懲戒に関して、就業規則でいかなる事項を定めるべきか?懲戒の種類や程度、懲戒事由、懲戒手続について定めることになりますが、労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。
就業規則で定めるべき懲戒の規定
就業規則で定めるべき懲戒の規定は、大きくは次の3点です。
- 懲戒の種類,程度
- 懲戒事由
- 懲戒手続
①懲戒の種類,程度(★必須)
制裁(つまり懲戒)の定めをする場合は,労働基準法、その種類及び程度に関する事項を定めなければなりません(89条9号)。懲戒に関する事項は就業規則の相対的必要記載事項とされています。
制裁の種類としては、けん責、減給、出勤停止、昇給昇格の停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇等があります。制裁の程度とは、一定の事由に該当する場合の制裁の程度をいいます。
②懲戒事由(★必須)
懲戒処分を行うには「使用者が労働者を懲戒することができる場合」(労契法15条)であること、すなわち、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことが必要と解されています(フジ興産事件 最高裁二小 平15.10.10判決)。
参考記事
③懲戒手続(任意)
弁明の機会、懲戒委員会の開催、労働組合や労働者代表との協議といった懲戒手続の定めを置くことがありますが、①②と異なり、労基法や懲戒処分の有効要件との関係で必ず定めなければならないというわけではありません。会社にとって合理性のある手続がある場合は定めることになります。
以下、具体的に見ていきましょう。
懲戒の種類,程度
規定例
第○条 (懲戒の種類)
懲戒の種類及び程度は、その情状により次のとおりとする。
(1) 譴責…始末書を提出させ、書面において警告を行い、将来を戒める。この場合、事前に面接を行う場合と、行わない場合とがある。
(2) 減給…始末書を提出させて、減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が一賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
(3) 出勤停止…始末書を提出させるほか、10日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
(4) 諭旨解雇…懲戒解雇相当の事由がある場合で、本人に反省が認められるときは退職届を提出するように勧告する。ただし、会社が定める期間内に勧告に従わないときは懲戒解雇とする。
(5) 懲戒解雇…予告期間を設けることなく即時解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当を支給しない。
懲戒の種類及び程度に関する規定は、労働基準法89条9号で就業規則の相対的必要記載事項とされており、懲戒を行うためには定めることは必須とされます。
懲戒処分の種類と具体的な内容等については、下記をご参照ください。ここでは、処分の簡単な説明と規定例を説明します。
参考記事
けん責、戒告
口頭または文書(始末書)で反省を求め,将来に向けて戒めるものです。懲戒処分の中では最も軽い処分です。
けん責 : 始末書を提出させて、将来を戒める。
※ 「減給」「出勤停止」「降格」の懲戒処分内容としても始末書の提出を求めることが可能です。
減給
労務遂行上の慨怠や職場規律違反に対する制裁として、本来ならばその労働者が現実になした労務提供に対応して受けるべき賃金額から一定額を差し引くことをいいます。
減給 : 始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
※ 労基法91条は減給の限度を定めています。
減給の限度については
出勤停止
服務規律違反に対する制裁として労働契約を存続させながら労働者の就労を一定期間禁止することをいいます。出勤停止期間中は賃金が支給されず、勤続年数にも算入されないのが普通です。
出勤停止 : 始末書を提出させるほか、10日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
降格
