よって,初回の更新でも労契法19条2号が適用される余地はあります。
初回の更新でも労契法19条2号が適用される余地はある。
1 初回の更新でも労契法19条2号は適用されるか?
労契法19条2号は同条1号とは異なり過去の反復更新を要件とはせず,更新に対する合理的期待が要件とされていますが,契約更新がなされた回数はその合理的期待の有無の重要な判断要素の一つとなっています。
もっとも,雇用継続に対する合理的期待は契約の反復更新以外の事情でも生じ得ます。例えば,契約締結時における使用者の言動,職場における更新の実態,更新回数の上限の定めの存在等から,あたかも再雇用特約が暗黙の了解として存在する場合など,当初から更新に対する合理的期待が認められる場合も考えられます。
2 具体例
法改正前の裁判例でも,臨時雇運転手について,制度創設以来自己都合で退職するもの以外は継続雇用され,正社員に欠員が出た場合は正社員に登用されてきたという事情がある場合,初回の更新拒否でも雇用継続に対する合理的期待を肯定し,更新拒否は信義則上許されないとしたものがあります(龍神タクシー(異議)事件 大阪高判平3・1・16労判581号36貢)。
また,更新の実績がなくても雇用継続に対する合理的期待を肯定して解雇権濫用法理の類推適用を認めた裁判例がありまする(福岡大和倉庫事件 福岡地判平2・12・12労判578号59頁)。
他方で,契約更新が繰り返されていても,必ずしも雇用継続に対する合理的期待が生じているとは限りません。例えば,当初契約締結時に更新の上限が明確に定められ,運用上もこれが遵守されている場合等が考えられる。以上から,更新の回数は合理的期待の有無を判断する一要素にすぎず,その他の要素から合理的期待を認めることは可能です。
なお,初回の契約期間満了を理由とする雇止めの効力が争われている場合でも,その実態を考察すると,その期間が試用期間であると認定でき,試用期間であることを前提として雇止めの効力を否定し,本採用の拒否(留保解約権の行使)が許ざれるとするのが相当な事案もあるため(最三小判平2・6・5民集44巻4号668貢・労判564号7貢〔神戸弘陵学園事件〕),注意を要すします。
対応方法
雇止めの進め方は下記の記事をご参照ください。
社長当社は中小の電子部品メーカーですが、製造工員としてYを期間半年間と定めて嘱託社員として雇用し、以降4回の契約更新を経ました。しかし、2022年2月からの世界的な原材料費の高騰、半導体不足、部材供給の遅延などが原因で取引先[…]
参考裁判例
龍神タクシー(異議)事件
大阪高判平3・1・16労判581号36頁
臨時雇運転手について,制度創設以来自己都合で退職するもの以外は継続雇用され,正社員に欠員が出た場合は正社員に登用されてきたという事情がある場合,初回の更新拒否でも雇用継続に対する合理的期待を肯定し,更新拒否は信義則上許されないとした例
福岡大和倉庫事件
福岡地判平2・12・12労判578号59頁
更新の実績がなくても雇用継続に対する合理的期待を肯定して解雇権濫用法理の類推適用を認めた例
神戸弘陵学園事件
最三小判平2・6・5民集44巻4号668頁・労判564号7頁
初回の契約期間満了を理由とする雇止めの効力が争われている場合でも,その実態を考察すると,その期間が試用期間であると認定でき,試用期間であることを前提として雇止めの効力を否定し,本採用の拒否(留保解約権の行使)の問題となるとされた例