19条2号該当性に関しては,有期労働契約とした目的の合理性の有無・程度,労働者の期待が重要となる。
労契法19条2号は,雇用継続に対する合理的期待が有期労働契約の期間満了時に必要としている
1 「契約更新につき合理的な期待が認められる場合」の判断要素
労契法19条2号の要件
労契法19条2号は,雇用継続に対する合理的期待が認められる場合を規定しています。
労契法19条2号
当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
これは期待保護タイプとして分類されてきた日立メディコ事件(最一小判昭61・12・4 労判486号6貢参照)が示した要件を明文化したものと理解されています(平24・8・10基発0810第2号「労働契約法の施行について」第5の5(2)イ)。
この要件をもう少しわかりやすく説明しますと、期間の定めが明確で,更新手続も適正に行われ,期間の定めのない契約と同一視することはできないが,雇用継続の合理的期待利益を法的に保護すべきと判断される場合ということができます。
判断の要素
この判断は、(1) 更新の回数,雇用契約の通算期間、(2) 更新時の手続の厳格性の程度、(3) 契約内容、(4) 従事している業務内容、(5) 職務上の地位、(6) 採用面接時や雇用期間中の説明状況、(7) 他の有期雇用労働者に対する対応、などの要素を総合考慮して,個々の事案ごとに行われます。
(1) 更新の回数,雇用契約の通算期間
有期労働契約の更新回数が多くなればなるほど,また,雇用の通算期間が長くなればなるほど,雇用の継続性が相対的に強く想定されることになります。そのため,労働者は,その程度に応じて更新に対する期待を抱くことが想定されます。
(2) 更新時の手続の厳格性の程度
更新のつど,更新に先だって当事者間で労働契約書がきちんと作成されていたか,その作成の際にきちんとした更新に関する説明が使用者から労働者に行われていたかなどです。
仮に更新時の手続がルーズ,例えば,使用者側から事前に更新に係る説明がなく,労働契約書の作成も期間満了後になされるなどであれば,使用者は,有期と定めたその期間をもって労働者を雇止めする意思について,希薄であると推察されます。他方,労働者は,更新について,合理的期待を抱くことになります。
反対に、更新時に,更新に関する手続が使用者により厳格になされていると,当該労働者は,更新に係る契約内容(期間)についても確定したものとして認識する可能性が高くなります。
(3) 契約内容
労働契約書には,更新の有無,更新判断の基準等を記載すべきことが要請されています(平15・10・22厚労省告示第357号)。
しかし,実際にはそのような明確な記載がない場合も多く,記載内容によっては更新について合理的期待を抱かせてしまう可能性があります。
- 具体例はこちら
- ①単に「更新することがある。」旨記載されている場合
その記載から更新されることが例外的であると制限的に解釈される場合もあります。しかし,その労働契約の周辺的事情,例えば,当該労働者,その他の労働者の更新状況からして更新されるのが原則的扱いである場合には,労働者の更新に対する合理的期待について妨げとなるまでのことはない。
かえって,契約書の中であえて更新に言及したものとして,更新に対する合理的期待のプラス要因と評価される可能性もあります。
②「非違行為がない限り更新する。」旨記載されている場合
この場合は文言記載から更新されない場合は非違行為があった場合等,例外的な場合と解釈されます。そのため,労働者には,原則として更新されるとの強い期待を抱かせるものと評価されます。
③「期間の上限が3年で,その間は更新することがある。」旨記載されている場合
この場合は①と同様の「更新することがある。」旨の記載があります。しかし、雇用期間の上限記載を踏まえると,その全体の記載からは少なくとも労働者が雇用の上限期間内は更新されるとの期待を抱く記載と評価できる可能性が高いといえます。
ところで,使用者は,有期労働契約を締結する場合,更新に係る基準に関する事項を提示しなければならない(労基則5条1項1号の2)とされています。上記のように同基準に関する事項が不備な場合,あえてその明示をしなかったとして,使用者にマイナスの考慮要因として働く余地があります。
(4) 従事している業務内容が恒常的か臨時的か
当該労働者が従事している業務が恒常的のものである場合,その基礎となる労働契約は業務の性質上,継続性があると想定されることが多い。したがって,恒常的な業務への従事は,当該労働者をして更新に対する合理的期待を抱かせる要因となりえます。