懲戒処分として、役職・職位・職能資格などを引き下げることをいいます。懲戒処分としての降格を定めた場合は、人事権行使として行うのか、懲戒権の行使として行うのかを明確に区別する必要があります。
降格は、企業の人事権の行使として行うことが可能ですので、敢えて厳しい法的規制(労働契約法15条)が適用される懲戒処分として行わずに、人事権行使として降格を行った方がよい場合も多くあります。
降格 : 職位を解任または引き下げ,職能資格制度上の資格・等級の引き下げのいずれか,または双方を行なう
人事権行使としての降格については
諭旨解雇・諭旨退職
一定期間内に退職願の提出を勧告し,提出があれば退職扱いとし,所定期間内に提出がない場合に懲戒解雇とする処分をいいます。諭旨退職と呼ぶ場合もあります。
諭旨解雇 : 懲戒解雇相当の事由がある場合で、本人に反省が認められるときは退職届を提出するよう勧告する。ただし、退職を勧告されてから7日以内に勧告に従わないときは懲戒解雇とする。
※ 退職届の提出について記載がない例がありますが、懲戒解雇との区別が文言上曖昧になり、記載として望ましくありません。
懲戒解雇
重大な企業秩序違反者に対する制裁として行われる解雇であり、懲戒処分の中で最も重い処分です。
懲戒解雇 : 予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当を支給しない。
その他懲戒処分について
懲戒休職・停職
出勤停止より重い処分として,出勤停止の上限期間より長期間就労を禁止する処分をいいます。実例としては,1カ月以上6カ月以内と定めるものなどがあり、その間の貸金は不支給とする扱いが一般的です。懲戒処分の量定の選択肢を広げる意味で入れる企業もあります。
しかし、懲戒解雇・諭旨解雇の前に行う必要が出る場合があり、懲戒解雇・諭旨解雇を行いにくくなる側面もあります。規定はおすすめしません。
懲戒休職 : 6カ月以内の期間を定めて休職とし,その期間の賃金は支払わない。
停 職 : 3カ月以内の期間を定めて休職とし,その期間の賃金は支払わない。
昇給停止
懲戒処分として、定期昇給などの給与改定時における昇給を停止する処分をいいます。懲戒処分としての昇給停止を定めた場合は、人事権行使として行うのか、懲戒権の行使として行うのかを明確に区別する必要があります。
昇給停止は、企業の人事権の行使として行うことが可能ですので、敢えて厳しい法的規制(労働契約法15条)が適用される懲戒処分として行わずに、人事権行使として降格を行った方がよい場合も多くあります。
昇給停止 : 定期昇給を1回停止する。
訓戒・訓告・厳重注意
服務規律違反があった場合に、懲戒処分と区別し,懲戒処分一歩手前の処分として、「訓戒」「訓告」「厳重注意」といった処分をいいます。もっとも、これらは懲戒処分ではありませんので、懲戒処分に規定がなくとも人事権に基づいて行うことができますので、就業規則への定めが必須ではありません。
社員が服務規律(就業規則第○条)に違反した場合は、前条(懲戒の種類)の定めにかかわらず,日常の勤務成績その他情状を考慮して訓戒にとどめることがある。
懲戒処分の併科
一つの非違行為に対し,例えばけん責と減給を課すといったように,複数の懲戒処分を課す(併科)ことをいいます。この場合,併科された内容が一つの懲戒処分となりますので、二重の処分にはなりません。
懲戒処分の程度をより柔軟に使うために定められます。例えば、「けん責+減給」は、けん責 < 減給 < 「けん責+減給」< 出勤停止 というように減給と出勤停止の間の重さの処分として利用でき、非違行為者の情状により微妙な処分の量定を行うことが可能になります。
選択肢が増える分、懲戒処分の量定が複雑になる側面もありますので、私はおすすめしていません。
懲戒は,その程度によりけん責,減給,出勤停止,降格、諭旨解雇および懲戒解雇の6種類とし,その一つまたは二つ以上を科すことができる。
処分の加重・軽減
懲戒処分の量定にあたって加重・軽減の根拠規定を定めるものです。懲戒事由と懲戒処分の関係について、後記①個別対応型、③グループ別対応型を採用する場合は、処分の選択の余地を確保しておくために,情状により処分を加重または軽減し得る旨の定めは必要となります。これに対して、②包括対応型の場合は加重・軽減の根拠規定は必要ありません。
例1 情状酌量の余地が認められる場合は,懲戒を減軽し,又は免除することがある。
