ご相談のケースでは,深夜1時までアルバイトをしているとのことですが,疲労の蓄積により貴社での就業時間中に居眠りをしたり,作業効率が明らかに低い状態になっているような場合は,兼職禁止規定に実質的に違反するといえます。ただ,いきなり懲戒解雇を行うことは出来ませんので,事情聴取の上,適宜注意・指導を行うに留め,その後の状況次第では一定の懲戒処分を行うことも検討することになろうかと思います。
もっとも,兼職が原因で労務提供が不能または困難となる場合には、懲戒解雇とすることも検討の余地がある。
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1 副業・兼職も懲戒処分の対象となる
労働者は、雇用契約を締結することにより、労務提供義務を負担するのみならず、使用者の利益を不当に侵害してはならないという「誠実義務」も負担します。
この誠実義務の中身として、兼業・副業をして、会社の利益を不当に侵害しない義務も負います。
そのため、多くの会社の就業規則では、「会社の許可なく他人に雇い入れられること、または、他に事業を営むこと」を禁止し、その違反が懲戒事由として定められています。
1.1 就業時間中の兼業・副業
就業時間中に副業・兼職を行うことは、労務提供義務及び職務専念義務に真っ向から抵触しますので、当然のことながら全面的に禁止されます。
例えば、在宅勤務をしているシステムエンジニアが、就業時間中に、他社から個人で請け負った仕事を行うなどです。
この場合は、労務提供義務という雇用契約の中心的義務を放棄しているため、その時間については賃金は発生しないのみならず、重大な服務規律違反として懲戒処分の対象となります。
1.2 就業時間外の兼業・副業
一方、就業時間外の兼職・副業については、一律に全面禁止をして、これに違反するすべての場合を懲戒処分の対象とすることはできません。
就業時間外かつ企業外の行動は,労働者のプライベートの範囲内にあり,原則として労働者の自由です。
雇用契約上の労務提供義務・職務専念義務・誠実義務は、就業時間中や企業内で適用される義務であり、就業時間外かつ企業外では原則として適用されません。
それゆえ、労働者に対してプライベートの範囲内の副業・兼業を含めて全面的に禁止して、懲戒処分の対象とすることはできないのです。
たとえ全面的な副業・兼業の禁止を就業規則で定めたとしても、または、労働者との間で個別に合意したとしても,公序良俗違反(民法90条)で無効となる可能性があります。
もっとも、就業時間外かつ企業外の副業・兼業であっても、その禁止が合理的であるとして認められる場合もあります。
① 競業、情報漏洩のリスクがある場合
競業会社での就労です。競業会社での就労は,企業秘密・営業機密漏えいの恐れや,使用者との信頼関係の破壊という問題が生じます。
② 本業の社会的信用を害するリスクがある場合
会社の社会的信用や名誉を侵害するような副業です。具体的には,キャッチバーや風俗店など違法行為が行われていると思われる場所での就労で
す。
③ 本業への支障や労働者の健康に問題を生じるリスクがある場合
自社への労務提供に格別の支障を生じさせるような兼業です。たとえば,夜間の長時間にわたるようなアルバイトなどは,翌日の労務提供に悪影響を及ぼすことが明らかです。
上記①~③の場合の兼業・副業は禁止し、これに違反した場合を懲戒処分の対象とすることは可能と考えられます。
具体的には、副業・兼業を許可制として、上記①~③に該当する場合に限り禁止し、それ以外を許可する運用をするのであれば、公序良俗違反(民法90条)で無効となることはありません。
2 懲戒処分の有効要件
懲戒処分を行うためには、一般的要件を満たす必要があります。こちらも確認す
懲戒処分の有効要件については
3 無許可兼業・副業に対する懲戒処分の量定
では、情報漏洩の場合、いかなる種類・重さの懲戒処分を行うことが社会通念上相当なのでしょうか?懲戒処分の量定が問題となります。
4.1 基本的な考え方
懲戒処分の量定としては、企業秩序に与える悪影響の大きさとのバランスを考慮した処分としなければなりません。
業務に支障が生じていない場合には、戒告・けん責程度の処分となります。居眠りやミスといった支障が生じている場合には、減給程度の処分となります。
4.2 裁判例データ
小川建設事件(東京地決昭57.11.19)
勤務時間が午前8持45分から午後5時15分までである事務員が,会社の承認を得ないでキャバレーで午後6時から午前零時まで勤務していたことを理由に普通解雇された事案において,解雇を有効と判断した。
一橋元運輸事件(名古屋地判昭47.4.28)
従業員らが,社長の実弟が設立した競業会社の取締役に会社の承諾なしに就任したことを理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。
昭和室内装備事件(福岡地判昭47.10.20)
木工,家具の製作および室内装備等を営む会社が,赤字経営の再建のため,時間外労働および休日労働を廃止して従業員の肉体的疲労度を軽減して就業時間内の作業能率の向上を図り,時間外労働および休日労働の廃止に伴う貸金低下を防止するために特別加算金を支給する特別措置を実施したところ,特別措置中に競業会社において就労していることが発覚した従業員らが,会社に厳重に注意されたにもかかわらずこれを継続したことを理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。
