雇止めができない場合、65歳まで現行給与を支払い続けるしかないのでしょうか?
定年後再雇用の基本的な法的ルール
1 定年後再雇用制度の基本
定年後の再雇用制度は、企業に対して60歳以上の定年設定を義務付けるとともに、65歳までの雇用確保措置を求める制度です(高年齢者雇用安定法)。
再雇用措置として、企業には、
- 定年年齢の引き上げ
- 継続雇用制度の導入
- 定年制の廃止
という3つの選択肢がありますが、実務では②の継続雇用制度を採用する企業が多くなっています。
②の継続雇用制度には2つの形態があり
- 定年後もそのまま雇用を継続する「勤務延長制度」
- 一旦退職させた後に新たな契約を結ぶ「再雇用制度」
です。
実務では再雇用制度を採用する企業が多いです。
これは、再雇用制度では、一旦定年退職し、新たに労働契約を締結するため、
いわば雇用契約が一旦リセットされ、業務内容や処遇を柔軟に設定できるためです。
再雇用制度は、
- 希望者全員を再雇用する義務があること(平成24年の法改正で対象者限定制度が廃止され、正当な理由のない再雇用拒否はできません)
- 定年前の労働条件とは異なる新たな条件を設定できること、
- 通常は1年単位の有期労働契約(以下「有期契約」)を結び、毎年更新する形が一般的です。
以下、本ページでは、再雇用制度として期間1年の有期契約を採用した場合について説明します。
2 再雇用後の労働条件変更
再雇用契約も有期契約ですので、定年後再雇用社員(以下,「再雇用者」といいます。)と1年ごとに契約を更新することになります。
再雇用者の仕事ぶりや会社の業績に問題がなければ、2面目以降も同条件で更新することが多いのですが、
- 再雇用者のモチベーションや健康状態等が原因でフォーマンスが下がり、想定した能力が発揮できない
- 企業の業績の悪化等により
などにより、従前の雇用条件を維持することが難しくなる場合があります。
そういった事情により、再雇用者の賃金を2年目以降、賃金を減額したり,業務内容などの労働条件を変更する必要が生ずる場合があります。
その場合、会社は一方的に再雇用者の労働条件を変更することができるのでしょうか?
変更する方法としては、
- (1) 契約期間中の変更
- (2) 契約更新のタイミングでの変更
がありえますので、分けて説明します。
(1) 契約期間中の労働条件変更
まず、契約期間中に労働条件を変更する方法を説明します。
再雇用後の契約期間中は、一般的に,企業が,一方的には労働条件を変更できる制度にはなっていません。
そのため、会社が一方的に労働条件を変更することはできません。
変更が必要な場合は、提案・交渉を行い、社員の同意を得て、
合意によって労働条件を変更することが原則として必要です。
ただし、就業規則や雇用契約書等において、予め、①契約期間中の職務内容の変更がありえること、②①の変更に伴い賃金も変更となること、が定められている場合は、労働者の同意がなくとも、職務内容等の変更に伴い賃金を減額することも可能です。
(2) 契約更新時の労働条件変更
次に、契約更新時に、新たな契約を締結するタイミングに労働条件を変更する場合について説明します。
次回の更新について労働条件変更の必要がある場合,更新時期の前(1~2ヶ月前)のタイミングで,企業側から、例えば賃金を下げて更新するなどの労働条件の変更を提案することが多くあります。
① 労働者が同意する場合
再雇用者側も、納得する場合は,企業側の賃金減額などの提案に同意してもらえます(相応の理由があれば納得するケースがほとんどです。)。
再雇用者が同意した場合,更新後の労働条件を不利益に変更することは可能です(春秋航空日本事件:東京地判令和3年7月29日)。
② 労働者が同意しない場合
これに対し、再雇用者が、賃金の減額などの労働条件が下がって契約更新することに、同意しない場合もあります。
