法律による解雇制限

必ず事前チェック!法律で解雇が禁止される場合

  • 2019年5月4日
  • 2022年5月7日
  • 解雇

法律上、解雇が禁止される場合を整理しました。業務災害および産前産後の休業期間の解雇禁止、妊娠、出産、休業の請求・取得等を理由とする解雇禁止などについて、労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。

労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。

これとは別に、法律で解雇の禁止が定められており、これに違反する場合は、解雇は無効となります。

解雇を行う場合は、事前に必ずチェックしてください。

解雇禁止期間

労基法19条は、労働者が就職・求職活動が困難な時期に解雇されることを禁止して、労働者を失職による脅威から保護するため、次の期間について解雇を禁止しています。

  1. 業務上の傷病による休業期間およびその後の30日間(通勤災害には適用がない)
  2. 産前産後の女性が労基法65条によって休業する期間およびその後30日間

なお、「その後30日間」とは、療養のため休業する必要がなくなって出勤した日又は出勤しうる状態に回復した日から起算されます。

また、この30日間は、休業期間の長短にかかわらないため、仮に負傷による休業期間が1日であっても、その後30日間は解雇が制限されます。

① 業務災害による療養のための休業の場合

その負傷、疾病は、「業務上」のものでなければならず、業務外の私傷病や通勤災害(労災7条1項2号,2項)については、解雇は制限されません。

また、「療養」中である必要があるため、治癒(症状固定)後に通院している間は対象外であり(治癒後の解雇は制限されない),「休業」には、全部休業に限らず、一部休業も含まれると解されています(大阪築港運輸事件・大阪地決平2.8.31・労判570.52)。

客観的に業務上の休業であるにもかかわらず,私傷病であるとして休職を適用し,休職期間満了をもって自然退職扱いした場合は,労基法19条1項の類推適用により退職扱いが無効となるので注意してください(アイフル(旧ライフ)事件(大阪高判平24.12.13労判1072号55頁),コメット歯科クリニック事件(岐阜地方裁判所平成30年1月26日判決))。

② 産前産後の休業の場合

労基法65条は、女子については原則として産前に6週間(出産予定日より6週間前から)、産後に8週間の休暇を認めています。

産前の休業は、本人の請求があって初めて発生するので、本人が休業しないで就労している場合は、解雇は制限されません。

また、産後の休業は、出産日の翌日から8週間が法定の休業期間なので、これを超えて休業している期間は、たとえ出産に起因する休業であっても、本条にいう休業期間には該当しません。

なお、産後6週間を経過した女子が請求した場合は、医師が支障がないと認めた業務に就かせることは認められているので、その後30日間の起算日は、産後8週間経過した日又は産後8週間以内であって6週間経過後その請求により就労を開始した日となります。

③ 解雇制限の例外

解雇制限期間中であっても、次の場合は解雇することができます。

打切補償

使用者が、労基法81条によって打切補償(平均賃金の1200日分)を支払った場合(労基19条1項但書前段)。

なお,労災保険給付との関係が問題となりますが、業務上の傷病による療養の開始後3年を経過した日において、労災保険から傷病補償年金を受けているとき又は同日後受けることとなったときは、打切補償を支払ったものとみなされ、解雇制限はなくなります(労災19粂)。

しかし,被災労働者が労災保険法による休業補償給付を受けている場合には,療養開始後3年を経過しても労基法81条の打切補償がなされたことにはなりません。 この場合,使用者は労基法81条の打切補償を支払って解雇することもできません。労災保険法に基づいて,災害補償に相当する給付が行われる場合には,使用者は補償の責を免れる(労基84条)ため,打切補償はなし得ないからです(昭41.1.31・基発73号)。

事業継続が不可能

天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(労基19条1項但書後段)

この場合は、その事由について、労働基準監督署長(労基署長)の認定を受ける必要があります(労基19粂2項)。

この「天災事変」とは,例えば、事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意又は重過失に基づく場合を除く)は「天災事変その他やむを得ない事由」に該当しますが、税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合は天災事変その他やむを得ない事由」に該当しないとされています(S63.3.14基発150号)。