東京メデカルサービス・大幸商事事件(東京地判平3.4.8)
病院に対する医療用機器・医薬品の販売を主たる業務とするA社の従業員が,自己が代表取締役であるB社においてA社に関連する取引を行っていたところ,A社がこれを疑い釈明を求めるなどすると出勤しなくなり,無断欠勤等を理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。
十和田運輸事件(東京地判平13.6.5)
貨物運送業等を営む会社において,家電製品を各小売店に配送する業務に従事する従業員らが,各小売店から廃棄物となった家電製品を引き取り売却していたことを理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇及び予備的普通解雇が無効であると判断した。
ジャムコ立川工業事件(東京地八王子支平17.3.16)
航空機内装品の燃焼試験業務に従事していた従業員が,「慢性気管支炎」,「科学物質不耐症」により欠勤を開始し,その後休職扱いとされ休職給として給与の6割を受け取っていた間に,自らオートバイ販売店を開店して経営したことを理由に懲戒解雇された事案において懲戒解雇を有効と判断した。
4.3 民間データ
兼業禁止規定があるにもかかわらず、終業後や休日にアルバイトをしていた
1位 戒告・けん責・注意処分(49.7%)
2位 減給(26.9%)
3位 出勤停止(21.6%)
※「労政時報」第3949号(2018年4月13日発行)P38~「懲戒制度の最新実態」
4.4 公務員データ
兼業の承認等を得る手続のけ怠
4.5 報道データ
2018.8.3 徳島県医師、無断バイトで免職 3年5ヵ月報酬3800万円
2019.1.21 AV出演の消防士を処分、栃木 「綱紀粛正を徹底する」
2019.1.30 女性警察官がデリヘル勤務? 減給処分
2019.2.8 不動産で副業、年600万円超稼ぐ、仙台市職員を減給
2019.2.28 医薬品機構職員を懲戒解雇 製薬会社と契約、助言
2022.2.9 学習塾でアルバイト 県立高校教諭を減給6か月の懲戒処分
2022.3.9 経済産業省、更迭の内閣官房経済安全保障法制準備室長を停職12か月の懲戒処分
2022.3.18 消防職員が届け出せず県内外でサッカー審判員の副業 停職の懲戒処分
2022.3.18 消防士長が副業のマルチ商法、700万円を取得 「専念したい」と退職意向でも停職の懲戒処分
2022.3.30 相模原市職員、育休中に移住計画する長野の企業で就労 減給の懲戒処分
その他詳細は
5 無許可兼業・副業と懲戒の対応方法
5.1 調査(事実及び証拠の確認)
まずは,以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。
調査するべき事実関係
□ 兼業・副業を禁止する規定はあるか
□ 兼業・副業の内容・態様(時間帯、期間、競業性等)
□ 情報漏洩の有無
□ 他の社員や取引先へ知られているか
□ 勤務状況(悪影響の有無)
□ 業務上の支障・損害
□ 発覚後の社員の態度・弁明内容
□ 通常の勤務状況・成績
調査の際に収集する資料
□ 兼業の内容を示すもの(兼業先のHP、名刺等)
□ 兼業先との雇用契約書その他契約書
□ 報告書(本人作成)
量刑・情状酌量事情
□ 兼業の態様
□ 会社の業務に与えた影響
□ 秘密漏洩の有無
□ 会社に与えた損害
□ 反省の態度の有無
□ 兼業・副業の経緯・理由
□ 他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較
5.2 懲戒処分の進め方
調査に支障がある場合は本人を自宅待機させます。
参考記事
・すぐ分かる! 懲戒処分の調査のやり方
・懲戒に関する事情聴取のポイント
・懲戒処分前の自宅待機命令の方法(雛形・書式あり)
・社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】
実施した懲戒処分について,必要に応じて社内外に公表します。
参考記事
・受取拒否にも対応、懲戒処分を通知する方法【書式・ひな形あり】
・名誉毀損にならない懲戒処分の公表方法【書式・ひな形あり】
そこで、会社は再発防止の為に各種施策を講じます。
懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。
懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。
このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。
しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。
リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには、労務専門の弁護士に事前に相談することとお勧めします。
労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート
当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。
