大阪医科薬科大学事件

大阪医科薬科大学事件[1審](大阪地方裁判所平成30年1月24日判決)

原告が主張する各労働条件の相違すべてに対し,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違とまではいえないとして棄却された例

1 事案の概要

平成28年4月における学校法人a大学との合併前の学校法人b大学は,b大学(以下「本件大学」という。)や同大学附属病院(以下「附属病院」という。),cクリニック,dセンター等を運営する学校法人であり,被告は,平成28年4月に学校法人b大学と学校法人a大学が合併して設立された学校法人である。
原告は,平成25年1月29日,被告との間で雇用期間を同年3月31日までとする期間雇用契約を締結し,以後,アルバイト職員として,雇用契約の更新(契約期間は1年間)をしながら,平成28年3月31日まで被告に在籍していた元職員である。
本件は,被告において有期雇用職員として就労していた原告が,①原被告間の雇用契約において定められた労働条件は,被告における無期雇用職員の労働条件を下回っており,労働契約法(以下「労契法」という。)20条に違反するとして,主位的には無期雇用職員と同様の労働条件が適用されることを前提として,また,予備的には労契法20条に違反する労働条件を適用することは不法行為にあたるとして,無期雇用職員との差額賃金等合の支払,②被告が原告に対して労契法20条に違反する労働条件を適用していたことは不法行為にあたるとして,慰謝料等の支払,並びに,上記①及び②に対する平成28年4月29日(請求の趣旨変更の申立書の送達日の翌日)から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

2 大阪医科薬科大学事件[1審]判例のポイント

2.1 結論

原告は,被告の正職員とアルバイト職員の賃金の相違,賞与支給の有無,正職員のみ労働基準法を上回る年次有給休暇を与えられている点,正職員のみ下記特別有給休暇が与えられている点,正職員のみ私傷病休職中の賃金が支払われる点,附属病院で医療費補助が受けられるのも正職員のみであった点について,労働契約法20条違反と主張する。
しかし,裁判所は,被告が,無期雇用職員を正職員,有期雇用職員をアルバイト職員と位置づけてそれぞれ異なる就業規則を設け,賃金その他の労働条件について異なる扱いをしているのであるから,無期雇用職員と有期雇用職員の相違は,期間の定めの有無に関連して生じたものであると認めるのが相当であり,原告が主張する労働条件の相違は,いずれも不合理な労働条件の相違とまでは認められず,労契法20条に違反するとはいえないとして原告の請求を斥けた。

2.2 理由

1 被告における正職員とアルバイト職員の労働条件の相違は,期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか

「被告は,無期雇用職員を正職員,有期雇用職員をアルバイト職員と位置づけてそれぞれ異なる就業規則を設け,賃金その他の労働条件について異なる扱いをしているのであるから,無期雇用職員と有期雇用職員の相違は,期間の定めの有無に関連して生じたものであると認めるのが相当である」

2 被告における正職員とアルバイト職員の労働条件の相違は,不合理な労働条件の相違にあたるか

「一般的に賞与は,月額賃金を補うものとしての性質も有していると認められるところ,被告の正職員に対して,賃金の一定の割合を賞与として特定の時期にまとめて支給することは,長期雇用が想定され,かつ,上記したような職務内容等を担っている正職員の雇用確保等に関するインセンティブとして一定の合理性があるといえる。他方,アルバイト職員については,上記したような正職員と同様のインセンティブが想定できない,雇用期間が一定ではないことから,賞与算定期間の設定等が困難であるという事情がある。そして,以上のような事情に,透明性や公平感の確保という観点をも併せ鑑みれば,有期雇用労働者に対しては,むしろ完全時給制で労働時間に応じて賃金を支払う方が合理的であると考えられる。加えて,月額賃金と賞与を合わせた年間の総支給額で比較しても,約55パーセント程度の水準であり,相違の程度は一定の範囲に収まっていると認められる(上記4(2)ウ(イ))。以上認定説示した諸事情を総合的に勘案すると,正職員について賞与を支払い,アルバイト職員には支払っていないとしても,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違があるとまでは認められない。」

3 判決情報

3.1 裁判官

裁判官:内藤 裕之,前原 栄智,大寄 悦加

掲載誌:労働判例1175号5頁

3.2 関連裁判例

  • ハマキョウレックス事件[1審](大津地裁彦根支部平27.9.16判決)
  • メトロコマース事件[1審](東京地裁平29.3.23判決)
  • ヤマト運輸(賞与)事件(仙台地裁平29.3.30判決)
  • 日本郵便(佐賀)事件[1審](佐賀地裁平29.6.30判決)
  • 日本郵便(東京)事件[1審](東京地裁平29.9.14判決)
  • 日本郵便(大阪)事件[1審](大阪地裁平30.2.21判決)
  • 医療法人A会事件(新潟地裁平30.3.15判決)
  • 井関松山製造所事件(松山地裁平30.4.24判決)
  • 井関松山ファクトリー事件(松山地裁平30.4.24判決)
  • 日本郵便(佐賀)事件[控訴審](福岡高裁平30.5.24判決)
  • 日本郵便(東京)事件[控訴審](東京高裁平30.12.13判決)
  • 日本郵便(大阪)事件[控訴審](大阪高裁平31.1.24判決)
  • 大阪医科薬科大学事件[控訴審] (大阪高裁平31.2.15判決)

3.3 参考

法律の判断枠組

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パート・有期法」)8条は「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」,正社員などの「通常の労働者」の待遇との間に,「不合理と認められる相違を設けてはならない」と定めます。そして,不合理か否かの考慮要素として①職務の内容(業務の内容およびその責任の程度)②職務の内容及び配置の変更の範囲③その他の事情の3つを挙げ,これらの要素のうち「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」判断すると定めています。

ガイドライン

不合理か否かの判断の考え方や具体例を示すものとして厚生労働省は指針(「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」平30.12.28厚労告430号 以下「ガイドライン」といいます。)を定めました。ガイドラインの考え方に反した場合は「不合理と認められる等の可能性がある」にとどまり,裁判所の法的判断を拘束するものではありません。しかし,ガイドラインは,平成30年6月の同一労働同一賃金の原則の関する最高裁判決 をも踏まえ,パート・有期法15条に基づいて策定・公表されたものであることから,裁判所はガイドラインを参考にして不合理性の判断を行う可能性は否定できません 。

従って,実務的にはガイドラインの内容を踏まえた上で検討を進める必要があります。

 「短時間・有期雇用労働者法は、行政指導や行政上の紛争解決手続によって担保される行政法規であるとともに、均衡・均等待遇規定等は裁判手続によって担保される民事規範でもある。したがって、上記の指針は行政指導や行政上の紛争解決手続における処理基準となるとともに、裁判手続上も裁判所によって参考とされるべき基準である。」 菅野和夫「労働法[12版]」P374

賞与に関するガイドライン

「賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。」と定め,問題となる例として①「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じた支給をしているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない」,②「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。」を挙げています。

4 大阪医科薬科大学事件[1審]の主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は,原告の負担とする。

5 大阪医科薬科大学事件[1審]の理由

第1 請求

1 被告は,原告に対し,1038万1660円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は,原告に対し,136万5347円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。

第2 本件事案の概要等

1 本件事案の概要

本件は,被告において有期雇用職員として就労していた原告が,①原被告間の雇用契約において定められた労働条件は,被告における無期雇用職員の労働条件を下回っており,労働契約法(以下「労契法」という。)20条に違反するとして,主位的には無期雇用職員と同様の労働条件が適用されることを前提として,また,予備的には労契法20条に違反する労働条件を適用することは不法行為にあたるとして,無期雇用職員との差額賃金等合計1038万1660円の支払,②被告が原告に対して労契法20条に違反する労働条件を適用していたことは不法行為にあたるとして,慰謝料等合計135万5347円の支払,並びに,上記①及び②に対する平成28年4月29日(請求の趣旨変更の申立書の送達日の翌日)から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めている事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠により容易に認定できる事実)

(1) 当事者等

ア 被告

(ア) 平成28年4月における学校法人a大学との合併前の学校法人b大学は,b大学(以下「本件大学」という。)や同大学附属病院(以下「附属病院」という。),cクリニック,dセンター等を運営する学校法人であった。

(イ) 被告は,平成28年4月に学校法人b大学と学校法人a大学が合併して設立された学校法人である(なお,本件は,合併前のb大学における係争であり,以下では,合併前の事象については,学校法人b大学を指す趣旨で「被告」と表記する。)。(以上につき,甲1ないし3,弁論の全趣旨)

イ 原告

原告は,平成25年1月29日,被告との間で雇用期間を同年3月31日までとする期間雇用契約を締結し,以後,アルバイト職員として,雇用契約の更新(契約期間は1年間)をしながら,平成28年3月31日まで被告に在籍していた元職員である。
ただし,原告は,平成27年3月4日に適応障害と診断され,同月9日から退職する平成28年3月31日まで,被告には出勤していない。この間,原告は,平成27年4月9日から同年5月15日までは年次有給休暇(以下「年休」という。)を取得した扱いとなり,その後は欠勤扱いとなっている。(甲4の①ないし④,13の①②,弁論の全趣旨)

(2) 被告における雇用形態

ア 本件当時(平成25年4月から平成27年3月までを指す。),被告における事務系の職員(以下でいう「職員」とは,特に断らない限り,全て「事務系の職員」を指す。)には,正職員,契約職員,アルバイト職員,嘱託職員の4種類の職員が在籍し,このうち,雇用期間の定めがない職員は正職員のみであった。また,アルバイト職員は時給制であるが,その他の職員は月給制又は年俸制であった。