このように、2年目以降の契約更新時、企業の賃金減額などの変更提案に同意しない場合について,雇止めや、一方的な賃金減額などの変更ができるかが問題となります。
賃金減額に応じない者を雇止めする方法
1 結論
再雇用者が、2年目以降の契約更新時、企業の賃金減額などの変更提案に同意しない場合
解雇事由に準じた理由がない限り、原則として、雇止めは認められません。
ただし、労働条件の変更に合理的理由・社会的相当性が認められる場合は、雇止めが認められる可能性はあります。
2 具体例
具体例で説明しましょう。
【社員A】

60歳定年後に再雇用
- 再雇用契約(1年目)
- 職務(技術職)
- 有期契約 期間1年(更新可能性あり)
- 賃金 月給35万円
【社員Aの1年目の勤務実績】
- 定年前より集中力・モチベーションが低下
- 業務の実績低下、ミス等が増加、生産性低下
しかし、解雇事由に該当するレベルには至っていない(※解雇事由に該当する場合は雇止め可能)
そこで、会社としては、社員Aの能力・実績に見合う賃金(28万円)での更新をしたい
【経緯】
- 会社 更新提案 賃金35万円→28万円(20%減)とすることを提案
- 社員A ①を拒否
- 社員A 35万円(1年目と同じ条件での更新希望)希望する
- 会社 ③を拒否
- 会社 雇止め(不更新)通知・労務受領拒否
- 社員A 雇止め無効を主張して争う
以下、この具体例に沿って説明を進めます。
3 再雇用の場合、雇止めは基本的に認められない
社員Aが1年目と同じ月給35万円での契約更新を希望し(③)、会社がこれを拒否し(④)、雇止めをした(⑤)場合、労働契約法19条が適用され、解雇に準じた理由がない限り、雇止めは無効となります。
雇止めが無効となった場合は、1年目と同じ労働条件(月給35万円)で契約更新したとみなされ、会社が労務受領拒否しても、月給35万円の支払を裁判所に命じられることになります。
4 なぜ、再雇用の場合、雇止めが認められないか?
労働契約法19条
労働契約法19条は、会社が有期契約社員との契約更新を拒否する(雇止め)ことを制限しています。
契約が更新されるという労働者の期待が法的に保護される場合、
解雇理由に匹敵する理由(ハードルが高い)がない限り、
会社は雇止めをすることができません。
そして、労働契約法19条が適用される場合、本人が契約更新を希望すれば、これまでと同じ条件で契約更新したとみなされることになります。
ただ、有期雇用契約の一般論としては、契約が更新の期待が法的に保護されるか否かは、ケースバイケースで定められ、
契約更新の状況によっては、認められない場合もあります。
定年後再雇用の有期契約の特殊性
しかし、定年後再雇用の有期契約の場合の特殊性として、次の事情により、
自動的に、契約が更新されるという労働者の期待が法的に保護される場合に該当してしまうため、
65歳までは労働契約法19条が基本的に適用されてしまいます。
つまり、定年後再雇用した場合、65歳までは、解雇理由に匹敵する理由(能力不足、業務命令違反、勤怠不良、業績不振など)がない限り、雇止めはできないのです。
定年後再雇用の場合の特殊事情
- 65歳までの雇用確保が法律(高年齢者雇用安定法)で義務付けられている
- 法律(高年齢者雇用安定法)で、65歳より前の更新上限設定は認められない
- 解雇事由や退職事由に当たらない理由を雇止め理由として定めることはできない(高年齢者雇用安定法Q&A参照)
- そのため、基本的に65歳までの雇用継続への期待が認められ、その期待を減殺する対応策をとることもできない
- 雇止めが認められる理由(合理性・相当性)が肯定されるハードルは高い(整理解雇の場合等,正社員よりは緩やかに判断され得るとしても)
- そのため、定年後再雇用の有期契約の場合は、65歳までは、労働契約法19条が基本的に適用されてしまう!