例2 次の各号の事由に該当する場合には,その懲戒を加重する。
①動機もしくは態様が極めて悪質であるとき
②非述行為を行った従業員が役職者であるとき
③非違行為の結果が極めて重大であるとき又は会社に及ぼす影響が大きいとき
④過去に同種類似の非違行為による懲戒処分歴があるとき
⑤反省・改悛の情が認められないとき
懲戒事由
規定例
推奨版(包括規定+懲戒解雇事由)
1 従業員が、服務規律(第○条)の各規定その他この規則及び諸規程に違反したときは、前条に定めるところにより、懲戒処分を行う。
2 前項にかかわらず、従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。
(1) 重要な経歴を偽り採用されたとき、及び重大な虚偽の届出又は申告を行ったとき。
(2) 正当な理由なく、欠勤が14日以上に及び、出勤の督促に応じない又は連絡が取れないとき。
(3) 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、再三にわたって注意を受けても改めなかったとき
(4) 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わず、職場秩序を乱したとき。
(5) 正当な理由なく,会社が命じる転勤、職種変更,出向,海外転勤,海外出向,昇進その他配転を拒んだ場合
(6) 故意又は重大な過失により、会社の施設、設備に損害を与える等、会社に重大な損害を与えたとき。
(7) 会社の許可なく在籍のまま,他の企業に雇用され,役員に就任し,又は個人で事業を営む場合,その他これに準ずる場合等の兼業等をした場合。
(8) 他の従業員,取引先,その他会社関係者に対し,暴行,脅迫,名誉毀損その他これに類似する行為を行い、著しく会社内の秩序又は風紀を乱したとき
(9) ハラスメント禁止(第○条)に違反し、その情状が悪質と認められる場合
(10) 業務上車両を使用する場合及び業務外で社有車を使用する場合に、以下の交通法規違反行為又は交通事故を起こした場合
① 酒酔い運転又は酒気帯び運転をした場合
② 交通法規違反により人を死亡させ又は重篤な傷害を負わせた場合
(11) 会社の内外を問わず、営業秘密その他重要な企業秘密を業務外の目的で利用し、他に開示、漏洩し、又はしようとし、会社の名誉もしくは信用を毀損し、又は会社に損害を与えた場合
(12) 会社の内外を問わず、会社及び会社の従業員、又は関係取引先を誹謗若しくは中傷し、又は虚偽の風説を流布若しくは喧伝し、会社業務に重大な支障を与えたとき。
(13) 刑罰法規の適用を受け、又は刑罰法規の適用を受けることが明らかとなり、会社の信用を害したとき。
(14) 会計、決算、契約にかかわる不正行為又は不正と認められる行為、職務権限の逸脱等により、金銭、会計、契約等の管理上ふさわしくない行為を行い、会社に損害を与え、その信用を害すると認められるとき。
(15) 暴力団員や暴力団関係者と関わりがあることが判明したとき。
(16) 非違行為を繰り返し、再三の注意、指導にかかわらず改悛又は向上の見込みがないとき。
(17) 第4章(服務規律)に違反し、その情状が悪質なとき。
(18) その他前各号に準ずる重大な行為があったとき。
第○条(管理監督責任)
本章に定める懲戒の対象となった従業員の非違行為について、上司の管理監督責任が問われる場合においては、当該上司についても、本章に定める懲戒の対象とすることができる。
グループ別対応型(2段階)
1 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
(1)正当な理由なく欠勤したとき。
(2)正当な理由なくしばしば遅刻、早退し、又は任務を離脱したとき。
(3)過失により会社に損害を与えたとき。
(4)素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
(5)ハラスメント禁止(第○条)に違反したとき
(6)その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。
(1) 重要な経歴を偽り採用されたとき、及び重大な虚偽の届出又は申告を行ったとき。
(2) 正当な理由なく、欠勤が14日以上に及び、出勤の督促に応じない又は連絡が取れないとき。