イ 被告の正職員には,学校法人b大学就業規則(以下「就業規則」という。)が適用され,その賃金は,同規則39条により別に定められた学校法人b大学給与規則(以下「給与規則」という。)が適用されている。
他方,被告のアルバイト職員には,学校法人b大学アルバイト職員就業内規(以下「アルバイト職員就業内規」という。)が適用されるものとされている。(以上につき,甲5,6,9,弁論の全趣旨)

(3) 被告における教室事務員の職務と人員構成

ア 本件大学には,診療科をもたない基礎系の教室として,薬理学,解剖学,生理学,生化学,病理学,微生物学,衛生学・公衆衛生学,法医学の8教室が設置され,各教室には,教室事務を担当する1,2名の職員(以下では,「教室事務員」という。なお,原告は「秘書」と呼称している。)が配置されており,教室事務員には正職員の者,契約職員の者,アルバイト職員の者がいた。

イ 原告は,被告において,本件大学の薬理学教室の教室事務員として就労していた(甲4の①ないし④)。
なお,原告が行っていた業務は,教室に所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理・日程調整,電話・メール・来客・業者対応,お茶出し,各種事務(教室の教員の増減員手続,郵便物の仕分けや発送,研究補助員の勤務表の作成・提出,給与明細書の配布,駐車券の申請等),教室の経理(教室費や研究費,教授から預かる現金関係等)に関する事務(伝票作成や一覧表作成),備品管理,清掃・ゴミ処理等であった(ただし,教室事務員の業務内容については一部当事者間に争いがある。)。

(4) 本件で問題となっている被告における正職員とアルバイト職員の労働条件の相違(ただし,被告は,一部の相違については,恩恵的措置であり,労働条件の相違ではないと主張している。)

ア 賃金及び賞与とその計算

(ア) 相違の概要

被告の正職員は月給制であるのに対し,アルバイト職員は時給制である。
アルバイト職員の時給は,1000円に満たないこともあるのに対し,正職員は,新規採用でも月額19万2570円(平成25年度に採用された新卒者の場合。なお,ここでの年度とは,毎年4月1日から翌年3月31日までを指す。以下同じ。)であり,月額賃金の総額に相違が生ずることがある。
被告において年末年始(12月29日ないし1月3日)及び創立記念日(6月1日)が休日となる点は正職員もアルバイト職員も同じであるが,正職員は月給制のため,休日が賃金額に影響を与えないのに対し,アルバイト職員は時給制のため,休日があるだけ賃金額が減少することとなる。
また,正職員には,年2回の賞与の支給があるが,アルバイト職員には賞与の支給はない。

(イ) 本件における具体的相違

平成25年4月から平成27年2月までの就労期間に係る原告の賃金額は,別紙のとおりであり,被告の正職員との間で,賃金に関し,一定の相違があることについては,当事者間に争いがない。

イ 年休

(ア) 相違の概要

被告の正職員には,採用後6か月を経過した職員には以後の6か月間に10日,採用後1年を経過した職員には,その時点から年末までの間に採用月に応じて1ないし14日,同期間を勤務した職員にはその翌年に16日,その翌々年には18日の年休がそれぞれ付与される。
これに対し,アルバイト職員には,労働基準法所定の日数の年休が付与される。

(イ) 本件における具体的相違

原告について,平成25年1月29日に正職員に採用されたことを前提に正職員と同じ方法で年休の日数を計算すると平成27年12月末までの間に合計40日付与されることになるのに対し,実際に付与された日数は,平成28年3月末日までで39日であった。

ウ 夏期特別有給休暇

(ア) 相違の概要

被告の正職員には,毎年7月1日から9月30日までの間に5日間の夏期特別有給休暇が付与されるが,アルバイト職員には付与されない。

(イ) 本件における具体的相違
原告が就労していた平成25年から平成27年までの間,正職員には2年間で合計10日間の夏期特別有給休暇が付与されたが,原告には付与されていない。

エ 業務外の疾病による欠勤中の賃金

(ア) 相違の概要

被告の正職員には,学校法人b大学休職規程(以下「休職規程」という。)に基づいて,業務外の疾病で欠勤した場合,6か月間は賃金全額支払われ,6か月経過後は,休職が命じられた上で休職給として,標準賃金の2割が支払われる。これに対し,アルバイト職員には,アルバイト職員就業内規上,以上のような欠勤中の補償,休職制度が存在しない。
また,被告が加入している私学共済は,2割以上の賃金支払がされていることが加入要件となっているため,正職員は,欠勤しても加入資格を失わないが,アルバイト職員は,欠勤すれば加入資格を失うこととなる。

(イ) 本件における具体的相違

原告は,平成27年3月9日から退職する平成28年3月31日までの間,被告を欠勤しており,この間は,年休を取得したとされている期間を除き,賃金は支払われていない。

オ 附属病院の医療費補助措置

(ア) 相違の概要

被告の正職員が附属病院を受診した場合,月額4000円を上限として医療費の補助が受けられるが,アルバイト職員は同補助を受けることができない。

(イ) 本件における具体的相違

原告は,平成25年4月5日に附属病院に通院し,9360円を支払ったが,被告から医療費補助措置を受けることができなかった。

第3 本件の争点

1 被告における正職員とアルバイト職員の労働条件の相違は,労契法20条に違反するか
(1) 同相違は,期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか(争点1)
(2) 同相違は,不合理な労働条件の相違にあたるか(争点2)
2 労働条件の相違が労契法20条に違反するとした場合における原告に係る労働条件の内容如何(争点3)

3 仮に,労働条件の相違が労契法20条に違反するとした場合,被告に不法行為が成立するか否か
(1) 被告に故意・過失があるか(争点4)
(2) 損害の有無及びその額如何(争点5)

第4 争点に関する当事者の主張

1 争点1(被告における正職員とアルバイト職員の労働条件の相違が,期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか)について

(原告の主張)

(1)ア 労契法20条の立法趣旨は,有期雇用労働者については,雇止めの不安によって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや,有期雇用労働者の処遇に対する不満が多く指摘されていることを受け,不合理な労働条件を禁止することを明確化した点にある。そうすると,同条の適用においては,同一の事業主が雇用する無期雇用労働者と有期雇用労働者との現実の労働条件に相違があれば十分であり,「期間の定めがあることにより」との因果関係要件を独立の要件と解すべきではない。
イ また,仮にこれを独立の要件であると解するとしても,期間の定めと明らかに関係がない労働条件の相違を排除する程度の要件であると解すべきである。
この点,本件で問題となっている被告の正職員とアルバイト職員の労働条件の相違は,期間の有無と関連性が存在することは明らかであり,期間の定めがあることを理由とする労働条件の相違にあたるというべきである。

(2) 被告は,被告では有期雇用労働者であっても月給制の者や賞与の支給を受けている者,夏期特別有給休暇が付与されている者,私傷病による欠勤の際の休職給の支給を受けている者,附属病院における医療費補助制度の対象となる者がいるから,これらの相違は,期間の定めの有無によるものではないと主張する。しかし,有期雇用労働者であるアルバイトと無期雇用労働者である正職員の間に労働条件の相違がある以上,期間の定めの有無に関連する労働条件の相違にあたるというべきである。

(被告の主張)

(1) 労契法20条は,「期間の定めがあることにより」との文言を用いているのであるから,有期雇用労働者と無期雇用労働者との間の労働条件に相違があるというだけで同規定の適用が問題となるものではなく,その相違が期間の定めがあることとの間に因果関係が必要である。

(2)ア 被告の正職員は,法人内の全ての部署への異動があり得る。また,正職員が携わる可能性がある職務は,大学内,病院内の全ての事務業務であって,内容も多岐にわたっている。さらに,正職員は,原告に比して,6倍近い時間外労働に従事し,トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度,責任,ノルマ等の成果への期待等も異なる。これに対して,原告が従事している職務は定型的で簡便な業務であり,正職員との職務内容の同一性はない。
したがって,被告の正職員とアルバイト職員の労働条件の相違は,上記したような業務の広狭や職務の内容(ここでいう「職務の内容」とは,労契法20条にいう職務の内容と同趣旨であり,業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を指す。以下同じ。),異動の可能性の相違等に基づくものであって,期間の定めがあることによる相違というものではない。
イ また,被告においては,有期雇用労働者であっても,月給制で年末年始や創立記念日による休日が賃金に影響を与えない者,賞与の支給を受けている者,夏期特別有給休暇が付与される者,私傷病による欠勤の際の休職給の支給を受けている者,附属病院における医療費補助制度の対象となる者がいる。したがって,本件において原告が問題としている相違は,期間の定めによる相違というものではないことは明らかである。

2 争点2(被告における正職員とアルバイト職員の労働条件の相違が,不合理な労働条件の相違にあたるか)について

(原告の主張)

(1) 労契法20条は,有期雇用労働者の労働条件が無期雇用労働者の労働条件と比較し,社会的に公正とはいえない不利益な取扱いがなされている実態に鑑みて,それを是正し,有期雇用労働者の公正な処遇を図ることを目的とするものである。したがって,同条の解釈は,以上のような同条に係る立法趣旨等を踏まえ,有期雇用労働者の労働条件の是正や有期雇用労働者の公正な処遇の実現を図るといった観点から行わなければならない。
そして,労契法20条の「不合理と認められるものであってはならない」との要件についても,問題となる処遇の相違について,合理的な理由がある場合に限り,有期雇用労働者の不利益な取扱いが許される趣旨と解するのが相当である。また,有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違に合理的な理由がある場合であっても,その相違の程度が社会通念上,相当な程度を超えている場合は,不合理な労働条件の相違にあたるというべきである。

