「偽装請負」とは、契約書上、形式的には請負(委託)契約であるが、実態としては労働者派遣であるものをいいます。
偽装請負は派遣法違反の法的責任が発生しますが、特に労働契約申込みみなし制度により請負企業の従業員を直接雇用しなければならないという重大なリスクがあります。派遣と適正な請負の違いは、発注企業と請負企業の労働者との間に指揮命令関係があるか否かがポイントとなります。
本稿では偽装請負とならないように、また、偽装請負をさせないためのポイントを解説します。
偽装請負とは?
内容
偽装請負とは、発注企業と請負企業との間の契約は「業務委託契約」等のタイトルが付けられ形式的には請負契約であるが、実際には発注企業が請負企業の労働者に対して直接指揮命令を行っており、実態として労働者派遣であり、法律上禁止されているものをいいます。
【具体例】
システム開発会社Aが期間限定プロジェクトの為にシステムエンジニア(SE)の人員が必要となりました。A社が直接雇用している社員(正社員、契約社員、パート社員)だけでは人員が足りず、外部からSEを労働力として調達する必要がありました。
ただ、A社としては、SEを新たに直接雇用することは人件費が固定費となるため,プロジェクトの期間限定でSEの人材を活用したいと考えました。
そこで、システムエンジニアリングサービス会社であるB社よりSEであるXを一定期間派遣してもらうことにしました。
Xは、B社に雇用され、同社から賃金が支払われますが、仕事としては、A社内に常駐して、A社の社員の指示の下にプログラミングの業務に従事しました。
B社は派遣会社としての許可を受けておらず、A社B社間では「業務委託契約」を締結しているに過ぎませんでした。
この事例におけるB社からA社へのXの派遣が偽装請負と呼ばれる典型例です。
以下、A社のように業務委託を発注する企業を「発注企業」と、B社のように請負契約名目で労働者の派遣をする企業を「請負企業」と呼んでいきます。
労働者供給事業禁止の原則
まず押さえて頂きたいのは、図①のとおり企業が、他企業が雇用する労働者を、その他企業との契約関係を介して利用することは原則として罰則付で禁止されているということです(職安法44条、64条9号)。
戦前の日本では、労働者の弱い立場を利用して、仕事をあっせんするかわりに貸金の一部をピンバネするという中間搾取が横行し、雇用責任が果たされず劣悪な労働条件で働かされるといった問題が横行していたため、これを禁止することが原則となっていりました。
例外的に許容されるのは①労働者供給事業、②派遣法に基づく労働者派遣、③適正な在籍出向、④適正な業務請負のみとなっています。
①労働者供給事業(図①)
供給元と労働者間の事実上の支配関係のもとに供給先へ労働者を供給する形態で、労働組合法による労働組合またはこれに準ずるものが厚生労働大臣の許可を受けた場合に無料の労働者供給事業として行う場合(職安法45条)に許容されます。
②労働者派遣(図②)
派遣元と派遣労働者が労働契約を締結し、派遣先は派遣元と労働者派遣契約(民事契約)を締結します。派遣先は、派遣労働者との間に契約関係はありませんが、派遣労働者に指揮命令することが可能です。
③在籍出向(図③)
出向元企業における従業員としての地位(労働契約関係)を保持したまま、出向先企業の従業員としての地位(労働契約関係)を得て、出向先企業の指揮命令に服して労務の提供する形態です。
④業務請負(図④)
業務請負は、請負企業が、請け負った業務を遂行するために、自己の雇用する労働者を発注企業の事業場において、請負企業の指揮命令のもとに労働させる形態です。
発注企業にも降りかかる!?知っておきたい偽装請負の法的リスク
偽装請負は、労働者派遣法に基づかないで労働者派遣が行われていることになることから、労働者派遣法違反となり、請負企業・発注企業とも次のような法的リスクを負います。
請負企業の法的リスク
まず、請負人は労働者派遣法違反により行政の助言・指導の対象となります(派遣法48条1項)。また、請負人が労働者派遣事業の許可を受けていた場合には、改善命令の対象となり(派遣法49条1項)、この処分に従わない場合には罰則(6月以下の懲役または30万円以下の罰金)の適用があります(派遣法60条1号)。また、請負人が労働者派遣事業の許可を受けていない場合には、許可を受けないで労働者派遣事業を行った者として、罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)の適用があります(派遣法59条2号)。
発注企業の法的リスク
発注企業(派遣先)については、請負人が労働者派遣事業の許可を受けていない場合には、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主からの労働者派遣の受入れ禁止(派遣法24条の2)に反したものとして勧告の対象となり(派遣法49条の2第1項)、この勧告に従わない場合には公表の対象となります(同条2項)。
さらに、最大のリスクは、労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的で請負契約を締結する等していた場合には、労働契約申込みみなし制度の対象となり得ます(派遣法40条の6第1項5号)。
