オワハラとは、「就活終われハラスメント」の略であり,採用選考を行っている企業が学生に対して他社の選考を辞退するように強要し就職活動を終わらせるよう迫る行為を意味します。早期に優秀な学生を囲い込みたい企業の思惑は理解できるとしても,行き過ぎた足止め策は法的トラブルのみならず様々なデメリットを生み出します。そこで,オワハラの具体的対応方法について説明します。
1 オワハラとは?
1.1 意味
オワハラとは、「就活終われハラスメント」の略であり,採用選考を行っている企業が学生に対して他社の選考を辞退するように強要し就職活動を終わらせるよう迫る行為を意味します。
具体的には、企業が必要な人材確保に熱心になるあまり、
② 正式内定開始日前に内定承諾書、誓約書をはじめとした内定受諾の意思確認書類の提出を求めること、
③ 6月1日以降の採用選考時期に学生を長時間拘束するような選考会や行事等を実施すること、
④ 自社の内々定と引き替えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要すること
などであると言われています(文部科学省平成29年5月12日付「平成30年度就職問題懇談会申合せについて」参照)。
1.2 オワハラが出てきた背景及び世の中の風潮
このようなオワハラが行われる背景には、優秀な学生を囲い込む為に早い段階で内定(内々定)を出した上で内定者数を確定し、それ以上の時間とコストをかけずに採用活動を終了させたいという企業側の思惑と、早期に得た内定をキープしたままより志望度の高い企業の選考に臨みたいという学生側の思惑が存在します。
世の中の風潮としては,一般的には学生の職業の選択の自由を妨げる行為や、学生の意思に反して就職活動の終了を強要するようなハラスメント的な行為は厳に慎むべきだという考えが主流となっています(前掲文部科学省の申し合わせにおいても、同様の要請がなされています。)。
1.3 企業による学生確保は認められる
しかし,企業には企業の事情があり,予算があり,正義があるはずです。
企業の利益を守る為に,学生を早期に確保することがそんなにいけないことか?
企業が採用活動にかかる時間・費用及び人事戦略の実現の為,内定した学生を確保する活動をすること自体は実は認められる。
内定者を引き留める活動一切が禁止されている訳ではないのだ。この点をまずは押さえて欲しい。
ただ,内定した学生の引き留めは全く無制約に出来るものではなく,次にオワハラのリスクについて説明します。
2 オワハラのリスク・デメリット
2.1 法的リスク
① 民事上の損害賠償リスク
内定した学生の引き留めが許されるとしても,ハラスメント一般と同様に、内定者の尊厳,人格権や職業選択の自由を侵害する行為は当然許されない。
企業が、学生に対して、契約上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らして許容しうる範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をした場合は、人格権侵害の不法行為(民709条)が成立する。
この場合,企業は学生より損害賠償請求を受けることになるので注意が必要です。
現時点でオワハラによる損害賠償を認めた裁判例は見当たらないが,事案にもよるが50万円~100万円の損害賠償が認められることもあり得るでしょう。
② 刑事訴追リスク
また、企業による学生へ言動の程度によっては、刑法上の脅迫罪や強要罪(刑法222条、223条)に該当することもあり得ます。
脅迫罪は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」,強要罪は「3年以下の懲役」と法定刑が定められており,決して軽くは無い。
もっとも、刑事事件に発展するようなオワハラは余程の酷いことをした場合であろうから,企業側もコンプライアンス意識が致命的に欠如していない限り「やってはいけない」ことと分かるでしょう。
現時点でオワハラにより逮捕・勾留・起訴されたという事例は見当たらないが,そのような事態になれば報道により取り上げられ,企業の著しいイメージダウンに繋がることは間違いありません。
2.2 風評リスク
そして,実は最も恐ろしいのは風評リスクであろう。
最近では,就職面接や採用担当者のやりとりなどの経過をスマートフォンやICレコーダーで密かに記録している学生も少なくない。
また,就職活動の経過をSNSなどで公表している学生も多い。
そして,採用担当者が学生に対して行った酷いオワハラのリアルな内容は,音声や動画と共にSNSに乗って瞬く間に世の中に拡散され,炎上することも十分ありえます。
そのような事態になれば,ただでさえ人材不足にあえいでいる企業が,優秀な人材を確保することが出来なくなり,将来的に見れば莫大な損害が発生するでしょう。
風評リスクで怖いのは,法的リスクとイコールではないことだ。
つまり,裁判では損害賠償が認められないようなオワハラであっても,学生のSNSを見た一般人が「酷い」と思えば,たちまち企業の評価は低下する。法的リスクがないからといって高をくくれば痛い目をみる事例は世の中に溢れているので分かるでしょう。
このようにオワハラのリスクははかり知れないものであり,企業としては,何がオワハラとなるのか理解してトラブルを回避しなければならない。
では,具体的に何がオワハラにあたるのか?具体的にみてみよう。
3 オワハラの限界
3.1 入社承諾書の提出と説得(○)
まず、内定予定の学生に対して、入社承諾書の提出を求め、予定日に確実に入社する旨の意思確認を行うとともに、内定後は他社の就職活動を続けないことを要請・説得することは許されます。
それ自体,内定者の職業選択の自由や人格権を侵害するものではないからです。
この際、内定後も内定者と円満なコミュニケーションを取り、当該企業の魅力を伝えると共に当該内定者を必要としていることを伝えることにより、内定者の入社へのモチベーションを維持・向上させることが実際上は内定者の確保の観点から基本的な方法となります。
3.2 交渉型オワハラ(×)
「内々定を出す代わりに、以降の他社の面接や説明会は全て断ることを確約してほしい。」「今ここで他社の内定を電話で辞退してくれたら内定を出します。」
このように自社の内々定と引き替えに他社への就職活動を取りやめるよう求めるような場合は、応募者の自由な意思形成を阻害する強要に当たります。
特に,密室で執拗に上記言動を繰り返したような場合は、不法行為が成立する可能性も否定できません。
3.3 束縛型オワハラ(×)
内定者が他社の説明会や面接にいけないよう、経団連の選考解禁日(6月1日)や就活イベントの日を狙って研修や親睦会などを繰り返し行う
このような行動は一見通常の内定者へのフォローに見せかけ、実際は他社への就職活動を阻害する目的を有しています。
この場合、不必要に研修や親睦会を開催した上で、不参加の場合の不利益(内定取消など)を示唆しつつ参加を強制するような場合は、応募者の自由な意思形成を阻害する強要に当たり得ます。企業担当者の言動や態様によっては不法行為が成立する可能性もある。
4 まとめ
以上をまとめますと
② 世の中の風潮としては,一般的には学生の職業の選択の自由を妨げる行為や、学生の意思に反して就職活動の終了を強要するようなハラスメント的な行為は厳に慎むべきだという考えが主流となっている。
③ しかし,企業が採用活動にかかる時間・費用及び人事戦略の実現の為,内定した学生を確保する活動をすること自体は実は認められる。
④ オワハラとして問題となるのは行き過ぎた学生への言動。
⑤ 自社の内々定と引き替えに他社への就職活動を取りやめるよう求めるような場合や不必要に研修や親睦会を開催した上で、不参加の場合の不利益(内定取消など)を示唆しつつ参加を強制するような場合はオワハラにあたる。
⑥ オワハラにより民事上の損害賠償や刑事上の脅迫罪・強要罪の法的リスクがあるが,最も怖いのは学生のSNS拡散による風評リスク。
⑦ 法的リスクのみならず,世の中の風潮にも配慮して,批判されない取り組みが求められる。