1 有給休暇権の発生
年次有給休暇は,「6か月間継続勤務」と「全労働日の8割以上出勤」の2つの要件を満たすことによって,(入社後6か月経過時点で)10日の有給休暇の権利が当然に発生します(使用者の許可や承認は不要です)。その後は,次表の通り,1年経過するごとに有給休暇の付与日数は,前年の日数に1日(3年6か月からは2日)加算した日数となります(上限は20日まで)。ただし,最初の期間と同様に,全労働日の8割以上の出勤率を満たさなかった場合は,有給休暇の権利は発生しません。
勤務年数 6か月 1年
6か月 2年
6か月 3年
6か月 4年
6か月 5年
6か月 6年6か月
以上
日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日
労働基準法で定めた年次有給休暇制度は,使用目的にについて何ら制約を設けていません。また,労働者がその有する有給休暇日数の範囲内で,具体的に有給休暇の時季を指定したときは,原則として,その時季について年次有給休暇が成立し,使用者の「承諾」は必要ないことになっています。
なお,年次有給休暇の権利は,労働関係の存続を前提したものであるため,退職や解雇,事業場の閉鎖の場合には,その日(退職日,解雇効力発生日,閉鎖日)までに年休の権利行使をしない限り,残った有給休暇権は当然に消滅します。
2 使用者の時季変更権
ただし,使用者は「事業の正常な運営を妨げる場合」には,例外的に,労働者が指定する時季を変更することができます(使用者の時季変更権)。
これについては,比較的厳格に解釈されており,企業の規模,有給休暇を請求した労働者の配置,作業の内容,業務の繁閑,代替者の配置の難易,同時季に休暇を請求する者の人数等諸般の事情を考慮して,制度の趣旨に反しないよう合理的に決すべきものとされています。
厚労省の通達によれば,「有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り(個々の会社で,労働基準法で認められている以上の有給休暇を従業員に付与していたような場合は別であるということ),使用者は,いかに業務が繁忙であっても,当該労働者の解雇予定日を超えての時季変更は行えない」(S49.1.11基収5554号)とされています。
これは,労働者の退職の場合でも同様であり,退職予定日をこえて時季変更権は行使し得ません。したがって,例えば,2週間後に退職したいと退職を申し出ている労働者が,残っている年休の10日間を取得して辞めたいという場合なども,その請求は認めざるを得ないことになります。
なお,退職予定者が,年休日数を見込んで先日付けの退職届を提出し,そのまま休んでしまうケースもありますが,退職願提出後においても一定期間の勤務を定めた労使間の覚書を有効とした判例(後掲「大宝タクシー事件」参照)もありますから,注意する必要があります。
3 使用者による有給休暇の買上げは認められる?
会社は,従業員が有給休暇は取得しやすい環境を維持する必要があります。したがって,逆に有給休暇を取得させない方向に働く,有給休暇の事前の買上げは,原則として許されません。
しかし,退職時に残った有給休暇に関しては,労働者の退職によって権利が消滅するような場合に,残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることは,事前の買上げと異なるものであって,必ずしも本条(労基法39条)に違反するものではなく,労使の話し合いによって,残った有給休暇権を買い上げ,退職予定日を調整することは可能であると解されています。また,法定の日数を上回る分についての買上げも,例外的に認められています。