(2) 労契法20条は,不合理な労働条件の相違にあたるかどうかの考慮要素として,①職務の内容,②職務の内容及び配置の変更の範囲,③その他の事情を挙げるが,これらのうち,前二者が重視されるべきである。
そして,労働条件の相違が不合理と認められるかどうかの判断においては,当該労働条件の性質・目的が上記の①や②と関連しない場合や,関連性を有するとしても有期雇用労働者と比較対象とされる無期雇用労働者との間でこれらの点に客観的な相違がなければ不合理な相違にあたり,相違がある場合であっても,その相違が社会通念上相当な範囲を超えている場合は,不合理な相違にあたるというべきである。

(3) 労契法20条は,職務の内容が同一であるにもかかわらず,その労働条件が不合理な場合にそれを是正させることを目的とするものであるから,不合理な労働条件の相違にあたるか否かは,原告と同じ業務に従事している基礎系教室の正職員の教室事務員と原告の労働条件の相違を比較して判断すべきである。
他方,原告が行ってきた教室事務員の職務と被告の他の部署における事務職員の業務は異なる上,時間外労働数も異なることからすれば,他の部署における正職員は,原告との比較の対象にすべきではない。

(4)ア 以上を踏まえて,本件についてみると,原告と他の基礎系教室の正職員の教室事務員の職務の内容(上記(2)①)は,配置されている教室やその教室の教授の特徴,教授の個別のポスト・役割に応じて細部に多少の違いはあるとしても,中核部分は同一であり,客観的に同一と判断されるべきものである。また,職務の内容及び配置の変更の範囲(上記(2)②)についても,正職員もアルバイト職員も配置転換を命ずることができる旨の規定が存在し,実際の配置転換の状況についても,正職員の教室事務員の配置転換の例はほとんどない一方で,アルバイト職員の教室事務員には配置転換の例があり,配置の変更の範囲については規定上も実際の運用でも客観的にみて違いはないというべきである。
イ 被告は,その他の事情として,正職員の方が時間外労働の時間が長いことやアルバイト職員でも契約職員や正職員への登用制度があること,家計を担う配偶者を有する者がその扶養の範囲内で働ける環境を提供することや正職員からアルバイト職員への置き換えの過程であること等も挙げるが,いずれも労契法20条の合理性の判断にあたり,考慮要素とすべき事情にはあたらないというべきである。

(5) 以上のとおりであって,正職員の教室事務員と原告を比較すると,職務の内容,職務の内容及び配置の変更の範囲に相違はない。
他方,本件の相違についてみると,以下のとおりである。

ア 基本給及び賞与について
正職員の教室事務員で最も賃金額が低い正職員(平成27年4月1日現在で勤続19年の職員である。原告は,「A氏」と呼称しており,以下では単に「A氏」という。)の賃金額,平成25年4月に新規採用された正職員の賃金の推計額は,それぞれ別紙のとおりである。これらによれば,原告の基本給は,教室事務員である正職員で最も賃金が低い者の基本給の43ないし44パーセントにすぎず,賞与を合わせた年間支給額でみると,31ないし32パーセントであって,このような相違を合理化する事情は皆無である。

イ 年次有給休暇や夏期特別休暇,年末年始における賃金支給について
これらの制度は,労働者の心身の疲労の回復や労働力の維持培養,家庭生活の充実,職員の日常の労働に対する労り等を趣旨とするものであるところ,これらの点について正職員とアルバイト職員で相違を設けること自体,不合理である。

ウ 休職期間中の賃金の保障や休職給について
これらの制度は,休職を余儀なくされた職員の心身の疲労の回復や健康の回復・維持・増進等を図るとともに,休職中の賃金を保障することで休職者の生活を保障するほか,一定の賃金を支払うことによって,社会保険の資格を喪失させず社会保障を充実させることを趣旨とするものと解されるところ,これらの点について正職員とアルバイト職員で相違を設ける合理的な理由はない。

エ 私学共済の資格喪失について
原告は,平成27年5月16日をもって私学共済の資格を喪失した。原告は,厚生年金,健康保険,介護保険料等を自ら負担しなければならなくなり,それにより過分に負担することとなった金額は,原告の試算によれば,月額1万1465円,平成28年3月15日までの10か月でみれば,11万4650円となる。

オ 医療費償還措置について
同措置は,正職員が受けられる福利厚生面での措置であって,詳細な規定も整備されており,雇用契約の内容となっているから,労契法20条の適用のある労働条件であることは明らかであるところ,このような福利厚生面の措置について,正職員のみに制度が存在すること自体不合理である。

(6) よって,本件で問題となる相違については,いずれも不合理な労働条件の相違にあたり,労契法20条に違反するというべきである。
(被告の主張)

(1)ア 被告の正職員で教室事務員として配属されているのはわずか4名にすぎず,被告の正職員の大半は,法人内の各部署において,多岐にわたる業務に携わっている。正職員の教室事務員が従事している業務は,定型的で簡便な作業や雑務レベル業務が過半を占め,被告における事務業務の中で最も閑暇な業務であるが,同正職員が,ひとたび他の部署に異動すれば,非定型的,複雑で専門性,技術性を有する業務をこなさなければならない。以上からすると,本件において,不合理な労働条件の相違にあたるか否かは,原告と法人内の全ての部署における正職員を比較対照して判断すべきである。なお,原告が比較の対象とするA氏は,勤続19年の職歴を有しており,このような職員を比較の対象とする点において,根本的に誤っている。
イ ところで,被告の正職員は,法人内の全ての部署への異動があり得る上,携わる可能性がある業務は,大学内,病院内のすべての事務業務であって,業務内容も多岐にわたっている。一方,原告が従事している業務は定型的で簡便な業務である。そうすると,両者が従事する職務については,その責任の程度が異なるから,原告と正職員との職務の内容に同一性はない。

(2) 本件で問題となっている各相違は,不合理な労働条件の相違とはいえない。
ア 被告における正職員の採用は,中途採用でも新卒採用でも極めて狭き門であり,原告がその狭き門をくぐり抜けた者と同等の賃金や賞与,休職給を支給されて然るべきとの主張は過大である。
イ 被告の正職員が携わる可能性がある事務は,大学内,病院内の全ての事務業務であって,職務内容も多岐にわたっている。被告の正職員は,原告に比して,6倍近い時間外労働に従事し,人事評価制度の適用を受け,トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度,責任,ノルマ等の成果への期待等も異なる。
ウ 被告は,アルバイト職員の人材リソースとして,地域社会に潜在的に存在する有用な人材を念頭に置いており,家計を担う配偶者を有する者が,扶養の範囲内で働ける環境を提供することにより,被告の近隣に在住する主婦層に潜在する有用な人材の獲得を目指す一方,キャリア志向を持つアルバイト職員に対し,アルバイト職員から契約職員,契約職員から正職員への登用制度を整備し,定期的に登用試験を実施している。
被告のアルバイト職員は,採用時及び採用後の所属先との話合いによって,勤務日数や勤務時間の見直しが可能であり,実際に家庭の事情等で勤務時間,勤務日数を調整している者も少なくなく,正職員では享受できない柔軟な労働条件が約束されている。

(3) 被告では,有期雇用職員については,①本人のスペシャリティーに応じて専門的な業務に正職員同様に主体的に従事することが求められ,本人の経験の範囲内で異動の対象となり,昇格もあり得る「嘱託職員」,②原則として異動や昇格はなく,正職員や嘱託職員の指示を受けて,正職員に準ずる業務に従事する「契約職員」,③原則として異動や昇格はなく,正職員や嘱託職員,契約職員の指示を受けて,主として,定型的で簡便な作業や雑務レベル作業に従事し,求められる能力も限局的な「アルバイト職員」という3つの職種を設けている。これらの職種では,職務の内容及び当該職務の内容と配置の変更の範囲に明確な段階的な差異があり,これらに応じて労働条件も段階的な相違が設けられている。

(4) 原告が労働条件の相違と主張している部分のうち,賞与は,賃金の後払い的性質のみならず,功労報償的性質を有しており,通常の賃金と異なって任意的性質を有するから,その支給要件をどう定めるかは,当事者の自由である。
また,私学共済の資格を喪失する点については,公的制度の範疇に属する事項であり,被告における労働条件の相違とはいえない。
さらに,附属病院の医療費償還措置は,被告が任意に定める恩恵的措置であり,その要件をどう定めるかは,被告に広範な裁量が認められ,労契法20条の関係で相違が問題となる労働条件には該当しないというべきである。
なお,被告における正職員の採用は,各月ともに1日付けか16日付けしかないため,原告が正職員として採用されるとすると,平成25年2月1日付けになるはずであるところ,その場合は,年休の付与日数は平成27年12月末日までで合計39日となる。したがって,年休の付与日数に違いはない。

3 争点3(労働条件の相違が労契法20条に違反するとした場合における原告に係る労働条件の内容如何)について

(原告の主張)

(1)ア 労契法20条は強行法規であり,それに反する労働条件は無効であることからすると,労契法20条違反とされた有期雇用労働者の労働条件は,比較対照とされた無期雇用労働者の労働条件に置き換わると解すべきである。
イ また,有期雇用労働者と無期雇用労働者でそれぞれ異なる労働条件を定める就業規則は,全体を合理的に解釈すると,無期雇用労働者の労働条件の適用対象から有期雇用労働者のみを除外する趣旨の規定とみるのが相当であるところ,労契法20条に違反する場合は,有期雇用労働者を適用対象から除外する趣旨の定めが無効になるというべきであるから,就業規則を合理的に解釈すれば,原則に戻って,無期雇用労働者に関する定めが適用されると解するのが相当である。

(2) 本件についてみると,労契法20条に違反する結果,原告に対しては,無期雇用労働者の就業規則が適用されるため,原告に適用される労働条件の内容とそれに基づく差額賃金等は以下のとおりとなり,原告は,被告に対し,以下の差額賃金等請求権を有するということになる。

