会社内の窃盗を行った場合、いかなる懲戒処分ができるか?労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。
懲戒解雇を行う場合で本人が否認している場合は事実認定を慎重に行う
1 会社内の窃盗は懲戒処分の対象となる
1.1 会社内の窃盗は重い懲戒処分の対象となる
社員(労働者)が会社の財産を窃取する場合、会社に経済的損害を与え,企業運営(企業秩序)に重大な支障を及ぼすことから,懲戒解雇を含む重い処分が肯定されます。
1.2 窃盗関係の刑罰法規
他人の財物を窃取した者は, 窃盗の罪とし, 10年以下の懲役又は50 万円以下の罰金に処する。
1.3 事実認定は慎重に
1.4 社員(労働者)が逮捕・勾留された場合
社員(労働者)が刑事犯罪を起こしたような場合は逮捕・勾留されることがあります。
逮捕勾留されると会社に出勤して労務提供が長期間なされないことになります。
この場合は,逮捕勾留中の情報収集のやり方、欠勤期間中の賃金の支払いの有無などについて別途検討する必要があります。
社員が逮捕された場合の詳しい対応は
2 懲戒処分の有効要件
懲戒処分を行うためには、一般的要件を満たす必要があります。こちらも確認す
懲戒処分の有効要件については
3 会社内の窃盗の懲戒処分の量定
3.1 基本的な考え方
それでは、業務中の交通事故の場合、いかなる懲戒処分が妥当なのでしょうか?
② 犯行の悪質性(回数、期間、隠蔽工作)
③ 職務内容(社内資産・金銭の取り扱いの有無)
④ 被害弁償の(約束の)有無
⑤ 会社資産・現金預金の管理体制に関する会社側の落ち度
⑥ 動機
などの諸要素を総合的に考慮して懲戒処分を決定します。
処分量定に特に重要なのは①~③であり、余程軽微な事案(例えば、被害金額がよほど少額(数千円)で、常習性もなく、職務内容との関連性も薄いような場合)以外は、基本的には懲戒解雇を含む重い処分が可能です。
④~⑥は情状酌量の事情として考慮する程度であり、例えば、懲戒解雇相当であるのを諭旨解雇に一段下げるか否かを検討する際に考慮されるに過ぎないといえます。
3.2 裁判例データ
高千穂製紙事件(福岡地判昭41.4.18労経速565.5)
施錠してある倉庫へ侵入し会社物品(時価1500円程度の古キャンパス)を窃取したことを理由とする懲戒解雇がなされた事案で、裁判所は、労働協約の懲戒解雇事由に「会社または他人の金品を詐取、または窃盗し、あるいは詐取または窃盗しようとしたとき」と定められているのは、会社内部の秩序維持を直接の目的として設けられたものであり、申請人らの社内窃盗が不起訴処分となったとしても、懲戒解雇は有効であると判断した.
鳳郵便局事件(大阪地判昭55.7.21労判カード346.11)
郵便物の窃取行為を理由とする郵便局職員に対する懲戒免職を有効とした確定判決等に事実誤認はなんら存しないとして、同職員の国に対する損害賠償請求を棄却したもの
東武トラベル事件(東京地判平15.12.22労経速1862号23頁)
事案:従業員が,使用済みの旅行券を百数十枚倉庫から盗み,約7カ月間にわたり旅行券を改ざんし,顧客や自らの旅行代金等の支払いに充てる,架空取引によって取得した乗車券を換金するなどして合計102万円の金銭を不正に取得していたことを理由に懲戒解雇された(約510万円の退職金を不支給とされた)
判断:裁判所は,旅行券の窃取、改ざん、使用をした場合、それは多額の現金や旅行等を取り扱う会社の従業員としておよそ許容される余地のない不正行為であるし、その改ざん態様も計画的で、使用の程度は長期かつ多数回にわたり、会社に与えた損害額が102万円と多額であるという本件事案の下では、会社がした懲戒解雇には合理的な理由があり,社会的にも是認することができるものであり,重きに失するものとは認められない、として,懲戒解雇を有効と判断した。また、退職金の没収(不支給)についても「一連の不正行為は,過去の功労を抹消するに足りる行為というべきである」として有効であると判示しました。
宮坂産業事件(大阪地判平24.11.2労経速2170号3頁)
事案:従業員が,組合活動のために,被告会社の保有する取引先リストや従業員の昇給に関するデータを社外に持ち出したことを理由に懲戒解雇された事案
判断:裁判所は,元従業員Aが会社の取引先リストや従業員の昇給に関するデータをプリントアウトして社外に持ち出した行為は,会社就業規則所定の「会社の機密情報を社外に漏洩しようとしたとき,あるいは現に漏洩させたとき又は事業上の不利益を計ったとき」に該当するものというべきであり,また,上記事実によって窃盗罪の有罪判決を受けていることからすれば,元従業員Aの行為は,会社就業規則所定の「会社内で横領,傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき」に該当し、相当性も有するので、懲戒解雇を有効と判断した。元従業員Bの行為は,会社の取引先リストの持ち出しを元従業員Aに依頼し,元従業員Aが持ち出したリストを受け取ったというものであり,同行為は,会社就業規則所定の「会社の機密情報を社外に漏洩しようとしたとき,あるいは現に漏洩させたとき又は事業上の不利益を計ったとき」に該当し,また,元従業員Bが上記行為に関し,盗品等無償譲受け罪の有罪判決を受けていることからすれば,元従業員Bの上記行為は,会社就業規則所定の「会社内で,横領,傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき」に該当し,また、元従業員Bが自己が管理していた配車・受発注に関するメール,データ等を削除したことは就業規則所定の「業務上の権限を越えた行為をしないこと」に該当することから、懲戒解雇を有効と判断した。