5 合理的な契約条件変更提案により再雇用者を雇止めする方法
ただし、有期契約の更新に際して、労働条件を不利益に変更する場合、
その変更内容が合理的である場合は、雇止めは有効となると考えられています。
(学校法人河合塾事件 東京地判 令和3年8月5日、東光高岳事件 東京地判 令和6年4月25日)。
そこで、以下のような条件を満たす場合は、
合理的な契約変更・更新の提案を再雇用者が拒否した場合に、
雇止めが認められる可能性があります。
(1) 客観的に合理的な理由があること
業務内容や能力の変化
- 再雇用者の業務遂行能力が低下している
- 従来の業務量・責任範囲が減少し、賃金とバランスが取れなくなった場合
企業の経営状況の悪化
- 会社の業績悪化により賃金カットが必要な場合
- 事業縮小・部門統廃合などの業務量減少が生じた場合
(2) 事前に合理的な評価制度・給与決定基準が整備されていること
明確な評価基準が設定されている
- 客観的な評価制度があり、賃金決定基準が事前に規定されている
- 評価の透明性・公平性が担保されている(恣意的に決定されない)
- 定年後再雇用者の賃金決定ルール(例:評価結果による変更)が事前に周知されている
制度として周知されている
- 就業規則や個別契約書に「評価に応じた賃金決定がある」ことを明記している
- 過去の実績として、他の再雇用者にも同様の基準が適用されている
(3) 同一労働同一賃金の原則の趣旨に適合している
他の正規労働者との均衡が取れている
- 同様の業務に従事する正規労働者と比較し、不合理な格差がない
不当な差別的取扱いがない
- 年齢・性別などを理由とした恣意的な賃金変更でないこと
- 企業の評価制度のもと、客観的に「業務内容・責任・成果」に応じたものであること
(4) 変更のプロセスが適正であること
本人と十分な協議を行っている
- 一方的な通告ではなく、賃金減額の理由を明確に説明し、話し合いの場を設ける
- 変更に同意を得る努力をしている(説得を試みた経緯がある)
合理的な通知期間を設けている
- 急な変更ではなく、契約更新前に十分な説明期間を設けている
- 事前に文書などで通知し、対応を協議できる余地を与えている
(5) 変更後の条件が極端に不利益でないこと
賃金減額の幅が適正
- 突然50%以上の減額など、極端な変更ではなく、業務量・責任の減少に見合った調整であること
- 生活維持の観点からも、社会通念上妥当な範囲であること
激変緩和措置・代替措置がある場合
- 賃金減額と引き換えに、勤務時間や業務負担を軽減する措置がある
- 減額幅に応じて、一定期間、調整手当等を支給して激変緩和に努めている
(6) 過去の契約更新の実態と整合性がある
- 毎年の契約更新時に労働条件の変更が行われてきた実績がある
- 同じ職務の他の従業員にも、過去に同じような賃金変更がなされている
- 勤務実績や評価に関係なく、長年同じ条件での契約更新が続いていない
→「一度も変更なく同じ賃金で契約更新が繰り返されてきた」場合、変更の正当性が疑われやすい
具体例への当てはめ
1. 客観的な合理的理由
業務遂行能力の低下
- 定年前と比較して集中力、モチベーションの低下、ミスの増加、生産性の低下などが客観的に認められる必要があります。具体的な評価や数値データがあると有効です。
職務内容・責任範囲の変化
- 職務内容や責任範囲の変化に応じて、賃金を見直す合理性が必要です。会社が求める水準の業績を維持できない場合、その職務に適した賃金水準への調整が認められる可能性があります。
2. 事前に合理的な評価制度・給与決定基準の整備
賃金決定の評価基準の明確性:
- 賃金決定の評価基準が明確である必要があります。評価基準とそれに紐付いた賃金決定ロジックが就業規則や再雇用契約書に明記されているかどうかが重要です。
