内定取消し通知の方法
トラブルを回避する方法
1 採用内定取消しのための条件
内定取消しとは
企業が新規学卒者の採用をする場合,企業による募集,労働者による応募,企業が面接や採用試験を実施し,それによって採用を決定し,採用内定を通知し,それに対し労働者より誓約書,身元保証書などの必要書類を提出し,企業によっては健康診断を実施するなどの過程を経て,入社日に入社式や辞令交付をするというプロセスを経るのが通常です。
そして、このプロセスを前提とする限り、採用内定(決定)通知を発信した時点で「労働契約」が成立するとされています。
もっとも、内定通知の段階では,申込者は学生であり,すぐに会社で勤務することはありませんので,通常の労働契約とは異なります。
すなわち、4月1日から勤務開始となるというような「始期」(開始時期)が付いており,また,単位が取得できずに卒業できなかった場合は解消されるといった「解約権」というオプションも付いている契約であるとされています(「始期付解約権留保付労働契約」であると言われています。)。
そして、内定取消しとは、採用内定により成立した労働契約を、採用内定時にオプションとして設けられた「解約権」の行使することで、労働契約を解消することを意味します。
内定取消しをするための流れ
では、内定取消しは以下のような流れで、準備し、実行します。
以下、この流れに沿って説明します。
① 内定取消し事由の定め
内定取消し事由を定める意味
前記のとおり内定取消しは、採用内定時にオプションとして設けられた「解約権」の行使として行われますので、採用内定時にどのような場合に解約権が発動するのかについて定めます。
内定取消しが発動する条件を「内定取消し事由」といいます。解雇の場合に解雇事由があったのと同じく、内定取消しの場合にも内定取消し事由があるのです。
内定取消し事由を定めることにより、採用取消事由に該当しないように意識させ、実際に該当する事態になった場合には、取消しに応じやすいというメリットがあります。
従って、内定取消し事由は網羅的かつ具体的に記載するべきです。
内定取消しに関する就業規則規程例
就業規則に以下のような規定を記載します。
第○条(採用内定)
1 会社は、採用選考の結果、採用を決定した者に対して,採用内定通知書を交付する。
2 前項により採用内定通知を受けた者は, その通知を受けたときから本規則の適用を受ける。ただし,会社から業務を命じられた場合を除き,就労と関係ない規定についてはこの限りではない。
3 会社は第1項により採用内定通知を受けた者が入社日までの問に,次の各号のいずれかに該当した場合は,採用内定を取り消す。
① 履歴書その他の採用時までの申告事項が事実と相違するとき
② 入社日において正常な勤務ができない健康状態であると会社が判断したとき
③ 採用の前提(新規学卒者においては卒業、必要な資格の取得等)を欠く場合
④ 犯罪その他社会的に不相当な行為を行い従業員として不適格と会社が判断したとき
⑤ 会社から提出を指示された書類を指定期日までに提出しないとき
⑥ 会社の経営上やむをえない必要性があるとき
⑦ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
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② 内定通知書の交付、誓約書の取得
内定通知書(新卒社員)
○年○月○日
○○ ○○ 殿
株式会社○○○○
代表取締役○○○○ ㊞
採用内定通知書
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度は、お忙しい中、弊社の新卒採用にご応募いただき、誠にありがとうございました。
慎重な選考の結果、○年○月○日から貴殿を当社の社員として採用することを正式に内定いたしましたので、ご通知いたします。
つきましては、同封いたしました内定承諾書にご署名ご捺印の上、○年○月○日までに当社へご返送くださいますようお願い申し上げます。
なお、下記の事由に該当した場合、本採用内定を取り消すことがありますので、予めご了承ください。
敬具
記
1.履歴書その他の採用時までの申告事項が事実と相違するとき
2.入社日において正常な勤務ができない健康状態であると会社が判断したとき
3.入社日までに現在在籍している学校を卒業できないことが判明したとき
4.犯罪その他社会的に不相当な行為を行い従業員として不適格と会社が判断したとき
5.会社から提出を指示された書類を指定期日までに提出しないとき
6.会社の経営上やむをえない必要性があるとき
7.その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
以上
後述のとおり会社が内定取消することができるのは、採用内定通知書に記載された内定取消事由に限られませんし、そもそも誓約書や採用内定通知書に内定取消事由を記載しなければならない法的義務はありません。
しかし、内定者に対して、どのような事由が内定取消事由になるのかを示すことによって、採用取消事由に該当しないように意識させ、実際に該当する事態になった場合には、取消しに応じやすいというメリットがあります。それゆえ、採用内定通知書や誓約書に内定取消事由を具体的に記載すべきなのです。
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内定承諾書(新卒社員)
内定承諾書
株式会社 ○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
