職発0930第13号
平成27年9月30日
各都道府県労働局長 殿
厚生労働省職業安定局長
( 公印省略)
労働契約申込みみなし制度について
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律(平成24年法律第27号)第2条については、平成27年10月1日から施行することとされている。
同条による改正後の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第40条の6は、労働契約申込みみなし制度について定めるものであり、同制度は、違法派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするため、禁止業務に従事させた場合、無許可事業主から派遣労働者を受け入れた場合、派遣可能期間の制限に違反した場合、又はいわゆる偽装請負等の場合については、当該行為を行った時点において、労働者派遣の役務の提供を受ける者が派遣労働者に対して、労働契約の申込みをしたものとみなす制度である。
同条の規定は、民事的効力を有する規定であり、その効力が争われた場合については個別具体的に司法判断されるべきものであるが、制度の趣旨及び行政解釈は、下記のとおりであるので、それらについて関係方面への周知等その施行に万全を期せられたく、通達する。
なお、本通達の施行に伴い、平成27年7月10日付け職発第07 1 0第4号「労働契約申込みみなし制度について」は、廃止する。
記
第1 制度の趣旨
労働契約申込みみなし制度は、違法派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするため、禁止業務に従事させた場合、無許可事業主から派遣労働者を受け入れた場合、労働者派遣の役務の提供を受ける期間の制限に違反した場合、又はいわゆる偽装請負等の場合については、当該行為を行った時点において、善意無過失の場合を除き、労働者派遣の役務の提供を受ける者が派遣労働者に対して、労働契約の申込みをしたものとみなす制度であること。
善意無過失の場合を除き、違法派遣を受け入れた者にも責任があり、そのような者に民事的な制裁を科すことにより、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)の規制の実効性を確保することを制度の趣旨とするものであること。
第2 行政解釈
1 総論
(1) 申込みを行ったとみなされる時点
労働者派遣の役務の提供を受ける者(以下「派遣先等」という。)が、改正後の労働者派遣法第40条の6第1項各号に該当する行為(以下「違法行為」という。)を行った時点において、労働契約の申込みをしたとみなされるものであること。
2暦日にわたって継続就業するような日単位の役務提供とならない場合を除き、違法行為が行われた日ごとに労働契約の申込みをしたとみなされるものであること。
(2) 善意無過失
違法行為への該当について善意無過失である旨の派遣先等による抗弁が認められた場合には、労働契約の申込みをしたものとみなされないものであること。
各就業日に行われた違法行為について、当該日の役務の提供の受入れの開始時点において、違法行為への該当について善意無過失であった場合は、2暦日にわたって継続就業するような日単位の役務提供とならない場合を除き、当該日に行われた違法行為については、善意無過失の抗弁が認められるものであること。なお、当該日の役務の提供の受入れの開始時点より後に善意無過失でなくなった場合については、2暦日にわたって継続就業するような日単位の役務提供とならない場合を除き、当該日の翌就業日以降に、行われた違法行為について善意無過失の抗弁が認められないものであること。
他方、当該日の役務の提供の受入れの開始時点において違法行為への該当について善意無過失でなかった場合は、当該日に行われた違法行為についても善意無過失の抗弁が認められないものであること。
(3) 施行日時点で違法行為が行われている場合
労働契約申込みみなし制度(以下「みなし制度」という。)の施行に関しては特段の経過措置を設けていないため、みなし制度が施行された時点においてみなし制度が適用される違法行為を行っている場合には、派遣先等は、その時点において労働契約の申込みをしたものとみなされるものであること。
(4) 違法行為の類型
ア 違法行為の類型は以下の通りであること。
- 派遣労働者を禁止業務に従事させること
- 無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
- 事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること
(改正後の労働者派遣法第40条の2第4項に規定する意見の聴取の手続のうち、意見聴取にあたり過半数組合に対して行う通知、過半数労働組合等から意見を聴いた日及び当該意見の内容等の書面の記載及びその保存並びに過半数労働組合等から意見を聴いた日及び当該意見の内容等の周知が行われないことにより、派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受ける場合を除く) - 個人単位の期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること
- 労働者派遣法又は労働者派遣法の規定により適用される労働基準法(昭和22年法律第49号)等(以下「労働者派遣法等」という。)の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、必要とされる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること(以下「いわゆる偽装請負等」という。)
イ違法行為の類型のうち、いわゆる偽装請負等については、派遣労働者を禁止業務に従事させること、無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること、事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること及び個人単位の期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けることという他の4つの類型と異なり、派遣先等の主体的な意思が介在するため、善意無過失に係る論点に加え、固有の論点が存在するものであること。
労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的(以下「偽装請負等の目的」という。)で、請負契約等を締結し、当該請負事業主が雇用する労働者に労働者派遣と同様に指揮命令を行うこと等によって、いわゆる偽装請負等の状態(以下「偽装請負等の状態」という。)となった時点で労働契約の申し込みをしたものとみなされるものであること。