事前の賃金減額の可能性の提示
- 「再雇用契約は業績・評価に応じて給与を決定する(昇給のみならず、降給もありえる)」というルールが事前に周知されている必要があります。また、従来から他の再雇用者にも同じ基準で賃金決定がなされていることが重要です。
3. 同一労働同一賃金の原則の遵守
他の正規労働者との均衡
- 他の再雇用者にも同様の評価基準が適用されており、Aのみ特別に不利益な扱いを受けていないことが必要です。
適正な賃金水準
- 28万円が業界水準や社内規程と比較して、合理的な水準である必要があります。賃金の引き下げ幅が社会通念上妥当であり、著しく不利益でないこと(例:50%以上の大幅減額はリスクが高い)も求められます。
4. 変更プロセスの適正性
本人との十分な協議
- 一方的な通知ではなく、賃金減額の理由を本人に説明し、協議の場を設けることが必要です。例えば、「1年目の評価では○○の点で改善が必要とされ、実績が低下したため給与を見直す」と説明できることが望ましいです。
合理的な通知期間
- 契約更新前に少なくとも1〜2ヶ月前には通知し、協議できる機会を提供することが望ましいです。
5. 変更後の条件の妥当性
賃金減額幅の妥当性
- 一気に大幅に下げるのではなく、業績に応じた段階的な調整が望ましいです。例えば、「次回契約更新時に30万円、その次の年に28万円」というような段階的な調整も検討可能です。
代替措置の検討
- 賃金を下げる代わりに、労働時間を短縮するなどのオプションを提示することで、柔軟な対応を図ることが重要です。
6. 過去の契約更新の実態との整合性
1年目の契約時の言及
- 初回の再雇用契約時に、「次年度以降の契約は評価に基づいて変更する」旨を明記しておくことが理想的です。
過去の同様の変更事例
- 他の再雇用者も同じ基準で給与が調整されている場合、合理性が認められやすいです。
7. 契約更新拒否(雇止め)の適法性
業務遂行能力の著しい低下
- 解雇事由に該当しないレベルであっても、契約更新を拒否できる場合があります。ただし、労働契約法19条の「更新の合理的期待」が認められる場合、雇止めは無効となる可能性があるため、慎重な対応が必要です。
他の選択肢の提示
- 「給与28万円での継続」または「業務軽減+給与減額」などのオプションを提示し、契約更新を柔軟に検討することが重要です。
まとめ
会社が社員Aの賃金を35万円→28万円へ減額するためには、上記の①〜⑦の条件をすべて満たす必要があります。特に、客観的な合理的理由、明確な賃金決定基準の事前設定、公平な基準、適切な協議と通知、減額幅の妥当性などが重要なポイントとなります。また、雇止めを検討する場合でも、「更新の合理的期待」を満たさないことを慎重に判断する必要があります。
学校法人河合塾事件(東京地判 令和3年8月5日)
予備校講師(原告)が、学校法人河合塾(被告)との間で有期契約を更新していたが、契約更新時に不利な条件を提示され、雇止めの無効を主張した事案である。裁判所は、契約ごとに条件が変更されていたため、同一条件での更新期待は認められないと判断。ただし、契約更新の期待は認められるため、雇止めの合理性が問題となった。被告の評価制度は透明性・公平性が確保され、合理的な契約管理がなされていたため、雇止めは有効とされた。
東光高岳事件(東京地判 令和6年4月25日)
本件は、定年後再雇用の労働者(原告)が、合併後の新会社(被告)から提示された賃金減額の契約更新を拒否し、雇止めされたことを巡る争いである。裁判所は、更新の合理的期待を否定し、労働条件の変更は予測可能だったと判断。また、他の再雇用者も同様の条件を受け入れていたため、原告のみ旧条件を維持することは不公平と認定。被告の賃金減額は、社内のシニア嘱託規程に基づいており、公平性が確保されていたため、雇止めは有効と判断され、原告の請求は棄却。
