勤務態度や勤務成績に問題があり、会社内で検討した結果、解雇を行うことが決まった。もっとも、本人が解雇通知の受け取りを拒否する可能性がある場合など解雇を通知する方法が分からないという経営者も多い。そこで、受取拒否にも対応した解雇を通知する方法を説明したい。
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1 解雇の通知
1.1 解雇の法的性格
解雇とは,使用者が労働契約を将来に向けて一方的に解約することをいいます。
解雇権は,使用者が一方的意思表示(法律行為)によって行使する権利として,形成権(単独の意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利)と解されています(土田道夫「労働契約法(第2版)」651頁)。
1.2 解雇の通知
このように解雇は意思表示によって行使されますので、効力が発生するためには意思表示が労働者に到達する必要があります(民法97条1項)。
2 解雇の通知方法
では、具体的にどのような方法で解雇を通知するべきでしょうか。
2.1 書面によるべき
解雇の通知方法について、法律の規制はありません。従って、通知方法は、書面でも、口頭でも構わず、本人にその内容が伝えられていれば効果は発生します。
もっとも、就業規則において、懲戒処分の通知を「書面により行う」などと規定されている場合には、書面で通知する必要があります。
また、このような就業規則の定めがなくとも、文書をもって明確に伝えるべきです。
解雇は労働者に不利益を与える処分ですので、後々になって「言った、言わない」というトラブルにならないようにするためです。
解雇は「解雇通知書」「解雇予告通知書」といったタイトルで作成します(書式やひな形は下に掲載しています。)。
できあがった解雇通知書は本人に渡さなければ効果は生じません。具体的にはどのように渡すべきでしょうか。
大きく3つの方法があります。
② 郵送する方法
③ メール・SNSで送信する方法
2.2 面談して手渡す方法
最も一般的な方法は面談して手渡しする方法です。
面談で解雇通知書の内容を読み上げ、解雇通知書を労働者へ手渡します。
面談の様子は録音すると共に、解雇通知書を手渡し、受領書に署名捺印(署名だけでも可 書式は下記参照)を貰うようにして下さい。
そこで、面談において、解雇がやむを得ない措置であることを説明し、労働者本人の理解を得るよう努めることが重要です。また、解雇以外の合意による退職(解雇よりはメリットがある)の提案をすることも一案です。このような面談のプロセスを経ることで、解雇による紛争リスクを低下させることが可能となります。
2.3 郵送する方法
内容証明郵便 + 配達証明付き で送付することをお勧めします。
これにより、①解雇通知書の内容が、②いつ到達したかを証明することが出来ます。
インターネットから送付する「e内容証明」は慣れると簡単でお勧めです。
簡易書留+ 配達証明付き でもよいですが、②いつ到達したかを証明することは出来ますが、送付した①解雇通知書の内容を証明することは出来ません。本人が事後的に解雇通知書の内容を争う場合は、別途解雇通知書の内容について証明する必要があり手間となる場合もあります。それゆえ内容証明郵便をお勧めします。
2.4 メール、SNSによる方法
解雇を通知する方法として、メールやSNS等も可能です。
例えば、解雇処分通知書の内容を本文に記載すると共に、解雇通知書をPDFファイルで添付して送信する方法も有効です。
ただし、現時点で郵送による方法よりは確実性が乏しい側面もあるため、
本人が受信したことが確認できること(受領した旨の返信メールがあったこと、既読マークが付いたこと等)
出来るだけ郵送による方法も併用すること(時間が前後してもよい)
という点に注意して下さい。
2.5 従業員が行方不明の場合
従業員が住所不定となり所在不明の場合は、下記の記事をご参照ください。
参考記事
2.6 解雇予告・解雇予告手当
使用者は、労働者を解雇しようとする場合、原則として、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません(労働基準法20条1項)。
30日前に予告をしない場合は、原則として30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりませんが、この予告日数は平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができます(同条2項)。
ただし、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」または「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」であれば、解雇予告または解雇予告手当の支払いは必要とされません(労基法20条1項ただし書き)。
