契約社員の退職拒否

雇止めが許されない場合とは?

社長
契約社員は契約期間満了をもって退職になるものと思っていました。しかし、契約期間満了で更新しない(雇止め)ことは許されない場合があると聞きました。どのような場合に雇止めが許されないのでしょうか?条件やその基準はあるのでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
有期雇用契約であっても、正社員と同様の内容の業務に就いていた場合や、更新を何回も続けて相当長期間にわたって働いていた場合、あるいは、「ずっと働いて欲しい。」と言われていた場合など一定の条件があれば、雇止めをしたとしても,法律(労働契約法第19条)の適用により契約が更新される場合があります。一般的には①仕事の内容が臨時的・補助的か,基幹的か,②更新の回数,③雇用の通算期間,④更新手続が形式的・ずさんであるなど契約期間管理の状況,⑤雇用継続の期待を持たせる言動や制度の有無,⑥労働者の継続雇用に対する期待などを総合考慮して決められます。
労働契約法第19条が適用される場合,雇止めは認められない。
労働契約法第19条の適用は,①業務内容が臨時的・補助的か,基幹的か,②更新の回数,③雇用の通算期間,④更新手続が形式的・ずさんであるなど契約期間管理の状況,⑤雇用継続の期待を持たせる言動や制度の有無,⑥労働者の継続雇用に対する期待などを総合考慮して決められる。

1 雇止めは原則として許される

期間の定めのある雇用契約は、契約の期間が満了すれば当然に終了するのが原則です。有期雇用契約の更新は新たな契約の締結ですので、更新するか否かは当事者が自由に決められます。これが法律(民法)の原則ですので押さえておいていただきたいポイントになります。

ところが、この法律の原則は、我が国の裁判例によって修正されました。

すなわち、何回も契約の更新を行い,雇用された期間も長期におよび,業務内容も正社員と変わらず,契約更新も新しい契約書の取り交わしなどをしていないような場合,労働者は「契約期間は一応定められているが、契約はこのまま更新されて続くのだろう」と期待することがあります(雇用継続の期待)。

そして,このような雇用継続の期待は法的に保護される場合があり,場合によっては期間満了で契約を終了させる(雇止めをする)ことが出来なくなる場合があるのです。

このように雇用継続の期待が法的に保護されて雇止めを制限する理屈を雇止め法理といい、労働契約法19条で保障されています。

裁判例が立法化
もともと雇止めは法律で規制されていませんでした。しかし、正社員と同様の内容の業務に就いていた場合や、更新を何回も続けて相当長期間にわたって働いていた場合、契約更新の手続が形骸化していた場合は、労働者が契約更新がされるとの期待を抱くのが合理的といえ、単に契約期間満了という事実のみで契約を終了させるのは,労働者の地位が不安定になりすぎるとして,雇止めを制限する裁判例(いわゆる雇止め法理が多数出されていました。雇止法理が適用されると、雇止めをするには、正社員における解雇に準じた理由を要求されるようになり、期間満了だけを理由に雇止めをすることが出来なくなったのです。この雇止め法理は、ついには法律の中に取り込まれ、労働契約法は平成24年の改正で雇止めに関する裁判例の規範を労働契約法第19条において立法的に取り込みました。

2 雇止め法理

では、どのような場合に労働契約法第19条が適用されるのでしょうか?その要件及び効果が問題となります。

労働契約法第19条の要件

労働契約法19条は次のとおりの要件及び効果を定めます。

要件
① 雇止め法理が適用されること(19条1号・2号)
1号 反復更新により実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合

2号 契約更新につき合理的な期待が認められる場合
② 労働者からの雇用継続の申込み

③ 雇止めの客観的合理的理由・社会的相当性の欠如の有無
効果
使用者は従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす

①から③の要件について、もう少し詳しく見ていきましょう。

フローチャート_雇止めの可否

①-1 実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合(19条1号)