(3) 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、再三にわたって注意を受けても改めなかったとき
(4) 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わず、職場秩序を乱したとき。
(5) 正当な理由なく,会社が命じる転勤、職種変更,出向,海外転勤,海外出向,昇進その他配転を拒んだ場合
(6) 故意又は重大な過失により、会社の施設、設備に損害を与える等、会社に重大な損害を与えたとき。
(7) 会社の許可なく在籍のまま,他の企業に雇用され,役員に就任し,又は個人で事業を営む場合,その他これに準ずる場合等の兼業等をした場合。
(8) 他の従業員,取引先,その他会社関係者に対し,暴行,脅迫,名誉毀損その他これに類似する行為を行い、著しく会社内の秩序又は風紀を乱したとき
(9) ハラスメント禁止(第○条)に違反し、その情状が悪質と認められる場合
(10) 業務上車両を使用する場合及び業務外で社有車を使用する場合に、以下の交通法規違反行為又は交通事故を起こした場合
① 酒酔い運転又は酒気帯び運転をした場合
② 交通法規違反により人を死亡させ又は重篤な傷害を負わせた場合
(11) 会社の内外を問わず、営業秘密その他重要な企業秘密を業務外の目的で利用し、他に開示、漏洩し、又はしようとし、会社の名誉もしくは信用を毀損し、又は会社に損害を与えた場合
(12) 会社の内外を問わず、会社及び会社の従業員、又は関係取引先を誹謗若しくは中傷し、又は虚偽の風説を流布若しくは喧伝し、会社業務に重大な支障を与えたとき。
(13) 刑罰法規の適用を受け、又は刑罰法規の適用を受けることが明らかとなり、会社の信用を害したとき。
(14) 会計、決算、契約にかかわる不正行為又は不正と認められる行為、職務権限の逸脱等により、金銭、会計、契約等の管理上ふさわしくない行為を行い、会社に損害を与え、その信用を害すると認められるとき。
(15) 暴力団員や暴力団関係者と関わりがあることが判明したとき。
(16) 非違行為を繰り返し、再三の注意、指導にかかわらず改悛又は向上の見込みがないとき。
(17) 第4章(服務規律)に違反し、その情状が悪質なとき。
(18) その他前各号に準ずる重大な行為があったとき。
第○条(管理監督責任)
本章に定める懲戒の対象となった従業員の非違行為について、上司の管理監督責任が問われる場合においては、当該上司についても、本章に定める懲戒の対象とすることができる。
包括対応型(ミニマムな規定)
従業員が、服務規律(第○条)の各規定その他この規則及び諸規程に違反したときは、前条に定めるところにより、懲戒処分を行う。
懲戒事由を定める際のポイント
就業規則に定めのない懲戒事由(非違行為)に対して懲戒処分を行うことはできません。それゆえ、就業規則の懲戒事由は、懲戒処分の対象行為を漏らさずに網羅的・包括的に規定する必要があります。
懲戒事由の定め方には、一般的には①個別対応型、②包括対応型、③グループ別対応型の3つのパターンがあります。
① 個別対応型
これは懲戒処分の種類ごとに懲戒事由を定めるやり方です。
例えば、けん責の懲戒事由、減給の懲戒事由、出勤停止の懲戒事由、懲戒解雇の懲戒事由をそれぞれ定める方法です。
メリット
労働者にとってどのような行為に対し,どのような処分がなされるのかがわかりやすく,また会社としても処分量定が決めやすい。
デメリット
懲戒処分の種類ごとに懲戒事由を定めるとなると懲戒事由を詳細に定める必要があるが、現実的には非常に困難(例えば、遅刻1回ならばけん責、2回~5回は減給、6回以上は出勤停止、10回以上は懲戒解雇とする、などと詳細に定めるのは困難である。)。また、仮に詳細に定めることができたとしても、懲戒処分は、各案件の事情を考慮してケースバイケースで決定する必要があるので、詳細に定めたがゆえに柔軟な量定決定ができなくなる(例えば、上記例でいえば、3回遅刻したが、大事な商談に穴をあけて甚大な損害が生じさせた場合、減給では軽すぎる。)。
② 包括対応型
これは,懲戒となる具体的事由をまとめて包括的抽象的に定めた上で,具体的な懲戒処分の種類は会社が都度決定するというやり方です。
例えば、「社員が、第○条(服務規律)の各規定その他この規則及び諸規程に違反したときは、前条(懲戒の書類・程度)に定めるところにより、懲戒処分を行う。」といった定めをおくことです。