偽装請負等の目的の有無については個別具体的に判断されることとなるが、「免れる目的」を要件として明記した立法趣旨に鑑み、指揮命令等を行い偽装請負等の状態となったことのみをもって「偽装請負等の目的」を推定するものではないこと。
また、請負契約等を締結した時点では派遣先等に「偽装請負等の目的」がなく、その後、派遣先等が受けている役務の提供がいわゆる偽装請負等に該当するとの認識が派遣先等に生じた場合は、日単位の役務の提供とならない場合を除き、いわゆる偽装請負等に該当すると認識した時点が一日の就業の開始時点であれば当該日以降、認識した時点が開始時点より後であればその日の翌就業日以降初めて指揮命令を行う等により改めて「偽装請負等の状態となった」と認められる時点において、「偽装請負等の目的」で契約を締結し役務の提供を受けたのと同視しうる状態だと考えられ、この時点で労働契約の申込みをしたものとみなされるものであること。
2 申込みの内容となる労働条件
(1) 総論
違法行為の時点における労働者派遣をする事業主(以下「派遣元事業主等」という。)と当該派遣元事業主等に雇用される派遣労働者との間の労働契約上の労働条件と同一の労働条件(当事者間の合意により労働契約の内容となった労働条件の他、就業規則等に定める労働条件も含まれる。)であり、労働契約上の労働条件でない事項については維持されるものではないこと。
(2) 労働条件が派遣元事業主等に固有の内容である場合等
(1)に関わらず、立法趣旨に鑑み、申し込みをしたものとみなされる労働条件の内容は、使用者が変わった場合にも承継されることが社会通念上相当であるものとなるものであること。
(3) 労働契約期間
労働契約の期間に関する事項(始期、終期、期間)は、みなし制度により申し込んだとみなされる労働契約に含まれる内容がそのまま適用されるものであること(始期と終期が定められている場合はその始期と終期となり、単に「1年間」としているなど始期と終期が定められていない場合には労働契約の始期等に係る黙示の合意等を踏まえて判断される。)。
(4) 労働契約法第18条との関係
労働契約法(平成19年法律第12 8号)第18条に規定する通算契約期間は、同一の使用者について算定するものであるため、派遣先等で就業していた派遣労働者が違法行為に該当する派遣によりみなし制度の対象になった場合、原則として、承諾時点までの派遣元事業主等と派遣労働者との労働契約期間と、当該派遣労働者が承諾して派遣先等で直接雇用となった場合の派遣先等と当該者との労働契約期間は通算されないものであること。
(5) 労働契約法第19条との関係
みなし制度の適用により成立した労働契約の雇止めに関し、その効力が争われた場合、当該効力の有無については、労働契約法第19条に基づき個別具体的に司法判断されるべきものであること。
3 労働契約の成立の時点等
(1) 総論
労働契約が成立するのは、みなし制度に基づく申込みについて、派遣労働者が承諾の意思表示をした時点(意思表示の効力発生時期については民法(明治2 9年法律第89号)の規定に従う。)となるものであること。
(2) 派遣労働者が承諾できる申込み
派遣労働者が承諾できる申込みは、最新の申込みに限られないものであること。
(3) 承諾をしないことの意思表示
みなし制度は派遣先等に対する制裁であることから、違法行為の前にあらかじめ派遣労働者が「承諾をしない」ことを意思表示した場合であっても、当該意思表示に係る合意については公序良俗に反し、無効と解されるものであること。
なお、労働契約の申込みをしたものとみなされた後について、承諾をするか否かは派遣労働者が選択することが出来るが、「承諾をしない」との意思表示を行った後に、再度違法行為が行われた場合には、新たに労働契約の申込みをしたものとみなされるものであること。
4 複数の事業主が関与する等の複雑な事案
(1) 対象となる派遣先等が複数ある場合
対象となる派遣先等が複数ある場合は、それらすべてから当該派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたとみなすものであること。そのため、派遣労働者は承諾する相手を選ぶことができるものであること。
(2) 複数の違法行為の類型に該当する行為を行った場合
複数の違法行為の類型に該当する行為を行った場合については、各違法行為がそれぞれみなし制度の適用の根拠であることから、いずれの違法行為に基づいてみなし制度の適用を主張するかは派遣労働者が選択することができる。
(3) 複数の派遣労働者が同時に違法状態で就業している場合
違法行為は個々の派遣労働者に対してそれぞれ行われていると解されることから、複数の派遣労働者が同時に違法状態で就業している場合は、それら全ての派遣労働者に対してそれぞれ労働契約の申込みをしたものとみなされるものであること。また、派遣労働者の交代があった場合も、派遣労働者は自己に対する違法行為が行われた最後の時点から1年を経過しない限りは、みなし制度の適用を主張できるものであること。
(4) 多重請負の形態でいわゆる偽装請負等の状態となっている場合等
多重請負の形態でいわゆる偽装請負等の状態となっている場合について、申込みの主体は改正後の労働者派遣法第40条の6において「労働者派遣の役務の提供を受ける者」としているため、原則として、労働者を雇用する者(下請負人)と直接請負契約を締結している者(元請負人)が労働契約の申込みをしたものとみなされると解されるものであること。このため、注文主は下請負人とは直接請負契約を締結していないため、注文主が下請負人が雇用する労働者に対して指揮命令等を行った場合は、原則として、元請負人から労働者供給(職業安定法(昭和22年法律第14 1号)第4条第6号)を受けているものと解され、この場合に本条の適用はないと解されるものであること。
多重請負の形態でいわゆる偽装請負等の状態となっている場合に、みなし制度に基づき元請負人が請負契約を締結している下請負人の労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされ、当該労働者が承諾の意思表示をした後、当該元請負人と契約している注文主が偽装請負等の目的をもって偽装請負等の状態で役務の提供を受けた場合には、みなし制度が適用され、注文主が当該労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされると解されるものであること。(別紙参照)
いわゆる二重派遣の場合については個別具体的に判断することとなるが、一般に、派遣先が派遣元事業主から受け入れた派遣労働者を、第三者(供給先)の指揮命令を受けて労働に従事させた場合には、当該派遣先及び供給先は労働者供給事業を禁止する職業安定法第44条に違反するものと解されるものであること。
(別紙)多重請負の形態でいわゆる偽装請負等の状態となっている場合(例)