ア 賃金及び賞与
原告について,教室事務員である正職員と同様の労働条件が適用され,別紙のとおり,A氏との差額賃金770万0513円が支給されるべきである(なお,原告は,予備的に,平成25年度新規採用正職員と同様の労働条件が適用されることを前提とした差額賃金283万1531円を請求する。)。

イ 年末年始や創立記念日の休日における賃金支給
アルバイト職員は,年末年始と創立記念日の合計7日(2年間で14日)について,無給となるが,この点について,正職員と同様の労働条件が適用され,A氏を基準とした1日平均賃金相当額の14日分の差額賃金が支払われるべきである。
そこで,原告は,被告に対し,①主位的には,A氏の平均賃金を基準とした16万0937円を,②予備的には平成25年度新規採用正職員の平均賃金を基準とした9万0510円を,③更に予備的には原告の平成26年度の平均賃金5050円(平成26年度の原告の合計給与額のうち,時間外手当を除く総額184万3612円を365日で除した額)を基準とした7万0700円を請求する。

ウ 私傷病による欠勤中の賃金及び休職給
原告が正職員であった場合は,平成27年3月16日から同年10月15日までは賃金全額,同月16日から平成28年3月15日までは2割の休職給が支払われたはずである。そこで,原告は,被告に対し,①主位的にはA氏を基準とした251万6210円(平成26年度の賃金1か月分と平成27年度の賃金5か月分及び退職までの休職給として平成27年度の賃金の2割相当額の5か月分の合計額である。)を,②予備的には平成25年度新規採用正職員を基準とした144万4520円(上記①と同じ。)を,③更に予備的には原告の平成26年度の平均賃金を基準とした108万9739円を請求する。
エ 附属病院の医療費補助措置
原告は,平成25年4月5日に附属病院に通院し,9360円を支払ったが,仮に正職員であれば,医療費償還措置の対象となり,4000円の償還を受けることができたはずであり,上記金額を請求する。

(被告の主張)

(1)ア 仮に労契法20条に違反するとしても,その結果として,無期雇用契約者の労働条件が適用されるものではないというべきである。
イ また,アルバイト職員の労働条件の定めは,アルバイト職員就業内規で完結しており,仮にその一部が無効となったとしても,その事項について,就業規則等が適用されることは想定されておらず,アルバイト職員に対して,無期雇用労働者の労働条件が適用されるものではない。

(2) 仮に原告に正職員の労働条件が適用されるとしても,賞与の差額計算については,採用初年度の夏期賞与は欠勤控除されることが考慮されるべきである。
欠勤控除を反映させると,被告の試算では,原告が比較対象としている教室事務員の正職員と比較した場合の差額は720万4279円,平成25年度新規採用の職員と比較した場合の差額は254万9341円となる。

 4 争点4(被告に不法行為法上の故意・過失があるか)について

(原告の主張)

(1) 一般に行為者は,法律を知って行動すべきであるし,事業主は労働者を雇用する際に当然遵守すべき労働関係法令について,その解釈・運用の場面において,労働者に不利益を及ぼさないよう細心の注意を持って解釈・運用を行うことが要請されるから,結果として使用者に法令違反が認められる場合は,使用者に過失があると推定すべきであり,使用者からの反証がない限り,不法行為上の過失を認定すべきである。そして,使用者の反証により,上記推定が覆される場合とは,同様の事例を適法とした裁判例が変更された場合や,官公署に法令違反の問題はない旨の正式な回答を受けている等,特段の事情がある場合に限られるというべきである。

(2) 原告は,平成26年7月,大阪労働局に対し,不合理な労働条件について,被告に指導等を行うよう求めたところ,大阪労働局は,被告に労契法20条の趣旨について説明し,これを受けて被告は,原告の労働実態を確認して原告と話し合う旨を確約しながら,労働条件の不合理な相違を改善せずに放置した。以上からすると,被告には,不法行為法上の故意・過失があることは明らかである。

(被告の主張)

(1) 被告は,労契法20条が施行されるに際して,被告における人事制度が同法に抵触しないか検討を行った上で,無期雇用労働者の労働条件と有期雇用労働者の労働条件の間に,期間の定めの有無による不合理な相違と評される点はないと判断に至っているところ,この判断は上記に被告が主張したような相応の合理的根拠に裏付けられたものである。したがって,仮に被告の人事制度が労契法20条に違反するとしても,被告に故意や過失を認めることはできない。

(2) 平成26年7月,茨木労働基準監督署から被告に対し,原告から同署に対してなされた相談の内容が伝えられ,状況を確認の上適切に対処するよう求める電話連絡があったことは認める。もっとも,その後の原告との面談において,原告が述べていたのは,「世話をしている人数が違いすぎる」,「契約職員への登用試験を受けたが登用されず忙しい部署が評価されていない」などと多忙であることを主張するというものであった。そこで,被告は,原告の時間外労働の推移を見守ったが,原告の業務については,時間外労働をするほど忙しいというわけでなく(1日平均21分程度),引き続き様子をみる経過観察を継続したものであって,被告が,「原告に関する労働条件の不合理な格差を改善することなく,これを放置した」という原告の主張は全く当たらない。

5 争点5(損害の有無及びその額如何)について

(原告の主張)

(1) 仮に,本件について,無期雇用契約者の労働条件が適用されないとした場合は,差額賃金として請求している上記3記載の金員は,不法行為に基づく損害賠償として請求する。

(2) また,これらに加え,原告は,以下の損害を被ったことから,不法行為に基づく損害賠償請求として,同金員の支払を請求する。

ア 慰謝料
原告は,平成25年4月1日に労契法20条が施行されてから,2年にわたり労契法20条に違反する不合理な労働条件の下で就労させられ,平成26年7月には,原告の求めに応じて,大阪労働局が被告に対し,同条の趣旨について説明し,これを受けて被告が原告の労働実態を確認し,原告と話し合う旨を確約しながら,不合理な労働条件について何らの改善も行わなかった。
また,原告は,平成27年3月9日に休職して以降,平成28年3月に雇用契約が終了するまでの間,正職員との不合理な差別によって,全くの無補償状態となった。
これらによる原告の精神的苦痛を金銭に換算すると,100万円を下らない。

イ 年休の日数差に関する賃金相当額
原告と正職員を比較すると,平成26年12月末日時点における年休の付与日数が1日少ないことは,上記のとおりであり,日数差1日分の賃金相当損害金の損害が生じた。
この点について,原告は,被告に対し,①主位的には,A氏の日額賃金を基準とした1日分の平均賃金1万1620円を,②予備的には平成25年度新規採用職員を基準とした1日分の平均賃金6599円を,③更に予備的には原告の平成26年度の平均賃金を基準とした5050円を損害として請求する。

ウ 夏期特別有給休暇の日数差に関する賃金相当額
正職員には,夏期特別休暇が年間5日間付与されるが,原告には付与されないことは上記のとおりであり,平成25年度及び平成26年度について,それぞれ日数差5日分の賃金相当損害金の損害が生じた。
この点について,原告は,被告に対し,①主位的には,A氏の日額賃金を基準とした11万4955円を,②予備的には平成25年度新規採用職員を基準とした6万4650円を,③更に予備的には原告の平成26年度の平均賃金を基準とした5万0500円を損害として請求する(なお,A氏と平成25年度新規採用職員を基準とする損害の算定においては,別紙の平成25年度及び平成26年度それぞれの平均賃金額に5日分を乗じた額の合計額を損害とし,原告を基準とする損害の算定においては,平成26年度の原告の平均賃金5050円に10日分を乗じた金額を損害額とする。)。

エ 私学共済の資格喪失に伴う損害
原告は,適応障害で休職となったところ,正職員であれば資格喪失とされなかったにもかかわらず,アルバイト職員であるが故に平成27年5月16日をもって,私学共済の資格を喪失することとなり,喪失しない場合に比べて,厚生年金,健康保険,介護保険料等として,10か月分で11万4650円を余計に負担せざるを得なくなった。

オ 弁護士費用
上記アないしエの合計額(主位的な請求金額の合計124万1225円)の1割に相当する12万4122円が相当である。

(被告の主張)

損害に関する原告の主張は,いずれも否認ないし争う。

第5 当裁判所の判断

1 認定事実

前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 被告における職員の種類及び採用経緯等

ア 職員の種類等
(ア) 本件当時,被告の職員には,正職員,契約職員,アルバイト職員,嘱託職員の4種類が存在し,このうち,雇用期間を定めない職員は正職員のみであった。
平成27年3月時点でみると,被告の全職員数は約2600名であるが,事務系の職員についてみると,正職員は約200名,契約職員は約40名,アルバイト職員は約150名,嘱託職員は10名弱であった。
これらの職員のうち,正職員と契約職員はフルタイム(ただし,契約職員は,正職員よりも所定労働時間が若干短い。)であるが,アルバイト職員についてはフルタイムの者は4割程度であり,短時間勤務者の方が多かった。
なお,被告の正職員は,始業時刻と終業時刻が少しずつ異なる何種類かのシフト勤務となっているが,各シフトとも勤務時間は平日においては7時間20分,土曜日(基本的には隔週の出勤である。)においては4時間10分である。

(イ) 被告において,契約職員は,正職員や嘱託職員の指示の下に採用された部署における業務に従事する職員であると位置づけられ,アルバイト職員は正職員,嘱託職員及び契約職員の指示の下,採用された部署の定型的で簡便な作業や雑務レベル業務に従事する職員と位置付けられていた。
業務内容の難度や責任の重さについては,重い方から,正職員,嘱託職員,契約職員,アルバイト職員の順であり,契約職員は正職員に準ずる者とされていた。
賃金については,正職員と契約職員は月給制,嘱託職員は月給制又は年俸制であるのに対し,アルバイト職員は時給制である。また,賞与については,正職員と契約職員には支給されるが,アルバイト職員には支給されず,嘱託職員は支給される者とされない者がいた。     (以上につき,甲5,6,9,34,乙25,証人g,弁論の全趣旨)