この認定は解雇の効力の発生要件ではなく、労基署長による事実の確認手続にすぎないので、労基署長の認定を受けないでなされた解雇が認定を受けなかったために無効となることはありません。ただし,認定を受けなかったことによる刑事上の責任は免れません。

④ その他

労基法19条の解雇制限の趣旨は、解雇制限期間内に効力が生じる解雇を禁止するということなので(東洋特殊土木事件・水戸地裁龍ヶ崎支判昭55.1.18・労民集31.1.14)、解雇の効力が生じる日が当該期間後であれば、解雇制限期間中に解雇予告をすることは可能です。

労基法19条の解雇制限は、同法20条と異なり、「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」を除外していないので、労働者に懲戒解雇に値する重大な背信行為があっても、労基法19条は適用され、普通解雇ないし懲戒解雇はできません。

定年の場合に、労基法19条の解雇制限が適用されるか否かは、定年の種類によって異なります。定年に達したときに当然に労働契約が終了するという「定年退職制」の場合は、労働契約の終了事由の約定があるので、解雇の問題は生じず、労基法19条の適用はありません。一方、定年に達したときに解雇の意思表示をし、それによって契約を終了させるという「定年解雇制」の場合は、定年は解雇事由を定めたものなので、労基法19条が適用され、解雇制限期間中は解雇できないことになります。

法律による解雇理由の制限

次の理由による解雇は禁止されていますので、解雇は無効となります。

妊娠、出産、休業の請求・取得等を理由とする解雇の禁止

  1. 女性労働者が婚姻したことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条2項)
  2. 女性労働者が妊娠、出産、労基法65条の産前産後の休業を請求・取得したこと等を理由に解雇することはできません(男女雇用機会均等法9条3項、同法施行規則2条の2)
  3. 性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条4号)

なお、妊産婦等に対する解雇は原則無効とされていますが、立証責任の転換(事業主が、当該解雇が妊娠・出産を理由とするものでないことを証明した場合には、解雇が可能となる)がされています(同法9条4号)。

育児介護休業取得を理由とする解雇の禁止

育児・介護休業の申し出をしたこと、育児・介護休業をしたことを理由とする解雇はできません(育児・介護休業法10条、16条)。

法令違反の申告や紛争解決の援助等を理由とする解雇の禁止

以下を理由として労働者を解雇することは禁止されています。

  1. 労働者が労基法違反や労働安全衛生法(以下、安衛法)違反の事実を労働基準監督署や労働基準監督官に申告したこと(労基法104条2項、安衛法97条2項)
  2. 労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、またはあっせんを申請したこと(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律4条3項、5条2項)
  3. 労働者(男女を問わない)が性差別の禁止規定をめぐる紛争について都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、調停を申請したこと(男女雇用機会均等法17条2項、18条2項)
  4. 労働者が、育児・介護休業法に係る個別労働紛争に関し、都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、又は調停を申請したことを理由とする解雇(育児・介護休業法52条の4第2項、52条の5第2項)
  5. 短時間労働者が短時間労働者に対する差別的取り扱いの禁止の規制をめぐる紛争について都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、調停を申請したこと(パートタイム・有期雇用労働法24条2項、25条2項)
  6. 労働者が公益通報保護法に基づいて公益通報をしたこと(公益通報者保護法3条)
  7. 労働者が労働委員会に対し、不当労働行為の救済を申し立てたことなどを理由とする解雇(労働組合法7条4号)

その他の制限

その他、以下を理由として労働者を解雇することは禁止されています。

  1. 年次有給休暇取得を理由とする解雇の禁止(労基法136条)
  2. 労働組合の組合員であること、労働組合に加入した、または結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇の禁止(労働組合法7条1号、医療法人新光会解雇事件 最三小判
    昭43 .4.9 判時515 ・29、労判74 ・79,民集22 ・4 ・845)。
  3. 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇の禁止(労基法3条)
  4. 裁判員法100条では、裁判員休暇を取得したこと等を理由とする解雇が禁止されている。

 

 

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