1 採用内定のプロセス
企業が新規学卒者の採用をする場合,企業による募集,労働者による応募,企業が面接や採用試験を実施し,それによって採用を決定し,採用内定を通知し,それに対し労働者より誓約書,身元保証書などの必要書類を提出し,企業によっては健康診断を実施するなどの過程を経て,入社日に入社式や辞令交付をするというプロセスを経るのが通常です。
2 採用内定の法的性質
ではこのようなプロセスの中で,いつ,どのような労働契約が締結されているのでしょうか?
裁判例では,以下のように確立されていきました。すなわち,企業による募集は「労働契約申し込みの誘引」であり,それに対する応募(エントリーシートの送付,必要書類の送付等),または採用試験の受験は労働者による「契約の申し込み」です。そして,採用内定(決定)通知の発信は,使用者による「契約の承諾」であり,これによって「労働契約」が成立します。ただし,内定通知の段階では,申込者も学生であり,実際に会社で勤務することはありませんので,通常の労働契約とは異なります。4月1日から勤務開始となるというような「始期」が付いており,また,単位が取得できずに卒業できなかった場合は解消されるといった「解約権」も付いています。ですので,内定通知が出た段階で成立する労働契約は,「始期付解約権留保付労働契約」であると言われています(漢字が続くので難しそうですが,実際には上記のとおり常識的なものなのです。)。
3 採用延期
入社予定日以降は,就労出来る状態となるのであり,それを延期する会社の通知は,入社予定日以降の「労働義務の免除」ないし「労務の受領拒絶」ということになります。
従って,入社予定日以降は,民法536条2項により,反対給付である賃金全額の請求をすることが出来ます。
なお,労働基準法26条は,使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は「平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならない」旨規定していますが,60%の賃金を支払えば残りの40%については免除されるという訳ではありません。あくまでも賃金全額を請求できることに注意する必要があります。