イ 被告における正職員の採用の状況,労働条件及び待遇等
(ア) 被告における正職員には,①いわゆる新卒者として一括採用される者,②中途採用される者,③契約職員から登用される者の3種類が存在した。
被告は,新卒者が採用後の異動により法人全体のあらゆる事務を担う可能性があることから,新卒者の一括採用については,部署や職務内容を限定しない形で募集していた。また,中途採用については,特定の業務における経験者を即戦力として採用することがあったが,採用後は当該業務のみに従事することが予定されているというものではなく,中途採用者に関しても,法人全体における異動の可能性があった。
被告は,新卒者の一括採用と中途採用のいずれにおいても,多数の応募者の中から採用者を選定する。具体的には,新卒者の一括採用についてみると,平成25年4月は応募者232名に対して採用は3名,平成26年4月は応募者151名に対して採用は4名であり,中途採用についてみると,平成24年6月に経理業務,総務事務業務,外部資金に関する業務について,それぞれ中途採用の募集をしているが,経理業務については応募者23名に対して採用1名,総務事務業務については応募者225名に対して採用は1名,外部資金に関する業務は応募者23名に対して,採用は0名というものであった。
なお,被告における正職員の採用については,各月の1日付け又は15日付けで行われており,少なくとも平成23年4月以降,それ以外の日に正職員を採用したことはない。

(イ) 本件当時,被告における大卒の正職員の初任給は,19万円程度であり,平成25年度でみると19万2570円であった。
また,正職員は,月例賃金のほかに賞与が支給され,平成26年度の実績でみると,夏期賞与は2.1か月分+2万3000円,冬期賞与は2.5か月分+2万4000円であった。

(ウ) 被告の正職員は,本件大学や附属病院等のあらゆる業務に携わっており,その業務内容は,配転先によって異なるものの,総務,学務,病院事務等多岐に及んでいた。
正職員の配置先のうち,教室事務員は最も閑暇で定型的で簡便な作業や事務レベルの業務がかなりを占めていたが,それ以外の部署では,定型的で簡便な作業や雑務レベルの業務ではない業務が大半を占めていた。例えば,総務部企画課に配属された正職員が携わる事務業務でみると,法人の事業計画の立案・作成,法人の経営計画の管理・遂行,法人の管理運営等に係わる調査,法人の組織及び職制の改善計画の立案,法人の施設の主要な新設・改修工事の立案・作成,企画に係わる各種委員会の事務等があり,これらの業務の中には,法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれており,業務に伴う責任も大きいものであった。
また,本件当時,教室事務員と管理職者を除く被告の正職員の月平均の時間外労働の時間数は,1048分(約17.5時間)であった。
被告では,部署によって,業務内容等に違いがあるものの,就業規則5条において,「本学は必要ある時職員に対し,出向,配置換え,職種変更を命ずることがある。」と規定しており,正職員については,異動により,どの部署でのどの職務を担当することになっても対処できるだけの能力が要求されていた。実際,被告では,正職員として採用された後,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われており,平成25年1月から平成27年3月までの間でみると,約30名が人事異動を経験していた。(以上につき,甲5,33の②,乙15,25,26,証人g)

ウ 被告におけるアルバイト職員の採用の状況と業務内容
(ア) アルバイト職員については,特定の業務に限定して募集及び採用がなされていた。

(イ) 被告におけるアルバイト職員が行う業務は,部署によって異なるが,教室事務員以外の者に関する業務内容についてみると,書類のコピーや製本,仕分け,パソコンへの登録等の定型的な事務である。
また,アルバイト職員の配置転換については,アルバイト職員就業内規4条5項において,「業務の都合により他部門への異動を命ずることがある。」と規定しているが,業務内容を明示して採用していることやアルバイト雇用契約書において業務内容が特定されていることもあり,原則として,アルバイト職員を業務命令によって他部署に配転をすることはなく,特別な事情がある場合に本人との話合いを経るなどして,例外的な個別対応として,部署の変更とも評価し得るような対応をすることがあるのみであった。(以上につき,甲9,23,乙25,証人g)

(ウ) なお,原告は,アルバイト職員についても配置転換があり,解剖学教室の教室事務員であったeが学務課の事務職員に,薬理学教室の教室事務員であったfが医事課の事務職員にそれぞれ配置転換された例を挙げる。しかしながら,被告の総務部総務課課長代理であるg(以下「g課長代理」という。)は,証人尋問において,①eについては,解剖学教室の教室事務員の産休の代替要員として採用した者であるが,産休を取得していた者が復帰することになったため,本来なら契約終了となるが,一般事務のアルバイト職員でもやっていけるということで特に学務部付きとした,②fについては,原告の後任として採用した2名のうちの1名であるが,人員過剰で退職するに当たり,他の部署の業務を紹介したところ,f本人もそれを受け入れて引き続き他の部署で業務をするようになった旨それぞれ証言している(証人g)。そして,アルバイト職員の異動は,正職員の異動の頻度と比べて,まれな出来事である上,個別的かつ具体的な事情に依るところが大きいと認められ,上記したようなアルバイト職員の採用形態や業務内容等に鑑みると,正職員のように人材の育成等を目的として,一方的に職務命令として異動の発令がなされるとは考え難い。そうすると,原告が指摘するアルバイト職員に係る異動について,g課長代理の上記証言は十分に信用できるものといえる。したがって,原告の上記主張は採用できない。

エ アルバイト職員から契約職員,契約職員から正職員への登用試験
(ア) 被告では,アルバイト職員については契約職員への登用試験が,契約職員については正職員への登用試験が,それぞれ存在した。

(イ) アルバイト職員から契約職員への登用試験は,アルバイト職員のうち,1年以上の勤続年数があり,所属長の推薦を受けた者が受験資格を有するものとされ,試験科目は一般常識に関する筆記試験と小論文であり,複数の試験官が採点し,合否を判定していた。
同登用試験は,不合格となっても毎年受験が可能であり,平成25年度は対象者36名のうち16名が志願し,うち5名が合格,平成26年度は対象者101名のうち30名が志願し,うち8名が合格,平成27年度は対象者83名のうち26名が志願し,うち19名が合格というものであった。

(ウ) 契約職員から正職員への登用試験は,平成25年度は7名,平成26年度は11名,平成27年度は13名がそれぞれ合格し,この中には,アルバイト職員から契約職員に登用された者も若干名含まれていた。(以上つき,乙25,証人g)
なお,原告は,本人尋問において,アルバイト職員から契約職員への登用試験について,大学側の受験者は,h教授が責任者として担当している学務部と広報入試部と解剖学教室の所属の者しか合格しないとみんな述べており,実際に学報を確認したところ,過去に合格した者は,その所属の者しかいなかったなどと供述する。しかしながら,原告の同供述は,そもそも従前原告が主張等していなかったものである。また,g課長代理は,証人尋問において,客観的に採点をしていると証言しているところ,仮に,原告が供述するような実情があるとすれば,個別にアルバイト職員との間で契約職員とする雇用契約を締結すれば足り,あえて登用試験制度を設ける必要はないこと,アルバイト職員で受験資格を有する者のうち,3割から5割程度の者が受験しているところ,仮に,原告が供述するような不正があり,特定の者しか合格できず,これらの点が学内で周知されている(「みんな述べている」)のであれば,このように多くの受験者が受験するとは考え難いこと,以上の点に照らせば,原告の上記供述は採用できない。

(2) 原被告間の雇用契約の内容等

ア 雇用契約の内容
(ア) 原告は,平成25年1月29日,被告との間で,契約期間を同年3月31日まで,就業場所を本件大学薬理学,主な業務内容を薬理学教室内の秘書業務,基本賃金を時給950円とする雇用契約を締結した。

(イ) その後,原告と被告は,平成25年4月1日,平成26年4月1日,平成27年4月1日とそれぞれ契約期間を1年として雇用契約を更新し,その都度新たな雇用契約書を作成した。これら各契約において定められた雇用契約の内容に大きな相違はないが,平成26年4月1日以降の契約においては,主な業務内容が受付・事務等に,基本賃金が時給990円に,平成27年4月1日の契約においては,就業場所が本件大学生命科学講座薬理学に,基本賃金が時給1030円にそれぞれ改められた。ただし,原告に係る具体的な職務内容について,特に変更等はなかった。

(ウ) 原告の所定労働日は,月曜日から金曜日と隔週の土曜日であり,休日は,日曜・祝日,土曜日(隔週),創立記念日(6月1日),年末年始(12月29日から月3日)であった。また,原告の所定労働時間は,平日は午前8時30分から午後4時50分まで(うち休憩60分),土曜日は午前8時30分から午後0時40分までであり,所定労働時間は,正職員と同じであった。

イ 契約職員への登用試験の受験状況

原告は,平成26年度に契約職員への登用試験を受験したが,不合格となった。(以上につき,甲4の①ないし④,原告,弁論の全趣旨)

(3) 本件大学における教室事務員の職務内容等

ア 本件大学における教室事務員の配置の概要等
(ア) 本件大学には,診療科をもたない基礎系教室として,解剖学教室,生理学教室,生化学教室,薬理学教室,病理学教室,微生物学教室,衛生学・公衆衛生学教室,法医学教室の8つの教室が存在し,これらの教室のうち,解剖学,生理学,病理学,衛生学・公衆衛生学の各教室には2名の教室事務員が,その他の教室には1名の教室事務員がそれぞれ配置されていた。