メリット
懲戒処分の種類ごとに懲戒事由を定める必要がなく包括的抽象的に定めることは容易である。また、懲戒処分を、各案件の事情を考慮してケースバイケースで柔軟に決定できる。
デメリット
労働者にとってどのような行為に対し,どのような処分がなされるのかがわかりにくく、会社としても処分量定の基準がないので決めにくい。
③ グループ別対応型
①の個別対応型と②の包括対応型の折衷として、懲戒処分の重さに応じて2~3グループに分けて,そのグループごとに懲戒事由を定めるやり方です。
2段階グループ
- けん責、減給、出勤停止の懲戒事由
- 諭旨解雇、懲戒解雇の懲戒事由
3段階グループ
- けん責、減給の懲戒事由
- 出勤停止、降格の懲戒事由
- 諭旨解雇、諭旨退職の懲戒事由
メリット
包括対応型と比べれば、労働者にとって、どのような行為に対しどの程度の処分がなされるのかがわかりやすく,また会社としても処分量定がある程度絞れるので決めやすい。2グループ程度であれば懲戒事由を書き分けることはさほど困難ではなく、懲戒処分も柔軟に行い得る。
デメリット
グループに括るとはいえ、グループ毎に規定を書き分ける必要があるので、個別対応型と同様のデメリットがありえる。
どう考えるべきか?
①個別対応型はデメリットが大きく現実的ではなく採用はお勧めしません。
②包括対応型は、懲戒事由に関するミニマムな就業規則の定めとして法的に問題はありません。懲戒処分の量定についても、確かに就業規則上に基準や目安が記載されないのは不明確とは思いますが、処分の量定をケースバイケースで適正に行えば問題ありません。可能であれば懲戒処分の量定ガイドラインのようなものを内規として定めるとベターですが、必須ではありません。
③グループ別対応型は、多くの企業で導入されている方法されている方法です。2グループに分ける方法が多いと思われます(厚労省のモデル就業規則も2グループです。)。
経歴詐称
学歴や職歴を欺いて入社したとき,あるいは,採用の可否に影響を与える重要な事項につき虚偽の申告をなしたとき,などを対象とするものです。
もっとくわしく
例1 重要な経歴を詐称して雇用されたとき、及び重大な虚偽の届出又は申告を行ったとき
例2 重要な経歴を偽り,その他不正な方法を用いて採用されたとき
勤怠不良
無届ないし無断欠勤や遅刻,早退などを対象とするものです。
もっとくわしく
例1 正当な理由なく無断欠勤をしたとき
例2 正当な理由なく無断欠勤が3日以上に及ぶとき
例3 正当な理由なく(しばしば)欠勤、遅刻、早退、私用外出をしたとき
業務命令違反
業務命令に対する違反,報告義務違反,届出義務違反などを対象とするもので,個別に懲戒事由とする場合もあれば,詳細は服務規律に記載し,懲戒事由としては「その他服務規律(第○条)に違反したとき」という表現にとどめる場合もあります。
もっとくわしく
例1 正当な理由なく,会社が命じる時間外労働、休日労働、出張、海外出張等の業務命令を拒んだ場合
例2 正当な理由なく、(しばしば)業務上の指示・命令に従わなかったとき
例3 正当な理由なく、配転等の重要な職務命令に従わず、職場秩序を乱したとき
会社に損害を与えまたは私利を図ったとき
会社の業務に関する横領や窃盗等の犯罪行為、顧客や取引先からの信用失墜行為をいいます。故意・過失を問わず,また職場外の行為も対象とする場合も多いです。
もっとくわしく
通勤手当等の不正受給(詐取)に対していかなる懲戒処分ができるか?
宿泊費など経費の不正請求(詐取)に対していかなる懲戒処分ができるか?
例1 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき
例2 刑罰法規の適用を受け、又は刑罰法規の適用を受けることが明らかとなり、会社の信用を害したとき
例3 会社内で横領、傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき
例4 会社の金品を盗み,または横領するなど不正行為に及んだとき
会社施設・備品の目的外使用
商品の横流し,会社の備品の横領や窃盗,組合活動などでの無断の職場施設の使用,電話やネットワークシステムの私的利用などを対象とするものです。
もっとくわしく
私用メール、Webサイト閲覧を理由にいかなる懲戒処分ができるか?