労務専門法律相談
懲戒処分に関して専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。
懲戒処分のコンサルティング
懲戒処分は限られた時間の中で適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
懲戒処分のコンサルティングにより、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。
労務専門顧問契約
懲戒処分のみならず人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した懲戒処分についても、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。
参考裁判例
兼業禁止違反を理由とする解雇が無効と判断された事例
定森紙業事件
大阪地決平成元.6.28労働判例545-12
(事案の概要)
Yは、和洋紙業並びに紙製品の販売を業とする会社であるところ、Xは、昭和52年2月にYに入社し、営業関係の事務を担当して勤務してきた(なお、Xの母がYの代表取締役社長、兄がYの代表取締役専務取締役をしているという事情があった)。
しかし、Xは、就業規則に定める懲戒事由である「会社の同意なく在職のまま他に勤務したとき」等に該当することを理由に、平成元年3月31日、Yより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は、Xが、妻の経営する同種会社の営業に関与していた事実を認定した上で、「Xが他社の営業に関与したことは、形式的には解雇事由に該当するようであるが、Yに黙認さ れてきたことであり、かつそのことによってYに損害を及ぼしたとは認められないものであり、次いで、Xが集金した金銭をYに入金しなかったことは、職務上守るべき義務を怠ったものではあるものの、Xが着服(不法領得)の意図をもって入金しなかったとまでは認められないものといえる。ほかには、Xに解雇事由に該当する事実は認められない」、「解雇が従業員に重大な影響を及ぼすことはいうまでもなく、解雇を有効とするには単に形式的に解雇事由に該当する事実があるというだけでは足りず、解雇を相当とするやむをえない事情があることが必要であるが、Xの行為は解雇を相当とするやむをえない事情に当たるものとはとうていいえず、他に解雇事由に該当する事情もない」と判示して、懲戒解雇を無効と判断した。
(コメント)
本件は、(1)会社の同意なく在職のまま他に勤務したとき、(2)職場又は地位を利用し不当の金品その他を得、又は得んとしたとき、(3)許可なく職場の金品を私消したとき、又は持ち出し持ち出さんとしたとき、との就業規則の定めに該当する事由があることを理由とする懲戒解雇の効力が争われたものですが、本決定は、右解雇事由に相当する事実はないものとして、右懲戒解雇を無効なものと判示しました。
国際タクシー事件
福岡地判昭和59.1.20労働判例429-64
(事案の概要)
Yは、タクシー営業を目的とする株式会社であるところ、Xは、昭和52年4月1日、Yに入社し、正社員として雇用されていた。
しかし、Xは、就業規則の「兼職禁止規定」等に該当するとして、昭和56年4月13日、Yより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は、Xが、父親経営の新聞販売店の業務に従事し、月収15万円の収入を得ていたことを認定した上で、「Xが、新聞配達業務に従事することにより、Yの営業、業務管理等に具体的な悪影響を与えた旨の疎明のないことをあわせ考えると、Xのこの時期の新聞販売業への従事が、兼職禁止規定に該当するとしても、これを理由に懲戒解雇まですることは、債権者の蒙る不利益が著しく大きく、解雇権の濫用として許されないところというベきである」と判示して、懲戒解雇を無効と判断した。
(コメント)
本件は、仮処分異議事件であり、原決定(福岡地決昭56・9・17)は、「企業秩序に影響せず、企業への労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度の兼職は、就業規則で禁止している兼職にあたらないと解するのが相当である。」としたうえで、昭和55年7月~10月の本件兼職は右禁止された兼職には該当せず、それに対し、同55年11月~56年3月の本件兼職は右禁止された兼職に該当するが、(ア)本件新聞販売店業務はYの正規の時間外に行なわれていること、(イ)タクシーを新聞販売店への通勤に利用したことは就業規則違反であるが、これに対応する懲戒は出勤停止であること、(ウ)Yへの実害は少なく、この間のXの運収は増加していること、(エ)懲戒解雇になると、福岡市乗用自動車協同組合加盟の他社への再就職が困難になること、(オ)本件懲戒解雇時には、Xはすでに本件兼職をやめていたこと等を総合考慮すると、本件懲戒解雇は苛酷にすぎ、権利の濫用というべきであるとしていました。但し、本件の場合は、通常の兼業禁止にかかわる事件の場合と異なって、昭和55年11月以降の兼業は就業時間とかさなり合う部分があり、また、Yの車を利用・放置しているという面があります。その意味では、まさに、本来的意味での兼業禁止にかかわるものであったといえます。