労働契約申込みみなし制度とは、偽装請負などの違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされるという制度です。
つまり、偽装請負をした場合には、派遣先はペナルティとしてその派遣労働者(偽装請負の請負企業の従業員)を直接雇用しなければならなくなるのです。この制度が適用されれば、意図しない時期に、採用選考もしていない者を強制的に採用させられることになりますので、発注企業としては非常に困った事態となります。
偽装請負と言われない為にチェックするべきポイント
このように偽装請負となった場合に多大な法的リスクを負うことになりますので、偽装請負という違法派遣とならないように細心の注意が必要となります。では、派遣法違反を回避するために、どのような請負・業務委託形態であれば「適正な請負」と評価されるのでしょうか。
ポイントは、請負企業が自己の雇用する社員を指揮命令して直接利用すること(すなわち、発注企業が請負企業の社員を直接指揮命令して利用しないこと)にあります。
派遣と請負の区分を明確にすることを目的に発出された重要な行政通達として実務上参照されているのが「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭61年4月17日労働省告示37号、以下「37号告示」という。)です。この基準では、①請負企業が自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること、および、②請負人が受託した業務を自己の業務として独立して処理すること、の2つの大きな要件が課されています。さらに、要件ごとに細部の要件を定めています。37号告示の細部の解釈については、厚生労働省より「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準Q&A」が発出されています。
さらに具体的に適正に請負を行うためにチェックポイント整理すると以下のようになります。
契約書記載事項に関するチェックポイント
☑ 契約書の題名が「請負契約」「業務委託契約」となっている
☑ 発注企業が委託する業務内容、成果物等が具体的に特定されている。
☑ 納品時期、納品方法、検収方法等は明記されている
☑ 請負代金や業務処理報酬は明記されている
☑ その他、発注企業の指揮命令や請負企業の独立性を否定する内容の条項が契約書上記載されていないこと
適正な請負か否かは契約書上の記載のみならず発注企業と請負企業(及びその社員)との間の業務請負の実態も重視されます。契約書上のチェックポイントをクリアしただけで安心することはできません。
以下のとおり実態についてもチェックを行いましょう。
業務請負の実態に関するチェックポイント
業務の遂行方法に関する指示その他の管理
☑ 発注企業が、直接、請負労働者に対して、作業工程の変更を指示したり、欠陥商品の再製作を指示したりしていない。
☑ 作業者の個々の能力評価を請負企業自らが行っているおり、能力評価の資料等を発注企業に提出させていない
☑ 発注企業の許可、承認がなくても、請負企業の労働者が職場離脱できる(ただし、施設管理上、機密保持上の合理的理由がある場合は除く)
☑ 請負企業の作業場は明確に区分されており、発注企業の労働者と請負企業の労働者が混在することによって、発注企業が請負会社の労働者に対し業務遂行法について指示をするようなことがない
労働者の労働時間等に関する指示その他の管理
☑発注企業の就業規則を請負労働者にそのまま使用したり、請負労働者がその適用を受けたりしていない
☑個々の請負労働者の残業時間、深夜労働時間、休日労働日数の把握、確認、計算等を、発注企業が行っていない
企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理
☑労働者の指名、分担、配置等の決定を、発注企業が行っていない
☑請負労働者について、発注企業より、業務不適格者、能力不足者等の指名、指摘が行われ、その者が作業に従事することが拒否されることはない
業務の処理に必要な資金をすべて自らの責任において調達・支弁していること
☑原料、部品等を発注企業から無償で提供されていない
☑出張交通費の実費を発注企業の旅費規程によって直接請求していない
業務の処理について、民法・商法その他の法律に規定された、事業主としてのまったくの責任を負っていること
☑労働安全衛生の確保に関する責任は請負企業が負っている
単に肉体的な労働力を提供するものとはなっていないこと
①処理すべき業務を、請負企業の調達する設備・機器・材料・資材を使用し処理している(発注企業が設備等を調達する場合は、無償で使用していないこと)
②処理すべき業務を、請負企業独自の高度な技術、専門性等で処理していること
☑請負労働者の欠勤、休暇、遅刻等による作業時間の減少等に応じて請負代金が減額する定めとなっていない
最後に
業務委託の形態で他企業が雇用する労働者の労働力を利用する場合には、上記チェックリストを参考に、まず業務委託として適正に実施できる業務か否かを確認した上で、請負企業の社員が発注企業の指揮命令を受けることなく十分に業務遂行ができる体制を構築してから、業務委託をするようにすべきです。
偽装請負となる可能性がある場合は、無理に業務請負とせずに、労働者派遣に切り替えることも柔軟に検討するべきです。