有期雇用契約を更新する場合の手続・スケジュール・流れ、雇止めを可能にするための注意点、更新に際して労働条件を不利益に変更する方法について労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。
更新に際して労働条件を不利益に変更する方法
リスクを回避する書式・ひな形
1 全体の流れ・スケジュールを知る
まずは、全体の流れを確認しましょう。以下のような流れとなります。
各段階について説明していきます。
2 就業規則・雇用契約書の更新規定の確認
まずは、有期雇用契約に関する就業規則及び雇用契約書の更新規定を確認します。
更新の基準、更新時の条件設定方法などについて、定めがあるかを確認します。
なお、更新について「期間満了2ヶ月前までに労使いずれかより不更新の申出がない場合は、同一の条件で更新する」「解雇事由に該当する場合その他それに準ずる場合以外は、同一の条件で更新する」といった規定がある場合は要注意です。
いずれも規定された基準・要件を満たせば、自動的に「契約更新」の効果が発生することになってしまいます。
また、この定め方ですと、有期契約労働者が長期雇用(更新)の期待を持ちますので雇止めをする場合に支障が生ずる可能性が高まります。
さらには、契約更新時に労働条件を変更する場合の支障にもなりかねません。
このような規定がある場合は、就業規則の変更によって規定を改めるべきでしょう。
第○条 会社は契約更新にあたり、会社の経営状況、業務内容、当該有期契約職員の能力・成果・勤務成績などを考慮して契約条件の見直しを行うこととし、更新時に提示する労働条件は更新前の内容とは異なることがある。
3 更新用の労働契約書の準備
更新する場合は、労働条件を明記した雇用契約書を準備します。
また、更新後の労働条件を変更する場合は、その旨を明記するとともに、特に不利益に労働条件を変更する場合はその理由を説明できるように準備をします。
4 面談して意向の確認・契約内容の説明
本人と面談し、まずは更新の意向を確認します。
タイミングとしては、ゆとりをもって契約更新の2~3ヶ月前に行うべきです。
本人が更新しないことを表明する場合は、期間満了で契約は終了し退職となります。
更新の意向がある場合は、更新後の具体的な労働条件について説明を行います。
特に労働条件を不利益に変更する場合は、その理由や事情を説明して了解を得るように努めます。
具体的には、次のような書面を交付して、意向の確認や更新後の労働条件の内容を説明します。
不利益に変更する場合は、変更点について、変更前・変更後が分かるように説明するとベターです。こうすることで、後になって「変更について理解せずにサインをした」などという主張を潰すことができます。
更新満了前4~6ヶ月前に行う意向確認書
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更新満了前2~3ヶ月前に行う契約更新案内
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5 有期雇用契約の更新時に労働条件を不利益に変更する場合の注意点
5.1 変更契約締結の流れ
有期雇用契約を更新する場合に、従前と同一の労働条件で更新する場合は問題はありません。
では、賃金額を下げたり、労働日数や労働時間を減らして(日給制や時給制の場合は賃金減額につながる)、有期雇用契約を更新することはできるのでしょうか?
結論としては、労働条件を変更して有期雇用契約の更新をすることは可能です。
ポイント
- 契約期間の2~3ヶ月前に労働条件を変更した雇用契約書を提示する
- 変更内容と変更の理由(特に労働条件が不利益に変更となる場合)を説明する
- 更新の雇用契約書を締結した場合は、更新後の就労を認める
- 更新の雇用契約書を締結を拒否した場合は就労させない
5.2 変更内容を労働者が争った場合の法的整理
使用者側が労働条件を変更した更新契約を提示したことに対して、労働者側が労働条件の変更を不満で従前と同一の条件での契約更新を求め、結局、雇用契約再締結に至らないという場合があります。
この場合、契約締結に至らず雇用契約は終了するだけなのか、雇止め法理(労働契約法19条)が適用される場合があるのか、が問題となります。
雇止め法理の適用要件(労働契約法19条1号・2号が定める要件)を満たさない場合
この場合は、有期雇用契約は期間満了にて当然に終了することになります。
雇止め法理の適用要件(労働契約法19条1号・2号が定める要件)を満たす場合
この場合は、有期雇用契約は期間満了によって当然には終了しません。
この場合は、労働者が従前の有期雇用契約と同一の条件で契約更新を申込みをしたのに対し、使用者が新たな労働条件(労働者にとって不利益な労働条件)の提案を行うことによって労働者の申込みを拒絶したことになり、使用者による雇止めがなされたと評価されます。
つまり、労働契約法19条柱書の適用要件が満たされることになりますので、雇止めの合理的理由・社会的相当性がなければ、従前の有期労働契約と同一の労働条件で契約が更新されたことになります。
もっとも、雇止めの合理的理由・社会的相当性の審査の中で、使用者の行った労働条件変更の事情は考慮されます。
例えば、業績が悪化し、業務量も減少したため、労働日数や勤務時間の減少の必要性や賃金の減額の必要性もあります。その場合に、更新契約で、労働日数や勤務時間の減少、時給の減額が社会的に相当といえる場合には、従前と同一条件による更新の申込みを拒絶しても合理的理由・社会的相当性がないとはいえないので、労働契約法19条は適用されず、契約は終了となります。
※『詳説労働契約法(第2版)』(荒木尚志・菅野和夫・山川隆一著、2014、弘文堂)220ページ以下参照
5.3 異議留保付き承諾を行った場合
当該社員が、変更された有期雇用契約に書名捺印をしたものの、別文書にて「引き下げられた労働条件について争う権利を留保しつつ会社の提示した労働条件の下で就労することを承諾する」旨会社へ通知した場合はどうなるでしょうか。承諾に異議を留保していますので、異議留保付き承諾と呼ばれますが、この場合、有期雇用契約が更新されるのでしょうか?