テヅカ事件(福岡地裁 令和2年3月19日判決)
本件は、定年後再雇用された労働者(原告)が、契約更新時に賃金の50%減額を提示されたが拒否したため、会社(被告)から契約更新を拒絶され、雇止めの無効を主張した事案である。裁判所は、過去の契約更新が形式的であり、65歳までの継続雇用の合理的期待があると判断。一方、会社の「経営悪化を理由とした賃金引下げ」は根拠が不明確であり、他の再雇用者との公平性を欠くとして、雇止めの正当性を否定した。結果として、原告の雇止めは無効とされ、契約は自動更新されたとみなされ、従前の賃金が維持されることとなった。本判例は、不合理な賃金減額を理由とした雇止めのリスクを示すものであり、企業側の慎重な対応が求められる。
雇止めの有効性を判断する際、企業が提示する労働条件の合理性は一要素として考慮されるものの、それが決定的な要素とは限らない点に注意が必要です。例えば、テヅカ事件では企業の労働条件変更の提案が一応考慮されたものの、最終的に雇止めは否定されました。このように、企業の変更提案の合理性がどの程度重視されるかの基準は判例上確立しておらず、予測が難しいのが現状です。また、労働契約法19条の趣旨からも、変更提案の合理性を中心に据えた判断基準を確立することには課題があります。さらに、「変更解約告知」の法理が裁判例として明確に確立されていないため、変更提案を雇止めの正当性の根拠とすることはリスクを伴います。今後の裁判例の動向にもよりますが、現時点では企業側が労働条件の変更提案を前提に雇止めを行うことには慎重な対応が求められます。
賃金決定制度の導入による合理的な賃金調整
雇止めを使う方法は、裁判例の傾向を踏まえると、企業にとってリスクが残り、現実的な運用が難しい部分があります。
そこで、別の方法として、再雇用者の賃金決定制度の導入という方法があります。
これにより、再雇用契約の契約更新時に、賃金額を個別に合意する必要はなくなり、会社が定めた基準に基づき、会社の裁量で決定することにより、雇止めリスクを回避することが可能となります。
1. 賃金決定制度の仕組み
本制度では、就業規則および雇用契約書において、賃金は毎年の評価に基づき決定されることを明確に定めることで、変更の正当性を確保します。
(1)就業規則への明記
賃金決定に関する規定(例)
「再雇用者の賃金は、前年度の評価に基づき決定するものとし、以下の基準に従う。」
- 評価基準および評価方法は、会社が別途定める評価制度に準じる。
- 賃金の決定は、前年度の評価結果に基づき、下表のとおりとする。
このように就業規則に明記することで、再雇用者が事前に賃金の決定基準を理解した上で雇用契約を締結することになり、賃金減額時のトラブルを抑えることができます。
(2)雇用契約書への記載
雇用契約書における賃金の定め(例)
「賃金:再雇用者就業規則第○条所定の賃金決定制度に従い、前年度の評価結果に基づいて決定する。」
このように契約書に明記することで、契約更新の際に個別の合意を得る必要がなくなり、企業が一方的に労働条件を変更する形にならないため、法19条の「更新拒否」に該当しないことが期待できます。
2. 賃金決定の具体的なルール
評価制度と賃金決定の関係を以下のように設定します。
前年度評価 | 翌年度の賃金(月額) |
---|---|
A評価 | 32万円 |
B評価 | 30万円 |
C評価 | 25万円 |
D評価 | 23万円 |
例えば、60歳時点でB評価だった場合、1年目の賃金は30万円。1年目の評価がCなら、2年目の賃金は25万円となります。
この方式を採用することで、企業側は毎年の契約更新時に「評価結果に基づき会社が決定する」という建付けで賃金を調整でき、労働条件の変更に該当せず、再雇用者の個別同意を得る必要がありません。
3. 制度導入のメリット