他方,臨時的な業務に従事している当該労働者の場合,その期待はかなり限定化されたものになると考えられます。
(5) 職務上の地位
有期労働契約の場合でも,当該労働者が主任,班長,店長等の一定の責任のある地位や正社員と遜色のない地位(通常,その地位は正社員が就いている場合も含む。)に就いている場合があります。そのような地位に就いている場合,当該地位に就いている労働者の雇用は,基本的には継続性が想定されていることが多いといえ、更新について合理的期待を抱かせる要因となりえます。
(6) 採用面接時や雇用期間中における労働者に対する説明状況
採用面接担当者や採用後の上司等の当該労働者に対する更新に関する言動が問題となります。 というのも、有期労働者の勤労意欲をかきたてるために、上司等が更新のことを持ち出すことはよく見られるからです。
そのような場合,説明をした人の職責,地位,説明内容,説明場所等を考える必要があります。当該労働者から見て,更新について,決定権限をもっていると,また,更新について影響力をもっていると認識するのが相当と思われる人が労働者に対して更新について期待を抱かせるような内容の言動をすれば,当該労働者は,通常,更新について合理的期待を抱くことが想定されます。
しかし,労働者と同じ現場作業等で働いている同僚ともいうべき人,たとえ正社員であっても現場の更新について影響力のない上司がそのような話をしたにすぎない場合は,同内容の言動があったとしても,当該労働者の更新に対する合理的期待にはそれほど影響はないといえます。
(7) 同種の業務についている他の有期雇用労働者に対する措置、対応
同種の業務についている他の有期雇用労働者について,自己都合により退職する場合や非違行為をして期間満了で労働契約が解消されてもやむを得ないとされる場合を除いて、例外なく労働契約が更新されているような状況がある場合があります。その場合、非違行為等の事由がない有期雇用労働者は,通常,更新に対する合理的期待を抱くことが想定されます。
労働契約法19条2号の要件との関係で重視される要素
基本的な考え方
これまでの裁判例は上記諸要素を考慮して合理的期待の有無を審査していますが,その判断プロセスとしては,雇用に期間設定した当事者の意思との関係で労働者の雇用継続に対する期待をどこまで保護するか,言い換えると,有期労働契約とした目的の合理性の有無・程度と,労働者の雇用継続に対する期待の有無・程度の相関関係の中で,雇用継続に対する合理的期待の有無を審査し,雇止め法理の適用の有無を判断していると考えられます。
有期労働契約とした目的の合理性の有無・程度
まず,有期労働契約とした目的の合理性の有無・程度の側面から考察すると,季節により労働力需要に変動がある業務,あるいは特定の物の製作業務など業務に臨時性がある場合は,有期労働契約とした目的に合理性があり,その反面雇用継続に対する期待は必ずしも高いとはいえません。
他方で基幹性がある業務について,雇用を打ち切りやすくするだけの名目的な有期労働契約の場合であれば目的に合理性はなく,むしろ雇用継続に対する期待を保護することとなります。
もっとも,同じ基幹性のある業務でも,会社都合とはいえ,景気の変動により受注量が増加し正社員の残業では対応できないため,受注量が減少するまでの間に限り従事させる前提で更新を予定して有期労働契約を締結している場合や,操業開始から間もない時期で必要人員の予測がつかないために有期労働契約とする場合等は必ずしも目的に合理性がないとはいえません。また,労働時間・業務内容・勤務場所等の労働条件を柔軟に設定するための有期労働契約のように労働者側の都合もしんしゃくして有期労働契約を選択している場合は目的に相応の合理性があり,その反面雇用継続に対する期待は必ずしも高いとはいえないこともある。
労働者の期待
労働者の雇用継続に対する期待という側面から考察すると,これまでの更新回数や通算勤続年数が相当程度に達していること,勤務実態が正社員と同様であること,使用者から雇用継続に対する期待をもたせるような言動があること,定年や更新回数の上限の定めのように期間満了後の雇用継続を予定した制度があること,他に期間満了で雇止された事例が存在しないこと,更新の際に契約書をとり交わさないなど更新手続がルーズであること,以前は無期労働契約でありそれが途中で有期労働契約に変更した経緯があること等の事情があれば,労働者の雇用継続に対する期待を生じさせることとなろう。
雇用継続に対する合理的期待はどの時点を基準に判断するか?
