社員が不祥事を起こし、会社内で検討した結果、懲戒処分を行うことが決まった。もっとも、本人が受け取りを拒否する可能性がある場合など懲戒処分を通知する方法が分からないという経営者も多い。そこで、受取拒否にも対応した懲戒処分を通知する方法を説明したい。
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1 懲戒処分の通知
1.1 懲戒処分の法的性格
懲戒処分とは,業務命令や服務規律に違反した労働者に対して,使用者が制裁として行う不利益措置をいいます。
懲戒は,経済的・精神的・キャリア形成上の不利益を及ぼす措置であり(減給・出勤停止に伴う賃金不支給,懲戒解雇に伴う退職金不支給,昇給延伸や人事考課上のマイナス評価等),刑罰のような制裁機能を営みます。
懲戒権は,このような制裁罰(労働契約の一方的解約[懲戒解雇]または契約内容の一方的変更[減給,降格,出勤停止])を使用者が一方的意思表示(法律行為)によって行使する権利として,形成権(単独の意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利)と解されています(土田道夫「労働契約法(第2版)」473頁)。
1.2 懲戒処分の通知
このように懲戒処分は意思表示によって行使されますので、効力が発生するためには意思表示が労働者に到達する必要があります(民法97条1項)。
2 懲戒処分の通知の方法
では、具体的にどのような方法で懲戒処分を通知するべきでしょうか。
2.1 書面によるべき
懲戒処分の通知方法について、法律の規制はありません。従って、通知方法は、書面でも、口頭でも構わず、本人にその内容が伝えられていれば効果は発生します。
もっとも、就業規則において、懲戒処分の通知を「書面により行う」などと規定されている場合には、書面で通知する必要があります。
このような就業規則の定めがなくとも、文書をもって明確に伝えるべきです。
懲戒処分は労働者に不利益を与える処分ですので、後々になって「言った、言わない」というトラブルにならないようにするためです。
懲戒処分は「懲戒処分通知書」というタイトルで作成します(書式やひな形は下に掲載しています。)。
できあがった懲戒処分通知書は本人に渡さなければ効果は生じません。具体的にはどのように渡すべきでしょうか。
大きく3つの方法があります。
② 郵送する方法
③ メール・SNSで送信する方法
2.2 面談して手渡す方法
最も一般的な方法は面談して手渡しする方法です。特に、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格など、雇用契約が継続することを前提とした処分を言い渡す場合はこの方法によることが多いです。
面談で懲戒処分通知書の内容を読み上げ、懲戒処分通知書を労働者へ手渡します。
面談の様子は録音すると共に、懲戒処分通知書を手渡し、受領書に署名捺印(署名だけでも可 書式は下記参照)を貰うようにして下さい。
そこで、面談において、懲戒処分をやむを得ない当然の措置であることを説明し、懲戒処分を踏まえた前向きな改善の方法などをアドバイスすること等により、労働者本人の理解を得るよう努めることが重要です。このような面談のプロセスを経ることで、懲戒処分による紛争リスクを低下させることが可能となります。
2.3 郵送する方法
内容証明郵便 + 配達証明付き で送付することをお勧めします。
これにより、①懲戒処分通知書の内容が、②いつ到達したかを証明することが出来ます。
インターネットから送付する「e内容証明」は慣れると簡単でお勧めです。
簡易書留+ 配達証明付き でもよいですが、②いつ到達したかを証明することは出来ますが、送付した①懲戒処分通知書の内容を証明することは出来ません。本人が事後的に懲戒処分通知書の内容を争う場合は、別途懲戒処分通知書の内容について証明する必要があり手間となる場合もあります。それゆえ内容証明郵便をお勧めします。
2.4 メール、SNSによる方法
懲戒処分を通知する方法として、メールやSNS等も可能です。
例えば、懲戒処分通知書の内容を本文に記載すると共に、懲戒処分通知書をPDFファイルで添付して送信する方法も有効です。
ただし、現時点で郵送による方法より確実性が乏しい側面もあるため、
本人が受信したことが確認できること(受領した旨の返信メールがあったこと、既読マークが付いたこと等)
出来るだけ郵送による方法も併用すること(時間が前後してもよい)
という点に注意して下さい。
3 懲戒処分通知書の書式・ひな形
3.1 戒告の懲戒処分通知書
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3.2 けん責の懲戒処分通知書
3.2.1 懲戒処分通知書
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3.2.2 始末書
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3.3 減給の懲戒処分通知書
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減給については、労働基準法91条により、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払い期の総額の10分の1を超えてはならないとされていることに注意が必要です。詳細は下記の記事をご参照下さい。
社員が重大な規律違反を犯した場合,減給の懲戒処分を行うことがある。その場合,3ヶ月間賃金月額10%カットといった減給をしたいという経営者も多いだろう。しかし,減給の懲戒処分に対しては法律上の制限があるのだが分かりにくく誤解している経営者も多[…]
3.4 出勤停止の懲戒処分通知書
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3.5 降格の懲戒処分通知書
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3.6 諭旨解雇の懲戒処分通知書
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3.7 懲戒解雇の懲戒処分通知書
3.7.1 懲戒解雇(解雇予告手当なし)
3.7.2 懲戒解雇(解雇予告手当あり)
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3.7.3 懲戒解雇兼予備的普通解雇(解雇予告手当あり)
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懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。
懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。
このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。
しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。
リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには、労務専門の弁護士に事前に相談することとお勧めします。
労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート
当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。
労務専門法律相談
懲戒処分に関して専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。
懲戒処分のコンサルティング
懲戒処分は限られた時間の中で適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
懲戒処分のコンサルティングにより、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。
労務専門顧問契約
懲戒処分のみならず人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した懲戒処分についても、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。