(イ) これらの教室事務員の職務は,一部の教室では,その教室の特殊性等に応じた専門的な業務もあったが,多くの教室では,所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理・日程調整,電話・メール・来客・業者対応,お茶出し,各種事務,経理事務,備品管理,清掃・ゴミ出し等の定型的で簡便な業務や雑務が大半であった。

(ウ) このため,教室によっては,教室事務員が不可欠の存在というほどのものではなく,微生物学教室に配置されている1名は短時間勤務者であり,診療科をもたない総合教育系教室(生物学,物理学,化学・生体分子学,心理学,語学,哲学,数学の各教室)では,教室事務員の配置自体がされていなかった。原告が配置されていた薬理学教室においても,原告が欠勤をしていた平成27年3月9日から後任補充がされる同月末日までは同教室所属の教員が分担して教室事務員の業務を行っていたが,特段の問題は生じなかった。

イ 本件大学において,教室事務員をアルバイト職員に置き換えてきた状況等
(ア) 本件大学では,平成11年当時,正職員である教室事務員を9名配置していたが,教室事務員の業務内容が,定型的で簡便な作業や雑務レベルのものが過半を占め,正職員でなければ担えないような責任の重い業務が乏しかったことから,平成13年頃から時間を掛けて正職員を他の部署に配置転換するなどして,教室事務員をアルバイト職員に置き換えていった。そして,本件当時,本件大学における正職員の教室事務員は,4名が残るのみとなっていた。
同4名の勤続年数は,平成27年4月1日を基準としてみれば,最も短い者(A氏)で19年,長い者は30年であり,過去に教室事務員以外の業務に従事したことがある者は,そのうちの1名のみであった。

(イ) 本件当時,正職員の教室事務員は,生理学教室に1名,病理学教室に2名,生化学教室に1名それぞれ配置されていた。同配置については,上記のとおり,本件大学では,教室事務員について,正職員からアルバイト職員に置き換えていっていたところ,①生理学教室においては,査読付きの学内の英文学術誌の編集事務と広報作業があったこと,②病理学教室においては,附属病院の病院病理部を統括し,同部門との連携を取る必要があったほか,病理解剖を担当するため,それに関連する患者や遺族への対応が必要であり,また,診療報酬の算定事務の基礎である施設基準の届出書類を作成していたこと,③生化学教室においては,劇物・毒物等の試薬の管理業務等があったこと,以上の事情に照らして,上記各教室には,アルバイト職員ではなく,正職員の教室事務員を配置する必要があると判断していたためであった。

ウ 教室事務員としての原告の職務内容
(ア) 原告が教室事務員として行っていた具体的な業務内容は,教室に所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理やアポとりなどの日程調整,電話・メール・来客・業者対応,教授や来客へのお茶出し,教授の発表の際のパワーポイントなどの資料作成・準備,教授が外出する際の随行業務,教室内における各種事務(教室の教員の増減員手続,郵便物の仕分けや発送,研究補助員の勤務表の作成・提出,給与明細書の配布,駐車券の申請等),教室の経理(教室費や研究費,教授から預かる現金関係等に関する事務),備品管理,清掃・ゴミ処理,教室の出納の管理等であった。
また,その他に,薬理学教室における実験用マウスの購入に関する補助的業務,i教授が就任していた学内の動物実験委員会委員長に関する雑務等を行うこともあった。
もっとも,これらの各事務は,多量なものとまではいえず,原告の業務はおよそ繁忙とはいえない状況にあり,本件当時の原告に係る時間外労働の平均時間も1か月に185分(約3時間)というものであった。

(イ) 他方,原告は,平成26年2月17日に被告に提出した「契約更新に関する申告書」において,多忙であり適切な人員配置を要望する旨記載し,同年7月15日には大阪労働局(茨木総合労働相談コーナー)に対し,業務量が多忙であるなどと相談し,大阪労働局から被告に対し,適切に対処するよう指導があった(なお,被告は,茨木労働基準監督署から架電があったと主張するが,原告が相談した大阪労働局から指導があったものと認められる。)。被告は,これらの要望や指導を受けて,原告の時間外労働時間数等を踏まえ,原告の業務量を調査した結果,同教室の教室事務員を更に増員する必要があるような繁忙な状況とはいえないと判断した。
また,i教授は,多忙であるとの原告の訴えを受けて,平成26年12月19日,原告が作成した教室事務員増員の上申と題する書面に押印し,原告は同書面を被告に提出して,増員を求めた。そこで,被告は,原告の勤務状態について調査したところ,増員に値する勤務実績が認められなかったため,被告は,教室事務員を増員しなかった。
なお,被告は,原告が欠勤した後の平成27年4月以降の後任配置について,原告が多忙であると強調していたため,念のため,試験的にフルタイムの職員1名とパートタイムの職員1名を配置したが,恒常的に手が余っている状態が続いたため,1年ほどのうちにフルタイムの職員1名に減員したということがあった。(以上につき,甲25,29,37,乙26,証人g,原告)

(ウ) 原告は,薬理学教室の教室事務員として,様々な業務を行っていた,同教室に所属する教員が多く,多くの学生の世話をするから教室事務員としての業務も多忙であった旨主張し,本人尋問において,同主張に沿った供述をする。
しかしながら,①原告は,様々な業務に従事していた旨主張するものの,個々の業務に係る業務量については,ほとんど具体的な主張等をしておらず,また,業務の性質からして長時間を要するといった内容の業務についてはほとんど挙げられていないこと,②教員の予定把握等に要する時間等は,その内容等に鑑みて,さほど長時間を要するとは考え難く,教員や学生の受入れに伴って何らかの事務が生ずるとしても,それらは,飽くまでも一時的な事務であり,長時間を要するような特殊な事務があるとも認め難いこと,③原告が作成した引継書(甲42)に記載されている業務内容をみても,原告が毎日行う業務としては,各先生の予定の把握や確認,ポットの管理,i教授にコーヒーを2回入れる等というものであり,1週間のうちに,あるいは時々する業務としては,清掃やゴミ捨て,備品の購入等であって,基本的にこれらの業務が中心的なものであり,これら以外の原告が縷々挙げる業務については,恒常的に随時発生するものとまではいえないこと,以上のような原告が担当していた業務の性質やその内容等を総合的に勘案すると,原告の上記主張等はいずれも採用できないといわざるを得ない。

(4) 正職員とアルバイト職員の労働条件等の相違の補足

ア 被告のアルバイト職員就業内規等について
(ア) 被告の就業規則は,1条において,「この就業規則は大阪医科大学の職員に適用する。ただし,契約職員,短時間雇用職員に関する規定は別に定める。」と定め,アルバイト職員をその適用から明文で除外しているわけではない。もっとも,被告は,被告のアルバイト職員について,アルバイト職員就業内規を制定し,同就業内規1条において,「この内規は,学校法人b大学に勤務するアルバイト職員について,就業,待遇に関する事項を定めることを目的とする。」と定めているほか,アルバイト職員に関する雇入れや雇用契約の終了に関する規定,労働時間や賃金,年休等に関する規定を定めており,他方,アルバイト職員について,同就業内規以外の他の規程を適用することを定めた規程はない。

(イ) 本件における正職員とアルバイト職員の労働条件等の相違の内容は,前記前提事実(4)のとおりであるところ,以下においては,これらの相違の内容等について,補足する。

イ 賃金及び賞与
(ア)a この点,給与規則では,正職員について月給制を採用する旨の明文の規定はない。しかしながら,割増賃金の算定において,月給制を前提とした計算を採用している規定が存在すること,月の中途における採用等に当たって,日割賃金の計算に関する規定が存在すること,以上の点からすると,正職員の賃金に関しては,月給制であることを前提としていると解される。
b 給与規則では,職員の本給は,「雇入れの際その職員の職種・年齢・学歴・職歴等を斟酌し個々に決定する」と定められ(4条),昇給については,「職員が現に受けている本給を受けるに至った時から当該年度の所定の労働時間を良好に勤務したときは昇給させる」(20条1項),「昇給額は各人の能力・技倆・勤怠成績その他の資格を斟酌して決定するが,各人の勤務成績によっては昇給させないことがある」(21条)と定められている。
他方,アルバイト職員については,アルバイト職員就業内規において,「アルバイト職員の給与は,時間給とし,業務・職種別に設定した時給単価表に定めるものとする。」と定められている(20条1項)。

(イ) 被告では,正職員に対して年2回の賞与が支払われているが,給与規則の中には賞与の支給の定めはなく,賞与の支給時期の直前に総務部人事課から,個別に賞与支給の告示がされている。
また,各年の支給基準額は不明であるものの,被告が出している各種の求人情報における賞与支給実績欄(甲33の①②,乙9の①②)によれば,平成22年度,平成23年度及び平成25年度はいずれも通年で4.6か月分であることが認められ,同記載に照らすと,被告における賞与支給に当たっては,通年で4.6か月分というのが一応の基準になっているものと認めるのが相当である。
他方,被告では,アルバイト職員の賞与については,アルバイト職員就業内規において,「賞与・退職金・退職年金は支給しない」と定めている(21条)。

ウ 年休
被告では,正職員の年休については就業規則24条において,アルバイト職員の年休についてはアルバイト職員就業内規11条において,それぞれ前提事実のとおりの定めがなされている。

エ 夏期特別有給休暇
就業規則及びアルバイト職員就業内規には,夏期特別有給休暇に関する定めは見当たらないものの,被告は,正職員に対して,夏期に5日間の夏期特別休暇を付与していた。