例1 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品、パソコン、メール、電話(携帯電話)、FAX等を使用したとき。
例2 故意又は過失により会社の建物、施設、備品等を汚損、破壊、使用不能の状態等にしたとき、またはハードデイスク、サーバーその他電子媒体に保存された情報を消去または使用不能の状態にしたとき
例3 会社の施設内で許可なく集会をし,または文書の配布・掲示,演説,放送を行なったとき
素行不良
職場内での飲酒,暴言・暴行,火気の使用などを対象とするものです。
もっとくわしく
例1 素行不良で会社内の秩序又は風紀を乱したとき
例2 会社内で暴行、脅迫、傷害、暴言又はこれに類する行為をしたとき
会社の名誉・信用を失墜させたとき
会社の名誉を失墜(社会的評価を低下)させる行為を対象とするものです。
もっとくわしく
ブログやSNSによる会社批判・誹謗中傷を理由にいかなる懲戒処分ができるか
例1 会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき
例2 会社外において,会社または役員,従業員の名誉・信用を毀損したとき
例3 会社を誹誘・中傷し,または虚偽の風説を流布喧伝し,会社業務に重大な影響を与えたとき
秘密の漏洩
会社の秘密を漏洩した場合を対象とするものです。
もっとくわしく
例1 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき
例2 会社の機密情報を漏らし,または漏らそうとしたとき
ハラスメント
いわゆるセクハラ・パワハラ・マタハラについては、これを禁止し、違反した場合は懲戒処分の対象となる旨の懲戒規定を就業規則で定め、労働者に周知啓発することが求められています(雇用均等法11条2項、平成18年厚生労働省告示615号、労働施策総合推進法第30条の2 令和2年1月15日厚生労働省告示第5号、均等法第11条の3、育児・介護休業法第25条など)。
もっとくわしく
第○条(あらゆるハラスメントの禁止)の規定に違反した場合
職場外の非行
労働者の私生活上の非行についても、企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものは懲戒処分の対象となります。
もっとくわしく
私生活で飲酒運転をした従業員に対していかなる懲戒処分(懲戒解雇)ができるか?
借金・給与差押・自己破産(個人再生)をした社員に対しいかなる懲戒処分ができるか?
私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき
服務規律違反
従業員が遵守するべき規律は就業規則(特に、服務規律)において具体的かつ網羅的に定められていることが一般です。これら服務規律その他諸規程に違反する行為 = 懲戒事由とすることにより、網羅的包括的に懲戒事由を定めることができます(特に、包括対応型の場合)。こうすることにより懲戒事由を細かく定めずに済みます。
社員が、第○章(服務規律)の各規定その他この就業規則及び諸規程に違反したとき
非違行為の教唆・幇助の処分規定
他の従業員に非違行為をそそのかすことを「教唆」とし,他の従業員の非違行為を援助することを「幇助」として,教唆者あるいは幇助者を懲戒処分の対象とする旨定めることができます(ハイクリップス事件 大阪地裁平成20年3月7日判決 労判971号72頁、フットワークエクスプレス事件 大阪高裁平成7年10月25日判決)。
例1 従業員が,他人を教唆しまたは幇助して第〇条に掲げる行為をさせたときは,その行為者に準じて懲戒に処す。
例2 前各号の行為を教唆ないし幇助したとき
上司の監督責任
経営者に代わって労務管理や指揮監督を行う役割を有する従業員(上司)は、自らの部下に対し,その権限を適切に行使する義務を会社に負います。
もっとくわしく
監督責任を果たさなかった上司に対していかなる懲戒処分ができるか?
