に同年3月は数日出勤し,年休を取得したいと申し出た。実際には,原告は,体調不良等により手術を受ける必要があり,同月を待つことなく,同年2月1日から同年3月10日までの間,年休,病休,振替休日により10日間(うち4日は時間休を取得)のみ勤務し,同月11日以降は欠勤した(乙3)。
A部長は,原告が出勤しないので,B局長と相談して,平成28年度の新体制になる前に,業務分担の見直しを行った。原告が出勤をしなくなった平成27年2月及び3月は県派遣職員が対応したが,滞りなく業務をすることができた。

オ 被告は,準職員採用試験の結果や,各契約職員の更新の意向等を踏まえ,同年2月29日までには,平成28年度は契約職員の公募は必要ないと判断するに至った。上記のとおり,原告がその時点で既に退職願を提出していたため,被告は,原告が同年3月31日で退職することを前提としており,同人に対する雇止めの通告はしなかった。

カ 原告は,同年2月29日,A部長に対して,退職願を撤回すると申し出た。A部長は,総務企画部としては,公募の予定はないと考えていたが,他の部門で契約職員の公募があるか否かについては知らなかったので,雇用契約の更新の可能性はないが,被告が契約職員の公募をすることがあり,原告がハローワークを通じて申し込みをすれば,選考の対象となると一般論を告げて,一旦は引き取った。そして,B局長に報告すると,同局長は平成28年度の契約職員の公募は行わない旨を原告に伝えるよう指示した。A部長は,原告に対し,同年3月2日に公募はないと告げた。

キ 被告は,原告に対し,同年3月8日付で雇止め理由証明書を発行した。同証明書には,更新回数の上限に係り,期間満了によるものであることとされ,なお書きで,原告の退職願が同年2月3日付けで受理されていると記載されている。

ク 原告等の雇止めに関して,同年3月15日,被告と労働組合との間で団体交渉が行われた(甲7)。

2 争点に対する判断

⑴ 争点①についての判断

被告は,労働契約法19条の要件該当性ではなく,そもそも適用や類推適用がないと主張をするが,原告の主張は,就業規則上3年の上限があるものの,なお,1年単位で契約が更新されるべきであるというものであり,公募がなされて再雇用された状態,つまり3年の更新期間の上限が解消された状態に復するという主張をしているわけではないから,あくまで同条の要件該当性の問題として捉えるのが相当である。
まず,前提事実のとおり,被告は,その就業規則において,契約職員の雇用期間は1会計年度とし,更新による通算雇用期間の上限を3年とする明確な定めを置いている
そして,被告は,通算雇用期間内に有期雇用契約を更新するに当たり,その都度,当該職員に対し,契約期間を明記した労働条件通知書を交付するなど,外形上,更新がなされたことを明確にする手続をとっていた(甲2,13)。加えて,上記認定のとおり,契約更新前には少なくとも管理職による意向確認が実施され,1名ではあるが,実際に雇止めになった契約職員が存した。しかも,上記認定のとおり,雇用期間満了時に雇止めをする可能性が高かった契約職員は,その前に辞職願を提出して退職しており,更新前の時点で当該契約職員の適性等が判断されて,雇用が継続されていないという事情もあった。そうすると,通算雇用期間の上限内の更新手続についても,形式的かつ形骸化しており,1会計年度といった期間が存しないのと同様な状態にあったとはいえないというべきである。
これに対し,原告は,被告による契約更新の手続は特別な事情のある契約職員については有期雇用契約を更新しないという程度の簡単なものにすぎない旨主張する。確かに,被告の関連団体である高知県立大学後援会のC部長は,この点について,同後援会による契約職員の雇止めの可否が争われた別件の訴訟(当庁平成28年(ワ)第130号)において,よほどのことがない限りは更新されるという趣旨の供述をしてはいる(甲10)ものの,当該供述は「通常の勤務状況確認,平時の勤務状況,1月までの勤務状況を確認しながら,来年度に向けて,やっていっても大丈夫かどうかといったようなところを判断して,確認しました。」と述べた上で,契約職員側の訴訟代理人の質問内容を肯定する供述をしたにすぎないものである(甲10)。原告が指摘するような被告の関連団体の関係者の供述の一部を捉えて,そのことから直ちに,被告における有期雇用契約の更新手続が簡単なものであったとか,形骸化していたなどということはできない。
かえって,被告は,3年間の雇用期間の上限を墨守し,契約ミスの例と保健師という資格上の例外を認めざるを得なかった事案を除いて,必ず,3年で契約職員を一旦は雇止めにし,その後は,公募,ハローワークを通じた申込み,選考手続を行って再雇用をしてきたものであり,3年間の上限に達した契約職員に関しては単なる契約の更新とは明らかに異なる手続を踏んできていることが指摘できる。
以上説示してきたところによれば,本件雇止めが期間の定めのない労働契約を締結している労働者に対する解雇と同視できるとは認められない
したがって,本件雇止めは労働契約法19条1号に該当しない