労働契約法19条1号は,有期労働契約が期間の定めのない労働契約と実質上異ならない状態を規定しています。

この要件をもう少しわかりやすく説明しますと、有期雇用の反復更新によって期間の定めが形骸化し,実質的に期間の定めのない労働契約と異ならない状態になったと判断される場合を意味します。

この判断は、(1) 更新の回数,雇用契約の通算期間、(2) 更新時の手続の厳格性の程度、(3) 契約内容、(4) 従事している業務内容、(5) 職務上の地位、(6) 採用面接時や雇用期間中の説明状況、(7) 他の有期雇用労働者に対する対応、などの要素を総合考慮して,個々の事案ごとに行われます。特に「当然更新の意思」及び「実際に更新がなされているという事実」が重要です。

労契法19条1号を詳しく解説

期間の定めのない労働契約と実質上異ならない(労契法19条1号)とは?

①-2 契約更新につき合理的な期待が認められる場合(19条2号)

労契法19条2号は,雇用継続に対する合理的期待が認められる場合を規定しています。

19条1号は実質的に無期契約と同視できる場合ですのでかなり限られた場合にしか認められません。これに対して、2号の要件は雇用継続の期待を持つことが合理的な場合に認められますので、1号に比べ認められやすい要件となっています。実務的にも雇止めが問題になる事案はほとんどが2号の要件の該当が問題となっています。

2号の要件をもう少し説明しますと、期間の定めが明確で,更新手続も適正に行われ,期間の定めのない契約と同一視することはできないが,雇用継続の合理的期待利益を法的に保護すべきと判断される場合ということができます。

この判断は、(1) 更新の回数,雇用契約の通算期間、(2) 更新時の手続の厳格性の程度、(3) 契約内容、(4) 従事している業務内容、(5) 職務上の地位、(6) 採用面接時や雇用期間中の説明状況、(7) 他の有期雇用労働者に対する対応、などの要素を総合考慮して,個々の事案ごとに行われます。

特に、有期労働契約とした目的の合理性の有無・程度と,労働者の雇用継続に対する期待の有無・程度の相関関係の中で,雇用継続に対する合理的期待の有無を審査し,雇止め法理の適用の有無を判断することになります。

労契法19条2号を詳しく解説

契約更新につき合理的な期待が認められる場合(労契法19条2号)とは?

①-3 不更新条項を定めれば雇止めは常に認められるか?

上記のような労働契約法第19条1号・2号の適用を回避する為に,使用者が有期雇用契約書に「契約を更新しない」旨のいわゆる不更新条項を定め、その契約書に労働者の署名捺印を求めることがあります。

このような不更新条項付き契約書に署名捺印させた場合は、更新しないことに同意したとして,雇止めは有効となるのでしょうか。

この点、有期労働契約で,不更新条項付き契約に労働者の署名捺印を得たとしても必ずしも雇止めが有効になる訳ではありません。

たしかに、契約締結の最初から不更新条項を付けている場合は契約更新に対する期待がないとして労働契約法19条1号・2号に該当しないと認められやすいのは事実です。

特に、最初の契約の時点で、不更新条項や更新上限条項(「更新は最初の契約から通算3年を限度とする」など)を定めていれば、労働者もそれを前提としていますので、雇用継続の期待は認められず、労働契約法19条1号・2号に該当する可能性はかなり下がります。

しかし、最初の契約では不更新条項がついていなかったのに、途中の契約更新時に不更新条項付き契約を締結した場合,雇用継続への期待の有無は慎重に判断されます。後付けで不更新条項をつけても、ひとたび発生した雇用継続の期待はなくならないと考えられるのです。

もっとも、途中の契約更新の段階で不更新条項と追加する場合であっても、労働者にメリットを与えて同意を得れば、労働契約法19条の適用が回避できる場合もあります。

不更新条項については詳しくは

有期雇用契約の不更新条項により雇止めはできるか?