この度、私は、貴社から採用内定通知を受領いたしました。貴社からの内定通知を承諾するとともに、○年○月○日に貴社へ入社することを誓約いたします。ただし、私が下記のいずれかに該当した場合には、速やかに貴社へ通知するものとし、採用内定を取り消されたとしても異議を述べないことを承諾いたします。
記
1.履歴書その他の採用時までの申告事項が事実と相違するとき
2.入社日において正常な勤務ができない健康状態であると会社が判断したとき
3.入社日までに現在在籍している学校を卒業できないことが判明したとき
4.犯罪その他社会的に不相当な行為を行い従業員として不適格と会社が判断したとき
5.会社から提出を指示された書類を指定期日までに提出しないとき
6.会社の経営上やむをえない必要性があるとき
7.その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
○○年○○月○○日
住 所
氏 名 印
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内定通知書(中途採用)
○年○月○日
○○ ○○ 殿
株式会社○○○○
代表取締役○○○○ ㊞
採用内定通知書
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度は、お忙しい中、弊社の採用にご応募いただき、誠にありがとうございました。
慎重な選考の結果、○年○月○日から貴殿を当社の社員として採用することを正式に内定いたしましたので、ご通知いたします。
つきましては、同封いたしました内定承諾書にご署名ご捺印の上、○年○月○日までに当社へご返送くださいますようお願い申し上げます。
また、雇用契約の締結等の手続を行いますので印鑑をご持参の上○年○月○日午前10時に当社人事部へご来社ください。
なお、下記の事由に該当した場合、本採用内定を取り消すことがありますので、予めご了承ください。
敬具
記
1.履歴書その他の採用時までの申告事項が事実と相違するとき
2.入社日において正常な勤務ができない健康状態であると会社が判断したとき
3.採用の前提(必要な資格の取得等)を欠く場合
4.犯罪その他社会的に不相当な行為を行い従業員として不適格と会社が判断したとき
5.会社から提出を指示された書類を指定期日までに提出しないとき
6.会社の経営上やむをえない必要性があるとき
7.その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
以上
※ 中途採用の場合は、採用内定から本採用手続まで期間が短いのが通常ですので、省略する場合もあります。速やかに雇用契約書の締結を行います。
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内定承諾書(中途採用)
内定承諾書
株式会社 ○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
この度、私は、貴社から採用内定通知を受領いたしました。貴社からの内定通知を承諾するとともに、○年○月○日に貴社へ入社することを誓約いたします。ただし、私が下記内定取消事由のいずれかに該当した場合には、速やかに貴社へ通知するものとし、採用内定を取り消されたとしても異議を述べないことを承諾いたします。
記
1.履歴書その他の採用時までの申告事項が事実と相違するとき
2.入社日において正常な勤務ができない健康状態であると会社が判断したとき
3.採用の前提(必要な資格の取得等)を欠く場合
4.犯罪その他社会的に不相当な行為を行い従業員として不適格と会社が判断したとき
5.会社から提出を指示された書類を指定期日までに提出しないとき
6.会社の経営上やむをえない必要性があるとき
7.その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
○○年○○月○○日
住 所
氏 名 印
※ 中途採用の場合は、採用内定から本採用手続まで期間が短いのが通常ですので、省略する場合もあります。速やかに雇用契約書の締結を行います。
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③ 内定取消し事由の発生
上記就業規則、採用内定通知書、内定承諾書にありますように、これらの書類には「その他、上記各号に準じる事由がある場合」などという幅広いものも含めて採用内定の「取消事由」を記載しています。
しかし、記載された「取消事由」があれば、当然に採用内定取消しをできるわけではありません。
判例は、採用内定取消しが許されるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」があり、それを理由に採用内定を取り消すことが「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認」できる場合に限られるとしています(大日本印刷事件・最二小判昭和54.7.20民集33-5-582)。
一般的には、
どのような場合に内定取消しが認められるかについては、下記の記事をご参照ください。
参考記事
④ 内定取消し通知書の交付(送付)
内定取消し通知書(新卒・大学卒業できず)
○年○月○日
○○ ○○ 殿
株式会社○○○○
代表取締役○○○○ ㊞
敬具
※ 取消事由の記載に当たっては、採用内定通知書や誓約書等の取消事由と不一致が生じないように注意してください。
※ トラブル防止の観点から、採用内定取消通知書に、いかなる内定取消事由に該当するかを明記した方がよいでしょう。
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内定取消し通知書(新卒・経営難・示談提案)