オ 業務外の疾病による欠勤中の賃金
(ア) 給与規則では,「月給者が業務外の傷病のため本学の承認を受けて欠勤する場合は,6ヶ月間は給料月額の全額を支給し,6ヶ月を超えるときは支給せざるものとする。」と定めている(19条)。また,休職規程は,6か月が経過した後に関しては,職員が業務外の傷病により欠勤し,その期間が6か月を超える場合は,休職を命ずること(1条1号),休職期間は,勤続期間に応じて1年6か月から3年を最長とし,被告が定める期間とすること(2条),私傷病による休職中は標準給与の100分の20の休職給を支給すること(3条3号),休職期間を経過し,休職事由が消滅しないときは自然退職とすること(4条)をそれぞれ定めている。

(イ) 他方,被告のアルバイト職員就業内規においては,アルバイト職員が私傷病で欠勤する場合に賃金を支払う旨の定めはない。また,休職規程には,アルバイト職員を適用から除外する明文の規定は見当たらないものの,被告は,アルバイト職員については,休職規程の適用はないものと運用している。

カ 附属病院の医療費補助措置
(ア) 被告は,b大学附属病院医療費補助規程(以下「医療費補助規程」という。)を定め,その具体的な運用についてb大学職員等医療費補助規程内規(以下「医療費補助規程内規」という。)を定めている。
医療費補助規程内規は,医療費補助の対象となる者として,被告の理事や相談役とその家族で一定の範囲の者,職員とその家族で一定の範囲の者,評議員,顧問,参与,研修医,大学院生,学部学生,勤続35年以上の退職者,理事長の許可を得た者等被告との雇用関係の有無を問わず広範な者を対象とし,附属病院を受診した場合に限り,その医療費について,一人当たり月額4000円を上限として補助する旨を定めている。なお,同規程の改廃は理事会の議を経て行うことができ,また,同規程内規については理事長が行うことができる(同規程3条,同規程内規5条)。

(イ) 他方,医療費補助規程及び医療費補助規程内規においては,職員の範囲を具体的に定めていないものの,被告は,アルバイト職員は,これらの規程に定める職員には含まれないものであるとして運用している。(以上イないしカにつき,甲5,6,9,12の①②,33の①②,乙1,2,9の①②)

2 労契法20条の趣旨について

(1) 労契法20条は,「不合理と認められるものであってはならない」と規定しており,同規定は,労働協約や就業規則,個別契約によって律せられる有期雇用労働者の労働条件が,無期雇用労働者の労働条件に比して,法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものであることを禁止する趣旨と解される。

(2) また,同条は,有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として,①職務の内容,②職務の内容及び配置の変更の範囲,③その他の事情を掲げているところ,その他の事情として考慮すべき内容について,上記①及び②を例示するほかに特段の制限を設けていないから,労働条件の相違が不合理であるか否かについては,上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。

(3) そして,労契法20条所定の「不合理と認められること」は,規範的要件であって,その文言からして,不合理性を基礎付ける事実は労働者が,不合理性の評価を妨げる事実は使用者がそれぞれ主張立証責任を負うと解するのが相当である。

3 争点1(期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか)について

被告は,労契法20条が「期間の定めがあることにより」との文言を用いていることから,有期雇用労働者と無期雇用労働者との間の労働条件に相違があるだけで同規定の適用が問題となるものではなく,その相違が期間の定めのあることと因果関係があることが必要である旨主張する。

(1) ところで,雇用契約等をもって定められる労働条件は,職種や業務内容,企業規模,労働時間等の様々な要因を総合的に考慮して決定されるものであるところ,期間の定めの有無に関しても,このような要因の一つとして考慮され得るものであって,有期雇用労働者と無期雇用労働者の間で労働条件に相違がある場合は,その相違は,少なくとも期間の定めの有無が要因の一つとなっている可能性は否定できない。また,有期雇用労働者と無期雇用労働者の間に労働条件の相違があり,その相違が労働者の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲,その他の事情を考慮しても不合理な段階に至っている場合には,期間の定めの有無が直接の要因となっているかどうかにかかわらず,法的には是認し難い状態にあるというべきである。以上のような事情に照らすと,有期雇用労働者と無期雇用労働者との間で労働条件に相違がある場合は,期間の定めの有無と明らかに関連がない相違である場合を除き,労契法20条が掲げる各要素に照らし,不合理であるか否かを判断するのが相当であるというべきである。

(2) 以上を踏まえて本件についてみると,被告は,無期雇用職員を正職員,有期雇用職員をアルバイト職員と位置づけてそれぞれ異なる就業規則を設け,賃金その他の労働条件について異なる扱いをしているのであるから,無期雇用職員と有期雇用職員の相違は,期間の定めの有無に関連して生じたものであると認めるのが相当である

4 争点2(不合理な労働条件の相違にあたるか)について

(1) 労働条件の相違を判断するに当たっての比較対象者及び被告の休職規程等の適用範囲について

ア 本件において比較対照されるべき無期雇用職員について
(ア) 本件において,原告と正職員の労働条件に相違があるところ,同相違が不合理といえるか否かを判断するに当たって,原告は,原告と正職員の教室事務員を比較対照されるべきであると主張する。

(イ) 上記認定したとおり,被告における正職員は200名強であること,正職員の採用に当たっては,経験者を中途採用する場合は,採用時の業務内容を明示して採用することはあるものの,新卒一括採用においては職務や配置の明示はなく部門間を超えた配転があり得ること,以上の点からすると,正職員の教室事務員についても,上記のような採用形態の下で,配置の結果として同業務に従事するに至ったと推認できる。そして,正職員の教室事務員についても,本件で問題となっている各労働条件は,教室事務員としての職務を行うことを前提に個別に設定されているというものではなく,被告における他の正職員と同等に設定されているものと認められる。

(ウ) 以上認定説示した点からすると,被告においては,正職員の教室事務員は他の部門に配置転換される可能性があり,その労働条件は,被告における正職員全体の平均的な労務提供の内容を踏まえて設定されているものと認められることに鑑みると,本件における労契法20条に係る不合理性の判断においては,有期雇用職員(アルバイト職員)である原告と無期雇用職員である被告の正職員全体を比較対照するのが相当というべきである。したがって,原告の上記主張は採用できない。

イ 休職規程等の適用範囲について
確かに,文言上,休職規程や医療費補助内規がアルバイト職員に適用されるかどうかは必ずしも明確とはいえないが,アルバイト職員就業内規は,アルバイトの労働条件等を包括的に定めており,他の規程を引用するような規定もないことからすると,アルバイト職員に係る労働条件は,アルバイト職員就業内規に定められているところにより,他の規程が適用されるものではないと解するのが相当である。

ウ 小括
以上説示した点を踏まえ,以下において,原告が主張する相違点に関し,不合理な労働条件の相違にあたるか否かについて検討する。

(2) 賃金及び賞与

ア 上記認定したとおり,①アルバイト職員は時給制であるのに対し,正職員は月給制であること,②原告の時給は950円であったが,平成25年度新規採用正職員の初任給は19万2570円であったこと,③アルバイト職員には賞与は支給されないが,正職員には賞与が支給されること,以上の点が認められる。
なお,原告は,A氏と比較すべきであると主張するが,上記4(1)アで認定説示したとおり,本件における労働条件の相違に係る不合理性の有無を判断するに当たっては,正職員の教室事務員のみを取り上げて比較対照するのは相当でないこと,また,この点を措くとしても,A氏は,勤続年数が長く,それに応じて高額な賃金が設定されていると認められるところ,A氏と平成25年度新規採用正職員の賃金の相違に鑑みれば,A氏の賃金額は,長期にわたって勤務してきた実績という期間の定めの有無とは明らかに無関係な理由による相違であると認められること,以上の点からすると,A氏と比較すべきであるとの原告の上記主張は採用できない。

イ 上記①について
(ア) 同相違は,賃金の算定方法の違いであるところ,いずれの算定方法を採用するかによって細かい相違はあるものの,いずれの方法も一般に採用されているものであり,一概に一方が他方に比して不合理であるといえるものではない。

(イ) また,被告における正社員の採用については,1日付けか15日付けであったことは上記認定のとおりであるが,アルバイト職員については採用日を限定していた状況は認められない上,アルバイト職員の6割程度は短時間勤務者であったことをも併せ鑑みると,アルバイト職員について,個別の賃金計算がより容易な時給制を採用することが不合理であるとはいえない。

ウ 上記②について
(ア) 原告の時給は950円であり,フルタイムで換算すると月額15万円から16万円までの範囲となるのに対し,正職員の初任給は19万2570円であるから,両者の間には,約2割程度の賃金水準の相違がある。また,賞与の支給も含めた年間の総支給額を比較すると,賞与について欠勤控除を考慮しなければ,原告については,平成25年度新規採用職員の約55パーセント程度の水準ということになる(別紙参照)。