⑵ 争点②についての判断

被告は,その就業規則において,契約職員の通算雇用期間の上限を3年と明確に定めていたこと,かかる上限に達しない契約職員について有期雇用契約を更新する場合も,管理職による意向確認や契約期間を明記した労働条件通知書の交付といった手続をとっていたこと,原則として3年の期限を超えてそのまま更新した事例はなく,必ず更新とは明らかに性質の異なる公募が行われていたこと,A部長も原告にその旨を告げていて,原告も理解していたこと,原告の契約の更新回数は2回にすぎず,通算雇用期間も3年にとどまっていたこと,原告の給与計算を主とする業務は,性質上,一定の恒常的なものであり,一定の専門性が必要であって,職員のプライバシーに携わるものであるとはいえるが,政策的・裁量的な判断がなされるべきものではなく,ルールに従って一定の処理を行うもので,担当者によって結果が異なりうるものではなく,また,業務自体は恒常的に存するものとはいえ,同一の担当者が継続的に従事する必要性の高い業務とはいえず,代替性が高いものと評価でき,業務内容から直ちに継続雇用の高い期待が生じるとまではいえないこと,しかも,原告が準職員採用試験を受験し,一旦は準職員として内部登用される機会が確保されていたことも踏まえれば,労働契約法19条2号の合理的な理由のある期待があったと認めることは困難である。
また,平成26年4月1日及び平成27年4月1日付け労働条件通知書における「契約期間 更新の有無」の欄の「1 契約更新の有無」の項には「ロ 更新する場合がありえる」に○印が付されている(甲2,3)ところ,原告は,かかる記載を根拠の一つとして,原告の雇用継続に対する期待には合理的な理由があると主張している。しかし,上記各通知書の「1 契約更新の有無」の項には「イ 自動的に更新」という項目も設けられているのに,あくまで「ロ 更新する場合がありえる」に○印が付けられていたにすぎないことからすると,むしろ,原告は,契約職員就業規則に定められた通算雇用期間の上限に関する定めに従い,雇止めがなされる可能性があることを予見し得たと評価することも十分に可能である。したがって,上記労働条件通知書の記載をもって,直ちに原告の雇用継続に対する期待に合理的な理由があるとはいえない。
なお,原告は,就業規則上3年間の上限があるとしても,公募により再雇用されていた実情があるから,3年を経た後も,契約更新に対する期待が保護されるべきであると主張する。
しかしながら,公募はその性質上,年度ごとに必要な人員を補充するために行われるものであるし,ハローワークを通じて広く労働市場から被告への就職を希望する者に門戸を開く手続であって,職員の契約期間の更新とは明らかに性質が異なるから,公募手続を経て再雇用がなされ事実上契約期間が継続した事例が存したとしても,更新の期待を生じさせるとするには飛躍がある。被告が設立されたのは,平成23年であって,3年の雇用期間を経た契約職員が公募により再雇用された実績があるのは,平成26年度と平成27年度の採用職員に限られるところ,その際に公募に申し込んだ契約職員が全員採用されたとはいえ,採用された人数は7人に限定されており,公募による再雇用の事例が性質の異なる更新への期待を生んだといえるほどの実質を伴っているものと評価するのは困難である。したがって,公募がなかったにもかかわらず,契約が更新されたとすることはできない。
さらに,原告は,平成28年度に公募が行われなかったことが,突然の方針変更であって,労働契約法18条に反するという趣旨の主張をし,高知県立大学教職員組合執行委員長のD証人も同旨の証言をしている。確かに,B局長が団体交渉時に同条の存在があることを強調するように聞こえる答弁を行った(甲7)ことは否定できない。
しかしながら,被告においては設立後早い段階からプロパー職員を増員する方向で施策を進め,非正規雇用から正規雇用を主体とする職員構成に転換を行ってきており,その施策は,契約職員にとっても準職員として採用される途を開いていると評価し得る面も有することを踏まえると,その結果として,契約職員の担当業務が縮小し,契約職員数の減少に至ることもやむを得ないから,平成28年度に公募をしなかったという判断が直ちに同条に反し,あるいは潜脱するものであったとはいい難い。本件では,原告が採用された時点で,就業規則上,更新の上限が3年以内と明確にされており,採用後に一方的に就業規則が変更されたという事案ではないし,原告が就職した平成25年の時点で契約職員が公募により再雇用されることが当然に保証されていたという事情もなく(被告設立の時点から3年経っていない。),原告にも準職員採用試験を受ける機会が与えられたことも加味すれば,被告が同条を濫用し,原告の同法19条2号所定の期待を裏切ったと評価するのは相当でない。
以上の事情を総合考慮すると,原告が通算雇用期間の上限である3年を超えて被告との雇用契約が更新されるものと期待することについて,合理的な理由があったとはいえない。
したがって,本件雇止めは同法19条2号にも該当しない

第4 結論

以上によれば,争点③について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり,判決する。

 

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