3.3 民間データ
該当するデータなし
※「労政時報」第3949号(2018年4月13日発行)P38~「懲戒制度の最新実態」
3.4 公務員データ
※「懲戒処分の指針について」(人事院)2020年4月1日改正
※前記のとおり民間企業の場合は同様の処分量定になるとは限らない
3.5 報道データ
下記の記事を参考にしてください。
2019.1.28 税務調査の訪問宅で財布窃盗容疑 懲戒免職
2019.1.29 はがき4千枚、切手400枚転売の海自1等海曹を懲戒免職
2019.2.9 勤務中に拾った乗車券を駅員4人で118回不正使用 懲戒解雇 福岡市営地下鉄
2019.2.15 検察事務官が職場の親睦費を着服 仙台高検が停職1ヶ月懲戒処分
2019.3.20 肉じゃが持ち帰り調理員、ほかのおかずも複数回 戒告の懲戒処分に
2022.2.3 同僚の財布から現金盗み 白河消防署員を停職12か月の懲戒処分
その他報道データは
会社内の窃盗に対する懲戒処分の対応方法
1 調査(事実及び証拠の確認)
まずは,以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。
調査するべき事実関係
□ 被害金額
□ 窃取の日時、態様、回数、継続期間
□ 共犯者の有無
□ 経緯・動機
□ 余罪の有無
□ 被害弁償の有無、予定
□ 身元保証人への請求の可否
□ 社内の管理体制
□ 刑事手続の有無・結果
調査の際に収集する資料
□ 帳簿
□ 金庫内の残高
□ 預貯金通帳履歴、印鑑の管理状況
□ 防犯カメラ、警備記録
□ 在庫リスト
□ 目撃証言
量刑・情状酌量事情
□ マスコミ報道の内容・程度
□ 被害額
□ 会社の業務に与えた影響
□ 謝罪・反省の態度の有無
□ 同種前科の有無
□ 入社後の勤務態度
□ 他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較
2 懲戒処分の進め方
調査に支障がある場合は本人を自宅待機させます。
参考記事
・すぐ分かる! 懲戒処分の調査のやり方
・懲戒に関する事情聴取のポイント
・懲戒処分前の自宅待機命令の方法(雛形・書式あり)
・社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】
実施した懲戒処分について,必要に応じて社内外に公表します。
参考記事
・受取拒否にも対応、懲戒処分を通知する方法【書式・ひな形あり】
・名誉毀損にならない懲戒処分の公表方法【書式・ひな形あり】
そこで、会社は再発防止の為に各種施策を講じます。
3 被害を弁償させる
従業員が窃取した被害金額については、当然のことながら,会社は不法行為としてその返還を請求することができます。
では、回収はどのように行うべきでしょうか。
2 身元保証人に全額弁償させる(ただし、身元保証書の限度額の範囲内)
3 賃金と相殺する(相殺同意書が必要 日新製鋼事件・最高裁第二小法廷平成2年11月26日判決(民集舶巻8号1085頁))
4 上記に応じない場合は、本人及び身元保証人へ民事訴訟等の法的手続を行う
4 被害届の提出、刑事告訴
1の調査により行為態様が悪質で被害額も多い場合は、被害届の提出や告訴なども検討する。
懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。
懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。
このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。
しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。
リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには、労務専門の弁護士に事前に相談することとお勧めします。
労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート
当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。
労務専門法律相談
懲戒処分に関して専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。
懲戒処分のコンサルティング
懲戒処分は限られた時間の中で適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
懲戒処分のコンサルティングにより、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。
労務専門顧問契約
懲戒処分のみならず人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した懲戒処分についても、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。