※ 会社の経営難による内定取消しは整理解雇の法理に準じて厳しく判定されます。また「会社が業績不振なので、内定取消し事由に該当するから」と当たり前のように内定取消しすると、内定者(及び両親)からの反発は必至です。上記文案のように最初から低姿勢でお詫びをする内容にした方が、不要なトラブルを回避するのに役立ちます。
※ トラブル回避の観点からは再就職支援内容のほか、示談の提案も行うことがよい場合も多いです。示談書は下記のものをご参照ください。
示談書(採用内定取消し)のひな形
経営難で内定取消しする場合の書式はこちら
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内定取消し通知書(中途採用・病気発覚)
中途採用内定したが申告していない病気が発覚した場合の内定取消し書式はこちら
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⑤ 和解・示談による解決
内定取消し事由が、大学を卒業できなかったことである場合は、ほぼ確実に内定取消しは有効となりますので、前記④の内定取消し通知書の送付による対応でリスクはありません。
これに対して、内定取消し事由にリスクが残る場合、例えば、会社の業績悪化を理由とした内定取消し事案や本人に経歴詐称や犯罪行為のの「疑い」はあるが、本人は否定しており、会社も確たる裏付け証拠を保有していない場合などです。
この場合、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」があり、それを理由に採用内定を取り消すことが「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認」できる場合に限るとした判例理論に照らすと、内定取消しの有効性にリスクを残している状況となります。
このようにリスクが残る場合は、前記④の内定取消し通知書を送付する前、又は、送付した直後に、内定者と面談して和解・示談により解決する方法も検討することも一案です。
内定取消しが無効となった場合は、入社日以降の賃金(バックペイ)のみならず、慰謝料などの損害賠償義務を負う可能性もあります。また、内定の取消により感情的になった内定者がSNSで拡散し、風評被害を受ける可能性も高まります。
そこで、リスク回避の観点から、内定者と示談書を取り交わし、一定の解決金を支払い、内定の取消しについて他言しないこと、その他債権債務がないことなどを合意することも一案です。
示談書(採用内定取消し)のひな形
内定取消しで揉めないための示談書の書式はこちら
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内定取消しについては労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
内定取消しについては、労働者の雇用契約上の地位を失わせるという性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。
判断を誤った場合や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より地位確認・未払賃金請求等の訴訟を起こされるリスクがあります。会社に不備があった場合、復職や過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。
また、内定取消しをきっかけに労働組合に加入をして団体交渉を求められる場合があります。
このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。
しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。
リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには、労務専門の弁護士に事前に相談することとお勧めします。
労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート
当事務所は、労務専門の事務所として内定取消しに関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。
労務専門法律相談
専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。
コンサルティング
会社は限られた時間の中で内定取消しを適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
コンサルティングにより、内定取消しの準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、内定取消しに至るまでの内定取消し事由への該当性判定や裏付け証拠の収集などのサポートを受けることができます。
これにより企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。
労務専門顧問契約
人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応、労働時間制度や賃金制度についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した内定取消し問題についても、準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、内定取消し通知書や労働者との交渉文書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。
まとめ
以上おわかりいただけましたでしょうか。
ご参考になれば幸いです。