例1 部下に対して、業務上必要な指示、注意指導を怠ったとき
例2 部下の懲戒に該当する行為に対し、監督責任があるとき
例3 部下が懲戒処分を受けたときは、その管理監督を怠ったとき
包括規定
規定漏れを回避するために末尾に置く規定です。労働者側からは罪刑法定主義の観点から懲戒処分の対象となる行為は条文上明確に定められていなければならず,包括規定はその趣旨するので無効である、といった主張がなされる場合があります。しかし、刑事罰に関する罪刑法的主義が民事上の懲戒処分に適用されません。また、包括規定は就業規則に列挙された非違行為以外の非違行為で、企業秩序違反の行為であることを示していることは明らかですので、従業員の予測可能性を損なうこともありません(同旨 メディカルサポート事件 東京地裁平成12年2月28日判決 労経速1733号9頁)。よって、包括規定も有効な処分の根拠規定となります。
その他、前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
懲戒手続
規定例
1 諭旨解雇又は懲戒解雇になるおそれがある従業員については,原則として事前に弁明の機会を与える。
2 会社が懲戒処分を行おうとするときは、処分の内容、非違行為、懲戒の事由等を懲戒処分通知書で従業員に通知するものとする。
3 従業員の行方が知れず、懲戒処分の通知が本人に対してできない場合は、届出住所又は家族の住所への郵送により懲戒処分の通知が到達したものとみなす。
第○条(自宅待機及び就業拒否)
1 この規則に違反する行為があったと疑われる場合で、調査・処分決定までの前置措置として必要があると認められるときは、会社は、従業員に対し自宅待機を命ずることができる。会社は、自宅待機中、賃金規程第○条○項の定めに従って1日につき平均賃金の6割に相当する金額を支払う。
2 前項にかかわらず、従業員の行為が懲戒解雇事由ないし諭旨解雇事由に該当し又はそのおそれがある場合、若しくは不正行為の再発防止又は証拠隠滅のおそれがある場合は、会社は調査及び審議が終了するまでの間、就業を拒否することができる。この期間中は無給とする。
弁明の機会付与の手続
懲戒処分前に弁明を聴いておくことについては法律の定めはありません。もっとも、手続面において丁寧に対応したことを示すプラス事情であり,裁判において懲戒処分の有効性を補強する事情となります。また,従業員の弁明から得られた情報や証拠を踏まえることにより、より確実に有効な懲戒処分を行うことができることもあります。そこで、懲戒処分に際して弁明の機会を付与する規定を定めることに合理性があります。
もっとも、弁明の機会付与手続を就業規則で定めた場合、同手続を経ずに懲戒処分をした場合は、懲戒処分は原則として無効となります。すべての懲戒処分に弁明の機会付与を義務づけると,懲戒手続が煩雑になり,懲戒権の発動が硬直化されることになりかねません。そこで、仮に弁明の付与手続を就業規則に定めるとしても、諭旨解雇や懲戒解雇の場合のみとし、それらに至らない程度の懲戒処分については,弁明の機会付与は,事案ごとに使用者の判断に委ねるのでよいと考えます。
弁明の機会についての詳細・書式等は
諭旨解雇又は懲戒解雇になるおそれがある従業員については,原則として事前に弁明の機会を与える。
懲戒委員会・賞罰委員会
懲戒処分をする際に,賞罰委員会や懲戒委員会などの調査・審議を経るかどうかについて法律の定めはありません。しかし,これを就業規則で定めた場合は、それを経ずしてなされた懲戒処分は,無効とされます。また、懲戒委員会は、多くの社員がその審議に時間と労力をとられ,業務に影響が出ることが予想されます(特に中小零細企業)。従って、特に中小零細企業においては、懲戒委員会を設置する必要性・合理性は高いものではなく、導入には慎重になるべきでしょう。
例1 会社は、懲戒処分にあたっては、懲戒委員会の諮問を経て行う。
例2 会社は,出勤停止,降格,諭旨解雇または懲戒解雇に懲戒処分を行うにあたっては懲戒委員会の諮問を経るものとする。
例3 懲戒委員会の構成・運営・手続については、別途定める。
懲戒処分前の自宅待機処分
懲戒処分を決定する前には事実関係の調査が必要であり、事案の性質上、対象者が社屋に立ち入ることが適切ではない場合もあるます。そこで、一定期間、対象者に対して自宅謹慎(自宅待機)を命ずることができます。また、その期間について原則として賃金を100%補償する必要があります(民法536条2項)。かかる命令は業務命令として行いますので、厳密には就業規則上の根拠は不要ですが、トラブル予防のために規定した方がベターです。