(イ) もっとも,上記認定したとおり,被告の正職員は,新卒一括採用であれ中途採用であれ,多数の応募者の中から選定し,採用するものであり,契約職員からの登用についても,内部試験において合格した者を登用している。また,中途採用者については,募集をしたものの,採用しなかったこともあることに照らしても,正職員は,一定の能力を有することを前提として,限定された特定の業務に従事できるかどうかという観点からではなく,法人内部における多種多様な事務に従事し得る能力を有するかどうかという観点から採用されていると認められる。他方,アルバイト職員は,従事する業務内容等からしても,特定の業務を前提として,当該業務が可能かどうかという観点から採用されるものである上,職制上も正職員の指示を受ける立場にある。そうすると,被告において,正職員とアルバイト職員の間には,採用面やその後の職制面においても明確な上下関係が定められていると認められる。そして,アルバイト職員が正職員としての待遇を希望するのであれば,正職員としての中途採用に応募したり,契約職員への登用試験及び契約職員から正職員への登用試験を通じて登用されるという方法もあることに照らせば,被告における正職員とアルバイト職員の賃金水準の相違は,能力を基礎としたものであり,本人の能力や努力如何で克服可能なものであると認められる。
以上認定したとおり,a)正職員とアルバイト職員の職務の内容や異動の範囲が異なること,b)正職員の賃金は一定の能力を有することを前提として職能給の性質を有するのに対し,アルバイト職員の賃金は特定の業務をすることを前提とする職務給の性質を有しており,いずれの賃金の定め方にも合理性があるといえること,c)アルバイト職員については,正職員として就労する方法がないわけではなく,労働者の努力や能力によってその相違の克服が可能であること,d)本件における原告の賃金は,平成25年度新規採用正職員の賞与も含めた年間の総支給額と比較すると,原告の主張によっても約55パーセント程度の水準(別紙)であり,相違の程度は一定の範囲に収まっているといえること,以上の点が認められ,これらの点を総合的に勘案すれば,原告が主張する賃金に関する相違が,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとまでは認められない。

エ 上記③について
一般的に賞与は,月額賃金を補うものとしての性質も有していると認められるところ,被告の正職員に対して,賃金の一定の割合を賞与として特定の時期にまとめて支給することは,長期雇用が想定され,かつ,上記したような職務内容等を担っている正職員の雇用確保等に関するインセンティブとして一定の合理性があるといえる。他方,アルバイト職員については,上記したような正職員と同様のインセンティブが想定できない上,雇用期間が一定ではないことから,賞与算定期間の設定等が困難であるという事情がある。そして,以上のような事情に,透明性や公平感の確保という観点をも併せ鑑みれば,有期雇用労働者に対しては,むしろ完全時給制で労働時間に応じて賃金を支払う方が合理的であると考えられる。加えて,月額賃金と賞与を合わせた年間の総支給額で比較しても,約55パーセント程度の水準であり,相違の程度は一定の範囲に収まっていると認められる(上記4(2)ウ(イ))。以上認定説示した諸事情を総合的に勘案すると,正職員について賞与を支払い,アルバイト職員には支払っていないとしても,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違があるとまでは認められない。

オ 小括
以上のとおり,原告が主張する上記①ないし③については,いずれも労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとはいえず,この点に関する原告の主張は採用できない。

(3) 年末年始や創立記念日の休日における賃金支給

ア 確かに,前記前提事実のとおり,正職員は月給制であるのに対し,アルバイト職員は時給制であるため,年末年始等の休日があった場合は,正職員の賃金は減少しないが,アルバイト職員の賃金が減少することになる。

イ しかしながら,この点の相違は,月給制と時給制という賃金制度の違いから必然的に生ずるものであって,正職員とアルバイト職員で賃金形態を異にすることが不合理であるとは認められない以上(上記4(2)イ(ア)),その結果として,上記相違が生じたとしても,それ自体不合理なものであるとはいえない。
なお,原告は,これらの相違も含めた1年間の総賃金の相違を不合理な労働条件の相違である旨主張しているが,この点は,上記4(1)で認定説示した点からして,採用できない。

ウ 以上によれば,上記アの相違は,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違とはいえず,この点に関する原告の主張は採用できない。

(4) 年休の日数

ア 確かに,前記前提事実のとおり,被告の正職員とアルバイト職員では,年休の算定方法に相違があることが認められ,その結果,原告が採用された同じ日に,仮に,正社員として採用されていたとすると,年休の日数が1日の少ないこととなる。

イ もっとも,そもそも被告の正職員について,当初の2年内において年休付与日数を調整し,採用から2年以内に到来する最後の年始以降,年休付与日を毎年1月1日として,一律に扱うという手続を採用している理由は,被告の正職員が,被告において長期にわたり継続して就労することが想定されていることに照らし,年休手続の省力化や事務の簡便化を図るという点にあると認められる。これに対して,アルバイト職員については,雇用期間が一定しておらず,また,更新の有無についても画一的とはいえない上,必ずしも長期間継続した就労が想定されているとは限らず,年休付与日を特定の日に調整する必然性に乏しいことから,個別に年休の日数を計算するものとしたと考えられる。

ウ 以上のとおり,被告の正職員とアルバイト職員との間における年休日数の算定方法の相違については,一定の根拠がある上,その結果として付与される年休の相違の日数は,原告の計算においても1日であるという点をも併せ鑑みると,同相違が労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとまでいうことはできない。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。

(5) 夏期特別休暇について

ア 確かに,前記前提事実のとおり,被告の正職員については,夏期に5日間の夏期特別休暇があるのに対し,アルバイト職員については夏期特別休暇が存在しない。

イ しかしながら,アルバイト職員については,フルタイムか否か等その労働条件は様々であり,雇用期間が夏期を含まない場合も想定し得るのに対して,正職員については,長期にわたり継続して,フルタイムで就労することが想定されており,平均すれば月に17.5時間程度の時間外労働に従事し(上記認定事実(1)イ(ウ)),月当たりの労働時間も,原告との比較において,約14.5時間長いことが認められる(証人g,弁論の全趣旨)

ウ 以上のとおり,正職員は,フルタイムでの長期にわたる継続雇用を前提としていること,正職員の時間外労働数を年間で比較すれば,原告よりも170時間以上長く(なお,同時間を所定労働時間で除すれば23日分程度になる。),このような就労実態を踏まえると,正職員に対しては,単にその時間に対応する時間外賃金を支払うというだけではなく,1年に一度,夏期に5日間のまとまった有給休暇を付与し,心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められ,他方,原告を含むアルバイト職員については,その労働条件や就労実態に照らしても,これらの必要性があるとは認め難い。そうすると,この点の相違について,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違とまでいうことはできない。

(6) 私傷病による欠勤について

原告は,正職員は私傷病で欠勤した場合,6か月は賃金全額が支払われ,6か月経過後も賃金の2割の休職給が支払われるのに対して,アルバイト職員については,このような保障がないこと,同保障の結果,正職員は私傷病で欠勤しても私学共済の加入資格を失わないのに対して,アルバイト職員は加入資格を失うこと,以上の点を挙げて,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違にあたる旨主張する。

ア この点,そもそも私傷病によって労務の提供ができない場合,本来は,使用者に賃金支払義務はない。それにもかかわらず,本件において,被告が,正職員に対して,一定の賃金や休職給を支払う旨を定める趣旨は,正職員として長期にわたり継続して就労をしてきた貢献に対する評価や,定年までの長期継続した就労を通じて,今後長期にわたって企業に貢献することが期待されることを踏まえ,正職員の生活に対する生活保障を図る点にあると解される。これに対し,アルバイト職員については,契約期間が最長でも1年間であって,被告において長期間継続した就労をすることが当然には想定されていないことからしても,上記したような正職員に係る就労実態等とは異なっているといわざるを得ない。そうすると,被告の正職員とアルバイト職員において,上記相違があること自体,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとはいえない。
なお,原告は,私学共済の加入資格を失う点を挙げるが,私学共済の加入資格は,法令によって定められているものであり,被告が設定している労働条件ではないことに鑑みれば,たとえ被告が設定した労働条件の結果,私学共済の加入資格の得喪が左右されるとしても,これをもって労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違があるとはいえない。

イ したがって,原告の上記主張は採用できない。

(7) 附属病院受診に対する医療費補助について

ア 上記認定事実(4)カで認定したとおり,附属病院の医療費補助措置の対象者は必ずしも雇用契約の当事者のみというわけではなく,被告の理事や評議員,職員の家族,大学院生,学部生等広範な者が対象となっていること,医療費補助規程及び医療費補助規程内規においては,職員の範囲を具体的に定めていないものの,被告は,アルバイト職員について,これらの規程に定める職員には含まれないものであるとして運用していること,同制度は,附属病院を受診した場合に限られること,以上の点が認められる。

イ ところで,上記したような被告における医療費補助制度の内容からすると,同制度は,被告が被告との関係性を考慮して,一定の範囲の者の医療費を肩代わりする制度として形成されてきたものであり,労働条件として発展してきたものではないと考えられる。また,被告の附属病院は,実践を通じての教育や被告の医療水準・教育水準の向上を目的とするものと解されるところ,医療費補助制度は,被告と一定の関わりを有する者が受診することによって,上記目的に一定程度の貢献をすることに対する謝礼としての側面や病院運営を事業とする者にとって想定し得る関係者等に対する社会儀礼上のものという側面も有するものと解される。
以上のような被告における医療費補助制度の性質等に鑑みれば,そもそも同制度の適用それ自体は,飽くまでも恩恵的な措置というべきであって,雇用契約それ自体から当然に認められるものであるとまでは認め難く,また,仮に労働条件に含まれているとしても,上記した制度趣旨等に照らすと,その適用範囲等の決定については,被告(規程上は,理事会ないし理事長となっている。)に広範な裁量が認められるものであると解するのが相当である。そして,アルバイト職員の職務内容等からすると,被告が,アルバイト職員に対して同補助制度を適用しないという運用(医療費補助規程内規上の「職員」に含まれないという運用)が,被告の裁量権を逸脱又は濫用しているとまでは認められない。

ウ 以上認定説示した諸事情を総合的に勘案すると,被告における医療費補助制度に係る正職員とアルバイト職員との間の相違は,労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違とまではいえない

(8) 小括

以上のとおり,本件において原告が主張する労働条件の相違は,いずれも不合理な労働条件の相違とまでは認められず,労契法20条に違反するとはいえない。

第4 結論

以上認定説示した点からすると,原告の本件各請求は,争点3ないし5について判断するまでもなく理由がないといわざるを得ない。したがって,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

裁判官:内藤 裕之,前原 栄智,大寄 悦加

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