もっとも、この2つの場合に解雇するためには、労働基準監督署の認定を受けなければなりません。使用者が労基法20条に違反して解雇予告しなかった場合、または予告手当を支払わずに解雇した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる(労基法119条1号)。
具体的には、以下の記事をご参照ください。
解雇予告の参考記事は
10分でわかる!解雇予告除外認定のやり方【書式・ひな形あり】
2.7 通知する前に必ず確認するべきこと
通知を適切に行うことはもちろんですが、それ以前に、解雇の有効性については、必ずご確認ください。
解雇には厳しい法的なハードルが課せられていますので、このハードルを確実に越えられると判断できる場合に、始めて解雇の通知を行うことができます。
参考記事
もし、無効な解雇通知を行ったが、その後裁判で敗訴し、退職をさせる場合には、月給30万円の社員で1500万円ほどかかる場合があります。
無効な解雇によるリスクをご理解いただいた上で、慎重な対応をお願いします。
参考記事
3 解雇通知書の書式・ひな形
解雇予告通知書(シンプル版)
令和4年5月12日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
なお、上記期日までは、従前どおりに業務に従事してください。
以上
解雇通知書(シンプル版:即日解雇で解雇予告手当を支払う)
令和4年6月10日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
なお、解雇予告手当金は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。
以上
解雇予告通知書(シンプル版:解雇予告手当併用)
令和4年5月31日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
法定の予告期間に満たない日数分の解雇予告手当は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。
以上
解雇通知書(解雇理由を就業規則の該当条項のみ記載)
令和4年6月10日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
なお、解雇予告手当金は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。
解雇理由 : 就業規則第○条○項、○項、○項、第○条○項
以上
解雇通知書(解雇理由を具体的に記載)
令和4年6月10日
甲野 太郎 殿
○△商事株式会社
代表取締役○野△太郎
解雇通知書
貴殿を令和4年6 月10 日付をもって下記の理由により就業規則第○条により解雇といたしますので、本書により通知します。
なお、解雇予告手当金は、貴殿の給与振込口座に送金いたします。
記
1 職務命令に対する違反行為(就業規則第●条●号)
ア 当社における就業時間中に・・・業務を行っていた。
イ ・・・業務に関し,杜撰な業務により・・・(業務上の支障)・・が度々生じた。
ウ 当社は,令和●年●月頃,・・(具体的業務命令)・・を命じたが,貴殿は全く行わなかった。
エ ・・・・・・・・・
2 業務について不正な行為(就業規則第●条●号)
令和●年●月頃,集金業務の際に客先より受領した当社の金銭を保管中,ほしいままに自己の用途に費消する目的で着服して横領した。
3 勤務態度又は勤務成績が不良であること(就業規則第●条●号)
ア ・・・・・を行い,社内の秩序を乱した。
イ 勤務時間中に・・・・・・・行っていた。
ウ 勤務時間中に私用の電話対応を度々行った。
エ 職場の上司に対し不適切な言動を度々行った。
4 その他、当社社員としての適性がないこと(就業規則第●条●号)
5 その他
以上の解雇理由該当行為について,当社は貴殿に対し,令和●年●月●日,同年●月●日など度々注意指導を行って改善を求めたが,貴殿は反抗的な態度に終始してこれに従わず,かえって不適正な行為を繰り返し行ったため,もはや貴殿に改善の見込みはない。また,貴殿の行った行為によって当社に生じた業務上の支障は著しい。
よって,貴殿は,当社従業員として相応しくないと判断した。
以上
解雇理由を具体的に記載した例になります。解雇理由について、出来るだけ網羅的な記載をすることが望ましいと考えます。想定できる限りの解雇理由を記載した上で「その他、当社社員としての適性がないこと」といった包括条項も最後に付け加えておくとよいでしょう。
4 まとめ
以上おわかりいただけましたでしょうか。
ご参考になりましたら幸いです。