労契法19条2号は,雇用継続に対する合理的期待が有期労働契約の期間満了時に必要としています。
しかし,期間満了時に合理的期待があるか否かは,最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されます。
そこで,いったん労働者が雇用継続に対して合理的期待を抱く状況にあった場合,期間満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限等を一方的に宣言しても,それのみをもって合理的期待が否定されるものではありません(平24・8・10基発0810第2号「労働契約法の施行について」第5の5(2)ウ)。
また,初回の労働契約締結時に不更新特約や更新上限を設定したとしても,雇用継続中に生じた他の事情によって合理的期待の発生が認められることもあります。
2 雇用継続の合理的期待に関する具体例
抽象的な説明になってしまいましたので、裁判例を素材に具体的に見てみましょう。
日立メディコ事件(最一小判昭61・12・4 労判486号6貢参照)
結論
「雇用関係はある程度の継続が期待され」ているから,雇止めに際しては,「解雇に関する法理が類推され,解雇であれば解雇権の濫用,信義則違反……に該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとするならば,期間満了後……は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる」と判断し,有期労働契約の更新を肯定した。
要素 | 判決で認定された事実 |
---|---|
(1) 更新の回数,雇用契約の通算期間 | 2か月の有期雇用を5回更新 |
(2) 更新時の手続の厳格性の程度 | 更新のつど本人意思を確認する手続がとられていた |
(3) 契約内容 | 本工と同様 |
(4) 従事している業務内容 | 単純作業 |
(5) 職務上の地位 | |
(6) 労働者に対する説明状況 | |
(7)他の有期雇用労働者 |
三洋電機事件・大阪地判平成3・10・22労判595号9頁
結論
雇用継続への期待利益の強さを認め,特段の事情がない限り期間満了後も雇用の継続を予定していたとして解雇権濫用法理の類推を認めた(雇止め否定)
要素 | 判決で認定された事実 |
---|---|
(1) 更新の回数,雇用契約の通算期間 | 労働契約を2~6回更新 勤続年数が長い |
(2) 更新時の手続の厳格性の程度 | 契約更新が事業部長の決定によるなど厳格な手続で実施 されてきた |
(3) 契約内容 | |
(4) 従事している業務内容 | 事業遂行上必要不可欠の業務に組み込まれ,長年勤務してきたこと |
(5) 職務上の地位 | 定勤社員が期間2か月の臨時社員として2年以上勤務してはじめて得られる資格であること |
(6) 労働者に対する説明状況 | |
(7)他の有期雇用労働者 |
その他
土田765~参照
初回の更新でも労契法19条2号は適用されるか?
労契法19条2号の合理的期待は契約の更新回数のみならず,それ以外の事情も考慮されます。
例えば,契約締結時における使用者の言動,職場における更新の実態,更新回数の上限の定めの存在等から,あたかも再雇用特約が暗黙の了解として存在する場合など,当初から更新に対する合理的期待が認められる場合も考えられます。
よって,初回の更新でも労契法19条2号が適用される余地はあります。
参考記事
雇止めの進め方
雇止めの進め方の書式は
雇止めについては労務専門の弁護士へご相談を
弁護士に事前に相談することの重要性
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労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。
平24・8・10基発0810第2号「労働契約法の施行について」第5の5
5 有期労働契約の更新等(法第19条(平成25年4月1日前は法第18条。以下同じ。)関係)
(1) 趣旨
有期労働契約は契約期間の満了によって終了するものであるが、契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであり、有期労働契約の更新等に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、雇止めに際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要がある。
このため、法第19条において、最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)を規定し、一定の場合に雇止めを認めず、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなすこととしたものであること。
(2) 内容
ア 法第19条は、有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合(同条第1号)、又は労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合(同条第2号)に、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、したがって、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が同一の労働条件(契約期間を含む。)で成立することとしたものであること。
イ 法第19条は、次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。
法第19条第1号は、有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝柳町工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。
また、法第19条第2号は、有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示した日立メディコ事件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。
ウ 法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるものであること。
なお、法第19条第2号の「満了時に」は、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。