✅ 雇止めリスクの低減 - 企業が賃金減額を提案するのではなく、「契約時に合意したルール」に基づいて変更されるため、法19条の適用リスクを回避できます。
✅ 個別交渉不要 - 事前に定めた評価基準により自動的に賃金が決まるため、賃金交渉の手間が省け、労使間のトラブルを防げます。
✅ 再雇用者の納得感向上 - 不透明な賃下げではなく、評価基準に基づく公平な制度として受け入れやすくなります。
4. 制度設計時の留意点
(1)公正な評価制度の構築
賃金決定制度の評価基準は客観的かつ公正である必要があります。
評価方法としては、業績、勤務態度、健康状態などを指標とし、評価基準を明確に定めることが重要です。
不明確な基準では、再雇用者が「恣意的な賃下げ」と受け取るリスクがあります。
(2)同一労働同一賃金の考慮
評価基準が正社員と大きく異なる場合、待遇の合理性が問題視される可能性があります。
正社員の評価制度と整合性をとりつつ、定年後再雇用者向けに適切な評価基準を設ける必要があります。
(3)事前説明の徹底
制度を導入する際には、就業規則や契約書の内容を説明し、再雇用者が理解・納得した上で契約を締結することが重要です。
また、評価制度の運用にあたっては、透明性を確保し、不満が生じないようにする必要があります。
5. 想定されるトラブルと対応策
(1)再雇用者が減額に異議を唱えた場合
→ 「賃金決定制度に基づく変更であり、労働条件の変更ではない」と説明し、法19条の適用対象外であることを主張する。
(2)契約書の署名を拒否し、出勤もしない場合
→ 出勤命令を発し、それに従わなければ業務命令違反による解雇を検討する。
(3)賃金決定制度そのものを争う場合
→ 「制度は合理的であり、公平に適用されている」ことを立証する。
6. 結論
本対応策は、定年後再雇用者の賃金調整を合理的かつスムーズに行う有力な手段であり、法19条の問題となるリスクを最小化できます。
しかし、導入にあたっては、就業規則や雇用契約書への明確な規定、適正な評価制度の構築、事前説明の徹底が不可欠です。
特に、「再雇用時の賃金は評価制度に基づき決定される」ことを就業規則・雇用契約書に明文化し、再雇用者に十分に説明することが、スムーズな運用につながります。
企業は、専門家の助言を受けながら、透明性のある評価制度を構築し、慎重に導入を進めることが重要です。
まとめ
以下、記事の内容を踏まえ、ポイントを簡潔に整理したまとめです。
まとめ
定年後再雇用2年目以降の給与減額について、適切な対応を行うためのポイントは以下のとおりです。
1. 定年後再雇用の基本ルール
- 企業は65歳までの雇用確保義務がある(高年齢者雇用安定法)。
- 再雇用制度では、毎年の契約更新が基本となる。
- 労働条件は原則として本人の同意が必要。
2. 給与減額の可否
- 契約期間中の減額:原則不可(本人の同意が必要)。
- 契約更新時の減額:
- 本人が同意すれば減額可能。
- 同意しない場合、一方的な減額は不可。
3. 雇止めの可否
- 原則として雇止めは困難(法19条により厳しく制限)。
- 雇止めが認められる可能性があるケース:
- 業務遂行能力が著しく低下し、業務継続が困難。
- 会社の経営状況の悪化により、賃金カットが不可避。
- 合理的な評価制度に基づいた賃金減額を拒否し、業務に支障が生じた場合。
4. 雇止めを回避する対応策
- 賃金決定制度を導入し、評価制度に基づき賃金を決定する。
- 就業規則・雇用契約書に「賃金決定の仕組み」を明記する。
- 契約更新前に十分な説明・協議を行い、納得を得る努力をする。
- 同一労働同一賃金の観点を考慮し、公平な制度運用を行う。
給与減額や雇止めを適切に行うには、事前の制度設計と慎重な運用が不可欠です。トラブルを防ぐためにも、専門家の助言を受けながら対応を進めることを推奨します。