まず、使用者にて変更された労働条件による雇用契約の締結を提示します(契約の申込み)。
これに対し、労働者が異議留保付き承諾を行った場合は、民法528条により、使用者の変更契約の申込みを拒絶し、新たな(従前と同一の条件での)更新契約の申込みをしたことになります(日本ヒルトンホテル事件〈東京高判平14・11・26〉など)。
②の労働者の従前と同一条件での更新契約申込みを、使用者が「変更した有期雇用契約を締結しない場合は契約更新がなされないので就労させない」と拒絶した場合は、この使用者の拒絶が雇止めを評価されます。
そして、前記5.2のとおり、雇止め法理が適用される状況(労働契約法19条1号又は2号に該当する場合)の場合は、当然には雇用契約は終了せず、合理的理由・社会的相当性が認められない場合は、同一条件での契約更新が認められることになります。
なお、異議留保付き承諾を行っても、もともとの「有期雇用契約の契約更新の申し込み」とは言えない場合は、労働契約法19条は適用されません。
語学学校を運営する会社と有期労働契約を繰り返し締結していた非常勤講師らが、会社から新しく提示された「新しい時給表を適用する無期労働契約」に対して、概要として、「契約期間が無期であることは受け入れるが、新しい時給表の適用については留保して承諾する」と明示して労働契約書に署名捺印し、その後も勤務を継続しながら、旧時給表に基づく報酬を受けるべき雇用契約上の権利を有するとして、地位確認や差額賃金の支払いを求めた事案で、裁判所は、「期間の定めのある雇用契約と次の期間の定めがある雇用契約が接続した雇用契約の再締結を意味するところ、以上のような原告らの新たな申込みは、期間の定めがある雇用契約の申込みではなく、期間の定めがない雇用契約であるから、同条にいう更新の申込みには当たらない」として、労働契約法19条の適用を否定した。なお、「異議をとどめた承諾」の法的性質については、「本件新無期契約の締結に応じた」ものであり、「新たに旧時給表の適用の申込みをしたもの」と判示しました。
5.4 更新時に条件変更がありえることを労働契約書に規定するべき
更新時に条件変更が想定される場合には、前記のように就業規則に定めを置くほか、個別の労働契約書や労働条件通知書にも以下のような規定を設けてください。
これにより契約更新時に「従前と同一条件による」契約更新の合理的期待は低減されると解されます。
また、会社側にて「同一条件での更新となります」などといった同一条件での更新の期待を持たせる言動は避けるべきです。
6 労働条件が未確定の状態で就労させない
必ず契約書の締結がなされた上で勤務させてください。
契約書が未締結の状態で勤務させると、民法629条により「黙示の更新」があったものと推定されてしまう可能性があるからです。
また、変更した労働条件に関するトラブルを抱えたまま、その後の契約更新を迎えることになってしまうからです。
雇止めについては労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
雇止めについては、労働者の雇用契約上の地位を失わせるという性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。
判断を誤った場合や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より地位確認・未払賃金請求等の訴訟を起こされるリスクがあります。会社に不備があった場合、復職や過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。
また、解雇をきっかけに労働組合に加入をして団体交渉を求められる場合があります。
このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。
しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。
リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには、労務専門の弁護士に事前に相談することとお勧めします。
労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート
当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。
労務専門法律相談
専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。
コンサルティング
会社は限られた時間の中で雇止めを適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
コンサルティングにより、雇止めの準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、雇止めに至るまでの注意指導書、弁明聴取書、雇止め通知書、雇止め理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。
労務専門顧問契約
人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応、労働時間制度や賃金制度についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した雇止め問題についても、準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、注意指導書、弁明聴取書、雇止め通知書、雇止め理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。
詳しくは
労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。