東版事件
東京地判昭和59.2.28労働経済判例速報1184-17
写植印字印刷会社の写植工が、病気欠勤中に元同僚が設立した競合会社に何回か遊びに行き、その際に元同僚から頼まれるままに写植作業を手伝い報酬を受け取った事案につき、極めて軽率ではあるが、常勤として仕事をしたわけではなく、また、会社において機密事項を扱う立場になかったことを考えると、禁止される兼業には該当しないとした。
十和田運輸事件
東京地判平成13.6.5労働経済判例速報1779-3
家電製品を各小売店に配送する業務に従事する運送会社の運転手が、運送先の小売店から家電製品を引き取り、リサイクルショップから代価を受けていたが、これらの行為は年2回程度にすぎない事案につき、会社の業務に具体的に支障を来したことはなく、信頼関係を破壊したとまではいえないとして、就業規則に定める「許可なくして他の職業に従事したとき」に該当するとしてなした解雇を無効とした。
兼業禁止違反を理由とする解雇が有効と判断された事例
日通名古屋製鉄作業事件
名古屋地判平成3.7.22労働判例608-59
(事案の概要)
Yは、新日鉄名古屋製鐡所における製品および原材料の運搬ならびに各種荷役作業を業とする株式会社であるところ、Xは、昭和42年12月、大型特殊自動車運転手としてYに入社し、新日鉄名古屋製鐡所の構内輸送の業務に従事してきた。 しかし、Xは、就業規則に定める懲戒事由である「社命又は許可なく他に就職したとき」に該当することを理由に、昭和60年3月29日、Yより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は、Xが、タクシーの運転手として公休日の前後を利用し、1か月に4、5回の割合で勤務していた事実を認定した上で、「労働者が就業時間外において適度な休養をとることは誠実な労務の提供のための基礎的条件であり、また、兼業の内容によっては使用者の経営秩序を害することもありうるから、使用者として労働者の兼業につき関心を持つことは正当視されるべきであり、労働者の兼業を使用者の許可ないし承認にかからせることも一般的には許されると解される」、「Xの兼業が継続的な雇用契約によるものか、単なるアルバイト的なものであるのかは必ずしも判然としないが、その勤務時間は、場合によってはYの就業時間と重複するおそれもあり、時に深夜にも及ぶもので、たとえアルバイトであったとしても、余暇利用のそれとは異なり、Yへの誠実な労務の提供に支障を来す蓋然性は極めて高いといわなければならない。したがって、仮に前記就業規則の定めがいわゆるアルバイトを含めて一切の兼業を禁止するものとは解し得ないとしても、Xの本件兼業が前記就業規則の禁止する兼業に該当することは明らかであり、本件証拠中に現れたYの他の従業員にみられる兼業とは性質を異にするといわなければならない」と判示して、懲戒解雇を有効と判断した。
(コメント)
本件二重就職は、かなりの程度、無茶な「兼業」であり、兼業していた期間には腰痛症を主張して職務軽減等を受けている期間も含んでいること等からすれば、相当に背信的であり、それが本判決の結論に至らしめたものと推測されます。
小川建設事件
東京地判昭和57.11.19労働判例397-30
(事案の概要)
Yは、総合建設業、一般土木建築工事業等を業とする株式会社であるところ、Xは、昭和55年2月25日、Yに雇用され、以来、東京都町田市所在の町田営業所に事務員として勤務してきた。
しかし、Xは、就業規則に定める兼業禁止規定に違反することを理由に、昭和57年1月25日、Yより普通解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は、「法律で兼業が禁止されている公務員と異なり、私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかしながら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労働提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく、したがって、同趣旨のYの就業規則の規定は合理性を有するものである」、「Xは、Yの採用面接にあたって他へ二重就職する予定であることをYに告知し、Yはこれにつき黙示の承諾を与えた旨主張するが、本件疎明資料および審尋の結果によれば、Xは、Yの採用面接に際し、月給として最低13万円を希望し、月給が13万円に満たない場合には他にアルバイトすることも考えなければ生活していけない旨を述べたことは窺われるが、その後、実際にキヤバレーに勤務を始めるにあたって、XがYに対してその勤務先や勤務内容等を具体的に特定して二重就職の具体的承諾を求めたこと、あるいは、YがXの二重就職をすることを黙示に承諾していたことを認める疎明はなく、したがつて、Xの右キヤバレーへの勤務はYの就業規則に定める「会社の承諾を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」に該当するものと認めることができる」と判示して、解雇を有効と判断した。
(コメント)
本件は、二重就職を理由とする解雇(懲戒解雇事由に該当することを理由とし、普通解雇に転換)の効力が争われたものですが、本判決はこれを有効としました。