② 労働者からの雇用継続の申込み

上記①の要件が満たされた場合であっても、自動的に契約が更新されるのではなく、労働者からの雇用継続の申込みが必要とされています。

労契法19条柱書は,その適用要件として,労働者による雇用継続中の「更新の申込み」又は期間満了後の「遅滞なく有期労働契約の締結の申込み」を要求しています。
更新の申込み」又は「締結の申込み」あるといえるためには,書面によって何らかの意思表示をした場合はもちろん、使用者の雇止めに対して労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わればよい(書面によらなくてもよい)とされています(同施行通達第5の5(2)エ)。
契約継続の申込みの内容
①契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合

又は
②契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合

詳細は、こちらの記事をご参照ください。

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有期雇用契約更新申込書

雇止めの客観的合理的理由・社会的相当性の欠如の有無

要件①・②を満たした場合は、最後に、雇止めの合理的理由・社会的相当性が審査されます。

すなわち、雇止めに「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」には雇止めは許されず,契約更新が法律上認められると定められています(労働契約法19条)

では、どのような理由があれば、雇止めが認められるのでしょうか。

まず、一般論として、雇止めの理由は、正社員の解雇の場合の理由よりは緩やかに認められます。正社員の解雇ほどには厳しい規制は受けないということです。

そして、勤務態度不良,健康状態,不正行為,職務不適格等を理由とする雇止めの理由は緩やかに認められており,正社員の解雇のような手厚い解雇回避努力義務を要求されていません

また、有期契約労働者の能力不足を理由とする雇止めの場合は,勤務成績の評価が公正に行われたかが綿密に審査され,能力不足の立証もないまま行われた雇止めは違法と評価されます。また,適切な指導・研修によって労働者の能力・成績・勤務状況の改善が見込まれるにもかかわらず雇止めがなされた場合も違法と評価されます。しかし、そうした指導が奏功せず,能力等の向上が期待できない場合の雇止めは許されます

雇止めの合理的理由・社会的相当性については

どの程度の理由があれば雇止めができるか?

3 有期雇用契約の5つのタイプ

以上の要件とは別に、労働契約法第19条の適用の検討の前提として,有期雇用契約は以下の5つのタイプに分類して検討することも有益です。

①純粋有期契約タイプ

契約期間の満了によって当然に契約関係が終了する場合です。この場合,期間満了により当然終了し労契法19条が適用される余地はありません。

②実質無期契約タイプ

期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると認められる場合です。これは労働契約法第19条同条1号に該当する場合です(東芝柳町工場事件 最一小判昭49・7・22・労判206号27貢参照)が,あくまで有期労働契約であることを前提に雇止めを許さないものであり,無期労働契約に転化しているわけではありません。

③期待保護(反復更新)タイプ

相当程度の反復更新の実態から雇用継続への合理的な期待が認められる場合です。②の実質無期契約タイプとまではいえないが,契約の反復更新等の事情により,労働者に雇用継続に対する期待をもたせる状況があると認められる場合であり,労働契約法第19条条2号に該当します(日立メディコ事件 最一小判昭61・12・4 労判486号6貢参照)。

④期待保護(継続特約)タイプ

格別の意思表示や特段の支障がない限り当然に更新されることを前提に契約を締結したものと認められる場合です。②実質無期契約タイプとまではいえないが,特別の事情がない限り契約を更新する旨の合意の存在を認定できる場合など雇用の継続に対する期待が認められる場合です(この場合の期待は契約の反復更新以外の事情により生じているため,契約締結の当初,あるいは更新回数が少ない段階でも期待が存在します。)。労働契約法第19条2号に該当します(龍神タクシー(異議)事件 大阪高判平3・1・16労判581号36頁参照)。

⑤無期契約タイプ

そもそも労契法19条の問題ではなく,むしろ解雇権濫用法理を明文化した同法16条が適用されることになります。

雇止めの進め方

有期雇用契約_雇止め_流れ

雇止めの進め方や書式はこちら

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雇止めについては労務専門の弁護士へご相談を

弁護士に事前に相談することの重要性

雇止めについては、労働者の雇用契約上の地位を失わせるという性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。

判断を誤った場合や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より地位確認・未払賃金請求等の訴訟を起こされるリスクがあります。会社に不備があった場合、復職や過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。

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