もっとも、懲戒解雇や諭旨解雇などの重大な事案、不正行為の再発防止,証拠隠滅の恐れなど緊急且つ合理的な理由がある場合は,自宅待機を命じて労務の受領を拒否したとしても,それは使用者の責めに帰すべからざる事由による履行不能として(民法536条1項),賃金支払義務がないと解される場合もあります(日通名古屋製鉄作業所事件・名古屋地裁平成3年7月22日判決)。
また、民法536条2項の適用を排除した場合(規定例3参照)は、使用者の都合による自宅待機命令であっても、平均賃金の60%だけを支払えばたります(規定例2参照)。
くわしくは
1 この規則に違反する行為があったと疑われる場合で、調査・処分決定までの前置措置として必要があると認められるときは、会社は、従業員に対し自宅待機を命ずることができる。会社は、自宅待機中、通常の賃金を支払う。
2 前項にかかわらず、従業員の行為が懲戒解雇事由ないし諭旨解雇事由に該当し又はそのおそれがある場合、若しくは不正行為の再発防止又は証拠隠滅のおそれがある場合は、会社は調査及び審議が終了するまでの間、就業を拒否することができる。この期間中は無給とする。
規定例2
1 この規則に違反する行為があったと疑われる場合で、調査・処分決定までの前置措置として必要があると認められるときは、会社は、従業員に対し自宅待機を命ずることができる。会社は、自宅待機中、1日につき平均賃金の6割に相当する金額を支給する。。
2 前項にかかわらず、従業員の行為が懲戒解雇事由ないし諭旨解雇事由に該当し又はそのおそれがある場合、若しくは不正行為の再発防止又は証拠隠滅のおそれがある場合は、会社は調査及び審議が終了するまでの間、就業を拒否することができる。この期間中は無給とする。
第○条(休業中の賃金)
従業員が債務の本旨に従った労務提供が可能で、労務提供の意思があり、会社の責めに帰すべき事由により従業員を休業させた場合(労働者の責めに帰すべき事由がある場合は除く)は,民法第536条第2項の適用を排除し,賃金を支給しない。ただし、この場合には,労働基準法第26条に定める平均賃金の100分の60の休業手当のみを支払う。
懲戒処分の文書による通知及び到達
懲戒処分は文書によって通知をおこなうべき
懲戒処分通知文書の到達について
就業規則は労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
就業規則は会社の全従業員共通の労働契約の内容を定める極めて重要な法律文書です。
日本人の平均的生涯賃金は1人あたり約2億7000万円とされています。日本の労働法制は終身雇用を前提としていますので、例えば従業員10名を雇用するとすれば総額27億円の雇用契約をしていることになります。
しかも、雇用契約は労働法による強烈な保護がされていますので、経営者が簡単に終了させたり、変更することは禁止されています。
例えば、会社が取引先との間で、総額27億の契約をする場合、万が一の間違いがあれば会社の業績を左右しかねません。絶対に弁護士に依頼して契約書のすみずみまで確認させると思います。
従業員10名に適用される就業規則も最重要取引先である従業員との間の契約で、しかも、簡単に終了・変更できない契約ですので、27億の取引先との契約と同じではないでしょうか。
就業規則の定め方を誤った場合やミスがあった場合、解雇ができない、人事異動ができない、賃金が柔軟に変更できない、想定していない多大な残業代の支払いが必要になるなどのリスクがあります。
このようなリスクは、労働法に関する幅広い専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。
リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには、労務専門の弁護士に事前に相談することとお勧めします。
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サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。
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サポート内容及び弁護士費用 の「11 就業規則作成・労務制度の診断(人事・労務ドック)」をご参照ください。
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詳しくは
労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。